君がこっちに手を伸ばしたんだよ。   作:大日陰山

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Romantic

 私のトクベツは嫉妬心。周囲に憧れて、誰かに憧れ、自分には無いものを欲しがって。

 けれどそれは、やっぱりそれは、普通なのです。

 トクベツに憧れる、という事は──現時点で普通である事を認めていることに他ならない。トクベツなまでに嫉妬心を持っていて、ズルイと思っていて、欲しいと思っていて。

 

 だから私は、普通で──()()()()()()()()()()

 

 玉川なながトクベツになるには、VTuber水鳥亜美であり続けるしかない。

 玉川ななが本当にトクベツになってしまったら、VTuber水鳥亜美は消えるのだろう。

 そして。

 

 VTuber水鳥亜美がトクベツになってしまったら──玉川ななは、要らなくなってしまうのだろう。

 私はトクベツに執着しているから。あまりにも強く、あまりにも求めすぎているから。トクベツになったら、更なるトクベツは求めよう。次なるトクベツは欲そう。けれど、普通はお払い箱だ。

 だから私はトクベツを探さないでいた。

 運動が出来るることを、勉強が出来ることを、自らの得意として、それ以上の捜索を止めていた。

 

 玉川ななは、結局。

 普通な自分が可愛くて仕方なかったらしい。

 友達がいて、運動が出来て、インターネットが使えて、勉強が出来て。

 

 そんな普通が、たまらなく愛おしかったらしい。

 

 小雪さんに病院へ行け、と言われて。

 行く気にならなかったのはまぁ、そういうこと。

 

 だってだって、これを消してしまったら。

 私は"トクベツに憧れる普通の女の子"ではなくなってしまう。

 私は"普通じゃないトクベツな女の子"になってしまう。

 私は"VTuberとしてだけトクベツな子"に変わってしまう。

 

 私は、私は、私は。

 それじゃあ、ダメなんだ。

 

 私も、じゃないと。

 

 

 

 ГГГ

 

 

 

「唐突なんだけどさぁ、みんな、占いって信じる派?」

 

 それはいつかの会話。

 正確な日付など覚えていない、ただみんなが事務所にいた時の会話。

 

「俺は信じねえ」

「私も、占いよりは目に見えたものを信じますね」

「占いは信じます! 朝の占いランキングとかめちゃくちゃ気になります」

「手相占いでアルバイトしてたことあるけどあんなん適当だぞ」

 

 クリエイター陣は三者三様。

 取り付く島もない人、めっちゃ信じてんだろうな、って人、やべーこと言ってる人。

 

「私か? まぁ、気にはするかもしれん。なんというか、ああいうのは心の持ちよう……信じようが信じまいが、"今日貴女は最下位でした"なんて朝っぱらに言われたら気分が悪くなるだろ? 結果的に些細な事でイラっとしたりして、まるで当たったように感じるんだ」

「理屈馬鹿」

「私は……そうね。データに基づく予測、という意味での占いなら信じるわ。その人がこれまでどういう事をしてきたのか、これまでどのように振舞ってきたのかを鑑みた結果の、占い結果。身辺調査込み、ということよ」

「それは占いじゃない」

「占いはめっちゃ信じます! 八尋さんのいう様に、朝の占いランキングもちゃんと見るし、ケータイの占いアプリとかも当たると思ってますから」

「壺とか買わされそう」

「私は……あんまりかな。神社とかお寺には行くけど、民間の占いは……ううん、よくわからないかな、ごめんね」

「なるほど質の問題」

 

 メンバーも三者三様。

 そうして当然のように私達二人に向く視線。

 

「亜美は?」

「信じない。信じる奴は馬鹿だと思ってる」

「ヒドイ」

「だってそんなので運勢変えられたら堪ったもんじゃないじゃん。そんなので、私を変えないでよね、って」

 

 酷いじゃないか。

 そんな定められたもので私が変わる、なんて。

 それじゃ、もし。

 最初から──「アナタはトクベツにはなれない星の下に生まれてきましたよ」なんて言われたら。

 それが変えられないのなら。

 そんな、そんな。そんな。

 

「わたしは信じてるよ」

「え、意外。カリンってそういうオカルトな事嫌いだと思ってた」

「全然。だって浪漫じゃん。星の位置が、血の巡りが、地球の位置が、人体の構造が。本来は繋がるはずのない相関が、わたしの運命を左右する、なんて。──ロマンだよ、すっごく」

