君がこっちに手を伸ばしたんだよ。 作:大日陰山
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温泉旅行二日目。
駄弁ったりご飯を食べたり、マッサージと言う名の海老反り固めをしたりの一日目を終えて、二日目。既に朝食、昼食を済ませた私達は、沙月さんの取ったというカラオケルームに来ていた。
なんと全員、である。まぁお金勿体無いので全員来るに越したことは無いんだけど、カリンも小雪さんも来るとは思っていなかった次第。
自己紹介の時に「歌が得意である」と言っていた二人だ。
その期待値は高い。
「じゃあ、モミジさんどうぞ」
「ええ」
沙月さんの、この場にいる誰もが知らない演歌の熱唱が終わった後、場を仕切っている心さんから、小雪さんへとマイクが渡される。
堂々とそれを受け取る小雪さんに、何か背筋の凍るようなものを感じた。
恐怖。威圧感、だろうか。
歌が始まる。
曲名は──『深星の階段』。
祈り上げるような、刺し貫くかのようなその歌は──私を打ち拉がらせるに、あまりにも十分すぎる技量だった。
凄い、とか。綺麗、とか。
湊元ちゃんや沙月さん、心さんが称賛の言葉を贈る中で、私は。
言葉が出ない。それは感動して、とかなくて──あぁ、嫉妬で、だ。
トクベツだ。
この人は。紛う方なきトクベツだ。私達なんかとは違う。普通が、トクベツに手を出してみた、とかの次元じゃない。この人はこの人単体で歌手とかになれる。VTuberなんていう遠回りじゃなく、実写で出ていって歌を歌えば、美人なんだし、絶対バズる。それで有名になってどっかのレーベルに所属して。
そういう事が出来る人だ。そういう道を歩める人だ。
そんなのに勝てるわけないじゃないか。
「どうだったかしら?」
そんな。
そんな。
そんな、小雪さんが。称賛の嵐を受けている小雪さんが、真っ先に気にしたのは──カリンで。
ああ、そうか。やっぱりか。
私は対等にすらいないんだ。仲間だと言いつつ、競い合うものだといいつつ──眼中にあるのは、私ではないんだ。
それがわかった。
「知らない曲だったけど、凄い良かったと思う」
「そ。ありがとう、と言っておくわ」
「ちゃんと褒めたんだから素直に受け取ればいいのに」
「……そうね。ごめんなさい。敵意が勝りすぎていた。ありがとう、褒めてくれて」
何故か険悪ムードで、何故か素直に謝る小雪さんからマイクを受け取るカリン。
これだけ敵対視するのだから、あるのだろう。彼女にも。
だから、覚悟をして。
──それすらも打ち砕かれる結果になる。
「──」
打って変わって、というべきか。
小雪さんの歌い上げたものはレクイエムだとかそういう……冷たい、寂しい、暖かく、神聖な曲だったけど。
カリンの歌う曲は、激しく、熱く、炎のような……普段の気怠い感じのカリンからは思い浮かばないような、どこか苦しささえ感じる曲。
曲名を、『エンドロール』。
ああ。ダメだ。この場に居ちゃダメだ。
私は私の無力感を知らされる。私は私が凡人である事を思い知らされる。
──"わたしは あなたを 終わらせる"
──"終わりを
──"続くための また咲うための"
──"続きを紡ぐ エンドロール"
歌詞が耳に入る。
脳がそれを受け止める。
──"終わる事だけは 止められないから"
どちらも知らない曲だ。
けど、心に残る曲だった。
それ以上に、私がぐちゃぐちゃになってしまう曲だった。
けれど私は、取り繕う事を覚えているのです。
狡猾に、仮面を被る事を知っているのです。
「すごい。すごいね、二人とも」
「ありがとう、セチアさん」
「……」
「ちょっと、さっき自分が言った事でしょう? 純粋に褒められたのだから、少しくらいは喜びなさい」
