君がこっちに手を伸ばしたんだよ。 作:大日陰山
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こんな会話があった。
「おはな」企画発足後一ヶ月ちょい。メンバー皆で旅行に行こう、の会。
家が近い人同士で合流しつつモミジさんとスイレンさんが取った旅館へGO、みたいな話。
私はスイレンさん、スモモちゃん、途中からサボテンさんと。
モミジさんはカリンと一緒に行くことになって、そこでもひと悶着あった。まぁどういう悶着かは想像に難くないだろう。
そんな感じで始まった旅行は、はりきって新品の靴を履いてきたスモモちゃんの靴擦れによって、色々な遅れを生じさせながらぬるぬる進行していくことになる。
「あの、ですね」
「ん」
「大丈夫ですから、その下ろしていただけると……」
「楽しみにしてた折角の旅行、傷広がって痛いままでいいの?」
「いや、その……」
スモモちゃんのアキレス腱に絆創膏を貼って、よいしょ、とすること小一時間。
恥ずかしい、とでもいうような声色で、スモモちゃんはそんな苦言を呈してきた。
「せめておんぶで……というのは……そのー」
「だっこいや?」
「どーちらかというと……恥ずかしい、カナ……その、助けてもらってるのに悪い、んだけど……」
私とスモモちゃん。
歳はそう変わらないけど、身長は結構違う。そして腕力も違う。
だからこうしてお姫様だっこが出来るのである。私の体幹がそれなりなのもあるけど、スモモちゃんが軽すぎるというのが大きい。
「すまんね、本来なら私の役目なんだが」
「むしろソッチのお菓子やらボードゲームがこれでもかと入ったリュックサックを背負う方が疲れます」
「ミナ……ああ、いや、スモモは菓子類よりも軽いのか。はは、それならこの旅行でたらふく食わせないとな」
「メンドいんでそろそろ自己紹介しません? モミジさんとはしたんで」
「ああ。じゃ、私から。神原沙月という。これから長い付き合いになるだろうし、こっちの名で呼ぶことはあまりないかもしれないけど、よろしく」
「あと、その、同じく神原湊元です。バレてると思うけど、姉妹で、その」
「バレてるって言うかこの前がっつり姉って呼んでたような。まいーけど。玉川なな。……あーでも、やっぱセチアの方が可愛いしそっちで呼んで。V名の方でも良いけどさ」
セチア。セチア。ポインセチアのセチア。
自分でも気に入っている名前。
結局Nixiはもう使わなくなる、とのことだけど、名無しさんに代わるよりコテハンの方が気持ちが良い。加えてVTuberの名前の方も出来たのだ。綺麗で可愛い名前。響きは普通めだけど、キラキラネーム過ぎないのを選んだから満足。
特に苗字がいい。
「よろしくね、ななちゃん」
「よろしく、亜美」
「あ、そっちで呼ぶんだ。まいーけど。んで湊元ちゃんは後でお仕置きね」
「えっ」
セチアはまぁ、私の日本人然とした容姿には合わないか。
そうして、三十分くらいだろうか。
色々と色々を話しながら目的地に向かっていると、何やら前方であまりにも典型的な……テンプレートみたいな光景が広がっているのが見えた。
「君可愛いね。オレ達とお茶イッデ!?」
──それは一瞬のこと。
待ち合わせ場所に指定した銅像前広場のベンチに座っていたサボテンさんにいやらしく迫るパツキンダンセー……の背後から、踵の一部分のみを狙って踏みつける非道。
靴擦れでその痛みを経験したばかりの湊元ちゃんは震えあがり、沙月さんはキョロキョロと辺りを見渡す。
「ってぇな誰d──」
「動けば右目を潰します」
激昂しながら振り返ったパツキンダンセーの右目に突きつけられる二本指。深い青色のネイルが施された鋭利な二つがそこにはあった。
ピタリと動かない指二本。冷たい目。それを突きつけるモミジさんの背後で、サボテンさんの手を取りエスコートするように安全圏まで引き寄せるはカリンの所業。
パツキンダンセーの口が「やれるもんなら」の「や」の形に動きそうになった所で、しかし集められている視線に口を閉じる。
普段なら、あるいは本来なら、みんな面倒臭がってスルーするだろう事案。
だというのに──何故か。
どうしてか、この大通りにいる全員がパツキンダンセーとモミジさんを見ているのだ。
「ご安心を。ここは監視カメラ、定点カメラ共に死角。故に証言者がいなければ加害者が誰なのかはわかりません。こちらも痕跡を残すような真似はしないので──」
「わ、わかった、わかった、謝るからもういいよ! ってぇな、クソ、ああもう!」
反省した、とか。許してくれ~、とかではない。ああいうのは漫画の世界だ。
