【WR】虹ヶ咲RTA_称号『虹の楽園』獲得ルート   作:一般紳士君

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2024年なので初投稿です。

本当は年内に投稿したかったですが、年をまたいでしまいました。


サイドストーリー Part29/m

 元樹さんが部屋を出てから数十秒、こちらをじっと見つめる璃奈さんの視線に圧を感じる。やっぱりこっそり元樹さんと通話していたことに怒っているのでしょうか……。

 

「……」

『……』

 

 き、気まずい……何か話さなければ。でも何を話せば……今更ですが、璃奈さんと2人きりで話したことはありませんでしたね。いっそのこと、ずっと気になっていたあのことを聞いてみますか。璃奈さんは私のことをどう思っているのか。璃奈さんから見れば私は恋のライバル。パッと思いつく話題もありませんし、思い切って聞いてみましょう。

 

「あの、璃奈さん。その……」

『?』

「……璃奈さんは、私のことどう思ってますか?」

『せつ菜さんは……私にとって憧れで、尊敬できる、すごくかっこいい先輩。スクールアイドルのことも、それ以外のことも、いっぱいせつ菜さんから学びたい。……どうしてこんなこと聞くの?』

「私は璃奈さんにとっては恋のライバルですし、その、勝手に元樹さんとキスまでしてしまっていますし、もしかしたら嫌われているのではないかと……」

『大丈夫、それは絶対にない』

 

 しっかりとこっちを見つめて、嘘も偽りもないといった表情で答える。

 

『確かにせつ菜さんは恋のライバルで、せつ菜さんに嫉妬しちゃうこともある。でも元樹のこと大好きなのも伝わってくるから。元樹が独りぼっちじゃなくて幸せになれるなら、元樹の隣にいるのが私じゃなくてもいい……って最近思うようになった』

「……璃奈さんは、ほんとに元樹さんのことが大好きなんですね」

『うん。今も昔もずっと……』

 

 言葉の途中で璃奈さん体が跳ねる。と同時にドアが開く音が聞こえた。もしかして元樹さんが戻ってきたのでしょうか。

 

『ど、どうしたの?』

パンツ忘れたー。……あった。と思ったら違う、これ璃奈のだ

『恥ずかしいから言わないでいい。あとあまりまじまじ見ないでほしい……』

 

 璃奈さんの下着!? もしかして元樹さんの部屋に常備してるんですか!? まるで同棲してるような……なんだか幼馴染という特別な関係性を見せつけられている気がします……。

 

せつ菜先輩と何話してたん?

『んー、元樹のこと』

へー……大丈夫? 俺悪口とか言われてない?

『それは絶対にないから大丈夫。せつ菜さんは人の悪口を言うような人じゃないから』

……それもそうか。じゃあどんなこと言ってた? 璃奈とせつ菜先輩が俺をどう思ってるのか気になるんだけど

『……せつ菜さん、どう?』

「えぇと……と、とっても大事な可愛い後輩……ですよ?」

ふーん……璃奈は?

 

 なんかさらっと流されてしまいました……もしかして私には興味ないのでしょうか……。

 

『……言わないとダメ?』

もちろん

『……何よりも大事で、 大好きな幼馴染』

そうかそうか、満足満足

 

 ガチャリと再びドアが開く音が聞こえる。今度こそお風呂に向かったのだろう。さっきの元樹さんの対応に少し気を落とした私と、顔を赤くして俯く璃奈さんだけがこの場に残った。

 

『……私は、今も昔も、これからもずっと元樹のことが大好き。世界で一番愛してる』

「私も元樹さんのことが大好きです。でも元樹さんはもしかしたら私のことなんて……」

『どうして?』

「さっき私の言葉に対して特に反応がなかったので……」

『あー……大丈夫。せつ菜さんには見えてなかったけど、さっきの元樹、せつ菜さんの言葉を聞いてすっごいニヤニヤしてた。多分嬉しかったんだと思う。元樹もせつ菜さんのこと大事に思ってるから』

