とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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どうも、彪永です。いつも「とあるギンガの〜」をご愛読いただきまことにありがとうございます。10月中にこの回を上げたかったのですが、十月下旬に終わるはずだった用事が延長し、結果イノセント版を一つしか上げられず申し訳ありません。前回から一ヶ月以上立ちますが、量はその分倍にしてあります。次回は11月16日です。既に完成しているので安心してください。また、今回は同じく16日にR-18版も上げます。これからもこんなことが続くと思われますが、それでもどうか、暖かい目で見守ってください。お願いします。


第三十二話 決着

黙示録の書……それは、この世の終わりをもたらすと言われている魔道書である。黙示録の書は持つ者を選び、書を持つだけで強大過ぎる魔力を持ち、黙示録の槍、もしくは黙示録の獣を手にすることで、世界を滅ぼせると言われている。

 

あくまで言われているだけの話で誰も信じたりはしてないが、その書と槍が時空管理局本部が管理している「」の最深部に保管されている。という話もある。また、書が封印される前にレプリカを残したという話もある。何もかも曖昧な伝説の書である。

 

アキラもそれは知っていた。そう言う噂話を真に受けないアキラだったが、そういった類の話は黙示録の書に感してはやたらと多かった。が、あまり信じてはいなかった。本物と思われるレプリカをこの目で見るまでは………。

 

「…………はっ………誰が信じるかよ!そんな話!黙示録の書なんかこの世に存在しねぇ!」

 

「僕もはじめはそう思ってたよ。でもね、黙示録の書は存在する。こおレプリカが証拠だ」

 

「そんなものいくらでも作れんだろ………テメェの頭なら」

 

「あはは、いくらなんでも僕にはこんな魔力の底がしれないような魔導書なんか作れないよ。まぁいいや。君が信じようと信じまいと……」

 

ウィードはアキラの顔を踏みつける。

 

「がっ………」

 

「それにしても、君にはがっかりだよ。橘アキラ君」

 

「なん………だと?」

 

アキラは身体中から流れる血にまみれながらも抵抗しようとするが、腱が貫かれている為、アキラの身体はほとんど動かなかった。

 

「魂が入ってないはずのジーンリンカーコアを空っぽな君と融合させた時は驚いたなぁ、まさか自我が生まれるとは思ってなかったよ。でも、くだらない暴走起こして、僕の研究邪魔してくれたのは気に入らないなぁ。ただの人形である君が!」

 

ウィードの口調は急に激しくなり、一言発するごとにアキラの顔を踏みつける。

 

「無駄な感情抱いて!恋愛だの!仲間だの!そんなことをする権利は!最初からないんだよ!君は僕の研究成果!無駄な感情などいらない!無駄な思考などいらない!僕の最高傑作!一つの作品として!戦場を暴れまわるだけでいい!君だけじゃない!同じように生まれてきた人形達もそうだ!!!!!」

 

ウィードは息を切らしながら雨と汗が混じったものを拭う。アキラの顔は血にまみれ、腫れ上がっていた。そんな状態で、アキラは一言呟いた。

 

「…………それだけか」

 

「ん?」

 

「言いたいことは…………」

 

アキラはウィードの足を掴み、杖代わりにしながら立ち上がろうとする。ウィードは小さなため息を漏らしながらアキラを足から振り払った。アキラは魔力で無理やり自分の体を動かしていた。

 

「うぐ…っ…………言いたいことは………っ!それだけかつってんだよこのクソ野郎!!!!!!!!!」

 

アキラが叫びながら立ち上がると、そのアキラの怒りに反応したように紅月が突然動きだし、アキラの元まで飛んで行き、手の中に収まる。ウィードの話を聞いている間、脳裏にナンバーズやフェイト、ギンガやスバル、自分の……AtoZ計画の兄弟のことを考えていた。

 

感情を持ちたいのに、持てないやつもいる。本当に愛されたくて努力したのに愛されないやつもいる。恋をしたいのに、その生まれのせいでできないやつもいる……。

 