ただ、多勢に無勢というか、これ以上の狼藉が不味い事くらいは感じ取れたのだろう。パツキンダンセーは渋々すごすごと逃げ帰っていく。
ナンパって、ほんとにあるんだなぁ。
「いいのかなぁ~? 今の過剰防衛というか第三者だし、脅迫罪だし、傷害罪未遂とかなんじゃな~い?」
「最後の脅し、アレは貴女の声真似でしょう。私は初めしか喋ってないわ」
「誰がそれを証明するのかな~」
あとなんでそこそんなに険悪なの。
無駄に険悪ムードな二人を前に*1あわあわしているサボテンさんを救出すべく、一向に近づいていく。
沙月さんが何やら周囲に手を振っているけれど、まぁなんかやってたんだろう。知らんけど。魔法の言葉。シランケド。
「ああ、おはよう、二人とも……お姫様抱っこ、というのよね、アレは」
「多分……。わたし、現代でアレする人いるとは思わなかった。というかセチアちゃんの腕力凄くない?」
「あのあのカリンさん、そろそろ離していただけるとあの」
初冬だからそこまで厚くはないけど、みんなそれなりにもこもこした格好で。
……ケッ、モミジさんもカリンも素材が良いこって。コレでVTuberとか、けっ、けっ。
「さ、あっちに車を停めてあるから。乗りましょう」
「悪いね。私が出せばよかったんだが……」
「もう、何度同じこと言うんですか。行き帰りの運転は私がやりますので、ホテルのチェックイン等々は任せます、って話し合いで都合つけましたよね?」
「すまない、こういうのは性分でね……」
なんというか、沙月さんは心配症が過ぎるというか。
全部の事自分の責任にしたがるきらいがある。それ早く直さないとキツイと思うなぁ主に約一名のせいで。
「タナアゲタナアゲ~」
「は?」
「ひゃあ怖い」
……コイツ。
ホントにサイコメトラーなんじゃないだろうか。
「あの、カリンさん……」
「おっとごめんごめん。あったかかったからさ。えーと、なんだっけ?」
「私の車が停めてある駐車場に行くから、サボテンさんを早く解放しなさい」
「はぁーい」
この二人、ずっとこの調子で来たんだろうなぁ。
なんだかんだいって良いコンビなのかも?
「セチアさん。失礼な事は考えないように」
モミジさんまで!?
ГГГ
旅館近くのご飯屋さんでお昼を食べて、旅館へチェックイン。
和の香が鼻腔をくすぐるひろーい部屋にインして、窓際の謎空間にあるロッキングチェアに座れば、あふぅゴクラクゴクラク。
対面には──モミジさんが。
カリンは早々にベッドを敷いて眠りに落ち、湊元ちゃんと沙月さんは売店へ、サボテンさんは手持ち無沙汰におろおろ。
「サボテンさん、サボテンさん。椅子持ってきてこっちおいでよ」
「あ、うん。ありがと、セチアちゃん」
先日彼女の事を"お姉さん"と呼んだけれど、やはり私の方がお姉さんなのでは? 亜美は訝しんだ。
なんというか「おはな」企画のメンバー、一癖も二癖もあって……常識人が必要そうなのだ。
でもなー。常識人って、つまり普通ってことだから……ヤだなぁ。
「あの、セチアちゃん」
「はい?」
「私、
「あ、はい。玉川ななです。でも個人的にはセチアとか亜美で呼んでくれると嬉しいです」
「ん、わかったよ、ななちゃん」
「え~~~」
湊元ちゃんも心さんもなんなんだよぉ!
ひでーよひでーよ野口~~!
「仲間外れにされて悲しいわ」
「ごめんて。でもモミジさんとは自己紹介し合ったじゃん」
「私とはまだでしたよね。モミジさん、お名前教えてくださいますか?」
「北向小雪と申します。第七代北向家当主を務めさせていただいております」
「えっ! も、もしかしてお嬢様、とかなんですか?」
「心さん、ピュアすぎ、ピュアすぎ」
私も一回騙されたけどさ。
「ふふ、ごめんなさい。ちょっとした冗談よ」
「で、でも北向って……なんだかお嬢様っぽそうな苗字だし……」
「なぁに、それ。おかしいのね、東浜さんは」
わかりみ深い。
五文字の苗字ってなんかありそうだよね。神宮寺とか大恩寺とか。寺ばっかじゃねーか。
「……その、二人に聞いておきたいのだけど」
「はい? なんでせうか珍しくしおらしく」
「珍しく、って……まだそんなに日は経っていないでしょう? もう、そうではなくて……その、嫌じゃ無かったかな、と」
「旅行の事? 全然。むしろタダ飯タダ旅館タダ温泉で嬉しい」
「ちょ、ちょ、ななちゃん言い方言い方」
「いいのよ、それくらいオープンな方が気が楽だわ」
なんと今回の代金は小雪さんとスイレンさんが全額出してくれるという事で、それはもうありがたい限りである。なお小雪さんと同年代であるカリンがお金を出さなかったのは、渋々行くという体であったことと、小雪さん自らが断ったから。
曰く貴女の援助は受けないわ、らしい。別に援助じゃなくね?
