【WR】虹ヶ咲RTA_称号『虹の楽園』獲得ルート   作:一般紳士君

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初みんですぅ!


サイドストーリー Part15/m

「また明日」

「うん、また明日!」

 

 待ちに待ったもと男とのお泊まり会! りな子も一緒に買い物にも行って、そのまま3人で晩ご飯を食べられると思ったけど……りな子は帰っちゃうみたい。もちろんもと男と2人きりで過ごしたいという気持ちもあるけど、3人で晩ご飯を食べたいという気持ちも同じくらいある。でもりな子にはりな子の予定があるから仕方ない。

 

「りな子帰っちゃったし、2人で食べよっか」

「そうだな。早速準備するか」

 

 もと男はエプロンを取り出して料理の準備をしようとするが、それを手で制する。

 

「今日はぜ~んぶかすみんがしてあげるから、もと男はテレビ見ててもいいよ。でーもー、料理するかすみんのこと見てたいなら、じぃーっと見てくれててもいいよ?」

 

 可愛くウインクをしてアピールをする。効いたのかもと男は目を逸らした。

 

「じゃあテレビ見てるわ」

 

 リモコンを手に取ってお笑い番組を見始めた。さっき目を逸らしたのは照れていたわけではなく、リモコンを探していたみたいだ。

 

「ちょっと! そこはかすみんを見るって答えてよ!」

「かかかかがテレビ見てていいって言ったんじゃないか」

「かかかかって誰!?」

「かすみの新しいあだ名だよ。かすかすよりはいいんじゃないか? 頭スカスカみたいな感じしないし」

「どっちもヤ! どっちも可愛くないもん!」

 

 それに『かかかか』は中身がスカスカだし……。最初の文字と文字数しか合ってないもん。もはや誰のことだかわからない。怒られそうだけど、一応果林先輩も当てはまるわけだし。

 

「もと男にはちゃんと名前で呼んでほしいの!」

 

 『かすみん』じゃなくてもいい。もと男にはちゃんと可愛い名前で呼んでもらいたい。

 

「しょうがねぇなぁ……。可愛いかすみ姫よ、どうかわたくしめにあなた様が料理するところを見せていただけないだろうか?」

 

 もと男は跪いて、騎士のようにかすみんのことを見上げてくる。その顔は見たことがないくらい凛々しくて、(かすみん)を守ってくれる本物の騎士のように見えた。段々と顔が熱くなってきて、思わず顔を逸らしてしまう。ただ照れているのがバレるのが嫌なので、カバンからエプロンを探すふりをして誤魔化す。

 

「しょうがないなぁ……そこまで言うなら見せてあげる! もと男だけの特権なんだからね? 今からエプロンに着替えるね」

 

 お気に入りのエプロンを身につける。青のエプロンで、首元には水玉模様のフリル、腰には同じく水玉模様のリボンがついた可愛いエプロン。入学祝にお母さんに買ってもらった一番のお気に入り。自信はある、あるけど……ちゃんと可愛いと思ってもらえるか不安で振り向けない。……でも、見てもらいたい。一回大きく深呼吸して、覚悟を決めて振り返る。

 

「じゃじゃーん! かすみんお気に入りのエプロンなの! どう? 似合ってる?」

「……」

 

 振り返るともと男がジッとこちらを見つめてきた。けれど見つめてくるばかりで、何も言ってくれない。

 

「……」

「……」

 

 部屋にはテレビの音だけが鳴り響いている。この時間が辛い。早く何か言ってほしい。

 

「……ああ、ごめん。見惚れちゃった。すっごい可愛いよ」

 

 微笑みながら褒めてくれる。顔がカーッと熱くなっていく。いつも可愛い可愛いと褒めてくれるけど、今回のはいつもより気持ちが籠っているように聞こえた。それがたまらなく嬉しい。

 

「ふっふーん、そうでしょそうでしょ。もっとじっくり見てもいいよ?」

「じゃあお言葉に甘えて……」

 