「そう、なんですか?」

『うん。せつ菜さんを同好会に連れ戻す時も自分1人でやりたいって。あの時の元樹は何か抱え込んでるみたいだった。けど、誰かのためにあそこまで必死になる元樹は久しぶりに見た。それくらいせつ菜さんのことが大事だったのかなって』

「そうだったんですね……」

 

 あの時の私は元樹さんのことを拒絶してしまったのに、それでも私のことを想ってくれていたなんて、そんなのもっと大好きになってしまいます。

 今すぐにでも会いに行って抱きしめたい。抱きしめられたい。ありがとう、大好きと伝えたい。けれど物理的な距離がそれを邪魔する。私も璃奈さんみたいに、会いたくなったらすぐにでも会いに行けるような距離だったらよかったのに……。

 

「折角ですから喜んでる時の元樹さんの顔、見てみたかったです」

『さっきの元樹は上半身裸だったから、映ろうとしても私が止めてた』

 

 上半身裸……何故璃奈さんはそれを見て平然としていられるのでしょう。もしかして見慣れてる……?

 

『prpr』

 

 スマートフォン越しに、璃奈さんのスマートフォンの着信音が聞こえる。

 

『あっ、ごめんなさい。元樹のお父さんから電話』

「え……元樹さんのお父さんから、璃奈さん宛てに、ですか?」

『うん。少し出てもいい?』

「はい、もちろん大丈夫ですよ」

『ありがとう』

 

 当たり前ですけど、幼馴染となると当然家族同士のお付き合いもあるんですね……『幼馴染は恋愛においては負けフラグ』なんて言葉もありますけど、今実際に恋をしている私からしてみれば、負けフラグどころか圧倒的な勝ちフラグに見えます……。

 

『……よかったらせつ菜さんも話してみる?』

「えぇ!? わ、私はいいですよ……元樹さんと璃奈さんの家庭同士のお付き合いだと思いますので……」

『気にしなくても大丈夫。それに、元樹に友達がいるって知ったらおじさんも喜ぶ』

「そうなんですね。では私も少しだけ……」

 

 元樹さんのお父さん……別にご挨拶に来ているわけでもないですし、直接お会いしているわけでもないのに、少し緊張してしまいます……一体どんな方なのでしょうか。

 

『……もしもし。おじさん、久しぶり。うん……うん、大丈夫。私も元樹も元気。……元樹は今お風呂。……うん、多分当分出てこない、……テスト? 私は大丈夫だった。でも元樹は半分以上赤点だったって。……うん、わかった。次は一緒に勉強する』

 

 学校の成績の話ですね。元樹さんが留年しないよう、私も勉強を教えてあげたいです。

 

『今私と元樹の先輩と通話してるから、おじさんとの電話スピーカーモードにしてもいい? 先輩もおじさんに挨拶したいって。……うん、ありがとう。せつ菜さん、おじさんもせつ菜さんと話したいって』

「ありがとうございます。……は、初めまして。虹ヶ咲学園2年の中川菜々と言います」

『うん、中川菜々さんだね。いつもうちの元樹がお世話になってます。せつ菜というのはあだ名か何かかな』

「えっと、せつ菜というのは芸名みたいなものといいますか……私はスクールアイドルというものをやっていて、その活動を行う際は優木せつ菜と名乗っているんです」

『へぇ、スクールアイドル……みゅーずとかあくあだったかな、私も聞いたことがあるよ』

『私も元樹もスクールアイドル同好会に入ってて、せつ菜さんと一緒に活動してる』

『璃奈ちゃんもスクールアイドルかー……ん? 元樹もスクールアイドルをやってるのかい?』

「あ、いえ、元樹さんはマネージャーみたいなことをやってくださっていて、いつも私達のことを支えてくれているんです」

『あー、なるほど、マネージャーね』

 