「……カリンってさ、なんかエモい言い方ばっかするよね」

 

 運命。ロマン。

 でも、そんな言葉を聞かされても、やっぱり信じられない。というか許せない。

 それはトクベツ側の意見だから。

 私は結局、トクベツじゃないから。

 

「だから、そういう意味で。わたし達は同じ星の下に生まれてきたんだろうね」

「一緒にしないでくれるかしら」

「えー。折角集った仲間じゃーん」

「仲間とかやめて、ビジネスライクにいきましょう、みたいな雰囲気出してたのはそっちでしょう?」

「それはそう」

 

 同じ星の下、だと。

 そう言うのか。

 私なんかと。このトクベツ達と。

 

「トクベツだよ。わたしに出会えた時点で、トクベツ」

「自意識過剰だなぁ、お前さん」

「でも確かに、普通に過ごしてたら雪さんや可憐さんに会う事は無かったかも……」

 

 それは確かにそうだ。

 私が玉川ななのままだったら。

 私があの時、サボテンさんの手を取らなかったら。

 今の私は無かった。VTuber水鳥亜美も生まれていなかった。

 

 カリンに出会えた時点で、トクベツ。

 ……それは、そう、なのかもしれない。

 

「人間、言葉じゃ変われないよ。言葉程度じゃ変わらない。そんな弱い信念で生きてる人はいない。だけどね」

 

 カリンは。

 言葉を切って、ウィンクをして──私を見る。

 なにそれウザ。

 

「人間は出会いによって変わる。出会い──人と人との出会い。関係値の増加。それによって自己の内側に"気付き"や"切っ掛け"が生じて、変わる。わたしと出会ったことで、アミちゃんの中に何が生じた? それともまだ自覚していない? わたしだけじゃなく、雪ちゃんや遥香さん、梨寿ちゃん、リーダーにクリエイターさん達。みーんな色んな才能をもったトクベツだけど、それらと出会って──自分が普通だと思ってたアミちゃんは、どう変わった?」

「……私は」

 

 それがいつの会話だったのか。

 その時私が、なんと答えたのか。

 

「雪ちゃんは、何か変わった?」

「……私は、対抗心、かしらね。世の中に抱くことはあっても決して個人に向かなかったソレが、貴女に出会って芽生えてしまった」

 

 出会って、何かが変わる。

 人に出会う。誰かに出会う。

 私は。

 

「人っていうのはさ、価値観の塊なんだよ。世界観の塊。それら同士がぶつかり合うと、どっちかが削れてどっちかが罅入って、どっちかがへこんでどっちかが変質して。だから出会いで人は変わるんだ」

「……なんか、宗教勧誘受けてるみたいです」

「それはわたしの悪い癖だね。言葉繰りが仰々しすぎて胡散臭く聞こえるらしい」

「ご利益の無さそうな宗教だねぇ」

 

 私の価値観。

 私にとって、トクベツとは──私ではない、ダレカのこと。

 

「前の自分はどうだった? VTuberになる前は、何だった? 羨んでいたの? それとも嫌っていたの? 普通が嫌いだったの? それとも、みんなと同じことが嫌いだったの? ううん、みんなと違う事をしたかったの? 悪意に疲れた? 癒しを求めた? 出会いを求めて、何かに縋った?」

「可憐さん、それくらいで……」

「ねぇ、アミちゃん。あの時君が、セチアと名乗ったのは──何故?」

 

 それは綺麗な名前だったからだ。

 ポインセチアのセチア。 

 祝福の花。希望の花。

 多くの花が、その花言葉に両極端な……プラスの意味とマイナスの意味を持つのに対し、ポインセチアは「希望」や「祝福」、「祈り」「思いやり」──「私の心は燃えている」など。ほとんどプラスの意味で、しかも可愛らしくてカッコよくて。

 

 花言葉なんて誰が決めたものかはわからないけれど。

 でも、自分の名前にする、ってなった時に、それくらいは調べて、それにした。

 ……占いなんて信じないとか言ってた癖にね。

 

「貴女が水鳥亜美と、自らの名を定めたのは何故?」

 

 MINA、という文字を頭につけて、後は好きに名前を決めて欲しい、という話だった。

 実灘。美成。南。皆凪。

 私は、水鳥。

 ……それは多分、みにくいアヒルの子が理由だ。

 

