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「……………………」
「貴様……橘アキラではないな。誰だ?」
「…………………」
返事はない。ただ黄色く光った右目でアーベルと捕まったギンガを見つめるだけだった。
「どうやら言葉が通じないらしいな」
アーベルは魔力砲をアキラに向けて放つ。アキラはそれを刀で別の場所にはじいた。アーベルは目を疑った。今自分が放ったのはアキラを壁の端までは吹き飛ばす威力だった…はず。それを片手で…。
アーベルが驚いていると、アキラは気がつくとアーベルの目の前まで迫った。
「っっ!!!」
アーベルは急いでジーンリンカーコアを庇う。しかし、アキラはジーンリンカーコアを狙わず、アーベルを拳で殴り飛ばした。そのことにギンガもアーベルも驚く。アキラは最初、「ルーテシアには攻撃出来ない」と言ったのだ。
その後に、ミッドの人々のことを考え、仕方なく殺そうとしたが、殺すなら刀でやれば良いものを何故か殴ったのだ。それも、なんの躊躇も戸惑いもなく。
「ぐ……」
「お前からは力を感じるな。その力、よこせ」
(力……?ジーンリンカーコアのことを言ってるのか?)
「ぐふっ!」
アキラは倒れたアーベルの腹を足で踏みつけた。ルーテシアの小柄な身体にアキラの体重がのしかかり、肋骨からミシミシと嫌な音がする。吐瀉物のようなものを吐きながら苦しんでいる。
そのことに何も気にせず、アキラは刀の先端をアーベルの喉に向けた。そのまま刀で喉に刺そうとすると、ギンガが後ろからアキラの腕を止める。
「危ない……アキラ君!なにしてるの!?ジーンリンカーコアは左手と融合してるんだよ!?やっぱりダメだよ人殺しなんて!!」
「…」
ギンガが支えていると、アキラは左手を刀から離し、下に降ろした。ギンガは諦めてくれたのかとホッとしたが、それもつかの間。ギンガの腹部に激痛が走った。腹部を見ると、アキラがいつも携帯している小刀がギンガの腹部に刺さっている。ギンガは顔を青くする。
ギンガがフラリと一歩下がると同時にアキラの手を離してしまった。アキラは一旦アーベルを置いて、ギンガを蹴り飛ばす。
「お前からは力を感じない………俺が欲しいのは力だけだ……………力のない奴は…死ね」
アキラはギンガに刀を向ける。その時、ギンガもようやく悟った。今目の前にいるのは確かに肉体はアキラだが中身が違うことに。ついさっきまで一緒にいたアキラの人格とは違う、別のアキラがいるようだった。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。今のアキラが別の人格なら、例え相手が自分であろうと殺される可能性は大いにある。実際今向けられている刀がいつ振り下ろされるかわからない。
「あなたは、誰?アキラ君なの?そうじゃないの?」
「俺は、橘アキラだ。それ以外の誰でもない」
自分がアキラだと自覚しているあたりを見ると、自身が本当の人格だと思っているようだ。
(でも、何だろう、アキラ君って感じはさっきからしてるんだけど、、、なんか、大切なものが全部抜け落ちちゃってるような)
「無駄話が過ぎたな。もうお前は死んでろ」
アキラは思いっきり刀を振りかざす。ギンガは動こうとしたが、刺された箇所が痛み急には動けなかった。いよいよ死を覚悟したギンガの前に何者かが飛び込み、アキラの刀を防いだ。
ルーテシア、いや、アーベルだ。アーベルは魔力供給用に持っている別のジーンリンカーコアから魔力を放ち、シールドを作りアキラの刀を防いでいる。
「ちっ!」
シールドが展開されていない場所を狙ってアキラは二人まとめて蹴り飛ばした。
「きゃあ!」
「くぅ!」
ギンガは起き上がるとすぐにアーベルから離れる。刺された箇所はまだ痛み、血が出ているが、いつまでも敵の近くにいるわけにもいかなかった。
「どういう風の吹きまわし?あなたが私庇うなんて」
「………誰であろうと、自分の犯した間違いと同じ過ちはしてもらいたくないものだな」
「え?」
「そんなことより、まずあいつをどうにかしなければ二人とも殺されんぞ」
「アキラ君……………」
ギンガがアキラを見ると、アキラは足元にアーベルが落としたジーンリンカーコアを拾い上げる。そして何故か大切そうに握りしめた。そして、小さく呟いた。
「これだけじゃ、足りない………もっと力を集めなきゃ……」
◆◆◆◆◆◆◆
ーとある研究施設ー
さっきまで戦っていたアキラの意識はどこかの研究所の中にある生体ポッドに入ってる肉体で目覚めた。その身体は身体は動かせず、アキラは目だけを動かして周りの景色を見た。ポッド内には緑色の液体が充満し、よく見えなかったがアキラにはそこに見覚えがあるような気がした。
「ここは…どこだ…?それにこの体は?…………」
アキラがしばらく一人で戸惑っていると、生体ポッドの前に誰かが歩いて来る。見ると、あの白い甲冑を纏った男だった。男は念話でアキラに話しかける。
(久しぶりだな橘アキラ)
(お前…何故俺だとわかる?)
