君がこっちに手を伸ばしたんだよ。 作:大日陰山
温泉旅行三日目。とはいえ、日付的には、なだけ。
深夜だ。まだ深夜1時。
湊元ちゃんと心さんはカラオケ疲れで奥の部屋で眠っていて、今起きているのは私とカリンと小雪さん、沙月さんとなる。
カリンが起きているのは意外だった──けど、よくよく考えたら昼間あんだけ寝ていたのだからそりゃ目も冴える。アホだと思う。素直に。
「モミジさんお酒、飲まないの?」
「この時間に飲んだら、明日の運転に響くのよ。私は少し、残りやすい方だから」
「へえ」
「あ、セチアちゃんは飲んじゃダメよ?」
「わかってるよ」
空は快晴──少しばかり山の方だから、星も綺麗に見える。月も綺麗に見える。冬空は空気が澄んでいて光の輝きも良い。なんだっけ、空気中の水分の反射がどうの。
窓際の机に椅子を並べて四人、おつまみなんかを食べながら、ゆっくりする。
ちなみにカリンと小雪さんは既にお風呂に入って来た。別々の時間に。ツマンネ。
「月が綺麗だねぇ」
「告白じゃん」
「お、若者でも知ってるのか」
「教科書で」
「……それはそれで傷付くが」
11月。この窓一枚を隔てた先は、とても冷たい空気が広がっているのだろうけど。
私達は浴衣や甚平で、なんならうちわをパタパタやりながら涼んでいる。暖房効きすぎ……なんだけど、寝ている二人が風邪ひくといけないからね。
「あのさ、カリン」
「ん。何」
「デビューした後、何するか、とか決めてる?」
「歌」
「あーね」
まぁ、そりゃそうだよなぁ。
あんだけ上手なんだもん。人を集めるには、注目されるには、余りに適している。
私は……どうしようかな。麻雀でもするかな。
多分私のチャームポイントは、このスレた感じになると思う。というかぶりっこぶりっこは無理。私の心が。
湊元ちゃんみたいなナチュラルポンコ……可愛い子ならまだしも、私にはもう無理ですたい。
だからなんかスレた感じで、「実は30超えてるだろ」とか言われながらの配信の方が気がキャメル。
「逆に聞くけど」
「ああ、私は麻雀でもしようかなって」
「ん、違う違う。初配信の話じゃなくて──聞きたいのは、最後の話」
「最後?」
なに、最後って。
スーパーキャメルキックの話?
「セチアちゃんが、VTuber辞める時の話」
「……え」
「ちょ、おいおいおいおい! 縁起でもない事言わないでくれよ。まだ始まってすらいないんだぞ?」
「貴女、飲み過ぎよ。それは……縁起とか色々な事を通り越して、失礼だわ」
「いずれ終わりは来るでしょ。まさかお婆ちゃんになってまでVやってるつもりでもあるまいし」
「……私はそうなりたいと思ってるんだがね」
「ああ、そうなんだ。それはごめん」
いずれ終わりは来る。
その最後に、何をしたいか。
そんなものを見据えてVTuberデビューする人がいるのか。
……でも確かに、たとえば"小説家"だとか"イラストレーター"だとか"作曲家"、"彫刻家"みたいな表現者、クリエイターに比べて……VTuberは永遠に続けられるものじゃない、と、そう……心のどこかでは、理解している。
今はまだ小学生の身なれど、これから中学に上がり、高校に上がり、大学へ行って、就職をするんだろう。
その時まで続けているんだろうか。こんな──遊び、みたいなこと。
「言っておくけれど」
凛とした声。怒気さえ孕んだ声。
「私はやめないわ。少なくとも私は目標地点を定めている。そしてそれは、私が一生をかけて取り組んでも成し得るかギリギリであると知っている。だから、私は多分一生やめない」
「へぇ、そりゃ凄い。志高いね、疲れそう」
「……私もね、カリン。この歳でVを始めるんだ。出来得ることなら、長く続けたいよ」
「スイレンさんには素直にごめんなさいって言う。わたしだって今すぐやめる、とか言いだすってわけじゃないからさ。勘違いさせた。そうじゃなくて……あー、じゃあさ」
ちょっぴりヒートアップしている沙月さんと小雪さんを前に、私の心は酷く平静で──冷たくなっていた。
終わり。終わり。終わりに何をするか。
そもそも私の終わりってなんだろう。今は持っていない"トクベツ"を手にした時、だろうか。
ううん、それを手に入れたら、そこでようやく晴れて私はトクベツ達の仲間入りが出来るんだ。そこからトクベツとして活動して……。
じゃあ、終わりは。
トクベツを失った時、なのかな。
「死ぬとき。自分の余命宣告がされて、どうしようもない、ってわかった時……最後の配信や動画は、何したい? ……あれこれも縁起でもない?」
「……そういうお前さんは、何がしたいんだ。決まってるのか?」
