君がこっちに手を伸ばしたんだよ。   作:大日陰山

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Raj

 水鳥(みなとり)亜美(あみ)

 それが私の、VTuberとしての名前である。

 水色の髪、第二次性徴を迎えた頃合いのボディ。身長は152cmと、中学生にしては、といった具合で、基本的には青系、白系の衣装を纏う。フリフリじゃなくスラっとした……名前の通り水鳥を思わせるようなデザインは流石の一言。

 運動能力が高く、モーションキャプチャースーツを着た状態でバク宙が出来たり、跳び箱を16段跳べたり。基本家から出る事の少ない他のVTuberに比べて格段に体力・持久力が共に在り、その運動能力も相俟ってそういった運動能力を競う大会等では負けなし。

 また、勉学にも優れるが、芸術的センスには少々欠ける。特に絵に関しては画伯と呼ばれる独特のセンスがあり、水鳥亜美自身も下手である事を認めている。

 

 ……なんて。

 

 自分のことを纏めてくれているサイトに書かれた文言を読んで、舌を出す。

 VTuber水鳥亜美はこんな感じの人間だ。私とは違って優秀有能、欠点はあっても可愛らしいダレカ。

 私とは、違う。

 

 VTuberには、色々な理念の人がいる。

 「別の自分になりたくて」、「普段は出せない自分を出したくて」、「自己表現をしたくて」、「ちやほやされたくて」、「顔を出したくなくて」、「憧れの人と繋がりたくて」、「認めてくれるから」、「見てくれるから」、「自分が嫌いだから」、「好きなイラストレーターがいるから」……まぁ、etc.

 

 たとえばVTuber南雪は「自己表現をしたくて」VTuberになった人だ。そのままの容姿でも人を集める事は出来ただろう。その声が、歌が、あるいは個人であっても多大なる人気を集めたかもしれない。だけど、南雪の欲しかったものは「人気」だとか「チヤホヤしてくれる人達」ではなく──「悪意ある人間達」。

 人を馬鹿にしたくて生きている人達。人の願いを踏みにじって笑っている人達。他人を貶す事でしか自らを満たせない……そういう人達。

 そういう人達に、「貴方達は間違っている」と直接つきつけたくて、そういう人達が集まりやすいVTuberを選んだ。

 あまりにも邪で、あまりにも外法。

 正義を謳うにしては逸れ過ぎた道を辿って、VTuber南雪はここにいる。

 

 たとえば、VTuber観楢井千幸は「普段は出せない自分を出したくて」VTuberになった人だ。

 リーダーシップ。あるいは募集に応じた時は、そんな思いは無かったのかもしれない。新しい事をしたいから、程度だったのかもしれない。けれど今は違う。普段──学校では出せない、誰かを導くという才覚。見初められ、見出され、芽生え育えた天性の才。

 VTuberグループのリーダーになる、という重荷を完全に御しきって見せた、自らの可能性を広げた代表例。理想の体現者。

 だから観楢井千幸は普通には戻らず、ずっと続ける気でいる。

 

 たとえば実灘遥香は「自分が嫌いだから」VTuberになった人だ。

 彼女には過去のトラウマがあった。一度社会で心が壊れてしまった。けれどそのストレスは社会や他社に向くことは無く、全てが自分に向いた。弱い自分。虚しい理想を持つ自分。容姿に優れているわけでも、何か特技があるわけでもない自分。

 ただ、彼女の実家は然程裕福ではなく、自分が働く必要があった。幸いその心が壊れる前までの貯蓄があったから、それでせめて何か新しい事を。何か事業を、何か──収益になる事を始めようとした。

 それがまず、初めのきっかけ。

 

 同時期、妹の美成梨寿がVTuberにハマっていた。美成梨寿は「憧れの人と繋がりたくて」VTuberになろうとした人なのだ。けれど小学生であった梨寿には成り方も、そもそもVTuberがどういう仕組みで動いているのかさえもわからなかった。

