「HUGEが現れた頃、私はまだ子供で、そして世界中の生き物を知りたいという夢があった。だから動物博士になりたいと、将来は思っていたよ」
「それは……」
「ああ、そうだよ。HUGEは他生物を捕食、寄生、成長を繰り返して多様性を獲得していく生命体。人類の管理外や防衛ラインの外では彼らは餌食となった。動物園などで飼育されていた分には動物保護の名目で生きながらえているし、野生でも生存は確認されている。しかしこのまま戦いが続ければ大型・中型の動物たちは絶滅するだろう。かろうじて愛玩の小動物が残るだろう」
話が終わって私は理事長代理と百由、そして『彼』の4人だけが腰を据えて集まっている。対面していた政府の人間や、その関係者たちはいない。加えて盗み聞きも対策済みの部屋にいる。
その理由は一つ。G.E.H.E.N.A.の『彼』が手伝った理由だ。実を言えば私も「私を信じてほしい」とだけ告げられて胸の内を聞いていない。この人が僕と結梨の生みの親、いわば『父親』と同然と言える人と言う以外は。
「だが私はあきらめきれなかった。生物学、それも進化や遺伝子の分野を学び。一介の研究者として知識を蓄えてきた。そうした中で私はHUGEにはこれまで地球上に存在した動物たちのゲノムが存在することを突き止めた」
「えっ、もしかして貴方が」
「発見者の一人だよ。私がG.E.H.E.N.A.に入ったのは、例え人道に外れたとしても最短に、滅びかけた動物たちを蘇らせられると思ったからだ。HUGEの個体や遺伝子を入手しやすいともあったからね。そして今回の件、私もまた協力した。グランギニョルとの共同で数十の幹細胞を用意し、ヒュージネストへ送り込んだ」
「そして僕と、結梨が生まれた」
「ああ、そこで私は
重々しい声に理事長代理と百由が息を飲んだ。G.E.H.E.N.A.としては良識的な『彼』の限界が何なのかおおよそ察していたかのように。
「この道を選んだことに後悔はないが悩まない日々はなかった。摂理に外れた生命の創造は正しいのかと。そんな最中に人造リリィ、確実に戦場へ立たせる人を作る実験が始まった。この時点で私は人道を外れたと認識し、罪悪感を抱いた。ハッキリ言えば、この実験は成功しないでくれとも祈った。生まれない命であっても、その業は背負うからと。しかし2人、誕生した」
「なら、協力して下さったのは贖罪か何かか?」
「
理事長代理の問いに『彼』は迷いのない返事をした。でもこれは確かな信念から出たものじゃない。罪を受け入れて覚悟を決めたようなものだ。
「……私がここに来たのは彼女らを百合ヶ丘に託すためだ。2人のうち1人が逃亡した事で私の監視がなくなり、論破の大部分は君のお陰で余計な妨害を挟む余地がなくなった」
「ああ、なるほど。G.E.H.E.N.A.の研究員である貴方1人だとG.E.H.E.N.A.その物の妨害がありそうですね」
「ああ。そこでそんな君にこれを託したい」
これまでの出来事や百由の行動に感謝の言葉を送った『彼』は四六時中手放さなかった、話しても目や手に届くところに置いていたケースを差し出した。
「なんですかコレ?」
「私の研究成果、つまりHUGEから地球上の生物を人為的に誕生させる技術。今回の件の根幹になる品物だ。これを託したい」
「えっ!?」
「すまないが受け取ってくれ。私はここに来る前、この資料以外は全て処分してきた」
その言葉に私も、他の二人も言葉を失った。彼の研究成果はおそらくG.E.H.E.N.A.に帰属するものだから。それをこのケース一つのみにしたってことはG.E.H.E.N.A.の施設にはもうないという事で、そんなことをした『彼』の立場はすでに――。
「気にしないでくれ。今回の件が流れてもまた同じ実験を行うかもしれない。それに私も年だ。夢を誰かに託しておかないといけない年齢だ」
「それで、私に?」
「私の知る限り天才で多くの知識を持ってる上に行動的、そして何より君は善良な人間だ。ただ管理できないと思うなら処分しても構わない。別の誰かに託してもいい。所詮は老人の足搔きだからね」
「……そんな事言われちゃ、無下に出来ませんよ」
『彼』の覚悟を知り、百由は差し出されたケースを受け取った。普段の飄々とした振る舞いを感じさせない、真面目な対応だった。
