今回は最後におまけの話があります。
<回想>
夫が亡くなった後、グレロッドはすっかり変わってしまいました。
美しかった顔はやつれ、笑顔が消えました。
子供達には怒鳴り散らし、時には体罰を与えました。
特にエルディンには、他の子供以上に酷く当たり、激しく罵りました。
ついに耐えきれなくなったエルディンはある日の朝、忽然と姿を消してしまいました。
数年の時が流れ、グレロッドはすっかり老婆となっていました。
街の皆は、グレロッドが子供達への仕打ちを知ってまいましたが、"親切者"と皮肉を言うだけで、誰も助けようとはしませんでした。
ある日、グレロッドは夜中に目が覚めました。
そして、自分が寝ているベッドの横に、真っ黒なローブをきた男が立っていることに気がつきました。
(こんな真夜中にとんだ無礼者だ)
グレロッドはそう思い、文句を言おうとしましたが、声が出ず体も動かすことができません。
かろうじて口が動かせるだけでした。
「アベンタス・アレティノがよろしくと言っていた」
男が言いました。
グレロッドはこの男が自分を殺しにきたのだと察しました。
しかし、グレロッドに死の恐怖はありませんでした。
「…父上が待っているよ」
その言葉を聞いてグレロッドは驚きます。
月明かりが男の顔を照らしました。
その顔は間違いなく、成長した自分の息子の姿でした。
グレロッドは必死に手を伸ばそうとします。
口を開けて何かを伝えようとします。
「…え、る、で、ぃ、ん…ご、め、ん、な、さ、い」
口の形から読み取れる言葉は謝罪でした。
男はグレロッドの手を取り、言いました。
「あなたは私とって、本当の母親でした。いつかソブンガルデで会いましょう」
翌日、彼女が亡くなってるのが発見されました。
外傷はなく、病死と判断されました。
グレロッドの顔は穏やかで、まるで眠っているかのようでした。
*
<豊穣の女主人>
「あー! アイズが知らない男の人と喋ってるー!」
そんな声が店内に響いた。
声の主の方を向くと、露出の多いアマゾネスの少女がエルディンを指差していた。
「アイズ、どうしたの!? ナンパされたの!?」
「ティオナ、違う。この人は…」
アイズが否定しようとするがティオナは止まらない。
「君、すごい装備だね! 見ない顔だけど、どこのファミリア?」
「いきなり何だ?」
「ティオナ、だから…」
「ア、アイズさん、下がってください! ナンパなんて私が許しません!」
「レ、レフィーヤ。話を…」
レフィーヤと呼ばれた少女がアイズを庇う様にして立ち、エルディンを睨む。
「あ、私の名前はティオナ・ヒリュテ! よろしくね!」
「…ああ、よろしく。俺はエルディン・ホワイトメーンだ」
エルディンはティオナに握手を求められたので握り返す。
周囲ではロキファミリアのメンバーが興味深そうにエルディンを見ていた。
「ああ!? 誰だ、アイズにそんな舐めたことしやがる奴は!」
そんな怒鳴り声が聞こえた。
銀髪に耳の生えた狼人が近づいてきた。
「てめえ! アイズに何をしやがった!?」
そう言いながら机を叩く。
相当酔ってる様子で顔が赤く、酒の臭いをさせている。
「…別に何もしていない。少し話をしていただけだ」
エルディンが答える。
(こいつは【
エイナに教えてもらった情報から、エルディンは自分に絡んできた人物を割り当てる。
「…あん? てめえ、よく見たら、昨日ミノタウロスにやられて、死んだふりしていた野郎じゃねえか!」
ベートはエルディンのことを思い出し、嘲るように笑う。
(こいつがベルを侮辱したんだったな)
エルディンは先程アイズから聴いた話を思い返す。
「てめえみたいな雑魚がアイズに近づくんじゃねえ! 弱い者同士仲良くつるんでろよ!」
「ちょっと、ベート! やめなさい!」
ティオナによく似た顔のアマゾネスが止めに入るが、ベートは聞く耳を持たない。
(あまり目立ちたくなかったが仕方がない。このまま黙っていても埒があかない。
それに…)
「おい、なんか言ったらどうだ!?」
ベートがエルディンの肩を掴む。
(俺もあまり我慢できる方ではない)
「【
世界が止まった。
*
アイズには何が起こったのか分からなかった。
気付いた時には、椅子に座っていたエルディンがベートの後ろに周り、関節技を決めていた。
さらに右手に持っていたナイフを首元に当てている。
「がああ!」
ベート呻く。
振り解こうともがくが、なかなか抜け出せない。
「どうした、犬っころ?
