「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
スタッフの濁流にのまれたアキラは、スタッフから流れ込んでくる負の感情によって脳が破壊されかけていた。
「く…………そ…………がぁぁぁぁぁぁ!!!」
体の表面に薄くフィールドを展開し、スタッフの負の感情をガードする。しかし、負の感情が押さえられても刺された傷が塞がるわけではない。
刻一刻と、死が近づいていくのが分かった。
(こんなところで…………終わりかよ……………)
目を閉じる。
(スカリエッティ……ウィード……クラウド………エクリプス…………ありとあらゆる世界の危機を、俺は………俺たちは救ってきた。ギンガと生きるために………世界を、守るためにそれなのに………こんなところで……)
「世界を守りたい?」
声が聞こえた。
「…………?」
アキラが目を開けると、そこは、スタッフの濁流の中ではなかった。あたりに青白い光を閉じ込めた鳥かごのようなものがある洞窟の中のような世界。薄暗く、寂しく、でもどこか暖かい空間。
そんな空間にアキラは寝ていた。
「世界を、守りたい?」
おなじ声が聞こえた。アキラが起き上がり、あたりを見回すと声の主は、いつの間にか洞窟の先に立っていた。
「誰だアンタ………」
「…………質問に答えないのがあなたの世界のマナーなのかしら?」
逆光でよく見えないが、声の質とシルエット的に女性なのが分かるが、それ以上にわかることはない。
「誰かもわかない相手に、答える筋合いはねぇよ」
「………ま、それもそうね。聞いても意味ないと思うけど。私は■■の■主人、■■■■■■」
「…………?」
たしかに名乗っているはずなのに、うまく聞き取れない。
「やっぱり聞こえないか。まぁいいわ。私はあなたの胸の中にある………確か、あなたたちの世界では「ロストロギア」っていうんでしたっけ?それのを作った存在の、残留思念っていえばいいかしら」
アキラの胸に宿る賢者の石と呼ばれるロストロギア。それはウィードが限界を迎えたアキラの肉体を維持させるためにどこからか調達したものだ。
これを胸に宿してから、アキラは少し変わった飛行能力や翼を出現させられるようになっていた。
「そのロストロギアを起動させるのに必要なのは膨大な魔力と、それを制御するための回路………あなたがそれを初めて起動させたとき、たまたまその二つがそろっていた」
「膨大な魔力と………回路…」
初めて起動したのは黙示録の獣の攻撃から市民とギンガを守ろうとしたときだ。獣から放たれた魔力砲を、やけくそで紅月で防ごうとした。しかし、紅月は回路のような結晶が放たれ、魔力砲は飽和した。
「そうか………紅月が飽和させた魔力をこのロストロギアが食ったのか……」
「そう。そして今。あのとき以上にあなたの周りに魔力がある。やろうと思えば………いいえ、起動させれば魔力の量的に制御はできない。あなたにできる選択は二つ。このまま死ぬか、賢者の石を完全に覚醒させ、再び立ち上がるか」
「こいつを使えば、あいつに勝てるのか?」
「さぁ、でも今のあなたよりずっと強くなれる。でも気をつけなさい。それをやれば、あなたは………」
ー管理局本局前ー
「はぁ………はぁ…………」
ギンガは瓦礫にもたれかかりながら呼吸を荒くしていた。右腕と左足はもう動かない。失っていないだけまだマシだが、傷は深く、もう動かせそうにない。
「まぁ、あの男の次によく頑張ったといってやろう。もう楽になれ」
「…………」
黙示録の鍵は、槍をギンガに向けて投げた。一寸の狂いもなく、ギンガの胸に向かって飛んでいく。
これまでか。
そう思って瞳を閉じる。
しかし、いつまでたっても、槍はギンガを貫かなかった。
「…………?」
眼を開ける。目の前に白いマントがたなびいていた。よく見ると、そこには白い鎧をまとった白髪の男が立っていた。
「…………リュウセイ?」
何度もアキラたちを助けてきたあの男に見えた。だが、振り返ったその顔を、見間違えるはずもない。アキラだ
「アキラ…………君?」
「ああ。俺だ。ギンガ………俺がお前を…………守る」
アキラは手を空に伸ばし、そこに光を収束させる。
「おぉぉぉぉぉ…………おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
光の収束が強まると、空に浮かぶ雲が、光る星が、月が、わずかに動き始めるのが分かった。
「え………?」
空の動きは少しずつ早まり、通常とは逆の動きを始めた。それだけではない。日が沈んでいった場所から再び日が昇り、逆方向に沈み、月が再び上る。それの繰り返しが始まり、その速度はなおも早くなっていく。
「な、なにが……」
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
空の回転が早まっていくと同時に、街を覆っていたスタッフが消滅を始める。さらに戦闘やスタッフで破壊された街並みがもとに戻っていく。
それだけではない。