 もと男が近づいてきて、かすみんのことをじっくりと観察し始めた。かすみんの周囲をぐるりと回り、時折体に触れてくる。

 

「……さすがに近くない?」

 

 匂いでも嗅いでいるのかという距離で見てくる。

 

「ねぇ、ちょっと……」

 

 もはやかすみんじゃなくてエプロンのことを観察しているんじゃないだろうか。しかも時折おっぱいに顔が接近してくる。その度に息がかかってこそばゆい。

 

「何か言ってよ、恥ずかしい……」

「かすかす」

「かすかすって言わないでってば! もうっ! もと男なんか変だよ。どうしたの?」

「ただかすみに見とれちゃっただけだよ」

「そ、そう?」

「ああ」

「じゃあしょうがないね。だってかすみんは可愛いんだもん! エプロンなんてつけちゃったらその可愛さがさらに跳ね上がっちゃうもんね。もと男だって見とれちゃうよ」

 

 恋っていうのは厄介だ。相手にそういう意図がなかったとしても、褒めてもらえるとどうしても嬉しくなっちゃう。逆に少しでも冷たくされると嫌われたんじゃないかと怖くなってしまう。今まで他人事のように考えていた恋だけど、いざ自分が恋するとそれがよくわかる。……少し誤魔化された感じもあるけど、小さいことは気にしないことにする。

 

「……でも、恥ずかしいからもうちょっと離れて……」

 

 もと男から離れるために1歩下がる。もと男は残念そうな顔をした後、しょうがないと納得したように引き下がった。かすみんとしてはここでもう1歩詰めてきてほしかったんだけど……まぁ、もと男だししょうがないかな。

 

「ふぅ……じゃあそろそろ始めるから、もと男はそこで座って見ててね」

「了解」

 

 もと男はテーブルに座り、肘をつきながらかすみんのことを見ている。その視線を感じながら料理の準備を進める。オムライスと焼いたピーマンだけだからすぐに作れちゃうはず。かすみんもお腹ペコペコだから早く食べたい。

 

「ふんふんふーん♪」

「上機嫌だな」

 

 そりゃそうだよ。だって大好きな人に見守られながら料理できて、しかも自慢の料理を大好きな人に食べてもらえるんだもん。これで上機嫌にならない恋する乙女はいない。この後ピーマンを食べなきゃいけないことを差し引いてもおつりがいっぱいくる。鼻歌だって無意識に歌っちゃう。

 

「もと男はオムライス好き?」

「別に、普通くらいだよ」

「普通かぁ……じゃあ今日から大好きにしてあげるね。週一でかすみんのオムライス食べないと満足できない体にしてあげる!」

「言うねぇ。そんなに自信あるのか?」

「もちろん! もと男のためならなんだって美味しく作れる気がする!」

 

 隠し味に愛情って言ったりするけど、これがそういうことなのかな? 冗談抜きでもと男のためならなんだって何でも美味しく作れる自信がある。……いや、やっぱり何でもは無理かな。ピーマンを味付けもせず焼くなんてどう頑張っても美味しくしようがない。もと男はそれが食べたいらしいけど……。

 

「あ、そうだ。今のうちにお風呂入れてきてくれない?」

「ああ、いいよ」

 

 ご飯を食べ終えたらすぐにお風呂に入りたい。まぁある計画のためにもと男に先に入ってもらうんだけどね。昨日の夜思いついて、実行するか迷ったけど結局することにした。もと男が恥ずかしそうにしながらも喜んでくれるのが目に浮かぶ。かすみんもだいぶ恥ずかしいけど、もと男が喜んでくれるなら安いものだ。

 

「……なんかこのやり取り夫婦みたいだな」

 

 もと男がポツリと呟く。

 

「夫婦……えへへ、夫婦かぁ……」

 

 かすみんもいつかもと男と結婚するのかなぁ? かすみんは卒業して2年後くらいには結婚したいなぁ。でももと男が大学に行きたいなら、もと男が大学を卒業してからになるかな。4年も待たないといけないのは辛いけど、その分結婚した時の幸福感も大きくなる気がする。

