とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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第二話 過去

とある日、ギンガは少し浮かれた気分で出勤した。

 

その理由は今日、新人歓迎会があるからだ。全員が108のミーティングルームに集まり、研修を終えた新人たちが前に出て軽い自己紹介をし、バイキング形式の昼食を共にする。全体的にはそれだけだが歓迎会はその日の帰りに新人達を誘い、夕食に108部隊の各部署の全員でいくのだ。

 

ギンガは意外とそれが楽しみだった。正しくは、振舞われる料理が楽しみだったのだが。そして、いつも通り仕事をしていると隊舎内に放送が流れた。

 

[連絡です。これより、新人歓迎会を始めますので、隊舎にいる方は、ミーティングルームに集まって下さい]

 

(来たっ♪)

 

 

―ミーティングルーム―

 

 

ミーティングルームに全員が集まり、式が始まった。まだ初々しい顔の新人達が緊張した表情で台の上で自己紹介をしている。

 

「懐かしいなぁ…」

 

「ねぇギンガ」

 

新人達にかつての自分を重ね、懐かしんでいるとギンガの同僚が話しかけてきた。

 

「どしたの?」

 

「ギンガは新人君に好みの子とかいた?」

 

「ううん。ていうか、新人の子をそんな風に見てないし………」

 

「ダメダメ〜。いかに自分の僕を作るかよ。でもあたしは次の成績優秀者に期待してるよ」

 

「成績優秀者か…」

 

新人歓迎会は、始めに通常入隊の者を名前を呼んで一人ずつミーティングルームに入れて台の上で自己紹介させる。その後は同じやり方で成績優秀者、つまり推薦入隊の者を入れる。最後に名前を呼ばれた者が成績最優秀者だ。

 

「今年の最優秀者はどんな子かな~」

 

「さぁ…」

 

成績優秀者の名前が次々とよばれそして最後の最優秀者の発表になった。

 

「今年の成績最優秀者…」

 

「…」

 

「橘アキラ君です!!」

 

「え?」

 

ギンガは急に固まった。聞いた事のある名前…それも、自分と関わりの深い。だが、同姓同名ということも考えられる。それに彼が管理局に入ってまだ一年程度、少なくとも訓練校をでるには最短でも二年が必要…なはずだが。

 

「それではどうぞ!」

 

扉が開かれ一人の青年が入ってくる。特徴的な長めの茶髪。片方だけ伸び、完全に隠れてる右眼。肩に背負った、刀。冷たい眼。間違いない。

 

「嘘…」

 

アキラは台の上に立ち、敬礼する。

 

「橘アキラ陸曹です。本日付けで地上108部隊に所属になります。よろしくお願いします」

 

ミーティングルームは騒然としギンガは唖然とした。108のメンバーが驚いているのは、新人なのに陸曹という階級にいること。ギンガが驚いているのは、言うまでもない

 

「ん?ギンガどうしたの」

 

同僚が話しかけたが、ギンガは硬直したままだ。アキラの自己紹介が終わると、昼食会に移行した。昼食会の間、ギンガはアキラから目を離さなかった。ギンガはアキラが席を立ったのを見て、また後をつける。

 

「えっと…トイレは…」

 

「トイレならそこの角を曲がったところだよ」

 

「あん?」

 

アキラが振り向くとそこにはギンガがいた。

 

「ギンガさん…」

 

「久しぶり…一年………ぶりだよね?」

 

「……」

 

ギンガはなにか遠慮している様子で尋ねる。

 

「聞かせてくれないかな…君がなんでいきなり陸曹になってるのか…」

 

「不正をしたとか疑ってんのか?」

 

「ううん…」

 

「アキラ君?」

 

「ギンガさん……………」

 

アキラがいきなり抱きついてきた。突然の出来事にギンガは茫然としていた。が、すぐに我に帰る。

 

「えっ…ええええ!?ちょっなに!?どうしたの?」

 

「………すまない。あと少し、こうさせてくれ…」

 

アキラの手は震えていた。表情は相変わらず無表情だが若干、口がひきつっている。声も若干震えてる様子だった。ギンガは事情があると信じて動こうとしなかった。不思議と橘アキラと言う男に心を許してしたのだ。

