ダンジョンで叫ぶのは間違っているだろうか   作:マザハール

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アストリッド編最終回です。
アストリッドの最後は壮絶なものでした。

ロキファミリアとの同盟を組んだエルディン。
遠征に向けて、ソロで深層へ探索に出ることにした。
しかし、十八階層に着いたエルディンはある事件の容疑者にされる。


第十九話 容疑者

<回想>

 

 計画は着々と進み、ついに皇帝を殺害する時が来ました。

 しかしアストリッドはこのまま続けていいのか悩んでいました。

 エルディンが【聞こえし者】と知ってから、アストリッドはリーダーとしての立場を脅かされていました。

 また、エルディンが復讐に駆られて動いていること、家族が危険な目に遭うことを何より恐れました。

 苦悩の末、彼女はエルディン差し出す代わりに【闇の一党】を見逃してほしいという取引を皇帝の親衛隊にしました。

 自分の地位を守りたかったという気持ちもありましたが、エルディンがこれ以上復讐に囚われるくらいなら殺したほうが彼のためであるという気持ちもありました。

 しかし、彼女はこの取引がいかに愚かな選択であったかを知ります。

 エルディンは偽物の皇帝を暗殺し、罠に嵌められました。

 そして、【闇の一党】の隠れ家に大量の親衛隊が押し寄せ、仲間が殺され、隠れ家は焼かれました。

 アストリッドは最期の力を振り絞り、業火に身を焼かれる中、自らの体を使って【黒き聖餐】を行いました。

 生き残ったエルディンは裏切ったアストリッドを憎みましたが、彼女の最期の願いを尊重し、彼女の心臓にナイフを突き立てました。

 その時エルディンの目には大粒の涙が溢れて居ました。

 

 それからしばらくして、皇帝タイタス・ミードII世が何者かに暗殺されたという知らせがタムリエル中に広がりました。

 

 *

 

「何故こうなった…」

 

 エルディンは手を縛られて、狭い部屋に閉じ込められていた。

 武器は取り上げられて、部屋の隅に置かれている。

 部屋の扉が開けられ、三人の男が入ってくる。

 

「おい、てめえ! いい加減吐きやがれ!」

 

 男の一人が凄む。

 

「…何度も言っているだろう。私は無関係だ」

 

「嘘吐いてんじゃねえぞ!? どう考えてもてめえが一番怪しいんだよ!」

 

「…他に誰も居ないのか?」

 

「居ねえよ! お前以外にはローブを着た、いやらしい体をした女しか居なかったんだよ!」

 

(間違いなく、そいつが犯人だろう)

 

 エルディンはため息をつく。

 何故このような状況になったのか。

 エルディンは昨日の夜から今朝までの出来事を思い出していた。

 

 …

 

「えええ!? ロキと同盟を結んだ!?」

 

 ヘスティアファミリアのホーム。

 夜が更けても帰ってこないことを心配していたヘスティアは、無事に帰ってきたエルディンを見てほっとしたが、彼の言葉を聞いて驚愕していた。

 

「ロキの奴! 何を考えているんだ!? …まさか、本当にエルディン君を引き抜くつもりじゃあ…あの絶壁女神め!」

 

「か、神様!? 落ち着いてください!」

 

 ロキに激情するヘスティアをベルが宥める。

 しばらくして落ち着いたヘスティアに、ロキとの会話の内容を説明する。

 

「なるほど。ロキにエルディン君のことを教えた奴がいたんだね」

 

 ヘスティアはエルディンの話を聴いて納得する。

 

「おそらくロキは私に首輪を繋げておきたかったんだろう。そして、あわよくばデイドラ王たちの動きを抑えられればと画策している」

 

「それで、エルディンさんは次の遠征に参加することになったのですか?」

 

 ベルが尋ねる。

 

「ああ、まだ正確な日程は決まっていないが、そう遠くはないだろう」

 

「そうですか。…なんだか、エルディンさんがどんどん遠くに行ってしまいますね」

 

「何を馬鹿なことを。すぐに追いつくさ。明日からまた厳しく指導してやる」

 

 エルディンの言葉にベルが言いにくそうに切り出す。

 

「あ、ええと、明日なんですが…お休みを頂いてもいいですか?」

 

 エルディンはベルの言葉に眉をつり上げる。

 

「実は明日、買い物の約束をしまして…」

 

「買い物だと? 約束とは…」

 

 エルディンはそこまで言いかけて、ベルの反応を見て察する。

 

(女か)

 

