ヴァイゼン鉱山が…俺の故郷がメチャクチャにされて、もうニ、三年経つ。あの日、あそこにいた鉱山をメチャクチャにしたかも知れない誰か……。いや、きっとあいつらが犯人に違いない。いつか探し出して、復讐するつもりだった。殺して、それでどうにかなるわけじゃないけど、もうそれくらいしか考えられなかった。
でも、そんな俺をスバルさん……スゥちゃんが拾ってくれた。事故の後は一人で生きてきて、色んな人にあったけど初めてだった。俺に声をかけてくれた人は…。最初は食べ物を少し盗んですぐ去る予定だったけど、スゥちゃんは俺に優しくしてくれた。こんな山奥でトレーニングしてる理由とか聞いたら、すっごく優しい人だって知った。だから俺は自分のことを話した。
そしたらちゃんとした形で保護してくれるって言ってくれた。俺はすごく久しぶりに人里に来て、今、スゥちゃんの家に俺はいる。早速シャワーを借りることにした。
「さ、トーマ、一緒に入ろ」
「え⁉」
突然の言葉に俺が驚いている間に、俺は一気に脱がされてしまう。
「ちょっ!ちょっと待って!先に入っててよ!俺待ってるから!」
「それじゃ効率悪いし、ほら、私は気にしないから」
「俺が気にするんだって!!」
そのまま俺はスゥちゃんに抱えられ、風呂場に連れていかれた。
ー二十分後ー
トーマはスバルに全身隈無く洗われ、最終的には湯船にまで浸からされそうになった。流石にそれ以上一緒にいるのは精神的に耐えられなかったので、スバルが頭を洗っている隙をついて脱衣所に飛び出し、バスタオルで急いで全身を拭く。
「ちょっちょっとトーマ!?」
「もう身体洗ったから大丈夫!」
トーマは一気に服を着て、ずっと纏っていたマントを掴んでさっきゲンヤがいた居間まで走った。後ろからスバルが何か叫ぶ声がしたが、トーマは無視した。居間に飛び込むと、その場で軽く息をつく。
「はぁ…はぁ…年頃の女の人が、すぐに肌をさらすべきじゃないと思うんだけどなぁ……」
「おい、大丈夫か?」
横から、ゲンヤとは違う声がした。ゲンヤよりももっと若い、けど低くて何処かに重みのある声だ。声のした方をみると、そこには背の高い管理局制服を来た男が立っていた。アキラだ。トーマは最初、その場に立っていたアキラをスバルの兄かなにかだと思った。トーマはアキラに、大丈夫かと聞かれたからすぐに何らかの適当な反応をしようとしたが、アキラの顔を見た瞬間に言葉が消えた。
「え……………」
「ん?……………ああ、俺は橘アキラ。この家の家族じゃなくて居候だ」
(男………アキラと名乗ったがそんなことはどうでもいい。右目の部分にある………藍色の羽根の刺青………俺の故郷を……壊したかもしれない奴らの………唯一の手がかり…………)
アキラの右目の周りにはECウィルスの目印とも言える、藍色の羽根の模様があった。トーマはそれを見てしまったのだ。
「………」
「………?」
トーマはしばらくアキラを見つめながら、半殺しにした上で仲間のことを聞き出すための作戦を一気に考える。
(俺とあの男じゃ体格的に不利だ…。まず狙うとしたら足………それからテーブルに乗ってるチキン用のナイフを使えば…)
トーマは小さく深呼吸をしてから作戦に移る。
「……あっ!」
トーマはアキラより後ろの特に何もないところを見て驚いたフリをしながら指を指す。アキラがそれを疑問に思った瞬間、トーマがマントの中に隠しておいたナイフを取り出し、アキラの足目掛けてナイフを振りかざした。刹那、アキラはトーマの行動に気がつく。しかし彼は、その行動に十分対処できたのにもかかわらず、トーマに刺された。
「痛ぅっ…………」
