ダンジョンで叫ぶのは間違っているだろうか   作:マザハール

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黒檀の戦士編完結

エルディンはやるべきことを見つけ、ダンジョンに篭ることを決めた。
だが、出発前にリリのことを解決する必要がある。
エルディンはベルとリリの後を追いかけるのだった。


第二十三話 裁き

<回想>

 

 剣が胸に刺さったまま、黒檀の戦士が倒れ込む。

 エルディンは倒れた黒檀の戦士を見つめる。

 黒檀の戦士の呼吸が荒くなる。

 しかし、剣が刺さったままのため、すぐに死ぬことはない。

 

 黒檀の戦士は苦しそうにしながら兜を外す。

 血を吐きながらも、その口元は笑みを浮かべている。

 対して、エルディンは悲しそうに、悔しそうに顔を顰めている。

 

「やっと…ソブンガルデに…」

 

 黒檀の戦士が満足そうに呟く。

 その言葉に、エルディンは顔を一層歪める。

 

「ふざけるな! …立ち上がれ! 剣を取って戦え!」

 

「私の…負けだ。…貴様が勝った。…これで…終わりだ」

 

「まだ終わっていない! 俺を見ろ! お前の剣はまだ俺の心臓に届いていない! お前の魔法は俺を焼き尽くしていない! …俺を置いていくのか?」

 

 エルディンの頬を涙が伝う。

 やっと見つけた死に場所のはずだった。

 己の全力を持ってしても勝てないと思わせてくれた。

 自分をソブンガルデに送ってくれると確信していた。

 

「俺を見ろ…この有様だ。人の形を模した、化け物だ。…母も、仲間も、皇帝も、私に刃向かう有象無象も全て殺し、力だけが残った、ただの化け物だ」

 

 エルディンが崩れ落ちる。

 

「…俺をソブンガルデに送ってくれ」

 

 雪に包まれた静寂の中、啜り泣く声だけが僅かに響く。

 

「…はは、勝者が…なぜ泣いている」

 

 黒檀の戦士が弱々しく笑う。

 

「貴様は…私に勝利した。…ならば笑え」

 

 黒檀の戦士が手を伸ばす。

 

「勝者は…次の戦いが待っている。…今日の勝利を喜べ。次の戦いに備えろ。

 …勝利を重ね…笑って死ね。…ソブンガルデに行きたいなら…」

 

 エルディンがはっと顔を上げる。

 

「先に行って…待っている。…覚え…くれ。私…名前は…」

 

 エルディンが立ち上がる。

 その顔には柔らかい笑みが浮かんでいた。

 

「…すぐに追いつく。いずれまた、ソブンガルデで会おう」

 

 黒檀の戦士は微笑むと、ゆっくりと目を閉じた。

 

 数日後、ドラゴンボーンが黒檀の戦士に敗北し、死亡したという噂がスカイリム中に広がった。

 

 *

 

 次の日、エルディンはベル達より早く起き、ギルドへ向かっていた。

 早朝ということもあり、ギルド内は閑散としている。

 

「エルディンさん、おはようございます」

 

 エイナがエルディンに気付き、声をかける。

 

「おはよう、エイナ。…少しいいか?」

 

「はい、何か御用ですか?」

 

「ダンジョンの資料を見せてもらいたい。特に…二十四階層以降、下層の情報が必要だ」

 

 エルディンの言葉にエイナは眉を顰める。

 

「構いませんが…エルディンさん、今日もベル君とは別行動なのですか?」

 

「ああ、しばらくダンジョンに篭ることにした。今のベルなら私がいなくても問題ない。…サポーターもついてるしな」

 

 エイナはそれを聞いて、心配そうな顔をする。

 

「…実はそのサポーターのことが気になって、ソーマファミリアについて色々調べたのですが…」

 

 資料を用意して、別室にエルディンを案内する。

 そこでエイナは、ロキから聴いたソーマファミリアの実態をエルディンに話した。

 

「…つまり、ソーマファミリアの眷属は、その酒を欲しいがために多少暗いことをしてでも金を稼いでいると?」

 

「はい。ですから、ベル君に付いているそのサポーターも危険かもしれません」

 

(思っていたより、根が深そうだな)

 

 エルディンは考え込む。

 人が良すぎるベルにとって、人の怖さを教えるいい経験になると思っていたが、少々荷が重いかもしれない。

 

「あの、エルディンさん?」

 

「…エイナが心配するのも無理はない。たがアーデ…そのサポーターの件はベルに任せよう」

 

「ですが…」

 