「…ちょうどいい。そしたら明日は私は朝早くから単独でダンジョンに行くとしよう」

 

「じゃ、じゃあ!?」

 

 顔を明るくするベルにエルディンが耳打ちする。

 

「明日のデート、帰ってきたら結果を教えてくれ」

 

「なっ!?」

 

 デートという言葉にベルの顔が赤くなる。

 

「うん、ベル君どうしたんだい?」

 

 ベルの様子を不審に思ったヘスティアが追求する。

 

「さて、明日は朝早いから私は眠らせてもらう」

 

(ベルとデートの相手にマーラのお導きがありますように)

 

 ベルとヘスティアを放置し、エルディンはソファに横になった。

 

 …

 

(ベルが休みだったから単独で深層へ行こうと考えて早朝にダンジョンに向かったのだったな)

 

 エルディンは昨日の夜あった出来事を整理した。

 

「何を黙ってんだ!?」

 

「…私は今日初めて十八階層に来た。そんな男が来てすぐに殺人を起こすと思うか?」

 

「うっ、うるせえ! 屁理屈並べんじゃねえ!」

 

「はあ、…一から説明してやる。私は早朝、ここに到着した。それで…」

 

 …

 

「ここがリヴィラか…」

 

 エルディンは街の入り口に立ってつぶやく。

 

(長居するつもりはないが、少し見て回るのもいいだろう)

 

 そう思い、街の中に入る。

 朝が早いということもあり、人の気配がない。

 街のことを誰かに聞こうと考えているとエルディンは異変に気づく。

 

(血の匂い)

 

 エルディンは血の匂いを辿って宿屋に入る。

 外に漏れ出ていた血の匂いが濃くなる。

 中には誰もいない。

 エルディンは匂いのする場所を探す。

 そして一つの客室にたどり着いた。

 

「これは…」

 

 そこにはベッドに横たわる死体があった。

 損傷が酷く、顔の皮が剥がされている。

 部屋は荷物が散乱しており、至る所に血痕も付いている。

 

(殺されたのは深夜か)

 

 血の固まり具合から死亡時刻を推測する。

 改めて死体を見ると、首筋に鬱血の跡が見える。

 指の形がはっきりとしていることから相当強く締め付けたことがわかる。

 

(首を折ってから顔の皮を剥いだのか。素性を分からなくするためか?)

 

 エルディンは部屋の様子も観察する。

 男の荷物と思われるバックパックは中を荒らされており、部屋の家具も破損している。

 

(犯人は何かを探していた。それが見つからず、やけを起こして八つ当たりをした)

 

 他に手がかりはないかと探していると、血の匂いに混じって微かに甘い匂いがすることに気がつく。

 

(これは、香水か?)

 

 エルディンは一通り観察を終え、結論を出す。

 

(男が殺されたのは昨日の深夜、死因は絞殺。手の大きさと匂いから、犯人は女。男の持ち物から何かを奪おうとしていた)

 

 エルディンが考えをまとめていると、後ろから悲鳴が聞こえる。

 

「こ、殺しだ!? 助けてくれ!」

 

(これは面倒なことになった)

 

 エルディンはため息をついた。

 

 …

 

「それで、すぐに疑いが晴れると思ったから大人しく捕まってやったのだが、想像以上にお前らが愚かな頭をしていて、今もこうして捕まっているというわけだ」

 

「「「ああ!? 誰が愚かな頭だ!?」」」

 

 三人が反応する。

 

「さっきも説明したが、その一緒にいた女が怪しいだろう。早いとこ探すべきだ」

 

「ぐっ…おい、女を探すぞ!」

 

「「へ、へい!」」

 

「てめーはこのままこの部屋で待っていやがれ!」

 

 そう言って三人は出て行く。

 

「おい、だから私は…ちっ」

 

 いつでも縄を解いて出ることはできるが、それで疑いが強くなるのも面倒である。

 エルディンはそのまま部屋に残り、目を閉じて眠り始めた。

 

 *

 

 

「やっと戻ってきたか」

 

 エルディンは部屋の前を歩く音で目が覚める。

 どうやら人数が増えたようで、足音の数が増えている。

 扉が開けられ、先程の三人が入ってくる。

 

「こいつだ。死体があった部屋に一人でいた」

 

「第一発見者ってことか。…って、エルディン?」

 

 そう言って後ろから入ってきたのはロキファミリアの団長フィンだった。次いでリヴェリアが入ってくる。

 

「こんなところで、何をやってるんだい?」

 

 フィンが尋ねる。

 

