これからも応援よろしくお願いします……。
「ふぁ………」
「……………アキラ隊長?」
「ん?おお、おはようルネッサ執務官。今朝も暑いな、えぇ?」
「………こんなとことで昼寝とは……」
「アキラ君、朝は貧血気味で弱いの。許してあげて。まぁ、不真面目というか、昔に比べたらおちゃらけたかもしれないけど。だから朝だけは見逃してくれると嬉しいな」
「っ!ギンガ捜査官………」
現在時刻、午前6:52。陸士108部隊隊舎屋上。曇った空を眺めていたアキラの元に、偶然ルネッサが来たのだ。ウトウトしてたアキラに少し呆れたルネッサは注意しているとそこに、コーヒーを買ってきたギンガが来たのだ。
「お、ギンガ、サンキューな」
アキラはコーヒーを受け取ると、それを一気に飲み干した。
「一雨来そうだな………」
「天気予報では、そろそろ…」
ルネッサが今朝見た天気予報の情報を口にしようとした瞬間だった。ギンガの頰に雨粒が当たりそうになったのをアキラが指で受ける。
「降ってきたな」
(…………恐ろしい程の動体視力と反応速度、反射神経…………隊長になったのも、納得が行く能力……。JS事件で神威を落とした英雄と言われているが、それを自慢したり、誇らしく思っている様子もなし……でも、階級が二尉のになぜこんな小さな部隊の隊長なんかを……)
「隊舎に入るか。もーすぐ会議だしな」
「うん、急いだ方がいいよ」
アキラとギンガは少し駆け足で隊舎に戻って行った。ルネッサは二人の後ろ姿を見つめながら、アキラが昨日言っていたことを思い出す。
(………俺の部屋のPCのセキュリティはそう簡単に破れないからな)
あれは一体どういう意味だったのか。アキラはそのあとごまかすように、見られたらまずいデータが入ってるからと付けたした。本当にそれだけの理由なのか、それとも、ルネッサがしようとしていることに勘付かれているか、わからなかった。
「おーい!ルネッサ執務官殿〜!濡れちまうぞ〜」
「あ………はい……」
ー会議前 データベースー
屋上から戻ったルネッサは暗い部屋の中、PCで何かを調べていた。
「JS事件………新暦75年、機動六課が担当した事件……ジェイル・スカリエッティによって企てられた、管理局史上に残る都市型テロ事件………」
慣れた手つきでデータを次々と開き、JS事件に関する様々なデータを読みながら閲覧を続ける。そして、部隊員、及び被害者の閲覧をした時だった。閲覧ロックのエラーアラートが鳴り響く。
JS事件はまだ表沙汰に出来ない部分が多い。一般隊員等が閲覧し、外部に情報を漏らさない為に重要なデータはロックがかけられているのだ。
「おぅ、どうした。エラーかい?」
「!!」
そんなアラート音を部屋の付近で聞いた人物が部屋に入ってきた。ここ、陸士108部隊の部隊長、ゲンヤ・ナカジマだ。
(階級章が三佐………ここの部隊長!?)
「いえ、……すみません、大丈夫です」
「そうかい」
「失礼しました。ゲンヤ・ナカジマ三佐でいらっしゃいますでしょうか」
「ん?あんたは?」
急に変なことを聞かれ、ゲンヤは驚く。普通に108の隊員だと思って接していたが、よく見ると執務官の制服を着ている気づき、尋ねる。
「ルネッサ・マグナス執務官補です。ティアナ・ランスター執務官の補佐としてここのデータベースの使用許可をいただいています」
「ああ、ティアナの!あいつこっちにきてんのかい」
「はい、今は別行動ですが」
ティアナの名前を聞いたゲンヤは嬉しそうにいった。スバルが喜んでいるのだろうと考えたのだろうか。すると、ゲンヤの後ろの扉からギンガとアキラが入ってきた。
「あ、ルネッサ執務官補、それに部隊長」
「………」
「おう、ギンガ」
「すみません、紹介が遅れました。こちらはティアナの補佐で……」
「おぉ、聞いたよルネッサ・マグナス執務官補、だよな。あティアナ、今こっちにきてんだって?」
「今はスバルの部屋で泊まってるそうで」
アキラが答える。
「事件捜査か」
「俺らと共同捜査です。報告はもう上げてる筈です」
そう言うと、少しゲンヤは残念そうな顔をする。久しぶりに愛娘の親友に会いたかったのだろうか。
「何だよ、だったらこっちにも顔出してきゃいいのによ」
「ティアナも今は執務官ですし、部隊長は部隊長ですから。ちゃんと公私は分けてるんですよ。どこかの誰かとは違って」
ギンガの言葉がアキラの胸に刺さる。毎度毎度やることが公私混同どころの騒ぎではないので、何も言い返せないが。アキラは少しそっぽを向く。
「まぁ、そうだがよ……」
「執務官には伝えておきますよ、顔を出さないと、ナカジマ三佐が拗ねるって」
「余計なことは言わんでいい」
二人は少し笑った。
「あ、部隊長は会議の時間がもうすぐな筈ですが」
「会議室に向かう途中だったんだよ。会議終わったらちょっくらホームにいってくら。おいアキラ隊長。遅れんなよ」
「ああ」
