異世界転生者殺し-チートスレイヤー- 続   作:抹茶れもん

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だんだん文字数が多くなる……。プロットと脳内アニメーションはそんな長くないのに……
あ、今回で『ルーパー』殺し編は決着です



『ルーパー』殺し②

「う……」

 

 身体が重い。というより力が入らない。あれから、あの悪魔と契約してから、一体どうなった……?

 

「知らない天井だ……」

 

 寝転がったまま目に入る情報をそのまま出力する。こういうのは妙に落ち着くのだから不思議なものだ。

 窓から差し込む光が目に当たり、むず痒くなった(まぶた)を右手で擦る。

 ……ん? 右手?

 

「うおおおおおお!?」

 

 何気なく目を擦るために使ったけど本当に右腕が生えてる!? しかもなんかすごく禍々しい色してるし棘とか生えてるしめちゃくちゃ爪尖ってるし何より不気味な威圧感纏ってる!?

 

『なんじゃあ、起き抜けに五月蝿(うるさ)い奴じゃのぉ〜。しかもちょっとキャラ崩壊してないか? ウヌ』

 

 騒いでたらなんか腕に口みたいなのがぐばぁ、と開いて美少女の声で話し出した。

 

「うおおおおおお!? シャベッタァ!?」

 

『じゃから五月蝿(うるさ)いと言ったろうが!』

 

 いや衝撃なんだよ! 朝起きたら引きちぎられた腕の傷から絶対ヤバい奴の腕だって一発で分かるもの生えてたら恐怖じゃないか! しかも口ができて喋るとか盛りすぎだろ!

 

「なんだなんだ、さぞグロッキーだろうと思っていたのだが、なかなか元気そうじゃないか。これなら早々に次の段階に移れそうだな」

 

「あっ、魔女! それよりまずこの腕について説明してくれ!」

 

 木製の扉を開けてニヤニヤしながら部屋に入って来た魔女に説明を求める。

 

『いや契約時に言ったじゃろ。力を与えるために、ワシがお前の右腕になってやろうとな』

 

「あー……」

 

 確かにそんなことを言っていた気がする。その時は半ば放心していて全然会話に集中していなかったが。今思えば痛恨のミスだ。

 いやでもそれにしたってこれは無いだろ。せめて人間の腕生やせよ。もうちょっと何とかなっただろうに。これじゃあおちおち外も出歩けない。

 

「ふふふ、そういうことだ。良かったじゃないかリュート。これでお前も転生者を殺せる力を手に入れたんだからな」

 

「……まぁ、そうだな。ぐちぐち言っても仕方ないか」

 

 実際もう剣も握れない身体というのは不安だったのだ。感謝こそすれ、責めるのは筋違いだ。

 

「ありがとうな、未来の悪魔。さっきは取り乱してしまったけど、俺の右腕を治してくれたこと、本当に感謝して……」

 

『あ、ワシは別に腕を治癒したわけじゃないぞ。ワシがウヌに植え付けたそれは地獄にあるワシ本体の腕じゃ』

 

「はぁーーー!?」

 

 なんてもの他人(ひと)に移植してくれやがってんだこの悪魔!

 

『なんじゃ不満か? 本体である以上ワシが地獄から力を貸し与えるより遥かに出力が高い。力を欲するお前に打ってつけじゃろうが。それとも何か? ワシとの契約を破棄するか? その場合は契約不履行としてお前の魂を地獄でたっぷり……」

 

「あー! 分かった、分かったよ! ありがとうございます! これからもどうぞ宜しくお願いします!!」

 

『うむ! それで良い! ウヌもワシの召喚者としての自覚ができてきたようで何よりじゃ。ワシも気分が良いぞ。これからもその調子でワシにとくと敬意を示すが良い!』

 

 どうやら持ち上げられて鼻高々らしい。そんな風に俺と未来の悪魔がぎゃいぎゃいと騒いでいると、魔女が冷たい相貌でこちらをじっと見つめていることに気付いた。俺は引き攣った顔でギギギ、と視線を彼女に移す。

 

「……そろそろ作戦の話をしようと思うのだが……よろしいかな? リュート殿?」

 

 俺は黙って「ハイ」と答えることしか出来なかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「さて、では気を取り直して打倒ホンダ・ユウヤの作戦を詰めていくぞ」

 

「あぁ、よろしく頼む。今回はどんな手を使って殺すんだ?」

 

 一悶着を終え、俺と魔女は『ルーパー』ホンダ・ユウヤの殺害計画の打ち合わせを始めた。と言っても、俺は彼女の言うことをしっかり頭に入れることだけに集中することになるだろうけれど。

 俺には奴を殺す方法なんてさっぱり思い浮かばない。死んだら過去で復活して無限に特攻してくる相手の対処などできるはずがないと思った。

 しかし、目の前の女は完璧な手際で以ってルイの殺害を実行した。魔女ならば、きっと奴の不死身とも言えるチート能力(スキル)の対策も万全に考えているはずだ。

 

「そうだな。色々考えてみたんだが……殺すのを止めることにした。というより、殺すのは不可能だと諦めた」

 

「はぁ!? どっ、どういうことだ!? まさか、ホンダ・ユウヤを殺すのは諦めるっていうことか!?」

 

