とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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遅くなりました!
今回長いです!別にチンク、ノーヴェ、ウェンディが嫌いな訳じゃないです!

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第十五話 戦闘

「うぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

傭兵の頃から鍛えてるアキラの走力はローラーブーツを使ってるナカジマ姉妹に負けず劣らずの速度だった。素早い動きでガジェットの触手を避け、ガジェットの死角に回り込んで刀で叩き切る。もうかなりの時間アキラはたった一人で戦っていた。

 

ギンガを守るのがアキラの仕事だが、管理局を本格的に潰されれば結果的にはギンガに危害が及ぶ可能性がある。それにギンガの仲間が傷つけばギンガの心が傷つく事になる。どの道、今この場でガジェットを潰しておくことにデメリットは少ない筈だった。そう信じ、アキラは戦い続ける。

 

「はぁぁ………氷牙大斬刀!!!」

 

アキラは刀に巨大な氷の刃を纏わせ、それを持って360度回転してガジェットをなぎ払う。それでかなりの数を撃破したが、それでもまだウヨウヨガジェットがいる。アキラは氷牙大斬刀を解除した。それと同時に刀が折れてしまう。刀に負荷がかかり過ぎたのだ。

 

「はぁ…はぁ………たくっ…なんて数だ」

 

一刻も早くギンガの元へ行きたいが、もう逃げ道も塞がれかけてる状態。アキラは周りを見る。誰もいないのを確認し、ECディバイダーを左手に出現させた。

 

「フロス…」

 

アキラがディバイダーを構えた瞬間、左右にいたガジェットが触手を伸ばしてアキラの両腕を縛り、拘束する。アキラはその触手を掴み、自分の方へ引き寄せた。急に引っ張られたガジェットは抵抗する前に動かされ、互いにぶつかり合う。

 

そのぶつけられたショックでガジェットは一瞬動かなくなり、アキラを縛ってる触手の力が少し弱くなった。その一瞬を狙い、アキラは触手から抜け出し、一気にガジェットまで接近する。そして、折れた刀とディバイダーをガジェットに突き刺して二機同時に撃破した。だがもう魔力もかなり使っている。ディバイダーは主に魔力弾での射撃系の攻撃。一応刃は付いているが、それは短い。

 

「誰も見てねぇよな」

 

アキラはディバイダーの刃先を自らの腕に立てた。そして、腕を一気に刺し貫く。

 

「っ!……エンゲージ…リアクト・オン!!!」

 

氷や雪、氷のみぞれが混じった竜巻がアキラを包んだ。二秒後、竜巻が消滅したのと同時に少し姿が変わったアキラが現れる。両腕の肘までだが鎧が装着され、左腕に元々あった刺青のようなエクリプスウイルスの模様が全身に拡がっていた。アキラはあまりこのモードを使いたくなかったのだが、この状況を乗り切るにはもうこれしか手段はない。

 

魔力消費の激しいかわりに、ディバイダーは、アキラの身長の三分の二くらいの大きさはあるだろうかという大きさになり、視界モードの切り替えをうまく使えばもう攻撃も食らうことはないだろう。

 

「さっさと終わらさせてもらう!」

 

 

ー別地点 地上本部東側上空ー

 

 

この場所では、トーレとセッテが救援に来た管理局のヘリを撃墜する仕事をやっていた。一通り片付け、またしばらくは待機の状態。トーレが援護のヘリが来ないかどうかを見ていると、セッテが下から上がって来た。

 

「随分めんどくさい事をしているな。セッテ」

 

「…………」

 

セッテは返事をしない。トーレの言うめんどくさい事とは、セッテのヘリの撃墜の仕方にある。トーレはISを使ってヘリを、中にいる人間のことなど微塵も考えずに次々に落としたが、セッテは違った。ヘリに少しのダメージを与え、上昇不可能にした後ヘリをわざわざ地面まで運び、中の管理局員を気絶させたのだ。そう、つまりセッテは誰も殺してはいない。なぜ殺せなかったのか、聞かれてもセッテは答えられない。

 

そこらの人間など虫ケラ程度にしか考えていないのに殺せなかったのだ。最初は殺そうとしていた。しかし、最初のヘリに刃を向けた時、不意に手が止まった。

 

