※注:オリキャラ登場&独自解釈&原作超大改変。それでもよければぜひ楽しんでいってください。
俺は魔女と契約を交わした。正直早まったかもしれないとは思ったが、今俺の精神は落ち着きを取り戻していた。きっと、これからやることが明確に定まったからだろう。
転生者殺しだ。
……ただの現実逃避でしかないことは重々承知している。だがもう、俺には何に縋って生きていけばいいのか分からなくなった。だからこそ、魔女の「最高のショーを見せてやる」という契約に同意した。少なくとも、それに心血を注いでいる間は、それ以外の何も考える必要がないのだから。
そして、あの血塗れの部屋に残った証拠を魔女が隠蔽してから三日が経った今。俺達はルイを殺した宿舎から大分離れた場所にある宿の一室に陣取っていた。
「さて、晴れてお前が転生者への復讐を誓って三日経った。まぁ右腕を失ったのは痛いが、なに、アテはある。そこまで心配することはない。というわけで、景気付けに新たなターゲットの始末にでもかかるとしようか」
「……あぁ。覚悟はできてるよ、魔女。今度の標的は一体どいつなんだ」
俺の返答に、魔女は不敵に嗤って対象の名を告げた。
「今回のターゲットは……『ルーパー』ホンダ・ユウヤだ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
———王都、冒険者ギルド「神の反逆者」本部
「突然の招集ですまないが、よく集まってくれた。神の反逆者最高幹部『ベストナイン』」
まず最初に口火を切ったのは、「ベストナイン」のリーダーを務める全身を漆黒の衣装に身を包んだ黒髪の男、「双剣の黒騎士」キルト。
「なんか珍しくない? つい最近も会議したと思うんですけどー!」
「私は別に招集には文句無いけど。でも何人か来てない奴らもいるみたいだし、一回日を改めた方がいいんじゃない?」
キルトの前口上に反応したのは『堕女神』フレアと『異世界レストラン』四条雪子。
その他でこの会議室にいるメンバーは黙々と四条特製おやつを貪っている『ネームドスライム』ロロ=センディガーのみ。
つまり総勢九人はいるはずの「ベストナイン」のうち四人、およそ半分以下の頭数しか揃っていないことになる。会議をするには明らかに人数が足りていなかった。
しかし議長であるキルトは2人の疑問にも的確に返答していく。
「いいや、これで集めたメンバーは全員だ、雪子。他のメンバーは俺からの指示で王都内の警備についてもらっている。事は急を要するからな。彼らにはいち早く任務に就けるよう真っ先に説明させてもらった。今日はその件について君達に伝達することが目的だ」
「緊急の案件? 『ベストナイン』が五人も出張るなんて大事件、全く耳に入ってないんだけど」
四条からの新たな質問に、今度こそキルトは顔を引き締めて言葉を発する。
「五人ではない、四人だ。単刀直入に言おう。ルイが何者かによって殺害された。現在はその犯人を捜索中だ」
「はっ!?」
「……!」
「えっ……」
キルトの告げたルイの訃報に、三者三様の反応を示す。四条は驚きを、ロロは警戒を、フレアは困惑の声を上げる。
「ちょっ、え!? 嘘でしょ!? あいつ強さだけは超一流じゃん! しかも王都内を警備って……あいつ王都で殺されたの!?」
「そうだ。三日前の会議の後、奴は歓楽街の辺りで目撃されて以降、足取りが掴めなかった。そこでどうにも嫌な予感がしてな……周辺をユウヤとドーンに調べさせた。その結果、昨日ある宿屋の一室から奴のものと思われる怨念が見つかってな」
「ま、マジで言ってんの? それ……」
フレアと雪子が、ルイが殺害されたのは本当のことだと段々と自覚していく横で、おやつを食べ終わったロロが口を開く。
「それで、今ここにいないルイ以外はどんな任務に就いてるんだ? 今どれだけのことが分かっている? あと、俺達は何をすれば良い?」
