中学から書き続けてきた物語がようやく幕を閉じれました。細かいことはあとがきにでも書きます。
黙示録の鍵が出現し、人類絶滅一歩手前まで追い詰めた事件から、15年の時が過ぎた。ギンガも、アキラもそれなりに年を取り、アキラは中将まで上り詰め、ギンガはその補佐的立ち位置にいる。
ノーリはDDSAのプロとして活躍、ヴィヴィオやアインハルト、リンネも同様だ。ちなみにノーリは結婚はせず、アインハルト、リンネ両名を事実婚状態で隣に置いており、子供もいる。
セッテもアキラとは別にいい人を見つけ、もう結婚し、アキラたちの家を出た。
赤ん坊だったアリスも、今や21歳。
父や母、義兄とは違い、戦う道を選ばなかったアリスは冒険家となり、かつてのトーマのように様々な次元を渡り歩く生活をしていた。
「アキラ君」
「ああ」
今日もどこかの次元の壮大な景色が娘の笑顔とともに送られてくる。それがアキラとギンガのいるナカジマ家の日常だった。
「アキラ中将、そろそろ会議の時間です」
「わかった。すぐ向かう」
その日の昼休みも終わり、秘書的立ち位置のギンガに言われ、アキラは重い腰を上げて会議室に向かった。
ー本局会議室ー
「次の議題ですが、陸士隊から上がってきた案件です。ここ最近、魔術師を狙ったリンカーコアを奪取されるという事件があるそうです」
「リンカーコアを?」
「はい。以前闇の書や、中将のクローンが起こした事件とは違い、リンカーコアそのものが完全に抜かれている………いまのところ、担当にあたっている捜査員たちはなんの手がかりも得られていません」
こんなところにまで話が上がってくるのであればそれほど大事になっているのだろう。アキラは少し考え、ギンガを見た。ギンガも小さくうなずく。
「………わかった。では担当してる陸士隊に伝えてくれ。この事件は今から本局預かりとする」
アキラはすぐに動いた。
今回の事件の鮮やかすぎる手口は並みの捜査では手に負えないことはわかっていたからだ。本局預かりへの変更、腕の立つ捜査員と、戦闘員の収集。
手の空いていたティアナやフェイト、アキラの知る、信用できる捜査員はできる限り呼んだ。
ー新捜査本部ー
「ではこれより、リンカーコア連続奪取・傷害事件の捜査を始める。本事件の捜査本部長を務めることになったナカジマだ。まぁ名目上俺がトップではあるが、捜査に関してはランスター執務官に一任する」
「「了解」」
大勢の捜査員、そして魔導士が集められた。かなり大掛かりな捜査にも関わらずティアナは緊張する面持ちもなかった。もう20年近く執務官をやっているのだ。当然だろう。
大まかな説明を終え、各々が動き出してからティアナはギンガとアキラの前に来た。
「お久しぶりです。アキラさん、ギンガさん」
「ああ。しかし、すっかり執務官が板についたな」
「フェイトさんのおかげです。それにしても………本当に偉くなりましたね」
「なんだ、イヤミか?」
「まさか」
「フェイトさんも今の捜査が終わり次第、来るそうです。それでは」
「………わかった」
アキラは騒々しく動く捜査本部を見ながら、小さくため息をついた。
「この事件、荒れる気がする。もう少し優秀な魔導師を集めないとな」
「うん……」
ー捜査会議ー
「――では、ランスター執務官。現状把握している被害状況と、犯行の傾向の報告を」
「はい」
ティアナが前に出ると、操作パネルを扱い、モニターに数多くのデータや被害者のリストを映し出した。
「現在までに確認されている被害者は計三十二名。いずれも本局および陸士隊に所属する、Bランク以上の魔導師です。全員傷一つなく、リンカーコアを抜き取られていること」
「傷一つなく、か……」
捜査員の一人が呟く。ティアナは重い面持ちで頷いた。
「ええ。通常、リンカーコアの摘出は対象に激しい肉体的・精神的ダメージを伴います。ですが今回の被害者たちは、コアを奪われたことによる魔力枯渇状態を除けば、外傷がありません……犯行に使用されたのはジーンリンカーコアでしょうが、ジーンリンカーコアを使用するには高度かつ時間のかかる術式が必要になります。気づかれることもなく、コアを抜き取るのは極めて困難であるはず」
