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「お待ちしていました、エミルさん。置いていくなんてひどいですよぉ!」
「....このホテルを変えたことは伝えてないと思うけど?」
「あの場所から徒歩移動となると、このホテルしかないと判断しましたので!それにエミルさんの見張りが私の仕事ですので、あの程度で撒いたと思われるのは少し心外です」
言ってくれんじゃん...しれっと言ってくれるけど、ここはラブホテルだぞ?なんでその考えに行きつくんだよ、失礼だろ。
俺がホテルに着いた時には夕暮れ目前。それなりに急いできたつもりだったが、ミアンダは何食わぬ顔で立っていた。俺の移動速度と考えを読んで先回りをしということ、それも初対面の相手に読まれたことが何より気に食わない。
それが念能力によるものだというのなら納得が出来るが、路地裏で見た時と変わらず今でも纏すら安定していない状態だ。可能性は低いが、発を既に作っているとしてもこんな状態の奴の発に捕捉されたというのは癪だ。
「...それで。俺は普通にホテルに帰るけど、ミアンダはどうすんの?金もコネもねぇのに」
「一緒の部屋でいいじゃないですか、それにここから部屋を取っているホテルまで歩いて帰るとなると夜が明けてしまいます。この際諦めて今日はここで一泊していいのでは?」
こいつ遠回しに俺の移動速度が遅いって言っているのか?
「なら、それでもいいがお前はどうするんだ、まさか従者が主人と同室に泊まると、なんていわんだろう。金も持っていないおまえは、ここで一晩過ごすのか?」
「私はゾルディック家を主人としているのであり、エミルさんの従者ではありませんので。それに、私に課された命令は監視ですのでエミルさんと一晩離れているわけにはいきません。また逃走されては面倒ですので、同室でいいじゃないですか」
こいつ...置いていかれた時は半ベソかいていた癖に、今では毒吐きながらも堂々と意見を言いやがる。生意気なうえに宿泊費すら俺からせびるつもりかよ
「早く入りませんか?入口の前で屯っていては、ここの人に迷惑でしょう。それに、同性なんですから心配することなんてないですよね」
それもバレているのか、いよいよ面倒くさいな。あの爺厄介な見張りを寄越しやがったな。
「.....はぁ。お前にかかる費用は慰謝料を含めて、すべて爺に請求するからな」
「はい。1週間よろしくお願いしますね!」
凄く嫌だが、逃げる手段もない。うまく逃げたところでまた捕捉されるのがオチだろう。
ということで、ミアンダをつれホテルに入る。何が悲しくて、初対面で同室にならなければいけないんだ。
「ところで、エミルさん。路地裏で旦那様と二人そろって消えてたのは、エミルさんの念能力だったんですか?」
「そうだったら?」
部屋に入り、ミアンダにベッドを譲り俺はソファーで寝ることを告げれば、せっかく広いんですから一緒にとか馬鹿なことを言ってきたミアンダを無視してソファーに横になる。
そんな時にミアンダから質問があり、その内容はさっきの通りだ。
「質問を質問で返すのは、礼儀としてどうかと思いますよ...」
お前に礼儀云々で苦言を呈される謂れはないのだが?
ジト目をミアンダに向けるが、ミアンダ自身はそれに気づいていないのか呑気にルームサービスを注文していた。請求額は、この1週間でえげつない額を叩き出すだろうな。
「もしかして、あれがエミルさんの発だったりします?もしそうだったら、詳しい話を聞かせてくださいよ」
俺の視線に気づいたのか、表情をコロコロ変えながら聞いてくる。そんなミアンダに呆れと、少しばかりの哀れみの視線を向けて答える。
「知らないことを知りたがるのはいいが、好奇心は猫を殺すという。
親しい間柄でも念能力に関して聞くのはタブーだ。初見殺しの能力だってあるし、能力の内容を知ることがトリガーになる能力だってある。
相手によってはそのまま殺されても文句は言えないぞ、そんなことも知らないでよくそれで念能力を扱っているな、まずは基本を知ることから始めたらどうだ?」
「いや、私はまだ四大行すらまともに出来てないので、纏やっとですよ。ですので、発なんてとてもとても...」
「は?なんだ、じゃあお前は俺の行動予測は念能力じゃなく、本当に普通の推理だけだったというわけか!?」
「さっきもそういったじゃないですか、エミルさんは読み易いんですよ」
すげぇむかつくわ。なんだ、こいつ...人を煽る天才なんじゃねぇの。
「そういうことで、私に1週間稽古をつけてくださいよぉ」
「嫌だよ、死ねよ。わざわざお前に稽古つけて、俺に何のメリットがあんだよ」
何言っていんだ、こいつ。湧いていんじゃねぇの?