 確かにスクールアイドル同好会所属とだけ聞くと、元樹さんもスクールアイドルをやっているように想像してしまいますね。男性スクールアイドルも最近徐々に増えてきてはいますが。

 

『せつ菜さん、元樹は皆に迷惑をかけたりしてないかな? 大丈夫?』

「迷惑だなんてそんな! むしろ私は元樹さんにお世話になりっぱなしで、大きな恩もありますし……元樹さんは私含め同好会の皆さんから愛されていて、同好会にも私にも必要不可欠な存在です』

『そうかそうか、それはよかったよ』

『今の元樹は友達がいっぱいだから、おじさんも安心してほしい』

『璃奈ちゃんが言うなら安心だ。あの子から璃奈ちゃん以外の話を聞いたことがなかったから、ちゃんと友達がいるのか心配してたんだよ』

「心配には及びません。元樹さんはコミュニケーション能力が高いですから、きっとクラスでも人気者だと思います」

『そうだといいんだけど……』

 

 元樹さんのお父さんは、妙に元樹さんの交友関係が心配なようだ。親心、というものでしょうか。私ももし自分が親だったら、子供にちゃんと友達がいるかは心配してしまうかも……逆に私の両親はそういったところは全く気にしませんし、親心もそれぞれですね。私も人の親になれば、両親の気持ちを今よりも理解できるようになるのでしょうか……。

 

『……おじさん、元樹って普段私についてどんな話してるの?』

『えー、うーん、そうだなぁ……今からする話についてはあの子には内緒ね。あの子いっつも璃奈ちゃんとどこに行っただの、何をしただの、どこが可愛かっただの、もうほとんど惚気話なんだよ。最近だとジョイポリスに2人で遊びに行った、勝負に勝ってドヤ顔するところが可愛い、とかね』

『は、恥ずかしい……けど嬉しい』

 

 元樹さん、普段から璃奈さんをそんな風に……もしかしたら私のことも口に出さないだけで、同じように思ってくれてたりも……。

 

『そうそう璃奈ちゃん、最近元樹とはどうだい?』

『うーん、進展らしい進展はないと思う。付き合ってるわけではないし、気持ちを伝えても伝えられてもいない。でも喧嘩とかはしてないから、良くも悪くも今まで通り』

「璃奈さんにとっては今まで通りだとしても、私から見たらすでに恋人同士のように見えますよ……」

『そうなの?』

「はい。先程のやり取りだったり、学校でのお二人を見ていると、なんというかこう……特別な感じと言いますか、お互いがお互いに、誰よりも気を許しているような感じがして……すごく、羨ましいです」

 

 璃奈さんの前だとほんの少しだけ弱音を吐くことがあったり、逆にかっこつけたいのか見栄を張ったり……

 

『幼馴染ってのはあるかもしれないけど、あの子は昔から璃奈ちゃんにべったりだったからね。きっと今でもあの子の中で一番頼れる存在は璃奈ちゃんなんじゃないかな』

『……璃奈ちゃんボード『てれてれ』』

「そ、そんなにべったりだったんですか?」

『うーんそうだねぇ、璃奈ちゃんからくっついて離れないくらいだったね。小学校4年生くらいまでかな、そのくらいまで元樹はホントに内気だったから、少なくとも私は璃奈ちゃん以外の友達は見たことがなかったね』

「内気な元樹さん……今の元樹さんからは想像できません」

『聞いたら多分皆ビックリすると思う』

「そこまで違うんですか?」

『うん。私が話しかけるまでずっと1人だったし、打ち解けるまですごく時間がかかった。打ち解けるまではなかなか目を合わせてくれなかったし、たまに逃げられた』

「……これは確かにビックリです。2人の関係は璃奈さんから始まったんですね」

『うん』

 

 てっきり元樹さんのあのフレンドリーな感じから始まった関係だと思っていましたが……今の元樹さんだけを知っている人が聞いたら、きっと誰でもビックリするでしょうね。

 