「見ての通りだ。殺人の容疑者として監禁され、取り調べを受けていた」

 

「つまり、お前が第一発見者ってことか?」

 

 リヴェリアが尋ねる。

 

「え、何? エルディン君いるの!?」

 

 後ろからティオナが割り込んでくる。

 その後ろにはティオネとアイズ、レフィーヤの姿も見える。

 

「あー、本当だ! 昨日ぶりだね!」

 

「ああ、ティオナ。相変わらず元気だな」

 

 ティオナの挨拶に、エルディンが言葉を返す。

 

「…こいつのこと知ってんですか?」

 

「ああ。…お前達、無事で良かったな。この男はLv.5の冒険者だ」

 

 リヴェリアが答える。

 

「「「はあ!?」」」

 

 三人とも驚く。

 

「もし、その気になればあっという間に片付けられていたと思うよ。…エルディンもよく我慢していたね」

 

「ここでこいつらを潰したところで疑いが晴れないからな。…だが、いい加減話が通じなくて我慢できなくなっていたところだ」

 

「「「ひい!?」」」

 

 エルディンに睨まれて、三人が悲鳴をあげる。

 

「…それじゃあ、発見当初のことを教えてくれるかい?」

 

「ああ」

 

 エルディンは発見当時のことと、自分の推察を話し始めた。

 

 *

 

「…なるほど、やはりその女性がかなり怪しいようだね。…一応聞くけどエルディンは本当に犯人じゃないよね?」

 

「…フィンが冗談を言うとはな。イスミールの髭にかけて、私は殺していない」

 

(…冗談じゃないんだけどね)

 

 昨日のことを思い返し、フィンはあながち冗談にできないと心の中で思う。

 

「エルディン君がそんなことするわけないじゃん!」

 

 ティオナがエルディンを庇う。

 

「ティオナ落ち着け。…それで、フィン達の方で何か分かったことはあるか?」

 

 エルディンがフィンに尋ねる。

 

「被害者の身元がわかった。名前はハシャーナ・ドルリア。ガネーシャファミリア所属でLv.4の冒険者だ」

 

「Lv.4だと? つまり、犯人はそれを一方的に殺すことができる実力者ということか?」

 

 エルディンはフィンの話に驚く。

 それが事実なら少なくともLv.5以上の実力者ということだ。

 

「Lv.4以上の女性となれば数は絞られる。これからこの街にいる人を調べるつもりだ」

 

 フィンが話す。

 

「…私も連れて行け。ここにいるのはもう飽きた」

 

「いいよ。…一応、容疑は晴れてないから誰か監視をつけておくよ」

 

「あ、じゃあ私がエルディン君を見張ってるよ!」

 

 ティオナが役を買って出る。

 

「じゃあよろしく、ティオナ。さて、外に出ようか。皆を集めよう」

 

 *

 

 外に出ると街の住人達が集まってきた。

 フィン達が身体検査を始めようとするが、街の男共が率先してやろうとしたり、女性側がフィンに群がり、それを見たティオネが激昂して暴れたりなど、なかなか調査が進まないでいた。

 

「この街には馬鹿しかいないのか?」

 

「本当にそうだよねー」

 

 エルディンの言葉にティオナが返事をする。

 二人は離れたところで遠目に様子を伺っていた。

 ちなみにエルディンは縄を解かれ、武器も返してもらっている。

 

(朝から何も食べていないから、腹が減ったな)

 

 エルディンは少し遅めの昼食を取るべく、荷物からサンドイッチを取り出す。

 

「あ、美味しそう!」

 

 ティオナが反応する。

 

「…良かったらどうだ?」

 

 エルディンがサンドイッチをティオナに渡す。

 

「ありがとう! 頂きます! …うん! これ、すごく美味しい!」

 

「そうか、それは作った甲斐があった」

 

「え!? これエルディンが作ったの!?」

 

 ティオナが驚く。

 

「ああ、そうだ。旅を続けているうちに料理を覚えてな。やはり食事は美味しいものが食べたいであろう」

 

「確かにそうだね! もう一個ちょうだい!」

 

 エルディンは美味しそうに食べるティオナをみて微笑む。

 そしてふと彼女の装備が普段と変わらないことに気づく。

 

「ところで、ティオナはダンジョンの中でもその格好なのか?」

 

「え? うん、そうだけど?」

 

 ティオナが当たり前というような反応をする。

 しかし急所を全く守れていない格好のため、エルディンには理解し難い。

 

「そのような格好でモンスターの攻撃を受けて大丈夫なのか?」

 

