【WR】虹ヶ咲RTA_称号『虹の楽園』獲得ルート 作:一般紳士君
「おはようさん」
「おはようございます」
お手洗いに行こうと教室のドアの前まで来たタイミングで元樹さんが登校してきました。歩き方が少し変なような……まあ、おそらく気のせいでしょう。筋肉痛の人の歩き方に似ていた気もしますが、あの元樹さんが体育以外で運動するはずありませんからね。
「どっか行くのか?」
「はい。少し野暮用で……」
本当はただお手洗いに行くだけだけど、元樹さんにそれを言うのは少し恥ずかしかった。
「ふぅん……」
元樹さんは突然扉の前で反復横跳びをし始めた。
「あの、通してほしいのですが……」
「通してほしけりゃ俺を倒してみろよ」
おそらく私の邪魔をしているつもりなのでしょう。元樹さんが突然こういう奇行に走る時は決まって前日に変なアニメか動画を見ている。私はあまりそういうものに詳しくないですが、何に影響されたのか昼食の時にでも聞いてみましょう。
今なお反復横跳びをしている元樹さんですが、折角なので少し彼に付き合ってあげましょう。私にもまだ余裕がありますし、どうせすぐスタミナ切れで動けなくなるはずですからね。
「元樹さんを倒すことは簡単なのですが、変に時間を使いたくありませんし、何よりも暴力はいけませんので」
「重要な用事なのか?」
「そう、ですね。私の今後に関わるといいますか……」
まだ余裕はありますが、もし元樹さんの前でおもらしなんてしてしまったら……考えるだけでも恐ろしい。
「はぁ……はぁ……人に会いに行くのか」
「いえ、そうではありません。あの、話は戻ってきてから聞きますから今は通してください。できれば迅速に。でないと大変なことになってしまいますから」
少し限界が近くなってきた。以前の元樹さんであればもう倒れていてもおかしくないのですが、未だ息切れしかしていません。何があったのかは知りませんが、今の私にとっては嬉しくない出来事です。
「世界でも救いに行くのか……?」
「世界の危機というよりも、私の危機というか……」
好きな人の目の前でおもらしなんて絶対にしたくありませんから。
「それよりも早く通してください。時間がありません」
そろそろ行かないと危ないかもしれません。お手洗いが混んでいる可能性がありますからね。
「どこへ行こうと言うのかね」
「それは、その……」
元樹さんはスタミナ切れになりませんし、本当のことを言わない限りどいてくれそうにありませんね。とても恥ずかしいですが、ここは腹をくくりましょう。
「お手洗い……です」
「もう一回、ちゃんと聞こえるように」
勇気を出して言ったのに、元樹さんは再度口に出すことを要求してきました。それもニヤニヤしながら……。さては私がお手洗いに行こうとしていることに気づいてましたね……!
「……お手洗い……です……」
「漏らしそうなのか」
「い、言わないでください! それと早くどいてください!」
なんてデリカシーのない人なのでしょうか……。事実とはいえあまりにも直球すぎます。元樹さんが邪魔なんてするからおもらししそうになっているというのに……。
「ここで漏らしてもいいんだぞ?」
「それは絶対に嫌です! うっ……お願いですから、早くどいてください……」
もう本当に限界です……。もしお手洗いが混んでいたら……もう、ダメですね。
「わ、悪かったって。通してやるから泣くなよ」
「ありがとうございます! では!」
元樹さんが少し扉からどいたので、少し押しのけるようにして外に出る。こんな非常事態でも廊下を走るわけにはいかない。でも早歩きするくらいは許してもらいましょう。
「はぁ……着きました……」
個室は……よかった、ちょうど1つ、多目的トイレが空いていました。扉を開けて中に入り、なんとか間に合ったと一安心する。しかし、ここで安心して気を緩めたのがよくなかった。
「ああっ!」
私の中から黄色い液体が溢れ出してきてしまった。
「いやぁ……」
一度溢れ出したものは止まることを知らず、私の下着を黄色く染め上げ、下着から染み出したものが床を濡らした。
もう止めることは無理だと判断し、便座に座りこれ以上床を汚すのを防いだ。
「お気に入りの下着だったのに……」
少し前に元樹さんに選んでもらった下着だ。当然下着姿を見せて選んでもらったわけではないけれど、元樹さんがイメージに合うと言って選んでくれた上下セットの純白の下着。自分でも私によく似合っていると思い、一緒に出かけたり、元樹さんのことを考えて致す日には必ず身につける、一番お気に入りの下着だった。そんな大切なものを汚してしまった。こんなに汚いもので。高校生にもなっておもらししてしまったということよりも、そちらの方が私には辛かった。
「はぁ……急いで洗いましょう」