「私、こういう性格であるのは自覚しているから……そういう、無理矢理な行動に嫌気を差す事もあると思うの。けれどその……私は私の考えを曲げるつもりが一切無いから、もし私の言動に間違いがあると感じたら、正面からぶつかってきてね」
「だからカリンと仲良いのかヌファ!?」
頬を抓まれた──いつのまに近づいた!?
「嫌い、とは言わないわ。ただ苦手なの。あんまりそういう揶揄いはや・め・て」
「ふぁ、ふぁい」
「あ、あはは。カリンさん、独特だもんね……」
「独特……。まぁ、そうね。本人の眠っている間に言うのは陰口のようで嫌だけれど……本当に独特だと思うわ」
「私からしたら、カリンさん以外のみんなも独特だケド……」
「えぇ?」
もじもじしながらそんなことを宣う心さんに、割とガチめの疑問が出た。
何言ってんのこの人。
私が独特だっていうなら、どういうとこなのか教えてよ。それを知りたくて仕方ないんだから。
「とっても頭の良い人けど心配性で杞憂しがちな沙月さん。運動神経抜群で、すっごく大人びているななちゃん。しっかりしてて、ちょっぴり恥ずかしがり屋で、頑張り屋さんな湊元ちゃん」
「物は言いよう、ってカンジがする」
「素直じゃない事もポイントで。……小雪さんは、とってもカッコいい。どこまでもまっすぐで、"凛としている"ってこういう人の事を言うんだな、って思ってます」
「素直に照れるわ。ありがとう」
「それで、カリンさんは──」
「ただいマンドリカルド~」
「あ、お帰りなさい」
心さんがカリンについてを語る──前に、売店へ行っていた二人が帰ってきた。
大量のジュース類アイス類を抱えて。
「ん……なんだ、カリンの奴は寝てるのか。じゃあ酒類は冷蔵庫にしまっておくか」
「ちょっと……お酒なんて買ってきたんですか?」
「別に飲めるだろ? 20歳じゃなかったか、お前さん」
「それはそうですけど、子供たちもいるんですから……」
「勿論子供組が飲むのはダメさ。が、折角の二泊三日なんだ、少しくらいいいだろう。夜中にでも腹を割って話そうじゃないか」
「……仕方ないですね」
あ、折れるんだ。
小雪さんってダメって言ったら絶対ダメ、な人かと思ってた。
お酒かぁ。
酒カスの事例はいっぱい見てきたからなぁ、インターネッツで。
飲みたいとすら思えないや。
「16時から温泉入れるらしいから、みんなで行こうじゃないか」
「温泉! 待ってました!」
タダ温泉! タダ温泉!
「お、おう。どうして亜美がここまで執心なのかはわからないが、タダ温泉だぞー。お肌つるつるだ。あ、ついでにカリンも叩き起こして無理矢理連れて行くからそのつもりで」
「のーさんきゅー」
襖の奥から弱弱しい声。
まぁこんだけ騒いでたら起きるよね。
「あ、なんだ起きてるじゃないか。ダメだ、決定事項だ。年長者命令だ」
「スイレンさんはリーダーじゃないのでいう事聞かなくていい」
「リーダー、頼むよ」
「え、え」
「りーだー。別にお風呂くらい好きな時に入ろうって言って~」
「え、あの」
可哀想に。
沙月さんはがっつり意地悪してやろう、って顔をしているからサイテーだとして、カリンも多分意地悪してやろう、って顔をしているんだろう。見えないけど。
だから、可哀想なリーダー。
「あの、スイレンさん。すみません、私もバラバラ派で……」
「なにっ!?」
「へぇー、珍しく気が合うじゃん。私深夜に入りたいから、16時に入るなら先いっといてー」
「……私も深夜に入りたいのだけど」
「かってにしーやー」
やっぱり仲良しじゃん。
……とか思うと、ホラ。小雪さんが睨んでくる。
怖いよこの二人。
「姉さん、みんなで一緒にお風呂入って仲間意識高めよう計画とか、幼稚園のお泊り会じゃないんですからやめてください」
「ヌァ、身内からの刺突……」
「んじゃご飯までおやぷみー」
「……はぁ。わかった、わかった。各自好きな時間に入ろう。これでいいか」
沙月さん。早いとこ諦めた方が良いと思うよ。
リーダーと私はともかく、この女達は纏めるのに疲れすぎるから……ね?
ГГГ