いざダンジョンへ!
<回想>
リフテンにある夫婦がおりました。
夫は盾の兄弟で、リフテンで随一の戦士でした。
妻は優しい性格で、リフテンでも評判の美人でした。
二人はとても仲が良く、幸せな日々を過ごしていましたが、子供には恵まれず、毎日マーラ様にお祈りをしていました。
ある日、夫が砦の外へ巡回に出ると、荷馬車が山賊に襲われているのを発見しました。夫はすぐに剣を抜き、山賊達を一掃しました。
どうやら旅の行商人の物だったらしく、残念なことに持ち主はすでに殺されていました。
ところが、夫は馬車の中から鳴き声がすることに気がつきました。
中を見ると、女性の死体の下に赤子がいました。
どうやら母親が庇ったおかげで助かったようでした。
衛兵達に商人の埋葬を任せ、夫は赤子を抱えて家に帰りました。
夫婦は親を亡くした赤子を不憫に思いました。
そして妻はある決意をしました。
この子のように、親を亡くした子供が立派に生きられるように助けよう。
こうして、夫婦は孤児院を始め、赤子は孤児院の最初の子供となりました。
いつしか、孤児院にはたくさんの子供が入り、夫婦は子供達を大事に育てました。
子供の世話をする妻を見て、街の人たちは尊敬と親しみを込めてこう呼びました。
"親切者のグレロッド"と
*
<ヘスティアファミリア・ホーム>
重みを感じ、ベルは目を覚ました。
まだ随分と早い時間だ。
自分の上に誰か乗っているのに気がつく。
下を見るとヘスティアが心地良さそうに眠っていた。
ベルは戸惑うが、昨日エルディンの提案で、一緒にベッドを使う事になったのを思い出す。
ヘスティアの頭に手を当てて撫でると、ヘスティアはもぞもぞと身を捩り、お腹のあたりに柔らかいものが押しつけられる。
(これって…)
ベルは自分の顔が真っ赤になるのが分かった。
(まずい、何も考えるな!)
ベルは手が伸びそうになるのを必死に堪えて、体勢を入れ替える。
「く…たあは!」
変な声が出てしまったが、どうにか堪えた。
神様にそんな劣情を抱くなんて絶対ダメだ!
「ベル…うるさいぞ。朝は静かにしてくれ…」
「ふぉああ!?」
そんな声が聞こえてベルは変な声を上げる。
ソファを見るとエルディンが眠そうに目を擦っていた。
「す、すいません。おはようございます」
「まだ寝かせてくれ。とても眠い」
エルディンが言う。
(朝が弱いのかな?
意外と抜けてるみたいだ)
ベルはぬぼーっとした顔をしたエルディンを見てそんなことを思う。
「エルディンさん、起きてください!
今日はギルドに行って、冒険者として登録しなきゃいけません」
ベルがを声をかけると、エルディンがむくりと起き上がる。
「……分かった。それにしてもギルドに登録しないとダンジョンに行けないというのは面倒だ。昨日も入れたし、勝手に入ってしまえばいいいだろう」
エルディンがとんでもないことを言う。
「だ、だめですよ! そんな事したらエイナさんに怒られちゃいますから!」
エルディンはぼーっとしていたが、やがて立ち上がり、鎧を付け始めた。ベルもギルドに向かうため、準備を済ませるとエルディンと共に外へ出た。
「…ベル君のアホ〜……むにゃ……」
*
まだ朝が早いせいか、人通りは少なかった。
ベルとエルディンはギルドを目指して、大通りを歩いていた。
エルディンは相変わらず眠そうにしている。
「エルディンさん、大丈夫ですか?」
「…ああ、問題ない。単に寝付けなかったのと、
元々夜型の生活をしてたから、日中に活動するのが苦手なだけだ」
「そ、そうなんですね」
エルディンの反応にベルは苦笑する。
「?」
ふと、どこからか目線を感じた。後ろを振り返るが誰もいない。
(なんだ、今の?)
「あの〜?」
と声が聞こえて、ベルは声のしたを振り返る。
そこには灰色の髪をポニーテールにした、可愛らしいヒューマンの女の子が立っていた。
「す、すいません。何か?」
「はい、これ落としましたよ?」
女の子がそう言って渡してきたのは魔石だった。
昨日全部換金したつもりだったが、残っていたみたいだ。
「ありがとうございます!」
「はい。…あの、冒険者さんですよね?