下着を脱ぎ、備え付けの洗面台で水洗いする。あんなに綺麗だった純白もこんなに汚れてしまった。でも落ち着いて考えれば今更かもしれない。これを穿いたまま致したりしていたのだから、とっくに汚れていたに違いない。それに私の汚い尿で汚れた下着に元樹さんが触ってくれる妄想をすると……少し興奮してきますね。
「……ふぅ、汚れは落ちたみたいです。水洗いでも意外と落ちるものですね」
あんなに汚れていた下着はもとの純白を取り戻していた。……尿って水洗いだけでこんなに落ちるものなのでしょうか。そう簡単に落ちるものではないと思っていたのですが……。まあいいでしょう。綺麗になってくれる分には何の問題もありませんから。
床にこぼれた分もトイレットペーパーで拭き取って綺麗にし、ひとまず後始末は終わり。下着は……とても乾きそうにありません。今日は下は穿かずに過ごすしかなさそうですね……。元樹さんに見られるのは最悪構いませんが、他の……特に男性の方に見られたらどうしましょう……。考えるだけでも吐き気がしてきます。隠すいい方法も浮かびませんし、頑張ってスカートで隠し通すしかなさそうです。どうしてこの学校の制服のスカートはこんなにも短いのでしょうか。今はこの短いスカートが恨めしくて仕方ありません。
びしょ濡れの下着ですが、このまま手で持っていくわけにもいきませんし、元樹さんにお願いして袋を持ってきてもらいましょう。
助けてください……と元樹さんにメッセージを送る。
『どうした、何があった』
少ししてメッセージが帰ってきた。
『訳は聞かずに袋をトイレ前まで持ってきてください。袋は私のカバンの中に入ってるものを使ってください』
『了解。どこのトイレだ』
『教室から一番近い場所です』
『おけまる』
扉を少し開けて周りを確認する。幸いなことに誰もいなかったため、ここを使われることはないだろうと判断し、濡れた下着をそこに置いたままお手洗いの入り口まで戻る。この時もスカートの裾をしっかり押さえて、絶対に中を見られないようにする。
入り口から顔だけだして待っていると、すぐに元樹さんが来てくれて、キョロキョロと私を探していた。
「元樹さん、こっちです。早く来てください」
恥ずかしさで小さな声しか出せなかったけど、彼はすぐに私に気づいてくれた。
「袋は持ってきてくれましたか?」
「ああ、もちろん」
元樹さんから袋を受け取る。
「どうしたんだよ、袋をトイレなんかに持ってこさせて……。顔も真っ赤だし」
「聞かないでください……」
「ふぅん……ま、いいや」
受け取った袋を持って多目的トイレへ戻り、置いていった下着を袋の中に入れる。その後絶対に見られないようにグルグル巻きにして、元樹さんのところに戻る。
「お待たせしました。教室に戻りましょうか」
「ん。……ところで、その袋には何が入ってるんだ?」
「これは気にしないでください。何でもありませんから」
元樹さんは変なものを見るような目で私を見てきたけど、気にしないことにした。変に食いついてボロを出したくないですからね。
「話は変わるんだけどさ、今日の昼飯も中庭で食べないか? 小高い丘の上で食べるのもいいと思うんだよ」
「お、丘の上ですか!?」
「ん? なんか変なことでも言ったか?」
「いえ、そうではないのですが……」
丘の上でなんて……下からだとスカートの中が覗かれ放題じゃないですか。
「あの、それは別に今日でなくてもいいのではないでしょうか」
「今日は天気がいいからさ。風も心地いいし、外で食べたい気分なんだよ」
「別の日ならいくらでも付き合いますから。ほら、明日なんてどうですか? 天気予報では明日もいい天気らしいですよ」
「いやだ。今日、栞子と2人っきりで食べたいんだ。今日しかないんだ」
「うぅ……」
私と2人きりでなんて言われたら……ズルい。本当に元樹さんはズルい。何を言ったら私が折れるかきっとわかっているんだ。
「それでしたら人のいなさそうな場所にしてください。それでしたら私も付き合いますから……」
「……なんで栞子はそんなに嫌がるんだよ。さっきからずっとスカート押さえてるし……中に変なものでも入れてるのか?」
「変なものが入っているというより、本来あるべきものがないといいますか……」
「あるべきものがない……あっ、ふーん……」
何かに納得したのか、それ以降元樹さんが突っ込んでくることはありませんでした。一瞬気づかれたのかと思いましたが、超がつくほど鈍感な元樹さんに限ってそれはないでしょう。
教室に戻り、元樹さんと雑談しながら授業の開始を待っていましたが、イスに座った時の変な感触がどうしても気になってしまい、話にあまり集中できていなかった。
スカート1枚挟んでいるとはいえ、生地が薄いためほとんどお尻で直でイスに座っているようなものだ。慣れない感触がどうしても気になってしまう。