「安心しろ。ベルなら上手くやってくれるだろう。…すまないが、資料を読むのに集中させてくれ」

 

 エルディンの言葉に、エイナはまだ納得していなかったが、渋々退出する。

 それを横目にエルディンは手早くダンジョンの資料に目を通す。

 

(なるべく早くベル達の元に向かわねばな)

 

 エルディンは、今日リリが行動を起こすことを予測し、あえて別行動を選んだ。そして昨日の夜、ベルにダンジョンに篭ることを話し、一つの提案をした。

 

 もし、アーデの同意を得られたら、明日は十階層に挑んでみろと。

 

 *

 

 エルディンが出てから、少し遅れてベルもホームを後にした。

 とはいえ、普段よりも早い時間だったため、通りに出ている人は少ない。

 

(どうしよう)

 

 道中、ベルは今日のダンジョン探索について思い悩んでいた。

 エルディンに十階層に挑んでみろと言われ、普段であれば認められたという喜びで思わず顔がにやけるところだが、今回に限っては大きな不安を感じていた。

 昨日、リリと因縁があると思われる冒険者から、彼女を罠に嵌めようと持ちかけられたことと、ヘスティアから言われたことが頭から離れない。

 

(結局、エルディンさんに言えなかった)

 

 リリのことをエルディンに相談しようともしたが、肝心のエルディンは数日ダンジョンに篭ると言って昨日は早々に寝てしまったし、朝起きた時にはもういなかった。

 

 悩んでいるうちにバベルの塔の前に着いてしまう。

 

「…リリになんて言おう」

 

「リリがどうかしましたか、ベル様?」

 

 声のした方を見ると、リリが不思議そうにベルを見上げていた。

 

「おはよう、リリ…ううん、なんでもないよ」

 

「…そうですか」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 ベルは今日の予定を切り出そうとする。

 

「「あ、あの」」

 

 しかし、リリと声が被ってしまう。

 

「ご、ごめん。…何かな、リリ?」

 

「…その、ベル様。本日は十階層まで行ってみませんか?」

 

「えっ…」

 

 リリからのまさかの提案にベルが驚く。

 

「どうして、いきなり…」

 

「いえ、いきなりではありません。リリの見立てでは、ベル様は十階層でも問題なく通用する実力があります」

 

 ベルが沈黙していると、リリが言葉を続ける。

 

「実は、リリは近日中に大金と言えるお金が必要なのです」

 

「! …それって」

 

「ベル様に甘えていることは百も承知です。ですが、どうか、リリの我儘を聞いてもらえませんか?」

 

 ベルは少し悩んだが、エルディンにも十階層に行けと言われていたことを思い出す。

 

「…わかったよ。実はエルディンさんにも十階層に挑戦してみろって言われていたんだ。僕は準備できてるけど、リリは大丈夫?」

 

「リリも出発できます! …そうだ、ベル様これを渡しておきますね」

 

 そう言って、リリはベルに両刃短剣(バゼラード)を渡す。

 

「リリの我儘を聞いてもらうので、せめてものお礼です」

 

「ありがとう、リリ」

 

 ベルは受け取った両刃短剣(バゼラード)を手に持って素振りしてみる。

 神様のナイフ(ヘスティアナイフ)よりもリーチが長い代わりに少し重い。

 しかし、エルディンとの訓練でこれに近い武器を扱ったことがあるため、すぐに慣れることができた。

 ベルは左手のプロテクターに両刃短剣(バゼラード)を格納し、神様のナイフ(ヘスティアナイフ)を腰のホルダーにしまった。

 

「よし、それじゃあ、行こうか!」

 

「はい!」

 

 そう言ってベルの後ろについだリリは、フードの下で怪しげな笑みを浮かべた。

 

 *

 

 資料を読み終わりエイナを探したが、別の仕事でギルドの外に出ているようだった。

 受付にいた職員に資料を返すと、エルディンは足早にバベルの塔へ向かった。

 

(ベルはもうダンジョンに潜ったか)

 

 エルディンは千里眼でベルの行き先を確認する。

 光の筋がバベルの塔に向かって伸びる。

 

 ダンジョン入り口まで来たところで、エルディンはエイナとアイズが会話しているのを見つけた。

 影に隠れ、聴覚を研ぎ澄ませて二人の会話を盗み聞きする。

 内容から察するに、エイナがアイズにベルの手助けを頼んでいるようだ。

 

(ベルの方はこれで安心だな)

 

 アイズがいれば、万が一ベルが十階層で孤立しても大丈夫だろう。

 

(あとはアーデの処遇だな)

 