「可哀想だよな…」

 

あの男の言葉が頭の中に蘇る。あの研究所で生まれ、姉妹やドクター以外の人間に心配されるとは思ってなかった。クアットロの計画で、戦闘機人として相応しいように「無駄」な感情を消したと聞かされた。その「無駄」が何なのか消されてしまえばわからない。

 

でも……気になるのだ。初めてこんな事を思った。自分は戦闘機人として生きていければ良いとしか考えてなかったのに。

 

「………橘アキラ」

 

「ん?」

 

セッテはふとその名前を思い出し、口に出した。

 

「例の男がどうかしたか?」

 

「いえ………」

 

会った事もない人間だが、セッテは少しアキラが気になっている。特別な権利を持っているわけでもないのに誰かを無償で護衛するという点に。

 

 

ー地上本部内部ー

 

 

ギンガはアキラに言われた通り、主に内部を移動しながら逃げ遅れた人がいないかを確認し、FWとの合流を目指していたが途中で戦闘機人のチンクに出くわし、やむなく戦闘開始という状況にあった。

 

(この子、強い………。でも、あと少しで押し勝てそう………能力もだいたい分かったし、あのナイフにさえ気をつければ…。それはいいとして……問題は)

 

ギンガは足元を見る。そこには、アキラが前にくれた通信機が破壊された状態で落ちていた。チンクとの戦闘の最中、いつ増援が来るかわからなかったので保険としてアキラを呼ぼうと出したが形状が見るからに通信機だったため、チンクに早々に破壊されてしまったのだ。ブリッツギャリバーを呼ぶ事も不可能ではないが、チンクの攻撃は主に爆破系。隙を見せればやられる可能性が高い。

 

(どうにか隙を……ん?)

 

なんだかんだ考えてる内にギンガは気づく。さっきから敵と自分は睨み合いを続けているが、遠距離武器を持つ敵が動かない、その理由を瞬時にギンガは悟った。

 

(まずい……)

 

 

「ハァァァァァ!!!」

 

「くっ!」

 

滑り込む様に蹴りを繰り出すが、チンクはギリギリで避ける。チンクは今の睨み合いの間に、ノーヴェとウェンディを呼んでいた。流石にこの戦闘は、勝てるか負けるかはわからないが、分が悪いと思ったからだ。

 

(タイプゼロ………旧型だからと言って油断はできないのはわかっていたが、予想以上にこいつ………強い…)

 

(もう増援は呼ばれたと考えた方が良さそうね……可能な限り頑張るけど……複数相手に戦えるかどうか…。それに今逃げたらこの子が破壊しようとしてたコントロールパネルがやられる。それは色々まずい………逃げるわけにもいかない………っ!)

 

ギンガは拳を握り締め直す。決して良い状況ではないが、ギンガは自分に出来る事をやろうと考えた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー地上本部 北側入り口付近ー

 

 

「はぁぁ!はぁ!はぁ!はぁ………」

 

北側入り口付近でガジェットを倒していたアキラは膝を付き、息を整わせる。周りにはガジェットの残骸が山の様に積まれている。そう、アキラはようやくガジェットを全滅させたのだ。五分ずつ召喚されてたガジェットも、もう十五分も召喚されていない。少しクールダウンしたところでディバイダーを杖代わりにしながら立った。

 

おそらく敵の召喚師が離れたのか詳しい状況はわからないが、とりあえずこの地点の安全は確保したと言っていいだろう。アキラは通信機を取り出しギンガに通信を取る。しかし、ギンガは通信に出ない。

 

「……?」

 

アキラは通信機の位置情報を調べた。反応がない。汗がアキラの頬を伝う。

 

「ブ、ブリッツギャリバー!」

 

流石に焦り始めたアキラはブリッツギャリバーに直接通信を取ったが、ブリッツギャリバーからも返事がない。アキラはセシルが拐われた日の、セシルを必死に探していた時の感覚を思い出した。呼吸が少しずつ荒くなり、冷静さを失い始めていた。アキラはリアクトを解除するのも忘れ、闇雲に走り出す。

 

アキラは走りながらスバルに通信を取った。

 

「スバル!!」

 

[アキラさん!どうしたんですか!?]