「……ほら、これ使えよ」
もぞもぞとする私を見て何か察したのか、元樹さんは座布団を渡してくれました。
「えっと、ありがとうございます……」
元樹さんの気遣いに感謝して、ありがたく使わせてもらう。裸で布団に座った時の感触に似ていたため、先程より何十倍も楽になった。
1つ気になるのはどこから座布団を出したのかだ。今まで座布団を使っているところを見たことがありませんし、明らかにカバンに入るサイズでもありません。四次元ポケットなどあるはずありませんし、一体どこから……。
「どうだ? 楽になったか?」
「はい、すごく楽になりました」
「それはよかったよ。俺が家で使ってるやつだけど我慢してくれ」
「いえ、気にしませんよ。貸してくれただけでとてもありがたいですから」
そうこうしているうちに始業にチャイムが鳴り、先生が入ってきました。
「きりーつ。きをつけー。れーい」
『お願いしまーす』
「センセンシャル」
「お願いします……」
ノーパンで授業を受けること恥ずかしさが急にこみ上げてきて、挨拶もあまり声が出せなかった。そんな私の気も知らない元樹さんは、いつも通り酷い挨拶をしていた。センセンシャルって何ですか……。
数学嫌いだからなのか、数学の授業だけ適当に挨拶をするのだ。いつもは注意するのだけれど、今日は私も酷かったので元樹さんのことは言えない。今日だけは勘弁してあげましょう。
「今日は隣の席の人とグループワークをしてもらいます。一番最初に終わったグループにはご褒美のアイスが待ってますよー」
グループワーク……私は左隣の元樹さんとですね。彼がきちんと理解できるようサポートしてあげないと。
「よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「とりあえず席くっつけるか」
そう言うと席をくっつけて密着してきた。それもお尻がくっつくほどに。
「っ!」
全く警戒していなかったので、突然のことにびっくりして持っていたペンを落としてしまった。スカートを気にしてすぐにしゃがめなかった私の代わりに元樹さんが拾ってくれた。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
「どうかしたのか?」
「……なんでもありません。そんなことより課題をやりましょう」
「うへぇ……」
私が問題文を読んでいると、不意に元樹さんの手が私のスカート向かって伸びてきた。2人きりならともかく、大勢がいる授業中にスカートを捲られるのは嫌だったので、手を掴んで止める。
「何をしようとしているのですか?」
「えっ、いやぁ……」
「いたずらはいけませんよ。それに今は授業中です。そちらに集中してください」
「はぁ……わかったよ」
「よろしい。では与えられた課題を一緒に解きましょうか。一番早く終わったペアには先生がアイスをくださるそうですよ」
「あーいいっすね。じゃあ頑張るか!」
「い、いきなりやる気になりましたね……」
物で釣られるのはどうかと思いますが、やる気がない状態で勉強するよりも、動機が不純でもやる気がある状態で勉強した方がいいですからね。クラスで一番の数学嫌いな元樹さんがやる気を出したということは、先生のアイス作戦も成功と言えるのかもしれません。
「というわけで手を離してくれないか? 問題が解けない」
「……え?」
「えっ、じゃなくて手を離してくれよ。さっきからずっとにぎにぎしたりニヤニヤしたりさ」
「ニ、ニヤニヤなんてしてません! 適当なことを言わないでください!」
「今は授業中だぞ? あんまし大きな声出すなよ」
「あっ……」
元樹さんの言葉で我に返り、先生の方を見ると鋭い目で私を見ていた。
「栞子さん?」
「えと、その……す、すみませんでした……」
周りに謝罪をし、元樹さんを睨む。
「なんだよ、怒られたのはお前が大声出したからだろ?」
「それはそうですが……ですが私が大声を出す原因を作ったのは元樹さんです。元樹さんの手を握ってニヤニヤしているなどという嘘をつかなければこんなことにはならなかったんです」
「強気でくるねぇ。ノーパンのくせに」
今、元樹さんの口から聞き捨てならない言葉が放たれた。
「な、なななななぜそのことを知っているのですか!?」
「おいおい、今は授業中だって。さっきも怒られただろ?」
「そんなことはどうでもいいのです! 今はどうして元樹さんがそのことを知っているのか聞いているのです!」
「どうしてって言われても……ねぇ?」
「……もしかして、初めから知っていましたか? ……知ってたんですね。知った上で私のことを弄んだんですね! そうなんでしょう!?」
そう問い詰めると、肯定とばかりに目線を逸らした。やはりそうだったんですね……!
