ー108部隊ー
今回の事件は、ルネッサが引き起こした事件ということで方が付いた。管理局や、上司であるティアナの責任問題がどうたらということでそれを中心に少しずつ終わらせて行くようだ。そして、捜査をする必要がなくなったティアナは明日帰ることになった。
今日はスバルと夕食に行くのだそうで、アキラとギンガに別れの挨拶をしにきている。
「本当はもっと長くいたかったんですが………」
「しゃーねーよ。いつだってどこかで事件は起きてるし、管理局は…人手不足だ」
「ふふっ。頑張ってね。ティア」
「ええ、ギンガさんもお身体を大事に。産休は明日からでしたっけ」
「うん」
ティアナはギンガのお腹をみる。ギンガのお腹は昨日までとは違い、とても大きくなっていた。なぜギンガのお腹がこんなにも大きくなっているのか、それは約16時間前に遡る。
ーアキラ脱出直後ー
アキラはとにかくギンガの容体が心配で、救護テントに突撃した。そして、シャマルからギンガが元気だということだけは聞いたが…。
「元気だけど……」
「元気だが何だ!?あの腹痛は普通じゃなかった!まさか何か難病とかなにかか?」
「アキラ隊長、見てもらえればわかります」
セッテがアキラに軽く笑いかけながらいった。アキラはシャマルを掴んでいる手を離し、ゆっくりとカーテンに閉ざされたベッドに歩み寄った。カーテンの縁を掴み、一気に開けた。カーテンの先に待っていたのは、ベッドに寝ているギンガとそのギンガの大きく膨らんだ腹部だった。
「……………なに、入れてんだ?」
「クスッ、なんでしょう?布団を捲ってみればわかるよ」
「ったく、悪ふざけも大概に…」
ため息をついてからアキラが布団を捲ると、膨らみ正体を見た瞬間言葉が止まる。本当にギンガのお腹が膨らんでいたからだ。
「…………なん…だ?これ、何が起こっている?こんなに急激に腹部が膨張する病気、聞いたことねぇぞ?」
「まだわからない?」
マリーが入ってきた。アキラはこくりと頷く。
「妊娠してるのよ。ギンガは」
アキラはマリーのいっていることを理解出来なかった。少ししてからやっとその意味に気づく。だが、とても信じられる話ではない。ついさっきまでギンガのお腹は膨らんでいなかったのだ。妊娠させないように今まで行為を行っていたのに。
「なんだそりゃ、さっきまで腹がそんなになんてなってなかった。つまらんジョークはよせ」
「違うのよ。実はギンガのお腹の強化筋肉とかが邪魔してお腹の赤ちゃんが前に出れて無かったの。今、強化筋肉を調整して、一時的にお腹をやわらかくしてお腹が膨らんで来てるから」
「妊娠から4ヶ月も経ってたんだから。ギンガもアキラ君も、もっと早く気付かなきゃダメじゃない」
シャマルが注意する。ギンガは照れ笑いしながら謝る。
「すいません。それから、ごめんなさいアキラ君。実は前々から変だとは思ったんだけど、事件終わるまでは言わないようにしようとおもってて…………」
「……………」
アキラはしばらく唖然としていた。
「アキラ君?あれ、そういえばエクリプスが…」
ギンガがアキラの変化に気づいた瞬間、アキラがギンガを抱きしめた。ギンガは驚き、セッテは顔を赤らめシャマルとマリーはあらあらと微笑んでいた。
「ア、アキラ君!?」
「……………何でもない。ただしばらくこうさせてくれ。それから、ありがとう」
しばらくすると、アキラはギンガを離す。急なことで驚いたが抱きしめられてる間にギンガも気が落ち着いていたようだ。アキラは改めてギンガのお腹をみるそしてそっとお腹に耳をあて、目を瞑る。
「………ここに…俺たちの」
「うん、愛の結晶があるんだよ」
するとそこに、マリーから連絡を受けたゲンヤがやってきた。そのことに二人は少し青ざめる。ゲンヤには二人の肉体関係については話していない。話すようなことでもないが。
「ギンガ……」
「お父さん……」
「ゲンヤさん…。あの、これは……」
「マリエル技師。ギンガの容体は?健康面とか」
ゲンヤはため息をついてはマリーに尋ねる。自分に来るとは思ってなかったマリーは慌てて対応する。
「あ、はい!えと、特に問題はないです。ただ、食事量が今までより増えたり、貧血になったり、今後色々あるとは思いますが今は大丈夫です」
「ゲンヤさん、あの…」
「アキラ」
「……」
ゲンヤは胸ポケットから1つの封筒を取り出した。
「アキラ、事件も終わるだろうし雑用だ。これ捨てといてくれ。じゃあ、俺は忙しいからもういくぞ」
「仕事って……」
アキラは封筒を開け、中身を確認した。中には、かつてアキラが一人で未成年だった時にゲンヤが書いた保護責任者引き受けの資料一式が入っていた。思い出してみれば、アキラは一応ナカジマ家に引き取られているいわば義理の家族だった。その事実がある限り二人は結婚できない。逆に言えば保護責任者引き受けの資料を捨てればナカジマ家とアキラの関係はなくなる。そうなれば結婚はできる、ということだ。
ゲンヤなりに、二人を祝福したのだ。
