初日以降は、特にこれといった問題が起こることなく稽古は進んでいった。途中からは上手く旅団メンバーを口車に乗せて、ミアンダの育成に協力して貰っていたが仕事が済んだら散り散りになった為、クロロだけは強制で手伝わせた。
そんなこんなで約束していた1週間が経ち、ゾルディック家との会食の日になった。ミアンダはクロロに見させておき、俺一人で参加になったのだが恙無く会食を終えた。
シルバには契約金を貰い、護衛にはまだ力不足のため付き人として貰い受けることを伝えれば一言そうかとの承認を貰った。その後はシルバの三男坊のキルアの紹介を受けて、可愛げの無いガキだなと、正直に口に出せばゴトーに睨まれる結果になった。因みにその事はちゃんとツボネさんに密告した、客人にこの対応は如何なものかと言えばゴトーは顔を青くしており少しだけ気晴らしになった。
キキョウとも話をしたが特に話が盛り上がることは無かったが、久しぶりに会ったミルキとは大いに盛り上がった。
それは会食も終盤に差し掛かり、各々が身支度をしていた際のこと。
「エミル、親父に売った爆弾だが結構派手に爆発したそうじゃないか」
「そうなん?俺自身、使えねぇから効果を知らなったんだ。何か写真とか残ってないのか?」
エミル自身制約によって使うことが出来ない、そのことを知っているミルキは数日前の新聞をエミルに差し出し、爆発事故の記事が載っている頁を開いて見せた。
「ここに載っている記事だよ。記事には事故と書かれているけど、実際は親父が事故に見せかけて殺したんだ。爆発はエミルが売った爆弾のモノだけどな、爆発規模は周囲5㎞。ターゲットは、ほぼ爆心地にいて即死だったらしいぜ。ターゲットの他にも、一緒にいた人間や周囲にいた人間を巻き込んだせいで、死者はざっと100人を超すらしいからな」
新聞の内容はミルキのほぼ説明通りで、事件でなく事故になっていることの他は遜色なかった。エミルにとっては小型化してた割には、爆発はそれなりだなという感想しかなく、自分が売ったモノのせいで無関係だった人が死んだことに対しては特に何も思うことは無かった。
「そういえば、エミル。お前の客の中に、『グリードアイランド』って名前のゲームを買いに来た奴がいなかったか?」
「...ゲーム?そういえば、何ヵ月か前に買いたいって男が来たな」
突然のミルキの問いに驚いたエミルだったが、確かにいた気がすることを思い出す。しかし、その男は金が足りなかった為にエミルにとっては客ではなくなった。その結果は、男を含め30人近くが死ぬことになった。エミルにしてみれば金は入らない上に、合言葉を変えることにもなりいい迷惑でしかなかったのだが。
「なんだ、そのゲームが欲しいのか?」
「俺ですら持っていないゲームだからな、ゲーム史上最高値の58億Jで限定100本のみ販売されたんだ。発売当時、定価58億で現金一括払いのみに関わらず約2万もの注文があったらしい。最近、俺も欲しいと思ったんだが、発売当時じゃ俺は赤ん坊だぜ?買える訳がなかったんだ」
その後も熱心にゲームについて説明しているが、特に魅力を感じることは無く聞き役に専念する。ミルキの様子で、俺から買いたいと言い出すことが分かったので前に買いに来た男の末路を教えてあげた。結果的に顔を渋くしてお前からは買わねぇわ、と言われた。
その後は、最近やっているゲームや発明品について話をするだけで特筆すべきことは無く、そのまま会食も終わった。ゾルディック家一行を見送り、ホテルで自分の私物を回収して、クロロ達がいる廃墟ビルに向かう途中事件は起こった。
「やあ、エミル!久しぶりじゃないか」
「人違いです」
ホテルを出れば目の前に車が止まる。車を見れば誰が出てくるのか察しがついていたエミルは露骨に顔を顰めた。中から出てきたのは察しのとおりの人物で、自分の運の無さを嘆いた。
降りてきたのは、派手なスーツで身を包み爽やかな笑顔を顔に貼り付けている好青年。ハンター協会の副会長で十二支んの一人、パリストン=ヒルだった。
