【WR】虹ヶ咲RTA_称号『虹の楽園』獲得ルート   作:一般紳士君

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何故か初投稿です。


1人分のサイドストーリーなのにとてつもない長さになってしまいました。時間のある時にお読みください。なんで分割する必要なんかあるんですか(正論)


サイドストーリー Part4/m

 私の左隣の席に座る堀口元樹さん。私の数少ない友人で、そして初恋の人。恥ずかしくてまだ彼には伝えられないけど。

 彼は普段ふざけた態度でいることが多いけど、それは決して相手を馬鹿にしているわけではなく、むしろ相手の警戒心を取り除くためにやっているのではないかと思う。実際、最初は彼にツンツンしていた私も数分話しただけで棘を全部抜かれてしまった。そんな私も今では彼にしっかり惚れてしまっている。これも全部彼のコミュニケーション能力の高さによるものでしょうか。

 

「んー……」

 

 そんな元樹さんが珍しくHR中にキョロキョロと教室を見回していた。難しい顔をしながら、まるで何かを探しているかのように。

 

「元樹さん、今はHR中ですよ。あまりキョロキョロしないでください」

 

 そうやって注意をすると、私の方を向いて何が嬉しいのかニコリと微笑んだ。

 

「めんごめんご。虫が飛んでる気がしてさ。気のせいだったけど」

 

 いつも先生の話はきちんと聞く元樹さんですから何かしらの理由があるとは思っていましたが、まさかそんな理由だとは……。

 

「話は変わるんだけどさ、最近すげぇ美味いラーメン屋ができたらしいんだよ。その店の場所が割と近いらしくてさ、今日の放課後一緒に行こうぜ」

「ラーメン、ですか? すみません、今日は用事があるので……」

 

 今日は習い事があるため、残念ながら行くことができない。そうやって答えると、元樹さんは少し残念そうな顔をした。多分本人は隠しているつもりなのだろうけど、思いっきり顔に出ている。なんだか子供っぽくて可愛いですね。

 

「ですが、明後日は用事がないので……その、連れていっていただけませんか?」

「そうか、明後日か……」

 

 少し悩む素振りを見せる。もしかして明後日は元樹さんに用事があるのでしょうか。うまく予定が噛み合いませんね。折角元樹さんの方から誘ってくれたのですから、ぜひとも一緒に行きたいのですが……。

 

「いや、明後日は大丈夫だわ。じゃあ明後日にするか」

「ありがとうございます。明後日、楽しみにしておきますね」

 

 どうやら明後日は大丈夫だったみたいで、その日に行くことになった。その日はいつもよりオシャレでもしましょうか。ですが学校に余計なものを持っていくわけにはいきませんし……いつも通りの恰好で行くしかなさそうですね。ちょっとオシャレな恰好をしたところで元樹さんにはあまり効果がありませんし。アクセサリーをつけた程度では気付いてくれませんからね。もう少し私のことをちゃんと見てくれてもいいと思うのですが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝学校に登校すると、教室で彼がタブレットを見ながら唸っていた。

 

「おはようございます。どうかしたのですか?」

 

 声をかけると、彼は嬉しそうな顔をして私の方を向いた。

 

「おはよう栞子。ちょっとね、宿題をね、やり忘れてたんですよ」

「宿題を忘れた?」

 

 確かに彼のタブレットの画面には今日提出の宿題が表示されていた。けれど問題は1つも解かれていなかった。ふと彼の方を見ると、救いを求めるような目で私を見ていた。確かにこの宿題の問題は元樹さん1人で解くには難しすぎるかもしれません。彼は勉強全般苦手で、この前の中間では何個も赤点を取ってしまい、補習のせいで部活に行けないと嘆いていましたから。その中でも特に数学が苦手で、全くと言っていいほどできません。

 

「栞子、お願い」

 

 ここで私が解いたものを見せるのは簡単ですが、それでは彼のためにはなりません。今は同じクラスなのでいいかもしれませんが、来年以降も同じクラスになるとは限りません。本当は今すぐにでも見せてあげたいですが、元樹さんのためにも今は心を鬼にしましょう。

 

「仕方ないですね……。私が教えてあげますから、今から一緒にやりましょう」

「ええー」

 

 口では文句を言いつつも、なんだかんだちゃんとやろうとするのが彼のいいところだ。

 彼が解くのを眺めつつ、彼の手が止まったらヒントを出すというのを繰り返す。勉強を教えるという名目で彼と密着することができるので、この時間は私にとっても至福の時間だ。いつかは理由なしにこういうことができる関係になりたいものですね。

 

「ここはどうすればいい?」

「ここはこうやって式変形をして……違います、そうではありません。ゼロで割ってはいけません」

「ぬぅ……じゃあこうか?」

「そうです、その通りです。いい感じですよ」

「よしよし。最後は……何これ?」

「そこでこの定理を使って……はい、解けました」

「おっ、ほんとだ」

 

 なんとか時間までに全部解けてよかったです。ゼロ除算をし始めた時はどうなることかと思いましたが……これは本格的に彼に数学を勉強させた方がいいかもしれませんね。

 

「ありがとうな、栞子。助かったよ」

「どういたしまして。元樹さんのお役に立てて嬉しいです」

 

 やはり人にお礼を言われるのはすごく気持ちがいいですね。私も自然と笑顔になってしまいます。

 

「ですが、次からは気を付けてくださいね」

 

 今回は時間までに終わらすことができましたが、毎回間に合うとは限りませんし。それに、そもそも宿題は家でやるものですから。

 

「運がよければやるんだけどなぁ」

「運のせいにしてはいけませんよ」

 