 それが次のきっかけ。

 遥香にとって梨寿は最愛の妹で、彼女の願いは叶えてあげたくて。自らの心の損壊具合など関係なしに、妹の為だけにその文化を調べ──それに、引き込まれた。

 人と人との繋がりに疲れた遥香は、しかし、人と人とが社会としてでなく個々として手を取り合う姿に憧れた。彼女が見たものは、本当は、企業のライバーグループだったけれど。

 自分もアレを作りたい、と思った。

 

 だから遥香は個人でソレの立ち上げを行う事にした。妹の願いも、自らの心癒も兼ねて、そして憧れを掴むための変化。それが実灘遥香と美成梨寿の始まり。

 

 そして、皆凪可憐は──「VTuberに憧れて」この業界を志した人。

 ただ純粋に、VTuberのライブを見て、自分もアレがしたい、と思った人。

 そしてそれを行って、勝手に、満足気に帰っていった人。去っていった人。

 

 

 じゃあ、私は。

 

「まぁねー。別の自分になりたくてVを始めたワケだけどさ。結局やってることは昔と同じ。ゲーム実況やってた頃と変わんないのです」

「え?」
「それ言っちゃうの?」

「前世のこと触れるんだ」
「前世のこと話す人初めて見た」
「MINA学に迷惑かかりそう」

「あーあ」
「終わったな」

「ちなみにいうとー、私の本当の名前は玉川なな。都内のとある中学校に通う受験生でー、あ、彼氏とかはいないから安心して」

「草」
「大暴露じゃん」

「自分から身バレwww」
「嘘吐け絶対中学生じゃないぞ」
「今自分の顔の写真撮ってあげてよww」

「あーあ」
「嘘乙」

「写真? いいよー。あ、なんなら脱いであげよっか。そういうの嬉しいんでしょ? ……んじゃ、スパチャいっぱいくれたら全身の上げちゃおっかな~」

「おおおおお!!」
「ババアの全裸に払う金は無い」
お願いします!!/_50000¥ _

「もうなりふり構わずじゃん」
「BANされる前にはやくみせて」
「通報します」

「拡散するわ」
「全部?」

「いいよー。だって私、トクベツになりたいし。誰もがやって無い事やりたいし、誰もが日和って手ぇ出せてない事して、誰よりも有名になりたいからさー。じゃんじゃん拡散して、どんどん私の名前を広めてくれると嬉しいな☆」

 

 トクベツ。トクベツ。トクベツ。トクベツ。

 普通が嫌だ。普通が嫌だ。普通が嫌だ。

 何か、自分には無い──自分だけのものが欲しい。そのためなら、そのためなら、そのためならなんだって──。

 

 

 

 ГГГ

 

 

 

「という夢を見ました」

 ──"やばすぎ"

 

 はい。

 夢オチです。夢オチなんてサイテー!!

 ……いや、起きた時は死ぬほど焦ったよね。すぐさま自分のアカウント確認したし、ネットでエゴサとか色々したし、みんなに何か言われてないかとかくまなくチェックしたし。

 まぁ、本当に全部夢だったんだけど。

 

 それで、まぁ本気でどっくんどっくんしてる心臓をなんとか抑えて、私はとある友人に通話をかけた。

 

 信原(しのはら)アイラ。

 MINA学園projectに一切関りの無い、というか多分私と繋がっている事を知っている人は限りなくゼロに近いある大企業の元VTuber。元というのは、もう辞めた、という事。

 昔昔のむかーしむかしの、彼女が一週間だけの実況者だった頃にコラボした事があって、そこから何故かずーっと繋がっている稀有なタイプの友人だ。そう、私の実況者時代を知っている相手でもある、っていう。

 ちなみに彼女がVになった理由は「ちやほやされたくて」。辞めた理由は「大学入って寮生活になっちゃうから」。

 

 ──"大炎上不可避"

「ほんそれ。危ない。マジでアブナイ」

 ──"え、やりかねないとか思ってたりする?"