こんなに朝早くからダンジョンに行くんですか?」
女の子が問いかけてくる。
ベルが返答をすると、
ぐううう
とベルのお腹が鳴った。
恥ずかしさを誤魔化す様に照れ笑いをすると、女の子はクスッと笑い、目の前の建物に入り、手に包みを持って戻ってきた。
「あの、これ。良かったら食べてください」
どうやら、お弁当のようだ。
「え、いや、悪いですよ! あなたの分がなくなっちゃいますし」
「私は大丈夫です! そのかわり、良かったら今日の夜、うちの店に来てください」
「お店?」
「はい! ここ、"豊穣の女主人"ってお店です。夜は冒険者さんがたくさん来るんですよ! 是非ご飯食べに来てください。…ダメ、ですか?」
(か、可愛い)
そんな上目遣いで頼まれたらベルには断れない。
「は、はい。必ず食べに来ます!」
「ありがとうございます! ではまた今日の夜に待ってますからね」
そう言うとその子は店の中に戻って行った。
「エルディンさん。お弁当貰っちゃいました。二人で分けましょう」
ベルがそう言ってエルディンの方を見ると、エルディンは塔の上を睨んでいた。
「どうかしましたか?」
ベルが問いかけると、エルディンは顔をベルに向ける。
「いや、なんでもない。せっかく可愛い子から貰ったのだ。ベルが全部食べるといい」
「いえ、そんな。僕だけじゃ悪いですから、二人で食べましょう」
「私は特に腹は空いていないのだが。では、ダンジョン内で頂くとしよう。
…さあ、ギルドに向かおう」
*
バベルからベルとエルディンの様子を伺う女神がいた。
誰しもが釘付けになるであろう美貌とプロポーションを持つ、正に絶世の美女の言葉が相応しい女神だった。
「素敵だわ。あの子…」
ベルを見て女神は微笑む。
そしてエルディンの方を見て、不愉快そうに顔を歪める。
「目障りね」
「フレイヤ様。いかが致しましょう?」
フレイヤと呼ばれた女神の背後にはひとりの大柄な猪人が待機している。
「今はまだ直接手を出さなくてもいいわ。
あの男の素性を調べてもらえるかしら?」
「かしこまりました」
「頼むわね、オッタル」
「御意」
オラリオ最強の冒険者、オッタルがフレイヤに跪いた。
*
「ここがギルドです」
ベルに案内されてエルディンが建物の中に入ると、
早朝というのに多くの職員が忙しそうに動いていた。
「何かあったんですかね?」
ベルが不思議そうに言う。
すると、1人の女性がベルに声をかけてきた。
「おはよう、ベル君。今日も早いわね」
セミロングの髪型に尖った耳、メガネの奥に翡翠色の目が見える綺麗な女性だった。所謂エルフと呼ばれる種族だろう。
「エイナさん、おはようございます。何かあったんですか?」
ベルが問いかけると、エイナと呼ばれた女性は困った顔で答えた。
「昨日の夜、ダンジョンの中層で奇妙な咆哮や、爆発音が何度も聞こえたって報告が入ってね。ベル君を襲ったミノタウロスの件も含めて調査する事になったから、みんな慌ただしくなってるのよ」
(心当たりしかないな)
その咆哮や爆発音について、エルディンには思い当たる節があった。
昨日の夜、そこそこ深いところまで潜り、シャウトや魔法の試し撃ちをしていたのだ。
「大変そうですね」
「ベル君もダンジョンに行くなら気をつけてね」
騒動の原因が目の前にいることも知らずに、ベルとエイナは会話をしている。
そこでエイナがやっとエルディンに気付いく。
「ところでベル君。こちらの方は?」
「あ、はい。昨日ヘスティアファミリアに加入した、エルディンさんです」
「初めまして。ヘスティアファミリアのエルディン・ホワイトメーンという。冒険者として登録しに来た」
エルディンが自己紹介をする。
エイナも続けて自己紹介する。
「初めまして。ベル君の担当をしています、エイナ・チュールです。
冒険者登録ですね? こちらへどうぞ」
エイナに案内されて個室に案内される。
エイナは一度部屋を出た後、書類とファイルの束を持って戻ってきた。