 宿題は運がよければやる、悪ければやらないというものではないはずです。こんなことを言うのは元樹さんだけではないでしょうか。

 

「わからない所があれば遠慮なく聞いてください。学校でなくても、連絡をくれれば教えますから」

「じゃあ運がいい時は栞子に連絡することにするよ」

 

 もう、本当に元樹さんは……。

 でもそんな返事が彼らしくて好きだと思ってしまうのは、私が元樹さん色に染め上げられている証拠なのでしょうか。そう考えると急に恥ずかしくなってきますね……。元樹さんも、私色に染まっていると感じたりするのでしょうか? 恥ずかしすぎてさすがに聞くことはできませんが。

 

「話は変わるのですが、昨日した約束は覚えてますか?」

「もちろん。明日一緒にラーメン巡り全国ツアーするって約束だろ」

「少し違いますね。全国ツアーまではできません」

「冗談だって。本当は新しくできたラーメン屋に行くって約束だよな?」

「はい、そうです。なんで最初に冗談を言ったのですか。本当に覚えていないのかと心配したじゃないですか」

 

 というのは冗談ですけど。元樹さんが人との約束を忘れたところを見たことがありませんし。いつもは私がからかわれていますから、たまには彼をからかってみたくなりました。彼はどういう反応をするのでしょうか。

 

「悪かったって。栞子との大切な約束を忘れるわけないじゃん」

「た、大切……」

 

 本当にずるいです……。

 からかったつもりが、逆にからかわれてしまいました。彼のことですから、からかうつもりじゃなくて本心から言っているのかもしれませんが。むしろそちらであってほしい。私と同じ恋心は抱いていなくても、せめて特別な存在とは思われていたいです。

 元樹さんと初めて話した時はこんな風になるとは思っていませんでした。何があるかわからないものですね。

 

「ところで、なんで栞子は今その話をしたんだ?」

「え? えっとですね……その、笑わないですか?」

「場合による」

「その、元樹さんともっとお話しがしたかったので……。けど話す話題が思いつかなくて……」

 

 理由を話すと、元樹さんは笑いはしなかったけど子供を見るような目で私のことを見つめてきました。やっぱり正直に話さなければよかったです。恥ずかしい……。

 

「いいよ。話題は俺が出してあげるから、授業が始まるまでお話ししようか」

「本当ですかっ! ありがとうございます!」

 

 やっぱり正直に話してよかったです。恥ずかしい思いをした甲斐がありました。

 

 

 

「元樹さん、今日も一緒にご飯を食べましょう」

 

 午前の授業が終わりお昼休みになったので、いつも通り元樹さんと一緒に昼食を食べる。彼の前の席の方がいつも学食に行かれるので、その席をお借りして彼と向かい合って食べる。最初の頃は恥ずかしかったけど、今ではすっかり慣れてしまった。

 

「元樹さんは今日もそのセットなんですね。一緒に食べるようになってしばらく経ちますが、別のものを食べている所を見たことがありません」

 

 元樹さんはいつも通りのパンとおにぎりのセットだ。節約のためと言っていたけど、これでちゃんとお腹が膨れるのか疑問だ。

 

「いいじゃん、美味しいんだもん。それに見ろよこれ。いつもは鮭おにぎりだけど、今日の具はわさびまぐろだぞ。美味しそうだろ?」

「具材の話をしているのではありません。いつもパンとおにぎりのセットばかり食べていますねという話です。もっとちゃんとしたものを食べないと体を壊してしまいますよ?」

「そう?」

「元樹さん自身のことなんですから、もっとちゃんと興味を持ってください」

 

 彼自身の体のことなのに本当に興味がなさそうにおにぎりを頬張る。

 

「元樹さんに何かあったら悲しいですから」

「心配してくれてありがとな。家ではちゃんとしたもの食べてるから大丈夫だって」

「それならいいですが……」

 

 それでもやっぱり心配だ。もし元樹さんが倒れたりしたら、私はきっと……

 

「ご馳走様」

 

 私がそんなことを考えているとは知らずに、彼はあっという間に昼食を食べ終え、そして立ち上がった。

 

「どこか行かれるんですか?」

「ちょっと中庭で人に会ってくる」

「……その方は女性の方なのですか?」

「そうだよ」

 

 元樹さんが女性と会う。女性……まさか元樹さんの彼女でしょうか? ですが彼女がいるという話は聞いたことがありませんし、そんな素振りもありませんでした。

 

「どうした?」

「……なるべく早く戻ってきてくださいね」

「ん、わかった」

 

 なんだか胸の奥がムズムズする。その女性の方が羨ましい。元樹さんに行ってほしくない。このまま私のそばに居てほしい。自分の中で黒い何かが溢れてくるのがわかる。抑えようと思っても抑えきれない。これが嫉妬というものでしょうか。

 そんな私の気持ちを知らない彼はとっくに出て行ってしまった。私はその後ろ姿をただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に登校する途中、眠たそうにあくびをしながら道を歩く元樹さんを見つけた。彼の隣に駆け寄る。

 

「元樹さん、おはようございます」

「ああ、栞子か。おはよう。登校中に会うのは珍しいな」

「そうですね」

 

 確かに珍しい。いつも私よりも早く学校に着いていますから。

 

「一緒にラーメンを食べに行くのが楽しみで、昨日はあまり眠れませんでした……」

「栞子も? 実は俺も同じなんだ。おかげでちょっと寝坊しちまったよ」

 

 元樹さんも今日を楽しみにしていてくれたのですね。私だけじゃなくてよかったです。

 