 

「橘君…」

 

「俺はな…あんたに会いたかったんだ…だから…上官に頼んで一気に位をあげてもらった。当然試験は受けたけどな」

 

「私に会いたかった?」

 

「…しばらくしたら後でまた説明する」

 

数分後、アキラはギンガを離した。手の震えは収まったらしい。

 

「大丈夫?」

 

「…すまない、いきなり変なことして……さっきも言ったが、またあとで話したい」

 

「うん…まぁいいよ。それじゃまた…あとでね」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

アキラは自分の机に荷物を運び込んだ。

 

「これで荷物は最後か…」

 

アキラはこの一年半、ずっと不安だった。自分を理解してくれる者がいなかった。訓練校での成績は優秀だった。いや、優秀過ぎた。だからみんなに邪魔者扱いされた。それが嫌だったから飛び級で陸曹にまで一気上り詰めた。すぐにでもギンガに会いたかった。だから上層部に相談して周りよりも早く卒業させてもらったのだ。

 

唯一、ギンガだけが自分を理解してくれてると思っていた。だからついあんなことをしてしまった。我ながらどうかしてるとアキラは思う。アキラは、陸曹になったのでこのあと同じ陸曹と教官をしなければならない。

 

新人がいきなり教官をするなど、異例中の異例だが、それ以外にアキラはまだ不安はあった。

 

「俺みたいなのが教えていいのか?」

 

 

―訓練場―

 

 

「整列!」

 

その場にいた全員が綺麗に整列する。陸戦が多いせいか皆体格がいい。都合により陸曹とギンガさん、俺、その他サポート2人で教官を勤めることになった。教官とは言ってもやり方教えたらその後自分達も混じってやるのだが。

 

「えー皆さん。今回は私達だけでなく新しく配属されたアキラ陸曹も担当しますがあくまでサポートです」

 

「よ…よろしく」

 

陸士や陸兵が期待したような視線を送ってくる。なんだこれ、きもちわるい。

 

「アキラ陸曹は、一年半前に時空管理局陸士訓練校から入局。一年半で陸曹まで昇り詰め…」

 

「ざわ…」

 

辺りがざわつく。周りが期待や尊敬、嫉妬、様々な感情を込めた視線を送ってくる。嫌だ。やめろ。見るな。こわい。きもちわるい。目眩がする。様々なマイナスの感情が俺の中を走り抜け、その刹那、脳裏に懐かしい記憶が流れた。

 

(アキラ♪)

 

「……うっ!うげえぇ!!」

 

俺は突然、嘔吐した。

 

「橘陸曹!?」

 

すぐにギンガさんが俺のもとにきて支えてくれた。

 

「私がアキラ陸曹を医務室まで連れて行きます。カイ陸曹、後の事よろしくお願いします」

 

「わ…わかりました」

 

ギンガさんは俺の歩く速度に合わせてくれ、肩を貸しながら医務室に向かっていった。医務室に着くと、そのまま手を洗い、口をゆすぎ、ベットに寝かされた。一年たっても俺の目付きや表情は変わらずむしろひどくなっていたらしい。

 

医務室の先生はすっかり震えている。ギンガは先生に耳打ちしたらしいが声がカーテン越しに聞こえた。

 

「あの…私が看病しましょうか?」

 

「お願いします~…アキラ陸曹恐すぎまよ~」

 

半泣きで頼んでいるようだ。

 

「それじゃ、ギンガ陸曹、後頼みます」

 

「はい」

 

二人の会話が終わり、カーテンで部屋が仕切られる。

 

「橘君、大丈夫?」

 

「…ああ」

 

「一体どうしたの?橘君。風邪でもひいてる?」

 

「………」

 

しばらくの沈黙。

 

「俺は…傭兵会社の家預けられたんだ…」

 

「…え?」

 

「小さい頃から訓練うけて、体は戦い方だけを覚えて…いつか、俺が少女を殺したっていったよな?」

 

「うん…」

 

「おんなじだったんだよ。後輩たちの目が。あの子と」

 

「目?」

 