その通りだ。本来ジーンリンカーコアは古代の優秀な戦士の力を未来に残すために作られたシステム。
そうやすやすと扱える代物でもなければ、数が揃えられるものでもない。まして、相手を戦闘不能に追い込まず、気づかれずにコアを抜き取るなんてできるはずがないのだ。
「犯行の方法はわかりませんが、犯人は、確実に『高出力かつ質の良いリンカーコア』を集めています。個人の怨恨や突発的な犯行ではありません。何らかの莫大な魔力を必要とする施設、あるいは巨大な術式を起動させるための『鍵』として集めている可能性が高いです」
「ならば、次の標的も自ずと絞られてくる。犯人が狙うのは、より高ランクの魔導士――つまり、この本局にいるようなSランク以上の戦力だ。では、捜査員自身が狙われる可能性もある。生半可な単独行動は禁ずる。それと――」
アキラは一瞬だけ言葉を切り、捜査本部を見渡した。そこには、自分を信頼しきった目で見る仲間たちがいて、己が信頼する戦友がいて、そして……自分のすぐ後ろで、最愛の妻・ギンガがいる。
(すまない……みんな)
「おそらく、JS事件や黙示録事件と並ぶ大きな事件になるだろう。君たちの命を懸けてもらうことになるかもしれない。心して、かかってくれ」
「「はい!!」」
情報共有の会議は終わりアキラはフェイトのもとへ歩く。
「フェイトさん」
「あ、アキラ君」
お互い立場は変わったが、見知った顔の人間だけになれば自然といつもの空気が流れる。
「フェイトさんには、エクリプス事件の時と同じように前線に立ってもらうことになると思います。どうか、彼らを守ってやってください」
アキラは捜査本部にいる若きメンバーを見ながらそういった。
「了解しました。これ以上の被害を出さないためにも、全力を尽くします」
まっすぐな瞳で頷くフェイトに、アキラは一瞬だけ苦笑するような、哀しげな表情を浮かべた。だが、それはすぐに消え、いつものアキラの顔に戻る。
「では、俺は今日はこれで上がります。ギンガ」
「うん」
―帰路―
二人は帰路につく。しかし、アキラはしばらくバイクを走らせてから止まった。
「アキラ君?」
「少し、寄り道していかないか」
アキラが止まったのは少し広めの公園だ。黙示録事件が収束した後、アリスやノーリ、ナンバーズや多くの仲間とともに過ごした場所でもある。
「………懐かしいね」
「ああ…たくさん遊びに来たな」
「…まぁ、そんな予感してたからあんまり驚かなかったけど、アキラ君親バカで子供離れできてないよね」
ここにきた理由の確信を突かれ、アキラはすこし顔を赤くする。アリスが家を離れ、旅に出たのは数年前。二人きりの家はすこしばかり寂しかったのだ。
でも、いまのアキラにできるのは昔の思い出を見て、懐かしむことくらいだ。
だからここに来た。ギンガもそれは見透かしていたようだ。
「………俺はさ、この景色を守りたいんだ。みんな笑って…………いや、ギンガと笑える世界を」
「………そうだね」
◆◆◆
それから数日、捜査に進展があった。
「以上の理由から、この研究所が怪しいと考える」
ミッドチルダの端。かつて黙示録の獣が暴れ、復興も間に合っていない位置に謎の研究室が建設されていたことをアキラが発見した。
「ここには不審な男が目撃されている。数日後、この研究室を調査する。戦闘の可能性があるが、心してくれ」
「「「了解!」」」
―本局・作戦準備室―
「今回の作戦に参加する人員は、以上の通りです」
ティアナの操作によって、空間にいくつものウィンドウが展開された。そこには今回の作戦に参加する魔導師たちの名前と、それぞれの配置が表示されている。
「研究施設への突入は三方向から行います。正面からはフェイトさんを中心とした第一部隊。東側から第二部隊、西側から第三部隊が侵入。各部隊には索敵と通信を担当する後方支援員を配置します」
「内部の構造は?」
アキラの問いに、ティアナは別のウィンドウを開いた。
「外部からの探査で確認できた範囲では、地上三階、地下二階。ただし、地下部分には魔力探査を阻害する何らかの処置が施されています。正確な構造は不明です」
「なるほど……」
アキラは顎に手を当て、研究施設の立体映像を眺めた。
「ならば地下に何かあると考えるべきだな」
