君がこっちに手を伸ばしたんだよ。   作:大日陰山

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Gemini

 コミュニティ「おはな」。

 名前はそんなだけど、お花について語り合うコミュニティ、というわけではなく、どこぞで募集を行っていた企画のために作られたコミュニティ……つまり、ふらふらと入っていった私の死ぬほど場違いな場所。トピックがいくつか作られていたけれど、稼働しているのは一件だけ。

 一応ハンドルネームを植物系に揃えていたその場所で、けれど話されている内容があんまりにも私にそぐわなかったから、もう一目散にと退出しようとした──その時。

 

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企画決定しました「おはな」              

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【13】サボテン             
●●●

2017年10月12日

はじめまして

募集見てきた方ですか?

私サボテンって言います。

お名前教えてくださいませんか?

Like! 6トーク

 

 新しい投稿。このサイトのシステム的に、私に向けられたメッセージではない。どちらかというとこのコミュニティを訪れた不特定多数へ向かって話しかける看板のようなもの。それを今設定した、というだけだ。

 けれどそれは、痕跡も残さずに立ち去ろうとしていた私への、トクベツなタイミング。

 これを逃したら、私は普通のまんまだ、って思った。チャンスとは掴むもの。待っているだけでは眼前を通り過ぎて行く。手を差し伸べられたら、勇気を出してそれを取る。

 

 そこで私は新しく、セチアと名乗った。

 

 

 

 ГГГ

 

 

 

 

 私達の使っている個人スタジオは──元々は箱、つまりライブハウスだった。ここを所有していたオーナーがそのまま私達のコミュニティのクリエイターになっていて、バンドメンバーの幾人かもそのまま在籍している。

 だから、というわけではないけれど、スタジオには楽器類が置かれていて、その内の幾つかは自由に触っていいよ、とお触れを受けている。*1

 なので自分たちのスキルアップもかねて、デビュー当時から楽器類の練習をしていたりする……わけだけど。

 

「小雪さん、それもう弾けるようになったの……」

「えぇ、多少は。元々キーボードは嗜んでいたのだし、そう特別な事ではないわ」

「いやキーボードと鉄琴って全然違わない……?」

「弾くものが指かそうでないかの違いでしょう?」

 

 唇を噛む。

 なんでもないことのように言う彼女に、嫉妬の炎を覚えずにはいられない。

 北向(きたむかい)小雪(こゆき)。家柄も良ければ才覚にも溢れるお嬢様。ぶっちゃけVTuberなんかやる必要無いと思うし、普通にモデルとかで売ってけそうな容姿をしているヒト。初めてメンバー全員が一堂に会した時、覚えた感情は怒りだった。

 「バカにしにきたのか?」とか「アンタらガワ被る必要無いじゃん」とか。小雪さんともう一人、とっても綺麗な人がいて。絶対に口には出さないけど、死ねばいいのに、とか思ったくらい。勿論本気じゃないけど、ミームとして、そう思っていた。

 

 けれど、時を過ごして見て。

 

「これ、見て」

「ん」

 

 スマートフォンの小さい画面に、Utubeの動画が全画面で映し出されている。

 そこでは帽子をかぶった男の人が、それはもう流麗な手さばきで鉄琴を奏でていて、勿論高評価の数も莫大で。

 またか、なんて思いつつ小雪さんを見れば、そこには真剣で──けれど影を帯びた顔があった。

 

「私の演奏技術なんかじゃ、コレには遠く及ばないわ」

「アタリメ」

「?」

「ごほん、そりゃそうでしょ。この人多分子供の頃からずっと練習してきての、こうだよ。多分だけど。それに一週間で追いつこうだなんて無理無理」

「そんなことはないわ、ななさん。技術とは常に完成を土台に出来るものよ。先人が培った技術や知識を、私達はこうやって簡単に閲覧することが出来る。ならそれを基礎にして、私達はさらに上を目指せばいい。……けれど、私はその基礎にすら辿り着けていない。……不甲斐ないわ」

「えぇー……」

 

 この通り、理想が高い。

 高すぎる。高すぎてひっくり返っちゃうくらい高い。

 

 小雪さんはともすれば完璧超人なんだけど、目標があんまりにも高いせいで自分を卑下しがちだし、それを他者に指摘されても一切自覚しないものだから、私含めて周囲の人間は「えぇ……」という思いしか出て来ない。