 

「かすみんともと男が結婚したらぁ……いってきますのチューは絶対ね。あとハグもしてほしいなー」

 

 もと男が仕事に出かける前に玄関でハグとチューをしたい。で、時々お隣さんにそれを見られて、おしどり夫婦だーなんて近所で噂されたい。……あとこれはもと男には絶対に言えないけど、週に2回はエッチしてほしい。まだ経験したことないけど、愛を確かめ合う行為っていうのは見ててわかるし、かすみんもあんな風にもと男に愛してほしい。……学校とか公共の場でするのはイヤだけど。今日部室に行く途中で、誰もいない教室でエッチしてた人達がいたから余計そう思う。普通に廊下まで声が漏れてたし、ドアの窓からも普通に覗けた。……ダメだ、思い出したらムズムズしてきちゃった。あの時ももと男とするところを想像しちゃって思わずその場でしちゃいそうになったし……。なんであんなところでしちゃうんだろう……。見つかった時のリスクが大きすぎると思うんだけど。でも我慢できないくらい気持ちいいってことなのかなぁ……。女の人の声もすごく気持ちよさそうだったし、男の人も何度も何度も腰を打ち付けていた。いつかかすみんももと男と……ってダメダメ! 今は料理中なんだから、この妄想をするのはまた今度にしよう。

 

「……風呂入れてくる」

「はーい」

 

 もと男は立ち上がってリビングから出ていった。かすみんの話に興味がないのかと一瞬心配になったけど、それは杞憂だったとすぐにわかった。もと男の頬がちょっぴり赤くなっていたからだ。多分かすみんとチューするところを想像しちゃったんだと思う。だって一瞬かすみんの唇を見てきたし。ちゃんとかすみんのことを女の子として意識してくれてるんだと思うと嬉しくなった。料理をする手も自然と弾む。

 

「もと男、好き。大大大好き。いっぱいチューしたい」

 

 もと男がいないのをいいことに、自分の気持ちをこそりと呟く。もと男がかすみんとのキスを意識してくれたように、かすみんももと男とのキスを想像していた。今日の目標はキスをすること。

 ベッドに2人並んで腰かけながら、不意にもと男がかすみんの腰に手を回して引き寄せてくる。そして顎に手を添えて、見つめ合いながらお互いの顔が近づいていって、そのままキス……みたいな流れでしたい! というかしてほしい!

 お昼にしず子がキスしたって何度も自慢してきたから、かすみんだって負けてられない。かすみんだってキスしたもん、何度もしたもん、なんならもと男の方から求めてきたもん、って明日自慢し返すんだ。

 

「よしっ、これで完成!」

 

 オムライスと焼きピーマンができた。完成したものをお皿に盛りつける。どうしよっかな、もと男のオムライスにケチャップで『大好き』って書いてあげよっかな。……やっぱりやめとこ。ケチャップの量が多いって怒られちゃうかもしれないし、あと恥ずかしい……。昨日も好きって伝えられなかったし、かすみんってヘタレなのかなぁ……。

 

「……もと男遅いなぁ」

 

 もう晩ご飯は完成したのになかなか戻ってこない。そもそもお風呂を入れに行ったのも10分以上前のことだ。いくら何でも遅すぎる。早く食べてもらいたいし様子を見に行こう。

 リビングを出て廊下に出る。お風呂は……ここかな? 違った、誰かの部屋だった。部屋の感じからすると男の人の部屋っぽい? でもしばらく使われてない感じがする。もと男のお兄さんの部屋とかかな? どんな人なんだろう……いつかその人がかすみんのお義兄さんになるんだもんね、ちゃんとどんな人か知っておきたい。でも義理のお兄さんってどんな感じになるんだろう……ってかすみんはお風呂を探してたの! 時間が惜しいから早く次の部屋を探そう。

 

「あっ、ここだ!」

 

 扉を開けるとそこは脱衣所だった。電気は消えてるけど、お湯を張る音は聞こえる。ちゃんとお風呂の準備はしてあるようだ。……だったら余計どこにいるのさ!

