眼を覚ましたアキラとギンガは中島家にいた家族に自己紹介をする。当然いろいろ難しいことを言っても理解できるわけではないので簡単に別の世界から来た完全な別人という説明だけした。
「ってことは大人になったギン姉はママリンそっくりになるっスね」
小さいウェンディがギンガを見ていった。
「ギン姉(少女ギンガ)にとっては未来の姿を見る感じになるね」
「えっと……そこの青髪の子はスバル…………なの?」
ギンガは恐る恐るスバルに確認をとる。
「はい。中島スバルです!!」
スバルは元気一杯にアキラとギンガの二人に自己紹介をする。そんなスバルの姿にギンガはギャップを感じた。
目の前にいるスバルと自分の知るスバルとでは性格が異なった。
六課時代以降にスバルと知り合った人からは信じられないが、目の前にいるスバルと同じくらいの年の頃のスバルは今の明るく社交的な性格から信じられないほど内気で泣き虫な性格だった。
研究施設からナカジマ家に保護されてから、ギンガはクイントにシューティング・アーツを習い始めた。
ギンガはスバルに一緒にやらないかと誘ったが、スバルは『殴られるのも殴るのも嫌だ』と言ってクイントが存命中にスバルがシューティング・アーツをやることはなかった。
態度も常に周囲を窺う様などこかよそよそしかったが、目の前にいるスバルは自分が知る明るく社交的な性格のスバルと同じように明るい性格な印象を受けた。
「へぇ~よく、スバルねーちゃんが女の子だって見抜きましたね。大抵の人はよく、スバルねーちゃんを男の子だって間違えるっス。ランスターさんも最初はスバルねーちゃんを男の子だと思っていたっス」
(この世界にもティアナは居るんだ……)
ウェンディの話からこの世界にはティアナも存在するみたいだ。
「やっぱり、アキラ君たちの世界にもスバルはいるの?」
「ええ。ギンガ同様、年は違いますが……それで、そっちのパイナップルヘアーの子はもしかしてウェンディ………なのか?」
「そうっスよ。アタシは中島ウェンディっス!!アキラさんの世界にもアタシが居るっスか?」
「ああ、居るぞ。やっぱり、君よりは年上だが。で、そっちのウェンディの背中に隠れているのは……?」
「え、えっと……な、中島ノーヴェ…です……」
「「えっ?」」
三つ編みを垂らしたセミロングで内気な感じの赤髪の幼女ことノーヴェが自己紹介をするとアキラもギンガも目を丸くする。
自分たちの知っているノーヴェと目の前にいるノーヴェはあまりにも性格が違いすぎる。
(この子、昔のスバルみたい………)
しかし、ギンガにしてみれば、目の前にいるノーヴェはまだ自分たち姉妹が施設から救助されてナカジマ家に来たばかりの頃のスバルと性格が似ているように見えた。
「アキラ君を最初に見つけたのはチビたちだったのよ。で、知り合いの女子高生姉妹に運んでもらったんだけどね」
「そ、そうだったのか………お世話になりました」
アキラは感謝をして頭を下げる。この世界のアキラと違って少々強面な感じのするアキラに終始怖がっていたが、その態度にノーヴェは少しだけ心を許したようだった。
「んで、ギンガはアキラ君が運んできたの。あ、こっちのアキラ君」
「ありがとう、あ、アキラ君」
「い、いや、俺はその‥‥ギンガにそっくりな奴を放っておけなくて……」
大人のギンガに礼を言われ、少年アキラは頬をほんのり赤らめギンガから目をそらす。
「それで、暫くの間、大人のアキラ君とギンガは家で泊まってもらうことになったのよ」
クイントがスバルたちにアキラとギンガの二人が暫くの間、中島家に居ることを伝える。
「えっ?そうなの!?」
「おぉぉーそれは楽しそうっス!!」
「未来のこと、色々聞かせて!!」
「わ、私も聞いてみたいかも」
中島姉妹はそんなりとアキラとギンガの二人を受け入れた様子だった。
「まだ、家に帰ってきていない子たちもいるけど、紹介は追々にしましょう」
(まだ、いるんだ………中島姉妹…)
(どんな子なんだろう?)