 俺は魔女の言葉に驚かされた。あの底知れない恐ろしさを持った魔女が「諦める」と言うとは思ってもみなかったのだ。

 

『のぅ魔女よ。その『ルーパー』とやら、そこまで言うほど強いのか?』

 

「あぁ、因果に干渉するタイプで、殺されると記憶を保持したまま過去に戻る。回数制限は無い。いくらお前とあろう者でも、完全体に程遠く、さらにはよりしろもズブの素人では手に負えまい」

 

『はぁー? なんじゃそれは。チートじゃろ、それ! そんな性格悪い加護を与える奴なんぞ啓示の天使ぐらいのもんじゃろが!』

 

 騒ぎ出した口だけ悪魔の声を無視して、俺は物思いに沈む。村を焼かれた時、ルイの他にいた二人の転生者。そのうちの一人が奴だ。

 そいつへの復讐を諦めると言うことは、俺の村を焼いた張本人を見逃すということだ。

 そのことに思い至って、今俺はあの惨劇の日から初めて自分の気持ちを見つけて、たまらず口に出した。

 

「……なぁ、なんとかならないか、魔女」

 

「ん?」

 

「あいつは、俺の故郷を破壊するのに直接加担してた……。俺には奴に復讐したところで得るものはないし、それで村のみんなの無念が晴らせるなんて、今更思っちゃいない。この数日だけでも、理不尽や死の残酷さを沢山見てきた……。

 でも、でもさ。悔しいんだよ、魔女。あいつらが日の元で楽しく暮らしてるのを思うと、俺達の死はなんだったんだって、怒りがふつふつ湧いてくる。

 俺には何にもないと思ってたけど、この胸に(くすぶ)っている引っ掛かりはあったんだ……。

 だからせめて、あいつらだけは俺の手で報いを受けさせたい。頼む魔女、どうにか奴を殺す方法を考えてくれないか。そうすれば俺は……」

 

「いや、何言ってるんだお前。私は殺すのを諦めたとは言ったが打倒を諦めたとは言ってないぞ」

 

「……へ?」

 

 同じ意味じゃないのか、それ。

 

「大体な、諦めたならわざわざこうして打ち合わせする必要が無いだろうが。少しは頭を使え」

 

「あっ。あー……そういえば、ソウデスネ……」

 

 どうやら俺の早とちりでしかなかったらしい。それが分かると急に恥ずかしくなってきて、思わず顔を逸らしてしまう。

 

「だが良いぞ。モチベーションは調子を上げるからな。以前のお前は私に言われるがままに復讐をしようとしていた。しかし今は自らそれに意欲的だ。何か心境の変化でもあったか?」

 

「……別に。ただ、お前と会った時はまだ覚悟が決まってなかったというか、実感が沸かなかったんだ。だから唯一頼れるお前に縋った。けど今は、色々前とは比べ物にならないぐらいの非日常に段々慣れてきてて、少しずつ心の整理がついてきたんだと思う。

 俺は何も持っていないけど、せめて覚悟を持って自分の意思でみんなの仇を取りたいと思ったんだ」

 

 俺はまっすぐに魔女の目を見て言う。

 村が焼かれ、魔女に拾われ、ルイを殺し、悪魔を呼び出した。いい加減、いつまでも魔女におんぶにだっこじゃ男が廃る。

 俺は……覚悟を決めたぞ、魔女。

 俺は俺の意思で、転生者を殺したい。

 

「ふふふ、良い顔をするようになったな、リュート。それでこそ立派な復讐者だよ」

 

「……話の腰を折って悪かったな。さぁ、続きを話してくれ。あんたのことだから、また何か良い考えがあるんだろ?」

 

 俺は自然と魔女に話を促す。俺達も気安くなったものだ。ルイの時は一方的だったけど、今はその時よりも少し対等になっているように思う。

 

「よし、では話そうか。まずホンダ・ユウヤを殺した時点で即アウトだ。次の周回ではベストナイン全員にこちらの情報が共有されることになる。故に今回の我々の勝利条件は殺害ではなく拘束だ」

 

「……なるほど。殺してはいけないのなら動きを封じてしまえばいい、ということか」

 

「その通り。手順としては、まずお前が奴と戦い、ある程度時間を稼いだ後に無力化してくれ。十分あれば、その間に奴を拘束する封印陣の準備が万全に整う。」

 

「じゃあ俺の役目は直接戦闘による時間稼ぎ、ってことか」

 

「そうなるな」

 

 俺は昔から剣の腕には自信があった。だが実戦経験は皆無で、つまりこれが俺にとっての初陣ということになる。しかも相手は転生者最強集団のうちの一人。魔女は戦闘能力は低いと言っていたが、それでもルイに全く歯が立たなかったこともあり、緊張しないと言えば嘘になる。

 だが、俺はその程度の不安ではもう取り乱したりはしない。

 

「勝ち目があると思うか、魔女」

 

「お前が悪魔の力を十全に使うなら、チャンスは充分にある。よしんばしくじったけどしても私がなんとかしてやろう。幸い、私の能力は奴のチートと相性がいい」

 

「そういえば、あんたの能力って聞いてなかったな。どんなのなんだ?」

 

「然るべき時に話すよ。今は自分の戦いに集中しておけ」

 