(ん?そりゃあお前………あ?ああ、まだ記憶が戻っていないのか)
アキラは男の言葉疑問を抱いた。まるで未来を知っているかのような口調にで話すからだ。それよりも記憶の話の方が重要度が高かったが。
(それは…どういう意味だ)
(口で話すよりも、記憶を戻した方がいいだろう。ついでにお前の意識を元の身体に戻す手伝いをしてやる)
男はアキラに手をかざした。
(思い出せ。お前の犯した過ちと、その身体のことを)
ー神威ー
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アーベルは残った予備のジーンリンカーコアを三つ持ち、魔力を増大させた魔力砲をアキラに向けて連射する。アキラはそれを紙一重で避け、刀で斬りかかった。アキラはさっき拾ったジーンリンカーコアを片手に持つことで刀の攻撃力を増加させている。アキラが振った刀は外れたが、床に小さなクレーターができた。アーベルは再び構え、バインドでアキラを縛る。
「ふっ飛べ」
アーベルは魔力をかなり高くした魔力砲を放った。アキラはそれをモロに食らったが、表情一つ変えずにバインドを砕いてアーベルに再び斬りかかる。アーベルはシールドを全開にしてそれを防いだ。
「ぐぅぅ!」
「それもよこせ」
アキラはジーンリンカーコアを握った拳でアーベルのシールドに僅かな隙間を生み出し、手を入れてジーンリンカーコアを一つ奪還する。アーベルは吹っ飛ばされた。
「がはっ!」
「残りと、お前の身体に融合している分も貰おう」
アキラがアーベルに近づこうとすると、ギンガが間に入り込み、通せんぼをする。
「邪魔だ。失せろ」
今度はなんの躊躇も、遠慮もせず、刀を振り上げた。しかし、その腕は降り下ろせずに止まる。アキラは困惑の表情を浮かべ、動かない手を必死に動かそうとした。だが、動かないそれどころか身体の自由がどんどん奪われて行く。
「……?なんだ。何が起きて………なぜだ。何故俺を戻そうとする…お前の………俺たちの為だとわからないのか?」
(何が起きてるの?)