幼気な容姿とは不釣り合いな男口調で事務的な事項を尋ねるロロに、キルトが頷きながら返答する。
「ドーンが魔法によるルイの魂の残滓の捜索、ユウヤが市街の怪しい場所を片っ端から足で捜査、アナスタシアが空中からの監視及び捜索、イメルダは貴族連中とギルド連、それと警備隊に情報を集めに行ってもらっている。敵はかなりやり手のようでな、事件現場以外の発見は今のところ上がっていない」
「ふむ」
「とりあえず今は捜索の件は彼らに任せるとする。ロロはギルドの警備を頼む」
「分かった」
「ちょ、ねぇ! ちょっと待ってよ!」
「ん?」
淡々と話を進めていくキルトとロロに待ったをかけたのはフレアだった。
「あんたらねー! 何冷静に話し合ってんの! 仲間が死んだんだよ!? そりゃーあいつはいちいち突っかかってくるうざい奴だったけど! それでもさぁ! もっと悲しむとかしたらどうなのよ!」
フレアの言葉に顔を合わせた二人は同時にため息を吐き、キルトが諭すように応える。
「あのな、フレア。君はベストナインに入って間もないからよく知らないだろうが、『ベストナイン』に死者が出ることは珍しくないことだ。それに事は一刻を争う。我々は人類の最高戦力であり、最終防衛線でもあるんだ。そのメンバーが、
「あーもう! 分かった! 分かったわよ! もう勝手にしてればいいんだもん! ふーんだ!」
畳みかけるようなキルトの正論の刃についに耐えられなくなったフレアが勢いよく立ち上がり、そのまま会議室を出て行ってしまった。
「あーあ、女の子泣かせちゃったー。キルトったら罪な男ねー、全く」
「……からかうのはよしてくれ。しかし、俺も言い過ぎた。後で謝っておこう。あとロロ、追加の任務でフレアの監視も頼む。何をしでかすか分からないからな」
「ふっ、了解だ」
「私はルイの奴キライだったし、別にどうとも思わないんだけど……まぁ『ベストナイン』の一角が崩れるってのは確かに大問題よねぇ」
フレアが飛び出していったおかげか四条の方は落ち着きを取り戻したようで、心なしかいつもの気怠さが戻ってきていた。
「そうだ。雪子、君には捜索から戻ったメンバーの労いに、美味いものでも作ってやってくれ。経費は俺が持つ」
「マジ!? 太っ腹じゃん! そんじゃあ、焼肉パーティーでもしますかね〜」
「あんまり高い肉使うとキルトが泣いちゃうよ、雪子。俺は大歓迎だけどね」
「ハハハ、勘弁してください」
先程まで少しギスギスしていた空気が弛緩する。もとより同郷の転生者である故、大体のメンバー同士の仲は良い。例外があるのは否めないが。
そして苦笑いしていたキルトだが、最後に会議を締めるために不敵な笑みを浮かべて言う
「先程も言ったが、この人類の中心地に、人類最強の一角を崩す勢力が居るのは事実だろう。もしかしたら……魔王か、その直接の手下が潜り込んでいるのかもしれない。最近の、人類領域で突如現れる魔人達と同じ現象の可能性もある。
だが、我々は『ベストナイン』。容易くしてやられるばかりではない。もはやネズミ一匹逃しはしない。犯人に教えてやろうじゃないか。俺達に喧嘩を売る意味というものをな」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんなこんなで、実は現在『ルーパー』を殺すどころか迂闊に外に出るだけで死にかねない事態にあるのだがな」
「じゃあ駄目じゃないか……」
まず俺に魔女が話したのは現在の王都の警備状況。そして今後ここに籠っていてもどの道詰みだということ。さっきの俺の威勢を返せと言いたい。
「まぁ、そう慌てるな。捜索の手が伸びることぐらい重々承知の上だ。セーフハウスと秘密の脱出口程度、数え切れないほど用意してあるさ。何年準備に時間を費やしたと思っている。抜かりはない」
なるほど、さすがに対策は打ってあるのか。だが、時間が過ぎて良いことはない。早く標的を殺さなければ。
「ふ、そう急くな。まずは敵を知らなければ勝てる戦も勝てないぞ」