 アイズがダンジョンに入るのを確認すると、エルディンもエイナに見つからないようにダンジョンに入る。

 千里眼を使えば真っ直ぐにベル達のもとへ向かうことができるが、アイズと接触するのを避けるため、アイズを尾行するように進む。

 しかし、しばらく尾行を続けて、アイズの動きが以前より速くなっていることに気付く。

 少しずつ離されて、やがてアイズを見失ってしまった。

 

(前に戦った時よりも速いな)

 

 エルディンは自分が尾行を撒かれたことに少し驚いた。

 少し前にアイズが一人でウダイオスと戦って勝利した、とリヴェリアから聞いていたことを思い出す。

 ウダイオスはLv.6の冒険者でも苦戦を強いられるほどの強敵と聞く。

 Lv.5のアイズがそれを倒したということは十分偉業と言えるだろう。

 

(次に戦う時が楽しみだ)

 

 エルディンが不敵な笑みを浮かべる。

 アイズのことを一旦置き、ベルのことに頭を切り替える。

 千里眼を使うと、光の筋が二手に分かれていた。

 これはベルとリリが別の場所にいることを意味している。

 

(こちらも動きがあったようだな)

 

 目的をリリに絞ると片方の筋だけ残る。

 ベルのことをアイズに任せ、エルディンはリリのもとへと向かった。

 

 *

 

(上手くいきました)

 

 リリは壁から湧いてくるモンスターをボウガンで倒しながら出口へと向かう。

 あとはなるべくモンスターの出現が少ない通路を辿れば、日の下に出られる。

 

「…」

 

 しかし、思惑が成功したにもかかわらず、リリの表情は暗い。

 

(ベル様がいけないのですよ)

 

 必死に自分にそう言い聞かせるが、突き刺さるような罪悪感は消えない。

 それでも無理やり剥がすようにダンジョンを戻り、開けたルームに出たところで何者かがリリの足を引っ掛ける。

 

「嬉しいねえ、大当たりじゃねえか」

 

 リリのバランスを崩して、勢いよく転ぶ。

 

(な…何が?)

 

 突然のことに混乱するリリだが、強引に掴み上げられ、思いっきりぶん殴られた。

 

「ふぎっ!?」

 

 リリの鼻から血が流れる。

 しかしそれでは収まらず、掴まれていたところから落とされ、鳩尾に足のつま先が突き刺さる。

 

「っ!? …あ」

 

 リリは勢いよく吹き飛び、鞠のように弾んで壁に激突する。

 あまりのことに息が止まる。

 

「はっははははは! いいザマじゃねえか、コソ泥!」

 

 それは昨日ベルに話しかけていたヒューマンの冒険者。

 リリの元雇い主。

 

「そろそろあのガキを捨てる頃だと思っていたぜ! 網を張っていて正解だったな!」

 

「あ…み…?」

 

 リリの言葉に冒険者は何人かで協力をして罠を仕掛けていたことを語り始める。

 話を聞くにつれ、次第にリリの顔が青ざめる。

 

 冒険者は語り合えると、憂さ晴らしのために、リリに暴行を加える。

 あまりの痛みにリリは悶絶する。

 

「おぉ、派手にやってますねえ、ゲドの旦那」

 

 そんな二人に第三者の声が掛けられる。

 その声にリリは絶句する。

 それは同じソーマファミリアの眷属だった。

 リリから金品を巻き上げ、虐げてきた冒険者だ。

 この瞬間、リリは一連の出来事がこの男の仕組んだことであるとを悟る。

 

「おう、カヌゥ。見ろよこいつ、魔剣まで持ってるぜ」

 

「…そうですかい」

 

 ゲドと呼ばれた冒険者は上機嫌に話す。

 カヌゥと呼ばれた冒険者はそれを神妙な顔で見る。

 

「ゲドの旦那、一つ提案があるんですが…」

 

「なんだよ、魔剣を寄越せってか?」

 

 カヌゥはその言葉に卑しい笑いを見せる。

 

「いえ、魔剣だけでなく、…奪ったもん全部置いてって欲しいんでさぁ」

 

 そう言ってゲドに向かって袋を投げる。

 

 中から現れたのは生殺し状態のキラーアントだ。

 このモンスターは瀕死に陥ると、特別なフェロモンを発する。

 仲間を呼び寄せる、危険信号だ。

 今度はリリだけでなく、ゲドまでもが絶句する。

 

「正気かあああああ、てめえらああああ!?」

 

 いつのまにか、別の通路から二人の冒険者が現れて、合計三つのキラーアントの死骸が集まる。

 そうして、すぐさま通路から五匹のキラーアントが顔を出す。

 