「しねーわ。なんで私が本名晒して全裸晒して道化晒さにゃならんのだ」

 ──"だよね。……あー、けど、まぁVの職業病っていうか、私も見てたよ、Vだった頃。流石にそんなドギツいのじゃなかったけど、やらかして炎上する夢。なんか発表してない動画とか、企業案件の奴そのまま挙げちゃったりして流出させちゃったりしてやべーことになるの"

「うわ、それも怖い」

 

 割とよくあることなんだろうか。

 ……いや、しかしマジで怖かった。インターネッツが怖いって昔から知ってるからこそ、こういう"失敗事例"を死ぬほど知っているからこそ、終わったな、と思った。

 妙にリスナーの反応がリアルだったし、私も何故かノリノリだったし。

 心臓に悪いわぁ。

 

 ──"まだ中学生だから法的にアレだけど、18歳になったらソッチ路線も行ってみる?"

「行ってみるかバーカ」

 ──"だってトクベツじゃない? それ。いないよ中々。VTuberで、18歳成った途端F●2アダルトデビュー、みたいな人。あるいはAVデビュー?"

「そんなトクベツ願い下げじゃ」

 ──"あ、酷い。そういう事でお金稼いで、それに誇り持ってる人だっているのにさ"

「この会話はLGBTQ+αに配慮して行われています」

 ──"水商売とLGBTQ+α何にも関係ないと思うけど"

 

 小休止。

 メンバーとすら、あるいはカリンとすら、こんなに気安くは話せない。

 互いの色々な事情を知っていて、互いに色々バラしていて、表に出さない親友、というのは中々に心地良いものがある。相手が元Vなので信用も出来るというか。

 

 ──"別にエロ路線もいいと思うけどねー。ほれ、私の元箱の暴言天使とか、口悪すぎ&エロ過ぎでアカウントの収益永久停止になってるんだけど、グッズとかアダルト系サイトでの活動で普通に収益得てて、それちゃんと認可されてるんだよ。お偉いさんに。スゲクネ?"

「スゲい。スゲいけど、ウチは無理だって。企業じゃないし、清純派なのよこっちは」

 ──"清純派でトクベツって難しいよねー"

「……それはそう」

 

 たとえば、綺麗な顔して口が死ぬほど悪かったり。たとえば、ロリボイスで恐ろしい程エロ路線だったり。

 結局そう言うのばっかり人気が出るのだ。後は単純にゲームが超絶上手いとか、歌が超絶上手いとか。

 運動の出来るスレた三十六歳(噂)じゃ、トクベツの域に達するのは余りに難しい。

 

「……エロ路線か」

 ──"うわ、本気にしちゃった? ゴミンゴミン! やめときなって。流石に15歳じゃまだダメだよ。私が法令と条例にしばかれちゃう"

「そのためにそっちに走るのはアリ」

 ――"コイツ、殺す気か!?"

「冗談冗談。つか、やるにしても──」

 

 MINA学を抜けた後かな、なんて。

 言おうとして、既のことで踏みとどまった。

 

 そんなの、考えた事も無かったのに。

 

「──いややっぱやんねーわ」

 ──"そうしときー"

 

 多分それは、最悪手だ。

 その手を取ったが最後、私は……。

 

 ──"あ、そうだ。ね、HIBANaってアーティスト知ってる?"

「今全力で私の地雷踏み抜いたね。何?」

 ──"おう通話越しにわかる縄文怒気。ごめん、嫌いだった?"

「嫌いじゃないけど。つか知ってるでしょ、色々」

 ──"いやまぁ知ってるけど、一応の確認はね?"

 

 アイラの元居た箱。

 そこが今、カリンのいる箱だ。

 だから色々知ってるはずなのだ、コイツは。知ってて踏み抜いたのだと思われる。

 

 ──"いや、いやいや。そんな地雷だとは思ってなかったって言うか、仲良かった? って聞こうとしてたんだけど"

「……仲はまぁ、そこそこなんじゃない。今でもたまーに家行くし」

 ──"お! ナイスゥ! じゃさ、ちょっと伝言頼みたいワケよ"

「料金が発生します」

 ──"えぇーっ!? 金とんのかよーッ!!"

