またあの夢だ。黒い泥が広がる空間。違うのは中ではなくて今度は浮上していた。その浮力に体を預けて仰向けの状態だ。
すぐに思い描いたのは前回で最後に見た竜。アレもここにいるかもしれないと、仰向けの体を起こして立ち泳ぎをする形になる。そして周囲を見渡して竜を探すけど、その姿はない。もっともこの空間は真っ黒だ。泥との境界。自分の体はハッキリ見えることから『真っ暗』とは違うと考える。今回はいないのか、その可能性が浮かぶ。
―――ちゃんといるよ―――
その時、声が聞こえた。また唐突だな、と思いながらも聞こえた方へ振り向く。そこにはいつの間にか出現した小さな小島。その上にあの竜が座り込んでいた。それにしてもあの島、さっきまでなかったはずだけど、陸があるならとそっちに向かって泳ぐ。疲労は感じないが、泥の中というのはやっぱり感触が落ち着かないからね。
そうして陸に上がり、そして竜と対面した。
―――名前、決めたんだね―――
竜の方から声を掛けられ、しかもここ最近の出来事を尋ねられた。私の夢だから私の知っている事はこの竜も知っている事なのかもしれない。とりあえず顔を縦に振った。
―――ありがとう。その名前は特別だから、君もその名を使ってくれると私も嬉しいよ―――
すると変な事を言ってきた。私の夢なのに、それは私に覚えのない事だ。メリュジーヌはヴィヴィアンとヴィーヴルの共通する所から選んだだけで、私にとって特別だなんて思っていなかった。
―――ああ、君は知らない。でも私は感謝したいんだ。そして同時に、お願いがあるんだ―――
何かと、私を見下ろす竜の頭を見上げる。装甲のような黒い鱗に覆われ、沈む夕日の様に輝く瞳の相貌は畏怖される筈なのに、その気持ちはなかった。
―――もし君に大切なモノが出来ても、その為に君が苦しむような思いはしないでほしい。私と同じ末路を、君にして欲しくないんだ―――
その言葉、想いは悲しみか後悔か。人のように表情から感情が読み取れる訳じゃないけど、それだけは感じられた。
竜の言葉を私の中で反芻する。この言葉はこれからの私に対する忠告とも思える。そして、この言葉を聞いて思い浮かべるモノはある。それを想像しては、竜の言葉になるような未来は想像できなかった。
でもこの命を賭けても守りたい想いは強く、そしてたった今それを自覚した。
―――ははっ、君も愛するモノは自分で守りたいんだね。……
ご機嫌になったかと思えば不安そうに見つめてくる。しかしすぐにドラゴンは私の眼前にその大きな顔を近づけてくる。
―――君は自分の事をよく知らないだろう? だから私が教えてあげる。『境界』へ至る、その方法を―――
境界? と首を傾げる。
―――ああ、その名は―――
名前を聞き届けた直後、真横の光景と湯気と、湯船の中を泳ぐ結梨の姿。そこから自分がどこで寝落ちしていたのか理解し、反省した。つい温かくて気持ちいいからって寝ちゃうなんてね。
さて、自分の事はこのくらいにしましょう。湯船に入り、お風呂で泳ぐシルトを捕まえる。
「お?」
「お風呂で泳いじゃダメよ。行儀が悪いし、何より危ないわ」
「危ないの?」
「硬い壁や角があるからね。ただ私は行儀が悪い方を気にして欲しいけど、その話はあとにしましょう。まずはその髪を何とかしないと」
泳いだせいで髪が乱れている結梨。私が言えたことでもないけど、女の子なら頓着したほうがいいわよ。
結梨の手を引いて湯船から上がり、どこか空いている場所と探すと一柳隊の皆が並んでいたから迷う事なくそこへ向かった。
「隣、使わせて貰うよ」
「ん、どうしたの?」
「結梨が湯船で泳いでいたからちょっと髪をケアにね」
「する前に止めなかったの?」
「僕はつい寝ちゃってね」
「どっちもどっちだよ」
右の席を取り、そして並んで右端にいた鶴紗と軽い会話の投げ合いをしてシャンプーとリンスを……。一度シャンプーで洗ってからがいいのかしら、この場合? いや確か髪はまず汚れを落としてその後に補修・保護をするって梨璃が言ってたわね。その順で行きましょう。
「今から頭をケアするから終わりって言うまで目を開けちゃダメだよ、結梨」
「はーい」
私は背が低いから結梨の頭を洗うとなると立ったままになる。なんだか他の人から見た光景を想像すると笑ってしまいそうね。でも今は気にせず始めましょう。
「うー」
「落ち着かないかい?」
「ん」
「出来るだけ早めに終わらせるからね」
「んー」
お風呂で泳ぐ位だからジッとしているのは苦手な方でしょうね。でも聞き分ける素直さがあるからちゃんと言う事を聞いてくれてる。ホントに手間が掛かるのか掛からないのかわからない子ね、結梨は。
大人しくしている内に早く終わらせましょう。その間、他の皆の話が聞こえてくる。来週から戦技競技会があるとか、最優秀リリィはCHARMを改造できるとか。でもCHARMを壊してる私が参加できるかは怪しいわね。
すると別の所から話に参加する声が聞こえてくる。知らない声……いや1人だけ知ってる亜羅椰の声がある。つまりアールヴヘイムね。話題は最優リリィの特典、と言うより勝利宣言ね。アールヴヘイムの皆は勝つ気でいて、それに対してミリアムが燃えている、感じかしら。
と、これで良いわね。
「終わったよ結梨」
「おー」
洗い残しはないから次は髪を……って。私もまだ梨璃に髪を結んで貰っているから自分じゃ出来なかった。
「ねぇ、結梨の髪を纏めたいんだけど誰か教えてくれない?」
「マイペース過ぎだろ」
「ん?」
普通に尋ねただけなのに、隣の鶴紗にそんな事を言われた。
あの後で確認してみるとアールヴヘイムとの会話を一切気に止めずにいた事を言ったそうだった。ついでに結梨と違って一柳隊以外のリリィに関心が薄いと言われてしまった。
それを今振り返っているのは結梨に指輪を与えられて、それを見つめる姿を眺めているからかしら?
