君がこっちに手を伸ばしたんだよ。 作:大日陰山
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
そんな……会話が……あった。
非常に疲れた。良い人だし凄い人だし、常識人だから話しやすいんだけど……ビジネスオタクなんだよね、あの人。なんというか、小雪さんと話が合う、って言えばわかるかな。
企画立案といえばしっかりした人に聞こう、なんて思った私が馬鹿だった。無理やて。ワテ中三やで。
……企画なぁ。
なーんであんなこと言っちゃったんだろ。面倒さが! マサルさん!
ГГГ
湊元ちゃんは、所謂可愛い子だ。
キャワイイ子とかぶりっこぶりっこじゃなくて、小動物的な可愛い子、である。
大きな眼鏡はその通り視力が悪いからで、方向音痴は直りそうにないし、運動音痴はそりゃもう酷い。今は卒業した可憐が彼女と双肩を並べていたのだけど、いなくなったということは浮き彫りになった、ということで。
たまにある運動系の企画では、そのあまりにもなあまりにもさに場が騒然となる事もしばしばある。
そんな湊元ちゃんと。
今日は公園デートに来ております。
「湊元ちゃんさ」
「はい?」
「私の第一印象ってどうだった?」
「え」
「正直にお願い。悪かったら悪かったって言ってほしい」
「……えと、悪かったって事は無いんですけど、ちょっと……一歩引いてるな、って思ってました。可憐も同じですけど」
「あー、まぁそれくらいなら」
「後、なんか……自分は違うけど、みたいな感じは、あった……カナ。今は全然なんだけど……」
「……」
「あ、あっ、ごめんなさい、そう……えと、言葉にはしづらくて」
「いやいや、全然いい。むしろ嬉しい。今そういう私の過去の印象を蒐集してる最中だから」
一歩引いてて、自分は違うケド、みたいにしている。
ううむ。
うわぁぁぁぁあああああぁぁぁぁあ!!! ってなりたくなる。転がりたくなる。
それ! まさに! 厨二病の奴じゃん!!
うわぁぁああぁぁああ!
「……今でもたまに、感じますよ。ななちゃんは……その、外で言うのはあれなんですけど、自分の事Vだって思ってないですよね」
「う」
「あ、あ、責めてるワケじゃなくて。ただ、私とかお姉ちゃんは、あんまりリアルに重きを置いていないというか。元々私はちっちゃい頃からイラスト描いてて、それをネットに上げたりしてて……まぁだからこんな運動できない子なんですけど、それはおいといて。お姉ちゃんも……その、あんまり語りたがりませんけど、ちょっと、前の前の会社でツライ事があったらしくて。それで……ネットの海に、VRの世界に身を寄せたがるようになってて」
そういうの、初めて聞くな、と思った。
そういえばこの二人、湊元ちゃんと沙月さんはあんまり過去を語りたがらない。今を大事にするからだと勝手に思っていたけれど、少々事情が違うらしい。
「だから、私達にとってVは……お金以外の意味でも、生命線なんです。自分を自分として成り立たせるための要素。手足みたいなもので、なんなら『おはな』企画が始まる前から、私達の中に実灘遥香と美成梨寿はいて」
「成程ね。だから早かったんだ、名前決めるの」
「はい。お姉ちゃんがツラクなってた時期から、私達はネットで活動して行こうとしていたので……違う名前を、持っていました」
結構、重い。結構、暗い。
湊元ちゃん自身はそうでもない……凄く悪い言い方をすれば、"巻き込まれた形"にはなるのだろうけれど、多分本当に仲の良い姉妹なんだろう。沙月さんがつらくなってたから、本気で一緒にいてあげようとして、今もずっと一緒に居るんだ。
……凄いな、それ。ずるいのもあるけど、純粋に凄い。なんか、私には出来ないと思う。誰かのために、誰かの援けとなるために、一心になる、っていうの。
「だから、その。あの時に募集をかけて、『おはな』企画が始動する前に、一回だけ面接みたいなのがあったと思うんです。文面の人とVCの人どっちもいたのでななちゃんがどちらなのかはわからないんですけど」
「VCだったよ。声で驚かれて、年齢でさらに驚かれた」
「お互い小学生でしたもんね」
「ね」
小学生がネットデビューというのは、これだけインターネットの盛んになった現代においても驚かれる。というか、それが普通でなかった時代の人達が大層驚く、というだけの話なのだけど。
「……それで、二人でちょっと話し合ったんです。面接が終わった後……明らかにVTuberを目指してきている、って人、一人しかいなかったから」
「心さん?」
「いいえ。カリンさんですよ」
「ええっ!?」
おっと、驚きすぎてちょっと大きな声が出てしまった。
え、カリンが? というか他二人は違ったんだ?