 

 正直、この話題転換は助かった。

 なんかヤバい事考えそうだったから。

 

 ……まだダメだ。

 

 ──"あー、まぁ二千円くらいなら払うからさ。HIBANaさんに、"先日はありがとうございました。生活今結構安定してきたんで、ちょっとお食事とか行きませんか?"って。"場所はあのカフェで"って"

「うわなにそれ自分わかってますよ感ウザ。え、つか何繋がり合ったのマジで」

 ──"ちょっとね。辞める前に、結構助けてもらって。多分あの人、わたしは何にもしてないよ、とか言うと思うんだけど、マジでこっちが勝手に助かったんで、勝手にご飯行きたくて"

「ああわかったわかった、熱意伝わったから。四千円ね?」

 ──"増えとる!?"

 

 コイツとの繋がりは長いけど、こんな奇特な……危篤なヤツだったとは。

 カリンに感謝する?

 ……やめときなって。ロクなことなんねーよ。

 

「で」

「モ」

「モ、とは」

「知らないよ。で、何」

「いやさぁ。大学って……おもろいな、って」

「なんかいい出会いでもあったの?」

「バリ頭いい奴に出会った」

「へえ」

 

 バリ頭いい奴ねぇ。

 私の周辺だと、やっぱ沙月さんかな。あの人バリ頭いいけどバリ生きるのバリ下手だからバリバリバリ。

 自分の腕がそんなにたくさんのものを抱えられないって知ってる癖に、目に見えるもの全部抱え込もうとするもんだから、まぁあーなるのだ。

 

「未来予知出来る系」

「やばじゃん。心読めたりする?」

「する」

「それバリ頭いいんじゃなくてバリ超能力者なだけだよ」

「バリ?」

「バリで」

 

 なんだよバリって。

 

「いやさ、一応これでも巨大箱のVやってたワケですよ。つってもまぁバーチャルクリエイト事業部じゃなかったから、正式にあの箱のVってわけじゃなくて、ストリーマー事業部なんだけど」

「バリ~」

「それがさ、こうしてなんだろ、野良に出てみれば? びっくりするほどいるわいるわの特殊能力持ち! 絵がバリクソ上手かったり、歌がバリクソ上手かったり、未来視出来たり心読めたり壁走れたり空も飛べるはずだったり!」

「ははあ、打ちのめされたワケだ」

「そ。亜美がよく言ってるトクベツって奴らにね。結構人気あったVなんだよ私。でも、やめて、パンピーに戻って、大学行ってハイこのザマ。その程度の狭い世界だったんだな、ってさ。HIBANaさんは私のトクベツを"キミ自身だ"って言ってくれたけど……"私自身"程度じゃ、社会じゃトクベツじゃないんだろうなぁ、って」

「その話を私に対してするの、相当酷な事してる自覚ある?」

「めっちゃある」

 

 今頭めっちゃクラってしたんですけど。

 Vの世界でトクベツになっても、社会じゃ普通? ナニソレ。

 じゃあ意味ないじゃん。

 

 ……ってなるじゃん、そんな話聞かされたら。私思春期の中学三年生だってホントにわかってる?

 

「……じゃ、私が伝言HIBANaに伝えて、会うよ、ってなって……対面したら、そういうの? "私はやっぱりトクベツじゃありませんでしたー"って」

「言わないよ。だって私、今トクベツだもん」

「はぁ?」

 

 少しだけ、フラッシュバックする。

 誰の顔だろう。

 カリン? MINA学のメンバー?