 私は劣っているから普通だから──成長したら、実はアヒル(普通)じゃない、白鳥(トクベツ)になれるんじゃないか、って。人と()って、美しいもの。

 水鳥亜美。この名前には、そういう意味が込められている。

 

「成長したかったんだ? 自分にはナニカがあると思っていたから──自分のまま、偽ることなく、何者かになれたら。自分は、周りとは違うんだ、って。そうやって証明できると思った」

「……思春期、だよね。だから私は、もうそういうのからは……脱却しないと」

「大人になりたいの?」

 

 大人には、なりたくない。

 こういう大人にはなりたくない。ああいう大人にはなりたくない。

 カリンや小雪さんだけじゃない──幼い頃に目の当たりにした、悪意悪意悪意悪意悪意。

 

 大人になる事は悲しい事なのだと、知った。

 

「思春期はしがみついてでも逃しちゃダメだよ。わたし達クリエイターは、わたし達表現者は、ずっとずっと思春期でいなきゃ。そうであることを諦めて、そうでないことを恥じて、開き直って誇ったヤツを大人っていうのさ。クリエイターさん達を見てみなよ。大人、いる?」

「……砂川さんとか」

「おや? 私は子供ですよ。ビジネスは面白いですけど、童心を忘れたつもりはありません。"良い大人なんですから"とか、"大人になれ"とか……そういう都合の良い言い訳を私は使いたくありませんし。私は子供なので、我を通します。そうしていたらいつの間にか技術者なんてものになってました。ふふ、貴女方が私に命令した事がありますか? クリエイター陣に上下関係があるように見えますか? 亜美さん。私達はみーんな子供で、大人のいう事なんか聞かないで、自由にやってるんです。だって子供の内は、皆が」

「トクベツだからな。子供ってのはそれだけで特別なんだよ、亜美」

「ちょっとオリベー、今砂川さんがカッコつけてたところなのに」

「オイ年上には敬意をもて敬意を」

 

 思春期で、良い。

 厨二病は脱却しなくていい。

 私はずっと子供のままでいい。

 

「じゃあ問題。VTuber水鳥亜美は──大人でしょうか、子供でしょうか」

「ガワの年齢は15歳ですね! 歳を取るVTuberなので」

「八尋さんそーゆーことじゃない」

「んじゃ子供で。18まではガキだろ」

「参賀さんいきなり喋ったと思ったら口悪いねぇ」

 

 VTuber水鳥亜美は。

 大人か、子供か。

 

 子供はみんなトクベツだと織部さんは言った。

 じゃあ子供か。

 でも私が水鳥亜美を形作ったのは──玉川なな(アヒルの子)トクベツになって(白鳥になって)、羽ばたいた姿が見たかったからだ。VTuberとして──ちやほやされたかったからだ。愛されたかったからだ。認めてもらいたかったからだ。

 じゃあ、大人か。打算的に愛を集めるのは大人か。

 

「最後に聞くけど──アミちゃんはさ、VTuber水鳥亜美のこと、嫌い? 大事に思ってる? 大切にしてる?」

「私は好きよ、南雪のこと」

「雪ちゃんには聞いてないんだよなぁ」

「自分たちの作ったモデルが嫌いだと言われてしまうと泣けるのですが」

「それはアキラメロン」

 

 私は、玉川ななは、VTuber水鳥亜美のことをどう思っているのか。

 スレてて、言動がオバサンで、知識があって──未だにトクベツを欲す、既にスタートラインに立っているダレカを。

 

 好きか、嫌いか。

 

「……羨ましい、って。思ってる」

「自分に嫉妬してるワケだ」

 

 ──あぁ。

 

 私が、玉川ななが、ずっとずっと羨ましいと、ずっとずっと妬ましいと思っていた対象は。

 私、水鳥亜美だったんだ。

 

 そんなの、とっくのとうに気付いていた。

 とっくのとうに知っていた。

 だって私は、自分の嫉妬を掻き集めて──VTuber水鳥亜美を演じているのだから。リスナーに見せる姿は、いつだって。

 私自身なんかじゃなくて、私の、なりたい姿。

 