「まずはこちらの書類に記入をお願いします」
「ああ」
「ベル君は暇だろうからダンジョンについての資料を読んでて。
後で問題出すからちゃんと読んでてね」
そう言ってエイナはベルにファイルの束を渡す。
「ええ、そんなあ!?」
嫌そうに顔を歪めるベルを尻目に、エルディンは書類を書き始めた。
*
書類を一通り記入し、エイナに渡した。
エイナはそれを確認し始めたが、すぐにこちらを向く。
「あの。…レベルの項目に5って書いてあるのですが、間違ってないですか?」
(やはりそこに引っかかったか)
エルディンは堂々と答える。
「間違いではない。私は正真正銘レベル5だ」
「…ええええ!?」
エイナが声を上げる。
エルディンはいい加減この反応に慣れ始めた。
「先程の話では、昨日ヘスティアファミリアに加入したとの事でしたけど……」
「ああ、実は以前、別のところに所属していたのだが、そこからヘスティアファミリアに改宗したのだ」
「な、なるほど。それでもレベル5だなんて…」
「信じられないのなら、ステイタスを確認してもらっても構わないが?」
エイナはまだ腑に落ちなかったが、一応納得する。
「わ、わかりました。あなたを正式に冒険者として認めます。
ベル君と同じファミリアということですので、アドバイザーは私が務めさせていただきます」
エルディンには聞き慣れない単語だった。
「アドバイザーだと?」
「はい。ダンジョンの知識を教えたり、冒険のアドバイスをしたりするなど、冒険者をサポートしています。この後、お時間を頂けるのであれば、今から私がダンジョンについての基礎知識をお教えしますが…」
エイナが提案したところで、ベルがエルディンに耳打ちする。
「エイナさんの講義、とても厳しいんですよ。
覚えることも多いし、丸一日拘束されちゃいますよ」
と言ったところで机が軽く叩かれる。
「ベ〜ル〜君、聞こえてるからね?」
「ひい、ご、ごめんなさい!」
ベルが謝る。
早くダンジョンに行きたい気持ちもあるが、
ダンジョンについての知識を学ぶ事は重要だ。
ふと、エルディンはウィンターホールド大学での日々を思い出した。
(サボスがよく言っていたな)
「ベル。知識は、時には剣にも魔法にも勝る強力な武器だ。
敵を知り、事前に備えることで、生存率は何倍にも高くなる。
せっかくエイナが教えてくれるというのだ。断る理由はない」
エルディンがそういうと、ベルはばつの悪い顔をする。
一方で、エイナは感動してエルディンを見る。
「そうですよね! ホワイトメーン氏もそう思いますよね!
事前に知識を学ぶことはとても大事ですよね!
それなのに、最近はダンジョンについて勉強するのを
嫌う冒険者が増えてきて…」
「すまないが、愚痴はそれくらいにして講義を始めてくれないか?」
エルディンが遮ると、エイナははっとして謝った。
「す、すいませんつい。ではまずこちらの資料を読んでみてください。質問があれば気軽に聞いてくださいね。後で幾つか問題を出します」
「ああ。それと、私のことはエルディンで構わない」
「わかりました。エルディンさん、これからよろしくお願いしますね」
*
ベルとエルディンはダンジョンの三階層にいた。
あの後、エイナ講義を受けていたエルディンだが、分厚い資料をあっという間に読み終わり、エイナの出す問題も全問正解してしまった。
その後はお互いに火がついたのか、エイナは他の資料を渡しては問題を出し、エルディンもたまに質問をしながら問題に答え、ベルを置いてけぼりにして、講義は大いに盛り上がった。
ニ時間程でエイナから合格が出て講義は終了となり、いよいよダンジョンへ向かったのだ。
「エルディンさん、今日はどうしましょうか?」
「そうだな。…まずはベルの実力を確認したい。
得物はそのナイフか?」
「は、はい! そうです!」
実力を見ると言われて、ベルは緊張して答えた。
「では、お前が前衛だ。私が後ろから魔法で援護する」
「わかりました!」
(頑張らないと!)