「歌だよ。だって私には歌しかないもん。だから、歌って、歌いながら死ぬんだ。別に配信じゃなくてもいいよ。皺くちゃのお婆ちゃんになっても歌い続けて、声が出せなくなっても歌って、そのまま死ぬんだ。それが理想形」
「……ダメだな。酒が入っているせいか、無駄に余計な事考えてしまう。すまん、私は先に寝る」
「それについては本当にごめんなさいでした。軽い気持ちだったんです……」
「ああいや、いいよ。お前さんに怒っているというよりは……弱い自分が嫌いなだけだから。ああ、また余計な事言ったな。それじゃ、おやすみ。私は一足先にあの可愛い可愛い二人組を抱きしめてくるよ」
「ここにも可愛い可愛い年少組がいますけど」
「なんだ、私に抱きしめられて眠りたいのかお前さん」
「遠慮しますけど」
言って。
沙月さんは襖を開けて、奥の部屋へ消えて行った。
残された三人。
「……いや、ちゃんとごめんって気持ちはある。折角の良い雰囲気の場を台無しにしちゃった。そんな暗い話だと思ってなくて……」
「ごめんなさい。私も少し強く言い過ぎたわ。死生観……というよりは、始まりがあれば終わりがある、なんて当然の話なのに。……ふぅ、貴女を相手にすると、普段より強く出てしまうみたい。本当にごめんなさい」
「よかろう」
「なんで偉そうなのよ貴女」
多分だけど、沙月さんや小雪さん、あとあっちで寝ている二人もだけど。
終わりたくない派、なのだろう。彼女らは。終わりが来て欲しくないというか、ずっと続けていたいというか。
でも、私は、どうだろうか。
「……そんなに暗くなる話題かな、って顔だね」
「ちょっと、貴女またそんなことを」
「え、あ、うん。よくわかったね」
「セチアさん……」
だって終わりは来るよ。
どんな漫画だって小説だって音楽だって、終わらないものはない。
創作は終わるんだよ。それくらい、知ってる。
だって。だって。だって。
「終わってようやく、完成するもんね?」
「サイコメトラーやめて」
言葉を取られたけど、そうだ。そうなのだ。
創作は、あらゆるものが、そうだ。
続く、ということは。
未完成、ということだ。
終わる、という事こそが。
完成。その創作の、終着点。
私は終わり得るんだろうか。
「あ、でもね。私は歌い続けるよ」
「言ってることが矛盾しているわ。いえ、矛盾と言うよりは、無理よ。死んだら歌う事は出来ない」
「地獄の窯の縁で。天国の泉の前で。ずーっと歌うつもり。カリンは……ううん、VTuber皆凪可憐は、死んだ時に、終わった時に完成するけれど、このわたしは来世でもその次でも異世界でも前世でさえも、歌い続けるよ。その時々の姿で、その時々のわたしで、また新しい作品を作って、終わって、作って、終わってを繰り返す」
「……ついてこないでくれるかしら」
「雪ちゃんもそのつもり、って?」
「貴女今、相当酔っていて、どうせ明日には覚えていないだろうから言うけれど」
「んにゃび」
「負けないから。私は、歌については自信があったのよ。でも……今日のでよーくわかった。負けないから。絶対に負けないから、貴女だけには」
「わぁお怖い。怖いよセチアちゃん、たすけち~」
なんかちょっと厨二臭い事言い始めたなぁ、とか思ってたら、お酒の匂いの凄いカリンに抱き着かれた。
ので顎をガンとやる。危険ですのでマネしないでください。
「いったぁ!?」
「カリンも、あとモミジさんも。勝ち負けとかの話じゃなくて──逃がさないから。私、Vやる以上は、ユニットでやる以上は、誰よりも凄いのにしたいし。カリンもモミジさんもズルイくらいの才能あるから、余すところなく使ってやる」
「わ、聞いた? わたし達利用されちゃうって~」
「望む所よ。勿論私達も、セチアさんを最大限に有効活用させてもらうわ」
「んじゃわたしも沢山酷使して使い捨てちゃる~」
「貴女今最低な事言った自覚ある?」
「わ~せかいがぐるぐるする~」
争いごとは同じレベルでしか起きないらしい。
なので、私は二人の上を行って、争ってる二人を使ってのし上がってやろう。もうわかった。歌の分野じゃ絶対勝てない。だから他のトコで勝って、私のコンテンツの一部にしてやるんだ。
「おはな」企画は──私が牛耳ってやる。
「期待してるよん」
「この女の事はあまり気に負わないように、ね?」
「仲良いね、二人」
無言の圧が来た。
ひぇ、怖い怖い。
ГГГ
嫉妬心。
ズルイ、と思う心。
それが私のトクベツだと聞いて──理解はした、けど、納得は出来ない。
もっと良いトクベツがいい。