 ……見た事のない、けれど、とても身近な誰かの顔。

 

「価値観が変わった、っていうのかな。100%、違うんだよね。Vなる前の私と、Vやめた後の私。リスナーと出会った私。HIBANaさんに出会った私。亜美に出会う前と後でも違うよ」

「……"言葉じゃ人は変われない"、ってやつ?」

「そんな感じかなー。さっき言ったバリ頭いい奴もさ、なんかなりたいものがあるらしくて、そのために死ぬ気で勉強してんの。今も私の三百倍くらい頭いいんだけどさ、足りないんだって。精確にソレを掴むためには、なんでも出来ていた方が()()()()()()()、つってずーっと勉強してんの」

「勉強馬鹿じゃん。人生ツマンナそう」

「それがさ、ちゃんとオタ活もしてんのけ。いつ寝てるかわかんないレベル。オタトークもめっちゃ造詣深い。その上でクソ頭いい。で、そんな子と出会った私ちゃんは、何が変わったのでしょーか」

「わかるワケ。……勉強するようになった、とか?」

「"目標"を持つようになった」

 

 まただ。

 何かが思い起こされる。何かが想起される。

 何か大切なものが聞こえる。何か大切な話があったはずだ。

 

「正直さ、あの大学行ったのって第二志望だったわけよ。目標なんかなかった。惰性で入って、寮制でVやめざるを得なくて、つまり流されてったのよ。ずーっとね。でも……ソイツと出会って、別に大して仲良くなったとかじゃないんだけどさ。変わった。憧れた、って言った方が正しいかな」

 

 目標を持つ。

 やりたい事を決める。

 前を見る。

 

「今自分に出来る事で、やりたい事を決める。今自分に出来ない事で、やりたい事を決める。それに近づくための努力をする。ただまー、この努力ってのがクセモノでさ。努力は才能がないと出来ないのよ。少なくとも私は、そのバリ勉マンに出会うまで出来なかった。ホントなら、V続けたいって強い意思があれば、もっともっと勉強して第一志望に行けたはずなんよ。ホントなら、もっともっと調べて第二志望も寮じゃないとこに出来たはずなんよ。もっともっとやれることがあったはずなのに、私は流されるばかりでやんなかった。馬鹿だよね。首を絞めたのは自分だった。それでいて、いざ大学行ってみたらマジモンにぶつかって、マジで私って馬鹿なだけな奴だったんだな、って。思い知らされて」

 

 でも、だから。

 だから、と。強く、アイラは。

 

「とりあえずやりたい事を決めたよ。聞きたい?」

「いや特には」

「聞けよ。あんね、私通訳目指す事にしたんだわ」

「通訳ゥ? ……英語出来たっけ?」

「名前で判れよ。割合ちゃんとハーフだよ私」

「え、それ本名だったん?」

「はぁ~~~!? アンタに会った実況者時代から名乗ってたんだからこれがV名なワケないじゃん!」

「たしかし」

 

 へぇ。

 知らんかった。でもハーフだからって英語出来るとは限らんくない。

 

「いやまぁハーフだからって英語出来るってワケじゃないけど、まぁ私は出来るのサ。なんなら韓国語とタイ語もイケる」

「優秀じゃん」

「せやで服部」

「じゃあお前は誰なんだよ」

 

 知らなかった。

 新事実である。

 

「ってまぁ、韓国語とタイ語は大学入ってからパーペキになったんだけどね。入る前は趣味で齧ってただけだし」

「入ってから、って……まだ半年じゃん」

「半年も、だけど? 言ったっしょ。私変わったのよ。出会いを経て、目標を以て、努力が出来るようになった。そうしたらこんなにも早く言語を覚えられた」

「……違うでしょ、それ。それは……アイラが、元々トクベツな才能があった、ってだけで」

 

 そうだ。そのはずだ。

 他言語をたった半年で二つも習得する、なんて。

 絶対無理だ。絶対絶対無理だ。どんなに頭が良くたって無理だ。

 

「チッチッチ、違うよ、亜美クン」

「ホントに誰だよ」

「シャーロックホームズ」

「良いから、早く話して」

「私にトクベツな才能があった、ってワケじゃない。いや、あったのかもしれないけど、それは絶対に花開かないものだった。だってやる気とかなかったし。ちやほやされたらそれでよかったし。けど、あの人にあって自分自身を見せつけられて、バリ勉マンに出会って目標を持たされて、私は変わった。トクベツな才能を見つけることが出来た。トクベツになったんだよ、私は」