 

ん~……」

 

 近くからもと男の声が聞こえてきた。……この部屋からだ。ここは……トイレ? そっか、トイレに行ってたからなかなか戻ってこなかったんだぁ。

 

「もと男ー、ご飯できたよー」

「……」

 

 呼びかけても返事がない。

 

「もと男? お腹痛いの? 大丈夫?」

「……」

 

 やはり返事はない。もと男の気張る音は僅かに聞こえるからここにいるのは間違いないんだけど……。

 

「ねぇ、何か返事してよ。かすみん放置プレイは好きじゃないんだけど……」

 

 常に構ってほしい、一緒にいてほしいとは言わない。でもこんなに近くにいて、しかも2人きりなのに無視されると悲しくなっちゃう。

 

「ねぇ、寂しいよ……もとおぉ……」

 

 目に涙が溢れて、ぽろぽろと床に落ちる。止めようと思っても止まらない。もと男に嫌われるようなことしちゃったのかなぁ……。かすみんに悪いところがあるなら直すから……お願い、返事してよぉ……。

 

「わーっ! ごめんごめん! 今出るから!」

 

 慌てた様子でようやく返事をしてくれた。水の流れる音と共にもと男がトイレから出てくる。頭をかくもと男に抱きつく。

 

「もと男ぉ! なんで返事してくれなかったのさ!」

「ごめん、ちょっとイタズラしたくなって……」

 

 イタズラ……それがわかって少し安堵する。

 

「かすみ?」

 

 でも涙はわざと止めない。涙を見せることでもと男に反省してもらうのだ。

 

「もと男に嫌われたんじゃないかって、怖くて怖くて……こんなイタズラ二度としないで……」

「……ごめん」

 

 もと男がかすみんをギュってしてくれる。……どうしよう、こんなことされたら涙なんてすぐ引っ込んじゃうよ……。でも泣き止んじゃうとこの幸せな時間が終わっちゃうし……とりあえずもと男の胸に顔をうずめて、あとは泣きまねでなんとかしよう。

 

「うぅ……ぐすん」

「悪かったって……どうしたら泣き止んでくれるんだよ」

 

 ほんとはもう泣き止んでるんだけど……でももう少しこのままでいたい。それに今なら何でもお願い聞いてくれそうだし、思い切ってキスでもお願いしてみようかな。

 

「じゃあ……チュー、して?」

「キス? いいけど……」

 

 そう言ってもと男はかすみんの顎をクイってしてキスの体勢をとった。え、待って。ほんとにするの? かすみんまだ心の準備ができてないんだけど……。心臓がバクバク言ってる。このまま破裂しちゃいそう。

 

「いくぞ?」

 

 もと男の顔が少しずつ近づいてくる。かすみんはこんなにドキドキしてるのに、もと男にはそんな様子は一切ない。お互いの唇の距離はあと5センチ……3センチ……そして1センチ。ここでかすみんの心は限界を迎えた。

 

「……なーんて! 冗談だよーだ!」

 

 やってしまった……。折角の大チャンスを棒に振っちゃったかもしれない。でも仕方ない。大好きなもと男の顔がすぐ目の前にあって、かすみんの心臓が限界だったんだもん。恐る恐るもと男の方を見ると少し残念そうな顔をしていた。

 

「あっれれ~? もしかして本気にしちゃった?」

「まぁ、多少は……」

「かすみんの唇はそう簡単にあげませーん」

 

 嘘。もと男になら今すぐにでももらってほしい。

 

「何だよ、勘違いしちゃったじゃんか」

「さっきかすみんにイタズラしてきたじゃん。その仕返しだもん」

「そうかもしれんが……」

「でもさっきみたいなイタズラは二度としないでね。かすみん悲しくて泣いちゃうから……」

「ああ、わかった。約束するよ」

 