「あの期待とか尊敬とか…そんな感じの眼差しが」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

俺は昔…14歳の時まで傭兵をやっていた。それである屋敷のお嬢様の護衛を頼まれたんだ。傭兵+護衛でも、まるで使用人のような扱いをうけた。特に護衛対象のお嬢様………セシルはなついてくれた。

 

「ねぇアキラ!」

 

「どうしました?お嬢様」

 

「だから、セシルって呼んでってば!あと敬語を使わないで!!」

 

「はい、おじょ…じゃない。セシル?」

 

少し不満そうな顔になるセシル。でもすぐに

 

「まっいっか!」

 

と笑ってくる。太陽のような笑顔をしてくれる子で…仕事じゃなくても守ってやりたいって思える様な子だったんだ。誰に対しても分け隔てなく接してくれる。

 

「ところでどうしたんで…失礼。どうしたんだ?」

 

「ああ、アキラってなんで…なんていうか~愛想がない?っていうか、冷たいっていうか…人との付き合いが苦手そう感じっていうか……絶対人前に出ない………あ、根暗っていうの?それも違うかな」

 

「言いたい放題だな」

 

「うん!で、なんで?」

 

セシルはそんな風なちょっと変わった子だった。

 

「まぁ…俺は今は護衛任務についてるがあくまでも傭兵だからな」

 

「………ようへい、愛想が無きゃ駄目なの?」

 

よく不思議そうな視線を送ってきた。俺はセシルの頭を撫でながら目線をセシルにあわせてしゃがむ。

 

「傭兵はな、金さえあればなんでもする。…人殺しだってな。そんな奴が愛想が良くてもな…」

 

「アキラは…誰か殺したことあるの?」

 

今度は心配そうな顔をされる。セシルに嘘はつきたくなかったがこんときだけはしょうがなかった。初めてってわけでもないが、嫌われたくないって思ったんだ。だから…。

 

「俺はない…。それに人を殺したくない」

 

「そっか…よかった…」

 

 

 

数日後のセシルの登校中、とある話をした。セシルには前に護衛がいたという話を風の噂で耳にしたからちょっと確認したくなったのだ。別にそのことに嫉妬してセシルを責め立てるわけじゃ無いが、話すこともなかったんでちょっとした話題にした。

 

「そういえばお嬢…んん゙…セシルは俺の前に一人、護衛がいたらしいけど…」

 

「え?……ああ。うん」

 

セシルは思い出したように頷いた。

 

「なんで俺に変わったんだ?」

 

「あー…前の護衛の人、アキラ以上に愛想も何もなかったの。だからお父様に言って護衛変えてもらったの」

 

「それで俺に愛想なかったら意味なくねぇか?」

 

「ううん、アキラの方がまだマシー」

 

そんな会話をしながら学校に向かう途中、目の前で交通事故が起きた。おまけに車の破片がセシルを目掛けて飛んでくる。考えるより先に体が動き、俺は刀を抜いてセシルの前に飛び出した。刀でどうにか出来るかどうかはわからなかったが、最悪自分の体を盾にしてでも守るつもりだった。

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

次の瞬間、セシルに向かって来てた破片は真っ二つになりセシルの横を抜けていく。

 

「セシル、大丈夫か!?」

 

「う、うん…」

 

一息ついて刀を鞘に戻し、また歩き始めた。学校までもそう遠くない。切った破片が二時災害を起こしてようが、俺にとっちゃ関係のないことだった。だから事故は無視してとっとと学校へ行った。

 

 

―校門―

 

 

「それじゃ、アキラ!いってきます!」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

いくら護衛とはいえ、学校内までは入れない。だが離れるわけにもいかず、外で放課後まで待つことになるが特に苦ではなかった。セシルは体育の時間等、外にでる授業ではたまに気づいて手を振ってくれる。それがなんとなく嬉しかった。

 

そして放課後。

 

「アキラー!」

 

「セシル!」

 

HRが終わったセシルが手を振って駆けてくる。セシルの目線までしゃがんで突っ込んでくるセシルを受け止めた。

 

「おまたせ!」

 

「ああ。じゃ、帰るか」

 

そう言って、帰っていく俺達はまるで兄妹のようだってよく言われた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ア~キラ!!」

 

「うわ!びっくりした!」

 