「モ、モミジさん。びーくーる、びーくーるですよ!」
薄い目で、見定めるような目で笑いかけてくるカリンの事なんて知らない。
私は、私を被って、この暗い暗いくらーい感情を隠すのです。
ГГГ
「久しぶりね。えーと確か、水鳥亜美さん、よね?」
「あ、はい……そうです」
aila。
とある大手芸能事務所の一大部門DIVA Li VIVA。その看板ともいえる歌手。
有名人だ。Utubeとか動画サイト云々の話じゃなくて、芸能人として有名な人。
それと会っている。
対面している。
久しぶりに会っての印象は──。
「今、あれ、こんなオバサンだったっけ、って思ったでしょ?」
「い、いいいいえ、そんな、滅相もない」
「いいのよいいのよ。だって実際オバサンだし。バツイチでオバサンで現ヒトヅマで……これぞ属性過多! ってね」
「aila、そのノリはまだキツいと思うわ」
「あらそう? ごめんなさいね」
普通のおば……女性。
なんか、元気だけど、オーラとかは感じない。
前。半年前かな。五か月前かな。
私達のユニットで、二周年記念イベントというのがあった。
そこに大物ゲストとして呼びこんだのがailaさんだ。沙月さんの豪語──"そこまで言うんだ、本気で何もかんけーない奴を呼んでやる"の通り、当時私達と一切関係の無かったailaさんと、私達はDIVA Li VIVAのスタジオで出会った。
その時は、トクベツだったはずだ。
オーラ全開で、ホンモノって感じがして、絶対に届かない人、って感じだったのに。
「プライベートだと普通のオバサンなのよー」
「この人もサイコメトラー……!?」
「あらあら、もしかして貴女、自分が顔に出やすい、って事わかってないのかしら?」
「え゛」
15年生きてきての新事実。
もしかして私は分かり易いんですか。
実は全然取り繕えていないんですか。
小雪さんを見れば──ウンウンと頷く彼女。
……恥ずかしいなぁ、それは。
「それで? 雪ちゃんがお友達を連れてくるってことは、何かあったのよね?」
「ええ。亜美さんが、心を失ってしまったみたいなの」
「何その感情を失ったマシーンと化した、みたいな言い方やば」
「ふふふ、雪は言葉を端折りすぎるきらいがあるわよね。って、あぁ。亜美さんの方がお友達歴は長いのだから、そんなことわかっているか」
「ああ、はい。雪さんは……なんというか、効率厨なんで」
「言い方が悪いわ、亜美さん。無駄を嫌う、といいなさい」
「同じっつかむしろそっちの方が悪いんじゃ」
ailaさん。
いつの間にか小雪さんと友達になっていたらしいし、結構仲良くなっていたらしいし、何より。
「ね、雪ちゃん。貴女の方のお悩みは、解決したのかしら?」
「い、いえ……それより今回は、亜美さんの方を……」
「もー! ダメじゃない。迷いやトラウマは作品に出るわよ?」
小雪さんが押されている所なんて、初めて見た、というのが。
なんか珍しくて、得した気分。
「ふんふん、ふんふん……なるほどなるほど」
「どう……されたんですか?」
「ちょっと待ってね、推理中だから」
ailaさんは人差し指を唇にあてて、目を閉じて、何事かを考えている。
推理中──まさか、ヒント無しで私の悩みを言い当てられるというのか。
やはりトクベツ。やはり天才。そうだよね、DIVA Li VIVAの頂点といっても過言ではない彼女が、普通のオバサンなわけ──。
「ズバリ! 恋の悩みね!?」
「普通のおばさんだった」
「わ! 雪ちゃん雪ちゃん、私この子気に行っちゃったわ。こういうズケズケ言ってくる子大好き!」
「ええ……絶対気に入ると思って紹介したもの」
しまった失言した、と思ったのも束の間、突然ぎゅっと抱きしめられて、めちゃくちゃに撫でられる。
やばい。この人には勝てない。
愛玩動物にされる……!