「……じゃあ、やっぱりそれは、才能で」

「亜美、アンタさ。自分自身と向き合えてる? 自分が何が得意なのか、わかってる? イチバンになれない、ニバンにもサンバンにもなれないもの、は……得意なもの、じゃないよ。勿論ヨンバンにもなれないものも得意なものじゃない」

「……水鳥亜美、全否定」

「だからー、全否定じゃないんだって。ねぇ、この世の物事全部見た? 全部試した? やってないこと何にもない? そこまでやったら、行動力って才能があったって言えるよ。"微妙に出来ること"を得意な事だと思い込むのはそろそろやめなよ。"誰かに褒められた事"を自分にある唯一だって考えるのやめなよ。ちょっとくらい、周りを見なよ、亜美」

 

 運動。イチバンにはなれなかった。ニバンにもサンバンにも。けれど普通の人達よりは出来たから、これを得意な事だと思った。得意なことに()()

 勉強。イチバンは取れないけど、理解は出来た。先の勉強も出来ちゃって調子に乗った。これも得意な事だと思って、得意なことに()()

 ダンス。上二つが出来るから、習熟速度も速くて、MINA学ではトップに踊り立てた。だからこれも、特異なことにした。

 

 私って、それだけなのだろうか。

 

「……得意なこと以外は、怖いよ」

「でしょうねぇ。だって亜美はずーっとHIBANaさんの近くにいたんだもん。一番見習ってきた人でしょ? そりゃそーなる」

「え、HIBANaの性格知ってるの? それでよく尊敬とか出来るね」

「アーカイブ見た」

「あぁ……」

 

 まぁ、皆凪可憐のアーカイブは全部残ってるからね。

 でも、それで、なんだって。

 私が一番見習ってきた人?

 

「そうでしょ? あんなトクベツな人、そうそういないじゃん。価値観も世界観もトクベツだし、言葉繰りもトクベツ。だから、しょうがくしぇーだったアンタには刺激が強すぎて──ああなればトクベツになれると錯覚した」

「世界で一番、ああはなりたくない、って思ってたんだけど」

「世界で一番意識してたって事でしょ?」

 

 ……ああ、ならば。

 もしかしたら、小雪さんからの影響もあるのかもしれない。

 "ああなればトクベツになれる"。"憧れは嫉妬"。"アナタのトクベツは、嫉妬心"。

 最近言われた言葉がどんどんフラッシュバックして、脳の奥の奥に流れて行く。

 

 嫉妬する事で、私は憧れたんだ。

 周りのトクベツに。

 そうして──それになろうとした。

 

「"得意な事以外は苦手"。"理想は高く持つ"、"素のままの自分で人気を出す"、"笑顔にしたいと思う"、"心配をし、杞憂をし、守る"。亜美にとってのトクベツは、亜美にとっての憧れは、全部が全部ここから出来てる。あの五人から得たトクベツを憧れにすり替えて、あの五人から得た嫉妬をトクベツと取り違えて、それがない自分は普通だと蓋を閉めて」

「……ああ」

「何か目新しいものを、と目指していたはずなのに、彼女らより凄いものを、になっていた。自らを普通だと封じ込める事で、トクベツ達を羨み続けることが出来ていた。だって、だって、だって。そうすれば──亜美は、ずっと」

 

 その先の言葉は聞こえなかった。

 通話を切ったから、じゃない。

 

 

 目を覚ましたからだ。

 

 

 何度も言う。何度も言われよう。

 

 

 

 

 サイテー!!

 夢オチなんて、サイテー!!

 

「でも、いい夢でした」

 ──"何言ってんだオメー、いきなり寝落ちしやがってこっちがどんだけ心配したと思ってやがる"

「ゴミンゴミン」

 ──"……つか、真面目な話、そんな疲れてんなら休みなよ?"

「だいじぶだいじぶ」

 ──"配信中にぶっ倒れたりしたら洒落になんないからね"

「はーい」

 

 

 ГГГ

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