【連載版】えとろふびより ―艦娘社会更生法― 作:山の漁り火
「……なるほどな」
長い択捉の話を聞き終えた俺は、背筋をぐっと伸ばしながらそう呟く。
俺達が座る
*
――馴染みの食堂で昼食を終え、おかみさんにも「また来てね」と手を振られながら店を出た俺たちが辿り着いたのは、近くの公園だった。
公園入口に設置されていた自販機で俺と択捉の分の飲み物を買い、何組かの親子連れが遊ぶ公園へと足を踏み入れる。
園内には小さな池と、その傍にはゆっくりと腰を落ち着けられる
その四阿へとやって来た俺たちは、テーブルに向かい合わせになる形で椅子に座った。
そして俺は缶コーヒーを開封して、まずは一息に飲み。
「――さて、
俺は択捉にここにやって来た事情を聞くことにした。
……流石におかみさん達がいる食堂で話すのは気が引けたしな。
物珍し気に缶ジュースを両の掌で転がしていた択捉は、俺のその言葉を受けすぐさま
「はい。それではお話しします――」
こうして目の前の少女は語り始めた。
*
――
正式法令名は『艦娘等の日常生活と社会生活の支援及び更生手続に関する法律』。
長ったらしいが、要するに「引退した艦娘を色々と支援しますよ」という法律だ。
この法律について語るには、まずは人類と深海棲艦との戦いの話をする必要がある。
*
――今を
太平洋や大西洋にて原因不明の遭難や海難事故が多発した事で、海に面する各国はその原因を突き止めるべく調査を開始。
彼らはやがて謎の敵性存在に気付くことになった。
――人類に敵対し、群れを成して人類の艦船や港湾施設を襲撃すること。
――旧世代の艦船を模した武装や艦載機らしき装備を持ち、それらが小型ながら凄まじい破壊力であること。
――現代の兵器による攻撃では、有効なダメージが与え辛いこと。
数年の調査により判明したのはたったそれだけであったが、その敵性存在は国連の会議にて“深海棲艦”と呼称される事になる。
こちらからの問い掛けには一切応答せず、無差別に船舶を襲う深海棲艦。各国がその対応について協議を重ねるも、その間にも船舶の被害は増えるばかり。
深海棲艦に襲われた大型タンカーの爆発炎上という悲惨な事件が起こった事で、悠長な会議を続けてはいられなくなった各国は、本格的に軍を出動させる。
こうして深海棲艦との長い戦いが始まるのだが……現代兵器による攻撃が効きづらい事や、彼らが神出鬼没である事も相まってその殲滅には至らず、双方膠着状態のまま約十年が過ぎ去った。
その一方で官民問わず船舶に被害は出ていたが、それでもまだ許容範囲には収まっていたのだ。
風向きが変わったのは五年前。月当たりの深海棲艦の出現報告数が、この年に入り一気に増大した。
それも一カ所だけでなく、世界的にである。
急増する船舶の被害に、各国の海軍は慌てて戦力を増強するも、流れはそう簡単には変わらず。
投入できる人類側の戦力にも限界があり、海運の最重要拠点であるスエズ・パナマ運河や港湾都市を重点的に守る方針へと変わったことで、海を自在に闊歩する深海棲艦はますます勢いづく。
深海棲艦による被害は指数関数的に増え続け、深海棲艦の群れが
物流は途絶えがちになり、物価は際限なく上がる。
石油や天然ガスが思う様に届かず、電力や燃料といったインフラが一時的に途絶える国も現れ始めた。
そして現状に不安を覚えた民衆によるデモが起き、都市の治安も悪化していく――
こうして世界は深海棲艦により、衰退の危機を迎えたのだ。
そんな状況下で現れたのが、我が国の海軍が生み出した生体兵器――“
旧世代の艦船の主砲や魚雷発射管を模した武装――“艤装”を纏った
その艤装による攻撃は、深海棲艦に対し非常に有効であった。
海軍の総力を挙げて開発されたとされる彼女たちは、深海棲艦に対する切り札として太平洋の各地へと部隊単位で派遣され、深海棲艦と壮絶な戦いを繰り広げた。
その後ドイツやイタリアやイギリス……そして米国にも我が国から技術提供が行われ、艦娘は世界各地で誕生していく。
七つの海を取り戻すべく、誕生した艦娘は矢継ぎ早に激戦地へと投入されていった。
――こうして人類による反抗作戦が始まった。
そして約一年半前に太平洋上で行われた多国籍軍と深海棲艦との一大決戦――“オペレーション・ゼロ”。
決戦の為に世界各地から集結した精鋭の艦娘たちは、深海棲艦の
司令塔を喪った深海棲艦は、同時にその統制を喪った。
残された深海棲艦の群れは、海軍と艦娘に追撃を受けつつ四方八方に散り散りとなっていった。
――こうして戦いは終わった。終わってしまったのだ。