 

「そっちにギンガは合流してないか!?」

 

[してないですけど…ギン姉になにかあったんですか!?]

 

「わからん!ただ、通信に応答しねぇしブリッツギャリバーも応答しない!今探してるが、もし見つけたら連絡くれ!」

 

[は、はい!]

 

通信を終えると、アキラは一旦止まる。ずっと戦いっぱなしで魔力も体力も底を尽きかけだ。早いとこギンガを見つけなければ自分が倒れかねない。少し息を整わせていると、聞き覚えのあるローラーブーツの音が聞こえた。

 

「……ギンガ!?」

 

 

ー地上本部内部ー

 

 

 

「キャアァァァ!!」

 

ギンガは床を滑り、瓦礫の山に突っ込んだ。その衝撃で額から出血する。しかし、今更そんな出血はあまり気にならなかった。ギンガは既に身体中ボロボロ。また、それはブリッツギャリバーも同じだった。ギンガは何とか瓦礫の山から這い出て立ったが、格闘の構えも取れない状態だった。

 

「ブリッツギャリバー、大丈夫?」

 

『………O……K…』

 

戦闘機人の増援、ノーヴェとウェンディが来てからもうすぐ三十分くらい経つだろうか。ギンガは一人で戦い続けたが、もう限界が来ている。

 

相手のコンビネーションも中々で、たった一人で太刀打ち出来る様な物ではない。ギンガが今受けているダメージでは逃げることは愚か、まともに戦うことすら出来ないだろう。

 

「………せめて誰かと通信が取れれば…」

 

そう考えた瞬間、ノーヴェが突進してきた。

 

「おらぁぁぁぁ!!」

 

「っ!!」

 

ギンガはシールドを張ろうとしたが、わずかな反応のズレでまともにノーヴェの攻撃をくらってしまう。ギンガは吹っ飛ばされ、柱に激突した。頭を強打し、一瞬視界が暗くなる。それでギンガはもう立ち上がる気力すら起こせなくなった。

 

柱にもたれ掛かりながらギンガは床に座り込む。ノーヴェは腕を鳴らしながらギンガにゆっくり近づく。

 

「まったく、手間かけさせてくれやがって……」

 

「でもとりあえず一機確保ッスね。もうコイツ動けなさそうッスもん」

 

「ああ、とっとと意識飛ばして、装備剥いで持ってくぞ」

 

「ウィ〜ッス」

 

(スバル…父さん……母さん………ごめんなさい…………)

 

「ブレイクランナー!!」

 

(アキラ君…)

 

ノーヴェはスバルやギンガの「ウィングロード」に酷似したIS、ブレイクランナーを使ってギンガに魔力を高圧縮させた蹴りを放った。確実に技が決まるとノーヴェが思った瞬間、ノーヴェとギンガの間に何者かが入り込んだ。そしてノーヴェの蹴りに拳で対抗して来る。数秒の間、二人の競り合いが続くいたが、威力は互角だったらしく魔力同士の爆発を起こし、爆煙が立ち上る。ノーヴェは少し吹っ飛ばされながらも、着地した。

 

(くそっ!増援の管理局員か!?てか…今の蹴りは結構本気だったのにそれを相殺って……)

 

ノーヴェがそう考えた瞬間、煙の中から拳が飛んできた。

 

「んな!?」

 

突然の事にノーヴェは回避出来ずに拳を食らってしまう。

 

その拳は、ノーヴェが思っていたよりもずっと重い物だった。悲しみや、後悔、憎しみ、負の感情を全て同時に受けたような重い、悲しい拳。ノーヴェを殴った人物は…アキラだった。そのアキラの瞳に輝きはなく、吹っ飛ばされたノーヴェに目もくれずにギンガに近づく。

 

「ギンガ……無事か」

 

「う………ん……」

 

アキラが駆けつけたことに安堵したのか意識を失った。アキラはギンガの容体を隅々まで調べた後にギンガをお姫様抱っこで抱え上げる。そのまま出口の方に向かって歩き始めた。すると、殴られた上に完全に無視までされ、腹を立てたノーヴェが立ち上がる。

 

「てめぇ!待ちやがれ!ウェンディ行くぞ!!」

 

「OKッス!」

 

背を向けているアキラにウェンディがライティングボードで数発の魔力弾を、ノーヴェが腕のガンナックルでマシンガンの様な魔力弾を発射した。しかし、それらの魔力弾はアキラに当たる直前に消滅する。シールドもガードフィールドも発動させた形跡もない。「ただ単に魔力弾が消滅した」という感じだ。

 

そのことにノーヴェもウェンディもチンクも驚きを隠せない。

 

(なんスかアイツ!身体にAMFでもつけてんスか!?)

