でも暑かったり雨が酷かったりした日々は憂鬱でした!
「……これですべてか」
明かりが消え、整理しつくされた部屋を眺めた感想はそんな言葉だった。長い付き合いだったにもかかわらず、なんの感慨がわかないのは、私自身の心情を表しているんだろう。
「それでは最後の作業に行こうか」
「メリュジーヌ・ヴィヴィと一柳結梨はG.E.H.E.N.A.とグランギニョル社が捕獲したHUGEから作り出した幹細胞から生み出した人造リリィ。そして今、学院はその返還を求められています。
―――現状を簡単に説明すればこういう事です。理解しましたか?」
「ありがとう。理解したよ」
「……一応、私は三年生で貴女は一年生なのだけれど?」
「うん、わかってる。だから先輩の言う事に従ったわけだよ?」
「不満はないのですか?
それに不満はないな。正面の扉以外は真っ白で冷たい一面だけど椅子と本が用意してあったし退屈はしないわ。そういえば梨璃が入学した日、保管していたHUGEが逃げ出したって聞いたわね。その部屋もここにあるのかしら。
「椅子があるから直に座るよりは寒くないし、本があるから退屈はしないよ」
「でも一柳結梨は梨璃さんと共に逃亡しました。彼女たちと合流しようとは思わなかったのですか?」
「僕はCHARMを持ってないからリリィ程の動きは出来ないからむしろ足を引っ張るよ。それに片割れの僕がここにいるから結梨たちの追跡は抑えられたでしょ?」
「なるほど、それが狙いでしたのね」
まぁそうだね。人型のHUGEと認識された私たちなら脅威が不透明。なら戦力はどうあっても分けないといけないからね。この間、戦略論の本を読んだのが良かったわ。
とは言え、ここから先は何もできない。流れに任せるしかないからあとは祈るだけね。
「ところで僕のこれからは?」
「……一柳結梨は軍と共同で引き続き捕獲へ。それに加えて一柳梨璃には逮捕命令が出ています。そして貴女の身柄はすぐにと引き渡しが求められています」
「向こうは気が早いね。それだけ僕らは貴重みたいだね」
「そのようですね。そうなると百合ヶ丘の戦力もここに置く必要もなくなり、一柳結梨と一柳梨璃のほうへ集中するでしょう」
「ああ、なるほど時間稼ぎはそう出来なかったか」
「改めて逃走しようと思わないのですか?」
「そんなことをしたらここに迷惑がかかるだろう? ここに連れてこられる時点で僕の出来ることはなくなった。あとは祈るだけさ」
「そう、ですか。では私も行きます。この後、身柄引き渡しの担当が来ますのでそれに従ってください」
「ああ。それと1つ。―――ありがとう、状況を教えてくれて。今回しか向かって話したことはなかったけど、キミは優しい人だ。どうか今回で葛藤を抱いても自分を責めないでほしい」
返事はなかった。でも捕獲対象の私に色々と伝えてくれた彼女には礼を言いたかったから私に後悔はない。いや、私が気遣ったせいで彼女には負担を掛けちゃったかもしれないわ。
……うん、本当にこの後のことは祈ろう。気を紛らわす本はあるからこれに集中しよう。
「今回ほど政府の命令を恨んだことはありませんね」
「史房様がそのような言葉を口にするなんて、メリュジーヌさんから何か言われましたか?」
「感謝の言葉と自分を責めないでくれと言ってくださいました」
「彼女の事だから告白めいた言葉を使ったのでは?」
「それは……。そうね、そんな言い回しでしたね」
言葉の言い回しはともかく、まるですべてを見通しているかのようだった。それがHUGE由来の特殊能力なのか彼女の個性なのか私にはわからない。
ただ、個人としてみれば好意的に見れる少女だ。例えリリィでも人でもなく、本当にHUGEだったとしても。
「眞悠理さん。もしメリュジーヌさんがHUGEだったとしても他のHUGEとは違うと言って庇ったら私を軽蔑するかしら?」
「いや、寧ろ私も同じですよ。メリュちゃんは図書館でよく会っては色々と話をしてましてね。その時に自分はリリィではなく人でもないかもしれないと言ったことがあります。でも私は、その上で彼女には生きてほしいです」
「彼女が本当にHUGEだったとしてもですか?」
「はい」
即答ね。でもHUGEではないにしても彼女は結梨さんと違ってヒトではない
「……ええ。私もそう思います」