「寝不足同士仲良くお昼寝でもするか? 授業中にだけど」

「元樹さんと一緒にお昼寝は魅力的ですが、居眠りはダメですよ。もし居眠りをしていたら私が起こします」

 

 元樹さんはたまに本当に授業中に居眠りをしますからね。彼の寝顔を見るたびに起こすのを躊躇ってしまいます。実際何度か起こすことができなかったこともあります。放課後私と元樹さん以外誰もいなくなるまで寝ていた時は一瞬よくない考えが頭をよぎってしまいました。場所が学校ということもあって我慢できましたが、場所次第では我慢ができずに元樹さんとそういうことをしてしまったかもしれません。

 そういえば、今日だけでなく元樹さんはいつも眠たそうにしていますね。毎日夜更かしをしているのでしょうか。

 

「今日の私が言えたことではありませんが、元樹さんもちゃんと夜に寝ないとダメですよ」

「わかってるんだけどさ、なんかあんまり寝れないんだよ」

「もしかして不眠症気味なのですか……?」

「そうかもしれないな」

「そうですか……。あの、元樹さんの症状が少しでもよくなるようにいろいろ調べてみます」

「マジ? 助かるよ、ありがとう」

 

 元樹さんの寝不足が改善すれば授業中に居眠りをすることもなくなりますからね。起こそうとするたびに葛藤する私の身にもなってほしいです。今度放課後に彼の前で寝たふりでもしてみましょうか。元樹さんも私の寝顔を見て悶々としたりするのか気になりますね。真面目な彼は学校で襲うことはしないでしょうが、もし襲ってきてもきっと受け入れてしまいますね。

 

 

 

 少し寝そうになりましたが、私も元樹さんもなんとか居眠りせずに午前の授業を乗り切ることができました。眠たそうにする私が珍しかったのか、何人かの先生に心配されましたが。

 

「お昼食べましょう!」

 

 今日はあと1限とHRだけで、それさえ終われば元樹さんとお出かけできます。その期待でだんだん目が覚めてきました。元樹さんはまだ少し眠たそうにしていますが。

 

「昨日カップルが学内で抱きしめあっていたという噂を知ってますか」

 

 今朝元樹さんがお手洗いに行っている間にクラスの方から聞いた話題を話すことにしました。

 

「へぇ」

 

 案の定というか元樹さんはあまり興味がなさそう。ただ単に眠たいだけなのかもしれませんが。

 

「なんでも廊下で堂々とやっていたのだとか」

「廊下……どこの廊下?」

「1年情報処理学科の教室前らしいです」

「あっ、ふーん……」

 

 話に興味を持ったかと思えばよくわからない反応を示す。変な元樹さんですね。

 

「仲睦まじいのはとてもいいことだとは思いますが、学内の風紀を乱すのはいただけませんね」

「そうだな……」

 

 やはり微妙な反応だ。まだ眠たいのでしょうか。もうお昼ですよ?

 

「んー……」

 

 そんな元樹さんがずっと何かを見つめていることに気付いた。その視線を追うと、私のお弁当に入っているポテトサラダに辿り着いた。

 

「……どうしたのですか? 先程から私のポテトサラダを凝視してますが……」

「美味そうだなーって」

「もしかして食べたいのですか?」

「うん」

 

 思い返すと、元樹さんはずっとポテトサラダを見つめていた気がしますね。もしかして眠たかったわけではなくて、単にポテトサラダが気になっていただけなのでしょうか。元樹さんらしいといえばらしいですが……。

 

「いいですよ。好きなだけ食べてください」

「マジ? ありがとう」

「あっ、でも元樹さんはお箸を持ってませんよね……」

「じゃあ栞子が食べさせて」

「えっ!? わ、私がですか……?」

 

 元樹さんがとんでもないことを言うものだから、思わず大きな声を出してしまった。周りから注目が集まるが、いつものことなのでそれは気にならない。

 元樹さんは本当に私の気持ちに気付いていないのでしょうか。本当は気付いていて、その上で私を弄んでいるとしか思えません。食べさせてくれなんて普通言いませんよ。こんなことをするからクラスの中で私と元樹さんが付き合っているなんて噂が立つんです。彼はこの噂のことを知らないと思いますが。

 

「そんな目で見ないでください……」

 

 そんなことを考えているとは知らずに、彼は口を開けて待っている。期待に目を輝かせながら。

 どうせ私の気持ちには気付いていないのでしょうね。あんなにアピールをしているのに……。はぁ、どうしてこの人を好きになってしまったのでしょうか……。

 

「まだ?」

「うぅ、わかりました……」

 

 催促をされたためいい加減覚悟を決める。別に嫌なわけではなく、ただ恥ずかしいだけなんです。そんな私の気持ちを知らないで、ずっとポテトサラダを口に入れられるのを待っている彼に少しだけ苛立ちを覚える。元樹さんは恥ずかしいとは思わないのでしょうか?