お前の言う弱者に後ろを取られてるぞ?」
「て、てめえ。な、何しやがった?」
ベートが困惑してエルディンを睨む。
「答える義理は無いな。
…それよりもお前は私と私の仲間を侮辱した。
これ以上吠えるのであれば、このまま喉を切り裂くぞ?」
エルディンの言葉にアイズはゾッとする。
ハッタリではない。
この人は何の躊躇もなく実行する。
アイズがそう思うだけの殺気がエルディンから放たれていた。
「…すまない。うちの仲間を離してやってくれないか?」
エルディンに声がかけられる。
エルディンの後ろに金髪の小人が立っていた。
声こそ穏やかに抑えているが、剣呑な雰囲気が滲み出ている。
エルディンは少し間を置いて、ベートを解放した。
ベートがはすぐにエルディンに掴みかかろうとするが、ティオナとティオネに抑えられる。
「ベートが失礼をしたね。君達を侮辱したこと、ファミリアを代表して謝罪をさせてもらうよ」
小人がエルディンに謝罪する。
「お前は…【
エルディンが問いかける。
「ああ、そうだよ。
君の名前を教えてくれるかい?」
「エルディン・ホワイトメーンだ。
ヘスティア・ファミリアに所属している」
「よろしく、エルディン。
…さて、僕としてはあまり騒ぎにしたくないんだ。
この店はロキのお気に入りだし、迷惑を掛けたくない。
君も同じ意見だと思うけど、どうかな?」
フィンがエルディンに訊く。
「私も騒ぎを大きくするつもりはない。
だが、そこの犬っころがやる気なら容赦しない」
ベートはまだ突っかかろうともがいている。
「ベート、やめるんだ」
「ふざけんな! このまま大人しく引き下がれるか!」
「ちょっとベート、いい加減にしなさいよ!」
フィンとティオネが宥めようとする。
「おーい! 早く酒をくれ!」
そんな声が聞こえる。
「…ガレス。空気を読んでくれ」
フィンが呆れて言う。
ガレスが割って入ってくる。
「んー? なんじゃこの集まりは…おお、そこのお主! さては、なかなかにやり手じゃな? 儂と勝負せい!」
ガレスの言葉に皆驚く。
「お前は
…いいだろう。受けて立とう」
しばらく沈黙していたエルディンだったが、ニヤリと笑って応えた。
周囲は二人の空気感に固唾を飲んで見守った。
*
「…や、やるではないか。この儂とここまで互角に渡り合うとは」
ガレスがふらふらになりながら言う。
「こんなものか、【
もっと俺を楽しませろ!」
エルディンが挑発する。
二人の周囲にはベートを含め、何人かのロキファミリアのメンバーが倒れている。
「…止めなくていいのか?」
ハイエルフの女性がフィンに訊く。
「ああなったらガレスは止められないよ。
リヴェリア、君が止めてくれないかい?」
「私はごめんだな。
…しかし、ガレスとあそこまで対等に飲める者がいるとはな」
リヴェリアが呆れて言う。
そう、ガレスはエルディンの飲んでいた酒を見て、エルディンが酒好きであることを見抜き、飲み比べを申し込んだのである。
エルディンもガレスの突然の申し出にすっかり毒気を抜かれて、場を収める為に申し出を受けたのだった。
ちなみに、懲りずに突っかかろうとしたベートは、エルディンが隙を見て鎮静魔法を撃ったことで怒りを収め、そのまま寝てしまった。
「ヘスティアファミリアのエルディン…ね。
聞いたことあるかい?」
「いや、聞いたことがないな。
アイズは何か知っていたようだが…」
「リヴェリアも知らないか。
…ところで、ずっと黙ってるけど、どうかしたのかい?」
フィンは珍しく大人しい、自分の主神に訊く。
「あいつ、何者や。
気味の悪い奴やな…」
ロキがエルディンを睨んで言う。
「フィン、あいつどう思う?」
「エルディンのことかい?
…そうだね。少し気をつけた方がいいとは思うけど、親指は疼いてないね」
ロキの問いに、フィンが答える。
「お前の勘では、あいつは危なくないっちゅー訳か?
いきなり殺そうとするような奴やで?」
「先に手を出したのはベートだからね。
まあ、僕もベートがあんな簡単に
後ろを取られたのは驚いたけど」
(フィンは何も見てないんか?)