「分かった」

 

 あの魔女が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。それを聞けて良かった。一抹の不安もこれで解消されたからな。

 

『そもそもなー、ウヌはワシを信用しとらんのかー? さっきから蚊帳の外に置きおって。このワシを舐めているのならば相応に分からせてやろうではないか。この大悪魔たるワシの力をの!』

 

「とまぁ、この通りお前の悪魔も気合い十分のようだ。作戦決行は本日の夕方……日の入り直後から、ホンダ・ユウヤが一人で市街の路地裏を探索している時とする。やれるか? リュート」

 

 それに性格は最悪だと思うが、頼もしい仲間も二人いる。俺のやる気も十分だ。

 

「大丈夫だ、問題無い。『ルーパー』ホンダ・ユウヤ打倒作戦、必ず俺が成功させる!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「あ"あ"ぁ〜〜、いいなぁあいつらは! 幸せ者だなぁ! 今頃めちゃ美味い焼き肉食ってんだろうなぁ! ったく、俺はこんな薄暗くなるまで街の裏走り回ってるってのによぉ〜。全く不公平極まりねぇな!」

 

 閑散とした裏路地を練り歩きながら、俺こと本田勇也は大声で愚痴を漏らす。というかこうでもしねーとやってらんねーからな。

 時刻は今日の昼頃にまで遡る。

 俺達はここ数日ルイのヤロウが殺された事件の犯人を追ってた。俺はチートの仕様上、囮役としてあちこちをしらみ潰しに走らされた。きっつ!

 しっかしいくら探しても敵さんは尻尾の一つも見せやしねぇ。もうルイが殺されて四日経つ。耳聡い奴ならルイの不在を知られていてもおかしくない時間だ。それが市井にバラされでもしたら大問題間違いなしってワケよ。

 そんで危惧したキルトに言われたんだわ。『今日の夜はお前一人で見回れ。夜は索敵しづらいし、もしかしたら敵が好機と思って襲ってくるかもしれないからな。お前の能力なら万が一も無いし、あったらあった手好都合だろう』って。

 

「いや、ふざけんなよ! 効率厨か!? アッ、アイツ効率厨だったわ! でもこれはねーよ! 『いっぺん死んでこい、何もなかったらその時はゴメンネ』ってことだろ、コレ!? 俺の扱いブラックすぎねぇ!?」

 

 信頼の裏返しってことは分かるよ? アイツとは「神の御使(みつかい)」創立期からの付き合いだしな。俺のチート能力(スキル)を買ってくれてるってのもよーく分かってる。

 

「でも労働基準法違反だろコレ。サービス残業よりもっと恐ろしいものを見たわっつか現在進行形でやってるわ」

 

 終わりが見えない仕事ほど苦痛なもんはねぇ。その上異世界には労基がねぇ。労災も降りねぇ。なんつーこった、世界滅亡か?

 

「あー、もう早く出て来てくんねぇかなー。そしたらさっさとこの退屈な仕事に一区切りつくんだけどなー」

 

 てか、ホントいい加減にギルド帰りたいんだけど。アツアツジューシーなお肉が俺を待っている!

 

 

「というワケで、隠れてないでさっさと出てこいよ。襲撃者サマ?」

 

 

 その瞬間、暗闇から何かが飛び出し、俺に向かって銀光が閃く。

 背後から襲いかかる刺客に、その位置を予想していた俺は余裕を持って攻撃を躱し、用心のために腰に差していた剣を抜刀し、振り抜く。

 

「セイッッ!」

 

「うぉっ」

 

 しかし襲撃者は踏み込みの勢いのままガクンと体勢を地を這う蛇のようにかがめ俺の横薙ぎを冷静に回避。続いて上体めがけて鋭い斬り上げを放った。

 

「ふぃー、あーぶね」

 

 俺は深追いはせず、後ろに躱した勢いでバックステップし距離を取る。襲撃者も追撃はせず、こちらの出方を伺っているようだ。先程の一合は挨拶替わりということだろう。

 

「アンタが件の殺人犯か? さっきから人いねぇし、スマホ繋がんねぇから妙だと思ったぜ。全く面倒なことしてくれるじゃねーか。退屈しなくていいけど、こりゃ俺も頑張ってお前さんを始末するしかなくなった。どうだ、これから他のメンツに追い回されるのも嫌だろ? 今のうちに投降してくんねぇかな」

 

「断る」

 

「そうかい」

 

 黒髪でいかにも庶民的な粗末な衣服を纏い、右腕を包帯でぐるぐる巻きにしている襲撃者は短く拒否の返答を返した。ま、これで了承する奴がこんな殺気剥き出しのわきゃねーわな。

 

「ちなみになんで? どうも俺らを相当恨んでるようだが、俺には心当たりはさーっぱり浮かばねーぜ?」

 

「……なんだって?」

 

 あ、なんか地雷踏んじまったかも。普通に落ち着かせて情報引き出そうとしたんだが、どうにも俺は人の神経を逆撫でる達人らしい。

 

「お前は、先日俺の住んでいた村を焼いたよな……? そんなことをしておいて、心当たりがさっぱり無いだと? ふざけるのも大概にしろ!!」

 