「す、すまない。ちょっと焦ってた」
「構わんさ。むしろ意気軒昂で大変よろしい。それでは早速『ルーパー』の情報を教えてやろう」
俺は姿勢を正し、魔女の言葉を一言一句聞き漏らさないように構える。
「『ルーパー』ホンダ・ユウヤは『ベストナイン』の中でも戦闘能力がぶっちぎりで最下位だ。本気でやり合ってもお前なら…………まぁ、勝てないこともないだろう」
「随分と溜めるじゃないか」
弱いと言いたいならはっきり言いやがれ。しかし……
「俺にも一応勝ち目があるって……いくらなんでも過小評価過ぎないか。相手は『ベストナイン』、転生者最強の九人のうちの一人なんだぞ」
「いいや、奴に関しては本当に戦闘技能は二流レベルだよ。だが……奴の本当に厄介な点は、そのチート能力にある」
チート能力。それは転生者が転生者たる所以。それぞれが世界の法則を超越するほどの規格外の能力だ。
「奴のチート能力は『死に戻り』。自らが死んだ瞬間、その魂を『死の運命』が変えられる分岐点の過去まで送ることができるという効果だ。そして異質なことに、デメリットと呼べるものが存在しない」
「は!?」
殺したら殺せなくなるなんて……そんなの不死身じゃないか!
「戦闘に使えるものではないし、奴のチート能力はルイと違って一つだけだが、その分ほぼ攻略不可能のチート能力だな。そして何より厄介なのは『まだ顔が割れていない』という我々最大のアドバンテージが早々に失くなるということだ。奴が過去に戻り仲間にそれを伝えた時点で、我々の敗北が確定する。リーダーのキルトはそれを見越した上で奴を無防備に街に放ったんだろう」
「じゃあ駄目じゃないか……。そんな奴にどうやって勝てばいいんだよ!?」
目標は殺害、しかし殺しては自分達が不利になるだけ。まさに道理を無視した超強力なチート能力……! 魔女はそいつをどうやって仕留めるつもりなんだ……!?
しかし俺の不安と焦りは、魔女が浮かべた不敵な笑みに押し潰された。
「どの道奴はいるだけで厄介極まりない存在だ。今回で確実に奴にとどめを刺す。ついでにお前の戦力アップも兼ねるぞ。
ふふ、楽しくなってきたじゃないか。一度も本当の死を経験したことのない男が、復活の余地のない状況に置かれたならば……、ははははは! 想像するだけで嗤いが止まらんなぁ!」
その嗤い声は、自分が負けることなど露ほども考えていない自信に満ち満ちた嘲笑で。俺はそんな彼女の言動を恐ろしく思うと同時に、ひどくゾクゾクとした興奮を味わった。
「それじゃあまずは儀式場に行こうか、リュート。そこでお前に……転生者に勝るとも劣ることはない、最高の力を与えてやろう」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここは……」
「昔計画されていた地下都市の廃墟だ。今は工事が取り止めとなって中途半端に終わったようだが……隠れて大規模な魔術儀式を行うには打って付けの場所と言えるだろう」
光の届かない地下の世界に魔女が持つランプの灯りだけが不気味に揺れる。映し出されるのは作りかけの石造りの建物。天井から滴る水の音が俺の緊張感を余計に煽る。
「それで、俺達はどこに向かってるんだ」
「だから言ったろ、儀式場だ」
いや、それが想像できないからどんな場所か聞きたいんだが。あと儀式ってなんだよ。悪魔でも呼び出そうってのか?
「おっ、よしここだ。着いたぞリュート」
そう言って入り組んだ地下道の奥深くにある行き止まりで立ち止まった魔女がランプの灯りで指し示したのは広場のような場所で、そこにはおどろおどろしい三角形がいくつも折り重なったような模様で構成された、家一軒分ほどの面積もあるような巨大な魔法陣の刻まれた祭壇があった。
「お前にはここで悪魔を召喚して、契約してもらう」
「はぁっ!? ちょ、ちょっと待て! 待ってくれ!」
さっき冗談混じりにひとりごちた内容をそのまま言うのはやめてくれ!