「私もそう思います」
アキラは、改めて集められた魔導師たちを見渡す。かつて六課で共に戦った者たち。数々の事件を乗り越えてきた戦友たち。
そして、自分を信頼してここに集まった若い魔導師たち。
誰もが、これから始まる作戦の成功を信じていた。
「……一つ、言っておく」
アキラの声に、室内の視線が集まる。
「今回の事件では、既に三十二名の魔導師が被害に遭っている。犯人の目的も、人数も、能力も分かっていない。だからこそ、決して油断するな」
「はい!」
「そして、何があっても命を最優先にしろ。敵を逃がすことになっても構わない。生きて帰ってこい」
その言葉に、フェイトが微笑んだ。
「アキラ君らしいね」
「……そうですか?」
「うん。昔から変わらない」
「…………そうかもしれませんね」
アキラは苦笑した。
「……そうだな。俺は、何も変わっていない」
その呟きは、誰にも聞こえなかった。
◆◆◆
―ミッドチルダ・第七管理区域―
作戦当日。
かつて黙示録の獣によって破壊された都市の一角に、数台の装甲車両が停車していた。周囲には未だ復興の手が及んでいない建造物が点在し、ひび割れた道路には雑草が生い茂っている。
その先に、問題の研究施設があった。
灰色の外壁に覆われた、無機質な建造物。
窓らしい窓はほとんどなく、正面には巨大な搬入口が設けられている。
「……妙ですね」
双眼鏡を下ろしたティアナが呟く。
「どうした?」
「警備らしい警備がありません。監視カメラはありますが、外部に人影は確認できません」
「罠の可能性は?」
「十分にあります」
「だろうな」
アキラは施設を見上げた。
「フェイトさん」
『はい』
「予定通り、第一部隊は正面から。第二、第三部隊は側面から侵入してください。ただし、内部に入っても各部隊の距離は開けすぎないように」
『了解しました』
「ティアナ。通信の維持を頼む」
準備は整った。
アキラは腕時計に視線を落とす。
作戦開始まで、あと十秒。
九。
八。
七。
刻一刻と時間が過ぎていく。
そして――
「作戦開始!」
その号令と同時に、魔導師たちが動き出した。
◆◆◆
―研究施設・一階―
「第一部隊、侵入成功。現在、異常なし」
フェイトの報告が通信機から響く。正面の搬入口は施錠されていたものの、強固な防御術式が施されていたわけではなかった。解錠を担当した魔導師によって、あっさりと開かれたのだ。
「……静かすぎる」
フェイトは周囲を見渡した。
広い通路には、一定間隔で照明が設置されている。
床には埃一つなく、つい先ほどまで誰かが使用していたかのようだった。
しかし、人の気配がない。
「第二部隊、侵入成功。こちらも異常ありません」
「第三部隊、同じく侵入成功」
各部隊からの報告が続く。
「ランスター執務官、聞こえるか?」
『はい、中将』
「施設内の魔力反応は?」
『現在、各部隊の反応以外は確認できません。ただ……』
「ただ?」
『地下から微弱な魔力反応があります。何かが稼働しているようですが、詳細は不明です』
「……分かった。全隊、地下への経路を探せ」
『了解!』
アキラは通信を切った。
その隣で、ギンガが首を傾げる。
「アキラ君?」
「俺たちも行くぞ。ギンガ」
「え?でも、指揮系統が…」
突然近場に置いた指揮用の車両から、アキラは降りると言い出した。しかし、アキラは強大な力を持っているとはいえ、指揮に欠かせない人物だ。
「メグ、任せる」
「りょーかーい」
「メグいたんだ…」
アキラが立った席にいつのまにやらメグが座っていた。アキラが行くというのなら、何かあるのだろうと思い、ギンガも席を立った。
◆◆◆
―研究施設・地下二階―
「……これは」
最初に声を漏らしたのはティアナだった。各部隊が合流し、地下へと続く通路を進んだ先。そこには、巨大な空間が広がっていた。
壁や床に無数のジーンリンカーコアが埋め込まれており、被害は32名以上であったことに全員驚愕している。そして、最深部には祭壇のようなものがあり、そこには椅子が一つ置かれているだけだった。
「……何だ、あれは」
『警告。未登録の魔力反応を検出』
端末から警告音が鳴り響く。
「何!?」
「全周警戒!」