ある日、壁にもたれ掛かり、刀の整備をしていると二階の窓からセシルが話しかけてきた。何の用だと思ってたらいきなりセシルが窓の縁に足を掛けた。

 

「お、おい!危ねぇぞ!」

 

「いっくよ~……とう!!」

 

「おいおい……っ!」

 

二階の窓から飛び降りる。しかも、すんごい笑顔で。俺は手元にあった刀の鞘を手に取り、狙いを定める。俺はセシルの着ていた服のフードに鞘を引っかけて、一回転してセシルを脇に抱え込む。

 

とりあえずセシルを無傷でキャッチできて良かったと安堵のため息をついた。

 

「たくっ…なんてことしやがる…」

 

「ねぇアキラ、なんでアキラはいつも一番に助けてくれるの?」

 

「あ?なんでって護衛対象だからだろ…」

 

なにを当然のことを。と言いたげな顔で俺は答えた。

 

「そーゆうんじゃなくて…自意識過剰だったらあれだけど…なんか私が助かったらあとはどうでもいいっていうか…前の事故の時も私助けたら後は無視してたし、今だって大事な刀のお手入れ中だったのに…」

 

アキラはその質問にそっぽを向いて答える。照れているのかは不明だった。

 

「さぁな、単に金のためかもしれないぞ?」

 

「……そんなことないでしょ?だってアキラ、そんな人じゃないもん」

 

「セシル…」

 

俺は嬉しかったこんな風に言ってくれる人がいてくれて…。その時のセシルの目は期待や尊敬に満ちていた。だから俺は心に誓った。この子を必ず守り通す、なにがあっても。そう…決めてた筈なのに…奴は俺の前に現れた。

 

 

ーある日の放課後ー

 

 

「遅いな…セシル…」

 

下校の時間にセシルがこなかった。普段だったら下校の時間になると手を大きく振りながら校舎から走ってくるのだが。

 

「変だな…」

 

不信に思ったアキラは校内を探してみた。アキラは校内全て見たがいない。もしかしたらと思い、校門に行ったがいない。アキラは次第に不安にかられた。

 

「セシル!!何処だ!?セシルー!!」

 

探していると突然アキラの携帯に電話が入る。

 

「たく…この急いでる時に!!…もしもし?」

 

[アキラァ!助けて!!]

 

「セシル!?」

 

電話から聞こえたセシルの助けを求める声。それにアキラは声をあげる。

 

[もしもし?セシルちゃんの護衛の橘アキラさんですか?]

 

電話の声がかわる。声を変えてるせいで誰か分からない。いや、今のアキラに誰であろうと関係なかった。必ず見つけ出してセシルを助ける。それしか頭にない。

 

アキラは目を血走せながら電話の主に叫んだ。

 

「てめぇ誰だ!!セシルをどこにやりやがった!!セシルを…セシルどうした!!」

 

[あっはあはあは!!すごいねぇ!声を聞かせただけでその怒りよう!]

 

しゃべり方からなにから何までムカつくとアキラは思った。セシルの事を思うと早く助けたい気持ちも生まれ、アキラは余計に腹立たしく感じている。

 

[まぁそんな怒んないでよ。あ、ちなみにセシルちゃんはこっちで預かってるから。返して欲しかったら20万用意してね]

 

「ふざけんじゃねぇ…そんなちいせぇ金のためにセシルを拐ったのか!!」

 

[あははは!冗談冗談!!言ってみてかっただけだよ。ま、本当に返して欲しかったら二丁目の第二倉庫にきてね。お金はいらないから。バイバーイ!]

 

電話は切れた。

 

ぐしゃっ!