アキラの身体の動きはどんどん鈍くなり、フラついて行く。なにやらぶつぶつと呟いてはいるが、決して独り言などではなく誰かと話しているようだった。しばらくそのような状態が続いたが、いきなりアキラは怒鳴った。
「うるせぇぇぇ!!!!!!!!これは俺の身体だぁぁぁ!!!!」
叫んだかと思うとアキラはその場にしゃがみ込む。ギンガが恐る恐る近寄ると、さっきまでの違和感は消え、いつものアキラに戻っていた。
ギンガの姿が視界に映ると、アキラは急に怯えた表情を見せたがすぐいつもと変わらない声でギンガに言う。
「……スマネェ…迷惑かけたな。傷薬渡しとくから、休んでろ。決着つけてくる」
「あ、うん………」
アキラは立ち上がり、アーベルに向かって歩いた。近づいてくるアキラを見てアーベルも立ち上がり、構える。
「ずいぶんボロボロじゃねぇか」
「貴様もやせ我慢しているのは目に見えてるぞ?まぁ俺の砲撃をモロに食らってんだ。立っているだけ褒めてやるよ。みたところもう魔力もなさそうだが…まだ立ちはだかるつもりか?」
「俺は、守るって決めたモンを守るだけだ。身体だけでなく、心もな。そのために命が尽きようと…俺は戦う。どっちにしろこのままじゃ街は吹っ飛ぶ。その中には、俺の大切な人の大切なモンが沢山ある。だから、俺がここでお前を止める」
アキラは刀を鞘に収め、居合切りの構えをとった。アーベルも自分の剣を拾い上げ、構える。
二人の間に緊張が流れた。アキラの額から流れた汗が、床に落ちた…と同時に二人は動く。数メートルの距離を走り抜け、二人は一気に接近した。二人同時に剣を振る。アキラの振った剣をアーベルは避け、後ろに回り込み、剣を振り下ろした。
アキラはすぐに刀を後ろに回し、アーベルを斬る。アーベルの剣はアキラの左腕を切り落としたが、アキラはルーテシアの身体と融合しているジーンリンカーコアに刀を突き立てた。そして先の戦いでついた傷から一気にジーンリンカーコアを切り裂く。二人は別々に吹っ飛ばされたが、アキラはギンガが受け止めた。
「大丈夫!?左手が………」
「元々機械だったんだ。そんな心配することじゃねぇよ…それより奴は…」
二人はアーベルを見る。ジーンリンカーコアは完全に砕かれ、融合も徐々に解除されて行ってる。二人が「ふぅ」と一息つくたのもつかの間、奥の扉からウーノが現れた。アキラは自分のバリアジャケットを破り、左手の止血をしながらウーノを睨む。
「てめぇは……」
「安心してください。敵として来た訳じゃありません。主砲を止めに来たんです」
ウーノは二人の前を通り、主砲の停止キーを使って主砲のエネルギー集束を止めた。アキラとギンガがキョトンとしてると、今度はルーテシアに近づき、ジーンリンカーコアの破片をルーテシアの身体から摘出し、手当をした。アキラのジーンリンカーコアの融合後が治りかけてるのを見ると、ルーテシアの跡もそんなに残らないだろう。
「どういう風の吹きまわしだ」
「いえ、先ほどドクターがいる研究所からも、ゆりかごからも連絡が断絶されました。あなた方の勝ちです」
「………」
ウーノはルーテシアを抱え、アキラ達のに近づき手渡す。ギンガがそれを受け止めたのと同時にウーノは出口に向かって歩き始めた。アキラはまだ腕が切られてから、身体の重心が崩れている所為でまだ立ち上がれないので壁に寄りかかりながら立ち上がる。
「で、お前はどうするんだ」
「大人しく捕まって、妹達やドクターと檻の中にいます」
「…………管理局には構成プログラムってのがある。正しい教育を受けれてなかったことを認めれば、しばらく拘置所送りにゃなるが、しばらくすれば出られる」
「それを私に受けろと?」
アキラは頷いた。
「無理ですよ。私なんかじゃ。どう頑張っても、変わり様がありません」
アキラは「戦闘機人ってのはよく似てんな」と思いながらも続ける。
「これをいうのは二度目だが、無理なんかじゃねぇよ。少しずつでいい。手を伸ばせ。誰にだって自由になる権利はある」
「…………」
ウーノの気持ちが一瞬ぐらついた時だった、突如戦艦が大きく揺れた。全員が驚いたのと同時に異常を知らせるアラートが鳴り響く。ウーノが急いで異常の原因を突き止める。