そのままトーマはアキラに足をかけ、アキラを転ばせる。アキラは抵抗はしなかったものの倒れた時にテーブルに手を引っ掛けたため、テーブルに積まれてた取り皿が落ちて一気に割れた。
家にいた全員が気づいたかもしれないが、トーマは気にせずチキンを切り分けるためのナイフを手に取り、アキラの上に押さえつけるように跨がる。そして、今度は頸椎あたりを目掛けてナイフを振り下ろした。流石にそんなところを刺されたらアキラもマズイので右手で首を護る。
そんなに長くないナイフはアキラの腕に突き刺さったが、貫きはしなかった。トーマがナイフを抜こうとした時、アキラはその手を抑える。それと同時にギンガとセッテが皿が割れた音を聞きつけ、部屋に飛び込んできた。
「!!!!アキラ君!」
「貴様!!!」
ギンガは血相を変え、セッテは怒り混じりの厳しい目付きでトーマを取り押さえようとする。が、それをアキラが静止させた。
「待て!!!!」
「っ!…だが………」
「俺は大丈夫だ………」
セッテを止めた後、アキラはトーマに視線を戻す。
「お前…………何でこんなことをする?」
「うるさい!!!お前だろ!俺の故郷をメチャクチャにしたのは!」
「なに!?」
思いがけない言葉にアキラは驚いた。アキラはトーマの目を見る。その瞳には、憎しみと、アキラの右眼の藍色の羽根の模様が移されている。
「…………そうか、俺とどこか共通点を持つ奴らを………見たんだな?」
アキラの表情と声は一変し、しゃべるだけで正面に、周りにいる人間に恐怖心を与える昔のアキラに戻ってしまったような感じになった。その声の重さに、セッテも背筋がゾクリとする。アキラは掴んでいたトーマの手を離し、空いた掌をトーマの胸に付けた
「ショット」
「!」
小さな魔力弾がトーマの胸にゼロ距離で当たり、魔力ダメージでトーマは吹っ飛んだ。
「!!」
ギンガがアキラの行動に対し、何かを言おうとしたがそれよりも先にアキラが口を挟む。
「魔力だけで吹っ飛ばした。死にゃしねぇ」
「でも…!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!」
吹っ飛ばされたトーマは近くに立て掛けられてたアキラの「紅月」を見つけ、それを手に取ろうとしたがアキラが即座に取り出したECディバイダーから放たれた魔力弾が紅月を吹っ飛ばす。
「……やっぱり…」
「お前の故郷をぶっ壊したやつはこんな銃も持ってたか?」
「ああ!そうだ!やっぱりお前がやったんだな!?それから!」
トーマは視線をアキラからギンガとセッテに向けた。
「あんた等のどっちかが本を持ってるんじゃないか!?」
トーマが叫んだ瞬間、アキラはトーマに飛びかかった。体格差でトーマは負け、アキラはトーマの手を背中で組ませて頭を床に押し付けて拘束する。
「ぐぅ………」
「言っておく。俺はお前の仇でも何でもない。ヴァイゼン鉱山にはいったことはあるが誰も殺しちゃいねぇし、街も壊してない。それから、お前の言ってる本とやらはこれか?」
アキラは普段連絡用に使っている端末を取り出し、その中から一つの画像ファイルを表示し、トーマに見せる。見せた画像は、黒い表紙に銀色の十字架がついている本の画像だった。トーマは頷く。
「そうか。でもな、そこにいる二人も本は持ってないし、ついでに言うとスバルも持ってないから安心しろ」
「そんな……じゃあ、お前は………違うのか?」
「暴れるなよ」
トーマの耳元で囁いた後、アキラは立ち上がると同時に押さえつけていた手を離した。トーマは暴れることなく、解放されたあとも動こうとしない。アキラは椅子に座ってトーマが刺したナイフを掴む。そして、一気に引き抜いた。足から血が噴き出そうになったが、即座に発動させた氷結魔法で血は固まった。