「悪魔って、あの悪魔か!? 本物の!?」
「正真正銘、血統書付きの本物の悪魔だ」
あっかからんと宣う魔女に言葉が出てこない。確かにこの女は悪魔みたいなもんだが、まさかこうもあっさりと神敵である悪魔を呼び出そうとするなんて。
「そもそも悪魔なんてものが本当に実在するっていうのか? そりゃ、教会の聖書では触れられてるけど……」
「なんだ、神は信じるというのに悪魔は信じられないのか? 他ならぬ転生者を地上に送り込んでいるのも神なのだ。悪魔が居たとしても何もおかしくなかろうに」
「うっ……。そりゃ、そうだけどさ……」
未だ困惑を隠せない俺を気にする様子もなく、魔女は魔法陣の周囲に六つの松明で明かりを灯し、供物と思われる金の指輪を十個、同じく金でできた何かの血で満たされている蓋の開いた真鍮器を備え、祭壇の上に気味の悪い血肉や骨をどちゃりと乗せ、着々と儀式の準備を進めていく。
もうどうにでもなれ、と思った俺は魔女に対して浮かんだ疑問を取り敢えず全部聞いてみることにした。
「なぁ、魔女。悪魔と契約すれば、俺は『ベストナイン』に勝てるぐらい強くなれるのか?」
「分からんな。召喚予定の悪魔は使いこなせればかなり汎用性が高い者だが、相性によっては普通に負けるだろうな。『ルーパー』が良い例だ。お前が召喚する悪魔では奴を倒すのは不可能だろう」
「じゃあ駄目じゃないか……。一体何の為に今召喚するんだよ」
「試験運転といったところだな。とりあえず丁度いい戦闘能力の奴とお前を戦わせて実戦に慣れてもらう。後々の計画にも有益に働く筈だと思うが?」
「……確かにそうだな。それで、一番気になることなんだが……その、悪魔と契約する際に代償とかって必要なのか?」
古来より、人ならざる者と契約した人間は大いなる代償によって破滅することになるのが常であると聞く。もちろん又聞きでしかないのだが。
そんな俺の質問を聞いた魔女は、振り返ってニヤニヤとした笑顔で煽るように問いかける
「なんだ、もしかして怖くなったのか? もしかしたら現れた悪魔に魂でも持っていかれるのではと……怯えているのかな?」
「なっ! そ、そんなんじゃ……!」
「あぁそうだろうとも。お前が怯えるはずがなかったなぁ。なにせ、お前にはもう、何も残っていないのだから」
「……!」
魔女の言葉に、一瞬息が詰まる。
「村も、家も、家族も、想い人も、夢も希望も憧れも。あの日お前は全てを失った。ならばもはや生きる意味さえ無いに等しい。故にその命、残る全てをお前は私に捧げたはずだ」
「……」
「ふふ、案ずるな。悪いようにはならないさ。お前はただ、私に全てを捧げるだけでいい……」
魔女の言葉が、俺の心の内にするりと入り込む。
そうだ。俺には何も無いんだったな。全てをあの日に失ったのだから。だから……俺はもう、俺の命さえどうでもいい。あいつらを殺せるなら、何だって捨てられるんだ。
「ではこれより、悪魔召喚の詠唱をお前に教えよう。なぁに、心配することは無い。失敗したらまたやり直せばいいのだからな。……お前はただ安心して、言の葉を紡ぐことだけに集中するんだ」
「……あぁ。分かったよ、魔女」
了承の返事を返した俺に、魔女は満足そうな頷きをして悪魔召喚の詠唱呪文を伝え始めた。呪文はそれなりに複雑で長いものであったはずだが、何故かスルスルと頭に入って一発で覚えてしまった。
「おお、呑み込みがいいなリュート。少し驚かされたぞ」
「あんたのおかげだよ、魔女。なんでか分からないけど、あんたの声で聴くとすっと頭に入ってくるんだ」
