【WR】虹ヶ咲RTA_称号『虹の楽園』獲得ルート   作:一般紳士君

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無敵級かすみんっていつ見ても可愛いですよね。だから初投稿です。


上・中・下巻まで続いてるわけではないけど超大作です。


サイドストーリー Part12/m

 いつものように練習が終わり、皆で部室で過ごしていた。

 侑先輩と歩夢先輩は用事で、せつ菜先輩は生徒会の仕事でもう帰っちゃったけど、それ以外の皆は練習のことで話し合ったり、普通に雑談をしたりで盛り上がっている。それはもちろんかすみんも。今日はしず子とりな子と一緒に練習について話していた。

 

「ふぅ……今日も練習疲れたね」

「つかれた……。璃奈ちゃんボード『へろへろ~』」

「わっ! りな子大丈夫!?」

 

 疲れてバテバテなりな子が倒れそうになっていたので、慌てて体を支えてイスに座らせる。

 

「大丈夫? スポーツドリンク飲む?」

「飲みたい……」

 

 しず子が余っていたスポーツドリンクをりな子に渡す。それは確かもと男が使う予定のだった気がするけど、明らかに飲んだ形跡がない。もと男自身も汗をかいてなさそうだったし、今日は練習に参加しなかったのだろうか。でも愛先輩について行ってた気もするし……もと男に限って途中で練習をやめるなんてことしないだろうから、多分見間違えたんだろう。きっと昨日の疲れが取れなかったとかで参加できなかったのだろう。

 

「ごくっ……ごくっ……ぷはぁ、ありがとうしずくちゃん」

「どういたしまして。でも、本当に大丈夫なの?」

「うん、これのおかげで元気になれた。しずくちゃんもかすみちゃんも練習の後も元気なのすごいと思う。私も早くこうなりたい……」

「ふっふっふっ……かすみんは毎日トレーニング頑張ってるからね~。やっぱりスクールアイドルたるもの、スタミナは大事だもん!」

 

 ステージに立ってる間もずっとで笑顔でいたいから。疲れでひきつった顔なんて皆に見せたくないもん。かすみんはやっぱりいついかなる時も可愛くないとね~。

 

「しず子は?」

「私? 私は演劇部にいた時にいっぱい走り込みしてたから、そのおかげで前よりはスタミナはついてるかも。それに今日のメニューは筋トレだったし……」

「それでもすごい。私ももっと頑張らないと。璃奈ちゃんボード『やったるでー』」

 

 りな子もライブに向けてモチベーションはバッチリみたい。かすみんも負けないように頑張らなくちゃ。

 あぁ、皆と一緒だと楽しいな。かすみん以外誰もいなくなって1人で練習していた時はこんなに賑やかになるなんて想像もできなかった。女の子らしくファッションやスイーツの話をしたり、スクールアイドルらしく練習やライブの話をしたり……こうして過ごす時間はとにかく楽しい。

 それにただ楽しいだけじゃなく、一緒に練習すること自分自身のモチベーションアップにも繋がっている。りな子みたいに頑張ってる人を見ると、かすみんだって負けないぞとこっちももっと頑張れる。こんなに最高な練習環境はない。かすみんにとっては練習機材のすごさよりも仲間がいることの方が大切だ。

 皆の楽しそうな声が聞こえる、笑顔の絶えないこの部室が私は大好きだ。今こうして皆と一緒に過ごせているのも……いや、そもそもかすみんがスクールアイドルを続けられているのも、全部もと男のおかげ。もと男がいたから同好会を復活させることができた。もと男が帰ってきてくれてなかったらこの部室は今頃ワンダーフォーゲル部のものになっていたかもしれない。もと男には感謝してもしきれない。

 そういえばもと男にはまだ感謝の言葉の1つも言えてない気がする。ちゃんとお礼しないと。言葉だけじゃなくて、他にも何かしてあげた方がいいよね。もと男は優しいから何でも喜んでくれると思うけど、どうせならこれ以上ないくらい喜ばせたい。何がいいかなぁ……とりあえず食べ物はやめた方がいいかも。もと男はあんまり食べることが好きってわけじゃなさそうだし。それよりはアクセサリーとかの方が喜んでくれる気がする。

 また一緒に出かけて、もと男の反応を見ながら決めてもいいかも。ちょっと恥ずかしいけど、手をつなぐくらいは特別にしてあげてもいいかな。むしろかすみんの方から急に恋人つなぎしてどういう反応をするか見てみたい。びっくりして慌てるかな。それとも喜んで受け入れてくれるかな。もしかしたら恥ずかしがってほどこうとするかもしれない。どれでも面白そうだけど、特に何の反応もしてくれないのだけはやだなぁ。もと男のことだから普通にありそうだし……。もしそうなったらほっぺにチューしてみようか。もと男にならしてあげてもいいと思えるし、何よりこれくらいのご褒美はあってもいいはず。可愛いかすみんがキスしてあげるんだから、さすがに何かしらの反応は示してくれるだろう。にひひっ、今から楽しみだなぁ。もと男に聞いて予定を立てないとね!

 

「ところでしずくちゃん」

「何かな?」

「元樹とのお泊まりはいつするの?」

「え、えっとぉ……なんでそんなこと聞くの……?」

「なんとなく気になったから」

 

 お泊まりの予定をりな子に聞かれ、しず子は明らかに動揺している。

 

「……もしかして、今日?」

「……うん」

「ふーん……」

 

 もしやと思い聞いてみたが、かすみんの予想通りだった。通りで荷物が多いはずだ。

 

かすみんの前に、しず子とお泊まりするんだ……」

 

 愛先輩と楽しそうに話すもと男のことを睨む。しず子とお泊まりした直後にかすみんとお泊まりなんて……。

 

「……もと男のばか

 

 なんかすっごいモヤモヤする……。泊めさせてもらう立場だからあまり文句は言えないけど、しず子の翌日にしなくてもいいじゃん。せめて日を開けるとか……自分でもよくわからないけど、とにかく誰かの直後はイヤだ。

 

チーズもんじゃとかいいんじゃないですか?

うーん、それよりはプレーンの方がいい気がするけどなぁ

 

 元凶のもと男はといえば愛先輩ともんじゃの話で盛り上がっている。はぁ、かすみんの気も知らないで……。少しだけしず子やりな子の気持ちもわかる気がする。普段は鋭いくせに乙女心には鈍いんだから……。

 

「かすみさんも……」

「……え?」

 

 悩んでたらしず子が何か話しかけてきた。でも考えごとをしてたせいでよく聞き取れなかった。

 

「しず子、何か言った?」

「……ううん、何でもないよ」

 

 何でもないとは言うもののしず子の表情はどこか暗い。

 

「ねぇ」

「うぅん……」

 

 声をかけてもうんうん唸るだけで返事が返ってこない。かすみんと同じように何か考えごとしてるみたい。またもと男のことで悩んでるのだろうか。

 

「……かすみちゃん、しずくちゃん、用事思い出したから先に帰るね」

「用事? 時間大丈夫なの?」

「ゲームのイベントだから大丈夫」

「りな子はゲーム好きなの?」

「うん、大好き。昔は元樹といっぱい遊んだ」

 

 ゲームかぁ……一度だけもと男に誘われて遊んだけど、それ以来やってないなぁ。

 えふぴーえす? っていうのを一緒にやったけど、かすみんにはちょーっと難しかったんだよね。えいむっていうのがうまく合わせられなかったし……あんな一瞬でマウスを正確に動かすなんて難しいよ。キャラクターごとによくわかんないスキルとかがあって、使いどころとかよくわかんないし。あと急に撃たれたら普通にびっくりしちゃう。実際何回も叫んじゃったもん。もと男は可愛いって言ってくれたけど、『ぎゃんっ!』なんて叫び声可愛くないよ……。

 あの時はしず子も一緒だったけど、2人とも上手だったなぁ。しず子も初めてだったみたいだけど、同じ初めてでもかすみんとは比べ物にならないくらい上手だった。たまに汚い言葉を言いかけてたけど……。

 大体最初にかすみんが不意打ちされて倒されちゃって、もと男としず子の2人で敵討ちしてくれて、その後かすみんを復活させてくれた。気にしないでとは言ってくれたけど、やっぱり足を引っ張ってる気がして申し訳なくなっちゃう。

 

「かすみちゃんはゲーム好き?」

「ほとんど遊んだことないからよくわかんない。嫌いではないけど……」

 

 でもあの時の3人でわちゃわちゃしてる感じは楽しかったな。かすみんが自力で相手を倒した時はいっぱい褒めてくれたし。優勝した時は皆で喜んだ。ドン勝って言うのはよくわからなかったけど……。

 しず子はまだもと男と一緒にやってるのかな? なんだかんだ言って楽しかったし、また一緒に遊びたいな。誘ったら一緒にしてくれるかな?

