とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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遅くなりました〜。すいません〜!ギンガが可愛くてつい……。次回は一週間後です!


第三十話 傀儡

―とある森の中―

 

 

とある森の中の木の上で、アキラ…いや、タイプCが太い枝に座っていた。ちなみに管理局がつけたタイプCという名前は「クローン」の頭文字をとったものだ。

 

片手に今まで集めたジーンリンカーコアを握り、ウィードに渡された剣にセットしていく。

 

この剣は、ジーンリンカーコアをセットすることでその魔力を使用者に負担をかけることなく使える代物だ。全てのジーンリンカーコアのセットが終わり、クローンは右目を通してアキラの場所を探った。大体の場所が分かると、クローンは魔法陣を展開し、ある場所に向けて魔力放つ。

 

「……魔力結界…展開開始」

 

 

ー同時刻 機動六課ー

 

 

 

「なんだよ…これ…」

 

アキラは驚愕していた。落ち込んで座っていた自分の真後ろに突然結界が張られ、機動六課の隊舎を包んでしまったのだ。しかもただの決壊でない。それは間違いなく拒絶タイプの結界だ。

 

拒絶タイプ。かなりの高等技術魔法でしか展開出来ない結界で、触ればその部分が削り取られる。指で触れば指先が消えるであろう。かなり危険な魔法なため、一般魔導士も高等魔導士も使用するのは禁止されている。

 

「クソッ、内部とも繋がらねぇ…どうすれば…」

 

その時、アキラに脳内に念話が伝わって来た。一文字一文字、丁寧に。恐らく、結界の中からなのは達が全員で一文字ずつ全力で魔力を込めて結界越しに送ったのだろう。

 

「念話?魔……力……発……生…源……観……測………座標……G……28………G-28って確か……」

 

G-28地点。かつてアキラが生まれ、暴走した研究所に隣接した森の筈だ。この結界を作り出せるのは、ジーンリンカーコアを大量に持っているあのクローン意外に思いつかない。

 

機動六課全員が結界の中に閉じ込められた今、頼れる者はいない。いつも使っている刀は隊舎の中だ。アキラは少し考え、駐車場に走った。

 

 

ー駐車場ー

 

 

「良かった、ここまでは侵食されてない…」

 

かなりギリギリだが、アキラのバイクは結界外に出ている。エンジンをかけ、そのまま自宅に向かって走り出した。

 

 

ー結界内ー

 

 

「なのはさん、言われた通りにやりましたが……」

 

「この結界、そんなに危険なんですか?」

 

唯一外にいたアキラに対し、念話で言葉を送った後、エリオとキャロがなのはに尋ねた。なのはは一応頷くが、実際に結界を見たことはないので何とも言えなかった。そんななのはを見てシグナムが前に出る。

 

「この結界は、古くからベルカで使われた結界でな。現代の魔導士はほとんど見たことがないだろうよ。今これを発生させてるのはあのアキラのクローンだろう。あいつがかつてのベルカ戦士が記憶していた結界の張り方を知って使ったんだろうな。おっと、話が逸れたか」

 

シグナムは近くの木の枝を拾うと、結界に直接木の枝で攻撃した。すると…

 

「この通りだ。だから、絶対に触れるなよ」

 

シグナムが触れさせた木の枝は、結界に触れた部分だけ綺麗になくなっていた。

 

「じゃあ、何もできずにこのまま待つしかないんでしょうか……」

 

「なにいってるの」

 

FWがしょぼんとしていると、フェイトがバリアジャケットを身に纏った状態で現れる。気づけば、ヴィータもシグナムもなのはもバリアジャケットを装着している。FWが驚いていると、後方から大きな声が響き渡ってきた。

 

「これより私たちはこの結界を破り、アキラ君の援護に向かいます!」

 

はやてだ。それを見ると落ち込んでいたFWも、やる気になった表情を見せ、それぞれのデバイスを出した。

 

 

 

 

一方その頃のギンガは……

 

 

 

ギンガは枕元においてあるブリッツギャリバーに話しかける。

 

「ねぇ、今なんかすごいことになってるみたいだけど、前の私はこんな時どうしてたのかな」

 

『場合にもよりましたが、何か自分にできることを探して、誰かのために何かをしようとしてました』

 

「それは、橘さんのため…だったのかな」

 

『全てあの方のためにしていたわけではないですが、それが多かったです。アキラ様は頼りになりますがよくそそっかしくて、危ない面がありましたから、あなたが守られているばかりでなく、アキラ様をサポートする。そんな関係をマスターは気に入っていました』

 

「………そっか」

 

ギンガはベッドから立ち上がり、管理局の服に着替える。

 

『何をするつもりですか?』

 

「できることを探してみる……今の私じゃ何もできないかもしれないけど………」

 

『それでこそですマスター』

 

 

 

ーアキラの自宅ー

 

 

