JS事件が解決してからもう一年が経つ。アキラとギンガの元には六課が解散して以来、これと言って大きな事件も起こらず、二人の同居生活も安定して平穏が訪れていた。もう一人のアキラもウィードとの戦いの後保護され、今はナンバーズと共に留置場に送られている。
新たな力の副作用により一時期は安定しなかったアキラの身体も今ではすっかり安定している。さて、そんな二人は今日、いつもギンガとスバルが検査を受けている施設にきていた。
「じゃあ、始めるぞ」
「あ……ああ」
ここはいつもギンガやスバルが検査を受けている場所。そこの施設の一角にアキラとセッテが向かい合っていた。それを心配そうに見守るギンガとマリエル技師。
アキラは左腕の人工外皮部分を全て外して完全な機械の腕をさらしている。その腕と頭を施設のスーパーコンピューターに繋げてデータを編集していた。
「よし………」
「アキラ君、どう?」
「多分大丈夫だ………ごほっ!」
アキラが鼻血を噴き出す。ギンガとマリエルが慌ててアキラを支える。彼が今左腕で作ってるデータはあまりにも重かった。アキラが左腕で採取してきたデータをスーパーコンピューターに移してそれを平均化させ、アキラの脳を通して左腕に再び戻す作業をしているのだが、異常なまでのデータ量により脳に負担が掛かり過ぎている。
「大丈夫!?」
「………ちょっと…キツイな…………セッテ…悪いがお前から来てくれ……………動けないから」
アキラはその場に座り込む。セッテはアキラと同じ目線の高さで座り、頭を差し出した。
「お願いします」
「いくぞ…」
アキラが左腕を伸ばす。セッテが頭を差し出し、アキラの左腕に触れた。その瞬間、セッテの脳内に大量の情報が送られてきた。アキラの腕が頭に触れてから一秒経たずにセッテは耐えられなくなり、アキラから離れようとした。
「ギンガ!セッテを抑えてくれ!!」
「うん!セッテ、ごめん!」
ギンガはセッテを無理やりに押さえつける。
「ああああああああ!!!!!!」
セッテは必死にギンガの手を振りほどこうとした。しかし、ギンガは戦闘機人モードを発動させて全力で押さえる。そんな調子で左腕に触れさせ続けると、セッテは少し意識を失った。
マリエルがアキラを支えながら心配そうに尋ねる。
「うまく行ったの?」
「わからん……もし失敗してもあまり脳に影響を与えないようにしたが……」
「…………う…」
セッテが目覚める。アキラは無理に体を動かし、セッテの肩を掴んで状態を確認した。
「大丈夫か!?セッテ!調子は……」
そのセッテがアキラの顔を視認した瞬間、セッテはアキラに抱きつく。アキラは急なことだったが、俊敏に反応してセッテを支えた。
「おい!しっかりしろ!!」
「………すみません…気分が悪いので………もう少しこのままでいても良いでしょうか」
「あ…ああ」
セッテに行ったのは、人格データの植え付け。感情のないセッテに感情を与えるといった、失敗の可能性もある実験的なプログラムだった。ディードとオットーは、心を開いて行くにつれ、思ったよりも感情があることはわかったが、問題はセッテだった。セッテには本当に感情という物がなかった。そのまま社会に出れば、もしかしたら問題が出るかもしれないと考えたアキラとギンガが今回のことを思いついたのだ。マリエルに相談したところ、感情を与えるのなら今の人格データを消して新しく人格データを作ることがだと言われたが、アキラもギンガもそれに反対した。
何故なら、一度セッテが感情的な行動を見せたことがあるからだ。それは、ウィードがギンガとセッテのいる前でアキラとあった時。彼女はアキラが人殺しをさせたくなくて、自身が檻の中にいる時間が伸びるのを覚悟で「自分がやつを殺す」と言ったのだ。アキラはその僅かな感情をベースに他の人間から採取した人格データを追加すればどうにかなると提案したのだ。