 

「あ、あーん」

「んぐっ」

 

 勢い余って口の奥にポテトサラダを置いてしまった。けど元樹さんなら許してくれるでしょう。

 

「お味はいかがですか……?」

「うん、おいしい」

「それはよかったです。恥ずかしい思いをした甲斐がありました」

「今思ったんだけどさ、これは風紀を乱したことにはならないの?」

 

 彼も実はそういうことを意識していたのだとわかり、少しだけ嬉しくなる。

 

「私達はただ食事をしているだけですから。なので何も問題はありません」

「ほんとにぃ?」

「はい、本当です。それとも、元樹さんは今のを卑しい行為だと思っているのですか?」

「いや……」

「そうですよね。私達はただ仲良く食事をしていただけですから」

 

 でも先程風紀を乱してはいけないと言った手前、乱したことにはならないと否定するしかありません。

 

「じゃあさ、もし俺が栞子以外の女の子と飯を食べさせあってたらどう思う?」

「それは……」

 

 突然そんな変な質問をされた。そうですね、例えば元樹さんとクラスの女子の方が……いえ、想像するまでもなく答えは決まってますね。

 

「元樹さんの交友関係に私がどうこう言うことはできないというのはわかっていますが、それでもやはり悲しい気持ちになります。そのような光景は考えたくもありません……」

 

 やはり好きな人が別の方と仲良くするところは見たくも考えたくもありません。無理だとはわかっていても、元樹さんには私だけを見ていてほしいです。

 どこに満足する要素があったのか、満足気な表情で元樹さんは立ち上がる。

 

「どこか行かれるのですか?」

「調べたいことがあるからちょっと図書館に行ってくる」

「私もお手伝いしましょうか?」

「え? いや、大丈夫……。気持ちだけ受け取っとくよ」

「わかりました……」

 

 多分図書館に行くというのは嘘ですね。何故嘘をつくのか問い詰めたいところですが、元樹さんに嫌われたくはないので我慢します。きっと私には知られたくない理由があるのでしょうから。誰しも隠し事の1つや2つありますからね。

 

「図書館で授業をサボってはいけませんよ。もし授業が始まっても戻ってこなかったら、私が捕まえに行きますからね」

「それさ、栞子もサボったことにならないか?」

 

 

 

「ふぅ、やっと終わった……」

 

 伸びをする元樹さんを横目に、同じように私も伸びをする。決めることがあったりして、今日のLHRはいつもよりも長かった。

 

「よし! それじゃあラーメン食いに行くか」

「はい、行きましょう!」

「いや、でも晩飯を食べるには時間が早すぎるか」

「確かにそうですね。ご飯の前にどこか遊びに行きますか?」

「そうだな。ちょっと寄りたいところもあるし」

「どこに行きたいんですか?」

「本屋に行きたい」

「本屋ですか。いいですね。元樹さんの勉強の参考になりそうな本を選んであげます」

「うへぇー」

 

 世の中には私が教えるよりもわかりやすい参考書が山ほどありますからね。期末で赤点を取らないように元樹さんはもっと勉強をすべきだと思います。

 

「まぁいいや。栞子はどっか行きたいとこある?」

「そうですね……あの、私げーむせんたーというところに行ってみたいです」

「いいね。もしかしてゲームセンター初体験?」

「実はそうなんです。クラスの方からお話で聞いたことはありましたが、実際に行ったことはないんです。なのでゲームセンターでの遊び方を教えていただけないでしょうか?」

「もちろんいいぞ。マイナーな遊び方をいっぱい教えてやる」

「あの、できればメジャーな遊び方でお願いします」

「しょうがねぇなぁ」

 

 何故マイナーな遊び方を教えようとするのでしょうか。

 

「じゃあ行くか、デート」

「デ、デート……」

 

 元樹さんはこれをデートだと思ってくれてたんですね。もしかして私のことを意識してくれているのでしょうか……。そう考えたら顔が熱くなってきました。赤くなっているのが元樹さんにバレてないといいのですが……。

 

 

 

 本屋に来ました。相変わらず大きな本屋ですね。ここなら元樹さんに合う参考書もたくさん見つかると思います。

 

「元樹さんが欲しいのはどんな本なんですか?」

「ファッション雑誌」

「ファッションですか。なんだか意外ですね。元樹さんはあまりオシャレとかに興味がなさそうでしたし」

「まあね」

 

 休日に出かけた時はいつも、その、失礼ではありますがオシャレとは言い難い恰好でしたし。ですが私は元樹さんのオシャレじゃない感じが逆に好きなんです。

 

「オシャレに興味を持つことはいいことだと思いますよ。私もオシャレな元樹さんを見てみたいですし」

「そう? じゃあ頑張らないといけないな」

「私も元樹さんの隣に立てるようにファッションの勉強をしないといけませんね」

「栞子の私服は今でも十分にオシャレだと思うよ。俺は好きだし」

「ほ、本当ですかっ! ありがとうございます!」

 

 元樹さんは私の私服が好きだと言っているのであって、私自身のことが好きだと言っているわけではないのはわかっていますが、それでもすごく嬉しいです。今まで元樹さんとお出かけする時は家を出る前にどの服を着たらいいかずっと悩んでいましたが、これからはその必要はなさそうですね。

 

 私が元樹さんの言葉に喜んでいる間に、彼は購入する雑誌を決めていました。元樹さんが手に取った雑誌の表紙には見たことがある方がのっていました。

 

「その方は確か……」

「ん? 知ってるのか?」

「確かライフデザイン学科3年生の朝香果林さんでしたよね。クラスの方達が話しているのを聞いた覚えがあります」

「へぇー。こんな美人な人がうちの学校にいたんだな」

「むっ……」

 

 確かに朝香さんは同性の私から見ても美人だとは思いますが、今隣にいるのは私なんですよ? 私には可愛いとか美人とか言ってくれないのに……。それに元樹さんの視線が朝香さんの胸に行っている気がします。そのボリュームに思わず自分の小さなモノと比べてしまう。

 

「……元樹さんは、朝香さんのような女性がタイプなのですか……?」

 

 好奇心は猫をも殺すと言いますが、聞かずにはいられませんでした。朝香さんの方が好みだと言われたらどうしましょうか……。頑張ったところで大きくなるようなものでもないのに……。

 

「タイプかぁ。そうだな……特にないな。あえて言うなら好きになった人がタイプだな」

 

 好きな人……。

 

「元樹さんは好きな人とかいるのですか?」

「いないよ」

「そうですか……」

 