「うん、平気だよ。動きやすいし。…本当にやばい時は回復薬飲んだりするけど」

 

 エルディンの質問にティオナが返す。

 

「綺麗な顔をしているのだから傷でも残ったら大変だろう?」

 

 エルディンの突然の言葉にティオナが驚く。

 

「綺麗!? わ、私のこと!?」

 

「ああ、そうだ」

 

 ティオナは少し顔を赤くし、エルディンに訊く。

 

「…エルディン君は私のこと、可愛いって思う?」

 

「ああ、思うぞ。あどけなさと快活な感じが魅力的だ」

 

(まあ、まだ子供だがな。やはりノルドの女性くらい、体つきがいい方が好みだ)

 

「え、えへへー。そっかー」

 

 エルディンが失礼なことを思っているとは知らず、ティオナが照れる。

 アイズとレフィーヤが一人の犬人を追って行くのを二人は気づかなかった。

 

 *

 

 それからしばらく身体検査の様子を見ていたが、犯人は見つかっていないようだ。

 

「それにしても犯人見つからないねー」

 

「…該当する人物は少ないはずだ。ここまで時間がかかるとはな」

 

「暇だなー。なんだか体動かしたくなってきちゃった」

 

 ティオナがそう言って足をばたばたさせる。

 そこでエルディンは不自然な振動を感じる。

 この振動は以前も感じたことがある。

 

「よかったなティオナ、どうやら体を動かす必要がありそうだ」

 

「この揺れ…まさか!?」

 

 ティオナも異変に気づき、武器を構える。

 

 突如地面から三体の食人花が出現する。

 エルディン達の近くだけでなく、街の至るところで触手が伸び始める。

 

「うわっ! なんだいったい!?」

 

「モンスターだと!? 見張りは何をやっている!?」

 

 食人花の出現に、街はパニックに陥る。

 エルディンは片手剣を抜くと、ティオナに指示をする。

 

「私が引きつける。ティオナは隙を見て攻撃をしろ」

 

「わかった!」

 

 ティオナがエルディンから離れる。

 エルディンは【炎のマント】を展開し、さらに武器に魔力を流す。

 武器が赤みを増し、炎が纏われた。

【炎の付呪】により、一時的に炎の属性攻撃が可能となる。

 読み通り、食人花はこちらを標的にする。

 触手を伸ばしてくるが、全てエルディンに触れる前に焼き切れる。

 エルディンが食人花に近づく。

 本体に炎が燃え移る。

 

『キャアアァァァ!!!』

 

 食人花が悲鳴を上げる。

 エルディンが剣の間合いまで近づく。

 剣を振り、本体を斬りつける。

 切断面から炎が噴き出て、敵を焼く。

 一体はあっという間に灰になった。

 

 地面から触手が突き出してくる。

 エルディンは一度離れると、左右に【炎の壁】を放つ。

 巨大な食人花を囲うように炎が燃え上がる。

 食人花はたまらず炎から逃れようとする。

 それこそがエルディンの狙いだ。

 

「ティオナ!」

 

「いっくよー!!」

 

 食人花の後ろに回り込んでいたティオナが大双刃(ウルガ)を振り下ろす。

 突然の攻撃に食人花は対応できない。

 二体は花が斬り落とされ、灰となって消えた。

 

 *

 

「数が多いな」

 

 エルディンは周囲の状況を分析する。

 多方面で悲鳴が上がっている。

 単独で食人花と渡り合えるのは自分を抜かすとロキファミリアの面々、あとはわずか数人だろう。

 

「ティオナ、フィン達と合流だ」

 

「うん!」

 

 エルディンとティオナは中央の広場に向かう。

 その間にもエルディンに向かって触手が伸びてくる。

 しかし【炎のマント】により、全て消し炭になっていく。

 

「エルディン君、大丈夫!?」

 

「心配するな。この程度で私に触れることはできん」

 

 前方から二体、食人花が口を開けて向かってくる。

 

「【Yol() Toor(業火) Shul(太陽)】!!!」

 

 エルディンが【ファイアブレス】を叫ぶ。

 炎の塊が食人花を包む。

 食人花は粉々に消し飛んだ。

 

「うわ、何今の咆哮!? 竜のモンスターでもいるの!?」

 

 ティオナが驚いているが、エルディンは無視をする。

 二人はすぐに中央に到達する。

 

「フィン。状況はどうだ?」

 