ベルは心の中で自分を奮い立たせた。
少し通路を進み、曲がり角に差し掛かったところでエルディンが声をかける。
「ベル、止まれ。その角を曲がったところに一体モンスターがいる。
気づかれないように確認しろ」
「は、はい」
そっと顔を出すと、確かにコボルトが一体、こちらに背を向けて座っている。
(どうして、僕より後ろにいるのに気がついたんだろう?)
ベルはエルディンがコボルトに気がついたことを疑問に思う。
「どうだ?」
「コボルトが一体、背を向けて座ってます」
「そうか…ベル、気付かれないように一撃で仕留めろ」
(それって不意打ちって事だよね?)
「わ、わかりました。やってみます」
ベルは腰を低くして、可能な限り音を立てずに接近する。
距離が近くなるにつれて、コボルトの息遣いも大きくなる。
同時に自分の鼓動も大きくなる。
幸い、まだコボルトはベルに背を向けている。
ナイフの届く距離まで近づけた。
首に狙いを定め、ナイフを振り上げる。
「はああ!」
「グギァ!?」
狙い通り命中した。
ナイフを引き抜くとコボルトは血を噴き出しながら倒れ、灰となって消えた。
「良い一撃だ。だが、声を出すのは良くない。
最後まで相手に隙を見せるな。
それと、首を狙うのであれば真後ろではなく、首の真横か前を狙え。返り血を浴びずに済む」
エルディンがベルの一撃に改善点を指摘してくる。
「はい。…あの」
ベルは気になったことエルディンさんに訊く。
「どうした?」
「エルディンさんが不意打ちしろと言うなんて意外でした。
てっきり、堂々と正面から戦えって言うと思ってました。
なんというか、その…」
「英雄らしくない、か?」
エルディンさんがベルの言おうとしていた事を当てる。
ベルが恐る恐る頷く。
「いいか、ベル。理想を求めるのは結構だが、まずは確実に獲物を仕留める技術を極めろ。
不意打ちは息の根を止める確実な方法だ」
「確実な方法ですか?」
「そうだ。殺すのならば、一撃で仕留めろ」
(確実に仕留める技術か。モンスターを倒すことに精一杯で、考えたことも無かったな)
「お前は英雄に夢を見すぎている。
お前が思っている程、英雄になるということはいいことではない」
「それってどういう…?」
エルディンの言葉が気になり、ベルが質問しようとするが、
少し離れた地面と壁からコボルトが湧いてくる。
一、ニ、……十体のコボルトが現れた。
いくらなんでも数が多すぎる。
「え、エルディンさん。流石にこの数は…」
ベルは撤退の意思をエルディンに伝えようとしたが、
言い終わる前に、眩い閃光と雷鳴が轟いた。
一瞬視界が奪われ元に戻ると、コボルトの群れの半分が
黒焦げになっており、すぐに灰になって消えた。
コボルト達に動揺が広がる。
「ベル、次だ。あのコボルトの群れを一人で殲滅しろ」
「ええ!?」
いきなりハードルが上がる。半分になったとはいえ、まだ数は多い。
「一人で多くの敵を打ち倒すのは、英雄みたいでいいではないか。
これくらいできなければお前の憧れの人には到底追いつけないだろうな」
エルディンに言われ、ベルの頭の中にアイズの顔が思い浮かぶ。
「ベル…私を守って」
アイズさんが、僕に助けを求めてくる。
ナイフを握る手に力が入る。
「が、頑張ります!!!」
「その調子だ。大人数を相手にする時は、必ず全ての敵を視界に入れて、動きを把握しろ。無理な攻撃は控えて回避に徹し、確実に敵を倒せると思った時にだけ攻撃しろ」
「分かりました!」
エルディンからのアドバイスを受けてベルはコボルトの群れに突撃した。
親切者のグレロッドの話は完全にオリジナルです。
ドヴァキンの過去ついてはこれからも入れる予定です。
話を分けたほうがいいとの要望がありましたらコメントお願いします。
ドヴァキンの強さってダンまちの世界だと、どれくらいのLv.だと思いますか?(ドヴァキンは全スキルを習得済みとします。)
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Lv.8以上
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Lv.7
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Lv.6
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Lv.5
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Lv.4
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Lv.3
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Lv.2
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Lv.1