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「うん、覚えててくれて嬉しいよ、橘アキラ君」
幸せな時間の中に訪れた災い。アキラの敵で、これから人類の敵になる男。ウィード。
「今にうちに辞世の句を言っとけよ………二秒待ってるやる」
「ふむ…辞世の句ねぇ」
ウィードが顎に指を置き、考え出した瞬間アキラは刀を持って斬りかかった。しかし、その瞬間二人の間に何者かが入り込み、アキラの刀をシールドで防ぐ。
「やぁ、お疲れ」
攻撃を防いだのは、フードの少年だった。アキラは少年ごと倒そうと、刀を押し進める。
「邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アキラはもう完全に理性を失っていた。後ろでギンガとセッテがなにか叫んでいるような気がした。だが、アキラの耳には何も聞こえない。少年が出したシールドは徐々にヒビが入り、最終的に砕かれた。
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
アキラは怯んだ少年を叩き切ろうとした、というか殺す気でいた。ウィードに味方するものは全て敵に見えていた。そのアキラに殺しをさせないためにギンガとセッテは直前でアキラの服を引っ張る。アキラは少し下がらされ、刀は少年の顔を隠していたバイザーに当たる。
それによって、バイザーが割れて少年の顔が晒されるとアキラは目を疑った。少年の正体は、幼い頃のアキラそっくりだったからだ。
「なっ……………」
もう一人のアキラは刀を構えながら立ち上がると、正体がバレたせいかフードを取る。マントの中に入り込んだ長い後ろ髪を外に出すと、抑えてた前髪も顔にかかる。かつてアキラが見えない右目を覆い隠す為に前髪を頬まで伸ばしてたのと同じように、顔全体を隠すくらい長かった。
そして、アキラは右目の黒の部分が白濁しているが少年の場合は左目で、右目は黄色く光り輝いていた。
「あの目…」
「そうか…JS事件で俺の身体を一度乗っ取ったのはテメェか……」
アキラがそのことに気づくとウィードが拍手をした。
「うん、ご名答。アキラ君、僕は君の身体が欲しかったんだ。だから君の半身の彼を使った」
「半身?」
アキラがウィードの発言に疑問を抱いている表情を見せる。ウィードは一瞬、何故疑問に思ってるかわからないという表情を見せていたが、すぐに気づく。
「ああ、そうか!君は覚えていないのかぁ!なるほどなるほど、覚えてないなら納得だ」
◆◆◆◆◆◆◆
数年前、僕は研究所で暴走した君に殺されかけたが、命からがら研究所を脱出した。
だが、君に腕を落とされた僕はそう遠くにも行けず、すぐ倒れたんだ。そこを偶然通りかかったスカリエッティの手下の戦闘機人に拾われたんだ。まぁ、知識を貸すから助けろって言ったんだけどね。
そして僕はスカリエッティにとある研究所を任された。悪くない生活だったが、そこについてから二年…管理局がその研究所を嗅ぎつけて襲撃してきた。あれ?偵察だったかな?まぁどっちにしろ応戦したんだ。僕はまだその頃知識しか他人に勝るものがなかったからね。すぐに脱出しようとしたんだ。戦闘機人とガジェットが管理局の人間を倒してくれたらすぐ戻ろうと思って。
そしたらその道中、幼い姿の橘アキラ君、君を見つけたんだ。君自身を庇い、死んでしまったクイント・ナカジマの遺体を抱きしめ、泣いてた……これは僕の推論だが、おそらく君はその時自分に絶望していたんだと思うよ。深い後悔、憎しみ、自分に対する怒り………それらが自分の身体に溜まり切った瞬間、君は精神崩壊を起こしていただろう。
君は自身の精神を守るため、近くの培養機に入っていた研究中の少年のを培養機から取り出し、自分の右目にその負の感情、一部の記憶を左手の力で魔力という形にして視力と一緒にその少年に移したんだ。その後君は、クイント・ナカジマの遺体を抱きしめたまま暴走した……。
◆◆◆◆◆◆◆
「そして……その記憶を移された少年が…………」
アキラとウィードはもう一人のアキラに視線を移す。
「彼だ。記憶を移される前、彼は元々廃棄する予定だった実験台だったが僕は彼を再び培養機に入れ、成長させた。成長するにつれ、彼はどんどん君に似通っていった。そして右目を通して彼は君の体験したこと、学んだことを覚えたんだろうね」