「おー」
付けた途端に輝く指輪は、私の時と同じだ。まぁ今は填めてないけどね。神琳と夢結が指輪について話している中、梨璃はどこか不安そうにしていた。
「ねぇ、メリュの指輪は?」
蚊帳の外で眺めていたら結梨に話題の中へと入れられた。と、ここは自然に。
「残念だけど僕の指輪はないんだよ。
「そっか」
『『『えっ?』』』
正直に答えると結梨は素直に返事をして、8人が声を重ねて全員が私に注目する。その中で、私は声を出さなかった彼女に返す。
「ミリアム、君は驚いていないね」
「まぁの。わしは百由様の手伝いをしておるからの。お主の検査に同席してなかったのはたまたまじゃが、後片付けと反省会はしっかりやらされたぞ」
「それは、迷惑をかけたね」
「百由様はそんな風には思っておらんぞ。まぁ徹夜に拍車がかかっとるのも事実じゃが」
「ちょっとちびっ子2号、3号。2人だけわかる話をしてないで私たちも説明なさい」
おっと、つい話込んじゃったわね。でも良いのかしら?
「ミリアム」
「構わんと思うぞ。百由様に口止めされとる訳でもないし、大まかに見ればお主のCHARMの件じゃしの」
「それなら構わないね。とは言え、どこから話そうか?」
「最初からでいいと思うぞ。そう長い話でもあるまい」
「そう? なら最初から話そうか」
ミリアムの言うとおり、そう長い話でもないから一から説明しよう。
皆と改め顔を合わせる前にCHARMの起動をしてみたこと。その時にマギクリスタルに罅を入れた事。それ以降も何度が検証をしたこと。そして――。
「そしてこの前、最初に填めた指輪が割れてしまってね。それからは特に進展はないかな」
「えっと……、リリィの指輪って割れて壊れる物なの?」
「私は聞いた事はありませんね。そこは実際、どうなんでしょうか?」
「戦闘で消耗するCHARMならともかく、指輪が壊れることなんてまずありえませんわ」
「百由様曰く、想定外のマギが流れてるのと言うのが現状の見解じゃ。それはつまり」
「どのリリィよりも膨大なマギを宿してる……」
話を終えた途端に皆が語り合い、事実の再認識が始まる。指輪を壊したとき、同席していた百由も似たような反応だったし、やっぱりそうあり得る話じゃなかったのね。
そして私もこの事実を再認識すると考える。指輪を壊してしまうと言う事は既存の指輪では私のマギに耐えられない。つまり指輪を介してCHARMとの契約。マギの供給も出来ない。
リリィの素質があっても、私のマギに耐えられるCHARMがない以上はリリィになれない。その事実があった。
それを胸の内に秘し、色々と語り合う一柳隊の皆を眺めていた私は、結梨がこっちを見ていることに気付かなかった。
一柳結梨にCHARMを与え、しかしメリュジーヌ・ヴィヴィはもうしばらく保留とする事を伝えた。
「……あまりにも極端の決定ですね。一柳結梨にCHARMを持たせるのも早計ですが、特に差異はないメリュジーヌ・ヴィヴィは保留とは」
「どちらも身元不明ですが、区別するというなら相応の理由があるのですか?」
ソファーに座る彼女達の疑問はもっともだ。彼女もまたマギを有するリリィであるなら保留にしなかったが。
「真島君が先んじて彼女に指輪を与え、CHARMの起動を行ったそうだ。結果としてCHARM数機のマギクリスタルの破損、そして指輪の破壊に至ったそうだ」
「CHARMと指輪が?」
「ああ。儂も実際に壊れた指輪を見せてもらった。つまり、彼女に限っては既存のCHARMと指輪が用意できない為、保留の形となった」
「でもCHARMはともかくリリィの指輪が壊れるなんて、彼女は何者なんですか?」
「それは真島君が引き続き調査しておる。それに今は保留でも後々、彼女にも指輪とCHARMを与えるつもりだ」
「それは、時間が掛かりそうですね」
「確かに。とは言え未知数とは言え彼女もまたリリィ。リリィである以上は相応の保護をするべきだ」
そう、
「ねぇ、メリュは寂しい?」
部屋に戻り、日も落ちた頃に結梨が背中に抱き付きながらそんなことを言った。
今の私たちは病室から離れ、空いていた二人部屋に移動している。最もお互い私物のない身。部屋の中は家具を含めて質素だし、部屋で過ごす品と言えば図書館から特別に許可を貰った本が十数冊だけだ。その内の一冊を読んでいた時だった。