 

怒りに任せ、アキラは携帯を手で握り潰す。金属片や、コードの先端が手に刺さったが、アキラは気づいてない。

 

「ふざけんな…ふざけんなぁ!!」

 

携帯を潰した手で壁を殴った。怒りを壁にぶつけていてもしょうがないのでアキラは指定された場所に走った。

 

 

―第二倉庫―

 

 

「アニキ…本当に来るんですかね」

 

「来るよ…彼は絶対に…」

 

倉庫の外が騒がしくなると銃声が聞こえてきた。

 

「ほら来た…」

 

「アニキィ!大変で…」

 

外の見回りをしていた部下が倉庫の中に、飛び込んで来るがその瞬間、背後にいた何者かに斬られる。現れたのは恐ろしい形相をしたアキラだった。

 

「来てやったぜ…外道共……………セシルを…セシルを返せ…っ!」

 

「勿論返してあげるよ。ただ…ここにいる部下を倒せたらね」

 

アニキと呼ばれてた天狗のお面を着けた男が手を上げるとザッと300人はいるであろう部下がそこかしこから出てきた。

 

「外の見回りも倒して来たんだろ?彼らも倒せるかな?」

 

「ECディバイダー…セットアップ!」

 

『Set up』

 

アキラの掛け声で左手に銃剣が出現し、アキラはそれと刀を構えて、敵に突っ込んでいった。アキラは向かってくる敵を次々と斬り倒していく。もちろん反撃も受けるがアキラは立ち止まることはなかった。

 

「セシルを…返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「あぁっはぁはあはあはぁ!!!凄いねぇ!まさか全員倒すなんて!」

 

「はやくセシルを返せ…」

 

「でも…ちょっと無理しすぎじゃないかな?それにみんな殺した訳じゃないみたいだね」

 

確かにアキラはだいぶ無理をしていた。あちこち切り傷だらけで右肩は撃ち抜かれている。服は自分の血と返り血で真っ赤だ。それでも魔力で何とか立って歩いている。しかも周りで倒れている奴は皆息がある。刀という武器で殺さないように倒すのはかなりの高等技術だ。

 

「はやく…セシルを返っ…せ!」

 

「君もそればっかだねぇ。じゃ~次はどうしようかな~あ、じゃあ次は…」

 

『shell shot』

 

銃声が轟いた瞬間、お面を着けた男は拡散弾で体を撃ち抜かれた。

 

「わりぃ、話ウゼェからつい引き金引いちまった」

 

アキラはそう言って、銃剣をしまってからセシルを探し始める。思ったより倉庫の中は広く、中々見つからない。

 

 

―10分後―

 

 

アキラはようやくセシルを見つけた。

 

見つけた場所はドラム缶の中。目隠しをされ両手足を縛られている。セシルの拘束を外してやり目隠しをとった。

 

「セシル…セシル!」

 

セシルの目がゆっくりと開く。

 

「ん…アキラ?………アキラ!!」

 

「セシル…」

 

アキラはセシルを抱き締めた。

 

「よかった…無事で本当によかった。大丈夫か?怖くなかったか?」

 

「きっとアキラが助けてくれるって信じてた。だから怖くなかったよ」

 

その時、アキラの後ろにあったドラム缶がゆれる。そして中から誰かが飛び出し、拳銃を構え、アキラを狙った。そのことにアキラは気づかず、セシルが一番最初に気づいた。

 

「アキラ!!後ろ!!」

 

「チッ!」

 

アキラは横に回避する。この時、アキラは右手でのセシルをつかんだつもりだった。だがアキラの右手はもう動かず、セシルを掴み損ねた。それにより、アキラを狙って撃たれた弾丸はその先にいた…セシルに命中した。

 

「えっ…」

 

「セシルゥゥゥゥ!!!!」

 

セシルはその場に倒れ、撃った本人は予想外の事態に慌てるばかり。

 

「ちぃっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

アキラはその場で抜刀し、セシルを撃った敵を斬る。そしてセシルを抱えてゆすった。

 

「セシル、セシル!…………撃たれたショックで気絶してんのか…」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

―夜7時―

 

アキラは夜道をセシルを抱えて病院目指して走っていた。もう返り血が目立つどうとかいってられない。セシルが死ぬかも知れないのだ。人目なんか気にしている場合ではない。走っているとセシルの目が開いた。

 

「ア…キラ?」

 

「目ぇ…覚めたのか」

 

セシルの意識は最初は曖昧だった。だが意識がはっきりしていくうちに少しずつ理解する。今の自分が置かれている状況を。だがセシルは泣かなかった。

 

「そっか…あたし、撃たれたんだっけ…」

 

「すまなかった…俺は…守るって言ったのに…」

 