 本当にいないのか、それとも私に隠しているのか。どちらにしてもあまり嬉しいことではありませんね。いないのであれば私が意識されていないということですし、いるとしてもそれが私である可能性は低いでしょう。前者に関しては元樹さんがフリーでチャンスがあるという考え方もできるかもしれませんが、今まであれだけアピールをして意識されていないとなるともはやノーチャンスなのではないでしょうか。

 

「……私はいますよ、好きな人」

「え、マジ? 誰? どんな人?」

 

 やはり気付いてないのですね……。

 

「えぇっとですね……その方は普段はふざけていることが多いんですけど、いざとなれば誰よりも真面目にやってくれるんです。クラスでの話し合いでも自分から積極的に発言していて、クラスの方からよくまとめ役をお願いされていますね。それからとても優しくて、入学したての頃、ずっと1人でいた私に声をかけてくれたんです。その時からよく話すようになって、昼食も一緒に食べますし、休日は彼の方から遊びに誘ってくれることもあります。それ以外にも困ったことがあればいつも助けてくださって、ボランティア活動なども手伝ってくれるんです。……ただ、その方は勉強がすごく苦手でして、よく勉強を教えてほしいと私を頼ってくださるのですが、上手く教えてあげられない時もあって……。人にわかりやすく教えるにはどうすればいいのか、いつも私が勉強をさせてもらってます。……こ、これくらいで勘弁してください……恥ずかしいです……」

 

 もちろん元樹さんの好きなところはまだまだたくさんあるのですが、途中で告白をしているようなものだと気付いて恥ずかしくなってしまいました……。ここまで元樹さんを指す情報を言って気付いてもらえないのであれば、もはや鈍感すぎる元樹さんに問題があるような気がします……。未だにちゃんと告白できていない私に当然問題があるのはわかっていますが。

 

「おぉ……栞子はそいつのことが大好きなんだな」

「はぁ……」

 

 どうして今ので気付かないのですか……。昼食なんて元樹さん以外と食べてないでしょう。今日だって元樹さんの方から誘ってくれたじゃないですか。先週もボランティア活動を手伝ってくれましたし、全部元樹さんに当てはまることじゃないですか。やはり元樹さんの方に問題があるのでは……?

 

「栞子はそいつに告白しないの?」

「こっ、告白ですか!? ……今までに何度かしようと思いましたけど、恥ずかしさと振られる怖さで言い出すことができなくて……。相手からどう思われているのかわからないのって、こんなにも怖いことだったんですね……。結果はどうであれ、いつかはちゃんと告白したいとは考えてはいるのですが……」

 

 2年生でも同じクラスとは限りませんし、違うクラスになったらきっと会う機会が減ってしまうでしょう。なので2年生になるまでには告白できるように頑張りたいです。

 

「告白とまではいきませんが、好きということは何度もアピールしているのですが、どうにも気付いてもらえなくて……」

「とんだ鈍感野郎だな」

 

 誰のことだと思っているんでしょうか……。

 

「やっぱりアピールが遠回しすぎるのでしょうか。それとも単純に私に興味がないのでしょうか……。嫌われてはいないとは思うのですが、恋愛対象としては見てもらえていないのでしょうか……」

 

 思わず泣きそうになってしまう。……この程度で泣いていてはいけませんね。いざ告白して振られてしまったら、私はどうなってしまうのでしょうか……。

 

「んーそれはないんじゃないか? 栞子は十分すぎるほど魅力的だし」

「……えっ? 私が、魅力的……ですか?」

「ちょっと真面目すぎるところも優しいところも全部栞子の魅力だよ。普段から最高に可愛いし、照れた時なんかもっと可愛い。俺は栞子の全部が好きだぞ。俺だったらそんな栞子を恋愛対象として見ないなんてことはないなぁ」

「本当に、そう思っていますか?」

「もちろん」

「そうですか」

 

 どうしましょう。ニヤニヤが止まりません。頬が緩んでしまいます。まさか元樹さんが私のことをあんな風に思ってくれていたなんて……。元樹さんから可愛いと言われたのは初めてです。

 きっと元樹さんの好きは私の好きとは別物なのでしょう。でも今はそれでも構いません。これから好きになってもらえばいいのですから。だから今はこの関係で我慢します。ですが元樹さんが私を恋愛対象として見てくれていることがわかった以上、これからは今まで以上にアピールをしていくことにします。元樹さんが私を好きになってくれるまで。いっそのこと元樹さんの方から告白してくるくらい惚れさせたいですが、それは難しいかもしれませんね。元樹さんが誰かに告白する図が浮かびませんし、彼は意地でも自分から告白しない気がします。何の根拠もありませんが。

 

「次は参考書を見に行きましょうか。私が元樹さんに合う参考書を選んであげます」

「何か急に上機嫌になったな」

「ふふっ、気のせいですよ」

 

 好きな人からあんなことを言われて上機嫌にならない方がおかしい。こういうのもいっそ隠さないでみましょうか。

 

「さて、元樹さんにはどんな本がいいでしょうか……」

 

 元樹さんは数学全般が出来ていませんから、基礎から書かれている本がいいかもしれません。それから問題の解説で式変形がきちんと書いてあるものもいいかもしれません。よくわからない変形を当たり前かのように書いてある本もたまにありますからね。わかる人にはわかる変形なのかもしれませんが、多分元樹さんには辛いでしょう。

 その元樹さんはといえば、参考書を選んでパラパラと見ては難しい顔をして戻すを繰り返しています。その度に何かカタコトで呟いていますが、よく聞くと数学でよく聞く言葉ですね。……あまり難しい言葉が使われていない本にしたほうがいいかもしれません。