アキラは自宅の地下室に来ていた。そこには刀が一本、神棚のようなところに納められている。アキラはそれを掴み、鞘から刀を抜いた。銀色の刃に、薄い紅がかかった全長130cmの長剣。普段アキラが使っている刀は大体95cmくらいだ。かつてセシルがアキラの為に、一流の刀剣屋に頼んで作らせた「紅月」と言う逸品だ。

 

アキラは紅月が錆びたりしてないことを確認すると、鞘に収める。

 

アキラはその刀を背負い、バイクを再び走らせる。目指すは自分のクローンがいる森。過去の自分と、決着をつける時が近い。アキラは決意を胸に森へ向かった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

小さな森の中は薄暗く、ただただ雨の音がするだけだった。森の中に一箇所、自然に禿げた場所がある。木が一本も生えず、妙に開けた野原。そこに、刀を持ったアキラが歩いてきた。

 

「…………」

 

すると、アキラの前方の木からクローンが野原に下り立つ。

 

「…………」

 

「お前は、まだあいつの手先として戦うのか」

 

「ああ」

 

何の躊躇もない返事。アキラは歯を食いしばる。

 

「お前は俺だろう!!お前にだって…俺の記憶があるなら、これが間違ってることくらいわかるだろ!?」

 

「確かに俺はお前だ。お前の行動を全てこの右目を通して見てきた。そして多くのことを学んだ。が、お前が俺に流した記憶と感情は怒りと憎しみ。最初にそれしか感情を持たなかった人間がそう簡単に改心すると思うか?」

 

「だが……っ!」

 

アキラは必死にクローンを説得しようとした。ギンガの行動を無駄にしたくなかったのだ。だが、そんなアキラの願いはクローンには届かない。

 

「これ以上話しても無駄だ」

 

そういうと、クローンの足元に魔法陣が展開され、そこから伸びた魔力の触手がクローンを包んで行く。完全にクローンが包まれた時、雄叫びと共に触手が弾け飛び、中からアキラと同じくらいの身長になり、アキラのバリアジャケットを黒くしたようなバリアジャケットを身に纏っていた。

 

後にヴィヴィオ達が使う、大人モードの魔法の一種だった。

 

「これでちょうどいいだろう」

 

そう言うと、クローンはアキラに斬りかかる。アキラは鞘のついたままの紅月でそれを防いだ。

 

「お前には!ギンガの想いは届かなかったのか!?」

 

「…」

 

「ぐあぁ!!」

 

つばぜり合いで負け、アキラは壁に叩きつけられる。クローンは追い討ちをかけるために刀に魔力を込めた。剣にセットされた八つのジーンリンカーコアが連動し、強大な魔力を放ち、刀に炎を纏わせる。

 

「火剣…」

 

「ぐっ…」

 

「烈火!!!!」

 

アキラに火炎が襲いかかる。紅月に魔力を込め、アキラは足を地面に踏ん張らせた。

 

「氷牙、乱舞!!!!!」

 

アキラは火炎に突っ込み、氷属性を纏わせた刀を縦横無尽に振り回した。その技で火炎をかき消し、クローンに一気に接近する。だが、そんなこともクローンの予想範囲内。火炎の中から飛び出してきたアキラに対し、食らわせる技の準備は既に出来ていた。

 

「風剣・疾風!!」

 

「ぐお!?」

 

アキラはクローンの技で吹っ飛ばされる。吹き荒れる風がアキラの身体を切り刻んで行く。もちろんアキラもやられっぱなしじゃない。

 

「氷牙……大斬刀!!!!」

 

紅月に巨大な氷の刃を装着させ、風を防ぐ。そしてその刃に魔力を込め、刃ごとクローンに向けて飛ばした。クローンはそれを避ける。アキラは地面に着地し、クローンの着地地点に突っ込む

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

クローンは刀を地面に投げ、突き刺した。

 

「地剣…天突!!」

 

「!!」

 

刀から魔力が放出され、突然地面から土で出来た槍がアキラの足元から飛び出して来る。アキラはそれをなんとか避けた。しかしそれは止まらず次々と、アキラに追い打ちをかけるように飛び出して来る。ちょうど十本ほど飛び出してきた時、ようやく止まった。アキラは膝をついて少し休憩する。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

「火剣・烈火!!!!!!」

 

だが、休む暇も与えられずアキラは攻撃をかけられる。あまり使いたくなかったが、アキラはディバイダーを取り出した。

 

「リアクトオン!」

 

腕に鎧が装着され、ディバイダーは大型の銃剣に変わる。だが、このクローン相手に大物は危険だとアキラは推測し、あえてディバイダーは使わず、紅月を使う。魔力によって生み出された火炎は、アキラのディバイダーの力でかき消される。

 

クローンは魔力が通じないことに気づき、遠距離魔法を使うのを中断した。

 

「斬る…っ!」

 

「はぁ、はぁ、負けるかよぉ!!!!!!」

 

雨の降りしきる中、刀の交差する音が鳴り響く。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

もう相手は自分と同じ体型。そう簡単につばぜり合いで勝てるわけではない。二人は、つばぜり合いから互いに距離を取るように刀を弾き合う。クローンは刀に炎を纏わせ、アキラに突っ込む。