Utubeを開いて、華々しい活躍をしている人達に、様々なトクベツがある。VTuber、Utuber問わず、なんなら芸能界に目を広げたって良い。その、どこに。
"嫉妬心が優れていること"で活躍している人がいるだろうか。
「ailaさんと!? えー、いいなぁ、私も会いたかった」
ユニットメンバーのお宅二泊三日生活が最後、
「おはな」企画に出会うまでは委員長だの生徒会長だの、まとめ役、みたいなことは何一つしてこなかったらしい彼女は、しかししっかりと私達を纏めている。
曰く、天職が見つかった、とか。まとめること。進行する事。引っ張る事。
やったことが無かったからやる気が起きなかっただけで、やってみたらピッタリだった──なんて。
それはやっぱり、紛う方なきトクベツなのだ。
普通は、誰だって。初めての事に対して、経験の浅い事に対して、「天職だ」なんて思えない。そしてそれはVTuberの世界だけでなく、あらゆる場面で通用するトクベツだろう。だからちゃんと、ズルイ。
ただし。
「ね、ななちゃん。お泊りは良いんだけど……ちょっとダンスの部分を見て欲しいな」
「それはいいけど、え、休みの日までダンス練してるの?」
「普段はしないよ? でもほら、もうすぐ
「ほへぇ。熱心だね心さん」
トクベツだけど、ちょっとだけ。
私寄りかな、なんてシツレイな印象を抱いている。
心さんもまた、トクベツに憧れる人だから。
彼女は特にトクベツなあの二人に近づくことが多かったから、もしかしたら私よりも強い嫉妬心を抱いているかもしれない。
……聞いてみるのは、アリかも。
「心さん」
「? なぁに」
「ちょっと暗めな質問していい?」
「え。な、なんだろう。ななちゃんの言う暗い質問……びくびく」
「心さんって、誰かに嫉妬とかするの?」
聞いた。ドストレートに。ドストエフスキーに。
聞くと、心さんは──きょとん、とした顔をした。して、首を傾げて。
「それが暗い質問、なの?」
「えだって嫉妬って暗い感情だし」
「……うーん、私はそうは思わないけどなぁ。質問の答えだけど、勿論するよ。ずるいなぁ、憧れるなぁ、いいなぁ、って。でもそれって凄い事だと思うんだよね」
「凄い?」
「そう。凄い。……あー、えーとね。これはある人からの受け売りなんだけど」
「うん」
心さんは少しだけ恥ずかしそうにしながら、というかもじもじしながら、口を開く。
この子可愛いんだよなぁ所作がいちいち。
「ほら、創作で"憧れは理解から最も遠い感情"っていうの、あるでしょ? 文言は違えど、色んな作品で言われてる奴」
「ああ。少年漫画とかありがちですね」
「でもね、それは違うんだ、って。その人は言ってたの。"憧れなければ理解しようとは思えないし、憧れ続ける事がそれに追いつくための最も効率的な近道だ"、って。それで、憧れ、っていうのは、嫉妬と同じなんだよ」
「……」
「私さ、何にもないの。ホントはこういう弱音、あんまり吐きたくないんだけど……。私、遥香さんみたいに頭良くないし、雪さんみたいになんでも出来るわけじゃないし、梨寿ちゃんみたいにお絵描きが出来るわけじゃないし、亜美ちゃんみたいに運動が出来るわけでもない。あの時遥香さんに"リーダーは心がやると良い"って言われなかったら、多分……私はもう、ここにはいなかったと思う。可憐が辞めた時に、一緒に辞めてたかも」
それは。
結構、意外だった。
だってVTuber観楢井千幸は、配信モンスターだ。毎日配信しているし、旅先だろうが病気になろうが配信しようとする……リーダーシップ以外にも、天性の配信者としてのトクベツも持ち合わせている、と。そう思っていた。
だから彼女の口から辞める、なんて言葉が出てくる事自体が驚きで。
「私がさ、毎日毎日配信するのって、怖いからなんだよね。私にはなんにもないから、一日でもやめたら忘れられちゃうんじゃないか、って。飽きられちゃうんじゃないか、って。怖くて」
「そんなことないとおもうけど……」
「勿論、ファンのみんなはそんな薄情じゃないってわかってる。わかってはいるんだけど、それでも怖いの。メンバーの皆はリーダーシップ、とかまとめる力が、とか言ってくれるけれど、でもそれって作品じゃない、っていうか……リスナーさん達に還元できる何か、ではないからさ。その目に見えないものが私の特技です、って言ったところで、並べられた五人の中から私を選んでくれる人は……いないと思ってる」
だから、いいなぁ、って。
……。それは、確かにそうなのかもしれない。
私達を名前と特徴を合わせたプロフィールとして横並びにした時、南雪なら歌、美成梨寿ならリアクションや絵、実灘遥香は……策謀?