「そんなやつだっているのに………なのに!なんでテメェはそんなことが言える!誰にだって!幸せになる権利も自由になる権利もあるはずだ!テメェ見たいのがいるからぁ!幸せに生まれて来れないやつが増える!テメェ見たいのが!いるからぁ!雷剣!轟雷!!!!!!」

 

紅月に稲妻を纏わせ、それを全力でウィードにぶつける。ウィードはため息をつくと、黙示録の書から黒い触手を出現させ、手に収める。触手は円形に広がり、盾となりアキラの稲妻を遮断した。アキラはその一撃で限界が訪れ、その場に再び倒れる。

 

「それが君たちにはないんだよアキラ君。作られた命は所詮実験台にしか過ぎない。そのために作られたんだから。当然でしょ?」

 

その刹那、泥人形の壁をかき分け、光の速度で移動してきた真ソニックフォームのフェイトがウィードに斬りかかる。それを食い止めようと、泥人形が襲いかかるが、泥人形は二秒かからずにバラバラにされた。泥人形が再形成される前にフェイトはウィードまで接近した。

 

ウィードはもう一度、黙示録の書から黒い触手を出現させ、今度は剣の形にする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「面白い!」

 

ウィードは真ソニックフォームのフェイトと互角の闘いを見せる。これはウィードの実力ではなく、黙示録の書が司令塔となってウィードの戦闘力があがっているのだ。

 

「君はプロジェクトFによって産み出された、オリジナルの模造品だろう!?知っているよ!」

 

「っ……違う!私は、フェイト・T・ハラオウン…ただの管理局執務官で、みんなと同じ、人間だ!」

 

「嘘はいけないなぁ!君のオリジナルはアリシア・テスタロッサ!その道じゃ有名なプレシア・テスタロッサの娘だ!そこにいる赤髪の少年も同じプロジェクトによって生み出されたんだったか!」

 

ウィードは泥人形に苦戦しているエリオを見た。エリオは少し歯ぎしりをする。その瞬間、赤い閃光がウィードを襲った。

 

「おや?」

 

その攻撃はヴィータの物だった。

 

「ふざけんなよテメェ…………さっきから聞いてりゃあ!イカれた科学者かと思ってたが、違うな………オメェは単なる人間のクズだ!!!!」

 

「君は……ああ、闇の書の守護騎士プログラムか。まぁ、君たちも所詮は人形だものねぇ。怒る気持ちはわからないでもないよ。でもさ、人の望みを叶えるために僕たちは研究と実験をしているんだよ?そのための犠牲なら仕方ないじゃない。ねぇ?どいつもこいつも、死んでしまった愛する人ともう一度会いたいと思い、研究し、実験する。僕はその手伝いだけだが、望みを叶えてあげていることには変わりない。フェイト君。君のようなオリジナルとは違う部分ばかりの失敗作ではなく、完成品を作るために。だから、アキラ君のような存在は感情を持たなくて良いんだよ」

 

ウィードはそういいながら触手の剣をアキラに向けて伸ばした。突然のことでフェイトもヴィータも反応出来ず、アキラは触手に捕まる。

 

「ぐ……」

 

「君は…………これから実験するからね。研究所で待っててくれ。おっと、今面倒なやつがいるんだった」

 

ウィードが指を鳴らすと、研究所が突然爆発した。

 

「!!!」

 

「なのは!」

 

「シグナム!!!」

 

研究所の方を見てフェイトとヴィータが叫んだ。

 

 

ー研究所ー

 

シグナムは吹っ飛んできた研究所の瓦礫の下から出てくる。泥を払いながらあたりを見回す。

 

「なのは!」

 

「うう…………」

 

一瞬声が聞こえ、シグナムは声のしたところに行く。みると、なのはが瓦礫に挟まれていた。シグナムは急いで瓦礫を退かし、なのはを救出する。大きな怪我はしていないがどうやら足を挫いたようだ。

 

だが、なのはは自分よりもクローンのことを心配していた。

 

「大丈夫か?」

 

「……うん…………あの子は………」

 

「わからんが………この爆発では………」

 

二人は瓦礫の山となった研究所を見る。とても人が生きているような状態ではなかった。しかし、この研究所は地表に出ている部分が全てではない。

 

地下がある。

 