「ねぇ理事長代理。こういう受け渡しって危なくないの?」
「問題ないさ。いや、問題なぞ起こさせはしないさ」
理事長代理に尋ねてみたらこっちもまた覚悟の籠った返事だった。『彼』の覚悟を理事長代理もまた受け止めて、そして無駄にしないために。
「これで私のやり残しは全てだ。あなた達も急いだほうがいい、
「そう、ですか。今後はどうなるかわかりませぬが、
理事長代理と『彼』。最後の言葉が意味深に聞こえたけど百由は詮索しないし、私もこれに口は挟んじゃだめだとわかる。
「では二人とも、そろそろ―――」
理事長代理が立ち上がり、場を後にしようとしたら彼のポケットからわずかな音が聞こえた。すぐそれが通話端末なのはわかり、理事長代理はそれをすぐに取る。
「もしもし。……何っ」
何か焦りを含んだ声。
その時、私にも悪い予感を、
―――さて、『境界』へ至る方法を伝えたわ。ついでにキミに備わっている能力、本能を教えてあげる―――
夢のドラゴンが教えてくれたあの話が、今になって再生される。それはきっと、ここで大事な場面だったから。
―――私たちは番を選ぶ際、一目見ただけで直感的に未来を見て適切な相手を選べるの。
その言葉に真っ先に浮かんだ姿は結梨だった。妹のような同じ境遇の子で、そして同じ成り立ちを持つある意味で姉妹と言える少女。
―――きっと彼女に対して不安を感じたなら、それは彼女に死期が迫ってる筈よ。もしさっき教えた方法を使う時が来るなら、
「―――今がその時、か」
「メリュちゃん?」
夢の事を思い出した私の呟きを百由が拾ってくれた。でも、時間はなさそうね。
「理事長代理、もしかしてだけど百合ヶ丘に何かあったんじゃない?」
「ああ、百合ヶ丘にHUGEが出現したそうじゃ。しかもマギを操っているとのことだ」
「マジですか!?」
ああ、なるほど。HUGEがマギを操ることなんてないらしいからね。でも今の私に重要なのはそこじゃない。
「続けて一つ。結梨と梨璃は見つかったのかい?」
「その報告はない。が、2人の潜伏地点から近い場所だ」
「そうか。それだけで十分だよ」
立ち上がり、三人を流すように見渡してかた言葉にする。
「理事長代理、百由。そして名前の知らない、貴方。私たちのために手を尽くしてくれてありがとう。だから僕も、姉妹の結梨の危機には身を挺して守りたい」
「メリュ子ちゃん、何する気?」
「無茶をする、そう言ってるんだよ」
具体的なことは話さないまま背を向けて扉に手をかけ、ふともう一つ伝えようと思った。
「そう言えば僕のゲノムは『ドラゴン』って言ったよね。おめでとう、それは正解。そしてこれから、それを証明するよ」
吐き捨てるように扉を開けて駆ける。向かうのは屋上。外に出るよりそっちが近いし、下手に巻き添えを作りたくはなかった。
後ろから百由の声が聞こえたけど、今まで燻っていた体を動かそうとする意志がこれ以上なく軽やかにしてくれた。廊下を進み、階段を上り、そして扉を再び開ける。
当たり前だが屋上には誰もいなかった。吹く風と、広がる空はどこまでの自由だった。空はこんなに広いのに、地上はとても窮屈だ。ああ、なるほど。だから『境界』なのね。
「私のマギ、私の力。―――私だけの、
私の心臓は炉心。誰よりも膨大なマギを生成・放出する力。ここから魔力を外へ放出するイメージ、そして『境界』にいる自分の姿。
「メリュ――」
入口から追いついた百由の声と同時に膨大なマギが放出される。その衝撃は風を起こし、聞こえかけた百由の声を遮った。
放出されるマギは私の体の中をめぐる。全身に広がる、特に手足が強く巡る。ない筈の背中と腰に新しい感覚が生まれる。何より、私が、私の性能を理解していく。何が出来て何が不完全で、何をするべきなのか。
そして放出されたマギが泡のように弾けた。自分の手を見下ろしてみるとその手は黒く硬く、鋭い物に。そして振り返らなくても制服を貫いて翼と尾が生えている事を実感した。
「追い、つい……」
「その姿……」
マギの放出が治まった事でその声もよく聞こえた。振り返れば理事長代理と『彼』も追いつていた。百由はさっきの風で尻もちをついて、立ち上がる気配はなかった。その傍らにはケースが一つ。持って走ってきたのね。思わず笑ってしまいそうになりそうなのを我慢して私は、『彼』を見た。