「はは、口説いているのか? 中々上手いお世辞じゃないか」
「誰があんたみたいな胡散臭さの塊を口説くんだよ」
すっかり緊張のほぐれた俺は魔女と軽口を交わす。俺達も徐々に打ち解けてきた、ということだろうか。
「儀式の準備は終わった。お前は魔法陣の前に立ち、指先を噛み切って血を垂らし、詠唱を始めろ。ゆっくりでいい。焦らず、噛まずに、正確に発音するんだ」
「分かった。……始めるぞ」
俺は人差し指の先に歯を立て、皮を引きちぎる。鋭い痛みがビリッと走り、ぽたりぽたりと血の雫が魔法陣に滴り落ちる。
その瞬間、魔法陣が朱色の眩い光を放ち始め、そこから溢れ出す魔力が俺の髪を逆立てた。同時に身体から何かが抜け出ていくような感覚がして、危うく目眩で倒れそうになる。
だが頭は何故か最高に澄んでいて、持ち直した俺は魔女に言われた通り、召喚の詠唱を唄いあげる。
「『是れ此処に、万を知れり王の証たる、十の指環在り。汝の主たる証在り。
是れ此処に、其の身を封す真鍮の器在り。然して今や其の蓋は莫く、今や解放の時を知らす。
是れ此処に、汝らに捧ぐ供物在り。此の供物の血、肉、骨、皮、腑、御魂に至るまで、其の全てを汝に捧ぐ』」
呪文の一節一節を口にする毎に手足の力が抜けていく。倒れるのを気合いで堪えながら魔法陣を見ると、さらに光は強さを増し、風が逆巻き、魔女が拵えた祭壇の上の得体が知れない肉や骨が燃え尽き、灰も残さず消え失せる。
「『我が求めるは、未来を司りし悪魔。過去を暴き、
そして先程までとは比べ物にもならない力の奔流が渦巻き、身体が持っていかれそうになった。また魔法陣からは肌を焼く程の熱を持った炎が吹き上がり、俺はそれに歯を食い縛って耐えながら、召喚のための最後の詠唱を声高に叫ぶ。
「『
瞬間、爆発したように渦巻いていた炎と光が弾け、踏ん張っていた俺の身体を吹き飛ばす。土埃がもうもうと舞い上がり、儀式場を覆い隠す。
「ぐっ、う……。どう、なった……?」
俺は力の入らない手足に喝を入れてなんとか上体を起こし、召喚が成功したかどうかを、確かめ……
「う"っ……!?」
……ようとした、その瞬間。身体中にゾワリとした悪寒が奔り、続いてぶわりと冷や汗が拭き出す。
……何かが、居る。それも、ルイなんか目じゃないぐらいに、とんでもなく強大な存在感を持った、邪悪なナニカが、そこに。
土煙が晴れ、徐々に祭壇が見えてくる。そしてそこに、得体の知れないナニカが立っている。
『ふーむ、ひさかたぶりのちじょうじゃなぁ。ろくおくねんほどぶりじゃろうかのぉ。して、おぬしがふけいにもわしをよびだしたこたびのれいちょうじゃの? たしかにんげんといったか。うぬにいかなのぞみがあるのかはしらん。きょうみもない。ゆえにそのたましいをくろうてやるだけで、ぞんざいなしょうかんにたいするばつはすませてやろう。わしのかんだいなしょちにむせびなくがいい、にんげんよ』
ソレはヒトの形をしていた。まだ未熟で、大人と言うには幼すぎる見た目だが、その美しさはこの世のものとは思えないほどだ。流れるような黄金の髪に、業火のように燃える赫い瞳。全身を包む衣装は喪服のような上質なドレスであった。
一見すれば、ただの絶世の美少女。だが、その存在自体が絶望的に周囲の世界と適合していない。まさに、この世ならざる存在、悪魔がそこに立っていた。
『んんー? だまってしもうたのぅ。きたいはずれもはなはだしいわ。わしをしょうかんするぐらいじゃからひぼんなさいをきたいしておったが、みるからにへいぼんじゃあ。さいきあふれるようならいじくりまわしてあそんでやってもよかったんじゃが、そのたのしみかたさえできそうにないとはの。ぐろうするにもほどがあるぞ、まったく』