ー研究所 地下ー

 

 

「痛ぅ……………ギリギリ避けきれなかったか…………」

 

クローンは地下一階まで落ちてきた。爆発することを察知し、急いで隠れたが爆発が思ったよりも大きく、瓦礫にまみれながら地下へ落ちて行ったのだ。現状、瓦礫の破片の上に落ち、尖った鉄の棒が腹部を貫いている串刺し状態で身動きが取れない。

 

通信手段も持っていないのでアキラに連絡することもできなかった。

 

……だが、爆風を食らっても、瓦礫の一部が我が身を貫こうとも、クローンは手に握ったものを離さなかった。ギンガの記憶を収めた端末だ。

 

「どうにか………連絡を………」

 

 

ー森ー

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ウィィィィィィィドォォォォォォ!!!!!!!」

 

アキラは叫びながら刀を振り回そうとするが、触手に捕まった状態ではそれも無意味だし、触手で貫かれ、力が入らない身体では刀が当たったところで大したダメージにはならないだろう。

 

「ははは、そんな怒らないでよ。あのクローンだってもう君に魔力を返したんだし、君とよく似てるってだけで接点は消えたんだしさ」

 

「ディバむぐぅ!?」

 

「スバル!むうぅ!!」

 

泥人形と戦っていた六課メンバーとギンガが、突如触手に変化した泥人形に捕まってしまう。

 

「君たちは大人しくしていたまえ。あとで楽にしてあげるよ……」

 

アキラは歯を食い縛った。自分が事件にみんなを巻き込み、事件解決の糸口も見つけられず………何も出来ず、ギンガの記憶も戻せずに………こんなクズに殺させてしまうことが、悔しくて、申し訳なくて………。

 

身体に力が入らず、魔力を込められない。どうやら、質が違う魔力を取り込んだせいで魔力を扱いにくくなったようだ。

 

「さ、研究所で待っててくれたまえ。僕は彼女らを処分してからいくよ。ああ、心配しなくていい。実験の前にちゃんと、記憶は消してあげるからね」

 

アキラは研究所に向かって思いっきり投げられた。アキラは研究所に落ちるまでの間、ギンガを見つめ続けた。

 

 

 

ー研究所ー

 

 

 

「うぐぁ!」

 

アキラは森から投げられ、研究所に落ちた。着地地点には泥が積まれており、あまり怪我をしないようになっていた。

 

「くそ………クソクソクソクソクソ!!!!!!どうして俺は……」

 

「アキラ……?」

 

アキラがいる場所の横から声がする。声のした方を向くと、そこにはクローンがいる。かなり重症だが、それはアキラも同じでとても助けることはできなかった。

 

「アキラ…………これを……」

 

クローンは傷だらけの身体を傷めないように手を伸ばし、アキラにギンガの記憶が入った端末を渡そうとする。しかし、アキラは手を伸ばそうとはしなかった。クローンはアキラの態度に疑問を持ちながらも必死に手を伸ばしてアキラに渡そうとする。

 

クローンの努力を横目に見ながら、アキラは小さくつぶやく。

 

「ダメだ……身体が動かねぇ………」

 

「…質の違う魔力を大量に投与したせいか……」

 

アキラが悔しそうな表情を見せ、手を強く握る。こうしてる間に仲間が殺されてしまう……。自分にあんなに優しくしてくれた、大切な仲間が。

 

「こんな……ところで………終われるか…………!」

 

アキラがそう言った瞬間だった。目の前に、十四歳くらいの少年と、少女が現れた。少年は青い髪に妙にギザギザした前髪が特徴で、少女は長く美しい銀髪に、赤と黄色のオッドアイ。

 

「だ……れだ?」

 

「失礼します」

 

アキラの質問に答えようともせず、少女はいきなりクローンの上に乗っている瓦礫をどかし始めた。そして、もう一人の少年はアキラに腕輪を渡した。

 

「何だこれは………」

 

「これを使って、ギンガさんを助けてください」

 

「え…………?お前ら、ギンガを知ってるのか?」

 

「話は後です。いいですか、それに魔力を込めて下さい。可能な限り、大量に」

 