「エルディンか。街の人達は小隊に分かれてモンスターを抑え込んでいる。アイズとレフィーヤは居場所がわからない。ティオネは広場の外へ出てしまった人達の援護だ。リヴェリアは…」

 

 と言いかけたところで、轟音が鳴り響き極大の火柱が上がる。

 無数のモンスターが業火に焼かれていく。

 

「…あれが【九魔姫(ナイン・ヘル)】か」

 

 エルディンは嘆息する。

 あれほどの威力を誇る破壊魔法を扱えるのはタムリエルでも有数だ。

 

「エルディン。魔法でモンスターを誘き寄せてくれるかい。まとまったところでリヴェリアが魔法を放つ」

 

「承知した」

 

 エルディンはモンスターの群れへ向かおうとする。

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

 街全体に叫び声が鳴り響く。

 

「なんだあれは…」

 

 エルディンは咆哮の主を見て、立ち止まった。

 

 *

 

 そのモンスターは突如出現した。

 上半時は女性の体をしていて、下半身は食蛸のように食人花が生えている。

 前触れもなく出現した巨躯にエルディンは驚くが、何よりの脅威と判断し、すぐにそのモンスターへ向かう。

 広場に向かってくる人型モンスターに対し、【エクスプロージョン】を放つ。

 足となった食人花に直撃すると大爆発を起こし、足をちぎり飛ばす。

 

『ギャアアア!!』

 

 人型モンスターが勢いを緩める様子はない。

 そこへアイズが駆けつける。

 人型モンスターが、アイズに突撃する。

 

(やはり魔法に反応するのか)

 

 エルディンは【魔法の鎧】と【炎のマント】を展開する。

 さらに武器を両手剣に持ち替え、【炎の付呪】を掛ける。

 アイズに向かっていたモンスターがエルディンに標的を変える。

 エルディンは向かってくる足をまとめて両断する。

 フィンやティオネ、ティオナも加わりアイズを援護する。

 それでもモンスターの攻撃は衰えない。

 攻撃を剣の腹で受け止め、纏った炎で焼き斬る。

 両手剣にさらに魔力を込める。

 巨大な炎が纏われる。

 そのまま振り下ろし、延長線上の足を燃やし尽くす。

 

(やはり本体を叩かないと決定打にならないか)

 

「エルディン! リヴェリア達が魔法で奴を引きつける。それを援護してくれ!」

 

 フィンの指示を受け、エルディンは魔法を解除する。

 広場の中央に魔法陣が描かれる。

 人型モンスターは魔法陣に引き寄せられ、移動を始める。

 前衛を担っていた冒険者はモンスターを食い止めることができない。

 モンスターの足に蹴散らされ、人数が減っていく。

 人型モンスターがリヴェリアに肉薄する。

 エルディンが追いつき、人型モンスターの前に躍り出る。

 

「【Fus() Ro(均衡) Dah(圧力)】!!!」

 

『クグゴォ!!?』

 

 エルディンが【揺るぎなき力】を叫ぶ。

 城壁をも粉砕する力の塊が、巨大な人型モンスターを大きく後退させる。

 

「よくやった、エルディン! 総員退避しろ!」

 

 リヴェリアが魔法を中断する。

 エルディンとリヴェリアが退避すると、人型モンスターの後方でレフィーヤが詠唱を終わらせ、砲撃を繰り出す。

 

「【ヒュゼレイド・ファーラリカ】!!」

 

 炎の矢が豪雨の如く降り注ぐ。

 人型モンスターの全身を燃やし、足を焼く。

 人型モンスターが絶叫する。

 

「よし! このまま仕留めるぞ!」

 

 フィンが号令を出す。

 しかし、人型モンスターは下半身を切り離し湖の方へ走り出した。

 

「逃げた!?」

 

「あいつ、湖に飛び込む気!?」

 

 モンスターは崖までもがきながら進む。

 そこへ、詠唱が響く。

 

「【吹雪け、三度の厳冬ー我が名はアールヴ】!」

 

『ッツ!?』

 

『並行詠唱』を行い、リヴェリアが人型モンスターとの距離を詰める。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 三条の吹雪がモンスターごと、一帯を凍らせる。

 人型モンスターは最後の力を振り絞り、崖の向こう側へと落ちていく。

 顔が笑っているかのように歪む。

 

「行くわよ!」

 

「そーおれー!!」

 

 しかし、二つの影が人型モンスターを追い詰める。

 ティオネとティオナが崖から飛び降りる。

 ティオネがモンスターの両腕を斬り飛ばす。

 そしてティオナがモンスターの魔石を大双刃(ウルガ)で両断した。

 