「カリンさんだけは、Vになりたいと。Vでやりたいことがある。VTuberになって、見たい景色があると、そうおっしゃっていました。他の……ななさんを含めた三人は、そうじゃなかった。自分で覚えていますか?」
「ああ、うん。私は、"普通の女の子で申し訳ないんだけど、こういうトクベツな事には興味があるし、やる気もあるから"って言ったはず」
「はい。そう聞いています。そして小雪さんは、"通したい声があります。伝えたい歌があります。私はVTuberという世界を通して、世界を変えて行きたい"と。心さんは"人を笑顔にする仕事をしてみたくて、でも私は普通で、何もできないので……せめて、お手伝いさせてください"と」
「ほへぇ」
確かにそう聞くと、カリンが一番マトモだ。
マトモにVTuberを目指してきている。
そいやなんだっけ、憧れたライブがあるとか、友達との出会いに感化されたとか言ってたような。
「なので……盛り上がる私達に対して、一歩引いている、というのは多分正しかったんです。けど、やっぱり寂しい部分もありました。私はただお姉ちゃんの夢についてきただけの普通の子。同年代だけどななちゃんは大人びているから、私とは違うトクベツだ、って。だから、私とは多分仲良くはなってくれないんだろうな、って。ずっと思ってました」
「……いや、そんなことは無いと思うけど」
「あ、あ、勿論今は仲良しだと思ってますよ。色々ありましたし。……それでもやっぱり、ななちゃんは凄いと思う。私のこの敬語癖が全然抜けないのは、ななちゃんを尊敬してるからです。運動が出来て、頭もよくて、大人達と対等に話せて、色々出来る。ずっと頑張り続けてて、ずっと出来る事増やしてて。機材への理解とか、配信ソフトへの理解とか、ゲームの上達速度とか……本当に、憧れます」
何かが割れた音がする。
そんなことは無いと思うけど、と。そう言ったのは、仲良くはなってくれないんだろうな、の件に対してではない。
私がトクベツだ、という事に対して、否定しようとして。
さらに上から、どれほど"そう"であるかを叩きつけられた。
運動は平均以上に出来るだけだ、イチバンにはなれない。という
お絵描きというトクベツはあれど、それ以外が及ばない。あるいはカリンと同じ、一つの芸だけを極めた子。ううん、カリンは性格というとびきりのトクベツがあるから、この子の目線から見たら、アレは自らと同格にはいないのだろう。
リアクションが良い、というのだって、湊元ちゃん本人からしたらわざとやってることじゃない。意識的なスキルか無意識的なスキルかは結構重要な境目だ。それは本人の満足感、達成感という点で、大きな差が出る。
湊元ちゃんの視点で言えば。
私を含め、プロジェクトの全員が、トクベツ……なのかもしれない。
「ななちゃん」
「え。あ、うん」
「私、可憐が辞める、って言った時に、思ったんです。こうやっていつかはみんな、バラバラになっていく。勿論連絡先だとかの繋がりは残るとしても、最後はみんな、散り散りになってしまうんだ、って。お姉ちゃんにこれを言ったら、"そんなことはない!"って怒りながら抱きしめられたけど……あれは多分、自分に言い聞かせている事だと思います」
湊元ちゃんだって、勉強が出来ないだけで頭は悪くない。
むしろ思慮深い子だ。凄く気を遣える子だ。
「でも、私は……ちゃんと思いました。いつかは、終わるんだ、って。それをイメージして、悲しくなりました。でも、でも……これ、今から言うの、凄く変な事なので、あんまり引かないでくれると嬉しいんですけど」
「内容による」
「で、ですよね。……えと。どうしてか……私は、お姉ちゃんを気遣って、先に出ていこうとするんです。先に辞めてしまえば、姉も決心つくだろう、みたいな心情で。でも、そんな私の腕を掴む人がいるんです。……それが、ななさんでした。私もお姉ちゃんもVの姿なのに、その時だけはななさんが、ななさんの姿のまま、私を引き留めるんです。……ヒきました?」
「結構」
「デ、デスヨネー」
ナニソレ。
ただのイメージ、にしては……具体的過ぎる。未来予知か何か?
サイコメトリーだけでも二人いるっていうのに、湊元ちゃんまでそんなの出来るの?
というか何故私だけVの姿じゃないのか。嫌だよ身バレとか。絶対燃えるじゃん。「ブッサwww」とか言われたくねー。
「でも、何が言いたいかは伝わったよー」
「そう、ですか? それならいいんですけど」
「先に辞めないで欲しいっていうのと──やっぱりこっちには来られない、ってことだよね?」
「へ? え、何の話です?」
「……ごめん、私も何の話かわかんない。最近あるんだよね、口が勝手に動くというか……疲れてるのか、思ってもない事をポロっと口に出すというか」
「それ病気じゃ……一週間といわず一ヶ月くらい休んだ方が良いですよ! どうせ夏休みなんですし!」
「うるへー、もう一週間休んでんのに再度一週間とかそれこそやべー病気疑われるだろがー!」
「リスナーさんの心境よりななさんの身体と心の方が大事です!」
うっ!
これは、キマシタワーの気配! 設立阻止! 設立阻止!
「ホント、大丈夫だよ。そういう引き際は心得てる。辛くなったら年長組に頼るし」
「……私にも、頼ってくださいね。頼れないかもですけど……」
「んーん。頼りにしてるよ」
「……はい!」
こうしてキマシタワーの設立は阻止された。
百合の花は咲くに至らず枯れ落ち、そろそろくそあちー公園に嫌気も差し。なんだって私達は炎天下の公園でデートをしているのか。それはそう、この公園が二人の家から丁度真ん中位にあるから、程度の理由。
あちーわー。achievement.
「事務所寄って、アイスもらってこっか」
「あるんですか?」
「某匿名骸骨仮面からの差し入れでね。"食べて無いから味わかんないけど美味しいらしいよ"だってさ」
「……あの人、ゲームだけじゃなくそういうのも送ってくるんですね」
「食べろよ、っていう」
そんな会話をしながら。
ГГГ
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|