「どうします、ゲドの旦那? 俺達とやり合っている間に囲まれたくはないでしょう?」

 

「…くそったれがぁ!!」

 

 カヌゥの言葉に、ゲドは魔剣を始めとした金品を置き、一目散に逃げる。

 

「さて…大丈夫かぁ、アーデ?」

 

「か…カヌゥ…さん?」

 

 体がボロボロになり、息も絶え絶えのリリにカヌゥが語りかける。

 

「助けてやろうかぁ? 俺たちは仲間だもんなぁ?」

 

「お…願い…します。助けて…ください」

 

「いいぜ、助けてやる。…もちろん、タダでとは言わないがなぁ」

 

 カヌゥが歪な笑みをさらに歪ませる。

 すでに周りには何体ものキラーアントが押し寄せている。

 ゲドが逃げていった通路から悲鳴が聞こえた。

 

「この鍵を…ノームの貸金庫の鍵です。そこに…今まで集めた金品があります」

 

 リリは観念して鍵を渡す。

 カヌゥはそれを受け取ると、リリを持ち上げ、キラーアントの群れに放り投げる。

 

「悪いな、アーデ。これだけ囲まれたら全員やられちまうからよ。囮になってくれや。…仲間だろう?」

 

「そ…んな…」

 

 一瞬芽生えた希望があっさり消え、リリは絶望する。

 

(神様、どうしてリリをこんなリリにしたのですか?)

 

 キラーアントが少しずつリリに近づいてくる。

 カヌゥ達はキラーアントがリリに気を取られている隙に逃げようとする。

 

 その時、叫び声が聞こえた。

 逃げたはずのゲドがルームに戻ってくる。

 その視線は今出てきた通路に向けられ、その顔は先ほどとは比較にならないほど恐怖に歪んでいる。

 突然の出来事にリリはそちらに目を向け、カヌゥ達も気を取られる。

 

 通路から一体のモンスターが現れた。

 それはリリも初めて見るモンスターだった。

 人に近いシルエットをしているが、その全身は青白く、おぞましい顔つきをしている。

 2Mを超える体躯に背中から翼を生やし、手からは鋭い爪が伸びている。

 そのモンスターを見た瞬間、その場にいた全員が悟った。

 

 今日、ここで自分が死ぬことを。

 

 *

 

『…冒険者諸君』

 

 頭の中に声が響く。

 

『…貴様らは少しばかり戯れが過ぎた。…よってこの場で裁きを下す』

 

(モンスターが、喋っている!?)

 

 あまりにも現実とかけ離れた出来事に、リリは痛みも忘れ、そのモンスターを見つめる。

 

『…全員この場で死んでもらう。…死にたくなければ…我を倒せ』

 

 モンスターは語り終えると、近くにいたゲドの頭と体を掴み、引き裂く。

 ぶつり、と音を立ててゲドの頭と体が分断される。

 千切れた断面から血飛沫が舞う。

 モンスターはその血を浴びるように両手を広げた。

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「な、なんだこいつ!?」

 

 カヌゥ達が悲鳴を上げる。

 モンスターはゲドの体を近くのキラーアントに投げつける。

 あっという間にその死体がキラーアントで覆い尽くされる。

 

 モンスターは次にカヌゥの取り巻きの一人を見る。

 標的にされたと思った冒険者は錯乱し、一目散に逃げ出す。

 

「く、来るなぁ、化け物めええ!!」

 

 逃げる冒険者に対し、モンスターは翼を広げ跳ぶ。

 一瞬でモンスターは冒険者との距離を縮め、腕を掴むともう一人の取り巻きに向かって投げつける。

 凄まじい速度で二人の冒険者はぶつかり、一つになる。

 そのまま壁に激突し、醜い肉塊となった。

 

 モンスターは今度はゆっくりとカヌゥの方に顔を向ける。

 カヌゥは恐怖に顔を歪めながらも必死に剣を振り回す。

 剣はモンスターの体に当たり、傷を付ける。

 攻撃が効くとわかったカヌゥは一瞬、平静さを取り戻し、さらに数ヶ所斬りつける。

 しかし、モンスターが怯む様子はない。

 それどころか、傷口が瞬時に再生してしまった。

 

 カヌゥは必死に距離を取り、先程ゲドから奪った魔剣を手に取ると、モンスターに向かって振るった。

 剣から炎が迸り、モンスターを包む。

 

「ど、どうだ!?」

 

 モンスターが炎上したのを見て、カヌゥは勝利を確信する。

 しかし次の瞬間炎は消え去り、何事もなかったかのようにモンスターが現れる。

 