その上で私もそう願わずにはいられなかった。
………………………
………………
………
「メリュは大丈夫かな?」
手を引いて逃げ続けていると結梨ちゃんのその言葉に足を止めた。まだ逃げなきゃいけないのにそれは足に重しを取り付けられたみたいに。
あの時、結梨ちゃんを連れてしばらく離れてから後悔した。結梨ちゃんがそうならメリュちゃんも対象になっていたはず筈だった。必死だったから、なんて言い訳にすらならない。
私は、メリュちゃんを置いて逃げちゃったんだから。
「梨璃。悲しい匂いがする」
いつの間にか顔の近くまで鼻を寄せた結梨ちゃんにそう言われた。
「……ごめんね、メリュちゃんも一緒に連れてこれなくて」
「ううん。メリュなら大丈夫。なんとなく大丈夫」
確かにメリュちゃんは不真面目そうだけどしっかりしてる所がある。学院に残ってるから身動きが取れない状態なのは間違いない。
どいうか無事でいて頂戴―――。
贅沢にガンシップで乗せられ、その窓の向こうに広がる景色を眺めていた。
「何を見ているのですか?」
そこへ受け渡し担当に選ばれた汐里が声を掛けられた。担当と言っても彼女一人ではなく
「梨璃と結梨が怪我をしてないかHUGEと遭遇してないか、無事でいることを祈ってるよ」
「自分の事は心配じゃないんですか?」
「覚悟はしてたからね。寧ろ逃げ出した二人の方が危険に近いじゃないか」
「それは、まぁ……」
私の答えに困惑し始めた汐里。他のメンバー同じ感情で視線を向けているようで向けてこなかった。話題を変えよう、とも思ったけど私がやると罪悪感を与えるかもしれない。実際、ガンシップに乗せられるまですれ違ったリリィ達から嫌悪感はなかった。百合ヶ丘のリリィは、善き子たちだったわけだね。
その証拠に彼女は、ここにいる彼女たちは言伝をくれた。
「でも夢結たちが先んじて守ろうとしてくれてる。そしてその事を伝えてくれた君たちには感謝してるんだよ」
当たり前だけど梨璃が結梨を連れ出した事で私と一柳隊の接触は禁止されている。彼女たちにも監視か待機が命じる可能性はあったけど逆に梨璃たちの追跡を進言し、それは受理された。ここまでくると百合ヶ丘は結梨寄りになってるはずだから彼女たちの目的を察した上でしょう。
本当に誰もが結梨を想ってくれて嬉しいわね。なんて、思うのはいけないんでしょう。私の事も同じように思ってくれているのはとっくにわかってる。その上で私が流れるまま身を任せている今の状況は悲しませている事にも。
……そういえばこのガンシップ、どこに向かっているのか聞いてなかったわね。
「改めて聞きたいんだけど、引き渡しの相手はG.E.H.E.N.A.かい?」
「……ええ。百合ヶ丘は反G.E.H.E.N.A.ですが政府から下された命令である以上、従うしかありません」
「そう。となると僕の生みの親と対面するかもしれないね」
「そうなった時、貴方はどうするのですか?」
「そうだね……」
気になったから尋ねたけどもし本当に私や結梨を生み出した相手と対面したらなんて言おうか?
恨む? そこまでの感情はない。
感謝? 倫理を外れているからきっと正解じゃない。
ぶん殴る? 乱暴なのは私にも帰ってくるなぁ。
………うん、そうだね。
「まずは自己紹介かな。挨拶は大事だしね。多分、最初で最後になるかもしれないからね」
ま、G.E.H.E.N.A.が噂通りなら聞いて流すかもしれないね。
「初めましてヴィヴィ。私の事は覚えなくてもいいが、君の名前を一度、君から教えてくれないか?」
対面したG.E.H.E.N.A.の研究者で私を生み出した彼は、そう言った。まるで私のように覚悟を決めた上でほほ笑む顔をして。
三部作です。『中』は明日、『後』は明後日です。
BOUQUET編終わり後について(今後は溜めて投稿するので間隔は長くなります。
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ラスバレ編に突入
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FGOクロス多めのストーリー
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こっちは休んで停滞している他の作品をする