「またまたー!そんなこと言って良いんですかー?そんなことより、先週はどうして無視したんです?貴女のことだから、ちゃんと気づいていたんでしょー?」
人違いのフリをしても無視してのマシンガントーク、付き合いは長くお互いに友達、もしくは相互利用関係だと思っているが、これをされては普通にウザい。
「お前しつこいんだよ、お前の相手をするときはすごく暇で死ぬかもしれないと思ったときだけって決めてんだよ」
「え、でしたら今暇でしょう?弟子の稽古は、他の人に丸投げしているんですから。今日はお願いがあって来たんですよ、僕はエミルと違って忙しいのにその合間を練って会いに来た程ですから」
爽やか笑顔でクソのような煽りを続けるパリストンに対し、苛立ちを隠す素振りを見せず舌打ちと貧乏揺すりを以って対応をする。
「で、その忙しい忙しい反会長派閥の副会長さんは、どういった用件で?」
「そう邪険しないで下さいよー、電話しても無視して掛けなおすという文化を知らないエミルさんの為に態々直接会いに来たんですよ?お茶の一つくらいもてなして良いんですよ」
「ちっ...俺の荷物車に入れろよ、近くに良い店がある」
俺が折れたことを確信したパリストンは、俺から荷物を預かり車に放る。特に割れ物等は入っていないが、人の荷物を考える素振りなく放ったパリストンに対し苛立ちは募るばかりだった。
パリストンを伴い喫茶店に入店する。選んだ席は入り口から遠く道路に面した窓側の席、さらにその席の窓側にパリストンを座らせる。
「えーっと、一応僕って用心扱いされるべきなんですけど、そこの所どう考えてます?」
「殺されてしまえばいいと思う。すみませーん、アイスコーヒー1つ下さい」
「アイスコーヒー2つでー!さらっと自分の分だけしか頼まないのも相変わらずですね...」
「え、飲むの?お茶がいいとか言ってたくせに?」
ここぞとばかりに煽り返せば、長文を使って煽り返してくる声をBGMにしてアイスコーヒーの到着を待つ。アイスコーヒーが到着してからも、まだ喋り続けているパリストンを見ながら早く狙撃されてしまえばいいと思う。
「で、そろそろ要件を言えよ」
「エミルの名前を使って、ハンター試験の参加に申し込んだので合格してきてください」
「今すぐ死ね」
爽やかな笑顔のパリストンに、こちらも全力で笑顔を作って対応してあげた。
その後は会長が云々、チードルが云々と愚痴を言い出したのでこれまた聞き役に専念しておいた。愚痴すらも爽やかな笑顔を保ったまま言っていた。その間は、こいつの表情筋すごいなぁ、その内あご付近の筋肉がすごい発達の仕方しそうだなとかくだらないことを考えていた。言いたいことは言い切ったのか、伝票を片手にパリストンが帰ることを告げ、俺の荷物は廃墟ビルに先に届けておくよう答えて解散した。
「遅かったな」
廃墟ビルに到着し、荷物を抱えてビル内に戻れば本を片手にミアンダを鍛えていたクロロが出迎えてくれる。厄介な人間に厄介なことをされたことを、掻い摘んで説明すれば丁度いい機会だとミアンダと共に受けて来るよう薦められた。ミアンダにも受けるか聞けば、持っているだけで自由の幅が広がると喜んだ為、受けるのはほぼ確定次項だろう。
「あれ...なークロロ、今って何日だっけ?」
「ん?12月28日だろう?」
「おい、ミアンダ!へばってねぇで試験登録に行きやがれ!」
クロロとの稽古でバテて床に伏していたミアンダを蹴り起こし、外に蹴り出す。返事をする元気すら残っていなかったミアンダに、金の入った財布を投げつけ登録が済んだら飯を買ってくるよう言いつけて扉を閉めた。扉の外から小さくすすり泣く声が聞こえるが無視だ、甘やかしたら育つものも育たたない。
「少しは休ませてやってよかったんじゃないか?」
「時間制限は設けてないだろ、疲れたら勝手に休むさ」
俺の答えに納得したクロロは、再び視線を本に戻して読書を続けた。
ミアンダが戻ってきたのはそれから2時間後で、案の定ファストフードで休憩という体でサボっていたようだ。1時間程度ならば仏の心で見逃すつもりだったが、2時間は許せんよなぁ...
