【連載版】えとろふびより ―艦娘社会更生法―   作:山の漁り火

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お世話になります。
こちらは以前に短編で投稿した「えとろふびより」の連載版となります。
(短編とは設定を微妙に変えています)

前作である「ナナカン」とは世界観は別になります。
シリアスは過去に置いてきたので、基本的にはほのぼのです。たぶん。

のんびりと書いていくので、よろしくお願いします。


プロローグ

 ――艦娘(かんむす)社会更生法。

 

 それは“深海棲艦”との戦いにて開発された生体兵器“艦娘(かんむす)”を退役させて人権を与え、平和な人間社会へと溶け込ませる為の法律。

 

 自立的に人間社会への進出を望めない、または難しい艦娘――主に一部の駆逐艦娘および海防艦娘の為に成立したこの法律が施行されて、まだ半年余り――

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――夜勤明けの朝日は目に染みる。

 

 初夏の日の出の太陽の眩しさと熱さを感じながら、俺は少々年季の入ったマンションの階段を一段ずつ昇っていく。

 疲れた足取りで辿り着いたのは、俺が勤める警備会社の待機室。マンションの一室を借りたそこは、警備員の待機室と事務員の事務室として使用されている。

 

「戻りましたー……っと」

 

 俺が待機室に入ると、既にそこには先客がいた。

 

「おお、お疲れさん。今日の仕事は大変だったろ?」

 

 煙草をぷかりと吹かしながら、そう言ってからからと笑うのは先輩の山田さんだ。

 年齢は50代半ばのおじさんで、警備員歴としては既に十五年以上のベテラン。この会社に勤め始めたのは五年前かららしいが、新人指導から厄介な仕事まで色々とこなせる便利屋として、社長や事務員さんにも重宝されているお人である。

 

「ええ、大変でしたよ。深夜なのに交通量は多いし……」

 

 そう言って、先ほどまで行っていた現場を思い返す。

 俺が今日――いや、昨晩から行っていたのは住宅地から少しだけ離れた道路の工事現場。

 そこでの交通整理の仕事だったが、深夜になっても車が引っ切り無しにやって来て、その対処でだいぶくたびれる羽目になってしまった。

 割と細い道なので誘導もかなり大変だった。

 

「あの道はなあ、県道から国道への抜け道なんだよ。地元民はよく知ってるから通勤やら買い物やらで使いたがるし、ちょっと詳しいタクシーの運ちゃんやらはまず通るしなあ。しかも昨日は金曜ときたもんだ」

「……なるほど」

 

 白髪交じりの頭を掻きつつ煙を燻らせる山田さんの話に相槌を打ちながら、俺は事務室へと向かい、机の上のペン立てからボールペンを借りる。

 

 ――そういや「早く行かせろっ!」と俺に怒鳴りつけてきた、厳つい車に乗ったヤンキー風のあの男も地元民だったのだろうか。

 

 少し嫌な記憶を思い出しながら、俺は業務の報告書を拙速に書き上げて事務室の机の上に置く。ボールペンもペン立てに戻して、これで本日の仕事は終了だ。

 事務員さんはまだ早朝なので出勤しておらず、代わりに部屋の鍵を預かっている山田さんがいたという次第である。

 もう少し遅ければ、出勤してきた事務員さんに口述で報告書を書いて貰う事も出来たのだが……まあ、書くこと自体はそれ程の手間でも無いので別に構わない。

 

「んじゃ、これで帰ります。山田さんは、これからどこの現場ですか?」

「おお、お疲れ。俺は、あれだ。スーパーワカミヤの駐車場警備だってよ」

「ああ、あの新しく出来た……そりゃまた大変そうですね。頑張ってください」

「まあな、今は遠山と渡部さん待ちよ。んじゃお前もしっかり休めよ。最近暑くなってきてるからな」

 

 遠山さんと渡部さんか……どうやらうちのベテラン三人で向かうらしい。

 この辺りでは有名なチェーン店“スーパーワカミヤ”は本日十時に新しい店舗が開店し、それを記念した割引セールのチラシもかなり大規模に配っていたはずだ。

 遠方からも客が押し寄せて大混雑するであろう駐車場の光景を想像し、山田さん達の健闘を祈りながら俺は待機室を出た。

 山田さんは俺に手を振りつつ、新しい煙草に火を点けていた。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 最寄りのコンビニでおにぎりと菓子パンとお茶だけの簡単な朝食を買い、俺は愛しき我が家であるボロアパートの一室へと帰宅した。

 

「足痛え……」

 

 痛む右ひざの()()を撫でながら、汗と埃で汚れた衣服をざっくばらんに脱ぎ捨て、洗濯籠へと放り込む。

 

「眠い……でもシャワー位は浴びとくか」

 

 風呂場には小さいものの浴槽があるが、疲れた体で今から風呂を用意するのは面倒だった。

 シャワーだけ軽く浴びて多少なりとも身綺麗にし、干した後ハンガーに掛けっ放しだったよれよれのシャツとトランクスに着替える。

 

「……いただきます」

 

 経年劣化で色褪せた畳の上にどっかと座り、小さなテーブルの上に置いた朝食のおにぎりにもしゃりと(かぶ)り付く。

 

「………」

 

 無言で昆布の具のおにぎりを丸ごと口に含んだ後は、クリームパンの入った袋を破いて中からパンを取り出し、その合間にお茶を飲み口中に残った飯を胃へと流し込んでいく。

 続いてクリームパンを頬張って再びお茶を流し込むという、流れ作業を繰り返す。

 一人きりの実に味気ない食事だが、腹だけは満たされていく。

 外には車の走る音と、それに紛れて子供たちの声も聞こえてくる。

 今日は土曜なので、平日程の騒がしさではないが……みんな朝からお元気な事で。

 

「ふぁあ……寝るか」

 

 そして腹が満たされると、急激な眠気が襲ってきた。シャワーを浴びて多少は寝覚めた俺の体も、本能である睡眠欲求には勝てないようだ。

 テーブルの上に散らばった朝食のゴミや、昨晩仕事に出る前に食べた夕食のゴミを片付けるのもめんどくさい。

 ……起きたらやろう。

 

 

 ――そういや、こないだ()()から手紙が届いていたな……封を開けてないや……

 

 ――そうだ、実家に今月分を振り込まないと……

 

 

 他にも色々と考えなければならない事は山ほどあるが、とりあえず今は兎にも角にも眠い。

 

 よし、寝よう。

 

 

 ――こうして俺は薄汚れた敷布団にばたりと倒れこむと、すぐさま深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 ――そんなくたびれた彼が穏やかな眠りについた頃。

 

「ええっと……コーポ五十六(イソロク)は……こっちでしょうか……」

 

 一人の幼い少女が、地図を片手に住宅街を彷徨っていた。

 

 

 

 ――青年と少女が出会うまで、あと四時間。

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