「やりー!」

 

「馬鹿ティオナ! 魔石ごと吹っ飛ばしちゃったら意味ないでしょ!?」

 

「あ…」

 

 ティオネとティオナはそのまま落ちていく。

 

「アイズとレフィーヤ、大丈夫かなぁ?」

 

「団長とリヴェリアがいるのよ? 平気に決まってるでしょ」

 

「…そうだね!」

 

 ティオナが笑う。

 水面が近づいてくる。

 そしてそのまま突っ込む直前で二人が止まる。

 

「え、なにこれ?」

 

 水面すれすれで二人が静止している。

 そのまま水面が遠ざかる。

 

「すごい! 飛んでる!」

 

「いったい、どうなってるのよ?」

 

 そう言ってティオネが上を見ると、エルディンが崖から手を伸ばしている。

 やがて二人は崖の上まで浮き上がり、地面に着地した。

 

「怪我はないか?」

 

 エルディンは【念動力】を使って二人を運び、助け出していた。

 

「エルディン君ありがとう! 何、今の!? すごい面白かった!」

 

「わざわざありがとうございます」

 

「気にするな。…どうやら向こうも終わったようだな」

 

 エルディンはアイズ達の様子を確認する。

 何者かと戦っていたが、逃げられたようだ。

 崖の下を見つめるアイズの表情には悔しさが浮かんでいた。

 

 *

 

「戻ったぞ…」

 

 エルディンはげんなりとして帰宅する。

 あの後、怪我人に回復魔法を当てたり、地上へ戻る際の護衛などを行なっていた為、ホームに戻るのが遅くなってしまった。

 おまけに魔石は没収されてしまったため、今回の探索ではほとんど稼ぎがなかった。

 

「あ! おかえりなさい、エルディンさん!」

 

 意気消沈気味なエルディンとは対照的に、ベルはご機嫌な様子で武器の手入れをしていた。

 エルディンはベルが新しい防具を身につけていることに気づく。

 

「その装備はどうした?」

 

 エルディンが尋ねる。

 

「あ、はい! エイナさんから、防具を身につけた方がいいって言われて…」

 

「なるほど。それで、エイナと一緒に防具を選びに行ったというわけか」

 

「そ、そこまでは言ってないじゃないですか!?」

 

 見事に当てられてベルの顔が真っ赤になる。

 ベルはからかい甲斐があって面白い。

 ベルの装備を改めて見る。

 飾り気はないが、丁寧な作りをしており、性能は申し分なさそうだ。

 むしろ、駆け出しの冒険者が使うには良すぎるとさえ思える。

 

「うむ。いい装備ではないか。軽装を選択したのもいい判断だ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 エルディンに褒められて、ベルは嬉しくなる。

 

「これ、ヴェルフ・クロッゾさんって方が造った防具なんです。エルディンさんが訓練用に使ってる短剣もその方の作品みたいで、とても使いやすいんで名前を覚えてたんですよ」

 

「あの短剣か。確かに値段の割に良い出来だったな」

 

 エルディンも覚えている。

 店で選んでいた時に思わず感心したほどだ。

 

「さて、防具に負けないようにベル自身も強くならなくてはな」

 

「うっ。そ、そうですね」

 

 ベルが苦笑いをする。

 

「とはいえ、防具にお金が掛かっただろう? 明日は朝からダンジョン探索をしようか。…もちろん、ベルとは別行動だが」

 

「はい! そうしましょう!」

 

 別行動にも動じなくなってきたベルを見て、エルディンは静かに微笑む。

 

「ただいま! お、やっとエルディン君が帰ってきた! お腹すいたからご飯にしようぜ!」

 

「ああ、すまなかったな」

 

 ヘスティアも帰ってきて、三人で食事をする。

 

 …何も収穫がなかったが、まあ無事に戻れて良しとしよう。

 

 少しずつ、エルディンの中でヘスティアファミリアでの団欒が日常として定着し始めていた。




アストリッドは結構好きなキャラでした。
裏切り者ではありますが、他の裏切り者と比べるとまだ同情できる部分もあり、最後は自分でけじめをつけて死んでいったのでなかなか憎めない人物だと思います。

今回は容疑者として捕まってしまい、散々な目に遭ってしまいました。
次回はベルと一緒にダンジョンに行きます。

ドヴァキンの強さってダンまちの世界だと、どれくらいのLv.だと思いますか?(ドヴァキンは全スキルを習得済みとします。)

  • Lv.8以上
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