その日、ミアンダの睡眠時間は無くなった。
そして、時が流れ試験まであと数日になった日
「じゃあ、俺は行くぞ」
「おーありがとな、約束はしっかり守るよ」
「あぁ、そうしてくれ。ミアンダを鍛えろ、なんて最初言われたときはお前の頭がどうにかしたのかと思ったが、案外悪くなかったな」
「一番上達したのが家事スキルだったけどな」
俺の言う通り、ミアンダが一番上達したのは家事スキルだ。途中からサバン市にあるホテルに拠点を移した。その時から、俺とクロロは一切の家事をしない為、ミアンダが行うことを余儀なくされた。掃除に関してはゴミをそのままにして、土を落とさずに歩き回る。洗濯物は脱いだらそのまま、料理に関しては味にうるさい。こういった環境でミアンダはメキメキと実力を伸ばしていったのだ。
現在もミアンダは家事に勤しんでいる。
「それじゃあ、9月1日にヨークシンで会おう」
そう言い残してクロロは去っていった。
「ミアンダ、そろそろ俺たちも会場までいくぞ」
「場所は分かっているんですか?クロロさんに聞いた話だと、試験会場にたどり着くのも試験の一つだって聞きましたけど」
「あぁ、イルミが既に会場についたらしい。場所は俺にメールで届いているから問題ねぇよ」
顔合わせの後から、ゾルディック家の執事を通してちょくちょく交流があり、試験会場に関しては連絡をくれるように頼んでいた。
「イルミ様ってどこか信用できない感じがありますよね、その情報は正しいんですか?」
「お前って本当に元使用人なの?ヒソカからも同じ情報が来てるから間違いねぇよ、問題があるとするなら場所が地下だってことだな」
「地下ってことは、エミルさん大丈夫なんですか?」
そう地下だ。地下に行くには専用の手段を使う必要がある、ヒソカやイルミはエレベーターを使用したらしい。ミアンダが言うように、制約でエレベーターを使用することは難しいだろう。試したことはないが、同じような制約を持った人間がエスカレーターを使用して死んだ話は聞いているので、俺もアウトだろう。サバン市にはクロロの持っていた念能力を使って来たが、今回は既に別れている。
「まぁ、何とかなるだろう」
ミアンダは微妙な顔をしているが、ダメならダメでやりようがある。その時になれば何とかなるはずと、ミアンダに告げてイルミらが指定した定食屋に入る。合言葉を告げれば奥の部屋に通された、この部屋がエレベーターを兼ねているのだろう。
「ミアンダ離れてろよ、っとな!」
通された部屋に入る前に、ミアンダを離しておき部屋の床を殴りつけて人が一人通れるサイズの穴をあける。殴った拍子で下に落ちていかないか不安だったが、どうやら杞憂の様で安心した。
「え?バカだとは思ってましたけど、エミルさんって底なしのバカだったりします?」
「安心しろ、お前よりは優れている。俺は先に行くけど、お前は店主に謝罪してエレベーターを使って降りて来いよ」
そう言い残し、呆けている店員と怒鳴り込んでいる店主を無視すれば、後始末をミアンダに任せて飛び降りた。
しばらく浮遊感を味わっていれば、光が見えたので光に向かって飛び蹴りを放つ。扉はひしゃげ前方に飛んでいったが、無事着地も成功し無傷で会場に到着した。
「て、てめぇ!なんて登場の仕方をしやがる!」
扉の下敷きにならずに済んだのか、巻き込まれなかった受験者と思われる男が叫んでくる。その方向に視線を向ければ、巻き込まれた人間がいたようで扉の下からは赤い液体が溜まっていた。
「受験者です、プレート下さい」
「あ、はい。これは受験資格にもなっているので見える位置につけておいてくださいね」
エレベーターの出口付近にいた緑の小男に話しかけ、プレートを貰うことが出来たため胸の位置につけミアンダの到着を待つ。
「無視してんじゃねぇぞ!ガキが殺すぞ!」
待っている最中にも、最初叫んできた男が絡んできていたが当然の無視をしていた。とうとう堪忍袋に限界が来たのか、俺の胸倉を掴み唾を飛ばしながら叫んできた。そのタイミングでミアンダを乗せたエレベーターが到着し、何とも言えないほど疲れた様子のミアンダと目が合いため息をつかれた。
「上の方まで声が聞こえていましたよ、どうせエミルさんが悪いんでしょ?早く謝ってあげたらどうです?」
「勝手に悪者扱いするんじゃねぇよ、さっさとプレート貰って胸につけてろ」
「その状況からしても、エミルさんが何かしない限りどうやってもそうはならないでしょ。あ、プレート下さい...ありがとうございます。」
「いいから此奴どうにかしろよ、お前の仕事だろ?」
「勝手に仕事増やさないで下さいよ。うわ、こっち見た」
到着したばかりのミアンダと会話しながらも、ミアンダはプレートを貰い胸につけた。その最中にも当然胸倉は掴まれたままだし、ミアンダに話を振れば俺の仲間だと勘違いを起こしてミアンダにも吠えている。俺を掴んだままで。
「えー...あのぉ、何か勘違いしてますけど、私別にその人の仲間じゃないですよ。あぁ...聞いちゃあいないよねぇ、知ってたよ。知ってたけどぉ...」
どうにかミアンダが説得を試みようとしたが、相手はキレていて会話が成立しない。今も胸倉を掴んでいる手には力が籠もり、顔を赤くしているのだから当然ブチギレている。
「はははははっ!無様だなぁ!ここまでキレてる奴と会話が出来るわけねぇだろ」
「怒らせたのって現在進行形でエミルさんですよね?私は悪くないですよね?」
それでも、無視していたらとうとう服の方が限界を迎えているのか、異音を立て始めたため対応することにした。
「そんなに力を籠めては、服が破れるだろう?」
「て、てめぇ!やっと対応したと「だから、死んでくれよ」おも、ったら...」
叫んでいた男の力が抜けていき、男は覆い被さるように倒れてくる前にミアンダによって壁まで蹴り飛ばされた。
「あぁあ、また巻き込まれた人がでたぞ。お前のせいで」
「エミルさんが最初から対処していればよかったのでは?」
見れば、何人か巻き込まれていたが先ほどまでの流れを見ていたのだから、誰も文句を言ってくる様子はなかった。1名を除いては...