今のアキラには、形にして使える魔力はないが溜まりに溜まっている質の合わない魔力が大量にある。彼らは急に現れ、まだ信用も何もないが今は現状打破できるものが何もない。

 

アキラはこの行動に、すべてを賭けた。自分の未来、仲間たちの命、ギンガの………命を。

 

「う……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

ー森ー

 

 

 

ウィードはアキラを研究所に投げ飛ばしてから、早速最初に殺す人物を決めようとしていた。ウィードは悩みながらギンガに近づいて行く。

 

「それにしても君にはびっくりしたなぁ、記憶を無くしてなおあそこまで勇敢に戦えるなんて…………体に染み付いた形というのはすごいねぇ……ぜひとも研究してみたいな………」

 

ウィードはギンガの肌に触れようと手を伸ばした。

 

その瞬間、ウィードの手が切り落とされ、ギンガの姿が消える。

 

「は………?」

 

腕を切られた痛みに気づくのが少し遅れるほどのスピードだった。ウィードは腕を切られてから二秒後にようやく痛みに驚いた。

 

「う、ぐぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 

(な、なんだ!?一体何が起きた!?全員動きは封じてある………一体誰が!?)

 

 

ー森 上空ー

 

 

「…………え?」

 

気づけば、ギンガの視界に映るのは夜空。さっきまでウィードの顔が目の前にあったのに…。その視界に、アキラの顔が入ってきた。

 

「大丈夫か?」

 

「橘さん……その姿は?」

 

アキラは、黒い髪、鎧、マントを身に纏っている。現代の魔導師が使う防護服、バリアジャケットのデザインとはかなり違う。どちらかというと、

古代ベルカのような騎士的な装備だ。そして、腰には、刀身が宝石のアメシストをそのまま刃にしたような剣が装備されている。形状は刀そっくりだが、鍔がなく、柄と刀身の間には回転式の弾倉があり、柄の根元の横にトリガーがある。

 

そう、この剣はディバイダーの強化形態だ。

 

「さぁな……とりあえず言えるは………奇跡ってことだけだ………。さ、受け取ってくれ」

 

「あ……」

 

アキラはギンガの頭に左手を添えた。するとギンガは眠るように気を失った。アキラはクローンの持っていた端末から記憶を左手に移し、ギンガに渡したのだ。

 

「すぐに終わらせるから………眠っててくれ」

 

アキラはギンガを近くの岩に寝かせ、ウィードがいる平原に向かって行く。

 

 

ー平原ー

 

 

ウィードは腕を切り落とされたあと、黙示録の書から取り出した触手の剣を切られた断面に突き刺す。触手は少しずつ形を変え、数分後には触手は腕の形になっていた。しかも形だけでなく、内部には血管まで生成され、しっかりと腕の代わりになっていた。

 

何とか失血前に対象できたウィードは一息つく。が、それと同時にアキラが森の中から現れた。

 

「………………………なるほど、これは君の仕業かい?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「まさか腕を持っていかれるとは思ってなかったよ。まぁでも、切り落としてくれたお陰で便利な腕になったよ…」

 

ウィードの触手で生成された腕の先端が、剣の形に変わる。周りで拘束されている六課のメンバーは驚いたが、アキラは特に表情を変えない。ウィードはさっきまで冷静だったのだが、そんなアキラに苛立ちを覚えたのかいきなり腕を変形させた剣でアキラに切りかかった。

 

「……遅い!!!」

 

「!!」

 

アキラは剣を回避し、ウィードの顔面に強力な拳をお見舞いする。ウィードはそのまま吹っ飛ばされ、岩に激突した。アキラはウィードに向かってゆっくり歩き出し、道中で紅月を拾い上げる。二本の刀を握ってアキラはウィードに近寄る。

 

ウィードは痛みに耐えながら何とか立ち上がり、魔法陣を展開させた。

 

「泥人形!!!」

 

近くの泥が人型を成そうと集まってきた瞬間、泥は人型を成すことなく、一瞬で凍りつく。ウィードが驚いてアキラを見ると、アキラはさっきまで立っていた場所にいない。

 