アキラに釘を刺してから部屋を出ようとする時、足を止める。
「ああ、執務官補殿。あんたも忙しいだろうが頑張ってくれよな」
「ありがとうございます」
ゲンヤは出て行き、データベースには三人が残された。見た目より、ずっと温厚だったゲンヤに対し、ルネッサが口を開く。
「優しい方なんですね」
「うちの部隊長?結構怖いっていう人もいるんだけどね」
何やら嬉しそうに話すギンガ。
「部隊長とギンガ捜査官とは……」
ナカジマというか苗字が一致していることからもしやと思い、ルネッサは尋ねる。
「親子よ。家族は、父さんと、姉妹六人と………」
ギンガは少し拗ねているようなアキラの腕を抱き寄せた。
「恋人兼居候が一人」
「…………」
この部隊に来てもうそろそろ一日経つが、二人のバカップルぶりは目の前で嫌というほど見てきたので、ルネッサも流石に慣れてきたのか普通に流す。
「大家族なんですね……」
「まぁね。あ、ランスター執務官もうちのスバル……あ、警備隊にいた子ね?スバルと子供のころから親友で、ウチにもよく遊びにきてたから……私や部隊長にとっては半分家族みたいなものかな」
「俺は居候で家族じゃないのか?」
不機嫌そうな声と態度でギンガにアキラが言った。
「うーん。アキラ君は実質養子だから家族ではあるんだけど………まだまだかな」
「なに?」
「家族になれる秘訣はいつか………教えてあげるわ」
アキラは頭上に「?」を浮かべる。そんなアキラがふとルネッサの開いているPCの画面を見ると、そこには機動六課のデータが表示されていた。
「機動六課のこと調べてたのか?」
「すみません……前線を出来る協力者が必要になるかと……」
事情を聞くと、ギンガは申し訳なさそうな顔をする。
「そう………でもあんまり期待はできないかも………」
「そうなんですか?」
「うん……みんな忙しいから特に隊長、副隊長の人は」
そういうと急にアキラがルネッサの前に立った。
「まぁ、そんな協力者なんぞ必要ねぇがな。俺一人いれば十分だ」
「はい、もちろんアキラ捜査官の腕を疑っている訳ではないのですが……」
「なら尚更だ。俺がいれば次元管理局がまとめて襲いかかってこようと、なんてことねぇ。相手が誰だろうと、もしギンガに手を出すなら容赦なく潰すぜ」
自信満々で胸を張ってアキラは言った。普段の冷静な感じからは見られないような態度にルネッサは少し驚いている様子。ギンガに耳打ちするように感想を述べた。
「ずいぶん………自信があるんですね。自分の力に」
「まぁ………あながち間違ってないから怖いんだけど……。あ、アキラ隊長。もう会議に遅刻しますよ」
「あ、そうか………。ギンガ、愛してる」
アキラは軽くギンガをハグしてそれからキスをしたあとにデータベースを出て行った。その瞬間、アキラの頭に激しい頭痛が走る。
「っ!!!!!あっ…………がぁぁ!」
「アキラ君!?」
「アキラ捜査官!」
声を聞いた二人がデータベースから飛び出してくる。アキラは頭を押さえてその場に跪く。
『イクス……』
『マリアージュ………また、私を探してるの?だめだよ……私たちは……目覚めちゃいけない存在なのに…………お願いだから、ここには来ないで!』
「イクス………」
再び言った、イクスという名。アキラは今度はしっかり覚えていた。
「イクス……?なんだそりゃ………」
「アキラ君!しっかり!」
「大丈夫………意識はある!頭の中に………声が……」
「アキラ捜査官その声は…」
ルネッサが慌てて質問しようとすると、アキラの頭の中で何かが弾ける。それと同時に意識を失い、ギンガにもたれかかるように倒れた。意識は、ない。ギンガは顔を真っ青にしてアキラに叫んだ。
「アキラ君!!」
ー食堂ー
それから時間は過ぎ、雨が一層強くなったお昼頃に二人は食堂にて昼食をとっていた。
「倒れた時は本当にどうなるかと思った…………」
「大丈夫だって。マリーさんも、医務室のセンセも、問題ないって言ってたろ?」
「そうかもしれないけど、アキラ君は色々特殊なんだから………」
そんな二人の会話に割り込むように、誰かからメッセージを受信したブリッツギャリバーがギンガに話かけた。
『マスター?』
「大体アキラ君は自分のことをもっといたわって…」
『マスター!』
「え?」
アキラは机の上に置かれているブリッツギャリバーを指差す。ギンガがキョトンとしてブリッツギャリバーを見ると、ブリッツギャリバーがメッセージ受信を知らせる為の点滅をしていた。
『メールが一通受信されています』
「ああ、ごめんなさい。気づかなかったわ。ありがとう。えーっと…………あら?スバルから画像付きで?」
開いてみると、アルトとスバル、そして懐かしいキャロとエリオが写っていた。ギンガは思わず声を出す。
「わぁっ!エリオにキャロだ!」
「何だ、あいつらまで来てんのか」
「そういえばそんな連絡来てたわね……二人とも背が伸びたなぁ……」