それで、観楢井千幸がリーダシップで、水鳥亜美は……一応、運動神経、か。
そうやって並べてしまえば、確かに。
リーダーシップ目当てで個人配信を見に来る人はいない、かもしれない。
でもそれは。
「……欲張りだと思う?」
「思わない。だって私もそうだから。みんな運動神経がいい、って言ってくれるけど、結局学校じゃ一番にはなれなかったし。VTuberの中には、私より動ける人も結構いるし。私のこれは一番じゃない。だから、もっと……ちゃんとした特徴が欲しい」
「ななちゃんですらそうなら、私のこれは普通、だよね?」
「……普通」
やっぱり。
嫉妬心なんか、普通なんだ。
誰だって持ってる。あの時あの場にいた二人──世界規模の歌姫ailaと、彼女に対等で渡り合えると認められた小雪さんの価値観だったからこそ、嫉妬心がトクベツだった、というだけ。一般人の価値観からすれば、嫉妬なんて何の変哲もないことなんだ。
「だから、この気持ちは大事にしたいよね」
「大事には……したくないかな」
「え、どうして?」
「今すぐにでも、そういうちゃんとした特徴を手に入れられたら、そんな気持ち要らなくなるじゃん」
たとえば、今すぐにでも歌が上手くなったら。世界と対等に渡り合えるくらいの歌唱力を得て、どこぞの企業にでも見初められたら。
あるいは今すぐにでも頭が良くなって、何十手先を見据えられるような人になることができたら。
その時にはもう、嫉妬心なんて──。
「ホントに?」
「──」
止められた。
ギリギリで、何かがせき止められた。
東浜心は、割合普通寄りの人だ。
けど、やっぱり違う。
「私さ、ななちゃんのいいとこ知ってるよ。ななちゃんはね、頑張り屋さん。あと泣き虫。向上心が凄いし、ちょっとお口が悪いし、結構ツッコミ体質だし。それでね? VTuberである水鳥亜美ちゃんは、自身が思っている百倍くらいは──完璧主義者」
「ちょいちょ悪口混じってない?」
「全部褒め言葉だよ?」
色々引っかかるのはあったけど、特に最後の。
完璧主義者。
それは、言う相手が違うのでは。
「小雪さんのとは違うよ。小雪さんは現実主義って感じかな。私も詳しくはないから偉そうにはいえないけど……みんなが見てる、みんなに見られている水鳥亜美ちゃんである以上は、自分が完璧じゃないと嫌なんだよ」
その言葉は。
その言葉は。
その言葉は──刺さった。
心臓の奥の方に。肺とか内蔵とか骨とか、なんなら背中も通り越した──私の裏の裏の裏の裏の裏の、奥の奥底の、どこかに。
昨日言われた嫉妬心の話よりも、更に深くに。
自分が完璧じゃないと、嫌。
ああ。
ああ。
「……流石はリーダー。良く見てる」
「えへへ、そうかな」
完璧になんか成れないこと分かっているくせに、完璧じゃないと嫌。
自分の求める完璧が余りにも高い場所にあると分かっているくせに、低い所にいる自分が嫌。
小雪さんのソレは、手の届く場所にあるのだ。目に見えた場所を目指している。
私の場合は、どこにあるともしれない完璧を、むやみやたらに目指し続けている──暗中模索、って奴。
だから、こんなに不安なんだ。
だから、こんなに迷うんだ。
私のトクベツが嫉妬心だとして──昨日言われた、もう一つの事。
私はスタートラインにいる。スタートラインを目指してしまっている。いるにもかかわらず、いる場所を目指している。
違う。私が目指しているのは、完璧とかいうゴールなんだ。
目指すべき場所はそこなんだ。今自覚した。させられた。リーダー。導く人。ああ、凄い。やっぱりこの人は、天性の才能を持っている。
「……一つだけ、訂正させてほしい」