「どうしてそんな顔するんですか!どうせエミルさんもすることないですよね、私は監視エミルさんは指導。もうwin-winな関係じゃないですか!」
「何言っていんだ、お前。頭に虫でも湧いていんのか?」
「どうして!そんなこと!言うんですか!!」
「俺は俺にメリットのあることしかしねぇんだよ、お目の面倒見て俺にメリットが発生するのかよ」
ここまで言えば返す言葉が無くなったのか、涙を目に浮かべながらジト目で睨み俺のケータイ電話を片手に部屋を飛び出した。俺のケータイなんだが?
それから2.3分の後に出ていった時とは違い、輝かんばかりの笑顔で戻ってきた。そして俺のケータイを差してくる、画面には通話中の文字。
嫌な予感がするし、こういう時のはよく当たるんだよな...
「もしもし」
『俺だ』
「誰だよ」
『シルバ=ゾルディックだ』
「知っている」
ほらなーそんなこったろーと思いましたよ。というか、こいつ本当に冗談が通じないな。
声色も一定で抑揚もない、おかげでどういう心境なのかもわからない。
表情があれば少しは考えが分かるのに、ミアンダが勝ち誇った表情をしているから大体は読める。それにしてもこいつは本当に、ゾルディック家の執事なのかよ。
『ならば、最初から察せ。先に用件だけ言う、だから口をはさむなよ』
流石、俺の性格をよく知っている。相手がシルバだというのも爺だと俺がまともに相手をしないってのを分かっていたからだろう。
シルバに釘を刺されたため無言を返事として、続きを促す。
『1週間ミアンダに稽古をつけてくれ。
お前が気に入れば、その後も付き人として好きに使って構わない。お前は戦闘能力系の念能力がない、それに対しミアンダは戦闘能力さらには技術も優れ、潜在能力も高いだろう。お前の護衛にも適していると言っていいだろう、自爆しか能がないお前よりは戦えるはずだ』
「なぁ、シルバ。腹割って話せよ。それだけじゃねぇだろうよ、本当にそれだけならそっちで育てればいいじゃんかよ。ツボネがいるんだ、教育者がいないわけでも無いだろ。どんな爆弾を抱えているんだよ」
『ミアンダは?エミル、お前ひとりか?』
シルバの反応を察し、ミアンダに退室を促す。退室を確認すれば円で離れたことも確認しておく。それを伝えればシルバが続きを話し出す。
『ミアンダは、既にツボネの教育を受けた後だ。それでも感情の制御がうまく出来ていない、それのせいかオーラの制御も安定していない。
お前もミアンダの纏を見たことあるなら、分かるはずだ。オーラの質、量は言うこともないが制御が未熟。今は我が家に忠誠を誓っているが、今の状態から既にイルミの針すら刺さらない。
それの制御が安定していき、忠誠が失われた場合は非常に厄介な敵になる。失われる前にある一定以上の熟練度を身に付けさせ、感情の制御が出来るようになればそれでいい。
その後はイルミの針を刺すのも、エミルが護衛として付き人として用いるのもいいだろう。』
...そういえば、三男が才能の塊だっていう話を自慢げに聞かされたな。純粋な暗殺者に育てる為にも、可能な限り不安材料を取り除きたいってことか。
ミアンダの考えはまだまだ幼稚で性格上、納得できないことは意地でも納得しないはず。イルミは暗殺者に友達は必要ないと素で言うような奴だ、対立すれば厄介なのは確かだろう。
明らかに貧乏くじを引いたな、こうなることが分かって爺はミアンダを置いていったはずだ。断ることはできるだろうが、俺にここまで話したということは断らせる気がないのと一緒か...