 優しく頭を撫でてくれる。気持ちいい、もっとしてほしい……けどご飯が冷めちゃうから早く戻らないと。

 

「よしっ、それじゃあご飯食べよ? 早くしないと冷めちゃうから」

「そうだな」

 

 もと男の腕を掴んでリビングまで引っ張る。ほんとは手を握りたいんだけど、今はまだそんな勇気は出ない。

 

「じゃーん! かすみん特性オムライス! ケチャップをたーっぷりかけて召し上がれ」

「おー」

「……あとピーマンも」

「おー!」

 

 もと男がかすみんの作ってくれた料理を見て喜んでくれた。オムライスよりピーマンの方が反応が大きかったのは不服だけど……。

 

「なぁなぁかすみ」

 

 席に座ろうとすると、もと男に服を引っ張られる。

 

「折角だからさ、俺のオムライスに何か書いてくれない?」

 

 どうやらケチャップで何か書いてほしいみたい。もちろん断る理由なんてない。

 

「いいよ、何書いてほしい?」

「ん~……あ、そうだ。まずハートマーク書いて」

 

 ハートマークかぁ……なんだかメイド喫茶みたい。もと男もそういうのに興味あるのかな? 少し意外かも。かすみんがメイド服着たらどんな反応をしてくれるんだろう。可愛すぎて目を合わせてくれないかも!

 

「あとは……『大好き』ってハートマークの上に書いといて」

「え、だ、大好き……?」

「そうだよ」

 

 ハートマークで終わりかと思ったら、『大好き』と書くのまで要求されてしまった。そんなの恥ずかしくてできないよぉ……。さっき断念したばかりだし。そもそももと男は何を考えてこんなこと要求してきたんだろう。わかんない……かすみんをからかうため? それとも……

 

「なぁ早くしてくれよ」

 

 かすみんの気持ちなんて知りもせず、もと男はこちらを見ながら催促してくる。その態度からはイタズラ心は読み取れない。じゃあ一体どんな気持ちなのか、ますますわからなくなる。

 

「ほ、ほんとに大好きって書くの……?」

「もちろん。まぁ同じような言葉であれば何でもいいけど」

 

 同じような言葉……もしかしてこれは想いを伝えるチャンスなのでは? 言葉ではヘタレてしまって伝えられなかったけど、文字でならちゃんと伝えられるかもしれない。『I LOVE YOU』と書けばさすがのもと男も気づいてくれるだろう。

 

「うぅ、じゃあ……あい、らぶ、ゆー……」

 

 手早くハートマークを書き、気持ちを込めて文字を書いていく。その間もと男はオムライスをじっくりと見つめていた。

 

「ってやっぱりなし!」

 

 『I LOVE』まで書いたところでまたかすみんの限界が来た。これ以上は心が耐えられないとスプーンで書いたものをぐちゃぐちゃにする。

 

「あーあ、何してんだよ」

「だってぇ……恥ずかしかったんだもん……」

 

 もと男が怒る気持ちもわかる。自分が食べる予定だったものをぐちゃぐちゃにされたんだから。

 

「かすみんのと交換してあげるから許して」

「いや、別にいいよ」

 

 かすみんが自分の綺麗なオムライスを差し出すと、いらないとばかりにケチャップまみれになったオムライスを自分の方に引き寄せた。

 

「え、いいの?」

「もちろん。こんなになっちゃったけどさ、折角かすみが気持ち込めて書いてくれたんだから食べないともったいないだろ?」

「うん……いっぱい、いっぱい気持ち込めた」

 

 まだ伝えられてない想いをいっぱいいっぱい込めた。

 

「例えばどんなの?」

「えっと、えっとね……いつもありがとうとか、これからも応援してね……とか」

 

 誤魔化しだけで嘘ではない。

 

「大好きって気持ちは込めてくれなかったのか?」

「それは……ああもう! 込めました! 込めましたよ! だってもと男のこと大好きだもん!! ……も、もちろん友達としてだよ? 勘違いしないでよね!」

 