『打ち解けてからは元樹から話しかけてくれるようになった、おままごととかでいっぱい遊ぶようになった。2人で集まってそれぞれ別の本を読んだりもしてた。本当は一緒の本を読みたかったけど、元樹のセンスが独特で……』

「それは時々感じていますが、昔からそうだったんですか?」

『うん。ずっとラーメン漫画読んでたし、おままごとでもラーメン屋さんごっこがしたいってずっと言ってた。ちなみに幼稚園の時の話』

「元樹さんがラーメン好きなのは知っていましたが、幼稚園の頃からだったんですね」

『私がラーメン好きで、昔よく連れ回してたからね。その影響が大きいのかもしれない』

「なるほど、お父さんの影響……」

 

 そういえば、以前オススメのお店を教えてもらった時、親とよく行ったお店だとおっしゃっていましたね。まだ行けていませんし、今度元樹さんをお誘いして連れて行ってもらいましょう。

 

『……おっと、もうそろそろ次の予定が。申し訳ないけど私はこの辺で。璃奈ちゃんと久しぶりに話せてよかったよ。これからも元樹のことをよろしく』

『うん、まかせて』

『せつ菜さんも今日はありがとうね。璃奈ちゃん以外にちゃんと友達がいるって知れて安心したよ。これからも仲良くしてもらえるとありがたいな』

「お任せください!」

『ああ、あとせつ菜さん、璃奈ちゃんに負けないように頑張ってね。あの子は意外と人の感情に疎いからグイグイ行った方がいいよ』

「はい! ……んん? あの、今のは……」

『……切れちゃった』

「そ、そうですか……」

 

 今のはその、そういうこと、ですよね……? まさかこの短い時間で私の気持ちでバレてしまうとは……元樹さんのお父さんは鋭いです。元樹さんが鈍感すぎて基準がおかしくなっているだけかもしれませんが……どうして当の本人はあんなに鈍感なのでしょう……はぁ……。

 

『……おじさん、すごく嬉しそうだった。ありがとうせつ菜さん』

「いえ、私も元樹さんのお父さんに挨拶ができてよかったです。その、認めてもらえたようでしたし……」

『せつ菜さんの元樹への気持ちが、多分電話越しでも伝わったんだと思う』

「そ、そんなに分かりやすかったですか……?」

『うん』

 

 初めて会う方にも分かるくらい大好きが溢れてしまってるのに、元樹さんは鈍感すぎます……。

 

『せつ菜さん以外にも元樹のこと好きな子がいるって知ったら、おじさんなんて言うかな』

「どうでしょう……まず事実かどうか疑うような気がします。10人ちょっとの同好会メンバーの中に、まさか4人も元樹さんのことを好きな人がいるなんてなかなか信じられる話ではないですし」

『……確かに』

 

 「そんなラノベのハーレム作品の主人公じゃあるまいし」と私自身思ってしまう時もありますし。

 

ふぅ、いい湯だった

『おかえり』

「元樹さんおかえりなさい!」

『よっこらせ』

 

 お風呂上がりの元樹さんは再び璃奈さんの後ろに座り、ギュッと後ろから抱きついた。先程も同じことをしていましたが、2人きりの時は普段もこのような感じなのでしょうか……。

 

『……何かあった?』

『うーん……どうしてそう思った?』

『いつもより甘えん坊さんだから』

『……嫌?』

『嫌じゃない。ただ心配なだけ』

『……大丈夫。璃奈が心配してるようなことはないよ』

『ん、ならいい』

 

 甘い、甘いです……こんなのを目の前で見せられたら心が折れてしまいそう……いえ、こんなことで挫けてはいけません! 璃奈さんもかすみさんもしずくさんも、皆さん強力なライバルだなんてわかっていたことなんですから! さっきほどのアドバイス通り、私もグイグイ行きましょう!