「で、どうしたのかしら。私探偵でもなければ超能力者でもないから、ノーヒントじゃわからないわ」
「じゃあ初めからそうしなさい。長いのよ、貴女。いつも」
「雪ちゃんが速すぎるのよ~」
ailaさんと小雪さん。
多分歳は結構離れている……のに、ほとんど対等な感じで付き合えているらしい。
えー。いーなー。だって世界のailaだぜー。
今は恋バナ好きの普通のオバサンぽいけど。
「心を失ってしまった、と言ったわよね。どういうこと? 感情がないの?」
「いやそんなことはなくて」
「それともアレ? 噂に聞く──厨二病?」
「いやそれも脱却してて」
「じゃあ」
ailaさんはそこで言葉を切って。
「才能の、お話かしら?」
ちゃんとノーヒントで、ガチ核心をついてくるのだった。
ГГГ
回想を挟む間もなく、ailaさんはぎゅーっとしてくる。やめてほしい。甘えたくなるだろうが!!
「自分に才能がないと嘆いている……あるいは、周囲が凄すぎて、色々な事が億劫になって、疲れちゃった?」
「……その」
「亜美さん。
うげ。
あー。
あーあ。
もしかして、全員にバレてたりすんの?
ちぇ、ずっと道化だったのか。
「……いや、マジな話すると、図星。図星だし……ailaさん含めて、
「うんうん、わかるわぁ。雪ちゃんとか特に才能の塊だものねぇ。本人はそう思っていないみたいだけど」
「いえ、多少は思っているのよ。私が人並み以上程度には出来る、ってことくらい」
「ふん……。その程度じゃないじゃん。どっちも。メンバーだってさ、梨寿ちゃんは絵が上手いってわかっちゃったし、遥香さんは頭いいし、リーダーは人望めっちゃあるし。……なんかさー。なるべくしてなった、みたいな人達じゃん。みんな。こんな中で自尊心保つとか無理無理」
あぁ、もう。
私は何を言っているんだ。
ailaさんに会ったのはまだ二回目だし、小雪さんはこれからも一緒に頑張っていくメンバーなのに。
こんなことぶちまけたって、何にもならないのに。
「雪さんはさ、歌うまいじゃん。運動も出来るじゃん。料理も上手で、いつも理想に届かない届かない言ってるけどさ……今雪さんがいるトコ、私は追いつけてない、ってわかってる? 雪さんが自分を卑下すればするほど、雪さんより下の私もどんどんバカにされてく気分になるんだよね」
「……そう、いうことは……考えていなかったわ。ごめんなさい」
「それ。雪さん素直に非を認めるから余計に嫌。そんだけ完璧超人で、美人で、歌が上手くて、性格も良いとか。どこで勝てっていうの?」
うわぁ、もう自分が自分じゃないみたいだ。
水鳥亜美ちゃんの口からどろどろどろどろ、コールタールみたいな泥が溢れ出る。
止められない。
いつもいつも、常々思っていた言葉がどんどん出てくる。
ずるいじゃん。
それで、裏でマウント取ってくるような奴なら嫌えたのにさ。
それで、裏で生活がゴミみたいだったら馬鹿に出来たのにさ。
良い人なんだもん。
じゃあ勝てないじゃん。並べもしないじゃん。
「わかるわぁ。雪ちゃんは酷いわよね。常に向上心がある、今の自分に満足しない、というのは確かに良い事だけど──それは、雪ちゃんを認めてくれている"誰か達"を完全に無視しているもの。そもそも、貴女は誰も見ていない。自分の言葉を通すために――相手の事は、有象無象だと思っている」
「……否定はしないわ。だから、亜美さんのいうような性格のいい奴、じゃないのよ」
「そうじゃないのよ。非があれば、それを言ってきたのが誰であれちゃんと認められる。誰かに優しく出来る。そういうのをして性格が良い、と言っているの。雪ちゃんの卑下している部分は性格ではなく性質……。認めなさい。雪ちゃん。貴女は性格が良いのよ。ズルイくらいにね」
そうだ。同意する。