背後からの殺気に気づく前に、ウィードは切られていた。背中から血を出しながらも何とかその場から距離を取る。

 

「だから、遅いって言ったろ」

 

「ぐ………超高速移動か、瞬間移動か………」

 

「分類的に言うと、高速移動かな。まぁ、フェイト隊長が使うようなものとは少し違うが……一番の違いは……」

 

ウィードが再び斬りかかる。アキラは新しくなったディバイダー、「烈風」のトリガーを引いた。その瞬間、アキラが体感する時間の速度は通常の1000倍に変わる。つまり、周りの人間の立場からすればアキラが高速移動してるように見えるが、アキラにとっては周りがゆっくりになっているのだ。

 

アキラはほとんど止まっているように見えるウィードの後ろに歩きながら向かい、ウィードの触手の腕を紅月で切り裂く。それと同時にトリガーから指を離す。すると、の体感時間は通常に戻る。

 

「ぐあ!!!」

 

「剣としては使えるが………直で身体に繋がってる分ダメージがデケェみたいだな」

 

「あ……侮らないでもらおうか………こんなもの、まだ力の断片さ………君が速さで来るなら、僕は物量だ!!!!最悪断片でも残ってくれればいいだけなんだ!!!もう加減はしない!!」

 

ウィードが叫ぶと、黙示録の書から黒い触手が大量に出現した。触手はそれぞれ剣の形になり、アキラを取り囲むように整列した。逃げ場はない。六課のメンバーがどうにか泥人形の拘束を外そうと焦るが、ダメだった。

 

しかし、この状況にアキラは焦る素振りを見せない。

 

「さぁ、終焉だ…………辞世の句でも読むかい?今なら少しだけ時間をあげよう」

 

「……………セシルが死んだ時も、雨が降っていたな」

 

「?」

 

アキラは上を向いた。

 

「雨は………あんまし好きじゃねぇ」

 

「それが辞世の句ってことで………いいかなぁ?」

 

「俺が生まれて十七年……ようやく復讐が終わるってのに、この雨は似合わねぇなぁ………セシルも、そう思うだろ?」

 

「…………なに言ってるかわからないけど、もう終わらせていいかな?」

 

「ああ、終わらせよう」

 

アキラはそう言って紅月を肩に、烈風を右脇腹に密着させた。

 

「さよならだ、橘アキラ君!!!!!」

 

 

 

 

一瞬。

 

 

 

 

勝敗は一瞬でついた。

 

最期まで立っていたのは、アキラだった。それも、無傷。空の雲は、アキラのいる場所当たりで真っ二つに別れ、夜空の星が輝いていた。ウィードがいた方角の木々は全て倒され、森の向こう側にある街がぼんやり見える。一方ウィードは、立っていた場所からかなり離れた場所まで吹っ飛ばされ、胸から下と、左腕がなくなっていた。

 

正直、生きてるのも不思議な状態のウィードにアキラは目もくれず、仲間たちに向かって歩き出す。

 

「大丈夫か?みんな」

 

ウィードの魔力がきれたのか、泥人形は勝負がついたと同時に消えていた。

 

「…………アキラさん……その姿は………」

 

ティアナが恐る恐る聞いてみる。

 

「よくわからん2人組の子供達にもらった………まぁそれはおいおい話すとして……動ける奴はあっちで寝かせてるギンガと研究所にいるクローンを保護してきてくれ………ちょっと、疲れた……それから、多分まだ死んでねぇウィードを……フェイト隊長、頼めるか」

 

アキラは烈風を杖代わりにしながら跪く。フェイトは頷いてアキラの技によって木々がなぎ倒されている場所に向かった。

 

「そういえば、なのはとシグナムは?」

 

「俺は見てないが………」

 

噂をすれば、なのはとシグナムが研究所の方角から飛んできた。

 

「アキラ君!」

 

「……」

 

「これ、多分クローンのあの子が書いたんだと思う……」

 

シグナムとなのははアキラの横に降り立ち、一枚の紙を渡す。そこには、かなりメチャクチャにだが「世話になった」と書かれていた。そういえば、クローンはまともな教育を受けたことがないのだ。恐らく書き慣れてない字を一生懸命書いたのだろう。