「ば、ばけも…」

 

 カヌゥが言い終わる前に、モンスターは右腕を突き出し、カヌゥの左胸を突き刺した。

 ぐちゃり。

 嫌な音を立てて、心臓が握りつぶされる。

 そしてカヌゥは事切れた。

 

 三人を殺したモンスターは最後にリリに近づいてくる。

 その様子をリリはまるで他人事のように見つめている。

 

『…最後は貴様だ。…死ぬのは怖いか?』

 

 モンスターがリリを掴んで持ち上げる。

 

(ここで、リリは死んでしまうのですね)

 

 やっと終わる。

 モンスターがリリの首筋に噛み付く。

 モンスターがリリの血を吸い始める。

 不思議と恐怖はない。

 痛みも消え、快感すら感じる。

 

 リリの頭に走馬灯が走った。

 幼い頃の記憶。

 ソーマファミリア。

 自分を匿ってくれた老夫婦。

 そして、ベルの顔を思い浮かべて、リリの意識が覚醒する。

 

(嫌です)

 

 リリが僅かに残った力でモンスターの腕を振り解こうともがく。

 

(このままベル様と別れて…)

 

 ベルのことを想う。

 

「このまま死ぬなんて嫌です!」

 

 その声に応えるかのようにベルの声がした。

 

「ファイヤボルトオオオオオ!!」

 

 *

 

 リリが気がつくと、周りにいたキラーアントは灰になっており、ベルの腕の中にいた。

 

「リリ、無事…だよね?」

 

「ベル…様…?」

 

「よかった。呼んでも返事がなかったから心配したよ」

 

 リリはぼんやりと、さっきまでの出来事を思い出す。

 カヌゥ達に嵌められ、キラーアントの群れに放り投げられて…

 

(その後は、なんでしたっけ?)

 

 何故か、記憶が曖昧になっている。

 

「…リリ、どうかした?」

 

「…して」

 

「え? 何、リリ?」

 

「どうしてですか?」

 

 他に何か言うことがあるはずなのに、それとは別の言葉がこぼれていた。

 

「なんで、リリを助けたのですか? どうしてベル様はリリを見捨てようとしないのですか?」

 

「…えぇ?」

 

「まさか、ご自分が騙されていたことに気づいていないんですか? リリがベル様を驚かしてやろうとナイフを持っていったなんて、そんな馬鹿なこと考えているんですか!?」

 

 リリはついに感情が爆発し、大声で捲し立てる。

 彼女の言葉はルーム中に響き渡っていた。

 

 *

 

 リリがベルに捲し立てている頃、少し離れた通路で無数の蝙蝠が飛び回っていた。

 蝙蝠は次第に集まっていき、やがて人の形をした影を成す。

 

「…まったく、私も随分と甘くなったものだ」

 

 そうして出来上がった影からエルディンが現れる。

 先程までの茶番を思い返して苦笑する。

 

(以前の私ならば躊躇なく鏖殺していたのにな)

 

 ベルに吸血鬼の姿を見せられない事情もあったが、それでもリリを殺すことは簡単だった。

 それを、わざわざ血を吸い、時間を掛けるような選択をしたことがエルディンは釈然としなかった。

 まるで、ベルが彼女を助け、彼女を殺し損ねることを望んだかのようだ。

 

(私は弱くなったのだろうか?)

 

 一瞬頭に浮かんだ疑問をすぐに振り払う。

 結果的に、リリはベルに命を救われ、生き残ることができた。

 これでベルは彼女から絶対の信頼を得るだろう。

 

(アーデにはまだ利用価値があるだろう)

 

 無理やり、リリを生かしたことに理由をつける。

 

「久々に血も吸えたしな」

 

 ヘスティアの神の血(イコル)の影響で喉の渇きは無くなったが、やはり久々の血は美味かった。

 

(想定通りとはいかなかったが、良しとしよう)

 

 エルディンはそう結論付けると、ゆっくりとダンジョンの奥に消えていった。




黒檀の戦士はエルディンが見失っていたことを思い出させてくれました。

なんだかんだで苦しませずに殺したり、血を吸うだけで済ませる優しいドヴァキン。

お久しぶりです。
気がついたらこんなに時間が経っておりました。
次はいつ出せるかわかりませんが、頑張って続けますので気長にお待ちください。

誰か、ベルと白の書のクロス小説書いてくれないかなぁ。

ドヴァキンの強さってダンまちの世界だと、どれくらいのLv.だと思いますか?(ドヴァキンは全スキルを習得済みとします。)

  • Lv.8以上
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