 いやさ目標が高いのは結構なんだけど、もちょっと自分を誇らない? あんまり自分をダメダメ言い過ぎると、小雪さんにも並べていない私達まで馬鹿にされているような気分になるんだけど。

 

「多分リスナーはそんな完璧求めてないと思うけど」

「求められてなかったとしても、やって魅せるのが私達じゃないかしら?」

「それは……そうなんだけど」

 

 この人も、トクベツ。

 湊元ちゃんがポンコツリアクション変態芸人なら、小雪さんは完璧超人理想高すぎ首折れちゃうぞ芸人。上ばかり見ていて下を見れない人間に、どうしてファンのことなんか考えられようか。あ、別にファンが私達より下って言ってるわけじゃないヨ。

 

「そういえば、お昼にスタジオで何かやっていたようだけど」

「ああ、湊元ちゃんとね。ホラーやらせて、悲鳴上げさせてた」

「ふふ、あの子、とっても良い悲鳴をあげるものね」

「ちょっとSっ気芽生えちゃった」

「程々にね」

 

 そんな完璧超人お嬢様な小雪さんだけど、意外や意外、ゲームだのサブカルだのインタネットだのには結構造詣が深い。曰く昔からPCに触れてきた結果だというが、だったらなんでそんなに現実見えてないんじゃろ、とか思ったりしなくもなかったりサルバドール・ダリ。

 

 一度でも思わなかったのだろうか。

 自分が特別ではない、って。

 

「それで、何か私に用があったのでしょう? そのために待っていてくれたと聞いたけれど」

「あ、うん。この前ゲームコラボしたじゃん」

「ああ、スポーツでリゾートなゲーム」

「トータル成績引き分けだったじゃん」

「そうね。こんな偶然あるんだ、って、みんなざわついてたわ」

「白黒つけようゼ」

「……成程。そういう事なら、手は抜かないけれど」

「ロンモチ。スタジオは夜まで借りてるし、小雪さん元々ソロ配信するつもりだったのは確認済み。予定変更してくれるかなー?」

「いい○もー……って、何言わせるのよ」

「やっぱり小雪さんノリ良いから好きだなぁ」

 

 ぶっちゃけ最初は嫌いだった。

 綺麗な顔してVTuberとか、私達を笑いに来てるんじゃないかとか思ってた。

 でも一緒に過ごしていく内に欠点だとか好きな点とかが出来て、こういう面白い部分も見つかって。

 

 某匿名骸骨仮面じゃないけれど、良い出会いだったな、とは。思ってしまう。

 余りにトクベツな小雪さんとの出会いは、私にとって良質なものであったと、そう。

 

 

 

 ГГГ

 

 

 

「ではまずチャンバラからやりましょうか。BO3、ゲーム内三本先取を一ゲームとし、先に三本取った方の勝ちです」

「おっけおっけおっけー。ちなみにさ、トータル負けしたらなんか罰ゲームしようぜ。恥ずかしいセリフ読みとかどう?」

「いきなりなんか始まってて草」
「雪さん立ち姿マジかっこいいな」

「アミちゃん小物っぽいぞー!いいぞー!」
「えっっっ」
「草」
「雪さんがイチイチでコラボするの珍しいな」

「懐かc」
「ナイムネが際立つな」

 

 精神を研ぎ澄ます。たかがゲーム。されどゲーム。

 握りしめた赤外線遠隔リモコン、通称Weeリモコンを握り締め、そこから伸びる幻の刀身を正眼に捉える。

 ゲーム内アナウンスの構えて、という声に、両者完了ボタンを押し──。

 

「セァ!」

「ッ、ふ……」

 

 踏み込んでからの振り下ろし。無論ゲーム内にそんなものは反映されないけど、律儀にも小雪さんは刀身のリーチギリギリの所にまで下がり、さらにゲーム内でも防御を行った。

 力強い振り下ろしだ。弾かれたら体幹がぶれる。ピヨピヨと慌てふためく私のキャラクターに、小雪さんから放たれた鋭い横薙ぎが入る。

 

「ま、だっ!」

「なるほど」

 

 が、そうはさせじと幻影の剣と脇腹の間にWeeリモコンを滑り込ませ、今度は逆に弾かんとした──にもかかわらず、小雪さんは打撃の直前で恐ろしい程の制動力を見せ、身を引いたではないか。