 ようやく言えたと思ったのにまたやってしまった……。昨日友達として好きって言った時は何の恥ずかしさもなかったのに、異性としてになるとどうしてこうなっちゃうんだろう……。友情と恋情でこんなにも変わるものなのかなぁ。

 

「ふぅん」

 

 もと男はニヤニヤしながらこちらを見てくる。まるで全部わかってますよ感を出している。どうせ何もわかってないくせに。

 

「いいから食べて!」

「むぐっ!」

 

 少し腹が立ったのでスプーンでオムライスを一口掬って、そのままもと男の口に突っ込む。もと男は驚きながらもそのまま味わって食べてくれている。

 

「どう? 美味しい?」

「……ごくんっ。ああ、すげぇ美味しいよ」

「よかった……」

 

 大好きなもと男に料理を褒めてもらえて嬉しい。自信はあったけど不安もあったからホッとする。調子に乗ってもう一回スプーンをもと男の口元に持っていく。

 

「じゃあどんどん食べて。はい、あーん」

「いや、自分で食うからいいよ」

「いいからいいから」

「んんっ」

 

 遠慮するもと男の口に無理やり突っ込む。オムライスが口に入るともと男は美味しそうに咀嚼し始めた。美味しそうに食べるもと男を見ているとかすみんも幸せな気持ちになる。

 

「……なんか楽しそうだな」

「だってもと男が美味しそうに食べるんだもん」

「ふーん……。かすみも食べたら?」

「うん、もと男を見てたらかすみんもお腹空いてきちゃったし、そろそろ食べよっかな」

 

 自分のスプーンを手に取ろうとすると、もと男が素早くそれを奪った。

 

「じゃあ今度は俺が食べさせてやるよ」

「えっ!?」

「はい、あーん」

 

 口元にスプーンが差し出される。

 

「待って……まだ心の準備が……」

「つべこべ言わず食えって」

「んむっ!」

 

 さっきかすみんがしたように口にオムライスを突っ込まれる。

 

「美味しい?」

「……おいひい」

 

 自分で言うのもなんだけど、今日のオムライスは本当によくできてる。今までで一番美味しくできた。きっともと男のことを考えながら作ったからだ。隠し味は愛情……ってね!

 

「もう1回あーんして?」

「いいよ。じゃあ目つぶって」

「ん……」

 

 言われた通り目をつぶる。口を開けて今か今かとあーんしてくれるのを待つ。

 

「はい、あーん」

「あーん……苦っ!?」

 

 口に入れられたものを咀嚼すると口内に苦味が駆け巡った。なにこれ!? 絶対オムライスじゃない! これは間違いなく焼いただけのピーマンだ! 苦味を誤魔化すためお茶を一気飲みする。

 

「美味しい?」

「苦いよ! なんでいきなりピーマン食べさせるのさ! せめて先に言ってよ!」

 

 食べる覚悟くらいしたかった……。

 

「いいじゃないか。ちゃんと食べられたんだし」

「そりゃ吐き出せないもんね! 食べるしかないよ!」

「……かすみが吐くとこ、ちょっと見てみたいな」

 

 ……今さらっとすごいこと言わなかった?

 

「多分滅茶苦茶可愛いと思うよ」

「全っ然可愛くない! むしろ汚い!」

「そうかなぁ……」

 

 頬を膨らませて怒ってますアピールをする。吐いてるとこも可愛いなんて言われて喜ぶ人はいない。少なくともかすみんはヤダ。

 

「まぁまぁ、そうむくれるなよ。ほら、お口直し」

 

 今度こそオムライスが差し出される。

 

「ほらっ」

「……あむっ」

 

 むくれながら口に含む。美味しい……あのピーマンの後だから余計そう感じる。

 

「俺もピーマン食べよっかな」

 

 そう言うともと男は自分のピーマンを食べ始めた。あんなに苦かったものをぺろりと平らげてしまった。

 

「……美味しい?」

「うん、美味しい。いい焼き加減だ」

「えぇ……苦味しかなくない? もと男の味覚絶対おかしいよ」

「そうかなぁ……」

 

 そういえばしず子も同じのを食べさせられたんだよね。可哀想……でもかすみんはもと男にあーんして食べさせてもらったもんね! だからかすみんの勝ち!