『ねぇ、私は何に見える?』
エコーが掛ったような声、繕わなくなった口調。より私自身が変わった実感がある。でもそんな事より、『父』とも言える『彼』はなんと言うのかが気になる。
「……君はメリュジーヌ・ヴィヴィ。私の、
『そう、ありがとう。これ以上ない、最高の言葉だよ』
最期かもしれないこの瞬間、最高の言葉を貰えた。空を見上げ、翼のブースターに炎を灯した。
『行ってきます。
さよならは言わない。だって、そんな言葉は寂しいからね。
ブースターの口から炎が一気に噴き上がり、体が高く昇る。後ろに、下に視線を向ける建物どころか地上が遠くにあった。
この気持ちは解放感、いや安心感ね。本来の居場所に戻ってきたせいかしら、すごく気持ちがいい。速くなるにつれてマギが、体がより大きくなっていく。
さぁ、行こう。妹を救いに行くために。
遠く、高く。輝かんばかりのマギに包まれながら娘は飛び立った。父親としては寂しく、
「……私も失礼するよ。そろそろ
「時間……? ああ、なるほど。そうですか」
呆然としていた高松理事長代理に伝えると、彼は何か察したように返してくれた。さすがは多くのリリィを保護し、そして守り抜いてきた人格者。私のこれからも気づいたのだろう。その上で何も言わないのだろう。
「二人の事をどうか頼みます。特に飛んで行った彼女は、私でも思いもよらない事をするかもしれませんから」
「わかりました」
嘘だ。が、ドラゴンのゲノムは未解明の部分が多い。伊達や酔狂でそう名付けた訳じゃない。……いや、願望だなこれは。仮説を覆す奇跡を信じたいだけだな。
「それではこれで。彼女の事は忘れずに」
「もちろんだとも」
「ありがとうございます。」
屋上で、さっきまで座り込んでいた真島くんは子供のように彼女が飛び去った後を見上げていた。そんな姿を最後に、背を向けて屋上から去る。
階段を降り、途中で廊下を進みまた別の階段を使って裏口の扉から外へ出る。そしてここまでの足に使った車のある駐車場へと向かい。ここから近い地下の駐車場であり、つまり人目につかない場所。
「抵抗はしない。しかし、再び戻るつもりはない」
誰もいないこの場所で、誰かに向けることない返事を告げる。すると静寂たるこの場所に、カチャリと、そんな音が聞こえた。
思えば自分に言い訳した人生だった、とは言えないな。道徳に沿わぬ行いに対し、そのすべてに罪悪感があったと聞かれれば嘘になる。この研究の先に私の夢が叶う、そんな
ああ、だが。未練が出来てしまった。もし巡り合わせが違っていたのなら。
『父さん』と呼んでくれた
―――パァン。その音が私の最期を見届けた。
みんなを守るために私も戦う。梨璃たちと同じように、HUGHと戦う。
だからHUGEに向かって走る。梅とミリアムがしていた事を合わせて海の上をまっすぐ走る。途中、襲ってるHUGEと海の向こうにいるヒュージネスト、って言うのと繋がってる。 HUGEが玉みたいなのを撃ってきたけど、今の私なら当たらずに近づいていく。
走り抜け、飛ぶ。その先には小さなHUGE。
「やぁああ!!」
マギを込めたCHARMで斬る。二つになったHUGEの間を通って、後ろから爆発する音が聞こえた。そのまま別のHUGEも二つに斬る。
「私だって戦える! だって百合ヶ丘のリリィだもん!」
大きな声を上げて、CHARMにいっぱいのマギを込めた。
HUGEの球がまだ続く中で梅の上に降りて、避けながら小さなHUGEを倒していく。一体、一体と倒して、大きなHUGEに近づいた。
大きいからまたいっぱいマギを込める。このHUGEを倒して、私もリリィだって――――。
――――そこまでだよ、結梨。
「え?」
頭の中に、声が聞こえた。それに気付いたら強い風が吹いて後ろへ飛ばされた。
「ぐぅっ……う?」
強い力に押されて飛ばされる! って思って目を瞑ったらすぐに優しく何かに包まれる。目を開けると黒く硬く、それでいて温かい。この温かさ、知ってる――。
「わっ!?」
大きく揺れて思わず掴まる。一緒に大きな水の音が聞こえて、その冷たさが顔にかかる。
「きゃっ!」
「梨璃?」
梨璃の声が聞こえて目を開けた。少し離れた所に梨璃がいて、腕の中にいる。そこで私も腕の中にいるってわかった。そう思ってるうちにみんながいる場所に、私と梨璃をおろしてくれた。