確かに趣味嗜好、あるいは性質の部分で尖りすぎているきらいはあるかもしれないけれど、それはトクベツに含まれる──長所に含まれる部分。私のズルイと思う性格の良さには関係しない。
ずるい。ずるい。ずるい。
何でもできて、性格が良くて、ズルイ。
「……ailaさんだって、ズルイですけど」
「あら?」
「だってDIVA Li VIVAの看板ですよ。ズルイじゃないですか。そんなトクベツ、誰もが手に出来るものじゃない。そんな立場から、"プライベートは普通のオバサン"? 凡人の気持ちがわかる? ……うるせー、って。言いたくなる。才能持ってる癖にこっちにすり寄ってこないでよ、天才がさ」
嫌な子だなぁ、私って。
じゃあどうすればいいんだよ、って。思う。
それで、たとえばプライベートもトクベツな生活をしていたとしても、嫌うんだろう。仙人みたいな人生観を持っていても、それはそれでズルイっていうんだろう。
どうしようもないんだ。普通な私の前で、トクベツを見せた時点で──嫉妬の対象。
なんてどうしようもない。
本当に──どうしようない奴だ、私は。
「──いいわぁ」
「……悪食」
呟かれた言葉は同時。
上からと前から。
見上げれば、ミカヅキみたいに上がった口角。
見遣れば、可哀想なもの……お肉屋さんに並ぶ豚肉を見るような目が二対。
「貴女、とってもいい。ずっとずっと溜めていたのね、鬱憤鬱憤鬱憤嫉妬。知っている? 昔はね、昔のロックンローラーはそれを――"初期衝動"と、そう呼んだのよ」
最近聞いた言葉が出てきた。
この、暗い感情が。この、どろどろした情動が。
ロックだって言うのか。
「政治が悪いんじゃないのか、とか。国がどうにかしろよ、とか。俺の女を取られて悔しいぜ、とか。なんで俺は貧乏なんだよ、とか。──どうして俺には、才能がねえんだよ、とか。そういうものから始まったのよ、ロックって」
「……それ」
「そう! 貴女が今、想っている事。心に渦巻いている毒物みたいな、いや~な気分になる何か。それをぜーんぶ放出してしまおうとしたのがロックなの。貴女にはロックンローラーの素質があるのよ」
「……いらないけど」
「要る要らない、では済まないわ。だってそれが性質だもの。さっき言ったでしょう? 雪ちゃんのは性格ではなく性質と。彼女もまたロックンローラー。それに、私はまだ会話したことないけれど──ウチに入って来た真っ黒いあの子もね?」
ソレを聞いて、またどっぷりと黒い感情が溢れ出る。
その名前。名前さえ出されていないけれど。
聞きたくなかった。
あんなトクベツ。
「水鳥亜美ちゃん」
「……はい」
「貴女は、何になりたくてそのVTuberという業界に足を踏み入れたのかしら」
「……トクベツ。トクベツに、なりたくて」
変わらない。
ずっと変わらない。
私は普通が嫌で、トクベツになりたくて、トクベツを私にしたくて。
あの時、勇気を出して、あのコミュニティを開いた。
「じゃあ教えてあげる。オバサンというのはね、優しいけれど──とっても残酷なの」
「可憐と同じくらい性格悪いわよ、この人」
「褒め言葉ね? で、そう。──亜美ちゃん。貴女はね、トクベツなの。なんてことはない──トクベツを目指して、今がわからなくなっているのでしょう? 目的地がわからなくなっているのでしょう? 自分がどこにいるのか、わからなくなっているのでしょう? 当たり前よ」
だって貴女はトクベツなんだもの。
「自分の中は、目指せないわ。心なんて形のないモノへ目標設定をしているようなものよ。貴女はスタートラインに立ちながら、スタートラインに立つことを目標にした。ゴールじゃないのよ、そこは」
私が、トクベツ。
何が? どこが?
もしかして、運動神経がそこそこ良い、って所が?
それだけ?