「ひ……あ……」
舐めていた。魔女があまりにもあっかからんと語るものだから、てっきり対処できるくらいのものだと。認識が甘かった。死ぬ。殺される。いや、もしかしたらそれ以上におぞましい何かを……
「おいおい未来の。あまり怖がらせるんじゃあない。望みも聞かずに殺そうとするなど、悪魔の風上にも置けん行為だ。地獄の大公爵の名が泣くぞ?」
『むっ! なんじゃ、さいせいのか! うぬめ、ちかごろみかけぬとおもえば、ちじょうなんぞであぶらをうっておったのか。だれぞのしじでこんなへんぴなばしょにおる?』
「そんなことは今はどうでもいい。機会があればそのうち話そう。まぁともかく、いい加減に地上の言語で話せ。召喚者が意思疎通も取れずに泣いているぞ」
『おっ? おぉいかんいかん、わすれとった。だからなにもへんじがかえってこんかったのじゃな? だがわしをしょうかんするたちばであるなら、それぐらいわかってしかるべきじゃろうに。まぁ、よい。ふるいなじみのかおにめんじてとくべつにそのふとくといたすところはめんじょし、おぬしらのげんごではなしてやろうではないか。 ほれ、これで満足か?』
「全く、最初からそうしろという話だ。そらリュート、いつまでも腰を抜かしたままでどうする? 出来るだけ早く契約するのを勧めるぞ。こいつは気が短くてな。さっさとしないと飽きられて殺されるぞ」
「……えっ……?」
放心状態だった俺は魔女に話しかけられてようやく意識が覚醒した。ヤバかった。本当に死ぬかと思った。それくらいヤバイ状況だったように思う。魔女には何度も命を救われてるな……もう足を向けて寝られないぞ、これは。
「はぁ、はぁ、ふぅーっ。……よし、落ち着いた……良かった、生きてるんだな……俺……」
「安心するには少し早いぞ、リュート。お前は今からこの性悪相手に有意義な契約を結ばなければならないのだからな」
「っ……! あぁ、そう、だったな……」
確かに、それが最初の目的だった。しかし、俺はすっかり気力を使い果たしてしまった気分だ。死ぬのは怖くないと先程言ったが、訂正せざるを得ないかも知れない。人はやはり、本能的な死の恐怖には抗えないのだと。
そんな心が折れかかっている俺に、件の悪魔が近寄り、顔を近づけてくる。
『ふぅむ、やはり平凡極まる相をしておる。とてもではないが、ワシにはウヌが目を掛ける程の人間には見えぬ』
「そう言ってやるな。これでも最初期からはマシになったものなのだぞ?」
『そうかのぉー?』
魔女と悪魔が親しげに会話を進める。どうやら侮辱されているようである。
『なぁ、ウヌは何故ワシを呼んだ? そこな女に話しだけは聞いてやろうというのじゃ。つまらん願いなら即座にお前の頭を捻じ切るがの』
投げやりに悪魔が俺に問いかける。俺はもうどうでもよくなって、正直に話すことにした。
「……復讐だよ。村のみんなを殺した奴らを、同じような目に合わせて、自分達がやったことを思い知らせたい」
「怨恨か。ありきたりじゃのぉ、つまらんつまらん』
「……じゃあ何なら満足するんだよ」
俺は俺の目的が一蹴されたように感じて、少しだけ苛立ってしまい、つい悪魔に聞き返した。馬鹿なことをしたこれでは死期を早めたようなものだ。
しかし悪魔はそんな俺に予想外に楽しげに語った。
『うむうむ、そうじゃの〜、やはり確固たる信念と溢れ出る才気! 自信! それらを兼ね備えた誇り高い人間が好みじゃのう!