アキラがそう言うとセシルは優しく微笑んだ。

 

「いいんだよ…私の不注意で捕まっちゃったんだもん…けほっ」

 

セシルが小さく咳をすると血が口からでた。かなり危ない状態の筈。アキラは今にも泣き出しそうなのを、必死に抑えていた。それでもそのことを悟られない様に奥歯を噛み締めながらセシルに言う。

 

「いや…俺のせいだ…俺が…もっとちゃんとしていれば…」

 

「いいんだよ…アキラは…そんな怪我だらけになって…助けにきて…けほっけほっ…」

 

「もう喋るな…それにもう病院だ」

 

 

―病院―

 

 

手術中のランプが光るドアの前に、アキラは立っていた。病院についた時にセシルを手術するように必死に頼んだ。アキラが一番治療が必要だと言われたが、アキラはそれを無視し、セシルを優先させた。手術中の明かりが消え、中から担当者の医者が出てくる。

 

「セシルは…」

 

「最善は…尽くしました」

 

その言葉を聞いた瞬間、アキラの足の力は抜けその場に跪き、声にならない悲鳴のような物を上げた。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「では我々はこれで」

 

そう言って医者はでていった。部屋に残されたのはアキラとセシルだけだ。セシルの家族は今向かっているらしい。

 

「…アキラ?」

 

「どうした?セシル」

 

アキラはセシルの手を握る。いつもよりセシルの手が軽い気がした。

 

「あのね…私、アキラの事好きだったよ」

 

「セシル…」

 

アキラは、涙を流した。セシルが悲しむだろうと思って、泣くつもりはなかったのに。だが耐えきれなくなってしまったのだ。

 

「家族としてじゃなくて、恋人としてだよ?」

 

「ううっ…くっ…」

 

アキラの涙が止まらなくなった。

 

「アキラの…お嫁さんになりたかった…お母さんに、なりたかったなぁ…」

 

「うくっ…セシル…お願いだ…死なないでくれ…ひくっ…」

 

無理な事は分かってる。でもセシルに死んで欲しくない。ずっと…一緒にいたい。アキラはそう思った。

 

「もう…アキラ、泣かないの…」

 

「セシル…いやだ…」

 

「あれ…お父様お母様…兄様…アキラも一緒だね。」

 

「セシル?何いってんだ?お父様もお母様もいないぞ?セシル?」

 

セシルの目が虚ろになり、呼吸が過呼吸になっている。アキラは肩を掴んで揺するが、セシルは一点を見つめたまま動こうとしない。

 

「皆、丘の上で何してるの…?」

 

「セシル?やめろ…そっちに行っちゃ駄目だ!セシル!」

 

「うん…セシルもすぐ行きます…」

 

「セシル!いくなセシル!!セシル!!!!!!」

 

最期に「みんな一緒だね」と言ったきりセシルは動かなくなった。呼吸もなくなった。この瞬間にアキラは今が現実なのか夢なのかよくわからなくなった。

 

「セシル?おい、冗談だろ?セシル…なぁ!!セシル!!セシルゥ!!!!」

 

それでもセシルは動くことはなかった。アキラは泣き崩れた。二人以外誰もいない病室でずっと泣き続けた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「そんとき分かったよ俺の手は守る事なんか出来やしない。そして似てた、さっきの後輩達の目が…セシルと…」

 

アキラがすべてを話し終わる頃にはギンガはうつ向いてしまっていた。しかしギンガは顔を上げてアキラの手をとる。

 

「橘君、確かにセシルちゃんのことは辛いし忘れられないかも知れない。でも…前を向こう?」

 

「ギンガさん…」

 

アキラはギンガの真剣な表情を見る。セシルと同じに見えたが、さっきの後輩達とは違う。何かは分からないが違う。気持ち悪くなかった。

 

「それに橘君、これも忘れないで。あなたが私を守ってくれたから今の私がいる。あなたの手は今もしっかり……守る事ができる…」

 

アキラの目から涙が零れた。アキラは涙を拭い、一度深呼吸をしてからギンガに言った。

 

「ギンガさん、俺にあんたを…守らせてくれ」

 

「えっ…」

 

 

続く


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