ウィードはもう一人のアキラに近寄り、右目の部分の髪を退かした。
「さらに僕は彼を改造し、君の身体を乗っ取らせようとした………が、なぜか失敗に終わってね。それから君の身体にアクセス出来なくなるし…だから今回は君を殺してから直接彼の意識を移そうと思ってね」
アキラは冷や汗を垂らしていた。負の感情を抱いた自分、それが自分の身体を乗っ取ろうとした。もし乗っ取られたら…。自身過剰な訳ではないが、もしそれが人々を襲ったら確実に死人が出るだろう。
「テメェ…何が目的だ………」
「………研究だよ。最高傑作を作るための……アキラ君、君は僕の最高傑作になるべきだったんだ…なのに暴走してくれたお陰で完成が遅れたけどね」
「仮に俺がお前のいう最高傑作になったらどうするつもりだ」
「ん?ああ、力量を図るよ。一般人と管理局を使って…………」
「……………っ!!!!」
アキラは刀を握ってウィードに斬りかかる。ウィードはそれをひらりと避け、もう一人のアキラが逆に斬りかかった。アキラはそれをかわし、ディバイダーを出現させてもう一人のアキラを撃とうとするが、もう一人のアキラが魔力波でアキラを吹っ飛ばすのが速かった。
アキラは壁に叩きつけられる。もう一人のアキラがそれに追い打ちをかけるように斬りかかった。それをアキラはなんとか避け反撃に移ろうとしたが、振り返った先にもう一人の自分はいない。刹那、もう一人のアキラの剣がアキラの肩を切り裂いた。
「……………かはっ!」
そして、間髪いれずに右足、胸、横腹、腕と次々に斬られて行く。アキラは反撃に移る間もなく、その場に倒れた。
「ぐ………あ………」
目の前にもう一人の自分が立ち、刀を振り上げる。アキラは軽く死を覚悟した。刀が振り下ろされる直前、ギンガが二人の間に入り込んだ。
「ギンガさん!」
セッテが近づこうとすると、ギンガはそれを視線で制止させた。
「もうやめて!アキラ君!!!」
もう一人のアキラは動きを止める。
「これは君の本当にしたいことなの?本当はしたくないんじゃないの?だから!私のことが斬れないんでしょ!?アキラ君と今まで過ごしてきた記憶があるから!だったら、アキラ君と同じ思いだってあるはずでしょ!?」
「そこを……退け」
「退かない…」
「退けぇ!!!」
「退かない!!!!」
もう一人のアキラは完全に動けなくなった。ギンガはもう一人のアキラに宿る、アキラ本人の記憶に賭けている。上手く行けば、アキラ本人と共闘してくれるかもしれない。アキラ本人の、正義の心がを覚えててくれれば…。
その様子を見てウィードは後頭部を掻く。
(なんだか面倒な展開になってきたなぁ……まぁ、必要なのはアキラ君本人の身体だし………彼女はいいか)
ウィードは一瞬でギンガの横に立つ。
「!!」
「悪いけど、君は邪魔だ」
ウィードは左手をギンガの頭にかざす。
「おやすみ」
「あ…………………」
ギンガは倒れる。
「ギンガ!」
「ギンガさん!!」
セッテはアキラの刀を拾い、ウィードを斬ろうとするがウィードは再びひらりと避け、距離をとる。その刹那、ウィードの後頭部に固いものが当たる。なのはのレイジングハートの先端だ。
「おや?」
「管理局機動六課です。両手を頭の後ろに回し、跪きなさい」
「君も」
もう一人のアキラの首にバルデッシュを当てながらフェイトが言う。ウィードは言われた通りに両手を頭の後ろに回してその場に跪いた。もう一人のアキラもだ。
「やぁ、会えて光栄ですよエースオブエースこと、高町なのはさん。君のことも研究したいよ」
「静かに。怪我をしたくなかったら黙っていなさい」
「そうも…」
ウィードはもう一人のアキラに視線を送る。それが合図となり、もう一人のアキラは一気に懐に手を突っ込み、瓶を取り出だし、瓶を地面に叩きつける。するとウィードともう一人のアキラの足元に魔法陣が展開され、二人は一瞬で魔法陣の中に消える。
「シャーリー!追跡は!?」
『ダメです!一瞬で反応が消えて…』
フェイトとなのはが肩を落としていると、アキラが嗚咽がかった声で叫ぶ声が聞こえた。見ると、血に塗れながら必死にギンガの手を握り叫ぶアキラの姿があった。
「ギンガ…ギンガ…しっかりしろ!頼むっ………目を開けてくれ……」
ー機動六課 医務室ー