「お父さんったら」
「………ギンガ、すぐに産休の許可取るから。産休取れたら一緒に行って欲しい場所があるんだ」
「え…うん」
ー16時間後ー
「それでは、ありがとうございました」
「ああ、達者でな」
「さようなら」
ティアナが去ってから二人隊舎も隊舎を後にした。産休の期間は基本一年程だが子供の成長によって変わるそうだ。二人が隊舎から出て歩いているところを、部隊長室からゲンヤが見ていた。
「………」
ゲンヤはクイントの写真が入っている写真立てを取る。
「クイント………娘が、ようやく………いや、とうとう俺の手元を離れちまう。でも、これでいいんだよな。やっとギンガを二度と不安にさせないような勇敢なやつだ。反対する理由なんか一個もねぇさ」
◆◆◆◆◆◆◆
アキラはギンガを連れて花屋さんに来ていた。どうやらこの花屋の常連らしく、アキラが花屋の常連ということにギンガは少し驚いた。
「またいつもの花ですか?」
「ああ、頼む」
「はい、いつもありがとうございます」
若い男性店員が花をまとめ、アキラに渡す。
「どうぞ。お連れの方は、なにか?」
「あ、いえ、大丈夫です。……そういえば、アキラ君っていつ頃から常連何ですか?」
「いつ頃でしたかねぇ………数年前からですけど」
「俺が14の頃からだ」
「14……」
「いくぞ、ギンガ」
「またのお越しをお待ちしております」
アキラは花屋を出ると、バイクでとある山に向かった。山に着くと、アキラはギンガをお姫様抱っこをして山を登り始める。最初はお姫様抱っこを断ったが、お腹の子供が心配だと言われギンガは大人しく抱っこされた。
どこにでもあるような平凡な山ではあるが、あまり人の足が踏み入れられてないように見える山だ。
(キレイ…………)
「キレイって思ったか?」
「え?うん」
「ここはな、俺が……いや、俺の知り合いが買った山でな。基本的に立ち入りが禁止されてる」
「そうなんだ…」
「ああ。空気も澄んでるし、自然も綺麗だし。ほら、景色もいいだろ」
アキラが止まり、顔である場所を見るように指示する。ギンガがそこに首を向けると美しい湖が広がっていた。確かに、都会に住んでいると中々お目にかかれない景色だ。
「どうしてこんなところに来たの?」
「ああ、まぁ、じきにわかる」
しばらくギンガを抱きながら山を進んでいたがアキラは急に立ち止まり、ギンガを下ろした。そこには一面の花畑があり、花畑の中央には石でできた十字架立っていた。
「あれは?」
「セシルの墓だ」
「セシル…前に護衛してたっていうあの子!」
「ああ」
アキラは花束を抱えて、墓の前まで歩く。そして花の前に花束を置いた。花束を置いた後、しゃがみながらアキラは墓の前で手を合わせ一人で呟き出した。
「よぉ、久しぶりだな。ここんとこ、これなくてごめんな。事件があって忙しかったんだ」
「アキラ君………」
「あのよ、お前を殺しちまってからもう六年くらい経ったか」
「六年…あっ」
六年前、それはちょうどアキラが14の時だ。アキラはその頃からずっと墓参りをしていたようだ。
「あれからずっと俺は、償いの為に誰かを護るために戦ってきた。だから…………だからもう、幸せになっていいかな?」
その言葉を言ってから、アキラはしばらく黙っていた。沈黙の中、風の音と、葉擦れの音がだけが響いていた。ギンガは少し微笑んで花畑の中を歩き、アキラの隣にしゃがんだ。
「初めまして、アキラ君の彼女のギンガ・ナカジマです。あなたの話しは聞きました。アキラ君はあれからとっても頑張ってますよ。わたしのために、この世界の色んな人のために。命を張って守ってくれてる。もう、後悔しないように」
「実はなセシル……今日は特別な報告があってな。見ての通り、ギンガのお腹には子供がいる。俺の…子なんだ。ギンガが妊娠したって知る前から俺の心は決まってた。だから、ギンガ」
「?」
アキラはポケットにいれていた指輪のケースを取り出し、箱を開けて指輪を見せた。
「俺と、結婚してください。絶対に幸せにする、今以上に、セシルの分まで!」
予想はしていたが、やはり好きな人にプロポーズされることに喜びが溢れ、ギンガの瞳から涙が一粒こぼれ落ちた。アキラが心配そうな顔をしたのでギンガは慌てて涙をぬぐい、最高の笑顔を見せた。
「………もちろん。喜んで」
「……良かった。セシル、このことを、お前に最初に祝って欲しかったんだ。いや、祝ってくれるかどうかはわかんねぇけど………。けど、俺はそれでも幸せになりたい!これが俺の最初で最後の…………欲張りだ、許してくれ」
アキラは立ち上がり、墓に背を向けて歩き始めた。ギンガは何も言わず、それを追いかけようとしたその時、
「アキラのこと、よろしくね」
背後から少女の声が聞こえた。振り返ると、そこにはただ優しい風が吹いているだけだった。アキラには何も聞こえなかったのか、まっすぐ振り返らず歩いている。
ギンガは声の主さえ分からない、気のせいかもしれない声に小声で答えた。
「…………うん」
続く