 

「かすみは食べないのか? じゃあ俺にくれ!」

「ちょ!」

 

 制止する間もなく、もと男はかすみんの食べかけのピーマンをぺろりと食べてしまった。

 

「うぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 いろんな感情がごっちゃになって声が漏れ出てしまう。

 

「どうした、そんなピーマン盗られたのが悔しいのか?」

「そうじゃなくて……その……かかか、間接……キスじゃん……」

「……そんな騒ぐようなことか? 間接キスくらいいいじゃないか。普通のキスみたいに粘膜同士が振れたわけじゃないんだし」

「よくない! あと粘膜とか言わないで! キスっていうのはもっとロマンチックなものなの!」

「冗談だって、悪かったよ」

 

 もうっ……ほんとのキスした時に粘膜とか言われたらうっかりもと男を殴っちゃうかもしれない。ロマンスの欠片もない。……間接キス、しちゃったなぁ……。えへへっ、まだ直接のキスじゃないけどすごく嬉しい。といってもかすみんがもと男のを食べたわけじゃないから、まだもと男の味を感じられたわけじゃないけど……。

 

「……したことないくせに

「うっ、うるさい! 自分がしたことあるからって……かすみんだっていつかも、好きな人といっぱいするもん!」

「も……?」

 

 あ、危なかった……うっかりもと男って言いそうになっちゃった。

 

「今はまだかすみんに振り向いてくれないだけだもん……。いつか絶対に振り向かせてみせるもん……」

 

 どれだけかかっても絶対にもと男を振り向かせてみせる。1年でも2年でも、たとえ卒業した後であろうともと男にアピールし続ける。

 

「じゃあその人に振り向いてもらえた時のために、今から俺と予行練習するか?」

「え、よ、予行練習……? それはどういう……」

「俺とキスするんだよ」

「うぇえええええ!?」

「うっせ……」

 

 思わず大声を出してしまう。間近で聞いていたもと男は手で耳を塞いでいる。申し訳ないとは思うけど、元はといえばもと男が原因なのだから自業自得だ。

 

「な、なんでそんなこと……」

「予行練習だよ、予行練習。いざという時にキスが下手だと相手に嫌われちゃうぞ?」

 

 もと男はキスが下手な女の子は嫌いなのかなぁ……。もと男と付き合えてもキスが下手なせいで振られちゃったら……きっとトラウマになってしまう。

 

「……いいよ。予行練習、手伝って」

 

 だから今のうちに予行練習して少しでも上達したい。キスしてもらうためにもと男の隣の席に移動する。

 

「その、初めてだから……優しくしてね」

「ああ、もちろんだ」

 

 緊張で体に力が入ってしまう。手がプルプル震える。

 

「緊張してるのか? 力抜けよ」

「力抜いてって……そんなの無理だよぉ……」

 

 簡単に出来たら苦労しない。

 

「しょうがねぇなぁ」

 

 もと男はそう言うとかすみんの手をそっと握ってくれた。たったそれだけなのに不思議と震えが止まった。それがもと男にも伝わったのか優しく微笑んでくれる。心臓がドクンっと跳ねた。

 

「ん、少しやりにくいな」

 

 高さが合わなかったのか、もと男がかすみんの体を持ち上げようとした。もちろんもと男の筋力でかすみんを持ち上げられるわけがないので、自分で立ちあがる。誘導に従うともと男の膝の上に座ることになってしまった。

 

「これでよし」

 

 膝の上に座ったことでもと男と顔の高さが大体同じになった。邪魔だと思ったのか、もと男はかすみんの前髪をサッと払う。

 