 

「初心者でも楽しめるゲーム選んでおくから、今度1年生で集まって遊ばない?」

「遊びたいっ! 皆で遊ぶの楽しみ!」

「喜んでくれて嬉しい。璃奈ちゃんボード『わーい!』」

「いつするの? かすみんはいつでも大丈夫だけど」

「私もいつでも大丈夫。元樹としずくちゃんに予定聞かないと。放課後より休みの日の方がいいよね?」

「確かに休みの日の方がいっぱい遊べるもんね。りな子の家に泊ってもいいなら、かすみんは放課後に泊まりでもいいけど……」

「泊まりも大丈夫だと思う。そのことも含めて2人に聞いておくね」

 

 ほんとはしず子もこの場にいるんだけどね。でも考えごとに夢中で今の話も聞いてないみたいだし……。

 

「じゃあそろそろ帰るね。かすみちゃん、しずくちゃん、また明日」

「ばいばーい!」

 

 手を振って見送る。りな子はもと男と少し話をして帰っていった。

 

「うぅん……」

 

 さてと、そろそろしず子をどうにかしないと。このままだと1日中唸っていそうだ。それに表情もどこか悲しそうで、今にも泣きだしてしまいそうな雰囲気すらある。

 

「しず子」

どうすれば……」

「ねぇしず子」

元樹君……」

「……」

 

 何度呼び掛けても反応すらしない。いくらもと男のことが大好きとはいえ、ここまで無視されるとさすがにちょっと頭にきた。

 

「もうっ、しず子ってば!」

「ひゃっ! か、かふみひゃん!?」

 

 しず子のもちもちな頬をつまんで引っ張る。ここまでしてやっと考えごとをやめてくれた。

 

「いひゃいよ……」

「あ、ごめん」

 

 ちょっと強く引っ張りすぎたみたいでしず子が痛がったので指を離す。しず子は少しだけ赤くなった頬を撫でている。

 

「……あれ、璃奈さんは?」

 

 今更りな子がいなくなってることに気づいたらしい。

 

「なんか用事があるって先に帰っちゃったよ」

「いつの間に……」

「しず子がうんうん唸ってる間にだよ。ちゃんとしず子にも挨拶してたのに、聞いてなかったの?」

「うそ、全然気づかなかった……」

「もぉ、人の話はちゃんと聞かないと」

 

 まぁさっきかすみんも考えごとしててしず子の話を聞き取れなかったんだけど……。しず子もそのことを思い出したのか、頬をぷっくらと膨らませながらかすみんの頬をつねってきた。

 

「急に何するのさ」

「別にぃ」

「変なしず子ー。……でも、さっきよりはいい顔になった気がする!」

「そうかな?」

「そうだよ。さっきまでずっと悲しそうな顔してたもん。もと男と愛先輩が楽しそ―に話してるからってさ、そんなに重たく考えなくてもいいのに」

「……え?」

「愛先輩に嫉妬してたんでしょ? 私の大事なもと男が取られちゃう~って」

「そ、そんなこと考えてないもん!」

「ほんとかなぁ?」

「ほんとだもん」

 

 そうは言いつつもしず子の視線はもと男と愛先輩に釘付けだ。かすみんもそれにつられて2人の方を見る。

 

「……なんか、もと男と愛先輩……いつもより近くない?」

 

 もと男と愛先輩が話してるところをあまり見かけないからかもしれないけど、2人の距離がいつもよりも近いように感じる。

 

「言われてみればそうかも……」

 

 しず子もそう感じたってことはきっと勘違いじゃない。あの2人に何があったかはわからないけど、確実に心の距離は近づいている。

 

「むぅ……」

 

 またモヤモヤしてきた。今日は……というより最近こんなことが多い気がする。教室を移動したり部室で話したりしてるだけなのに心をかき乱されてしまう。そしてそんな時には必ずもと男の姿があるのだ。誰か知らない女の子と一緒に歩いているもと男を見たり、もと男がかすみんになかなか構ってくれなかったりするとモヤモヤして……すっごくイヤな気持ちになっちゃう。

 今だってそうだ。楽しそうなもと男を見ているとモヤモヤするし、もと男の笑顔を見るたびに胸がチクチクする。かすみんがこんなになってるのに、それに気づいてくれないもと男に少しイラっとする。それなのにもと男と話したい。抱きつきたい。一緒にいたい。ほんとにわけがわからない。かすみんの心なのに、まるで自分のものじゃないみたい……。

 

「かすみんも混ざっちゃお!」

 

 かすみんも2人の会話に混ざることにした。そうすることでモヤモヤが晴れる気がしたから。

 

「しず子も混ざるでしょ?」

「私は……私は遠慮しようかな」

 

 しず子も当然混ざると思ったけど、どうやら参加しないみたい。表情は暗く、悩みがあるのが簡単に見て取れる。でもしず子は意地っ張りだから、『悩んでるの?』なんて聞いても『悩んでなんかない』って返ってくるだろう。

 

「じゃあかすみんだけで行ってくるね。……しず子も、あんまり考えすぎちゃダメだよ」

「うん、楽しんできてね」

 

 しず子は笑顔でそう答えたけど、やはりその笑顔はどこかぎこちなくて……。声をかけようとしたけどしず子はそっぽを向いてしまった。きっと悩んでいることに触れてほしくないのだろう。しず子の気持ちを汲み取り、かすみんは2人の元に向かうことにした。

 

「愛せんぱーい! かすみんも混ぜてくださいよ~」

 

 もと男にやや飛びつき気味に抱きつく。もと男は少しよろけていたが、ちゃんと受け止めてくれて抱きしめ返してくれた。

 

「かすかすも? もちろんいいよー」

「かすかすじゃなくてかすみんですぅ!」

 

 まったく愛先輩は……。

 

「さっきまで愛先輩と一番強いもんじゃは何か議論してたんだけど、かすみはどのもんじゃが最強だと思う?」

「最強のもんじゃぁ? 一番美味しいもんじゃってこと?」

「いや、戦闘力の話」

「もんじゃの戦闘力って何!?」

 

 2人でなんて会話を……。最初から話を聞かないと理解ができない。もしかしたら最初から聞いても理解できないかも……。

 

「さっき聞こえたチーズとかプレーンとかも戦闘力の話なの?」

「ああ、そうだよ」

「ちなみにぃ、この2つだとプレーンの方が強いって結果になったよ!」

「そんなこと言われてもわかんないですよぉ! なんでプレーンの方が強いんですか! そもそもどういう経緯でそんな話になったんですか!」

「愛先輩の家がもんじゃ屋さんをやってるって聞いたから」

「そこからどうなったら最強のもんじゃの話になるのさ!」

「はぁ~……かすみはわかってないなぁ」

 

 大きくため息をつきながら、やれやれというように首を振っている。なんだろう、今もと男にすごくパンチしたい気分だ。

 

「いいか? 男っていうのは最強を夢見る生き物なんだよ。だから何でも最強を決めたがるんだ」

 

 かすみんの男の子の友達はもと男くらいだから、言ってることがほんとなのかわからない。でも確かにクラスの男の子達もよく1番強いとか最強とか言ってる気がする……。

 

「その証拠に……ほら、ネット上にも強さランキングがいっぱい転がってるぞ」

「確かに……でも、全部アニメとか漫画のキャラクターの話じゃん」

「スクールアイドルの強さランキングもあるぞ」

「スクールアイドルの!?」

「それは愛さんも初耳~」

 

 それも戦闘力で決めているのだろうか。そもそもスクールアイドルの戦闘力って何? 歌の上手さ? ダンスの上手さ? もし可愛さならかすみんが圧倒的1位に違いない。

 