 そう言って襲撃者は力強く踏み込み、肉迫して勢いよく剣を振り下ろす。よく見てみれば、その手に握られているのはルイが持っていた『必殺剣』。これでこいつが犯人ということで間違いなくなったか。

 

「ゼリャアッ!!」

 

「チッ」

 

 鋼と鋼が噛み合う音が暗い路地裏に連続して響き渡る。

 振り下ろしを受け流し、かえす刀で首を断ち切ろうとしたが、間一髪で相手は避け、振り下ろした刃が跳ね上がる。

 剣の腹を柄で弾き、ガツンと互いに刃をぶつけ、鍔迫り合いに移行する。

 剣の実力は互いに同程度。元々ただの村人だったというのなら、こいつは現地人としてはそこそこできる部類と言えるだろう。

 俺は鍔迫り合いの体勢のまま男に話しかける。

 

「悪かったな。全滅させたつもりだったんだが……。俺はお前の顔を見てねぇから、ルイのヤロウの撃ち漏らしか、それとも偶々村を留守にしてたのか? あのヤロウ、始末は自分でしろっつったのに」

 

「ッッ……! お前……!」

 

「おいおいそんな怒んなよ。悪かったって言ってんだろが。こっちにも色々事情があったんだよ」

 

 俺は力を抜いて相手のバランスを崩し、回転の力で横薙ぎを繰り出す。が、襲撃者もさるもので地面に飛び込むように前転し回避する。

 

「事情……?」

 

「そうさ、あの村は放っておくと後々俺達にとってまずいことになった。それこそ、全滅させる必要があると俺の能力で分かったワケだ」

 

「……なんでだよ、そんなことをされる謂れは、俺達には無い! 殺される必要なんて……」

 

 ……ま、そうなるだろうな。いきなり死んでくれなんて言われても普通納得できねぇわ。

 

「じゃあ聞くが、アンタに理由を話したとしてアンタはその恨みを捨てられんのか?」

 

「それは……」

 

「できねぇだろうよ。理路整然とした理由があったところで、俺達がアンタの一族郎党皆殺しにしたことに変わりはねぇ。その上俺達はアンタのことを生かしておくこともしねぇ。さっきの投降云々の話は忘れてくれや」

 

「……!」

 

 仕方なかったってやつだ。この世にはどうしたって分かり合えない立場ってもんがある。当人の気持ちがどうとか関係無く、争うしかない場合がある。これまでにもそういうことは沢山あった。

 

「俺もアンタもどっちも引けねぇ引くつもりがねぇ。ならもう、殺し合って決めるしかねぇのさ。この世はえらく残酷だからな。その程度の理不尽なんざありふれたもんだ」

 

「……」

 

 だから俺は剣を正眼に構え、笑みを浮かべて宣言した。

 

「剣を構えろよ、復讐者。こっからは互いに正々堂々、剣で決着をつけようぜ。『ベストナイン』の底力、目に焼き付けてから死に絶えな!!!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「オラオラオラ! どうしたどうした! さっきまでの勢いがハリボテみたいだぜ!?」

 

「くっ……!」

 

 俺はホンダ・ユウヤの猛攻を受け、徐々に押されていた。それもこれも、剣に込められている力がさっきまでとは桁違いだったからだ。

 おそらくは、魔力による身体強化!

 

「正々堂々というのは嘘か!?」

 

「魔法を使わないとは言ってねーし、そもそも魔力強化は初歩過ぎて魔法とは呼ばないだろうが!」

 

 そう言うと同時に剣を物凄い力で袈裟に振り下ろす。俺はそれを手首と肩肘をしならせて勢いを殺し、なんとかできた隙に剣を差し込もうとするが、それより早く戻ってきた刃に弾かれる。

 こんな調子でさっきから有効打が与えられずにいる。確かにルイほどの出鱈目さは無いが、それでもしっかりとした技術と研鑽が感じられる剣だった。

 

「お前さんは村人にしては確かに強えよ。でもその強さは言っても王宮の平騎士クラスのもんだ。長年に渡って数々の死亡フラグを乗り越えて来た俺から、そう易々(やすやす)と勝ちを拾えると思うなよ!」

 

 このままでは押し切られて終わり。無力化など到底無理だ。意表をついた奇襲をしなければ、真っ当な剣を使うこいつは崩せない。

 だからまずは……その視覚を奪う!

 

「ブッッッ!!」

 

「!?」

 

 俺は自分の口の中を噛み切り、血が混じった唾液の塊を勢いよくユウヤの顔に吹きかける。視界が一瞬真っ赤に染まったユウヤの剣先が揺れる。

 

「シッ……!」

 

「のあっ!?」

 

 俺は勢いを失った斬撃を身を(かが)めて躱し、低姿勢のまま回し蹴りを食らわせ、ユウヤが宙を舞う。

 どれだけ力が強くとも、踏ん張りの効かない空中で体勢を崩し視界もままならないのなら、反撃は来ない!