「やあ、エミル♡見ていたよ、災難だったね♢」
「見てたんなら、お前が対応しろよ。そうじゃないなら出てくんなや」
その男の見た目は奇術師、中身は変態のヒソカだ。付き合いはそこそこで、客として来たことは一度もない。戦闘狂のくせにこういう時に一切役に立たないなんて、役立たずもいいところだろう。突然の登場に、嫌悪感Maxのミアンダはヒソカから距離を取り俺の後ろに隠れた。
「そういうなよ...♧ 君の付き人の実力を見ておきたくてね♤」
「で、評価は?」
「まだまだ未熟♡ 明らかに実践が足りてないよ、抜き手や蹴りは見事だったけどね♧」
ヒソカのコメントを聞いて、あからさまに嬉しそうな表情をして肩パンしてくるミアンダに腹パンで黙らせておく。
「あっそ。そうだ、どういう試験かわからないけど、移動系があったらお前の能力で運んでくれよ。そっちが俺は楽だから」
「いいけど...♢君の付き人まで運べとは言わないよね?♤」
「まさか、己の力以外で合格しても意味ないだろ?」
「...君が言うのか♧」
未だに蹲っているミアンダすらも非難の視線を向けてくるが、尻を蹴り上げて立たせてやるれば目に薄く涙を浮かべて睨みつけてくる。
「そんな目で見んなよ、ミアンダ。試験が終わった後の稽古を、ウボォーに付きっ切りにしてやってもいいんだぞ」
「お、鬼見たいな人ですね...クロロさんがどれだけ良心的だったのか、今になって身に染みていますよ」
「仲が良いね君たち♡」
ジリリリリリリリリリリリ
ヒソカに文句の一つでも言おうと思い向き合った瞬間、アラーム音が響きわたった。音の鳴る方を見れば、一人の男性が立っており纏うオーラを見ればよく洗練されている。彼が今回の試験官を務めるプロハンターだろう。
「ただいまをもって、受付時間を終了いたします。では、これよりハンター試験を開始いたします」
彼はそう宣言したと思えば、ふわりと地面に降り立った。彼はそのまま先導するように歩き出した。
「さて、一応確認いたしますが、ハンター試験は大変厳しいものであり運が悪かったり、実力が乏しかった場合はケガや死ぬ可能性があります。先程のように受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます」
「言われてっぞミアンダ」
「エミルさんのことですよ、きっと」
この時だけわずかに振り返った試験官の言葉に同調して、ミアンダにケチをつけるがミアンダの考えも同じだったようで、互いに言い合う形になったためヒソカがにやけながら此方を見ているのが視界に入る。
「それでも構わない——————という方のみ、付いて来てください」
その言葉で、生きている人間全員が試験官に続き歩き出した。
「承知しました。一次試験398名全員参加ですね」
「ミアンダ、これが一次試験。お前の求める自由への第一歩だ、気合入れて行けよ」
「もちろんです、エミルさんを見殺しにしてでも合格します」
クソかよ。
「申し遅れましたが、私一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」
試験官ことサトツの言葉に前の方を走る受験者が話しかけている声が聞こえる。
「二次...?ってことは一次は?」
「もう始まっているのでございます。二次試験会場まで、私についてくること。これが一次試験でございます」
さーて、面白くなくなってきたぜ...
「ヒソカ」
「もうかい?♢」
「疲れるのは嫌」
「オーケィ♡【伸縮自在の愛】」
一次試験
試験官(サトツ)に最後までついて来ること。
場所や到着時刻を知ることは出来ず、ただついていくこと。
エミル 388
ミアンダ 389