元樹さんが座布団を貸してくれた時に……いえ、丘の上で食べようと言ってきた時も気づくべきでした。座布団は私を心配してのことかもしれませんが、昼食の話は完全に私をからかっていたんですね。
「うぅ……元樹さんに穢されてしまいました……。もうお嫁にいけません……」
「わ、悪かったよ。栞子の反応が可愛かったからからかいたくなっちゃったんだよ。許して」
「……肉まん」
「肉まん?」
「購買の肉まん……それの一番高いものを買ってくれるのであれば許します」
「そんなのでいいのか?」
そんなの……元樹さんにとっては
「わかった、昼飯の時に奢るよ」
「約束ですよ? 元樹さんには絶対分けてあげませんからね?」
「とか言って、分けてって言ったら分けてくれるんだろ?」
「ふふっ、それはどうでしょうか」
「あっ……栞子、あっちあっち」
元樹さんが指差す方を見ると、先生が先程よりもさらに鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
「ひぃっ!」
普段は優しくてにこやかな先生だけに迫力がある。
「す、すみませんでした……」
「……痴話げんかは授業以外の時間にやっててくださいね。見てて楽しいけどね」
一転先生はニコリと笑い、私にそう言った。周りを見ると、クラスの皆も優しい目で私達2人のことを見ていた。
「ひゅ~ひゅ~」
「やっぱ夫婦は違うね~」
皆さんが口々に呟く。一言一言が私の心にダメージを与えてくる。
「夫婦だってさ。困っちゃうなぁ~。な、栞子」
そして元樹さんの何気ない一言がとどめの一撃となった。
「はい……」
よろよろと椅子に座り込み、隣の元樹さんにもたれかかる。彼は拒絶することなく、むしろ軽く抱きしめてくれた。
「俺達クラス公認のカップルみたいだな」
そんな言葉を耳元で囁いてきた。元樹さんの吐息が耳にかかり、体がぞわぞわする。
「カップル……元樹さんと……カップル……」
元樹さんの恋人、元樹さんの一番……そんな人になることができたのならどれだけ幸せなことでしょうか。私に、彼の恋人の適正はあるのでしょうか……。
「……栞子? おーい」
誰かが私の髪を撫でている。見なくてもわかる、元樹さんだ。夢にまで見たことが、今この場で起きている。彼の撫で方は壊れ物を触るかのように丁寧で、でも確かな愛情を感じるものだった。
大好きな人に抱きしめられて、頭まで撫でてもらっている。こんなに嬉しいことはない。幸せが溢れて思わず笑みがこぼれる。
「おーい、栞子さんやー。返事してくれー」
「手つなぎ……キス……ホテル……」
いつかは元樹さんと付き合って、手をつなぎながらデートをして、綺麗な夜景が見える場所でどちらからともなくキスをして、そしてそのままホテルへ……元樹さんと深く繋がって、何回も愛し合うのだ。…いつか、いつかきっと実現してみせる。
「ダメだこりゃ……」
「すみませんでした……」
私が正気を取り戻したのは授業終了直前、ちょうど元樹さんが課題を全て解き終わったタイミングだ。つまりグループワークで私は何もしていない。
「めっちゃくちゃしんどかったぞ。先生にも助けてもらったし……」
「本当にすみません……」
とても申し訳ないことをした。元樹さんが……クラスの皆が頑張っている間、私1人だけ妄想の世界に浸っていた。
「お詫びになるかはわかりませんが、何でも1つ元樹さんのお願いを聞きます」
「ん? 何でも聞いてくれるの?」
「はい。あくまでも私にできる範囲内でですが……」
「じゃあキスしてくれ」
……え?