 

「ゼェリャアアアッッ!!!」

 

 裂帛の気合いを込めて、一番空中で避けにくい胴体を真っ二つにするべく、渾身の唐竹割りを繰り出す。

 これで終わりだ。そう思った時のこと。

 

「『汝、暗闇に惑え! 《シャドウ》!』」

 

「なっ……!」

 

 それが魔法の詠唱だと気付いた時には、すでに効果が発動していた。ユウヤを中心に大量の黒煙が吹き出し、狭い路地を覆う。そしてその煙につつまれたと同時に、耳鳴りがし、さらには意識が遠のく。

 闇属性の魔法だ。視覚を始めとした五感と意識を混濁させる、敵の撹乱を目的とした魔術!

 着地し、俺の背後に素早く無音で移動しただろうユウヤが、したり顔で俺の首筋を刃を滑り込ませ———

 

「大当たりだ」

 

「何っ……!?」

 

 そのユウヤの攻撃が、()()()()()()()()()()()()()()()()俺は、狙い通りの場所に吸い込まれた刃に思いっきり下段から斬撃をぶつけ、動揺したユウヤの手から剣を吹き飛ばす。

 なぜユウヤの不可視の攻撃を俺が完璧に迎撃できたのか。それは未来の悪魔と契約した恩恵によるものだった。

 今の俺は未来の悪魔の能力で、一瞬先の未来を見ることができる。この能力を使うことで、俺はユウヤが勝利を確信した瞬間を狙い打つことができたのだ。

 しかし、その能力に熟練していない俺は常時発動していると過度に未来の情報を受け取って処理出来なくなり、結果的に隙を作ってしまう。先程も少しの間発動しただけなのに脳がズキズキ痛む感覚がしている。だからこそ、この能力は要所要所に差し込むように使うことにしたのだ。

 

「らァッ!」

 

 即死でなければ封印はできると魔女は言っていたので、今度こそ隙を晒したユウヤの胴を叩き斬らんと剣を振るう。

 

「舐めんなァ!」

 

「チィッ……!」

 

 だがユウヤは服の袖からジャキン、と出したナイフを盾にして俺の一撃を空中で受け、そのまま勢いに任せて距離を取った。

 絶好の機会を逃した俺は思わず舌打ちをしてしまう。今のは絶対入ったと思ったのに。

 

「いやー、今のは危なかったぜ。割とマジでヒヤっとさせられた。評価を一つ上げとかなくちゃな。素人とは思えねぇ戦闘センスに、なんだありゃあ? またどういったカラクリだ?」

 

「……さぁな。お前こそ、結局魔法を使ってるじゃないか。不誠実極まりないぞ」

 

「おいおい、俺は剣で決着をつけるって言っただろ? 何も間違っちゃいないだろーが」

 

「屁理屈をよくそうやって堂々と吐けるもんだ。軽蔑するよ、転生者」

 

「男に好かれても嬉しかねーからな。感謝するよ、復讐者」

 

 互いに軽口を叩き合いながらも目は離さずに相手の一挙手一投足に細心の注意をはらい続ける。

 

「あぁー、これだから初見の相手は嫌なんだよ。考えることが多すぎる」

 

 そう言ってユウヤが懐に手を入れたと同時に、俺は未来視を起動する。

 

「でもま、やっぱ色々試すしか手の内探る方法ないよなってことで」

 

 しかし、俺はユウヤが取り出した、くの字に曲がった黒い鉄でできた筒に困惑する。てっきり武器かと思ったのだが……。

 ッ!?

 

「取り敢えず、初見殺しでも食らってくれや」

 

 未来で筒の先から火を吹き、黒い何かが俺の頭を砕いて殺す光景を見て、咄嗟に剣の腹を目の前に掲げる。

 次の瞬間、凄まじい衝撃が剣とそれを支える腕に響き渡り、俺は勢いで吹き飛ばされる。

 

「なん、だ……!?」

 

「へぇ、拳銃も完璧に防ぐのか。しかもその反応、その防御……弾の着弾位置が分かってたみたいな……」

 

「ッ!!」

 

 そのままユウヤは無造作にその見たこともない遠距離武器を連射してくる。俺は未来視で(きし)む頭を堪えながらその連撃を弾き、あるいは躱していく。

 

「……あぁ、なるほど! 大体見えてきたな、お前の能力の正体が」

 

「何……!?」

 

「さっきの反応、()を見たことねぇみたいな反応だった。それ自体に驚きは無い。この世界にはまだ普及してない武器だからな。ただ妙なのは、その後初見の銃撃を途中で慌てたにも関わらず完璧に防いだこと。普通はできる代物じゃねぇよ……当たる場所が分かってなきゃあな!」

 

 ……! まさかこいつ、たったこれだけの攻防で!?

 

「つまり! お前の能力は未来予知に類いする何か! 闇魔法の中で俺の位置を特定したのも、初見殺しの銃撃を捌いたのも! 全てその能力を使ったワケだ!」

 

 奥の手の未来視を完全に見破られた……! まさかこんなに早くバレるとは……!