「ちなみに1位はAqoursの松浦果南さんだぞ」

「えぇ~かすみんじゃないの~?」

「そらそうよ。かすみはまだライブしたことないんだから」

 

 言われてみればそうだ。ライブをすればきっと皆にかすみんの可愛さが伝わって、そのランキングの1位が書き換わるだろう。

 

「その果南って人が1位なのはなんでなの? ダンスが上手とか?」

「まぁ果南さんはダンスも歌も上手ですね。なんたってAqoursですから。えっとランキングの基準は……純粋な戦闘力、らしいですね。このサイトによると果南さんはホテルのベランダから落ちてきた人を無傷でキャッチできるらしいですよ」

「う~ん、さすがに無傷は嘘っぽいな~」

 

 いや、そもそもキャッチできること自体が嘘っぽいと思いますけど……。

 

「あと鉄製のレバーを片手で捻じ切ったらしいです」

「それほんと? さすがにそれは人間やめてると思うけど……」

「そうですよね、俺もそう思います。スクールアイドルフェスティバルでAqoursと同じステージに立てたら本人に聞いてみましょう」

「『鉄製のレバーを片手で捻じ切ったって本当ですか』って聞くの?」

「違うよ。『松浦果南さんはおレバーをお片手でお捻じ切りなさったと伺ったのですが、それは本当でございましょうか』って聞くんだよ。目上の人と話す時はちゃんと丁寧にいかないと」

「とりあえず『お』つけただけじゃん……」

 

 そもそも聞いてる内容自体が失礼だと思うし……。

 

「ちょっといいかしら」

「果林先輩?」

 

 果林さんが会話に入ってきた。

 

「どうかしましたか? 果林先輩も一緒に最強のもんじゃについて議論しますか?」

「いえ、遠慮して……ちょっと待って、最強のもんじゃって何?」

「一番強いもんじゃのことですけど」

「それは美味しいってこと?」

「いえ、戦闘力です」

「せ、せんとうりょく……? もんじゃの?」

「はい」

 

 果林先輩も案の定困惑している。これが普通の反応だ。幼馴染のりな子だったらこの話についていけるのかな?

 

「これは私がおかしいのかしら……。愛とかすみちゃんは理解できてるの?」

「なーんにも。かすみんは後から参加しましたから。理解してるのはもと男と愛先輩だけですよぉ」

「アタシも半分くらいしか理解できてないよ?」

「愛も理解できてないのね……」

 

 いや、かすみんは愛先輩が半分も理解できてることに驚きですよ……。

 

「でも楽しいからいいかなーって。元樹も楽しそうだし!」

 

 確かにそうかも。愛先輩と話してる時も、かすみんに説明してくれた時も、もと男はすっごく楽しそうだった。話の内容は理解できなかったけど、楽しそうなもと男につられてかすみんも段々と楽しくなっていた。胸のモヤモヤなんて忘れてしまうくらい。

 

「ちょっと興味がわいてきたけれど遠慮しておくわ。また今度聞かせてちょうだい」

「いいですよ。ところで果林先輩の用件は何だったんですか?」

「ああ、すっかり忘れてたわ。今から彼方達と散歩に行ってくるから、私達が戻ってくるまで誰か部室に残っててくれないかお願いしに来たの」

「それなら俺が残りますよ。部長ですからね」

「そう、ありがとう元樹君」

「どういたしまして。時間なんて気にせず好きなだけ楽しんできてください。まぁ下校時刻までには戻ってきてほしいですけど」

「ええ、気をつけるわ。じゃあ行ってくるわね」

「はい、いってらっしゃい」

 

 果林先輩が手をひらひらと振って立ち去る。

 

「……もと男?」

 

 もと男がじぃーっと立ち去った果林先輩の方を見つめていた。

 

「……なんていうかさ」

「ん?」

「果林先輩って、1つ1つの所作が美しいよね。大人の女性って感じで見惚れそうになる」

「へっ?」

「わかる! さすがモデル!って感じがするよねー」

 

 もと男は果林先輩みたいな人がタイプなのだろうか……。果林先輩が表紙の雑誌を女性向けなのに買っていたり、初めて会った果林先輩の胸元を凝視していたり……いや、単純にもと男がえっちなだけかも。

 

「いやー、改めて考えるとすごい人が入ってくれましたね。メイクレッスンは果林先輩にお願いしようかな」

「それいいかも」

「モデル活動でファンが結構いるらしいよ。いいなー、早く愛さんもファンの皆に応援してもらいたいなー」

「初ライブが終わった頃には会場の皆が愛先輩のファンになってますよ。元気いっぱいのライブで会場は大盛り上がりでしょうね。それに愛先輩は美人ですから男性人気もすごいと思います。まぁ愛先輩のファン1号は俺ですけどね」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん! このこのー!」

「ちょっ、やめてくださいよ~」

 

 愛先輩に抱き寄せられて頭をグリグリされているもと男はちょっと嬉しそうだ。愛先輩の大きくて柔らかそうな胸がもと男の顔に直撃している。きっとそれが嬉しいのだろう。

 

「ぐぬぬ……」

 

 そりゃあかすみんのは果林先輩や愛先輩には遠く及ばないし、同い年のしず子にすら見劣りするけど……でもかすみんだってちゃんと膨らみはあるもん。まだ成長しきってないだけだから、これからもっと大きくなるもん。それに今だって十分揉めるくらいはあるのに……それなのにもと男はかすみんを全くそういう目で見てくれない。別にいやらしい目で見られたいとか、もと男のオカズになりたいとか、そういった願望があるわけでは決してないけれど、でも一切そういう目で見られないというのもかすみんに魅力がないみたいでイヤだ。

 

「皆で何してるの?」

「エマ先輩、おかえりなさい」

「ただいま~」

 

 いつの間にか購買に行っていたエマ先輩がいつの間にか帰ってきた。その手には買ったばかりであろうパンがある。そして少し視線をずらせばヒマラヤ山脈とも思えるような……あれ、スイスにあるのはアルプス山脈だっけ? わかんないけど、とにかく大きな山が2つもそびえている。それは目測でも果林先輩より大きく、かすみんなんか足元にも及ばない。

 

「……」

「かすみちゃん、どうしたの?」

「……いえ、何でもないです」

 

 どうして神様はこんなにも不公平なのだろう。もっとかすみんにくれてもよかったのに……。改めて考えると、この同好会にいる先輩は皆大きい。歩夢先輩も、せつ菜先輩も、愛先輩も、彼方先輩も、果林先輩も、エマ先輩も、皆一目でわかるくらい大きい。かすみんも2年生や3年生になったからあれくらいまで成長するだろうか。もし成長したらもと男をぎゃふんと言わせたい。胸が小さいからと今までかすみんをそういう目で見てくれなかったもと男を後悔させてやるのだ。

 

「あ、そうだ。エマ先輩は最強の食べ物はなんだと思いますか?」

「最強……?」

 

 もと男は帰ってきたばかりのエマ先輩まであの話に巻き込もうとしていた。さすがのエマ先輩も困惑するだろう。しかももんじゃから食べ物全般にまで広がってるし……。

 

「んー、わたしはパンかなぁ」

 

 エマ先輩は普通に答えられるんだ……。もと男との親和性が高いのだろうか。

 

「でも卵かけご飯も美味しいし……1つに決められないかも。元樹君は何が好き?」

 

 あれ? いつの間にか好きな食べ物の話になってる? 最強はどこに……?

 

「俺はハンバーグですかねぇ」

「ハンバーグもすごく美味しいよね」

 

 とうとう美味しいかどうかの話になってしまった。

 

「かすみは何が最強だと思う?」

「かすみんは……」

 

 これは好きな食べ物とか美味しいと思うものをあげる流れでいいんだよね?