「どうしてそう思うの?」
「メリュからそんな匂いがする。指輪とCHARMの話をしてた時から」
「……結梨には隠し事が出来ないみたいね。確かに私は現状に不満……ううん、無力感がある」
CHARMが与えられないと言う事は、私は戦場に行けない。そして結梨が先に指輪を与えられ、CHARMを与えられると言う事は私より戦場に立てる事。
「結梨。実を言うとね、私には指輪やCHARMを使わないで戦う力があるかもしれないんだ」
「そうなの?」
「ええ。でも使ってしまうと結梨や梨璃たちと一緒にいられなくなるわ」
「それはいやっ」
「おふぅ」
結梨が私を逃がさないかのように抱き付いてくる。ただ顔を覆うように抱き付いているから息が辛い。
「
「うぅ~」
「
とりあえず離して貰わないと話も続けられないからあやし続ける。しばらく時間をかけながらようやく半分解放してくれた。半分なのは抱き付き方を変えただけでまだしっかり抱き付かれている。
「私は結梨を置いていくつもりはないよ」
「ほんと?」
「ええ。と、言いたいけど結梨が危なくなったらその力を使っちゃうけどね」
「じゃあ私、危ないことをしない」
「本当かしら」
「ほんとう」
意地悪で返したけど結梨が嘘を言う子じゃないのはよく知ってる。ただ無邪気で純粋。無垢だからこそ危なっかしさはあると言える。
……そう言えば名前の参考にした本に『アーサー王物語』、騎士の物語があったわね。騎士、騎士か……。
「結梨。お互いが離れないための約束を変わった方法でしてみたいのだけれど、いいかしら?」
「なに? いいよ」
「ありがとう。それじゃあ部屋の真ん中に立って頂戴」
「うん」
さっきまで離さなかったのが何だったのか。あっさり離れて素直に部屋の中央に立つ結梨。そして私も部屋の中央に立ち、すぐに結梨の手を取って跪く。
「お?」
「顔をあげるまで何も言わず、ジッとしていてね」
「うん」
跪いて顔は見えないけど、きっとキョトンとした顔をしてるんだろうね。すぐに手を払ってこなかったのは意味がわからないか私の信頼か。どっちでもいいけどね。
さて、正しい言葉なんて私は知らない。でもここでの誓いは不変とする。
「――ここに誓う。我は汝の身を守り、汝の願いを我は遵守する。我が剣は汝の為に、我が守りは汝の為に、我が翼は汝の為に。メリュジーヌ・ヴィヴィは一柳結梨の心を裏切らないことを、ここに誓約する」
形式的な事に意味があるわけでもなく、まして仮初めとは言え、シュッツエンゲルの誓いをして心は決めているから改めて伝える必要はない。ただの思いつきだった。
「……シュッツエンゲルの誓いみたいな約束だよ。私は結梨の悲しませないって約束」
「そうなの?」
「そう。それに約束の方法なんていっぱいあるからね。これは私の約束の仕方」
「じゃあ結梨も作る!」
「残念だけどもう約束する事はないわよ。それともう遅いから寝ましょう?」
「えー」
「姉の言いつけは守る物よ、結梨」
「……はーい」
「それに明日になったら約束の方法を一緒に考えてあげるからね」
「! うん!」
落ち込んだと思ったらすぐ元気になる結梨を見たら、身長差に関わらず頭を撫でてあげた。
「…………ん」
チクリとした痛み。ぐっすり眠っていたのに目が覚めちゃった。
目を開けても部屋はまっくら。ベッドの下を覗いてメリュを見てもまっくろで見えない。でも寝息は聞こえる。
痛かったのは手の平の、裏側? 反対の手で撫でるけどゆびわしかないっし、痛みもない。
「……………おやすみ」
気のせいだったみたい。もう一回グッスリ寝よう。
メリュジーヌ(原作)の描写があったせいでクロスオーバー未設定の警告を受けたので修正。やる気が落ちて物語の流れも修正してました。
BOUQUET編終わり後について(今後は溜めて投稿するので間隔は長くなります。
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ラスバレ編に突入
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FGOクロス多めのストーリー
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こっちは休んで停滞している他の作品をする