「なに?」
「泣き虫じゃない。少なくともリーダーの前じゃ、一回も泣いたことは無いはず」
「今も泣いてるくせに~」
ああ、だめだ。
もうわかった。昨日で思い知らされていた事ではあるけれど。
二年半も共に過ごした仲間に、仮面なんかで覆い隠せるものはないんだ、って。
わかっちゃった。
ГГГ
「こんばんわー! あ、後輩君たち。今日はなんと、突発ゲストが来てます!」
「そう、お察しの通り~~~、現在休暇中の水鳥亜美ちゃんだよー」
「見てる見てる。あと普段はスルーされてそうなセクハラコメントは私権限でバンバンBANしてくから。可憐より厳しいから」
「ちょ、ちょっと亜美ちゃん、いいよいいよ。みんな悪気があってやってるわけじゃないんだし……」
「悪気なぞあろうがなかろうがセクハラはセクハラ!」
「リスナー甘やかしすぎじゃない?」
「だって見に来てくれてるんだよ? ちょっとくらいはヤンチャしたって大丈夫だよ」
「あ、ヤンチャ扱いなんだ」
やっぱり、ここも私の配信と毛色が違う。
湊元ちゃんのとこもセクハラ多めのSMホラー配信……うっあたまがっ、だったけど、ここはここでリーダーがなんでも許すのをいいことに好き放題だ。
いや別に良いんだけどさ。
ちなみにカリンはセクハラコメントを基本的にシャットアウトしていて、カジュアルにBANしていたのを覚えている。カリンに直接リプライという形で反省文を送ると解除してもらえたりしなかったり。
あの子あんなでいてセクハラとかR18とかに疎いんだよね。
なお、小雪さんの所ではBANとか一切起きない。
「で、何も聞かされてないけど、マジで雑談でいいの?」
「勿論いいよー。あ、ゲームする? あんまり共通のゲームって思い浮かばないけど……」
「歌枠する?」
「え、珍しい。じゃあ歌おっか!」
「そんなに可憐が恋しいならアーカイブ見てきなよー。知ってんだぞ再生数の伸び減ってきてんの!」
「亜美ちゃんって割と細かいトコ見てるよね」
「リーダーの登録者の伸びが最近結構メキメキ来てるのも知ってるよ」
「おっしゃーなんかムカついてきたからこっから十時間歌ってやらぁ!」
「それは私が無理……明日部活あるんだよぅ」
「ぶ、部活……!? なんて懐かしい響きだ……」
「私は見逃さんぞ」
「あー! もう、ごめんね? 後で直しておくからね?」
「いや、リーダーは見なくていいのだ。流石に度が過ぎるセクハラだった」
「逆に気になるよう!」
「気になるな! 前だけを見ろ!!」
「すぱるただ……」
良かった、リスナーの大半はちゃんと常識人なんだね。
これで「やりすぎ」とか言われたらどうしようかと思ったZE。
「じゃあ、とりあえず二人の曲歌っとく?」
「……?」
「それじゃあ聞いてください──『リオン』」
あ、それね。
理解。
生き残りたい奴ね。
「後で『隔理世』も挑戦してみたい」
「う……私下でいい?」
「いやいや、声質的に私が下でしょ」
「上出ないよあれ~!」
『隔理世』。皆凪可憐と南雪の、最初のデュエット曲。
この動画だけ再生数が桁違いで、なんと2774万回再生とかいう雲の上の上を記録している。
「でもほら、これって……エモじゃん?」
「エモくても出ないものは出ないから、ちょっと下げて歌おうね」
「ちぇー」
いつか。
私も、歌じゃなくてもいいから、そういう四桁万、あるいは億を超える動画を出して見たいものだ。
今は。
今は──完璧じゃない。完璧に届く気はしていない。
だから、でも、ああ。
挑発されてしまったので。
もう少しだけ、暗中を模索してみようと思います。
現状を維持したままに――少しずつ、挑戦をして。