 

「やっぱりコッペパンかな」

「まぁかすみはそうだよな。家で作ってるもんな」

「へー、かすみんはパン作れるんだ」

「ふっふーん、そうn」

「そうなんですよ。作ったやつをよくくれるし、それがすごく美味しいんですよね」

「ちょっと! 遮らないでよ!」

「ごめんごめん。どうしてもかすみが作ってくれたパンの美味しさを伝えたかったからさ」

「それならいいけど……」

 

 やっぱり美味しいって言葉で伝えてもらえるとすごく嬉しい。特にもと男はいつも美味しそうに食べてくれる。頑張って作ってよかったって思えるし、創作意欲もどんどん湧いてくる。

 

「元樹が絶賛するってことは相当美味しいんだね」

「はい。もうほんとに絶品ですよ。へたな店のよりもかすみが作ってくれたやつの方が何倍も美味しいです。ねっ、エマ先輩?」

「えへへ~。そんなに褒めても何もでないよぉ~」

「かすみはパン作りだけじゃなくて料理全般上手だよな。きっと将来いいお嫁さんになるよ。かすみの旦那さんになる男が羨ましいなぁ」

「おおおおおお嫁さんんんん!?」

 

 いきなり何を言い出すんだ。それに羨ましいって……どうしよう、顔が熱くなっちゃう……。

 

「え、何その反応……ちょっと引くんだけど……」

「だってもと男がお嫁さんとか旦那さんが羨ましいとか言うから……」

「別におかしなことじゃないだろ。全部ほんとに思ってることだし」

「うぅぅぅぅ……」

 

 ズルい。冗談なんかじゃないというのが伝わってくるのがズルい。こんなことを言われて嬉しくならない女の子なんているのだろうか。しず子やりな子に今のを聞かれたりしたら……というか、もと男は他の人にも同じことを言ってたりしないだろうか。言ってるのだとしたら喜んでるかすみんが馬鹿みたいだ。でももしかすみんにだけなら……えへへ~。嬉しすぎて頬が緩んじゃう。それを皆に悟られたくなくて、もと男に抱きつき首の辺りに顔をうずめて隠す。

 

「なんだよ急に。そんな恥ずかしかったのか?」

「別に、そんなんじゃないもん……」

「……まぁ何でもいいけどな。かすみはいい匂いだし」

 

 かすみんの頭を撫でながら匂いを嗅いでくる。

 

「もう、嗅がないでよ」

「……あれ? 今日はちょっと汗くs」

「ふんっ!」

「いてぇ!?」

 

 もと男が酷いことを言いそうだったので右足を思いっきり踏みつけ、抱きつくのをやめて離れる。女の子に汗臭いなんて絶対に言っちゃダメ。ほんとデリカシーがないんだから……。

 

「ぷんっ!」

「今のは元樹が悪いよー」

「そうだよ元樹君。人に汗臭いなんて言っちゃダメだよ」

「えー……以後気をつけます……」

「よろしい! でも今日は抱きついてあげないから」

「……いや、別にいいですけど?」

 

 それはそれで傷ついちゃうけど……。

 

「話を戻しますけど、愛先輩は何が好きなんですか?」

「アタシはぬか漬け!」

「あー、ぬか漬けも美味しいですよね」

 

 愛先輩はぬか漬けが好きなんだ。すごく意外。

 

「ぬか漬けかぁ……わたしは食べたことないなぁ」

「すごく美味しいですよ。まぁ自分で作るのはめんどくさすぎてできないですけど。食べるならスーパーとかで買うのがオススメですね」

「へぇー、今度買ってみようかなー」

「愛先輩もスーパーとかで買うんですか?」

「うちはおばあちゃんが作ってくれるんだー。すっごく美味しいんだよ!」

「自家製ですか、いいですね。スーパーで買うよりも作った方が美味しいとは思うんですけど、俺1人だと作ろうって気にならないんですよね」

「じゃあ今度持ってきてあげようか?」

「マジですか? ぜひ食べてみたいです」

「わたしもぬか漬け食べてみたい」

「か、かすみんも!」

「もちろんいいよ。かすみんとエマっちの分も持ってくるね」

「ありがとうございます」

 

 ……考えてなかったけど、ぬか漬けって学校に持ってきても大丈夫なのかな? 異臭騒ぎになったりしない?

 

「はぁ……はぁ……よかった、まだいた……」

「あ、しず子」

 

 急に部室のドアが勢いよく開けられ、しず子が息を切らしながら入ってきた。

 

「おかえりしずく」

「ただいま戻りました」

「カナちゃんとカリンは一緒じゃないの?」

「はい、もう少し屋上でのんびりしてから戻ってくるそうです」

 

 彼方先輩と果林先輩? 一緒に散歩に行くって言ってたけど……もしかしてしず子も一緒だったの? かすみんは入り口を背にしてたから気づかなかったけど、もと男と愛先輩からは部室から出ていくしず子が見えていたのだろう。

 

「3人で何の話をしてたの~?」

「大したことじゃないですよ。ちょっとスクールアイドルのことで……」

 

 嘘だ。きっとさっきまで悩んでいたこと2人に相談していたのだろう。確かに彼方先輩は頼りになるし、果林先輩も的確なアドバイスをしてくれそうだ。相談相手として間違ってないとは思う。でもどうしてかすみんには相談してくれなかったの? どうして何も言ってくれなかったの? かすみんってそんなに頼りないのかな……。

 

「ところで、皆さんは何を話してたんですか? まだ一番強いもんじゃの話を?」

「いや、さすがにその話は終わったよ。……そうだ、折角だからしずくに決着をつけてもらおう」

「決着……?」

「最強の食べ物は何か話してたんだけど、なかなか決まらなくってさー」

「……最強って、一番強いってことですか? 美味しさではなく……」

「そうそう」

「かすみんはコッペパン、もと男はハンバーグ、愛先輩はぬか漬けで、エマ先輩は決められないって。しず子はどれが最強だと思う?」

 

 ……しまった! ついうっかり真面目に答えてしまった。こんなの聞いたところで困惑するだけなのに。実際しず子も理解できなさそうな……いや、興味なさそうな顔をしている。ごめんねしず子。真面目に答えなくてもいいからね。

 

「えっと……ハンバーグ、かな」

 

 一瞬チラッともと男の方を見たってことは、きっともと男に合わせて答えたのだろう。こんな状況でもアピールを忘れてない。効果があるかはわからないけどね。

 

「よしっ、俺の勝ち!」

「くっ……コッペパンだって負けてないのにぃ……」

「うーん、ぬか漬けダメかぁ……」

「ハンバーグ食べたくなってきちゃったなぁ……」

 

 エマ先輩は食べ物だったら何でもいいんじゃないだろうか……。

 

「そんなことより、かすみさん」

「なぁにしず子?」

「少しだけ話したいんだけど、いいかな?」

「いいけど、何の話?」

「ここでは言えない話というか……」

「ふーん……」

 

 かすみんにも相談してくれるのだろうか。ここでは言えない話ってことだから多分もと男のことだと思うんだけど、でもなんだか違う気もする。しず子の雰囲気が……何かを決意したような、自信に満ち溢れているような、そんな感じだ。さっきからかすみんの目をジッと見つめてきて、こちらが視線を外すのを許してくれない。

 しず子に一体何があったのか。彼方先輩達と何を話していたのか。もと男関連の話だったとして、短時間でここまで変わる話って? 告白の相談かとも思ったけど、それだったらかすみんを呼び出す必要なんてないもんね。

 

「ま、いいけど」

 

 かすみんがどれだけ考えたってわからないものはわからない。でもしず子と話せばはっきりするだろう。

 

「それじゃ行こ!」

 

 しず子の手をとって歩き出す。しず子も一緒に歩き出そうとしたけど、その前に振り返ってもと男の方を向いた。

 

「元樹君、戻るのが遅くなったらごめんね」

 

 そうだ、今日はしず子ともと男がお泊りする日だった。しず子が戻ってこないともと男も帰れないもんね。もちろん鍵の管理のこともあるだろうけど。

 

「気にするな。待ってるから好きなだけ話してきていいぞ」

「愛さんも残ってようかなー。元樹も話し相手がいないと寂しいでしょ?」

「じゃあ私も!」

 

 愛先輩とエマ先輩が一緒に残ってくれるみたい。これでもと男も寂しくないだろう。きっとかすみん達が戻るまでまた最強の食べ物の話をしてるんだろうなぁ。

 

「しず子行こっ」

「うん」

 

 

 

 しず子を連れて中庭まできた。今の時間帯だと中庭にいる人はほとんどいないと思ったからだ。予想通り見える範囲にはかすみん達以外誰もいない。ここなら心置きなく話すことができる。