「梨璃、結梨!」
「ぼうっとしてないでこっちにいらっしゃいな!」
夢結と楓が私たちを引っ張られた。みんなCHARMを持って難しい顔をしてる。その見てる先に顔を上げると黒い、おっきな竜がいた。よく本で見た姿だ。
背中に翼、カッコいい爪のついた手と足。尻尾は長くて、同じように長い首の先についた顔にある夕焼けの色に似た瞳。私たちを見てどこか戸惑ってる瞳。
――でも。
「ねぇ、メリュでしょ?」
私はこの竜が誰なのか、わかってた。この匂い、あの温かさ。この竜はメリュ。間違いない。
みんなが私を見て、またメリュの方を見る。メリュもみんなに見られて困ってるようだった。
でもすぐに後ろのHUGEを顔を向けて、私たちもメリュが見ている先を見る。私と戦ったHUGEがいて、さっきよりヒュージネストからマギを吸ってた。メリュはHUGE時から目を離さないまま背中を見せた。多分、HUGEと戦いに行くつもりだ。
「待って、私も行かせてメリュ」
私も守りたいからそう言った。
『―――結梨、そのCHARMじゃ戦えないわよ』
「え?」
私が言ってあげたとたん、CHARMのマギクリスタルが砕けた。
「あ」
「ぬぅおぉあ!? やっぱりマギ負荷に耐えられんかったか! 結梨、あのまま戦っとたら危なかったぞ!!」
ミリアムの大きな声を聴きながらクリスタルがなくなった所を覗く。ここが壊れるとCHARMはもう使えないから、私も戦えない?
「本当に、メリュちゃん?」
梨璃がメリュに声を駆けた。でもいつもの匂いじゃない。これは、他のみんなみたいにさみしい匂い? でも他のみんなはどこか不安そうだった。これはなんて言えばいいんだろう? えっと、『怖い』?
『……梨璃、そしてみんな。
「え?」
メリュの返事に梨璃はすごく困惑した。何を言ってるのか私にもわからなかった。でもその意味を教えてもらう前に、メリュは風を起こして離れていった。
「メリュ―――――!」
目も開けてられない風だったけど、私はその名前を大きな声で呼んだ。
結梨が私を呼んでいる。でも時間はない。あのHUGE、自分の体すら崩壊しかねないほどにマギを取り込み、そしてそれを私に放とうとしている。
力を解放してからどうも先読みが正確な気がする。そして数多の対応もすぐに頭の中で導き出される。その中から選んだのは、この場所を守り、結梨たちを守るもの。ただし、そこに
思考しながら上空へ。
『この身は境界を拓いた、最後の竜の模造。その名はアルビオン』
祝詞のように、世辞のように教えてもらった
『ハリボテの躯体より出でよ。炎の息、鉄の翼。』
その最中、もう一度一柳隊を、結梨を見下ろす。離れてからまだ数秒。でも私の意識はそれ以上の体感を得て長い時間の中にいる。その分、彼女たちの動きはゆっくり見える。結梨以外、その姿は慌てているようで、困惑しているようで、最悪の事態を想像しているようだった。
そして結梨は、いつもの無垢な眼差しで私を見ていて、その瞳と目が合った気がした。
『黄昏の空に、産声のように!』
その交差を振り切るように、声に力を込めた。
その直後、
痛い、いたいいたい!
火傷するような熱さはないけど
それじゃあ、道連れになりなさい。
『―――
私はHUGEに体を貫かれ、
実際にG.E.H.E.N.A.の裏がどの位暗いかわかりませんが、機密保持や裏切りに対する制裁をするならこのくらい、想像。
メリュが宝具を使用した際の前台詞は原作を参考に、この作品のメリュに会うようにアレンジしてます。
ついでに今後の報告。
現在進行中の作品ですが、しばらくこの作品をBOUQUET編まで終わらせる為、こちらに執筆を集中させます。
BOUQUET編終わり後について(今後は溜めて投稿するので間隔は長くなります。
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ラスバレ編に突入
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FGOクロス多めのストーリー
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こっちは休んで停滞している他の作品をする