フェイトが叫ぶ。
次の瞬間、巨大な空間の四方で赤い光が灯った。背後の隔壁が、凄まじい音を立てて閉鎖された。
「なっ!?」
「隔壁が!?」
魔導師たちが一斉に振り返る。
同時に、床に埋め込まれていたジーンリンカーコアが青白い光を放ち始めた。
「ティアナ!」
「駄目です! 通信が遮断されています!」
「転移魔法は!?」
「術式が妨害されています! 外部への転移は不可能です!」
騒然となる魔導師たち。
「落ち着けよ」
声が響いた。奥を見ると、祭壇の所にアキラが立ってた。そして祭壇に置かれた椅子には白い衣装をまとい、意識を失っていると思われるギンガが座っている。
「……アキラ君?」
フェイトの声が震える。
「何を……してるの?」
アキラは答えなかった。
「……すまない」
小さく呟く。
それから、振り返った。かつて共に戦った仲間たち。自分を信頼し、ここまでついてきてくれた魔導師たち。その全員を見渡し、アキラは静かに口を開いた。
「……さて」
室内に、彼の声が響く。
「そろそろ、真実を話そうか」
「アキラさん…なにを」
「アキラ!貴様まさか!」
フェイトやティアナは信じられないというような顔をしているが、元犯罪者であるチンクやセッテは気づいたのだろう。
アキラから漂う、スカリエッティのような、犯罪者特有の空気を。
「ああ……今回の事件の犯人は、俺だ」
刹那、アキラの首元に刃が迫る。その刃をアキラは見向きもせずに、指1本で止めた。そして、己に刃を向けてきた相手を見る。
セッテだ。
「アキラ!おまえは…っ!」
瞬時に殺そうとした人間とは思えないほど悲しそうな顔で、セッテは刃を押し付ける。しかし、びくとも動かない。
ここまで大がかりな装置を用意してやることなんてロクなことじゃない。それがわかったから「信じられない」という感情が勝つ前にアキラの息の根を止めようとした。
しかし、阻止されてしまえばそれまでだ。感情が一気にあふれでる。
「セッテ、お前は本当に強くなったな。元々なにもなかったお前は、橘アキラという男の人間を形成するのに大いに役立ってくれた。感謝してるよ」
次の瞬間、セッテは魔力波によって吹っ飛ばされた。
「がはっ!…………なぜだ…なぜお前のような人間が…っ!」
「……俺だから」
アキラは指を鳴らす。すると、アキラの顔は年相応に老けた顔から、二十年ほど前の若いアキラに戻った。
「え…?」
「まさか!時間回帰!?でもロストロギアの力は管理局に封じられて…」
「既存の魔法で俺の力が封じられると思ったか?既に俺の力はお前たちより次元がひとつ上だ」
アキラは己の胸に付けられた制御装置を簡単に外すと、リュウセイと同じ姿になった。
その姿に、フェイトやナンバーズ、リュウセイと関わったことのある人間は皆驚いた。
「まさか…あの常人離れしたことをしていたやつは…」
「アキラ…」
「アキラ中将なぜですか!あなたほど平和を願う人がどうして…」
魔導師の一人が叫んだ。しかし、アキラは顔色一つ変えようとしない。
「悪いな」
アキラが謝罪の言葉をこぼしたとき、アキラと親しい間柄の人間以外の魔導師が全員倒れた。そして、アキラの手には大量のジーンリンカーコアが握られていた。
「アキラ君!もうやめて!」
「アキラさん!」
「アキラ!」
勝てないことはわかっているそれでもフェイトもティアナもチンクもセッテも、ディエチも、武器を向けざるを得なかった。
「…俺は、黙示録事件の日、このロストロギアの力で次元を一つ越えた。人であることをやめざるを得なかった。俺は死なない」
「死なない…?」
「死なないかどうかはわからねぇけどな。でも、あの日から年を取らない。それが俺だ。それに気づいたときの絶望がお前たちにわかるか?周りは老いて、子どもたちは成長するなかで、たった一人、取り残される恐怖…」
「…それで、なにをするつもり?」
「…今にわかるさ。絶望するな。死にはしない」
次の瞬間、アキラ以外の全員がその場に倒れる。そして、アキラの手には全員分のジーンリンカーコアが持たれていた。
「アキラ…君!」
「…安心しろ。あんたの親友たちも、今頃同じ目にあっている」