 

「この本はいかがでしょうか。問題数が少な目ではありますが、きちんと基礎から書いてあって、数学全般が全くできない元樹さんにはオススメです。それからこちらの本もいいと思います。こちらは問題数が多く、応用問題の解説も式変形が詳しく書かれているためすごくわかりやすいです。どちらにしますか?」

「じゃあ両方買おうかな。折角栞子が俺のために選んでくれたんだし」

「両方、ですか? 2冊買うとなるとそこそこのお値段になりますが、大丈夫ですか?」

「うーん……これなら大丈夫。これで頭がよくなるなら安いもんだ」

「はい、どうぞ。ちゃんと勉強してくださいね。わからないところがあれば教えますから」

「ん、わかった。栞子は何か買いたい本とかある?」

「私は大丈夫です。レジの近くで待ってますので」

「了解。買った後ちょっとトイレに行きたいから遅くなるかもしれん」

「わかりました。本を見ながら待ってますね」

 

 元樹さんが空いているレジに入るのを見送り、その近くにある本を眺める。ここは本当にいろんな本がありますね。本好きの方にはたまらない空間でしょう。

 ふと、1冊の本が目に入った。『これで完璧! 恋愛マスターが教える恋愛のコツ100選!』という明らかな恋愛本だ。胡散臭さがあってこういう本はあまり読まないのですが、何故かこの本だけは気になって仕方ありません。この本に不思議な力でもあるのでしょうか。

 残り1冊……。お値段は500円ですか。そこそこ厚みのある本なのに安いですね。どうしましょうか……。ここで買わなかったら後悔する気がします。元樹さんはお手洗いに行くと言ってましたよね。本を1冊買うくらいの時間はあるはずです。……騙されたと思って買ってみましょうか。お手頃価格ですし。

 

 

 

「買ってしまいました……」

 

 家に帰ったら早速読みましょう。ただ、家族には見つからない場所に保管しないと。家族からは元樹さんを一度家に連れてこいと言われていますから。見つかったら何を言われるかわかりません。

 

「お待たせ」

 

 元樹さんの声が聞こえる方を見ると、彼が手を振っていたので私も小さく振り返す。元樹さんにもこの本を見られないようにしないと。恥ずかしいとかではなく、何故か元樹さんには見せてはいけない気がするのです。

 

「じゃあゲームセンターに行こうか」

「はい。楽しみです!」

 

 

 

「ここが、ゲームセンター……!」

 

 先程の本屋以上に広い。そしていろいろな音が混ざり合って少し騒々しい。ですがゲームセンターで遊ぶ皆さんはすごく楽しそうです。

 

「何したい? 栞子のやりたいゲームでいいよ。といっても初めて来たんだから何があるかわからないだろうけど」

 

 元樹さんの声が少し聞き取りづらくなることはマイナス評価ですね。

 

「コインゲームというもので遊んでみたいです」

「コインゲームかぁ。コインゲームを楽しむには今日はちょっと時間が短いかな」

「そうですか……」

「また今度、な? 次は休日に来ような。それならたっぷり時間があるから、一緒にコインゲームで遊ぼうな」

「また今度……一緒に……そうですね。また今度、2人で来ましょう」

 

 図らずもまた一緒にお出かけする約束ができてしまいました。それも休日にですから、元樹さんとたくさん遊ぶことができますね。

 

「他に何がしたい?」

「何があるか全くわからないので、とりあえず歩きながら決めてもいいでしょうか?」

「もちろんいいよ」

 

 歩きながら何があるのか確かめる。どれも面白そうなゲームばかりですね。あの洗濯機のようなものはなんでしょうか。そのゲームで遊ぶ方達は大きく激しく腕を動かしています。どんなゲームか気になるのでやってみたいのですが、あんなに動くのは私には無理そうですね。

 

「あの車みたいなものは何ですか?」

 

 1つ気になるゲーム? があった。ゲーム台に車の座席とハンドルがついているものだ。よく見ると足元にもアクセルとブレーキがついている。運転シミュレーターでしょうか。でもそんなものがここにあるはずがありませんし……。

 

「ああ、あれはレースゲームだ。決められたコースをあのハンドルとかで操作しながら走って、ゴールまでのタイムを競うんだ

「レースゲーム……楽しそうです!」

「やってみる?」

「はい! 元樹さんも一緒にやりましょう」

「いいよ。協力プレイとかはないから対戦しようか」

 

 対戦……元樹さんはきっと初めてではありませんよね?

 

「その、初めてなので優しくしてくださいね……?」

「善処はする」

 

 席に座って元樹さんから基本的な操作方法を教えてもらい、ようやくゲームをスタートする。操作できるキャラクターがたくさんあってそれぞれ性能が違うみたいですが、初心者の私には何が何だかわからないので可愛らしい亀のキャラクターにすることにしました。

 

 

 

「やりました、1位です!」

 

 初めてのプレイで1位になることができました。嬉しいです。予想していたよりも難しいゲームでなくて助かりました。

 

「負けた~」

「元樹さんが手を抜いていたのが悪いのでは?」

 

 前半の元樹さんは明らかに手を抜いていた。

 

「それはそうだけどさ……ま、まぁ栞子が俺の予想よりも上手かったってことで。で、次は何する?」

「そうですね、次は……」

 

 辺りをぐるっと見回すと、台の上で何かを打ち合うゲームを見つけた。この位置では何を打っているのか見えませんね。ですが面白そうです。

 

「あれをやってみたいです!」

「あれはエアホッケーだな」

 

 同じ種類の台が1台空いていたのでそこを使う。

 