クイント曰く、ギンガ、スバル、ノーヴェ、ウェンディの他に中島家にまだ子供がいるらしい。しかし、ギンガとスバルの妹がノーヴェとウェンディならば他の子もナンバーズの可能性があった。
先ほどアキラがギンガとの関係を話していたことから少女ギンガは色々とギンガに聞きたかった。
「あ、あの…ギンガさん」
「ん?なに?」
かつての自分に話しかけられているようで妙な感じだ。
「その‥‥ギンガさんはそちらのアキラさんと結婚しているって……その、子供はいるんですか?」
「えっ?そっちのアキラさんとギン姉は結婚しているの!?」
「じゃあ、こっちのアキラさんとギン姉も結婚するの?」
アキラとギンガの関係はスバルたちにとってはまさに寝耳に水であるが、自分の知っている少年と姉が未来(別の世界)では結婚していると聞いて興味が沸かないはずがない。
「う、うん。女の子が一人……」
「なんて名前なの?」
「アリスって言うの」
ギンガと中島姉妹たちがアキラとギンガの結婚生活の話題で盛り上がり、少年アキラは大きな反応は示すことはないが、やはりギンガとの結婚生活は興味があるのかちゃっかりと聞き耳を立てていた。
「そっか、そっちのギンガはもうお母さんなのね」
「は、はい」
「私もこの子たちを産んで、育てて、母親になるってことの苦労が分かったけど、でも子供は親にとってはやっぱり尊い存在ね。早くアキラ君とギンガが元の世界に戻れるように私の方でも色々と方法を捜してみるわね。結構こういう事には頼りになる人がいるのよ」
「そ、そうなんですか」
「あ、ありがとうございます」
クイントの知り合いにこういったあまりにも現実離れした事態を収拾できる人物がいることよりも、ギンガにとって衝撃的だったのは、ここにいる中島姉妹全員がクイントのお腹から生まれたことだった。
自分やスバル、ノーヴェに関してはクイントとはDNAの繋がりはあるが、血の繋がりはない。
当然、ナカジマ家に養子として迎えられたチンクたちに関しては戸籍上の繋がりだけでDNAも血の繋がりもない。
しかし、今自分の目の前にいる彼女たちはみんながDNAと血の繋がりがあることに驚きと同時に羨ましさを覚えた。
「さて、それじゃあ、おやつにしましょうか?」
クイントが両手をパンと叩き、キッチンへと向かう。おやつができるまでの間、やはり中島姉妹との談笑は続く。そんな中、家の扉が開く音がした。
「むっ?」
「誰?お客さん?」
残りの中島家の姉妹が帰ってきた。
「あっ、お帰り。チンク姉、ディー姉」
(えっと‥‥あの銀髪は明らかにチンクだし、残りの茶髪はディエチか?)
(予想していたけど、やっぱりチンクとディエチね)
向こうの世界で実家であるナカジマ家に引き取られたのと同じく残りの中島家の子はチンクとディエチだった。変えてきた姉のところにノーヴェやウェンディが向かっていった。
「チンク姉、ディー姉!聞いてほしいっス!」
「凄いことがあって……」
「み、未来からアキラさんとギン姉が来たの」
正確には未来ではないのだが、まだ小学生低学年のスバルたちにはアキラとギンガの二人は未来から来たということにした。
「へぇ~未来から……」
「ふむ、姉上が大人になりこれほど身長が伸びているならば、私の成長期もまだ可能性があるな」
ギンガと少女ギンガの二人を見比べてチンクはこの後の第二次成長期に期待している。
(望めるのか?)
(うーん……ちょっと難しいかも……)
この世界のチンクと自分たちの世界のチンクを比較すると、この世界のチンクの第二次成長期はあまり期待できないと思うアキラとギンガの二人だった。
「初めまして、中島チンクです。こう見えても次女だ」
「中島ディエチ。三女です」
「アキラ・ナカジマです」
「私は、ギンガ・ナカジマよ」
「未来のアキラさんとギン姉は結婚しているんだって」
「なんと!?」
「おめでとう」
チンクとディエチが加わりギンガの結婚生活に拍車がかかっているとクイントがおやつを持って戻ってきた。
「はーい、おまたせ~♪あら?チンクとディエチも戻ったのね」
「うむ」
「はい」
「母上、私たちのおやつは?」
「当然、あるわよ」
クイントは中島姉妹の前にホットケーキが乗った皿を差し出す。
ただ、その皿の中で少女ギンガとスバルのホットケーキは塔の如くホットケーキが積み上げられていた。
(予想はしていたが……こうして見るとすげぇな……)
少年アキラのパラレルワールドの説明からの少女ギンガの発言でこちらの世界のギンガ、そして元の世界でもギンガ同様、よく食べるスバル同様、こちらのギンガとスバルは小さなナリのわりにたくさん食べる。
「はい、ギンガ」
そして、クイントは少女ギンガやスバルと同じく、塔のように聳え立つホットケーキが乗った皿をギンガにさし出す。
「えっ?」
「あら?もしかして、そっちのギンガはあまり食べないのかしら?」
ギンガがキョトンとしたことで、クイントは自分が知るギンガと異なり、別世界のギンガは普通の量なのかと尋ねる。
「い、いえ、大丈夫です」
もちろんギンガはこの世界の少女ギンガやスバルが食べているのと同じくらいの量なんてペロリと平らげることなんて平気である。
「「「「「「いただきます!!」」」」」
「「いただきます……」」
中島姉妹が手を合わせ食事の挨拶をすると、姉妹たちはフォークを手にしてホットケーキを頬張る。
彼女たちの表情はみんな幸せそうだった。
二人のアキラは物静かに食べているが、小さく口元を緩めていることからこのホットケーキが美味しいことが窺える。
自分の世界のナカジマ家でもギンガがアキラの下へ嫁ぐ前、海上更生施設からナカジマ家に引き取られたナンバーズの子たちが来た時、似たような食卓の風景が広がっていた。
しかし、その中にはどうしても欠けたままのピースがあった。
だが、この世界ではそのピースがちゃんと埋まっているのかもしれない。
「いただきます」
そう思いつつ、ギンガはフォークとナイフを使い、ホットケーキを切り分けて口へと運ぶ。そのホットケーキの味はとても美味しく、そしてとても懐かしい味だった。
続く