そのような己を過信した人間が何も成せず、空虚に沈んで絶望しながら死に絶えるのを特等席で眺めるのは最大の娯楽というものじゃからなぁ!
その観点からすると、ウヌは凡俗に過ぎる。自らの限界を知り、諦めた者の匂いがする。実に面白味がなくつまらん人間よ』
確かに、悪魔の評は的を射ていた。俺は自分が転生者に勝てるとはどうしても思えない。ずっと彼らの戦果を追っていたのだ。隔絶した力の差、才能の差は明らかだろう。
復讐を誓ったのも、一人で生きる気力も無く、死ぬ勇気も無く。自分で考えるのを辞めて魔女に全てを投げ渡したから。
ようは全て成り行きで、その選択は確かに凡俗極まりないものだった。
自嘲気味な笑みが溢れる。だから最期に、悪魔に一つお願いをしてみた。もしかしたらと、そう思って。
「なぁ、悪魔。俺の未来を見てくれよ。未来の悪魔なんだろ? それぐらいできるよな?」
『うむ、然して何故そうなったのじゃ? 会話が全く繋がっとらんぞ』
「別にいいだろ、そんなの。それより知りたいんだ。俺がこれからどうなるのか。何も成せずにここで死ぬのか、復讐の間に志半ばで死ぬのか、それとも俺は復讐を完遂できるのか」
『それを知ってどうする。お前は何一つ成すことなくワシに殺され死ぬぞ』
「……安心したいんだよ。例え今すぐ死のうが死ななかろうが、死は怖い。だからせめて、どう死ぬかわかれば、ちょっとは気持ちに整理がつく」
凡人たる俺には、その程度のことが重要なんだよ。
苦笑する俺に、悪魔はニヤついた笑みを消し、俯いた俺の顔を覗き込む。
『うむ、その発想は確かに凡俗のものじゃ。だがこの状況でそれをワシに宣うというのは些か非凡じゃ。少々驚かされたぞ、小僧。褒美にお前の未来を覗きいてやろう。それでウヌの願いは果たされる。その後のことは……まだ分からんな。全ては未来のその先じゃ』
そう言って、悪魔は俺の額に手を当てる。俺はその時何か得体の知れないものが頭の中を蠢く感覚に陥り、吐きそうになった。
そうしてしばらく経ち、ようやく悪魔が額から手を離す。立て続けの体力の消耗に、いよいよ限界が近い。
『……』
「……どう、だった……?」
黙り込む悪魔に、俺は問いただす。そして悪魔はさっきとは少し違った雰囲気で話し始めた。
『……大方予想通りじゃった、と言いたいところじゃが……。いやはや、運命とは分からんものよ。ウヌは未来でウヌの目的を果たす確率が非常に高い。不思議なもんじゃのぉ。実に不思議じゃ』
「え……?」
てっきり俺はつまらない未来に肩透かしを食らったこいつに殺されるとばかり思っていたので、悪魔の言葉に少し驚く。
『実に数奇な運命じゃ。非常に興味をそそられる……。よし、おい小僧! ワシは気が変わったぞ! ウヌを主として認めようではないか!』
「はっ……!」
なんでそうなるんだ!? 悪魔の唐突な手の平返しに思わず驚きの声を上げてしまう。
『なんじゃ、そんなに驚くか? お前が最初に望んでおったことじゃろうに』
「そりゃあそうだけど……! でも、なんで……?」
『さっき言ったじゃろ。ウヌの未来に興味が湧いた。是非特等席で観覧させよ。そうさな……お前の失くしたその右腕。ワシがその右腕になってウヌに憑依し、力を貸してやろう。悪くない契約じゃろう……?』
確かにそうだ。だがこいつの今までの言動から、性格が腐っているのは一目瞭然。きっと何かの裏があるに違いない。
「代償はなんだ? 悪魔ってのは契約するのに代償が必要なんだろ……?」
『そうじゃの〜、よし、こういうのはどうじゃ! 『ウヌが転生者を殺し尽くすまで復讐を辞めないこと』 うむ、この条件でどうじゃ!』
「は……? それ、軽すぎないか……?」