 これで、仕切り直し。

「チャンバラとは」
「俺達は可愛いvtuberのくんずほぐれつを見に来たはずでは?」

「芯のある雪さんと荒々しいが果敢な亜美ちゃん……クォレハ」
「えっっっ」
「みえ……みえ……」
「雪さん剣道六段とかじゃなかったっけ」

「3dコラボで映えるねこれ」
「乳揺れやば」

「これで終わり、でしょうか?」

「安い挑発──乗ってやらぁ!」

「敗北者じゃけぇ……」
「乗るな亜美!」

 選択したのは突き。剣道におけるルール違反なんてこのゲームには無いので、おもいっきし危ない所を突く。振り下ろしや横薙ぎといった線での攻撃に比べ、点である突きは防御がしづらい。ゲームの性質上、刀身の向けられた場所に正確に防御を置いていなければいけないため、対応は至難。

 ふ、卑怯とはいうまいな。勝てばよかろうなのだぁ!

 

「甘いですね」

「──ッ!?」

 

 私の方が早かった。完全に初速というか初動は私の方が早かった。

 私の方が速く突き出して──けれど結果的に、私は頭部への振り下ろしを食らい、ぶっ飛ばされている。

「今Weeリモコン消えなかった?」
「腕下ろす速度やばすんごだろ」

「これは鷲の目」
「つえええええ」
「まだ一ゲーム目だぞ」
「え、何? 殺陣?」

「ゲームじゃなくてマジ竹刀でやってほしい新聞紙でも可」
「えろ」

「これで一本。さぁ、次です」

「……おーけーおーけーおーけ。この前のコラボでは手ぇ抜いてたんだ? ひっどーい、みんな真剣だったのにさー」

「それこそ安い挑発ですね。あの時は和気藹々としていましたから。亜美さんのように殺意をこれでもかと叩きつけてくるような子はいなかったでしょう?」

「殺意って何」
「タツジン?」

「手抜いてても同率1位だもんな」
「達人じゃん」
「確かに手を抜くのは酷い」
「本気だと相手にならないからでしょ」

「雪さん完璧超人過ぎん?」
「素手で鉄を断てるってマ?」

「素手で鉄を断つ、は流石に。真剣で、なら出来ますが」

「なんで真剣が手元にあるのか聞いても良い?」

「家宝です。なのでみだりに持ち出してはいけないのですけど、好奇心で、つい」

「可愛い……ってなるかぁ!」

 

 大分悪意のある揶揄いをした自覚はある。

 元々雪さんは燃えやすい人なのに、そんなことを言えばどうなるかぐらいはわかっていた。

 ……ただ、予想していた答えの斜め上を出されるとは露とも。

 

 なぁに、真剣で鉄を斬れる、って。

 おさむらいさんなのー?

 

「そんなことより、まだ試合は終わっていませんよ」

「……りょーかい。つか、いつまでもリスナーに嘗められたまんまなのも癪だし」

「ええ、その意気です」

 

 踏み込む。もうモニターなんか見ちゃいない。だからWeeリモコンの挙動は少しおかしくなっているんじゃないかと思う。

 関係ない。ただこの刃を、このヒトに届かせる。

 そのためだけの斬撃。

 

 ジャンプしてから──頭頂へ向けた振り下ろし。

 見え見えの攻撃に雪さんは防御姿勢を取る──けれど。

 

「ッ、ブラフっ!?」

「やぁっ!!」

 

 残念、ソッチの手にWeeリモコンは無い。

 振り下ろしたのは何も持っていない右手。当然それは何も無い空間を切り裂くに終わり、隠し持っていた左手の本命が雪さんを刺し貫く。防御不可の一撃。

 キャプチャーは難しいだろうに、しっかりとゲーム内キャラクターがぶっ飛んでいくのを尻目に見つつ、私は万感の意を以て口を開く。

 

「ぷぷぷ^^~~~~! 騙されてやんの~~~~~!!!!」

「外道だ……」
「全vtuberで最も小物な女」

 しっかりスイッチの入った音が聞こえた。

 

 

 ГГГ

 

 

 

「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様」

 

 クリエイターさん達に挨拶をして帰る。

 

 時刻は18時を回っている。色々な年齢なんかの関係上あんまり夜遅くまでスタジオにいるわけにはいかない私を、小雪さんは「じゃあ送っていってあげるわ」と言って車に乗せてくれた。

 タクシーや電車だと余計にお金かかるからね。私達はあくまでサークル、企業じゃないので交通費は出ないのである!!