 

「話って何なのさ。わざわざ場所を変えたってことは聞かれたくない話なんでしょ? もしかしてもと男の話?」

「そうといえばそう、かな」

「やっぱり……しず子ってばもと男のこと大好きだもんね」

「それは否定しないけど……」

「それでぇ? しず子はもと男に告白でもするの?」

「そ、それはいつかはしたいと思ってるけど……夜景の綺麗な場所とか、大きな木の下とか、お互いの家で2人きりの時とか、ここしかない!って思った時にできたらいいなぁ」

 

 あっ、しず子が自分の世界に入ってしまった。これは長くなりそう。

 

「ほんとは元樹君の方からしてほしいんだけどね? 私の手を取ってお互い見つめ合いながら、『しずくのことが好きだ。愛してる。結婚を前提にお付き合いしてください』なんて言われたら……えへへ、結婚だなんてまだ気が早いよぉ」

「もと男のことがどれくらい好きなのかは十分伝わったからぁ!」

 

 気が早いのはしず子の方だよ。まだ自分からデートに誘うことすらできてないんでしょ? 告白のシチュエーションを考える前に、まずはデートに誘うシチュエーションを考えた方がいいと思う。

 

「ていうかしず子は告白が家でもいいの? もっとこう、ロマンチックな場所の方がよくない?」

 

 少なくともかすみんはイヤ。告白するにしてもされるにしてもロマンチックな場所がいい。ロマンチックな場所で手をギュっと握りながら見つめ合って好きって言ってほしい。

 

「え~いいじゃん。告白して付き合った後、最初は恐る恐る手を重ねたりするんだけど、段々とお互い大胆になってきてキスしたり抱きしめ合ったりして、元樹君が私のことをそっと押し倒して私の服に手をかけるの。恥ずかしいけど私もそれを受け入れて、そのまま初めてのセッ」

「わーわーわー!」

 

 しず子がとんでもないことを口走りそうになったので大声を出して遮る。

 

「いきなりなんてこと言い始めるのさ!」

「あれ? 何か変なこと言った? 展開がいきなりすぎたかな?」

「そうじゃないから! いや、展開もいきなりだったけど、言葉があまりにも直接的すぎるって言ってるの! かすみん達スクールアイドルなんだから、もっとオブラートに包んで表現してよ!」

「体を重ねるとか、一晩中愛し合うとか?」

「うーん、さっきよりかはマシだけど……」

 

 せ、せっ……くす……よりは何倍もマシだけど、まだまだ直接的だと思う。しず子の口からこんな言葉が出るなんて思いもしなかった。

 

「そもそも、そんなにもと男としたいの?」

「したいに決まってるよ。好きな人と繋がって、いっぱい気持ちよくしてもらいたいもん。いっぱい愛したいもん。いっぱい愛してもらいたいもん」

 

 当然のことかのような顔で答える。これが普通なの? 恋をすると皆こんな風になるのかな? さすがにりな子やせつ菜先輩には聞けないし……。

 

「うぅ、まさかしず子とこんな話することになるとは思わなかったよ……」

 

 初めて会った時に『清楚な子だなぁ』って思ったかすみんの気持ちを返してほしい。

 

「……まぁ、かすみさんにはえっちなことはまだ早いかもね」

 

 しず子に小馬鹿にされたような気がして少しムッとした。かすみんよりちょーっと胸が大きいからってぇ……!

 

「そ、そんなことないもん! しず子と同じ年なんだから差なんてないもん! 好きな人がいないから気持ちがわからないだけだもん! かすみんだって週1でオナむぐぐっ!」

「ちょ、かすみさん!」

 

 いきなり口を塞がれる。

 

「むぐぅ……」

 

 口だけじゃなくて鼻まで塞がれているせいで呼吸ができない。息が苦しいよぉ……。しず子の肩をトントン叩いてそれを伝える。

 

「ぷはっ!」

 

 ようやく解放された。空気を肺いっぱいに吸い込む。

 

「もうっ! いきなり何するのさ!」

「だってかすみさんがとんでもないこと言いそうになるから……」

 

 確かにとんでもないことを言いそうになった。しず子のといい勝負だ。

 

「止めてくれたことには感謝するけどぉ……でもずっと口塞ぐ必要ないじゃん! うっかり教えたくなかったことも教えちゃったし……」

 

 週1でしてるなんて絶対に知られたくなかった。でもオカズのことを教えずにすんだのは不幸中の幸いかもしれない。もし知られていたら恥ずかしさで大声で叫びながら校内を走り回っていただろう。

 

「ごめんなさい……」

「もと男には絶対に秘密だからね?」

「もちろん」

 

 もと男に知られるのだけは絶対にイヤだ。あまりにも恥ずかしすぎる。

 

「はぁ、結局しず子がしたい話って何だったの? かすみんとえっちな話がしたかったの? まあこんな話もと男の前ではできないもんね。場所を変えたのにも納得だよ」

「そうじゃなくて……こほんっ。単刀直入に聞きます。かすみさんにとって元樹君ってどういう存在?」

 

 どういう存在かぁ……今まで考えたこともなかった。かすみんにとってもと男は……うーん……あっ、そうだ!

 

「かすみんの大切なファン第1号かな。初めて会った時、『可愛い。好き。かすみんのファンになります』って言ってくれたもんね~」

 

 いきなりかすみんの手を握ってきたのにはびっくりしたけど、でも可愛いって褒めてくれたのは嬉しかった。下心があるようにも見えなかったから。

 

「いつかかすみんのファンクラブができたら、もと男に会員番号1番をもらってもらうの! えへへ、喜んでくれるかな~? あっ、これはサプライズにするつもりだから、しず子も内緒にしててね!」

 

 ファンクラブ会員として一番近くでかすみんをずっと見ていられるもと男は幸せ者だろう。これは会員番号1番の特権だ。スクールアイドルのかすみんに一番最初に可愛いって言ってくれたもと男だけの特権、他の人にはあげられない。

 

「少し質問を変えるね。かすみさんは元樹君のことどう思ってるの?」

「どう思ってるって言われても……もと男は仲のいい友達だよ。一緒にいて楽しいし、話も弾むし、気も合うし……」

 

 たまにどう頑張っても理解できないこともあるけど。もんじゃの戦闘力とか。

 

「あともと男は人としてすごいと思う。誰にも優しいし、いっつも周りのこと気にかけてて、険悪な雰囲気になりそうな時はもと男がうまくまとめてくれて、そういうところはほんとにすごいと思う」

 

 同好会がなんとか続いていたのももと男の力があってこそだ。事実もと男がいなくなってすぐに空中分解してしまった。頼ってばかりじゃダメなのはわかってるけど、でも話し合いで険悪な雰囲気にならないようにするのって結構難しい。衝突した意見をうまくまとめて、お互いが納得できるようにするのはそうそうできるものじゃない。言葉からそれぞれの譲れない一線を見つけて、それが共存できるようにしないといけないから。かすみんにはそれができなかった。きっとこれからもいっぱいもと男の力を借りることになるだろう。

 

「苦手な勉強とか運動も克服しようとしてて、そういうところはかすみんも見習わなくちゃって」

「かすみさんもまた勉強会する?」

「うっ……遠慮しとく」

 

 あの時のしず子はほんとに怖かった。もと男に勉強を教えられないからって八つ当たりでかすみんに厳しくするのはやめてほしい。

 

「じゃあ異性として元樹君のことどう思う?」

「異性として……それって恋愛相手としてってこと?」

「それでもいいよ」

「うーん……恋愛相手……」

 

 今までもと男をそんな風に見たことないからいまいちピンとこない。

 

「まぁもと男はかっこいいし」

 

 超絶イケメン!っていうわけではないけど、普通以上には顔は整ってると思う。背もそんなに高くはないし、体つきもそこまでいいわけじゃなくて、むしろかすみんよりも貧弱だ。でもどこかかっこいい。心惹かれる何かがある。

 名前は忘れたけどクラスにすごくサッカーが上手な人がいて、その人はもと男より背が高くて、筋肉も程よくついている。もちろん勉強も運動もバッチリできる。面倒見もよくて、言葉遣いも丁寧だ何より顔がすごく整っている。その人は1年生の中ではトップレベルでかっこいいと評判らしい。友達がそう言っていた。