そして……人格データを追加されたセッテは………様々な感情を手に入れ、今まで感じなかった思いが全身を駆け巡っている。何より、最初に胸に響いた感情は……「好き」という感情だった。
「…………感情…は、芽生えたか?」
アキラは恐る恐る訪ねて見た。
「…………はいっ。あの、アキラ………さん」
「敬語って………まぁいいや。なんだ」
「私、これからあなたの家族に…なれるんですよね」
「俺のっていうか…どっちかってぇとナカジマ家だが。とりあえず一緒に暮らすな」
セッテはそれを聞くと、少し笑ってから涙を流す。アキラは驚きながらセッテの瞳から溢れた涙を拭ってやった。アキラはセッテを少しなでて見守ってた二人を見た。
「笑顔…それに、涙……マリーさん、ギンガ。うまくいったみたいだ」
◆◆◆◆◆◆◆
セッテに感情を与えられたこの日、セッテはナカジマ家に引き取られる日でもある。アキラとギンガは車にセッテを乗せ。ナカジマ家に戻っていた。その途中、スバルから通信が来る。スバルは数日前から今日まで山に籠り、トレーニングをしていた。もう少しトレーニングする予定だったが、セッテのお迎えパーティのためにギンガが帰ってくるように言ったのだ。
「スバル?どうしたの?」
『ギン姉、ちょっと家につくの遅れそうなんだけど…』
「あら…どうかしたの?」
『実は山に籠ってる間にヴァイゼン鉱山?の事故に巻き込まれた男の子保護したんだ。その子をこれから管理局に連れて行くんだけど…手続きとかやってると遅くなると思うから…』
事情を聞いたギンガは仕方ないかという顔をしてから微笑む。
「そう言うことなら仕方ないわね。でも、なるべく急いで…」
ギンガが返答しきる前にアキラが急に口を開く。
「待て」
「?」
『?』
アキラは運転しながらスバルに尋ねる。
「ヴァイゼン鉱山……確かあそこ、あまりいい噂がなかったな」
アキラの言葉を聞いて、ギンガはブリッツギャリバーで局のデータベースにアクセスし、ヴァイゼン鉱山についてを閲覧した。
「えっと……ヴァイゼン遺跡鉱山崩壊事故……ヴァイゼン北西部アミアで深夜に地震が発生。それによって発生した有毒ガスによって住民230名全員が死亡………ってことらしいけど」
「表向きはな……」
これといって不思議のない、不幸な鉱山事故に思えるのになぜアキラがそんなに嫌悪感を抱いているのかギンガもスバルも疑問に思い、少したずねて見た。
「なにか知ってるの?」
「管理局にだって、怪しい噂の一つや二つ、三、四くらいある。それがその一つだ。現場を見ても、人為的に起こされた事件なんじゃないかって噂されてるやつだ。もしかしたら管理局にとってよくない事実があるのかもしれない。素直に持って行っても揉み消される可能性も否めなくないからな。スバル、その子連れて家に帰って来い。二、三聞きたいことがある」
スバルは少し考えてから答える。
『うーんまぁ、遅くなっちゃったら家に泊めて明日管理局に行けばいいもんね。でも、アキラさん』
「ん?」
『本当にそれだけですか?』
スバルは、あまり聞くべきではないかも知れないと一瞬思ったが、思い切って聞いて見た。確かに今の説明を受ければ気になるのもわからなくはないが、アキラがそれだけでこんなことを言い出すようには思えなかったのだ。
アキラは少し黙っていたが、スバルの気持ちを察したのか口を開く。
「…………はぁ、実はな……ヴァイゼンに研究所がある。いや、もう廃棄されてるからあった、か。そこで俺の妹や弟…AtoZ計画の数人が作られてる……。俺の身体への実験が成功した後、弟妹に色んな研究所で強化実験が行われてたって話だ。もし、実験の影響でヴァイゼンが潰れたんなら………俺に責任がある」