ロキははっきりと見た。
ほんの一瞬だけ、周りの動きが完全に止まって、自分とエルディンだけが動いていたのを。
(ドチビのところにいるって言っとったな。
今度探り入れとくか)
そう思いながら、グラスに入った酒を飲み干し、
もう一度だけエルディンを見る。
(ほんまに気味が悪いわ)
*
「すっかり遅くなってしまった」
夜も更けて、すっかり人通りも無くなった道をエルディンは歩いていた。
結局ガレスとの勝負はつかないまま店の閉店となり、まとめて追い出された。
代金はベートが迷惑をかけたお詫びとのことで、ロキファミリアで持ってくれた。
「あれがロキファミリアか…」
エルディンはオラリオで最強格のファミリアを目の当たりにして、嬉しく思っていた。
実際に手合わせをした訳では無いが、どの団員も相当な手練れであることが一目でわかる。
特に、団長のフィン・ディムナには、エルディンも気がつかない内に背後を取られていた。
そして、ファミリアの主神ロキ。
飲み比べをしている間も、エルディンは目の端に写るロキを観察していた。
ロキはエルディンが何者か、探っているようだった。
(やはりオラリオに来て、正解だったようだな)
そうして、ようやくホームに着いた。
二人とも寝ていると思い、静かに扉を開けようとすると、不意に扉が開けられ、ヘスティアが出てきた。
二人がぶつかる。
「いつつ…いったいなんだい…。
あ、エ、エルディン君!?」
「ただいまヘスティア。遅くなった。どうかしたか?」
「どうしたもこうしたも、二人が帰ってこないから、
心配してたんだよ!」
ヘスティアの言葉にエルディンは眉を顰める。
「ベルは帰っていないのか?」
「ベル君は一緒じゃないのかい?」
二人同時に問いかける。
しばし沈黙。
(まさか)
エルディンは嫌な予感がして、急いで外へ出ようとする。
「エルディン君! どうしたんだい!?
ベル君に何かあったのかい!?」
ヘスティアはエルディンの行動に不安を覚えて問いかける。
エルディンは少し間を置いて応えた。
「…おそらくだが、ベルは今ダンジョンにいる」
エルディンの言葉に、ヘスティアは頭が真っ白になった。
*
<おまけ 乙女達の密会>
ホワイトラン、風地区の一角、
ある家の寝室に1人の女性が寝ていた。
女性はそれなりに歳をとっているようだが、体は鍛え抜かれており、歴戦の戦士のようだった。
そんな女性が寝ているベッドの横に佇む人影があった。
人影は女性の首元に顔を近づけ、まさに血を吸わんと牙を剥く…。
「…曲者!」
女性が突然起き、正拳を繰り出す。
人影は拳が当たる一瞬早く顔を引き、攻撃を避けた。
「…いきなり何をするのですか?
危ないですわ。リディア」
「それはこっちの台詞ですよ、セラーナ!
何してるんですか!?」
セラーナの台詞に、リディアが文句を言う。
「いえ、寝ているリディアを見ていましたら
お腹が空いてしまいまして」
「…次やったら頭をかち割りますよ」
リディアが凄む。
「嫌ですわ、リディア。
ほんの冗談じゃありませんの」
「冗談で家に侵入しないでください」
リディアがため息をつく。
「思ったのですが、ホワイトランの指揮官でもあるあなたの家が、こんなにも無防備なのはいかがなものかと…」
「大丈夫です。大抵の輩なら私一人でなんとかなりますから。
…それで、何か用ですか?」
リディアは突然の訪問者に、目的を尋ねる。
「そうでしたわ。…少しお話に付き合ってくださいな」
…
もう何杯目かもわからない蜂蜜酒を飲みながら二人は愚痴を言う。
「全くいつもいつも、どうしてエルディン様はすぐにいなくなるのでしょう!?」
「わかります! 私が従者やってた時も、急に居なくなったと思ったら、変な服と杖持って現れて!
しかも、シェオゴラスがどうとか訳のわからないこと言って…」
「つい最近なんて、エンシェントドラゴンに一人で立ち向かって死にかけてるのですよ!
まったくどうして…」
夜も更けて、乙女達の密会は続く…。
セラーナ×老リディアとか誰得なんだ。
そして本編ではついにドヴァキンが時を止めだしました。
大丈夫かなぁ。
ドヴァキンが闇落ちした下りもいつか書けたらなと思ってます。
おまけについても、気が向いたら書きたいと思ってます。
補足1
グレロッドは勝手にノルドだと解釈しました。
また、グレロッドの旦那は同胞団にいましたが、
ウェアウルフにはなっていません。(拒否しました)
なので、ちゃんとソブンガルデにいます。
補足2
ドヴァキンはノルド&吸血鬼なのでめちゃくちゃ酒に強いです。
普通の酒であれば、まず潰れることはありません。
ここまでは書き溜めていた分だったので
ほぼ毎日更新していましたが、
ここからは更新が遅くなります。
気長にお待ちいただければと思います。
ドヴァキンの強さってダンまちの世界だと、どれくらいのLv.だと思いますか?(ドヴァキンは全スキルを習得済みとします。)
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Lv.8以上
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Lv.7
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Lv.6
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Lv.5
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Lv.4
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Lv.3
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Lv.2
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Lv.1