そういってアキラが見せたジーンリンカーコアに封じられたリンカーコアの色は、ピンク、白、虹色。
「まさか…なのはやはやて…それにヴィヴィオの…っ!?」
「時間を操る力をなめるな。俺の持つ時間停止の力に、限界はない。いまからゆっくりSランク魔導師のリンカーコアを奪ってやるさ……………これで…ようやく…」
奪ったジーンリンカーコアを床や壁にある窪みに一つ一つはめていく。管理局のメンバーはそれを見ているしか出来ない。
身体から今まであって当たり前のものを抜かれた。生きるのに魔力は必要としなくて魔力を持つ人間は、身体の形成、生活、バランス感覚、五感、あらゆるものにほんの僅かに、そして無意識に魔力が作用している。
なくなれば凄まじい疲労感や倦怠感が身体を襲い、動けなくなる。
だからもう自分に相対することができる者はいないと考えていた。
だが、そう考えていた矢先、
アキラの首元に、刃が迫った。
「!」
とっさに跳ね、その刃を避ける。純白のマントを翻しながら振り返る。
「………この作戦にあんたを加えた覚えはないけどな」
背後には、シグナムがいた。
「当たり前だ。私をここに呼んだのは、テスタロッサだ」
アキラはチラリとフェイトを見る。フェイトの眼には、まだ信じられない、信じたくないと訴える感情が写る一方で、疑いの眼も向けられていた。
「…残念だよ。フェイトさん。あんたに疑われてたなんて」
「今回の事件は、アキラ君にしか起こせない。だから、念には念をいれて、シグナムを呼んだの」
なんの手がかりも残さず犯行を行うその手際の良さと常識離れした力。それを持っているのはアキラしか思い浮かばない。
「…」
「投降しろ。アキラ。私も貴様を切るのは忍びない」
「……………切ってどうする」
「なに?」
「あんたも変わらないよなシグナムさん。性格の話じゃない。見た目だ。結婚もしなかったあんたにゃわからんかもしれないが、主だけが年老いていく恐怖はなかったか?」
「老いて死んでいくことも、また人の生きざまだ。誰かに管理されるものではない」
「…そうかい。同じ人でなしのあんたには、理解してもらえるかと思ってたのに」
世界の時間が止まる。アキラの力だ。アキラは空のジーンリンカーコアを持ってシグナムのリンカーコアを抜き取ろうと近づく。
しかし、ジーンリンカーコアが目と鼻の先に近づいた瞬間、シグナムの瞳が動いた。それと同時にレヴァンティンが振るわれた。
アキラはすぐさま背後に飛んだが、頬に浅い切り傷が入る。
「なんだと?」
「ようやく顔色を変えたな」
他のメンバーは完全に時間が止まっている。なのに、シグナムだけが動いていた。シグナムは胸元のパリアジャケットを捲り、肌を見せた。
シグナムの胸にはなにやら仰々しい装置がつけられているのが見えた。
「…時間が止められるとは、言った覚えがねぇけどな」
黙示録の鍵との戦いは、多くの人の目についたが、アキラは手に入れた力を具体的には説明しなかった。
「ああ。だが、お前が力を使う度に違和感を感じてたものがいる」
シグナムは祭壇で眠るギンガを指差す。
「…」
「一度お前と一つになって戦ったからか、ギンガだけは時間が止まる度に違和感を感じていた。だからウィードやクラウドに協力を仰ぎ、時空系魔法を一時的に無効化する装置を作らせた」
「…………そうか」
掌をシグナムに向ける。シグナムに、原因がわからないかなりの圧力を感じさせた。シグナムは歯を食いしばってそれを耐える。
「…時間回帰も…効かないぞ…っ!」
「そのようだ」
アキラは手を下げる。圧力から解放されたシグナムは膝をつく。
「ずいぶん辛そうだな」
アキラが時間停止に巻き込まれないのは人間とは違う時間を生きているからだ。それを擬似的に再現した装置は、闇の書のプログラムであるシグナムとはいえ相当に辛いものだった。
「なぜそこまでする?俺の計画は誰も殺さない」
「ならばなにをする…」
「…未来を殺す。それだけだ」
「………言っている意味はわからんが、お前が人の道を外れると言うなら、止めない道理はない。人として、仲間として………そして」
シグナムはなんとか立ち上がり、レヴァンティンをアキラに向けた。
「かつて愛した男として!」
「……………………………そうか」