「ギンガ、セッテ、悪いがそこの……………おい、お前名前は何て言う?」
「……………トーマ・アヴェニール」
「トーマに何かないか見てやってくれ。魔力ダメージだが、念のためな」
気がつけばアキラはいつも通りの声になっている。そして、ECディバイダーでリアクトして高速再生で傷を癒した。ギンガは少し安心してトーマの横にしゃがみ込んだ。セッテもあとに続く。
「大丈夫?トーマ君」
トーマは答えようとしない。そんな時、セッテがトーマを起こさせ、自分の方を見させた。
「何があったかは知らないが、人を殺すのはダメだ。絶対」
「家族を殺した相手でも?」
「ああ。すべての命は等しく一つで…………尊い」
その光景を見たアキラは急に立ち上がり、さっき吹っ飛ばした紅月を拾い上げてセッテの前にいく。
「ギンガ、俺は少し出かけてくる。セッテ。俺が戻るまでギンガの護衛頼んでいいか?」
「え……あ…………はい。任せてください」
セッテはアキラから紅月を受け取り、微笑んだ。アキラはバイクの鍵を持って廊下に出る。そこでゲンヤとスバルに出くわした。アキラは気づかれないように、そっと素早く服についた傷と滲んだ血を隠す。
「あ、さっきから何かドタバタしてるようだけど、何かあったの?」
「皿が割れた音がしたが……」
アキラは少し考え、自分の口から何があったかは言おうとしない。
「……トーマから聞け。俺は少し出かけてくる。あ、飯は食ってていいぜ」
アキラはそのまま玄関に向かっていった。スバルはアキラを見送った後、居間に入る。トーマはスバルが入ってきたことに気づくと、スバルを一瞬見たが、すぐに目を逸らした。
ー車庫ー
アキラは車庫の壁を殴った。
「俺で終わったと思ったが………まだ…実験は続いてんのか?」
◆◆◆◆◆◆◆
ー翌日 ヴァイゼン鉱山ー
「ここが……ヴァイゼン鉱山…」
アキラとギンガ、それから数十名の管理局員鑑識課の人間。アキラは先日、トーマの話を聞いた後すぐに管理局本部のとある知り合いに会いにいった。その人物はかなり官位が高く、アキラが再調査を依頼すると、すぐに動いてくれた。
だから今、二人はヴァイゼン鉱山に来ていた。
「…………随分ひどい状況をだね」
「ああ。本当に地震だけでこうなるもんなのか………今から確かめる」
「ねぇ、アキラ君」
「なんだ?」
「トーマ君に聞きたいことがあったって言ってたけど……あれ以降何も聞いてなかったよね。良かったの?」
「ああ。あいつから話してくれたからな」
アキラは何かを探すように奥へ歩いていった。
「じゃあ、鑑識の皆さん、お願いします!」
再調査が始まった。
「あ、アキラく…………あれ?」
少し目を離した隙にアキラはいなくなっている。ギンガは慌てて鉱山の奥地に進んで行った。しかしアキラは横道に外れ、近くの森の中に入っている。ギンガがいくら進んでも見つからないだろう。
アキラはギンガが慌てて探しているともつゆ知らず森の中を探索していた。
「………確かこっちの方面に……………研究所が…」
歩いていると、アキラの足元に突然弾丸が撃ち込まれた。アキラはすぐに危険を察知して茂みに飛び込む。そして、ECディバイダーを出現させて茂みの中から叫んだ。
「誰だ!」
「まさかこんなところで人と出会うとはな…………しかも、感染者ときたもんだ」
森の奥から、白髪の男が現れる。その男の手には銃剣、そして少し見えている肌には藍色の羽根の模様が見えた。アキラは目を丸くする。
「さぁて、どう料理してやろうか………」
続く