「……ギュってして?」

「意外と要求してくるな」

「ダメなの……?」

「まっさか。いくらでもしてやるよ」

 

 もと男の腕がかすみんの体に回され、優しく抱き寄せられる。心地よさに身を任せ、そのままもと男に体を預ける。優しく抱きしめられてキスをする、まさしくかすみんの理想のファーストキスだ。

 

「あったかい……。もと男の方から抱きしめてくれたの初めてじゃない?」

「そうだっけ? ……まぁ何でもいいや。早くキスしようぜ」

 

 そう言ってもと男は少し顔を寄せてくる。その動作は少し事務的に感じるというか……

 

「……なんか慣れすぎじゃない? 淡白というかなんというか……かすみんはもっとイチャイチャする感じでしたいの」

「イチャイチャする感じねぇ……こんな感じか?」

「っ……」

 

 もと男はかすみんの頬に手を添えて、視線を逸らせないよう固定してくる。その雰囲気はさっきまでと大違いで、目も本気そのものだ。視線が合うと自然と胸が高鳴って顔が熱を帯びる。

 

「いいんだな、俺が初めての相手で」

「うん。もと男じゃなきゃヤダ」

 

 もと男以外とキスするなんて考えられない。

 

「よし、じゃあいくぞ」

 

 もと男の顔がゆっくりと近づいてくる。距離が近づくたびに顔の熱さが増し、胸の鼓動も早くなる。でもそれが心地よい。もっと感じていたい。でも早くキスもしたい。そんな気持ちの間で揺れていると、急にもと男に抱き寄せられ、一気に距離が縮む。

 

「んっ」

 

 そしてそのまま唇が重なった。もと男の味を堪能しているとすぐに離れていってしまった。

 

「はぁ……これが、キス……」

 

 繋がっていた時間は一瞬……だったと思う。かすみんにもよくわかんない。1秒にも満たない時間だった気がするし、もしかしたら10秒以上繋がっていたのかもしれない。どちらにしても至福の時間であったことには違いない。

 

「ファーストキスの感想は?」

「よくわかんない……うまく言えないけど、ただただ幸せ……」

 

 今のかすみんはきっと全身から幸せオーラを振りまいていると思う。それこそ人々に幸せを配り回るサンタさんになれそうなくらい。

 

「もう1回練習するか?」

 

 したい! 本当は何回も、唇がとろけちゃうくらいしたい! したいけど……

 

「ううん、いい。一応予行練習だし、それに今いっぱいしちゃうと我慢できなくなっちゃうから……」

 

 もと男の味をもっと深く知りたくて、かすみんの味をもっと深く知ってもらいたくて、きっとキスだけじゃ止まれなくなっちゃう。昨日しず子にあんなこと言ったけど、そういう雰囲気になったらきっとかすみんは我慢できない。自分の方からいっぱいエッチなことを求めちゃう気がする。もちろんかすみんはそれでもいいんだけど、もと男に迷惑だけはかけたくない。だからキスは我慢するの。

 

「そうか……」

 

 もと男から離れて元の席に戻ると、もと男はどこか残念そうな顔をした。もと男もかすみんとのキスを幸せだと感じてくれたのだろうか? だとしたら嬉しいな。

 

「続き食べよ? 美味しいご飯が冷めちゃう」

 

 食べかけだったオムライスを口に含む。……うん、冷めても美味しい。これはもと男への愛も冷めないってことなのかな? ……まぁ絶対関係ないけど。

 

「それもそうだな」

 

 黙々と食べ続けるかすみんを見て、もと男もオムライスを食べ始めた。この後食べ終えるまでかすみん達の間に会話はなかった。けれど不思議と不快感はなく、言葉はなくとも心は通じ合っているような気がして、ちっとも寂しくなかった。




感想とか評価とかいっぱいほしいな(定期)


完全に私事にはなるのですが、先日引っ越しを行って1人暮らしを始めました。……それだけです、はい。
かすみんと2人きりで1人暮らししたい人生でした……。
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