アキラは漆黒の刀、黒星を抜く。
「なら負けたら悪ってことだな」
「参る!」
二人は同時に走り出し、二人以外誰も動かない空間に剣がぶつかり合う音が響いた。
二人ともあらゆる事件をかいくぐってきた戦闘のプロだ。素人の入れない剣の応酬が始まる。互いに魔法を使わない剣技だけの戦いにシグナムは違和感を感じた。
(なんだ…なぜ魔法を使わない…?やつなりのケジメか…それとも)
そう考えていた直後、アキラは少し距離を取り、マントを伸ばしてきた。剣で防ごうとするが、マントは鋼のように重く、シグナムはバランスを崩した。
その一瞬をアキラは見逃さない。
刀の切っ先を向けて突進し、シグナムの喉に向けて突きを放つ。しかし、シグナムは顔を横にそらしてそれを避けた。
耳を切られたが、いまアキラの剣は突きでガードできる位置にない。そしてシグナムの間合いにアキラはいる。
レヴァンティンを振ろうとしたが、アキラはその腕を片手で押さえる。さらに足に氷の鎧を装備し、シグナムの顔めがけて上段蹴りを放つ。
シグナムは腕を押さえられ防御ができず、それをもろに食らって地面を転がった。
「はぁぁぁ!!」
転がったシグナムに追撃をかける。シグナムはすぐさま起き上がってそれを防ぐ。
「ぐっ………はぁ!」
シグナムは後方に飛び、いったんつばぜり合いから抜ける。すかさずアキラは刀をシグナムの下半身のバリアジャケットめがけて投げた。
「!」
刀はバリアジャケットの腰マントを貫通し、地面に刺さる。刃を上向きにして投げられたので簡単に切り裂いて逃げることができない。
アキラは一気に接近し、手刀の構えをとる。
「パージ!」
シグナムはとっさに下半身のマントのみ消滅させ、その場から離れる。そして再び腰のマントを出現させて丸腰になったアキラを切りにかかった。
アキラは逆手で刀を掴み、引き抜くと同時にシグナムの剣を防いだ。
「……っ!」
引き抜いた時点で、刃がアキラのほうを向いていたため、シグナムはそのまま押し込もうとする。
アキラは左手で柄を掴み、刀を回して刃をシグナムのほうに向け、レヴァンティンを弾いた。シグナムは再度距離を取る。
しかし、アキラは追撃しない。黒星を正眼に構え、ただ静かにシグナムを見据えている。
「……どうした。来ないのか?」
「貴様こそ、どういうつもりだ」
「何が?」
「先ほどから、貴様はまともに魔法を使っていない。私を相手に、剣だけで勝てるとでも思っているのか?」
「……そうだな、じゃあ、終わらせるか」
アキラの刀に氷がまとわれ始める。
かつてなのはと行った決死の模擬戦を思い出す。その戦い程とはいえないが、今の戦いは楽しかった。かつて愛したこともある男と、命のやりあいをした。
もっとやりたい。戦士のサガがうずいている。
しかし、アキラは未来を殺すといった。きっと世界規模で何かを起こすつもりなのだろう。
だから、止めなくてはならない。
「………そうだな。カートリッジロード!」
薬莢が排出され、レヴァンティンの刀身に炎が走る。
二人とも刃を構える。そして、ほぼ同時に踏み込んだ。
「紫電一閃!」
「氷刃一閃!」
二人の技がぶつかる。以前もこんなことがあった。機動六課で初めてアキラとシグナムが模擬戦を行った時。あの時は引きわけになった。
しかし、今回は違った。
アキラの黒星が砕けたのだ。
「!!」
その刹那をシグナムは見逃さない。振り向きざまにレヴァンティンの切っ先をアキラに向けた。
アキラの喉元に刃が迫る。
その時、これまでの記憶が蘇ってきた。
六課で初めて出会い、共に多くの戦場をくぐり抜けてきた。同じファントムに所属し、ギンガのいないところで二人きりになるときもあった。
大切な仲間。
大切なライバル。
大切な初恋の人。
シグナムは吠えた。
それでも自分は世界を守る人間であると証明するように。アキラにもうエクリプスウィルスはない。皮膚の硬質化もできない今、レヴァンティンの刃は確実にアキラの命を奪うだろう。
そして
アキラの喉をレヴァンティンが切り裂いた。
「がっ」
吹きあがる鮮血と、短い断末魔が響いた。それと同時に時間停止が切れ、その場にいた全員の視線が倒れるアキラと、生き残り、立っているシグナムに向けられた。