 

「その能力がありゃあ、ルイが一番苦手とする奇襲も思うままってことだしな。ようやくアイツが殺されたのに合点がいったよ。俺と張り合う程度の強さじゃアイツを正面から倒すことは出来ねぇもんな? ふ、やっぱ俺冴えてるわー! この名推理、小五郎のおっちゃんもビックリだろ!」

 

 その推理は外れているし、小五郎のおっちゃんとやらは初耳だが、俺の最大の切り札がバレたのは非常に痛手だ。

 

「なら、話は簡単だな。未来を見て躱されるのなら、躱しようが無い範囲攻撃で制圧しちまえばいいって話だ」

 

 そう言って(おもむろ)衣嚢(ポケット)に手を突っ込み、俺の方に何かを勢いよく投げる。

 

「はっ!?」

 

 未来で何が起こるかを見た俺は少しでも衝撃を緩和すべく剣を盾にしながら全力で後方に跳躍する。

 だが無情にもユウヤが投げた鉄の塊は空中で炎を吹き出して爆ぜ散った。

 

「ぐ、あぁぁ……!」

 

 熱と衝撃、それから熱された金属や土石の破片が殺到し、未来視のおかげでなんとか致命傷は避けられたものの、剣は後方まで吹っ飛び、俺も火傷を負い、金属片が脇腹や腕、脚を貫き、立っていられない状態に陥る。

 それでも目を離してはいけないと顔を上げた俺の額に、冷たい金属の塊が押し当てられる。いつの間にか接近していたユウヤが、さっきの黒い筒の武器……「銃」を突きつけていたのだ。

 

「あ……」

 

「詰みだ。お前さんがこれからどんなアクションを起こそうが、俺が引き(がね)を引く方が早いぜ」

 

 なんとも呆気(あっけ)ない戦いの幕引きに思わず声が漏れてしまう。

 

「すまんな、結局剣で決着はつけらんなかった。そういう意味ではアンタの勝ちだ。だが、お前はこれから確実に死ぬ」

 

「……」

 

「だから、死ぬ前に一つ聞かせろ。()()()()()()()()()()()()?」

 

「ッ……!」

 

 魔女の存在もお見通しか……! でも、一体なぜ。

 

「バレるとは思ってなかった顔だな。まぁ単純に、たとえアンタに未来予知があったところでルイを殺すのはキツすぎるだろうし、何よりこの路地裏を覆う結界だ。見たとこアンタは魔法はからきしのようだし、どう見てもこんないくつも効果を重ねがけした防音気配遮断電波遮断魔力波遮断の超高性能の隔離結界張れる器じゃねぇよ」

 

 ということは、ほぼ最初から気付いてたってことか。ルイの百倍頭が回るな、こいつ。

 

「そんでだ。ただの村人が未来予知なんて大層なもん持ってるわきゃねぇし、持ってたら村全滅の時にもっと何かしてるだろ? つまりその能力を手に入れたのは大体一週間ぐらいの間。その間に、アンタに能力を与えた黒幕が接触してるはずだ。少なくとも、こんだけの結界と未来予知なんて法外なもんをポンと与えられるだけの、相当高位の魔法使いがな」

 

「……それを知って、どうする」

 

「もちろん殺すさ。どう考えても生かしておくべき奴じゃねぇだろ。で、その魔法使いはどこにいんだよ。結界張ってんだから、どうせ近くにいるんだろ。さっさと喋れば楽に死なせてやるぜ」

 

 ……殺す、か。こいつが、魔女を?

 

「ははは。あり得ないな、それは」

 

「あん? そりゃアンタは口が固そうだが……」

 

「そうじゃない。お前らがあの『魔女』を殺すのなんて不可能だ、って言ったんだよ!」

 

「はぁ!?」

 

 絶対絶命の命の危機に不敵に笑う俺に、ユウヤが驚きを返す。

 

「お前らじゃあの人を殺せない……! いくらチート能力とやらがあったところで、あの人の強さはもっと別の所にある!」

 

「……御託はいい。さっさとそいつの居場所を喋りやがれ」

 

「いづれ甘く見積もったことを後悔することになる……! お前らは今まで蔑ろにしてきた怨みに潰されて死ぬことになるだろう……!」

 

「……はぁ、もういいや。完璧な負け犬ムーヴありがとう。出会いが違けりゃ少しはマシだったかもな、俺達」

 

 埒があかないと踏んだのか、ユウヤは冷たい瞳で俺を見つめる。間違いなく、殺す気だ。

 

「あばよ復讐者。来世はもちっとマシだといいな」

 

 そのまま「引き鉄」とやらを引き、俺を躊躇なく殺そうとするユウヤに、俺は告げる。

 

「おいおい、俺はまだ負けたなんて一言も言ってないぞ、転生者」

 

「———!」

 

 ユウヤは一瞬驚きに目を見開くが、すぐに淀みなく引き鉄を引こうとする。その判断の早さは敵ながらあっぱれだ。

 しかし、俺には()()()()()()()見えている。

 

「ご、ぶ……! なん、だ……!?」

 

 俺に止めを刺そうとしたユウヤが、脇腹を貫く激痛に手を止める。そこには、力無く垂れ下がった、包帯に巻かれた俺の右腕……その肩口から包帯を突き破って自らの腹に突き刺さっている、おどろおどろしい色の鋭く尖った棘。

 

「悪いな、俺の右腕は悪魔の右腕でね。可変式なんだよ」

 

「て、めぇ……!」

 

「今度こそ()()()。一瞬の油断が命取りだったな、転生者!」

 

 俺は刃状に変形した腕を振るい、ユウヤの「銃」を持った腕を切り払い、蹴倒して右腕をユウヤの左手に突き刺して拘束する。

 