 芸術のトクベツは、無理だった。演じた所でスキルが身についているわけじゃない。歌も絵も、水鳥亜美には出来なかった。

 他、特異なスキルの数々も、結局出来はしないのだ。玉川ななに出来ない事は、水鳥亜美にも出来ない。

 だけど、玉川ななが表現できないことは、玉川なながやればできる事は、水鳥亜美が当たり前の様にやってくれる。

 自分の嫉妬で集めた才能。知識。技術。それらは本来玉川ななの下で管理されるはずだったのに、玉川なな自身が水鳥亜美に預けてしまった。

 どうか使って、と。

 どうかもっとトクベツになって、と。

 

 にもかかわらず──私は。

 トクベツになって、さらにトクベツを求める水鳥亜美(トクベツ)を、恨めしく羨ましがっているのだ。

 

「アミちゃんさ。わたしの事、トクベツだと思う?」

「それは、勿論」

「じゃあ問題です。わたしは、皆凪可憐は、どういう人生を送ってきたでしょーか。どれほどに波瀾万丈な人生を送れば、こうなれると思う?」

 

 出会いで変わるのだと言った。人と人との出会いだけが、人を変えるのだと。

 なればカリンは、それはもう恐ろしい程の荒波の最中で生きてきたのだろう。これだけの変人が、これだけ特異な、理解の出来ない、感情移入の欠片も出来ない人間が生まれるには、大きな大きな事件が必要だ。

 

「正解はね、特に何にもなかった、だよ」

「……それは、嘘」

「嘘じゃないんだなぁコレが。いやさ、みんなもわかってると思うけど、わたし何にもできないじゃん。歌以外下手じゃん? 大学生だけどオツムもいいとは言えないし、運動も出来ないし、デザインセンスもないし、人付き合いも下手だし。それってさ、ちっちゃい頃から色々習い事させられて、結局なーんも出来なかったから、今でもそう、ってだけなんだよね。歌以外で私にはなーんにもなかった」

「……私と真逆ね」

「うっせー!」

 

 それは──私とも、真逆かもしれない。否、真とは言わないまでも、かなり違う。

 だって私は、ある程度出来た。

 運動系の習い事に行かされたわけではないけれど、運動自体が好きだったから、スポーツは出来た。イチバンにもニバンにもサンバンにもなれなかったけど、色々なことが出来た。勉強もダンスもそう。

 お絵描きだけは、その、可憐のこと何にも云えないんだけど。

 

「そして人間関係。これも結構普通なのです。わたしが歌を好きになったのは、出来たから、というのもあるけど、褒めてくれる子達がいたから。褒めてくれる子がいて、わたしが喜んだら、褒めてくれた子達も喜んでくれて。──だからわたしは、歌が好きになりました」

 

 普通だった。 

 トクベツに至るような要素はどこにもない。否、才能があったと──そういうべきだ。

 違う。違う。

 可憐のトクベツは、歌、じゃないのだ。

 カリンのトクベツはその性格だ。意味の分からない、気持ちが悪い、共感できない感覚。

 それが育つ環境がどこにもない。

 

 私の想像するような荒波が、どこにもない。

 

「──君は。何があった所で、誰に出会ったところで。トクベツにはなれないよ」

「……それが言いたかったの?」

「変わった所で、価値観ぐちゃぐちゃになった所で、君自身はトクベツにはなれない。変わる事は出来るけど、トクベツにはなれない。成長はするだろうけど、トクベツにはなれない。今もう既にトクベツだから、なんて詭弁を言うつもりはないよ。アミちゃんはね、普通の子。トクベツに手を出してみた、トクベツになろうとした、トクベツに出会って変わった──普通の子」

「さっきと言ってる事違うんだけど」

「だから、トクベツになったのはアミちゃんじゃなくて、君だよ」

 

 指をさされて。

 世界が遠のいていく。

 

 あぁ──長い長い、思い出だった。

 長い長い、夢だった。

 

 いつかの記憶。

 ううん。

 

 私自身との、対話。

 

「アミちゃんはね、普通の子なの。VTuberとして普通なの。トクベツとして生み出された時点で──それ以上成長の出来ない、普通の子。人格を持たない、ただのガワ。大人でも子供でもないお人形さん」

「いや、もういいから。聞き飽きたよ──その、意味わかんない事言うの。中身のない事を仰々しく言うの止めなよ。カリンはそんなことしないよ」

「ありゃりゃ。やっぱりあのトクベツは真似出来ないか」

 

 Romantic.