 

「知らねぇが…一発返さねぇと気が済まねぇ!!」

 

ノーヴェはアキラにブレイクランナーで蹴りかかる。アキラはそれを紙一重で避けた。次の攻撃に移ろうとノーヴェが振り向いた時、アキラが膝蹴りをノーヴェの鳩尾に食らわす。さらに間髪いれずに左こめかみに素早い蹴りを入れられたノーヴェは一瞬視界が歪む。

 

「あが………」

 

「……しつけぇな…そんなに相手して欲しかったらしてやる………だから少し待て」

 

アキラはそう言ってまたもノーヴェをほったらかし、ギンガを入り口近くの壁にもたれ掛からせた。そしてギンガの頭を撫でてから戦闘機人達の方に歩く。アキラはその途中、手を勢いよく上げた。すると氷の壁がギンガを守る様に出現する。

 

「一つ、ギンガを一人にさせたこと……」

 

「?」

 

アキラは歩きながら何か呟き始めた。

 

「一つ、自分の使命を忘れ、管理局の命令に従ったこと……一つ、俺の腕が未熟でここに来るまでに時間をかけたこと」

 

アキラは戦闘機人とある程度距離をとった場所で立ち止まる。

 

「俺は自分の罪を数えた…さぁお前等の罪を数えろ!」

 

アキラは指を指して言った。それに一番最初に反応したのはチンクだった。チンクはスティンガーを取り出し、アキラに向かって投げる。

 

「数える前にお前を殺させてもらう!」

 

「殺す?」

 

スティンガーがアキラに命中する前にアキラの姿がチンク達の視界から消えた。チンクが驚く。そして驚いたのと同時に自分の横で声が聞こえた事に更に驚く。

 

「勘違いするな」

 

チンクは振り向く前に首を掴まれ、最寄りの壁に叩きつけられた。

 

「チンク姉!」

 

「今この場にある命の生死の判断は俺が決める。テメェ等が勝手に決めていいもんじゃねぇ」

 

(こいつ………なんて力だ……)

 

チンクは首を締められながらもアキラの顔を見る。

 

チンクはアキラと目が会った瞬間、ゾクリ、と全身に冷や汗をかくような感覚を覚えた。初めて視線に恐怖という物を感じた。怒りで睨みつけているのではない。どこか悲しいような見られてるこっちまで憂鬱な気分になりそうな虚ろな目。

 

「チンク姉を離すッス!」

 

ウェンディはアキラに向かって魔力砲を放った。しかしアキラは動かずにチンク首を締め続ける。ウェンディの魔力砲はまたもアキラに当たる直前で消滅した。チンクの意識も絶え絶えになってきた時、チンクは辛うじてスティンガーを取り出してアキラの腕に突き立てようとするが、なぜかアキラはその攻撃は避ける。アキラはチンクを離してバックステップで距離を取った。

 

チンクは必死で酸素を取り込みながら床に跪く。

 

「ゲホッ!ゲホッ!」

 

「チンク姉!大丈夫ッスか?」

 

「はぁ…はぁ…ウェンディ。見たところあの男…いや、あの男は魔力系の技は効かないようだ……となると有効なのは姉とノーヴェの攻撃位だ。ウェンディ。私達は橘アキラを押さえる。お前はタイプゼロの捕獲を頼む」

 

「り、了解ッス」

 

短い作戦会議を終え、ノーヴェにも作戦を伝えるとチンクはスティンガーを構える。

 

「……作戦会議は終わったか?」

 

「私は戦闘機人No.5のチンクだ!お前は?」

 

急に名前を聞かれたアキラは表情一つ変えずにボソボソと答えた。

 

「橘アキラ……」

 