原因は、急にエネルギーの集束を中止した神威の主砲が故障し、それまで貯めていたエネルギーが戦闘の影響で既に傷ついていた貯蔵庫で爆発したのだ。爆発は別の場所の異常に繋がり、また爆発を起こす。
そもそも神威自体が既に劣化していたのもあり、神威は空中崩壊を始めた。
「ヤベェぞ早く脱出しねぇと……」
「でも……どうしたら………」
動けない人間が二人。アキラは左腕を失い、ギンガも刺されている。ウーノは動けるが、全員を抱えて脱出できる程の力も持っていなかった。
「…………ここで死ぬ……それも悪くないんでしょうか。ドクター。罪を償う時なんでしょうか…」
ウーノが呟いていると、ウーノの上の天井が崩れた。刹那、アキラはウーノを突き飛ばし、変わりに瓦礫の下敷きになる。ウーノはアキラの行動に呆然とし、ギンガは声にならない声を上げてアキラの埋まった瓦礫に駆け寄る。
「………」
「アキラ君!アキラ君!」
ギンガが取り乱していると、ちょうどそこにスバルとティアナが救助に来た。
「ギン姉!」
「スバル!アキラ君が…アキラ君がこの下に……」
スバルはそこまで聞くとすぐにリボルバーナックルで瓦礫を吹き飛ばす。
幸いにも瓦礫は直撃しなかったのかアキラの怪我はそこまでひどくなく、アキラは瓦礫が退いたのと同時にヨロヨロと立ち上がる。ティアナとスバルは怪我の規模に顔を青ざめた。
「酷い怪我………」
「すぐに出よう!あなたも事件の関係者ですか!?」
ウーノは小さく頷く。ティアナはすぐにウーノにバインドをかけ、メグとウーノをバイクに乗せる。スバルはルーテシアを背負い、ギンガに肩を貸す。アキラに空いている肩を貸そうとするが。アキラはスバルの方にいかなかった。
「アキラ君!早く!」
「先に行け」
「え?」
アキラはコントロールパネルで艦内構造を見ていた。
「先にってもう時間が…」
「まだ…この船の動力源は動いている。もしこのまま放って置けばエネルギーが膨張し続けて最終的に動力源が核爆発並みの爆発を起こしてして大変な被害がでる。俺が止めてくるから先に行け」
「でも……無事に帰ってこれるって保証は!?」
「スバル、お前ももう背負うのが限界なんだろ。俺よりギンガを無事に届けてやってくれ」
「アキラ君!」
ギンガとスバルの説得も虚しく、アキラは奥へ進んで行ってしまった。スバルが追いかけようとしたが、瓦礫が道を塞ぎ、全員を背負ったままでは追いかけるのは不可能になってしまった。
ー動力源へ通じる通路ー
俺は今、動力源を止める為に廊下を歩いている。怪我の多さと、出血多量でもう立っているのもやっとの状況だが意識ははっきりとしていた。あっちの身体から戻ってくるまで、少し記憶を取り戻した。まだはっきりとはしてないが、俺はいくつもの罪を重ねていること。そして俺にはギンガのそばにいる資格がないこと。
そんな記憶があるのことだけは思い出したが、鮮明には思い出せない。だがそれがわかっただけで充分だ。ここで罪を償う。エネルギーが膨張している動力源に適当に刺激を与えてやればすぐに大爆発を起こして消滅するはず。
少なくともこのあと放っておいて起こる爆発よりもはるかに小さい規模の爆発で済むだろう。だが俺の手にあるのは刀一本。これで斬りかかるしかない。爆発に巻き込まれればかなり高確率で死ぬだろうし。死ねなくても、この飛行高度なら落ちれば……。
「やるか。償いの時だ」
俺は思いっきり動力源に切りかかったと同時に動力源は爆発を起こした。しかし、不運なことに俺はそれでも生きていた。艦内から空中に放り出された。どのみち死ぬだろう。俺はここで死んで、全ての罪を償う。
(ダメだよ)
「え?」
声が聞こえた。目を開けると、そこにはセシルがいた。
(死んで償うなんて無責任だよ。それに、お父様とお母様に言われたんでしょ?私の分まで生きてくれって。私はこんな若さじゃ死なないよ?)
セシルはどんどん遠くに行ってしまう。俺は必死に手を伸ばした。それでも、届かない。
(それに、護るんでしょ?ギンガさんのこと。だったらちゃんと最期まで、護らなきゃダメだよ)
「セシル!!!!!!」
俺が差し伸べた手は何も掴めず。俺はセシルの名前を叫んだと同時に意識を失った。無造作に宙に放り出された手は、少しすると、誰かの温もりを感じた。
続く。