 夢の中で自分と対話するなんて、なんてファンタジーなお話だろう。

 そんなことはないかもしれない。自分になかった事が、誰にとってもない事、なんて。

 それを証明する手段は無いのだから。

 

「ねぇ、交代しない?」

「……どういう」

「VTuberは、なながやって。リアルは私がやるからさ」

 

 解離性同一症。

 本当にコレは、私ではないらしい。

 

「そうやって──塗りつぶす気なんだ」

「あれ。騙されないかー」

「ここで頷いたら、VTuberも、リアルの私も、貴女になる」

「うん。そうだよー。だって普通は嫌なんでしょー? トクベツに形作った私で、普通の自分を塗りつぶせば──トクベツになれるよ。解離性同一症を克服したコになれる。玉川ななは推し潰されて死んじゃうけど、問題ないよね? トクベツになれるんだから」

「ここで頷いたのが、カリン」

「多分ね」

 

 VTuberをやる、ということは、誰かを演じる、ということだ。

 その想像力が余りにも豊かで──あるいは、それが埒外のストレスとなって。

 私はこの子を作ってしまった。私の学習能力や運動知識をふんだんに吸収して、トクベツとして生み出された水鳥亜美。

 今や自らが主導権を握らんとし──私を排斥しようとしてくる。

 ふざけた話だ。

 厨二病乙って感じだ。

 

「渡す以外に選択肢無いよー。だってそうしなきゃ、貴女はトクベツになれない。なれないのに諦めきれない。そのストレスはまた別人格を生み出して、今度こそ猶予無く潰されちゃう。あの日、あの時。サボテンちゃんの手を取ったのが全ての間違いだけど、取らなかったとしてもダレカは生み出されていただろうねー。玉川ななは、生まれながらにしてトクベツなんだもん。ストレスに弱くて、理想が高くて、そうした場合に脳がちゃんと逃げ道を作る事の出来る、トクベツ」

「小雪さんの言う事は正しかったね」

「そうだねー。でも、わかってるんでしょ? もし──精神安定剤でも貰おうものなら。鎮静剤でも、睡眠薬でも、向精神薬でもなんでもかんでも貰って。一瞬でも気が緩んでしまったら」

「貴女になってしまう。私の身体を勝手に動かして、砂川さんとなんかすごいプロジェクトを推し進める……トクベツな貴女に」

「そそ。だからー、貴女はどうしようもないんだよ、なな。選択肢も、選択権もない。それでもこうして猶予を与えてあげているのは、一応、今まで生きてきた貴女への称賛。この先君はここで蹲って、トクベツになった玉川ななと水鳥亜美の活躍を眺めているといいよー。大丈夫、私の方がこの身体を、知識を、上手に使えるから──みんなも、ちやほやしてくれる」

 

 求めていたものを提示される。

 欲してやまなかったものを見せつけられる。

 

 こう、なれば。

 こう、なれる。

 

 どうせ抵抗しても、また新しいダレカを生んでしまうのだろう。

 どうせ拒絶しても、また私は逃げてしまうのだろう。

 

 ならばいっそここで──。

 

「……とかなるような性格に見えた?」

「ぜーんぜん」

 

 ──"自分を仲間外れにする癖、やめたほうがいいよ。あ、これアミちゃんには言ってないから"

 

「いいよ、別に。居て。勝手に使っていいよ。私の知らない事喋っていいし、私の知らない知識でやりとりしていいよ」

「共同生活、ってこと?」

「受け入れる、ってこと。私は、いいよ。また普通に、普通を羨むから。そのたびに貴女は新しい事を学んで、知識を身に着けて、努力をして……みんなに認められて行って。ちやほやされていって。別に、私の身体は労わってくれるんでしょ? この前の一週間休みだって、私が疲れてるって感じたから勝手に口を動かしたんでしょ」

「……はい、じゃあ、正解、ということで」

 

 長らく、話し合ったけれど。

 長らく、悩んだけれど。

 

 まぁ、そういう事。

 

 

 VTuber水鳥亜美のトクベツは、嫉妬心で。

 玉川ななのトクベツは──諦観、妥協、諦め。

 

 私には無理だから、羨ましいし。

 私には出来ないから、ズルいし。

 

 玉川ななは諦めるから──水鳥亜美が、代わりに妬むのだ。

 

「コンゴトモヨロシク、って奴?」

「合体だから、間違ってはいないね」

 

 分離しかけていたものが、くっついた。

 それだけの話。

 

 それだけの──。

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