「金とるぞ。ミアンダの滞在費、雑用品から日常品。嗜好品に食料費に至るまですべて、計上するのが面倒だがな」
『契約完了、でいいんだな』
「取り敢えず1週間な。ミアンダの出来次第で、付き人として貰うかそっちに返すか考えるさ」
『良いだろう。返事は食事会の時に聞こう、1週間の契約も色を付けて1千万でどうだ?』
「異論はねぇよ」
その後は他愛のない会話をして電話を切られた。
あまり他所の家の問題にまで首を突っ込みたくはないのだが、先の話を聞く限りミアンダには出生に関しての問題があること。ミアンダ自身に自由は残されていないことか。
代金をもらう限り、手抜きはしない。順当にいけば1週間後には、イルミによって自我を殺されるだろうな。
はぁぁぁぁ...厄介ごとしか持ってこねぇわ、クソ。クソクソのクソだ。
「エミルさーん!もう入っていいですかー!」
ミアンダの声が聞こえた。ミアンダは既に扉の向こう側にいるようで、自己嫌悪のせいで円の制御が崩れていたようだ。
「あぁ、もう入っていいぞ」
「はーい」
入ってきたミアンダは笑顔で、退室した時と同じ勝ち誇った表情を崩す気はないようだ。
「どうでしたか?旦那様からも、私に稽古をつけるよう言われたでしょ」
人の気も知らないで笑顔で居続けるミアンダに対し、不思議と苛立ちは無く憐みの視線を向けていた。全然不思議じゃねぇや
「その視線が気に入りませんけどぉ、どうだったんですか」
「お前の思った通りだよ、稽古は明日から始める。今日のところは念の説明を避けるための方便として存在する【燃】の四大行を教えてやる。
これは意志を強くする過程として説明される奴で、【点】で目標を定め、【舌】で目標を言葉にし、【錬】でその意志を高め、【発】で実際の行動に移すというものだ。
錬(意志)で勝れば実行に移さずとも人を圧倒できると言われている。
お前の場合は、こっちを優先しろ。そうすれば纏の制御も気持ち安定するだろうよ」
これは念を使用するために必要な心構えも表しており、【燃の修行】として自己を見つめ直すことで、念の精度を格段に上昇させることが出来る。
俺自身も昔やっていたが、面倒になったこともあり制約を増やし無理やり能力を強化した。
「目標と言われても、これっぽっちも思い浮かばないのですけど」
そう言いながら、ベッドに腰を下ろして考える素振りを始めた。そんなミアンダを見て、ケータイを放り投げてソファーに横なった。
「そんなもん知るかよ。ふと思い浮かんだことだとか、これから先自分がどうしたいかとか考えたらいいさ」
「んー...なりたいことでも、良いんですかね?」
「そこは自分が決めていいだろ、自分がこうなりたいってのも立派な目標だろうさ。それだったら何か思い浮かんだのか?」
気配感じ、ミアンダに視線を向ければミアンダもこちらに視線を向けており、さっきまで見せていた悩む素振りやめて、表情には笑みが戻っていた。
「自由になりたい。自分で選んで決めて、自分の力で生きてみたい!」
「......それ、って」
「はい。私は一応執事です、それもゾルディック家のです。ですので、目標にするには少し難しいかもしれませんね。でも、まあ、何と言いますか...エミルさんでもある程度自由に生きているんですから、私でも出来るかなぁって思ってみたり?ですかね」
途中に悲しそうな表情になりはしたが、基本的に笑いながらそう告げたミアンダに少し恐怖を抱いた。
こいつ...シルバとの電話中は、円の集中を途切れさせることはなかった。つまりは会話を聞かれてはいない、勘が鋭いのか或いは気付いていたのか。
「エミルさん」
「なんだ」
言葉に詰まった俺に対し、ミアンダは更に続けた。
「エミルさんは何でも売ってくれるのですよね?」
「あぁ」
「【自由】も、売っていますか?」
いままで、俺は————
病気を治すために薬を。
敵を殺すために薬を。
貧者を救うために国を。
貧者を殺すために国を。
空腹を満たすために食料を。
飢えを蔓延らせるために食料を。
復讐を果たすために武器を。
復讐を抱かせるために武器を。
————ウッテキタ。
その時から、シルバに対しての答えは決まっていたんだと思う。
「お前が希むというなら、手伝うことは出来る。」
俺の答えに、目を丸くさせ心の底から驚いたと言わんばかりの表情をするミアンダに、俺は努めて冷静に言葉続けた。
「売るには少し値が張りすぎるし、真に自由をやるにはまだ時間がかかる。
執事を辞めて、俺の付き人にならないか」
気付けば、こんな重たい話になってました。
何がどうなってこういうことになったんだろうか?
念能力もプロット段階ではこんな面倒な能力じゃなかったのに...
エミルさんの友達はシルバ、ミルキ、旅団メンバー、パリストン、ジンです。
嫌いな人はキキョウ、チードル。
ミザイストムとは仲が悪いみたいです。
なにをしたんでしょうね