『やっぱり…』
「また一人で背負い込もうとしてたね?」
ギンガにもスバルにもお見通しだったようだ。アキラは軽くため息をつく。
「…………あまり俺のせいで、誰かを危険に巻き込みたくない」
ギンガはアキラの頭を軽く小突いた。
「誰かに頼らないっていうのは強さじゃないよ。それに、もうアキラ君に振り回されるのは慣れたから」
ギンガは微笑む。アキラはありがとうの意を込めてギンガの頭を撫でてやった。撫でられてギンガは嬉しかったが、セッテが後ろに乗っているしスバルとの通信もまだ切ってなかったので姉として少し恥ずかしくなる。
『じゃあ、とりあえず一回家で保護してそれから管理局に連れて行くって形でいいかな?』
「そうね」
ーナカジマ家ー
ナカジマ家ではゲンヤが一人、セッテ歓迎の準備をしていた。大体の準備を終えた後、ゲンヤはクイントの写真が入った写真立てを手に取る。
「クイント、今日、家族が増えるぞ…………お前も一緒にいたら…良かったのにな。無駄に広くて、お前がいなくなった後、ギンガと二人きりは寂しかったこの家も少しは賑やかになるだろうよ。……ギンガの将来の旦那は…しっかり者だからよ安心して見守っててくれよな……いや、いつも見守っててくれてるから言う必要もないか」
ゲンヤは少し笑った。すると、玄関のドアが開く音がする。ゲンヤは今から玄関を覗いた。
「おお、スバル帰ったのか」
「うん、ただいま父さん。ほら、入って入って」
スバルは自分の後ろにいる少年に入るように促す。少年は警戒しながら少しずつ家の中に入っていく。
「その子が保護したって子か」
ゲンヤには既にギンガから連絡を受けて、スバルが少年を連れ帰っていくことを既に聞いていた。
「うん」
「スゥちゃんのお父さん?」
「そうだよ。あと、まだいないけど私にお姉ちゃんと新しい妹と、お姉ちゃんの彼氏さんが今の私の家族かな」
微笑ましい光景を見ながらゲンヤが思い出したように言う。
「ああ、そうだ。身体とか汚れてるだろうからシャワーでも浴びてこい。着替えとタオルなら用意してあるからよ」
「ありがとう父さん。行こうか」
スバルは少年を連れて風呂場に直行する。スバルを見送った後、10分くらい経ってから再び玄関のドアが開いた。
「ただいま〜」
「今度はギンガか」
「うん」
「……お邪魔、します」
ギンガに続いてセッテが玄関の前に立った。
「…」
しかし、セッテはそれ以上前に進めない。怖かったのだ。戦いのない、本当は自分がいるべきではない日常に行くのが。感情を手に入れてからずっと、そこに恐怖心を抱いている。
しばらく立ち止まっていると、いつの間にかアキラが後ろに立っていた。
「アキラさん…」
「大丈夫だ。意外とすぐ慣れる」
セッテの気持ちを察して言った言葉だ。アキラはそれだけ言ってセッテの背中を軽く押してやる。セッテは玄関に足を踏み入れた…その瞬間、世界が変わって見えた。戸惑うセッテにギンガが手を伸ばす。
「ほらセッテ、お邪魔しますじゃなくて…ただいまでしょ?」
「……………はいっ。ただいま…です」
セッテは感謝の意を込めて頷いた。
「ほら、とりあえず私の部屋来て。服用意してあるから」
ギンガはセッテを連れて自分の部屋に向かう。アキラも家に入り、ゲンヤと居間に入る。
「ちょっとトイレに行ってくる」
「ん」
ゲンヤはトイレに向かい、アキラは今に一人きりになった。既に準備されている料理や皿に不備はないかといろいろ確認し始める。すると、風呂場の方から小さな足音が聞こえてきた。
「トーマ~!ちゃんと身体拭かないと風引くよ〜!」
「いいって!もう服来ちゃったし!」
スバルと少年の声がした後、居間のドアが勢いよく開かれる。アキラは急に開いたドアの方を見た。そこには、スバルのお古を着た少年が駆け込んできていた。
続く