その答え方や態度、表情はまるでギンガが出会ったばかりの様な感じに戻ってしまっていた。チンクは「やはりか」と言いたげな表情でアキラとの睨み合いが続けた。そんなアキラの後ろではノーヴェが、チンクの後ろではウェンディが次の行動に移ろうとしている。

 

チンクがタイミングを読んでスティンガーを投げた。それが合図となり、ノーヴェがブレイクランナーを出し、ウェンディはライディングボードに乗ってギンガの方に向かって走り出す。しかし、アキラはチンクのスティンガーを回避すると同時にウェンディを追いかけた。ノーヴェとチンクはアキラを追いかけようとしたが、二人は急に動けなくなる。

 

「!?」

 

「バインド!?」

 

二人が気づかない様にアキラは二人の足にバインドをかけていた。そう、アキラは最初から三人の作戦はお見通しだったのだ。アキラは一気にライディングボードに乗ってるウェンディに追い付く。

 

(ちょっ……ライディングボードのスピードに追いつけるって……)

 

ウェンディに驚いてる暇などなかった。アキラはまず、ガジェットとの戦闘で折れた刀でウェンディの額に浅く傷を付ける。傷口から血が流れた。その血が目と同じ位置に流れる前にアキラは折れた刀とリアクトで巨大化したディバイダーで、ウェンディの身体中に浅い切り傷を約十数カ所付ける。その間、約二秒。

 

最後に鳩尾に一発蹴りを入れられ、ウェンディはライディングボードから叩き落とされた。

 

「ぐぁ……」

 

ウェンディのナンバーズスーツに血が染みて行く。

 

「ウェンディ!クソっ!」

 

ウェンディがやられた事でキレたノーヴェが無理矢理バインドを千切って、ブレイクランナーでアキラに襲いかかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

単調な蹴りをアキラはヒラリと避け、ウェンディと同じ様に額に傷を付け、目にも止まらぬ速さでノーヴェの身体中に傷をつけて行く。

 

「………………っ!」

 

(ダメだ!速い!対応が…間に合わ……)

 

ノーヴェは途中で、無理矢理バインドを壊したダメージもあったため立ってられなくなり、その場に尻餅を付いた。身体中が痛い。さっきからいい様にやられっ放しなのに相手に反撃すらできない事に腹を立て、ノーヴェはアキラを睨んだ。

 

「何だその目は」

 

アキラはディバイダーをノーヴェに向けた。

 

「テメェは人を殺そうとしたんだ。なら…殺されたって文句は言えねぇぞ」

 

「ぐ………」

 

ノーヴェはいよいよ死を覚悟する。しかし、アキラは動こうとしない。

 

「………?」

 

「そうだ、お前が仲間を殺してみるか?」

 

アキラは少し笑い、ノーヴェに左手を伸ばした。ノーヴェはゾッとする。スカリエッティに言われた忠告を思い出す。アキラはISを持っており、それは左手で触れた物の記憶をなんでも書き換えられるというものだった。

 

ノーヴェは急いでアキラの手をはじき、アキラから離れる。全身に入れられた切り傷がズキズキと痛み、血が流れ、体力が奪われて行く。ノーヴェはそこでアキラのこの傷の付け方をする理由を理解した。アキラは三人になるべく苦しむ死に方をさせようとしているのだと。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「そうか…俺に殺されてぇか。なら……」

 

アキラはノーヴェに向かって走り出す。ノーヴェはアキラを何とか押さえようと蹴りかかったが、アキラはそれをかわして更に身体に傷をつけて行く。ノーヴェは仲間思いだった。だから現場を自分が押さえ、二人には任務を完了させた上で逃がそうと考えていたが、アキラはノーヴェ一人がどうにかできる強さではなかった。

 

いや、いつものアキラならどうにか太刀打ちできたかも知れないが、少なくとも今のアキラに勝てそうな者はこの場にはいない。ノーヴェは何も出来ず、身体に傷が増える一方。反撃をしても簡単に避けられる。そんな時、チンクとウェンディの声が聞こえた。

 

「ノーヴェ!」

 

「そっから離れるッス!」

 

ノーヴェは意識も朦朧な状態でただ言葉に従い横に飛んだ。それと同時にアキラに向かって魔力砲とスティンガーが飛んでくる。しかしそれはアキラを狙ったのではなく、アキラの後ろの柱に当たった。崩れかけだった柱は二人の攻撃で根元が砕け、アキラに向かって倒れる。だが、アキラは動じる事なく腰を低く構えた。