 

「………あの怪我で大丈夫なのか?あいつは……」

 

「これが置いてあった場所には、多分、彼のだと思われる血があったけど、どこかに続いていたりはしなかったから……」

 

「そうか………なら多分、大丈夫か?」

 

「あの子なら、きっと大丈夫だよ………だって、アキラ君だもの」

 

なのははそう言って笑う。アキラは自らのクローンを思い浮かべながら空を見た。

 

「そうだよな」

 

そうは言っても少し心配なアキラだったが、そこに、フェイトが飛んでくる。

 

「アキラ君!みんな!ウィードがいない!」

 

「ええ!?」

 

アキラを除く全員が驚いたが、アキラは動じない。

 

「どうせあのダメージじゃそんな遠くには行けねぇよ。あとで調査隊を派遣させてもらっていいか?部隊長」

 

はやては少し悩んだあと、頷く。

 

「でもアキラ君、命の危機だったからってあのやり方はアカン。確実に………殺すつもりやったんちゃう?」

 

「勘弁してくれ。あれでも結構魔力を抑えた方なんだ……本気で撃ってたら……山の一つや二つ、簡単にぶっ飛ばしてた…………」

 

「…………となると、流石にそこまで強力な魔力は制限かけなアカンなぁ……アキラ君はそれでもいい?」

 

アキラは迷いもなく頷いた。アキラ自身、この未知なる力に少し怯えていた。強いことには間違いないが、使って見てわかったのは、渡された腕輪のよって作り出された力はエクリプスウィルスの力を主に増大させている。

 

このまま行くとエクリプスウィルスの活性化につながりかねない。

 

「…………なにはともあれ………終わったんだな……」

 

一息つく。しかし一息ついた瞬間、ギンガを保護しに向かったスバルが慌てて走ってきた。

 

「アキラ君!ギン姉が!ギン姉が!」

 

「!!!!」

 

アキラは急いで立ち上がり、走り出す。だが、魔力の使いすぎか、慣れない力で疲れたのか、アキラは途中転んでしまう。だが、立ち止まることはなく、また走り出した。スバルは途中で足を止め、ギンガを寝かせた。アキラもその場に滑り込むようにギンガの横に座った。

 

「ギンガ!!ギンガ!!!ギンガに何があった!?」

 

「息………してない……」

 

アキラの顔が一気に青くなる。ギンガを抱きかかえ、息を確認しようとした瞬間

 

「んぐ…………」

 

ギンガがアキラの背中に手を回し、自分の方へ寄せてアキラの唇を奪った。

 

「……………………ぷはっ」

 

「……………ギンガ?」

 

ポカンとした顔のアキラにギンガは茶目っ気を出した笑顔で言う。

 

「ちょっと冗談過ぎたかな?ドッキリでした。あ、記憶は……ちゃんと戻ったよ………アキラ君のおかげ………本当にありがとう」

 

アキラは未だにぽかんとしている。

 

「あはは、ごめんねアキラ君。ギン姉に協力して欲しいって言われちゃって…………」

 

アキラは少し俯いて震え出す。

 

スバルは相当怒られんじゃないかと思い、冷や汗を流す。ギンガも流石にやり過ぎたかと思い、顔を覗こうとすると急にアキラは顔を上げた。

 

「ううっ……良かった…………良かったよぉ!!………ギンガ………かえっ………帰ってきてくれて…………よかっ……うっ良かったぁ…」

 

アキラは怒っていなかった。それどころか、顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた。子供のように。どれほど彼にとって大切で、譲れない存在だったかというのが読み取れる程に。

 

「ギンガァ……」

 

ギンガは軽く微笑んでアキラの顔を自分の胸へいざない、抱きしめた。

 

「よしよし、ごめんね、驚かせて……。もういなくならないから……ずっと一緒にいよ?」

 

「うん………ひっく……俺も、絶対守るから……」

 

 

 

 

こうして、機動六課最後の事件は終わった。被害と事件の規模は小さかったが、とある一人の少年の復讐の物語に終止符を打った事件となった。

 

そして、完全にこれで終わったと思われた……。

 

 


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