『全く、世話をかけさせおって〜。ワシの手助けがなかったらウヌは今頃石畳のシミになっておったぞー?』

 

「あぁ、お前がいなかったら勝てなかったよ。助かった、未来の悪魔』

 

『むふー。 苦しゅうないぞ! もっと崇め(たてまつ)るが良い!』

 

「はいはい」

 

 露わになった腕から色んな意味で口を出しながら、未来の悪魔が得意げに(のたま)う。

 

「ぐ……! なるほどな、悪魔か……! 話には聞いてたが、まさか実物をお目にかかれるとはね……」

 

『ほう、悪魔の存在を知っておるか』

 

「へ、敵の正体も知らねぇマヌケが、人類の代表ヅラできっかよ……」

 

 自嘲気味に力無く笑いながらも、ユウヤが諦めた様子は無い。

 

「あーあ、しくじったぜ。一周で終わるかと思ったが、油断はしたくないもんだな。悪魔がこの王都まで侵入してんのはいよいよ世界がヤベェってこったな? ちゃあんと、過去に戻って伝えておくぜ。じゃあ、次の周回でまた会おうぜ……今度は、きっちり殺してやるからよ」

 

 ユウヤがそう言い放った瞬間、ガリッと何かを噛み砕くような音がした後、押さえ込んでいたユウヤが一瞬痙攣し、すぐに抵抗していた力が抜けていった。

 

「え……!? し、死んでる!? 一体、何が……」

 

「おそらく口内に毒薬でも仕込んでいたんだろう。暗殺者が自殺のためによく使う手口だ」

 

「! 魔女! おいこれどうするんだよ!? 死んだら終わりなんじゃ無かったのか!?」

 

 いきなり死んだユウヤに、俺はひどく狼狽する。事前打ち合わせでは殺さないことを第一に動くことにしたというのに、これでは全てが水の泡だ。

 だというのに、魔女は全く焦らず余裕の笑みさえ浮かべている。

 

「ふふ、そう焦るなよリュート。お前が時間を稼いでくれたおかげだ。何のための準備時間だったと思っている」

 

 そう言って魔女は白目を剥いたユウヤの額に手を当て、魔法陣を浮かび上がらせながら詠唱を開始した。

 

『『ここにわがうたをささげよう。たからかに、さいせいのうたをうたいあげよう。わがしんめい、さいせいのあくまフェネクスのなのもとにつげる。わがけんのう、むじんさいせいのことわりをもって、しじょうのことわりをいまうちくずさん。このもののいのち、たましいをわがもとに。てんじょうのかみよ、いまかつもくしてみよ。 《 フェネクス・フィシオロゴス 》』』

 

「な……」

 

 俺は彼女が発したこの世のものとは思えない言語に息を呑む。なぜなら、その言葉は……未来の悪魔が発していたものと、同質の響きを持っていたから。

 魔女の指先から極彩色の炎が吹き出し、ユウヤの身体を舐めるように包みこんでいく。

 腕の傷も腹の穴も何事もなく塞がり、青い肌が赤みを取り戻し、止まった鼓動が息を吹き返す。

 

 それは、完全なる()()()()であった。

 

「う……」

 

「お、目を覚ましたようだぞ。いや、上手くいって良かったよ」

 

「は……? なんだ、これ。確かに俺は死んで、死に戻りが……」

 

「発動しなかったのさァ、『ルーパー』ホンダ・ユウヤ。何故なら、私がお前の命を掬い取ってやったのだから」

 

「な……!?」

 

 息を呑むユウヤ。今までチートが発動しなかったことは一度としてなかったのだろう、ひどく狼狽しているように見えた。

 

「ふざけんな! んなバカなことがあるわけねぇだろ! 死んだら死ぬなんて、そんなもん覆しようがねぇ理だろうが!」

 

「それをお前が言うか? 死んでも生き返るお前が、人の死を語るのか?」

 

「ッ……!」

 

 言葉に詰まり、怒りの形相を浮かべるユウヤを見て、魔女は対照的な嗜虐の笑みを浮かべる。

 

「お前がいくら自殺しようと、私がすぐに生き返らせる。ありとあらゆる自死自爆自滅を目論んだところで、全てが無意味なのだよ」

 

「そん、な……! ぐぅっ!? あ"、今度は、何だよ!?」

 

 ユウヤの顔が絶望に染まると同時、バキバキとした異音が奔り、苦悶の声が漏れる。

 俺はユウヤのその姿をら無表情でじっ、と。ただただ見つめていた。

 

「石化の封印だよ。お前達が戦っている間に仕込ませて貰った。これでもう、お前は永遠に目覚めることはできないな」

 

「は、あ"……!? くそ、ガッあ! ぎ、いぃい……!」

 

「ははは! 今の気分はどうだ、『ルーパー』! 最悪の気分ではないか? 今まで頼り切りだった能力に見限られ、石像に成り果てるそのザマは! 私にはひどく痛快に見えるぞッ!!」

 

「で、めェ……!」

 

 ユウヤはもう見るからに限界であった。既に首筋まで石化しており、声を出すのがやっとの有様。

 

「ぶっ、殺ジテやる"ッ……! いつガ、かな"らずっ!!」

 