 

「結局引き分けだったわね」

「ダネフッシー。……もとい、いつかなんらかの形で決着つけたいね」

「……正直な話をするのなら、ななさんは中学生、私は大学生で、その実力が均等ともなれば……抜かされている、というようにも取れると思うのだけど」

「ゲームに年齢とか関係ないでしょ。私がこっから上達するとは限らないし、小雪さんが下手になっていくわけでもないんだし」

「そうね……ごめんなさい。私らしくない愚痴を零したわ」

 

 いえ、とっても小雪さんらしい愚痴でしたけど。

 なんて言葉はおくびにも出さずに、ケラケラと笑う。

 

「ななさんは……最近、どう?」

「なにその質問ヤバスギ」

「ああ、ごめんなさい。……本当は年下のコに相談する事じゃないのだけど」

「悩み事? 聞く聞く! 教えておせーて!!」

「……そういう態度なのがわかっていたから、切り出したわ。ごめんなさい」

 

 自慢じゃないが、私は他人の悩み事が大好きだ。

 私自身が自らの平凡さについて嘆き悩んでいる──が故に、周囲も悩んでいると落ち着く、安心できる……といった普通の感情がなんだかんだ変に絡み合って、悩み事を聞くと興奮する、という性質を獲得した。

 自分で言っててすげーやべーな私。

 

「ちょっと、スランプ気味なの」

「それはいつもじゃん」

「うっ……それは、その通りなのだけど……」

 

 法定速度をきっちり守った運転。首から下は機械なんじゃないかと思う程テキパキとしているのに、言葉の歯切れはそれはもう悪い。

 ちなみにいつもスランプ気味というのは、冒頭で述べたように理想が高すぎるからだ。決して小雪さんが何もできない奴、とかそういうわけじゃない。

 

「私、歌が得意でしょう? ……それは認めてくれると嬉しいのだけど」

「そうだね。メンバーの中でも一番上手いと思う」

「……でも、最近……こう……燃えるもの、というのが、無くて」

「あーね? 成長してる実感がない、って奴?」

「そう、なるわ」

「そっかー」

 

 それは。

 それは……。

 

 そんなのの答えは、私が一番聞きたいわボケ。

 なーんて、言葉には出さない。

 

「小雪さんって、趣味はなんなの? 勉強?」

「いえ、音楽を聴くことよ。歌う事は勿論だけど、聞くのも好き」

「作るのは?」

「作る? ……作曲、という事?」

「そそ」

 

 だからまぁ、無難な答えで許してもらおう。

 私だってこの停滞から抜け出す方法を知りたい。いや、知ってはいるんだ。違う事をすればいい。別の事をすればいい。自分が手を出せる──自分でも知らない、自分のキャパシティの空白がなんなのかを見つけて、そこを掘り下げればいい、なんてことは。

 わかりきっている。一年半前──ある人に相談して、答えは出せた。

 ただ、それに手を出すには私が足りない。

 やりたいことも満足に極め切れていないのに、新しい事に手を出さばどうなるか。

 

 そんなの、破滅に決まってる。

 

「作曲……。確かに、自分で歌えるのなら、自分で作れるに越したことは無い、か」

「そうそう。小雪さん何でもできるから、すぐに上達しそうだし。まぁ神作曲家とか有名Pには及ばないかもだけど、オリ曲自分で作って自分で出す、くらいはいけるんじゃない? 絵も描けるしさ」

「……それは、楽しそうね。ふふ、ありがとう、ななさん。やっぱり貴女に相談して良かったわ」

「それほどでもある。のでお夕飯ファミレス奢ってください」

「この時間帯に未成年を連れまわしているとあっては私が捕まってしまうわ。また今度ね」

「ちぇー」

 

 キャパシティが桁違いの人なら、話は別、という話。

 理想の高すぎる性格はともかくとして、その才覚自体は余りあるものがある。

 なら、可能だろう。

 どんどんいろんな分野に手を出して、どんどん新しいものを開拓して、自分の力にして。

 トクベツだ。

 私には絶対に真似できないトクベツ。

 

 いいなぁ、欲しいなぁ。

 ずるいなぁ。

*1
絶対触っちゃダメ、というものもあるけど。

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