 

「………氷牙破脚!!!」

 

柱が完全に倒れる直前、アキラの足に氷の鎧が装着され、そして勢いよく蹴り上げる。柱は木っ端微塵になった。

 

「くっ……ウェンディ、ノーヴェ、お前達はタイプゼロを頼む。ここまできたんだ。持って帰るぞ!」

 

「チンク姉!もう危険だ!」

 

チンクは体格的にも勝てそうにないアキラに向かって走り出す。スティンガーをいつでも投げられる様に構えながら。

 

ノーヴェとウェンディは止める訳にも行かず、せめてチンクの願いを叶えようとギンガの方に向かった。チンクは少し勝つ自信がある。かつて右目を犠牲にあの騎士、ゼストに勝ったのだ。それがチンクの誇りでもある。だが、この時の行動は間違いだった。

 

「でぁぁぁぁぁ!!!」

 

「………」

 

次の瞬間、血飛沫が舞うことになった。

 

ギンガまでもう少しというところまで来ていたノーヴェとウェンディの目の前に、一瞬で傷だらけにされたチンクが投げ飛ばされて来る。

 

「……っ!」

 

「チンク姉ぇぇ!!!」

 

「かは………はぁ、はぁ…………」

 

ウェンディは死の覚悟を決めてライディングボードを持ってチンクの前に出た。

 

「ノーヴェ!チンク姉持って早く逃げるッスこいつ危険過ぎ…」

 

そこまで言ったところでウェンディの脚に激痛が走ったのと同時にその場に倒れこむ。足を見ると、両足の膝下に深い切り傷がつけられていた。痛みで表情を歪ませていると、アキラがウェンディの前に立つ。そしてまるでゴミを見るかの様な目でウェンディを見た。

 

「く…」

 

「逃がすかよ…」

 

「この…」

 

ボロボロになりながらもチンクがスティンガーを取り出す。するとアキラは腕を素早く動かした。刃が届く距離ではないのにチンクのスティンガーを持った指の根元に三ミリ程の切り傷が付いた。痛みでチンクはスティンガーを離してしまう。

 

「これで四回。テメェ等の首を落とすのを見逃してやった回数だ。もっと苦しめてもいいんだが、ギンガを病院に連れてかなきゃならねぇ。もう終わりにする」

 

終わりにするということは、三人を殺すということだ。アキラはまずチンクの首にディバイダーの刃を当てる。死が間近に迫ってる事を実感し、チンクの表情が恐怖に包まれた。アキラは何の躊躇も遠慮もなくディバイダーを振り上げ、チンクの首に振り下ろした。チンクは目を瞑る。

 

 

 

「殺しちゃダメェ!!!!!!!」

 

誰かの声が響いた。アキラはディバイダーをチンクの首に二ミリ程の入った所で止め、声がした方を向く。叫んだのは、意識を取り戻してアキラが作った氷の壁の一部を破壊し、上半身を氷壁から出したギンガだった。

 

「殺しちゃダメ…殺しちゃったら、なんにも残らない!アキラ君も、その子たちも!」

 

アキラは改めてチンクを見る。恐怖に震えるその表情と幼い容姿が、アキラが自分で封印していた記憶の何かと重なる。するとアキラの手は急に震えだし、冷や汗を滝のように流し始めた。

 

「は…………あ………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アキラはディバイダーを落とし、両手で頭を押さえて何かに怯えるように叫んだ。それと同時に、チンクはこれが最後のチャンスだと思いスティンガーを出し、アキラに向かって投げた。アキラは顔をあげる。スティンガーがもうすぐそこまで迫ってるのを認識し、避けようとした。だが、思い出す。今、自分の数メートル後ろにギンガがいることを。

 

避ければセシルの二の舞だ。しかし、さっきの戦闘で魔力も体力も空に近い。アキラのできることは、自らの身体を盾にすることだけだった。

 

 

アキラは両手を広げ、仁王立ちする。スティンガーが身体のあちこちに刺さる。そのスティンガーはチンクが指を鳴らすと、チンクのISで爆発した。

 

 

 

続く。

 


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