「あぁ、楽しみにしているさ。……もっとも、その前にお前の魂は地獄に落ちているだろうがな」

 

「あ"あ"あ"ァあ"あぁあ"ッッッ!!!」

 

 そして断末魔の雄叫びを上げながら、『ルーパー』ホンダ・ユウヤは今度こそ完全に沈黙した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戦いが終わった頃には既に日はとっぷりと暮れていて、俺と魔女以外には誰もいない路地裏は月明かりに薄く照らされるだけで、本当に黒々としていた。

 

「どうした。作戦開始時にはあれほどやる気満々な様子だったのに、今はひどく落ち着いているように見える」

 

「そうか?」

 

 そう見えるか。まぁ、一つ大きな事を済ませて気が抜けたというのもある。しかし、俺の胸中にあるのはもっと複雑な感情だった。

 俺はユウヤと、剣を交えて戦った。奴の戦い方はお世辞にも正々堂々とは言えなかったが、それでもその剣には彼の積み重ねてきた研鑽という名の重みがあった。

 あいつと戦ってる間に、俺はきっと戦いを楽しんでいた。互いに命の鎬を削る戦闘の熱が心地よかったのだと思う。最中には気づかなかったけど、全てが終わった今ならそう感じる。

 しかし奴が石の像になる一連の流れで、俺のその熱はすっかり冷めていた。

 別に魔女に不満があったり、胸の内が空っぽになったり、復讐を後悔していたりするわけでもない。

 ただ思考がとても平淡になっただけだ。やるべきことをやりとげたのだと、感慨もなくそう思っただけ。

 そう、戦いが終わったと思った瞬間、何の感慨も浮かばなかったことに気付いたから冷めてしまったのだ。

 もしかしたら、そんな自分はもう、あのルイのような糞みたいな人間の屑になってしまったのではないかと思ったのだ。

 ユウヤの苦しむ姿を見て、愉悦に高笑いする魔女と、嬉しくも楽しくも感じない自分では、徹底的に違う存在なのだと無意識に感じてしまったのだ。

 そんな諸々の色んな思考が絡み合って、頭が少しこんがらがった……というような、何とも要領の得ない気持ちを拠点への帰り道に魔女に話した。

 

「ふむ、なるほどな」

 

『かーっ、面倒くさいのぅウヌは! そんなもんウジウジ考えずにパーっと酒の肴にでもしてしまえば良いのじゃ!』

 

「だがそれにしては冷静だなリュート。以前のお前ならもっと取り乱していたと思うのだが」

 

 騒ぎ立てる未来の悪魔を華麗に無視して魔女が俺に尋ねてくる。確かに、以前の俺ならもっとみっともない様を見せていただろう。だが、今は。

 

「言っただろ。覚悟が決まったんだよ。俺はユウヤのことがそんなに嫌いになれなかった。勿論憎しみはある。殺さなきゃいけないとも思った。でもそれとは別に、こいつは根は良い奴なんだろうな、って思ったのも本当だ」

 

 そして、戦いの前に交わした言葉を思い出す。

 

「『お互い引く気が無いから、殺し合って決着させる』。どんなに後味が悪くても、互いに命をかけて戦った結果としてなら受け入れられる。

 俺は聖人じゃないから、奴らがやったことにどんな理由があっても許せない。分かり合えない。だから殺し合うんだよ。その結果に否やはないさ」

 

 そう言って魔女に向き直る。

 

「あんたに改めて、俺から頼む。これからも、俺の復讐に付き合って欲しい。俺は絶対に……俺の為すべき事を為す!」

 

 今度は、俺の方から魔女に手を差し出す。

 魔女はと言えば、珍しく目を見開いた後、ニヤリといつもの胡散臭い笑顔を浮かべてその手を取った。

 

「いいだろう。ならばお前も、私に最高のショーを見せてくれ。期待しているぞ、悪魔を宿す復讐者」

 

「ああ、後悔はさせない。よろしくな、魔女」

 

 薄暗い夜道を、魔女と復讐者が歩む。互いの道の先にあるのは希望か、はたまた絶望か。それとも……もっと別の何かか。

 それを知るのは、未だ右腕に宿る悪魔のみだった。

 




⚪︎作者の個人的な原作キャラへの印象③
・ユウヤ…パロ元よりちょっと真面目そう。ルイに苦言を呈していたが殺戮そのものには加担していたことから、良識はあるがやることはやるという性格だと思いました。原作で「ルーパー」という二つ名がついていたので、パロ元と違って力を与えたのが「嫉妬⚪︎魔女」ではないため死に戻りに関しては普通に話せるのだと解釈しました。精神衛生上こっちの方が大分楽。能力がキッツイことに変わりはないけど。

⚪︎『ルーパー』殺し編で書きたかったこと
・ベストナインについて……それぞれに活躍をしていただきたかったので、不快感を抱かせないようにキャラ付けしたかった。ただユウヤくんの活躍シーン少なくて本当に申し訳ないとは思ってます。
・「悪魔」の存在……今後この小説で重要になる要素なので今のうちに出しておきたかった。今後も彼らは大事件の中核を担うことになるでしょう。お楽しみにね!
・リュートの復讐に対するスタンス……常人の彼がどのように復讐に向き合おうとするのかを書きたかった。
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