 

「紫電、一閃!!!!」

 

「!!」

 

素早い抜剣でアキラは防御が一瞬遅れ、吹っ飛ばされる。アキラは後方にあった岩を砕いて勢いが弱まり、そこで止まった。岩にぶつかった際、アキラは強く頭を打って意識が飛んでしまう。

 

「う…………」

 

「他愛もない………」

 

倒れたアキラに向かってクローンが近づく。そして、気絶しているアキラの心臓に刀の切っ先を向ける。刀を両手で握り、一気に押し込もうとするとアキラが急に目覚め、刀を掴んだ。

 

「!?」

 

アキラは足を水平移動させ、クローンの足を蹴る。クローンはバランスを崩し、倒れかけるが起き上がったアキラが鳩尾に強力な拳をお見舞いした。

 

「ごほっ………っ!」

 

そして、アキラはさらによろけたクローンの腹に強力な蹴りを入れる。クローンは吹っ飛び、木に叩きつけられるた。

 

「ぐ…………」

 

アキラは再び刀を手に取ると、ハッと意識を取り戻した。

 

(なんか今…………記憶が飛んだ?さっきは確かに岩に叩きつけられたと思ったのに、気づいたら俺は立ち上がってあいつは木のところにいる……なんなんだ?)

 

いろいろと疑問はあったが今はそれどころではなかった。クローンは素早く体制を立て直し、刀を構える。痛みを感じていないのか、その表情に苦痛は見えなかった。

 

(悲しいやつだよな・・・・だが安心しろ、その中から必ず救ってやる)

 

そう固く決意するも、本当にそれができるか不安だった。魔力は低下し、雨で体温の低下が激しくそれと同時に体力も奪われて行っている。戦えないわけではないが、長引けば不利になるのはアキラだった。

 

 

ー機動六課ー

 

 

結界内では六課のメンバーが総動員で一点集中攻撃を続けていた。制限が解除されてないとは言え、強大な魔力を持った者がこれだけ集まっているのに破壊できない結界だった。その様子を見ていたギンガは病室から出て、手伝いをしようと隊舎の廊下を駆けている。そんな時、目の前に最近姿を現さなかった白い甲冑の音が現れた。

 

「よう」

 

「?………すいません、誰でしたっけ…………私記憶がなくて…ごめんなさい」

 

「ああ、知ってる。それより、あの結界壊すの手伝いに行くんだろ?」

 

「そう…ですけど」

 

男は懐から青紫色の球体を取り出し、ギンガに手渡す。何だかよくわからないものを急に渡され、ギンガは戸惑うばかりだった。

 

「それを結界にぶつけろ。一時的にだが、人が通れるくらいの穴が空く」

 

「え?あの………あれ?」

 

ギンガが球体から視線を男に移そうとした時、男の姿は既になかった。正直信用できなかったが、この結界の中にいたということはきっとなのは達の仲間だろうと思い、ギンガは球体を持って走り出した。

 

ギンガは急いでなのは達のところにたどり着く。そこではなのは達がそれぞれの技を同時にぶつけ、結界の一部だけでも破壊しようとしていた。

 

「はぁ……はぁ………もう一回!」

 

「待ってください!」

 

ギンガが叫ぶ。その声に全員が振り向く。

 

「ギン姉、まだ寝てなきゃダメだよ!」

 

ギンガは首を振って青紫色の球体を取り出し、なのは達が攻撃を続けていた場所に向かって思いっきり投げた。球体は結界に当たると、破裂し、中から奇妙な色の魔力が飛び出し、結界に穴を作って行く。

 

「そこから出てください!」

 

「ギンガ…今のは…」

 

「話は後です!速く潜らないとすぐに閉じちゃいます!」

 

ギンガの気迫に押され、その場にいた全員が飛び出した。

 

「ギンガ、今のは?」

 

「ある人に渡されました……なんか、白髪で甲冑を着た……」

 

なのは達は頭に「?」を浮かべるが、フェイトには心当たりがあった。あの男に前にギンガを励まして欲しいと頼まれたからだ。

 

「なのは、みんな、それが誰であれとにかく外に出られたんだから、今は早くアキラ君のところにいこう?」

 

フェイトがいうと、なのは達も納得いかなそうな顔をしながらも全員でG-28地点に向かった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

雨の降る中、全員がG-28地点に近づいた時、森の中から魔力同士がぶつかり合うのが見えた。

 

「あそこだ!」

 

その付近に降り立ち、全員が走り出す。刀がぶつかり合う音がだんだんと大きくなって来るのを感じながら、近くなる度に全員の持っているデバイスを握る力が強くなって行く。

 

しばらく走ると、開けた場所に出た。

 

「アキラ君!!!!」

 

アキラの姿を視認した時、全員の瞳から光が消える。

 

全員が見たのは、クローンの刀で心臓を貫かれたアキラの姿だった。

 

 

続く


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