「これはどうやって遊ぶのですか?」

「四隅になんか置いてあるだろ? それでパックを打ち返すんだ。パックはまだ出てきてないけど。で、打ち返して相手のゴールに居れたらこっちの得点になる。あ、ゴールはここね」

「なるほど、わかりました」

 

 四隅に置いてある突起物のついたものを手に取る。これを使えばいいんですね。元樹さんはそれを両手に持っていますが、私は片手だけにしておきましょう。片手では無理だとわかったら両手持ちにすることにします。

 

「これがパックな。そっちに行ったから最初は栞子が打つんだ」

「なるほど、では……」

 

 ゴールに入れればいいんですよね? ではいきなりゴールに入れてしまいましょう。

 

「えいっ」

 

 ゴールを直接狙うも、簡単に止められてしまう。そして元樹さんが横の壁に向かってパックを打つ。壁で反射したパックはジグザグに動きながら私のゴールに吸い込まれました。

 

「よし、まずは1点」

 

 なるほど、直接ゴールを狙うよりもこうやって狙った方がいいんですね。

 

 

 

「ふふっ、エアホッケーも私の勝ちですね」

 

 元樹さんが手加減をしてくれたのか、それとも単純にパワーがないだけなのか、彼が打ったパックはそれほどスピードがなかったため簡単に打ち返すことができました。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 そして何よりも途中でも元樹さんのスタミナが切れたことが大きかった。

 そのスタミナの切れた彼はゲーム終了後からずっとベンチに座っている。

 

「えっと、大丈夫ですか?」

「むりぃ……」

「それなら……はい、これをどうぞ」

 

 ベンチのすぐ横にある自動販売機で飲み物を買い、元樹さんに渡す。

 

「コーラです。コーラは体力回復に効果的だと聞いたことがあります」

 

 クラスの方が体育の後に「ほう、コーラですか……たいしたものですね」と言っているのを聞いたことを思い出しました。きっと体力回復に効果があるはずです。

 

「私もスタミナがある方ではないのであまり人のことは言えないのですが、元樹さんはもっとスタミナをつけた方がいいのでは? 今後働く上でもスタミナは必要ですからね」

 

 さすがにエアホッケーで切れるスタミナなのは問題があると思います。

 

「ふぅ」

 

 そうこうしているうちに元樹さんがやっと立ち上がった。

 

「もう大丈夫なのですか?」

「動けるくらいには。多分コーラのおかげかな」

 

 やはりコーラには体力回復の効果があったのですね。

 

「次は何する? できればあんまり動かないやつがいいかな」

「プリクラというものを元樹さんとやってみたいです」

「いいよ」

「ありがとうございます!」

 

 プリクラに誘うのは少し恥ずかしかったですけど、思い切って誘ってみることにしました。

 ちょうど1台空いていたのでそこに一緒に入る。

 

「これがプリクラですか。少し狭いですね……」

 

 外から台を見た感じよりも中が狭く、横に並んだら肩が触れてしまうほどの大きさだ。

 

「どんなポーズで撮る? 栞子のやりたいポーズでいいよ」

「いいんですか?」

 

 1つずっと元樹さんとやってみたかったものがあるのですか、それをやるのはあまりにも恥ずかしすぎます……。でも誰も私達を見てませんし、これくらいやらないと元樹さんへのアピールにはならない気がしますし……。でもこれをやるにはさすがに元樹さんの許可が……。

 

「遠慮せず、何でもいいぞ」

「それなら……えいっ」

「えっ?」

「こ、これでお願いします……」

 

 思い切って元樹さんの左腕に抱きつく。顔が近いです……。この距離で見つめるのはやめてください、これ以上のものが欲しくなってしまいます……。少し背伸びをすれば……いえ、これはまだダメですね。正式なお付き合いをする、あるいは元樹さんから求められるまでは我慢です。

 

「栞子がこれがいいならこれで撮るか。じゃあはいチーズ」

 

 元樹さんの掛け声に合わせて自分にできる最大限の笑顔をする。撮るからにはいい写真にしたいですから。

 

「恥ずかしさで倒れるかと思いました……」

「やらなければよかったんじゃない?」

「元樹さんは全く恥ずかしくなさそうでしたね。……もしかして、慣れていたりしますか?」

「い、いやいや。まさかそんな。顔に出てないだけだよ」

「元樹さんがそういうタイプだとは思えませんが……」

 

 むしろ思いっきり顔に出るタイプだと思います。

 

「ですが、元樹さんがそうだと言うのであれば信じましょう」

「まぁ本当のことだからね。じゃあデコするか」

「デコ……ですか?」

「さっき撮った写真に文字を書いたりなんかいろいろデコレーションできるんだよ」

 

 元樹さんに操作方法を教えてもらい、自由にデコレーションをする。その彼はといえば、どこか興味なさそうに明後日の方向を向いている。あまりそういうのは好きではないのでしょうか。

 

「うーん、悩みますね……」

 

 目を大きくしたりできるみたいなので試しにやってみましたが、どうもしっくりこないのでやめました。元樹さんがデコレーションがあまり好きではないのでしたらシンプルなものにしてみましょうか。とりあえず私達をハートマークで囲って、それから上にLOVEと書いておきます。

 

「終わりましたよ。はい、これができた写真です」

「ん、サンキュー」

 

 改めて見るとこれは……他の人には見せられませんね。

 

「これは誰かに見られたら勘違いされるな」

 

 私は勘違いされても構いませんけどね。というよりもクラスの方達はすでに勘違いをされていますし。一応私の一方通行ではあるので、その勘違いも半分は正解と言えるかもしれませんが。

 