 確かにかすみんもその人はかっこいいと思った。でもかすみんにとってはもと男の方がずっとかっこいい。勉強も運動も苦手だけど、でもその苦手をそのままにせずに克服しようとするその姿が、かすみんにはかっこよく見える。他の人達にはわかってもらえないかもしれないけど、もと男のかっこよさはかすみんだけが知っていればいい。

 

「かすみんのこと大切にしてくれるし」

 

 かすみんが怪我をしたり傷ついたりしないようにいつも配慮してくれる。それはかすみんだけにしてることではないとは思うけど……。それでも大切にしてくれてるってことがすごく嬉しい。

 

「可愛がってくれるし」

 

 研究した可愛いポーズとかを見せたらいつも可愛いって言ってくれる。それだけじゃなくてもっとこうしたらいいんじゃないかとかアドバイスもしてくれる。ちゃんとかすみんのことを見てくれてるんだって嬉しくなる。でも子ども扱いされるのだけはすごくイヤ。もと男だって同い年のくせに……。

 

「優しくしてくれるし」

 

 もと男はとにかく優しい。かすみんにだけじゃなくて皆に。困っている人がいたら見捨てられないんだと思う。一緒に出かけた時に道端で困ってる外国の人がいて、もと男はすぐに話を聞いてあげていた。まぁもと男もかすみんも英語ができないから何言ってるか全然理解できなかったんだけど……。その時はたまたま通りかかった女の子に通訳してもらった。かすみんと同じくらいの子だったけど、ステイツ……? 出身らしくて英語が堪能だった。こういう出会いももと男の優しさがあったからかも。

 あともと男はたまにボランティア活動にも参加しているらしい。公園で子供達と遊んであげたり、町のゴミ拾いをしたり、とにかくいろいろやってるって言ってた。それも親に言われたとかじゃなくて自発的にしているらしい。生徒数が多いこの学校だけど、そんな人はどれくらいいるだろうか。きっとそこまで多くはないだろう。

 もと男の優しさエピソードは尽きない。彼氏には自分だけに優しくしてほしいって思う人も多いらしいけど、もしかすみんがもと男と付き合うことになってもそうは思わない。もと男にはいつまでも皆に優しくいてほしい。だってそれがもと男の魅力なんだから。

 

「褒めてくれるし」

 

 かすみんがいいことをした時はいっぱい褒めてくれる。小テストで平均点よりも高い点数を取った時はいっぱいなでなでしてくれた。まぁその小テストでもと男は0点だったらしいけど……。

 

「頭撫でてくれるし」

 

 もと男のなでなでは丁寧ですごく上手。ただただ心地いい。もっと撫でてほしい、この時間がずっと続いてほしいっていつも思っちゃう。

 たまに子ども扱いしてワシャワシャーって撫でてくるけど、それだけはほんっとにやめてほしい。子ども扱いされることがまずイヤだし、髪もぐちゃぐちゃになるから。女の子にとって髪がどれだけ大事なのかもと男に教えないとダメだ。

 

「ギュってしたら優しく抱きしめ返してくれるし」

 

 もと男を抱きしめてると安心するし、逆に抱きしめられるとただただ嬉しい。でもすごくドキドキもして、落ち着いてるのに落ち着けない。なのにそれが心地いい。しず子やエマ先輩に抱きついてる時はそんなことないのに、もと男の時だけ……。

 でもさっき汗臭いって言われたから、罰としてじゃなくしばらく抱きついてあげない。あとは練習後に抱きつくのもやめる。さすがに気にしちゃうし、何よりもと男から嫌われるのはイヤだ。汗の臭いが原因で嫌われるくらいなら、練習後に抱きつくのを我慢する。

 

「……なんていうか、もと男はすごくあったかい。嬉しい時は一緒に喜んでくれるし、楽しい時は一緒に楽しんでくれるし、悲しい時は慰めてくれて……一緒にいるとかすみんの心までぽかぽかしてくるの。しず子が好きになるのもわかる気がする」

 

 もと男みたいな人が彼氏だったらいいのにってたまぁに考える。きっと一緒にいて幸せだろう。

 

「でもちょっと頼りないところは嫌かも。力仕事ももと男には任せられないし、かすみんが怖い人達に襲われちゃって助けに来てくれても返り討ちにされそうな気がする」

「あー……ちょっとわかるかも。私もデートには白馬に乗って迎えに来てほしいんだけど、元樹君だとお馬さんに振り落とされちゃいそう」

「それはもと男じゃなくても……」

 

 ちゃんと特訓していないともと男じゃなくても振り落とされちゃうと思う。それに仮に白馬で迎えに来てくれたとして、その後その馬はどうするのだろうか。一緒に乗ってデートするのかなぁ?

 

「しず子はもと男と一緒に出かけたことあるの?」

「ないけど……」

 

 ふーん、まだ出かけたことなかったんだぁ……。

 

「何、かすみさん」

「ふっふ~ん、かすみんはもと男と出かけたことあるもんね~。しかも2人きりで!」

「えっ!? い、いつ? どこに行ったの?」

「確か1ヶ月くらい前かなぁ。ショッピングモールで2人で服を買ったり、カフェでパンケーキ食べたり、クレープ食べたりしたよ。ほらっ、その時の写真! 可愛いでしょ!」

 

 仲良く腕を組んで撮った写真を見せる。撮る瞬間にもと男の口にクレープを突っ込んだら後で怒られた。でも怒ってるもと男の口元に生クリームがついてて、かすみんもさすがに笑いを抑えきれずに2人で笑いあった。あの時は楽しかったなぁ。また一緒に出かけたいな。

 

「この写真……」

「気づいちゃった? もと男と腕組みながら写真撮っちゃったの! 羨ましいでしょ?」

「……」

 

 しず子が口をキュッと結んで、殺し屋のような目つきで睨んでくる。

 

「ご、ごめん。写真を撮る時だけだったから、そんな怖い顔で見ないでよ……」

「どっちから腕を組もうって言いだしたの?」

「えっと……確かかすみんから」

 

 そう答えるとしず子は何やら考え始めた。少しして、かすみんのことを真っ直ぐ見つめて口を開いた。

 

「ねぇかすみさん。かすみさんって……元樹君のこと好き、だよね? もちろん異性として」

「え……」

 

 今、なんて……? かすみんが、もと男のこと好きって……それも異性として……。

 

「ええぇぇぇぇぇっ!?」

 

 予想外のことに思わず叫んでしまう。それだけ声量が大きかったのか、しず子は手で両耳を塞いでいる。

 

「か、かすみんがもと男のこと好きだなんて……そんなことあるはずないじゃん!」

 

 そう、あるわけない。かすみんにとってもと男は友達で仲間で、そして大切なファンだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 それにもと男はしず子の好きな人だ。しず子がアピールするところ、楽しそうにするところ、鈍感さに翻弄されるところを一番近くで見てきた。それに何度もしず子に惚気られた。そんなかすみんが親友の好きな人を好きになるなんてありえない。ありえない、はずなのに……。

 

「か、かすみんがもと男のこと好きだなんて……そんなことあるはずないじゃん!」

「じゃあなんで元樹君と腕を組んだりしたの?」

「なんだかもと男とくっつきたかったから……」

「かすみさんはよく元樹君に抱きついたりしてるよね。それはどうして?」

「もと男に抱きついてると安心できて、でもドキドキもして、それがすごく心地いいから……」

「逆に元樹君に抱きしめられた時は?」

「嬉しいんだけど恥ずかしくて、いつも顔が熱くなっちゃう……。でもやっぱりそれが心地よくてもっとしてほしいんだけど、さすがにお願いするのが恥ずかしいからいっつもかすみんからギュってするの。そしたらもと男も抱きしめ返してくれるから」

「頭を撫でられた時は?」

「もと男は優しく撫でてくれるし、撫で方も気持ちいいからもっといっぱいしてほしい。でもたまに子ども扱いして撫でてくるから、それだけはやめてほしい」

「もう一度聞くよ。元樹君のこと好き?」

「わかんない……。仲のいい男の子なんてもと男くらいだから、この気持ちがそうなのかわかんないよぉ……」

「そっか、そうだよね」

 