 

「元樹さん、明日予定は空いてますか? その、以前教えていただいたラーメン屋さんに連れて行っていただきたくて」

『すみません、明日は空いてないんですよ。でもそうですね……明後日月曜の部活帰りとかはいかがですか? あそこ来週の平日いっぱいで閉店しちゃうので』

「そうなんですか?」

『え、そうなの?』

「璃奈さんも行ったことがあるんですか?」

『うん。昔は元樹と一緒によく行った。すっごく美味しかった。でも閉店するなんて知らなかった……』

『らしい。この前SNSで言ってた。まぁおじちゃんも年だからなぁ……璃奈も一緒に行く?』

『私も行きたい。最後に挨拶したい。私のこと覚えてないかもしれないけど……』

『覚えてると思うよ。俺一人で行くたび、今日は璃奈と一緒じゃないのかって聞いてくるし』

『そうなの? 嬉しい』

『よしっ、じゃあ璃奈も一緒な。侑先輩には……まぁ明日言えばいいか』

 

 うぅ、本当は2人で行きたかったのに……ですが璃奈さんにとってもなじみのお店、しかももうすぐ閉店してしまうのであれば仕方ないですよね。どうして侑さんが出てくるのかはわかりませんが。もしかして侑さんとも一緒に行く約束をしていたのでしょうか。私にはオススメしてくれただけなのに……むぅ。

 

『せつ菜先輩は月曜日で大丈夫ですか?』

「はい。生徒会の仕事はないので、おそらく大丈夫です」

『りょーかいです。じゃあ月曜日一緒に行きましょう。あー今から楽しみだ。楽しみすぎてお腹空いてきたー』

「ふふっ、よだれが出ていますよ」

『おっと、いけないいけない』

「そんなに美味しいんですか?」

『はい! もうめっっっちゃ美味いんですよ! 一番人気は王道醤油ラーメンなんですけど、それがもう絶品なんです。スープが美味いのはもちろんのこと、トロトロチャーシューだし、何より麺が美味い! 今でも行列ができるお店なんです!』

 

 少年のように自分の大好きを熱弁する元樹さんが可愛らしくて、ついつい笑みがこぼれてしまう。初めて会った時のことを思い出しますね。あの時は確かエマさんにラーメンについて教えていました。途中から彼方さんも加わって、最終的には美味しい味噌料理の話になっていましたが。私も料理には少し自信がありますから、次の機会では私も話に混ざりたいです。

 

『……あ、すみません。ついつい話しすぎちゃいました』

「いえ、大丈夫ですよ。楽しそうな元樹さんを見れて私も幸せですし、何より今の話を聞いてもっと楽しみになってしまいました」

『それはよかったです。マジで美味いので楽しみにしててください! ……なんかラーメンの話してたらお腹空いてきたな。インスタントラーメン食べよっかな』

「夜食はあまり健康に良くないですよ」

『大丈夫ですって。普段は夜食なんて全く食べないので』

「それならいいですが……」

『よいしょっと、早速作ってこよっと。璃奈も食べる?』

『んー……食べる』

『醤油と塩どっちがいい?』

『醤油ラーメンがいい』

『りょーかい』

 

 ……先程はああ言いましたが、目の前で夜食の話をされると私も食べたくなってしまいます……勝手に食べると怒られてしまうので食べないですが。

 

『……元樹、ちょっと待って』

『ん?』

『よいしょ……』

『むぅっ』

「え゛っ!?」

 

 画面の向こうの璃奈さんは後ろを振り向き元樹さんの肩に手を置いた後、何かを元樹さんにしました。……いえ、何かではないですね。きっとキスをしているんだと思います。だってわずかに見える元樹さんの右目が驚きで大きく見開かれていますから。

 ……こんな状況でも意外と冷静でいられるものなんですね。画面の向こうで起きている出来事だからでしょうか、それとも唐突すぎて実感がないのか……。

 