あの後、アキラとギンガは機動六課の医務室に回され、治療を受けた。アキラは無理矢理エクリプスウィルスの自己回復能力を働かせ、なんとか歩けるようにまではなり、今は未だに目覚めないギンガの横に座り、手を握り続けている。
そこに、花を持ったフェイトとなのは、はやてがやってきた。アキラは三人に視線すら向けず、ただただギンガを見つめ続けている。
「アキラ君」
「……………」
声をかけても反応がない。なのはが先導してアキラに近寄り、肩を叩いた。アキラはようやく三人の存在に気づいたようで、三人をみた。虚ろな視線で三人の姿を確認するとアキラはまた視線を戻す。
「大丈夫?まだ寝てた方がいいんじゃない?」
「………………」
返事はない。
「セッテから聞いたよ?色々、現場の状況」
「………………」
聞いているのかいないのか、それすら判断し辛い感じだ。なのははアキラの肩を掴み、自分の方を見させる。
「ギンガが心配なのはわかるけど、ちゃんと聴いて。ね?公共の場での危険物使用、これは」
「管理局員が無許可で行った場合、最低二週間の謹慎処分、それと減給、降格、のいずれかもしくはすべてが伴われる場合がある。そういう書類は全部覚えてる。いちいち言わんでいい」
「じゃあなんで…」
「奴の名はウィード。スカリエッティと匹敵する天才マッドサイエンティストだ。俺も奴によって作られた……奴は、かつてセシルを誘拐した張本人だ。俺はあいつを許さない。ただそれだけだ」
「……でも」
なのはが話を続けようとすると、ギンガの手がわずかに動き、小さく声を漏らした。アキラはなのはの手を振りほどき、ギンガの手を掴んだ。
「ギンガ!ギンガ!」
「んん………んぅ?」
ギンガは完全に目を覚ます。アキラはそれを見ると、ホッと安堵のため息を漏らす。瞳にも輝きが戻っていった。なのは達も安心した表情でそれを見守る。
「ああ………良かったぁ………心配したぜ………でも良かった、目を覚まして………」
「あの………」
「ん?」
「あなたは誰ですか?」
「え………………………」
場の空気が凍りつく。なんの冗談かとアキラは思った。ギンガは本気の目をしている…………………だが、アキラはギンガがすぐに「なんちゃって」などと可愛らしく言う時を待った………だがその時間と言葉はいつまで待っても来なかった。
「あの……そもそもここは…………それに、私は誰?」
「…………………」
はやてはギンガの横に座り、アキラの肩を叩く。
「ほんとに覚えてらんの?ギンガ」
「ギンガってわたしですか?ごめんなさい、それすらわからなくて…」
アキラはフラリと部屋を出た。フェイトはそれを追いかける。
―機動六課 訓練所―
「…」
アキラはベンチに座りこむ。
それをフェイトは陰ながら見ていた。かける言葉すら見つからなかった。大切な人から見放される悲しさは、だれよりもわかっていたから。アキラは見放された訳ではないが、同じような物だ。
「……」
「あ……雨」
ポツポツと、雨が降ってきた。まるでアキラの気持ちを表してるかの様に。
◆◆◆◆◆◆◆
機動六課内に、すでに事件の詳細は説明されていた。今回の黒幕、ウィードのこと、もう一人のアキラのこと、ギンガの記憶が奪われたこと。もう一人のアキラには「タイプC」と仮称された。
あれからもう一時間ほど経っているがアキラは同じ場所に立ち続けている。その様子は、部隊長室から良く見えた。
「………あんな長時間雨に打たれていたら風邪なっちゃうですよ」
リインフォースツヴァイがアキラの心配をする。はやても心配している気持ちは一緒だった。だが今は放っておいた。そっとして欲しい時だってあるはずだと思っていたのだ。
「せやけど、絶望に負けたらあかんで………頑張って立ち直ってくるんよ」
◆◆◆◆◆◆◆
奴が記憶を持っている。絶対に……人為的に、それもあんな一瞬で記憶を消すなんて不可能だからだ。いや、これはただの推論だ。それでも俺は奴をぶっ飛ばす。必ず、ギンガの記憶を取り戻す!!!
◆◆◆◆◆◆◆
今、私は記憶喪失の身だ。かつて私と親交が深かった人達から色々教えてもらった。私のこと、私の家族のこと、橘アキラという人のこと。今の私には説明されてもよくわからない。信用も、し辛い。橘アキラという人は私が「だれ?」と聞いた時にすごくショックを受けていた……。悪いことしちゃったかな。
「手……あったかい………ずっと橘さんが握っててくれたのかな……」
続く