 もと男と一緒にいると楽しい。そばにいるだけでイヤなこともすぐに忘れられる。楽しそうな声を聞くだけでかすみんも元気がもらえる。その声で応援してくれるだけでいろんなことを頑張れる。

 可愛いって褒めてくれると嬉しい。一緒に出かけた時は可愛いって言ってもらいたくて頑張ってオシャレをしたら、顔を赤くして照れながら可愛いって褒めてくれた。その時はかすみんもつられて照れてしまったけどすごく嬉しかった。

 もと男が構ってくれないと寂しい。冷たい対応をされると悲しい。誰かと一緒にいるのを見ているとモヤモヤする。相手が女の子だったら尚更。すぐに駆け寄って後ろから抱きついて、もと男はかすみんのものだって主張したい。

 もと男とずっと一緒にいたい。ずっとかすみんの隣にいてほしい。ずっとかすみんを見ててほしい。誰よりも近くでかすみんのことを応援してほしい。学年が上がっても、この学校を卒業しても、大人になっても。その役目はもと男じゃないとイヤだ。もと男以外考えられない。

 しず子ともと男が結ばれた時のことを考えると……嬉しいのに胸が苦しい。ずっと応援してた親友が結ばれたのだからほんとは喜ばしいことなのに、2人が幸せになれるのならそれでいいはずなのに、どうしようもなく胸が苦しい。きっと抱きしめられるたびに、かすみんの知らないところでしず子にもっとすごいことをしてるんだって、そう考えてしまう。

 この気持ちの正体がわからない。これが恋なのか、それとも全く別の何かなのか。教科書には書いてないだろうしネットにも答えはないだろう。お父さんやお母さんに聞くのは……うん、さすがに恥ずかしい。あとお父さんに好きな人がいるって言ったらもと男が大変なことになりそうだし。やっぱり自分で探っていくしかないんだ。

 

「しず子も……もと男に撫でられたりしたら、かすみんと同じ気持ちになるの?」

「うん。頭を撫でてもらえると恥ずかしいけどやっぱり嬉しい。抱きしめられるとすごく幸せな気持ちになる。かすみさんも同じなんじゃない?」

「幸せ……あの心地よさは幸せってことだったのかなぁ……」

「きっとそうだと思うよ」

「そっか、かすみん幸せだったんだ……」

 

 もと男に頭を撫でてもらって、抱きしめてもらって、かすみんはすごく幸せだったんだ……。あの心地よさの正体が幸せだったってことだよね。

 

「元樹君とデートしたい?」

「デートなのかはわからないけど、一緒に出かけたいとは思う……」

 

 そもそもデートとお出かけの違いは何だろう。仲のいい男女が2人きりで出かけたらデート、って言うのかな。だとしたらかすみんはもと男とデートがしたい。皆で一緒に出かけるのも楽しいとは思うけど、やっぱりもと男とは2人きりで出かけたい。

 

「元樹君と手繋いでみたい?」

「……繋いでみたい、かも」

 

 写真を撮る時だけじゃなくてずっと手をつないでいたい。離れないようにギュっと握って、指も絡めて、そのまま並んで歩きたい。

 

「撫でてほしい?」

「うん、いっぱい」

 

 子ども扱いした撫で方じゃなくて、愛情を込めて恋人を撫でるように撫でてほしい。皆にじゃなくて、かすみんだけにしてほしい。

 

「抱きしめてほしい?」

「ギュっていっぱいしてほしい」

 

 抱きしめてもらってもと男の温かさをもっともっと感じたい。かすみんをもっとドキドキさせてほしい。もっと幸せを教えてほしい。

 

「皆が見てる前でも?」

「うん。かすみんがもと男のものだって、皆に見せつけてほしい」

 

 お互いがお互いにとって特別な存在だって見せつけてほしい。これが牽制したいって気持ちなのかな?

 

「キス、してみたい?」

 

 キスかぁ……。恋愛ドラマとかでそういうシーンを何度も見て、何度もキュンキュンした。自分が誰かとキスするなんて想像したこともなかったけど……相手がもと男なら……。

 

「……してほしい。抱きしめながら優しくチュッて、もと男の味をかすみんにいっぱい刻んでほしい」

 

 頬じゃなくて唇に、欲を言えばもと男の方からしてほしい。かすみんに確認してからでもいいし、強引に奪われてもいい。誰かに見られたって構わない。とにかくもと男とキスがしたい。キスをして愛してるって言われたい。一瞬じゃきっと満足できない。1秒でも長く、息の続く限り繋がっていたい。

 かすみんのファーストキスはもと男にもらってほしい。他の人にはぜぇーったいにあげたくない。ほんとはもと男のファーストキスもほしいけど、それはせつ菜先輩に取られちゃった。だからせつ菜先輩を上書きできるまで何度も何度も唇を重ねたい。

 

「えっちなことは?」

「それは別に……」

「あれぇ……?」

 

 しず子が困惑しているけど、どちらが普通なのかかすみんにはわからない。普通は好きな人とはいっぱいえっちなことしたいものなのだろうか。

 

「かすみんだっていつかはしてみたいと思うよ」

 

 もと男なら優しくしてくれるだろうし。きっと1人でした時の何倍も気持ちいいだろう。いっぱいキスもできるし、もと男のことを肌で感じられる。もしかしたら一度でも体験してしまえば考えが変わってもっといっぱいしたいと思うようになるかもしれない。

 

「でも今すぐはいいかな。せめてお互い18歳になってから」

「うん、かすみさんらしくていいと思うよ」

「でももと男がどうしてもって言うなら……ちょっとだけならしてあげてもいいかも」

「かすみさん……」

 

 ディープキスや胸を揉むくらいならいつでもしてくれていい。さすがに人前では恥ずかしいけど、もと男がどうしてもしたいって言うならかすみんも我慢する。もと男がしてほしいなら手や口でしてあげる。上手にできるかはわからないけど、気持ちよくなってもらえるように頑張る。

 でもそこから先は……ね。かすみんにはまだ早いというか、安易に経験したくないというか……。もっとお互い大人になって、ほんとにしたいと思った時にしたい。だからそれまではもと男には我慢してもらおう。押し倒されても今なら簡単に押し返せるし。

 

「はぁ、なんで今まで気づかなかったのかなぁ……」

 

 ここまで情報が揃えばかすみんにだってわかる。しず子に指摘されるまで何の疑いも持ってなかった自分に驚く。これじゃあどっちが鈍感なのかわからない。

 

「私、元樹のことが好き……大好き」

 

 一切の迷いなく、心の底から元樹のことが大好きだって今なら言える。

 

「友達としてじゃなく異性として、しず子にもりな子にもせつ菜先輩にも負けないくらい、元樹のことがだーいすき!」

 

 空に向かって自分の気持ちを叫ぶ。もしこの場に他の誰かがいたら注目の的になっていただろう。もしかしたら校舎の中、部室棟まで声が届いてるかもしれない。それくらいの声量で気持ちを吐き出す。せつ菜先輩の言葉を借りるなら、元樹への私の大好きを叫ぶ。

 ……気持ちいい。恋をするって、好きを言葉にするってこんなにも気持ちいいことだったんだ。ずっと元樹のことが好きだったはずなのに今まで気づかなかった。

 

「部室まで聞こえてるかもしれないよ?」

「いいの! 聞こえてたってもと男のことだからどうせ聞き間違いだって流すんだから。それにもし聞こえてたならそのまま告白しちゃうもんね~」

 

 もしもこの好きって気持ちを元樹に直接伝えることができたならどれほど気持ちいいのだろうか。気になる。気になるけど……でもやっぱり怖い。想いを伝えて振られてしまうことが怖い。自信がないわけじゃない。でも振られて元樹との関係が壊れてしまうのが怖い。壊れてしまうくらいならいっそ……となってしまう気持ちも今ならわかる。でもその恐怖心を乗り越えた人だけが報われるのだろう。そして報われるのはいつも1人だけ。どれだけ頑張っても一切報われずに終わることだってある。恋ってこんなにも難しくて、こんなにも残酷で、それでいて美しいものなんだって今本当の意味でわかった。

 

「しず子、ありがと。かすみんに気づかせてくれて」

「どういたしまして」

 