ギンガの傷、セッテ、シグナムの傷も次々と癒えていく。いや、正確にはもとに戻っていくというのが正しい。スタッフが消滅したことで、そこに飲まれていた一般人や、ツムギ、小此木、メグ、はやてや守護騎士の姿が見えた。皆、傷がもとに戻り、目を覚ましていく。
「う………」
「これは………?」
「…………何が……起きたん?」
いくら黙示録の鍵といえど、この事態に動揺する。
「まさか………時間回帰だというのか……?」
「ああ………この力は、俺の中の賢者の石の力だ。時間回帰、そして」
アキラは鍵の背後に一瞬で回り込んだ。あれだけの強さを持つ鍵が反応できない速度で。
「!?」
「反応できなかったって顔だな」
即座に触手でアキラに攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は空を切る。
「お前は体中から目に見えないくらい細いスタッフの触手を伸ばして、感知器として使ってた。だろ?だから俺の最後の竜閃禍は、直前にばらまかれたガトリングで触手を絶たれたからぎりぎりでよけきれなかった」
感知器として使っていたのは確かだが、だからと言っていまその感知器を潜り抜けて鍵の意識の外に出れる理由はわからない。
「なんとなく感じてるんだろ。俺の新たな力は時間回帰と、時間の停止。それだけじゃねぇけどなだがお前を倒すには」
再びアキラが視界から消える。
そして、次の瞬間黙示録の鍵の腕が切られた。
「これだけで十分だ」
「なるほどな。だが!」
黙示録の鍵は黙示録の書を開き、空間を割いてスタッフを大量に出現させた。再び街をスタッフが覆いつくそうとする。
また、切り落とした腕も断面からスタッフが糸のように伸び、縫合してしまう。
「どれだけ時間を止めたところで、貴様はただ一人!!この圧倒的な質量を、すべて相手にするつもりか!!」
「そんな必要ねぇ」
アキラは掌をスタッフに向ける。
そして、アキラの目が青く光り、それと同時にスタッフを光が包み始めた。そして、その動きは止まり、光となって空へ昇華されていく。
「何が……いや、まさか!」
「スタッフはため込まれた負の感情を魔力と合わせたもの。なら、その時間を戻せば、それは人の心にあったものと魔力に還る。魔力は大気に還り、感情は、かつての持ち主の心に還る」
「………」
「黙示録、終わりにしよう。憎しみの連鎖を。世界は俺たちが管理する。そのための時空管理局だ」
「………そうか」
黙示録の鍵は、黙示録の書を閉じて黙示録の槍を構えた。
「ならば証明しろ。俺に勝てねば、この先の脅威を退けることなど不可能だろう」
「……ああ」
アキラは三叉槍を出現させ、構える。
「……………」
(きっと、黙示録の鍵も、殺戮のために生み出されたわけじゃないんだろう)
黙示録の書だって、そもそも世界を終わらせるために生み出されたものではない。人々を癒すためのものだった。
獣は完全に破壊のための兵器だった。だが槍、鍵、それぞれがどういう経緯で作られたかわからないが、少なくともこの鍵は、ある種の平和のためにこの強行に至ったのだ。
だから、この鍵が安心して眠れるように、アキラは真正面から槍を振った。
勝負は、一撃でついた。
「…………」
「…………お前は、なんのために戦う?」
「決まってる」
アキラはギンガを見た。
「愛した女のためだ」
「………ふっ。生き物としての原点の感情………か。信用できるな」
黙示録の槍が砕け、黙示録の鍵の体も崩れ始めた。
「あとは、頼むぞ」
黙示録の鍵が完全に消滅したとき、アキラは白い光に包まれた。一瞬警戒したが、先ほどと同じで、不思議な暖かさを感じた。
アキラは光に身を任す。
ー???ー
目を覚ますとどこともわからぬ空間。
目の前にいるのは白甲冑の男、リュウセイ。
「…………ずっと疑問だった。やたらギンガと俺の身を案じ、意味不明なほど強力な魔法を使う。それほどの力を持っていながら、なぜ直接介入しないのか………」
リュウセイは小さく微笑む。その瞬間、リュウセイの顔をアキラは初めて自分と同じ顔だということを認識できた。ずっと二人に介入してきた白甲冑の男、リュウセイの正体は、アキラ本人だった。
「認識阻害の魔法か………素顔を見ても俺だと気付かなかったぜ」
「ああ。俺はこれから少し先の未来から来たお前だ。なぜこんなにも過去に介入するのか、それはいつかわかる。けど、俺がお前に介入するのはここまでだ」
リュウセイ改め、未来のアキラは光の中へ消えようとする。
「じゃあな」
「ああ。この世界は…………ギンガは俺が守る」
ー管理局本局前ー
空から一つの光が下りてくる。その光はギンガの前に降りたち、徐々にその輝きを小さくする。光の中にいたのはアキラだ。
白い甲冑を纏い、白髪になっているアキラを見て、ギンガはすべての事情を察した。
「ただいま、ギンガ」
「………お帰り。ずっと私を守ってくれたのは、アキラ君だったんだね」
「どうやら、そういうことらしい。もう少し先の未来。俺は過去に行くことになるらしい」
アキラは胸を押さえて白甲冑を消滅させる。髪も元の茶髪に戻った。
「過去でも未来でも、俺がお前を守る」
「…………うん」