『……えっと、璃奈……?』

『さっきのお礼。……ラーメン、作らないの?』

『作る、けど……けどさぁ……けどなぁ……

 

 2人とも顔をこれ以上ないくらい赤く染め、お互い目を逸らしている。やがて元樹さんはブツブツと呟きながら立ち上がり、部屋から出ていってしまった。

 

『…………ドキドキした』

「えっと、璃奈さん?」

『ごめんなさい。本当は後で、せつ菜さんが見てないときにするつもりだった』

「あ、キスする予定はあったんですね……」

『うん。アイディアだしを手伝ってくれたお礼。せつ菜さんの前だと恥ずかしいし、申し訳ないから後でほっぺにするつもりだった。でもおじさんがせつ菜さんにグイグイ行くべきって言ってるのを聞いて、せつ菜さんが元樹をデートに誘ってるのを見て、私もグイグイ行かなきゃって思ったから』

 

 なるほど。あの言葉は私の心に火をつけると同時に、璃奈さんにも届いていたんですね。恥ずかしそうに唇を指でなぞる璃奈さんを見ていると、少しだけ悔しさがこみあげてくる。やはり私も電話越しではなく、直接元樹さんとお話ししたかったです……。

 

『だから口にチューをしたし、少しだけ牽制のつもりでせつ菜さんが見てる前でした。すごく恥ずかしかったから、一瞬しかできなかったけど……』

「も、元樹さんの反応は……?」

『せつ菜さんが見てた通りただただビックリしてた。……せつ菜さんの時はどんな反応だったの?』

「えっと、私の時は……」

 

 初めての時は状況も状況だったので悲しそうな表情をしていました。こちらについては話さなくてもよいですかね。2回目の時は……

 

「はじめは戸惑っていましたが、私の体に手を回して、次第に元樹さんの方から求めてくれるようになりました」

『そう……私の時はそんなことしてくれなかった……』

「わ、私の時はかなり長い時間してましたから」

『……私も、恥ずかしがらずもっとしたらよかった』

 

 その時は私が止めてしまっていたかもしれませんが……。

 

『せつ菜さんはキスした時恥ずかしくなかったの?』

「んー、恥ずかしいって気持ちはほとんどありませんでしたね。歌った後で気分が高揚していたので」

『屋上でライブした時のこと?』

「はい。元樹さんに抱きしめられて、ついそのままの流れで……」

『……私も、次の機会があれば、その時は……』

 

 次の機会……私に次の機会はあるのでしょうか……いえ、違いますね。あるかどうかではなく、私から機会を作りにいかないといけないんです! 璃奈さんに、しずくさんかすみさんにも負けないように!

 

「……あっ、すみません。そろそろ日課の勉強の時間なので……」

『うん。今日はありがとう。すごく助かった』

「いえいえ、璃奈さんの力になれてよかったです」

『月曜日にせつ菜さんにもお礼させてほしい』

「ありがとうございます。楽しみにしていますね」

『うん、バイバイ』

「はい、また月曜日に」

 

 通話が切れ、元樹さんとのトーク画面に戻る。最後に元樹さんにも挨拶したかったですが、会ったら会ったで少し気まずいですし、これでよかったのかもしれません。

 

「よーし、今日も頑張って勉強しますよー!」

 

 いろいろ事件はありましたが、元樹さんと話したことで元気をいただけましたし、2人っきりではないですがお出かけの約束もできました。モチベーションマックスでこの後の勉強も頑張れそうです!

 

『ぐぅ~』

 

 ……勉強が終わったら、ダメもとで夜食のラーメンのお願いをしましょうか。




璃奈ちゃんとのキスという最終着地点ははじめから決めていましたが、それをどのタイミングでどういう流れにするかでかなり迷いました。
結果年内に間に合わなかったうえに、雑な着地になりました。まいったねこりゃ。

次回は本編、今回のサイドストーリーの途中からを走者視点で走ります。
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