 教えてくれなかったら多分ずっと恋心に気づかなかったと思う。しず子には感謝しかない。

 

「でも、しず子はよかったの? ライバルを増やすようなことして」

 

 りな子にせつ菜先輩とただでさえライバルが多いのだ。しかも2人ともそれぞれ違った魅力を持っている強力なライバル。そこに可愛いかすみんが加わったとなれば争いはさらに激しくなってしまう。しず子にはリスクしかない。

 

「もちろん。気づいた時にはもう全部終わってた、って悲しむかすみさんは見たくないもん」

「そっか」

 

 もしもその状況になっていたら、しず子の言う通りかすみんは悲しい思いをしたと思う。誰かに相談することもできず、かといってもと男本人にも言えるはずもなく、どうしようもない気持ちを1人で抱え込んで苦しんでいただろう。

 

「しず子のおかげでそんな辛い思いはしなくてすんじゃうよ、ありがと!」

「わっ!」

 

 しず子に抱きついて感謝の言葉を改めて伝える。しず子も優しく抱きしめてくれた。もと男の時と違ってドキドキはしないけど、でも同じようにすごく安心できる。きっとこれも幸せってことなんだろう。

 

「かすみさん、顔真っ赤だよ」

「し、仕方ないじゃん! 自覚した途端、抱きついたり腕組んだりしてたのが恥ずかしくなってきて……。はぁ、さすがに大胆なことしすぎだよ……」

 

 今のかすみんは平常心を保ったまま同じことをできるだろうか。

 

「心の中ではとっくに気がついてたんじゃない?」

「無意識にアピールしようとしてたってこと?」

「そういうこと」

「そんなことあるわけ……あっそういえば、もと男と同好会で再開した時、どういうわけか侑先輩に嫉妬しちゃったんだよね。なんだか先輩ともと男が仲良くしてるところを何度も見た気がして……」

 

 ふとそんなことを思い出した。あの時はただの気のせいだと思って気にしてなかったけど、今になって気になってきた。

 改めて考えるとおかしなことだらけだ。あの時のかすみんともと男は侑先輩と初対面だった。そもそも()()()()()ということ自体がおかしい。仲良くなりそうな気がするならともかく。妙に現実味があったのも気になる。ほんとに見たことあるような……とにかく気のせいですませられるようなものではない。

 2人が嘘をついていて、ほんとは侑先輩と知り合いだったのであれば一応辻褄は合う。2人が仲良くしてるところをかすみんが実際見たのならあの現実味にも納得がいく。でもその線はさすがにないと思う。侑先輩は人を傷つけるような嘘をつけない人だと思うから。あともと男がかすみんを騙してたっていうのを信じたくないから。もと男のことを信頼してるっていうのはもちろんある。でも一番は悲しいから。侑先輩との仲をかすみんに隠したかったってことがただただ悲しい……。だから2人は嘘をついてないって信じたい。

 

「私もそれに近いことがあった気がする」

「え、しず子も?」

「うん。元樹君から歩夢さんの話を聞いた時、会ったこともないのに元樹君が取られちゃうって断言できたの」

「確かに、かすみんのと似てるかも……」

 

 実際もと男と歩夢先輩は仲がいい。それに2人の関係性もどこか普通と違うような感じもする。何というか、もと男が歩夢先輩に甘えてるような……。付き合ってはないと思う。恋人というよりは……親子の方が近い気がする。子供がお母さんに甘えてるような、そんな感じ。

 

「2人とももと男のことが好きすぎて未来に干渉しちゃったとか?」

「ない……こともないかも」

 

 2人の恋愛パワーで予言ができちゃったのかもしれない。

 

「それか別世界線ではかすみん達は負けちゃってて、その世界線のかすみん達が警告してくれたとか!」

「うーん……」

 

 SFチックだけど恋愛パワーなら何とかなるかもしれない。でも別世界ではかすみんが負けてるってのは悲しいな……。

 予言も別世界も科学で証明されてないけど、逆にないことも証明されてない。つまり可能性としてなくはないのだ。でも本当に別世界が存在するのなら、警告じゃなくて勝った世界線のかすみんから勝つ方法を教えてほしかったなぁ。

 

「……はぁ、かすみん達じゃいくら考えたところでわかんないよね」

「うん……」

「オカルト研究部とか、そんなところに聞いた方がいいのかなぁ」

「そこまでしなくてもいいんじゃないかな……。それに、知らない人に好きな人がいるって言える?」

「……うん、恥ずかしいからやめとく!」

「それがいいと思うよ」

 

 その人達からかすみんに好きな人がいるって噂がたって、もと男から応援してるよなんて言われたら……多分泣いちゃう。もうこのことについて考えるのはやめよう。どうせ考えたところで誰にもわからないんだから。

 

「しず子、今日お泊まりなんだよね?」

「そうだけど……かすみさんも泊まりたいの?」

「そうじゃなくて、かすみんに遠慮とかしなくてもいいからね」

「え、いいの?」

「もちろん。キスでも告白でもえっちなことでも、なんでもしちゃってもいいよ」

「それだとかすみさんが不利じゃない? 今自覚したばかりでアピールなんてほとんどできないし……」

「無意識だったとはいえ、今までのアピールがしず子に負けてるなんてぜ~んぜん思わないもん!」

 

 しず子と違っていっぱい抱きついたりしてるし、何より2人きりで出かけている。お出かけの内容も悪くなかった。むしろ最高だったと思う。少なくともかすみんにとっては忘れられない1日になった。もと男も同じだといいなぁ。

 

「それに、しず子に告白なんて無理だと思うし」

「むっ……そんなことないもん。私だって告白くらいできるもん。一度告白しようとしたのにかすみさんが邪魔してきたんだもん」

「あ、あれは……もと男としず子がくっつくのがなんか嫌だったから……」

 

 あの時にはすでにもと男のことが好きだったのかな?

 

「あの時は邪魔してごめんなさい……」

「気にしなくていいよ。今日告白してかすみさんに勝ってみせるから」

「あ、言ったな~。そこまで言うんだったら勝負しようよ!」

「勝負?」

「しず子が告白できたらしず子の勝ち。できなかったらかすみんの勝ち。負けた方が勝った方にアイス奢りね!」

「そんな私に有利な条件でいいの? 私が普通に勝っちゃうよ?」

「いいもーん」

「じゃあその勝負受けるね。ちゃんと明日報告するから」

「振られた時はかすみんが慰めてあげるから」

「い、今からそんな話しないでよ。不安になっちゃうじゃん……」

「ご、ごめん……」

 

 確かによくなかった。かすみんだって振られるのが怖いんだから、しず子も同じように思ってたっておかしくない。

 

「そろそろ戻ろっか。元樹君達を待たせちゃってる」

「そうだね。お泊まりの時間が減っちゃうからしず子も早く帰りたいもんね」

「まぁそれもある……かな」

 

 あーあ、早く明日にならないかなー、かすみんも早くもと男とお泊まりしたいよ。愛情たっぷりの手料理を振舞ったり、一緒の布団で寝たりしたい。どうしよう、今日は楽しみすぎて寝れないかもしれない。

 

「かすみさん」

「ん、どうしたの?」

「私、絶対に負けないから」

「……うん。かすみんも絶対に勝つよ。スタートは遅れちゃったかもしれないけど、これからはどんどん巻き返していくから」

「ふふっ、じゃあ私ももっと頑張らないと」

 

 えへへっ、待っててねもと男。かすみんの可愛いところを特等席でいっぱい見せてあげるから。かすみん以外の女の子のことなんて考えられないくらい虜にしちゃうから。だからかすみんから一瞬たりとも目を離さないでよね! かすみんの大好き、ちゃんと受け止めてね!




かすみん超絶可愛い(定期)


3rd円盤を見るためにアニガサキ復習したり、無敵級のMV見てたらいつの間にか推しがかすみんに変わってました。
なーんであんなに可愛いんでしょうね。見た目はもちろん、性格も歌も可愛い。そして何よりも声が素晴らしい。これぞかすみんって感じで最高ですね。
かすみんが可愛すぎて今後の予定が壊れそうです。具体的には初恋人の辺りが……。
読者兄貴もかすみんの魅力に堕ちろ!……堕ちたな。
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