「キスですか!?」
「うん」
聞き間違いではなかった……。また私をからかっているのか、それとも……。
「ど、どこにですか……?」
「口以外にある? マウストゥーマウスだよ」
そう、ですよね。口同士に決まってますよね……。
「でも皆さん見てますし……」
「皆もう各々の教室に行ったよ」
「皆さんいつの間に……」
元樹さんの言う通り、教室にはもう私達2人しかいなかった。
「ほら、早くしてくれよ」
元樹さんはもう目を閉じて私のことを待っている。
どう考えてもこの状況はチャンスでしかない。だって彼の方からキスを求めてきているのだから。大好きな人とキスすることができるのだから。またとない機会だ。断る理由なんてない。でも彼の意図が読めない。なんで私とキスをしようと思ったのか、それがどうしてもわからない。
「も、元樹さんはいいのですか? 初めてのキスが私でも……」
「もちろん。栞子みたいな美少女とのキスが嫌な人間なんていないよ。そもそも俺ファーストキスじゃないしな」
「……は?」
「……あ、やべ」
なるほど、ファーストキスではないと。しかも本当は隠したかったことであると。
「……栞子?」
両手で彼の顔を掴み、逃げられないよう固定する。
「いいでしょう。私で上書きしてあげますね」
「ちょっ」
「ん……」
そして一気に距離を詰め、そのまま唇を奪う。彼にとっては初めてでなくても、私にとっては正真正銘初めてのキスだ。私の初めてで元樹さんを上書きする。彼を私色に染める。
体が震える。緊張のせいだ。緊張していることが伝わったのか、元樹さんが私の腰に手を回し、ギュっと抱きしめてくれた。抱きしめられたことで緊張がほぐれ体の震えが止まった。
「んむぅ……」
こちらも元樹さんの首に手を回して抱き寄せ、さらに体を密着させる。重ねた唇の角度を何度も変え、お互い激しく求め合う。私の口内に侵入しようとしているのか、時々彼の舌先が唇に触れる。その度に感じたことのない刺激に体がビクンと跳ねる。
それだけでは飽き足らず、彼の手が私のお尻に回された。彼の右手がお尻に刺激を与えてくる。好きな人にされると、自分で同じことをした時より何倍も気持ちいい。
「んんっ……んちゅ……」
彼の指がお尻に食い込む度に自然と腰をくねらせてしまう。それだけ気持ちいいのだ。これ以上のことをしたら私は一体どうなってしまうのだろう……体験したいけれど、同時に怖くもある。
「ぷはぁ……」
長かった幸せな時間が終わってしまった。まだ抱きしめ合ったままだけど、顔は離れてしまった。私の顔は真っ赤に染まっているだろう。けれど元樹さんは……胸にモヤモヤとしたものが溢れてくる。
「私の……私のファーストキス、いかがでしたか……? 味わっていただけましたか……?」
「ああ、ちゃんと堪能させてもらったよ」
「きちんと私で上書きすることができましたか?」
「もちろん。もう一面栞子で染められちゃったよ」
「ふふっ、それはよかったです。私も元樹さんで染められてしまいましたよ」
2人で笑い合う。
「……あの、いつまで私のお尻を触っているつもりですか?」
「ごめんごめん。触り心地がよかったからさ」
「もう……」
こんなところを誰かに見られていたら大変ですね。教室で抱き合ってキスまでしているんですから。風紀委員の方に見つかってしまったら指導されてしまいますね。
「私達もそろそろ移動しましょうか。授業に遅刻してしまいますからね」
「そうだな。でも科目が違うからここでお別れだな」
「そうですね。本当はもっとこうしていたいのですが……」
「俺もだよ。一緒に授業サボるか?」
「それはいけませんよ」
「だよなぁ……」
名残惜しいけど元樹さんから離れる。
「それでは、また後で会いましょう」
「ああ。移動の時スカートに気をつけろよ。特に階段はな。上り下りしてる時は簡単に下から覗けちゃうから」
「そうでした……。ありがとうございます、完全に失念していました。覗かれないようにちゃんと気をつけますね」
「気をつけろよー」
元樹さんと別れ、それぞれの教室に向かう。……授業中平常心でいられるでしょうか。頬が緩んでしまわないよう、気をしっかりと引き締めなければ……。
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