しばらくぶりに二人を見て、ギンガはまるで子供の成長ぶりを久しぶりにみた親か祖母のような言葉を使ってしまう。
「今は忙しいから会えないけど、今度はこっちから会いに行こうか」
「そうだな」
空気が和んだかのように思われたその刹那、緊急アラートが108部隊に鳴り響く。
「!?」
『緊急連絡!ミッド海岸ラインにて火災レベル4の火災発生!連続放火犯の可能性あり!橘アキラ二尉、ギンガ・ナカジマ准陸尉は現場に急行してください!すでにティアナ・ランスター執務官が向かったとの報告が入っています!武装隊は緊急出動準備!」
「ギンガ!」
「うん!」
ーホテルー
火災レベル4の火災は、ミッド海岸沿いの一流ホテルで起きていた。スバル、エリオ、キャロの三人は救助、及び消火の援護にきている。予想よりも大きい被害に、消防も消化活動に困っていた。今降っている雨が唯一の助けだろうか。
そんな時、フリードでホテル周辺を飛んでいたキャロの視界に何かが映った。魔力で作り出した道を颯爽と駆けてくる一台の二人乗りの装甲車のような黒く、槍のついたバイク。
「アキラさん!?それにギンガさん!」
「キャロ!状況は!」
「火災レベルは4!内部には可燃性の液体が多数見つかってるという報告です!」
「放火………あいつか!?俺らは突入する!引き続き周囲の観察頼んだ!」
「了解!」
すっかり隊長が板に付いたのか、良い指示っぷりにキャロは少し驚く。アキラ達は火災現場に一直線に走って行く。
「こいつの性能を試せるのが嬉しいぜ……頼んだぜ。ブラックレイランサー?」
アキラがバイクに向かって語りかけると、バイクのキーの部分に刺さっているクリスタル型のデバイスが返事をする。ブリッツギャリバーやマッハギャリバーと同じ形だが、色はほとんど黒のブラックパープル。アキラの新しいデバイス、ブラックレイランサーだ。
『all right』
「ギンガ、突入するぞ!」
「了解!!」
ーホテル 会員専用室ー
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
アキラたちがバイクで突入すると、逃げ遅れたのか、一人の男性が怯えた表情で座り込んでいた。アキラ達に驚きはしたが、局員だとわかると安堵のため息をつく。
「おいあんた、大丈夫か!?」
「え………ああ………」
「大丈夫ですかー!」
壁が崩されたのと同時に聞こえた声、スバルだ。
「スバル!」
「ギン姉!……もしかして……事件!?」
「その可能性を疑ってきてるわ。あ、あの、大丈夫ですか?」
「今バリア張りますから、安心してください」
「ああ、あんたら、救助隊にしてはずいぶんごついモンに乗ってるな?」
「この青いのは救助隊だが俺らは管理局の武装隊です。何があったんですか?」
「しらねぇよ!いきなり、爆発が起きて……そしたら一気に燃え広がって………急いで逃げようとしたら変な女に……うっ……うぐっ」
話している途中に、男は急に頭を抑え、もがき出した。それもちょうどスバルがバリアを張ったのと同時に。
「うぐっ!あっ!あぁぁぁぁぁ!!」
「おいっ大丈夫か!?おいっ!」
「大丈夫ですか!?え……ナイフ…」
男はナイフを取り出したかと思うと、それを自分に向けた。スバルが慌ててバリアを解除するより先に、アキラが抜いた刀でバリアは切り刻まれ、消滅した。アキラは急いで男の腕を掴んで止めようとする。
「なにやってんだあんた!死ぬ気か!!!」
「た、助けてくれぇ!!頭が溶けそうで………身体が勝手にぃ!!!!!」
アキラは何とか男の手からナイフを外させようとしたがまるで皮膚とナイフが一体化しているかのように外れない。
「助けて!助けて!!!!」
「くそがぁぁぁぁ!チェーンバインド!!!!!」
アキラは鎖のバインドで男を無理やり縛ったかと思うと、刀を振り上げた。
「アキラ君!?」
「時間がない!腕を切り落とす!」
そうしようとした時、スバルがアキラを止める。
「待って!ここは私たちがどうにかするから!!アキラ君は行って!きっと犯人がいる!!」
「だがっ!」
アキラが一瞬木を緩めた瞬間。男は、強力な筈のバインドを自分の身体を気にすることなく千切り、喉にナイフを突き刺した。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「!!!」
「くそ!!」
アキラは男を取り押さえる。近くにあった布で傷口を押さえるが、出血は止まらない。数十秒間止血行為は行われたが、手遅れだった。
「……………嘘」
アキラは腕についた血を落とそうともせずに、刀を持って立ち上がる。
「………スバル、ギンガ、近くにまだ生存者がいるかもしてない。調査を頼む」
「うん…………アキラ君は?」
「犯人を探す。まだ近くの階にいるはずだ」
アキラはそのまま走って犯人を探しにいった。アキラなり気を使ったのか、犯人を憎んでいるのかは、この時はスバルはわからなかった。
続く