「違うわ」
「……今、表情変えて無かったのに」
「分かり易いもの、貴女。というよりは、貴女の今考えたトクベツがなんなのかは知らない。けれど違う事は分かる。貴女は絶対に気付くことのできないトクベツ」
「なん、ですか」
それはね。
──嫉妬心、よ。
「ズルイ。ズルイ。ズルイ。ズルイ。ズルイ。ズルイ。ズルイズルイズルイズルイズルイ。貴女の心の中には余りにも多くの嫉妬が渦巻いている。メンバーにも、抜けた誰かさんにも、初めて会った人だろうと、ほとんど親しくない人だろうと。ずるくて仕方がない。嫉妬嫉妬嫉妬。妬み嫉み羨望憧憬。それが貴女の、誰にも負けないトクベツ」
「……嫌です、そんなトクベツ。……汚いし」
「要る要らない、じゃないと言ったわ。嫌う好くでもないの。性質だから。水は流れるものでしょう? 凍るものでしょう? 蒸発するものでしょう? それは変えられないのよ。貴女も同じ。水鳥亜美は、嫉妬心から逃れられない。それが貴女の性質だから」
聞きたくない。
そんなトクベツ、求めてない。
でも、腕はがっちり抑えられている。抱きしめられている。
だから逃げられない。そのための拘束だったなんて思いもしなかった。
「ちなみに雪ちゃんの性質は"許せない"よ。他者も、自分も、ね」
「……別に、少しくらいは」
「価値観の根柢。世界観の奥底。私達はそういうものを絶対持っている。……でもね、じゃあそこで終わりか、と言ったら、全然。そんなことはないの」
「なんか……ヘンな宗教勧誘みたいです」
「あら、亜美さん。気が合うわね。私も初め、同じことを言ったわ」
「……そんなに不審な喋り方かしら。気を付けるわ」
VTuber水鳥亜美は、嫉妬心しか取り柄が無いのだろうか。
そんな悲しい事があるか。
「重ねて言うけれど、違うわ」
「……もう顔すら見てないじゃん」
「見なくてもわかるもの。あのね、亜美ちゃん。嫉妬する、ってことは、少なくとも目指しはする、ということよ。ずるいと思ったのでしょう? 勝てないと。並び立てないと。だって勝ちたいし、並び立ちたいから」
「それは、勿論」
「トクベツよ、それは。だって──大半の人間は、そんなこと思わないもの」
勝ちたい。並び立ちたい。ズルイ。あの才能が欲しい。
そんなの、誰だって思う事じゃないのか。
「普通はね、凄い、って思うの。綺麗だな、美しいな。感動したな、って。素晴らしいものを目の前にして、並び立ちたい! って思う衝動。立ちはだかる壁を前にして、越してやりたい、と思う感情。絶対に無理だとわかっていても──思ってしまう反応。それはトクベツなの」
「亜美さんは聞きたくもないだろうけど、私だって、貴女にずるい、と思う事はあるのよ」
「え」
「その、一切隠せてない仮面。その裏側にある暗い色の炎。……貴女はそれを、誰に対しても向けている。私は、尊敬する人は尊敬するだけで、勝ちたいとは思っていない。その人の完成を糧にして前へ進めるとは思っているけれど、この人に勝ちたい、なんて微塵も思っていない。動画の向こう。画面の向こう。自分の手に余る技術の持ち主に、越えたい、だなんて──あるいは、言葉を選ばないのなら──傲慢な考えは」
傲慢、なのか。
普通の事、じゃないのか。
「勘違いしないでね。悪い事ではないのよ、それは。治すべきところでもないの。貴女は諦めない。諦めない事が出来る。亜美ちゃんは、誰に対しても負けず嫌い。それが貴女のトクベツ」
負けず嫌い。
ああ、それは。
それだけは、納得できる。
言われた事の八割くらいは納得できていないけれど──それだけはわかる。
「辞めようとしていたでしょう、VTuber」
「え……なんで、知って」
「飽きた、って顔をしていたもの。でも、いいの? 誰にも勝てないまま終わって」
「……そんな挑発乗ると思うの? 今更? そういうの乗るの、可憐だけだよ」
「じゃあ私からも。いいのかしら? 貴女はいつまでたっても、HIBANaちゃんの眼中に無いままよ?」
あ。
このオバサン、地雷を踏みやがった。
名前さえ出していない時でもあんなに嫌がっていたのに……ああ、だからか。
わかりやすい、って、これか。
「……辞めはしないよ、多分。でもなんか……まだ、迷いたい」
「そうね。荒療治が過ぎたわ、ごめんなさい」
「だからさー。簡単に非を認めるのやめてよ。惨めな気分になるじゃん」
「ご、ごめんなさい?」
あーあ。
なんか、またぐちゃぐちゃにされちゃったなぁ。
……あーあ。
亜美ちゃんのトクベツが嫉妬心、とか。
認めたくないなぁ。
すっごく納得出来ちゃうが故に。