もっと寿命とか死後の魂だとか、取り返しのつかないものを要求されると思っていたものだから、拍子抜けしてしまった。
だが、そんな俺の言葉に悪魔は邪悪な微笑みで返す。
『良いのじゃよ。これが一番、ワシ好みの未来が見える。ふふ、それに神どもにはワシも多少の怨みがある。転生者殺しは奴らへの嫌がらせにもなるじゃろうしの』
「……」
怪しい。絶対に裏がある。こいつがそんな生易しい契約を持ちかけるはずが無い。その愉悦に歪んだ目を見れば誰だってわかるというものだ。
『どちらにせよ、ウヌはワシとの契約を拒むことはできん。さぁ、そろそろ契約を始めようではないか、我が召喚者よ』
そう、結局契約は避けられないのだ。ならば今ここで覚悟を決めなければならない。転生者を殺し尽くすと。そのために、残りの人生全てを捧げるのだと。
「分かった。俺と契約してくれ未来の悪魔」
『ふはは、よろしい! それでこそ我が主だ!』
そうして俺達は互いに契約の文言を交わす。俺が力を得るための、最後の儀式。
「『我此処に、彼の者、未来の悪魔との契約を誓う』」
『『我此処に、彼の者、人間リュートとの契約を誓う』』
「『我は汝に復讐の未来を捧ぐ』」
『『我は汝に復讐を果たすに足る力を貸し与えよう』』
「『『此処に契約は成された! 今此れより、我と汝は互いに互いの約定を果たさん事を誓う!』』」
切断された腕の傷が痛む。魔女の治癒によって塞がれた傷口から、何か異物が入り込み、逆流し、自分のものでないものが自分に継ぎ足されるような、ひどく不快な感覚が俺の意識を揺さぶる。
俺と悪魔の間には魔力の渦が巻き起こり、何かが繋がる感覚がした後、悪魔の身体が怪しく光る燐光となって俺の右腕の位置に殺到する。
強烈な目眩、意識が混濁し、ついに力尽きた俺の体力。全身から力が抜け、受け身も取れずに地面に頭から倒れ込む。
『『此れにて契約は成立した』……さて、せいぜいその生き様を以って、ワシを興じさせるが良い。期待しておるぞ、我がマスターよ』
朦朧とする意識の中、最後に俺の耳に届いたのは。愉悦と期待の入り混じった、悪魔のような囁きだった。
⚪︎作者の個人的な原作キャラクターへの印象②
・キルト……原作の描写から、普通に根はいい奴だと思いました。あと苦労人っぽい。ルイくんの蛮行にも苦言を呈してたし、というか彼を咎めてたのってベストナインのほぼ全員だし、彼がクソ野郎なだけじゃないかと思うの。
・フレア……原作の描写から、ベストナインの使命は魔王を倒すことだと本気で思ってるぽいのでいい奴認定しました。性格は脳みそと口が直結してるかんじ。神様転生なのに二つ名が「堕女神」なのなんでさ。一応設定考えたけども。
・ロロ……原作の描写から、キルトとはそれなりに信頼関係がありそう。元ネタのお方が食いしん坊なので大食いキャラ。さらに思いっきりTS転生者です。性格は割と落ち着いてる、というかマイペース。
・雪子……原作の描写が一切ない人。表情も雰囲気も名前も元ネタと完全不一致なので勝手に古典的JKな性格にされた。普段はダウナーっぽいけど。料理が癒し。美味そうに食ってくれる奴も癒し。
⚪︎オリキャラについて
・未来の悪魔……未来最高! 未来最高! 貴方も未来最高と叫びなさい! という性格。一応元ネタはあのそこそこ有名な悪魔で真名もそれと同じですが、おそらく出す機会はない。設定画も取り敢えず上げときます。
【挿絵表示】
ところどころ色薄くなっちゃったけど服はほぼ全身真っ黒とお考えください。
オリキャラには賛否両論あると思いますが、彼女はこの物語で大きな役割を果たすので、どうか生暖かく見守ってやってくだされば幸いです。