「大切にしてくださいね? 私も大切にしますから」

「もちろん。誰にも見られない場所で保管するよ」

 

 私はどうしましょうか。袋か何かで包んでカバンにでも入れておきましょうか。そうすれば見たくなった時に見ることができますから。

 

「もういい感じの時間だし、そろそろラーメン屋に行くか」

「そうですね。お腹も空いてきましたし」

 

 ここまでの移動が歩きだったり、エアホッケーで動いたり、恥ずかしい思いをしたりでお腹が空いてきました。これなら美味しいラーメンをお腹いっぱい食べられそうです。

 

 

 

「たくさん人が並んでますね……」

「ああ、これはちょっと想定外……」

 

 ラーメン屋さんの前には私達以外にもたくさんの人が並んでいました。これは入店までにそこそこの時間がかかりますね。15分くらいですかね。

 元樹さんはカバンから先程購入したファッション雑誌を取り出して読み始めた。

 

「私も隣から見てもいいですか?」

「いいよ。一緒に見ようか」

「ありがとうございます」

 

 モデルというだけあって、皆さんスタイルがいいですね。朝香さんのページになるたび元樹さんのページをめくる速さが少しだけ遅くなるのが気になりますが。なんだかモヤモヤします……。

 

「……朝香さんは本当にスタイルがいいですね。羨ましいです……」

 

 自分のモノを制服の上から触る。ぺったんこというわけではないと思いますがが、朝香さんのモノと比べるとやはり貧相ですね……。私も2年後は朝香さんのような大きさになれるのでしょうか……。

 

 朝香さんのページになるたび元樹さんのことを睨んでしまいましたが、最後まで読み終えました。

 

「想像していたよりも勉強になる雑誌でしたね」

「そうだな。買うだけの価値はあったよ」

 

 そういえば、この雑誌は女性向けのファッション雑誌ですよね。元樹さんが読んでも何の参考にもならないのでは? ……もしかして最初から朝香さんが目的で……? 元樹さんには一度小さいモノのよさを説かなければならないようですね……!

 

「2名様ごあんなーい!」

「ようやく私達ですね。思っていたよりも長かったです」

「ちょうどこの雑誌1冊分だったな」

 

 仕方ないですね、この話をするのは今度にしてあげましょう。

 

 店内に入って案内されたのはカウンター席でした。壁のそばの2席でしたが、壁側の席を譲ってくれました。

 

「いっぱいメニューがあって、どれにするか悩んでしまいますね」

「あれなんてどうだ? スペシャルラーメン、当店オススメらしいぞ。ネットでもこれがすごく美味いって聞いたし」

「なるほど。ではそれにします。元樹さんは?」

「俺もそれで」

「わかりました。すみません、スペシャルラーメンを2つお願いします」

 

 ラーメンが完成するまで元樹さんとお話ししていようと思っていましたが、彼は何故か麺の湯切りを真剣に見ていたので、私も湯切りを眺めることにしました。店主の方でしょうか、すごく高い位置から湯切りをしています。あれが前教えてもらった天空落としというものでしょうか。

 

「おまちどう!」

「おぉ、すげぇ……」

「チャーシューがいっぱいですね!」

 

 出されたラーメンには3種類のチャーシューがこれでもかというくらいに盛られていた。これがスペシャルラーメン……すごく美味しそうです。

 

「「いただきます」」

 

 まずはチャーシューを1口……

 

「美味しいです! このチャーシューがすごく柔らかくて、味もしっかりと染みていて……こんなに美味しいチャーシューは初めて食べました!」

「な! 想像以上の美味しさ!」

 

 あまりの美味しさに手が止まりません。

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

 

 あんなに山盛りだったチャーシューもペロリと食べられてしまいました。あれだけ食べたとなると少しカロリーが気になりますね。……少し運動をしましょうか。

 

 お会計を済ませて外に出る。あのボリュームで1000円未満なのはお得ですね。お得すぎて赤字になってないか心配してしまいます。

 

「そろそろ帰るか」

「そうですね」

 

 本当はまだまだ一緒に居たいですが、門限を破るわけにはいけないので帰ることにします。

 

 元樹さんと一緒にお出かけをした時はいつも家の前まで送ってくださいますが、いつも家の近くで別れることにしています。本当は家の前まで送ってもらいたいですし、できることなら私の部屋に上がってもらってもう少しお話しをしていたいです。ですが家族に見つかると少々厄介なことになってしまうので。せめて正式にお付き合いをしてからと言っているのに、彼に会わせてほしいと何度も言われるので……。

 

「元樹さん、今日はありがとうございました。一緒に本屋に行って、ゲームセンターに行って、元樹さんとプリクラを撮って、美味しいラーメンも食べて、すごく楽しい時間でした」

「俺も楽しかったよ。ありがとうな」

「私はここで大丈夫ですので。それでは。また明日会いましょう」

「ああ、また明日」

 

 今日は本当にいろいろあって、いつも以上に濃密な日でした。朝香さんに嫉妬したりもしましたが、それ以上に楽しいこともたくさんありました。元樹さんからどう思われているかも知れましたし、抱きついてプリクラを撮ったり……この先私と元樹さんの関係がどうなろうとも、この日のことは一生忘れないでしょう。できることならもう一度、元樹さんとこんな濃密な時間を過ごしたいです。叶うなら友達としてではなく恋人として……。




感想などお待ちしております。


溜まっていたとはいえ、栞子ちゃんだけで17000字越え……。誤字とかいっぱいありそう。
ちなみに、りなりー回(サイドストーリー Part3/m)は6000字にいかないくらいです。
これは栞子ちゃんがメインヒロインだな!

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