「シグナム!」
フェイトの声にシグナムは反応しない。
シグナムは目の前で喉を押さえて恨めしそうに自身をにらむアキラを見つめていた、
「…………なぜだ………なぜおまえは……こんな道を…」
本来事件の犯人は生かすべきだ。しかし、この事件においてはアキラの息の根がある限り何が起こるかわからない。
殺すしかなかった。
「どうして……」
「俺だからだ」
シグナムの胸の装置に、黒星が突き刺さる。
「なっ」
目の前には無傷のアキラ。そして、それと同時にシグナムは視界がぐらりと歪み、倒れかけたのをアキラが支えた。そんなアキラの手にはジーンリンカーコアが握られていた。ジーンリンカーコアの中にはシグナムのリンカーコアが輝いている。
「………最後に、あんたと真剣勝負ができてよかった」
「な………ぜ……」
「確かにアンタに時間魔法は通じない。だから俺は、俺に時間回帰を使った」
「っ!」
自分自身に時間回帰魔法を使い、切られて殺されかけたという過去をなかったことにしたのだ。それを聞いたシグナムとフェイトは絶望する。
もうアキラに何をしても無駄だということだ。一瞬で命を奪わなければ時間回帰とともに無傷で復活する。しかし、アキラの命を一瞬で奪えるものなど、誰もいない。
「………………もう、ないなら終わらせる。これで、数はちょうどだ。みんなの力を使って俺は俺の望みを、叶える」
最後のジーンリンカーコアが壁に埋め込まれた。それと同時に、部屋全体のジーンリンカーコアが大きく輝きだし、装置が作動する。
アキラはシグナムを寝かせ、ギンガの前まで行った。
部屋の中がどんどん強くなる輝きで視界が覆われていく。アキラはそっとギンガの頬をに手を当てる。
「…………アキラ君?」
ギンガは目を覚ました。あたりは明るく、目の前にはアキラだけ。アキラが気絶させたこと、そして今が作戦の真っただ中なんてことはアキラのIS、ハッキングハンドでぼかされていた。
「おはようギンガ、でも、もう少しだけ寝てていい。今日は、休みだから」
「…………そうだっけ。じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
アキラはギンガにおやすみのキスをした。
それと同時に、装置は作動した、装置から放たれた光は、街を包み、世界を包み、宇宙を包み、様々な次元を包んでいく。だが、その光は柔らかく、暖かなもので、人々に恐怖は与えなかった。
―とある次元―
とある次元を冒険中だったアリスは、空を覆う光を目にしていた。
「………なんかすっごい光ってる……。そうだ、お父様とお母様に送ってあげよ」
カメラを取り出すと同時に、アリスは光に包まれる。
◆◆◆
光はすべてを覆い、時間を回帰する。アキラの言った「未来を殺す」。それは言葉通りの意味だった。
時間が巻き戻る。
多くの人間が歩んできた歴史が
これから多くの人間が歩むはずだった未来が
すべてなかったことになっていく。
―とある研究施設―
AtoZ計画が進められる研究所では、[A」と呼ばれた少年がむせび泣く。片目と片手を失い、腕は義手にされた。そこに白い甲冑を纏った男が現れる。
「…………誰?」
「…」
男は黙ったまま少年の頭に左腕を当てた。
その日、少年は体内のエクリプスウィルスが暴走し、職員を一人残して皆殺しにした。
◆◆◆
ギンガ、俺は何を犠牲にしても、お前を守るよ。
それがたとえ、俺たちの愛の結晶の未来だとしても。
何度でも世界を繰り返して、俺はお前を愛す。
何度でも、何十回でも、何千回でも。
俺は、ギンガを愛す。それが俺だから。
それが俺の、「Partiality」だから。
中学の時、始まった物語がようやくここで終わり、再び第一話に帰ります。つまりこの物語は、終わったようで始まったのです。アキラは歴史を繰り返し、過去に干渉して同じ未来へとたどり着こうとします、
Partialityはイタリア語だかの「偏愛」なので。タイトル通りの結末に、書き始めたころから決まっていました。
思えばいろいろ派生したのに、回収できなかった伏線とか、やるやる詐欺とかあってすいません。私とギンガの物語はここでいったん終わりです。
またどこかで