ー海上隔離施設ー
妊娠し、産休をもらうことになったアキラとギンガはナンバーズの元にきていた。同じ戦闘機人の自然な形での妊娠ということにナンバーズ達は興味を持っていた。
「ほえー…まぁ何となく予想はしてたッスけど、案外結婚まで早かったッスね」
「あはは、なんだか恥ずかしいな」
「ここに二人の子供が……」
ディエチはギンガのお腹と、薬指の指輪をみながら少し考える。そして、思い切って自分の中にある疑問をノーヴェに聞いてみる。
「ノーヴェ」
「どうした?」
「自分の子供持つってどんな感じかな?」
「どんな感じって……どうしたんだよ急に」
ノーヴェが質問の意図を逆に尋ねるとディエチは少し俯いて自身の手のひらを見つめる。そしてなにやら思い詰めた様子で話しはじめた。
「私たちは、今まで命を粗末に扱ってきたって言ってもいいくらい戦ってきた。もし将来私たちも妊娠したりした時、血で汚れたこの手で誰かを育てるのは一体どんな感じなんだろうって……どんな気持ちで育てればいいんだろうって…。あっ……ごめん。ノーヴェに聞くべきことじゃなかったよね。だいたい、子供を作る前提っていうのがおかしかったね。忘れて」
話してる間に聞くべき相手が間違っていることに気づいたのか、ディエチは途中で話すのをやめ、笑いながら誤魔化した。ノーヴェにこんなことを聞いたのは、やはり少なからず彼女の中に罪悪感があったからだろう。
「別にそんなこと考える必要ねぇだろ。あたしたちは、その罪と手についた血を流すために、今はそのためにここにいるんだろ」
「そうかもしれないけど………」
「別に気にすることねーじゃねぇか」
「えっ?」
みんなの集まっている木陰の端で、昼寝をしてるように見えていたアキラが急に口を開いた。
「戦闘機人だろうが人間だろうが、子供が出来りゃ自然とその子に愛情が湧くもんだ。罪悪感とかそんなもんよりもずっと大きい愛情がな」
「アキラ………」
一通り、ディエチに対してアキラなりに励ましのことを伝えると、アキラは起き上がる。
「ふぁ……あー寝ちまったぜ。結構ぐっすり寝てたから寝言とか言ってたかもな」
下手な誤魔化し方にディエチは思わず笑顔を見せた。アキラはギンガの横まで行くと後ろから抱きしめた。
「大丈夫か?寒くないか?」
「うん、大丈夫」
「見せつけてくれるな全く」
「ホントッス」
「相変わらずね」
チンク、ウェンディ、ウーノが呆れる。その時自由室の扉が開いた。入ってきたのはメグとセッテだった。
「やっほー。バカップル元気にやってる?」
「カップルはなくてもう夫婦だ」
「勝手にバを抜いてんじゃないわよバカ」
「メグ、もう来たんだ」
「仕事が思ったより早く終わったので」
突然現れた、見たことのない人物の登場に、ナンバーズ達は驚いている様子だった。それに気がつき、ギンガがやってきた二人の説明をする。
「この二人が、今度から私たちに変わって授業をしてくれるわ。セッテはサポート。みんなに、ここを出てからの生活で実際どんな風にいろんなことを感じたかとかの体験談係りね」
「よろしく!ナンバーズの諸君!ギンガの同僚のメグ・ヴァルチよ」
「ロットが一番遅い私がチンク姉様達に教えるというのは何というか、遠慮見たいなのがありますが、よろしくお願いします」
「セッテ、制服がよく似合ってるじゃないか」
「あ、ありがとうございます…変じゃなくて良かったです」
セッテは照れくさそうに自分の制服を見る。その時、部屋に仕事中の筈のスバルが飛び込んできた。
「ギン姉!アキラさん!」
◆◆◆◆◆◆◆
事件が終わってから、イクスは海上隔離施設に引き取られそこで眠ってた。しかし、数日経ってからイクスが一時的に目覚めたという連絡がスバルの元にきた。しかし、またすぐに眠ってしまうという事実を知ったスバルは急いで海上隔離施設にやってきていた。途中、偶然同じ施設にきていたアキラとギンガを呼んだが、二人は先に話すといいと言ったのでスバルはイクスと先に再開を果たした。
イクスは目覚めてからとても良くしてもらっているという。今回の事件も彼女が起こした訳でもなく、ただ関係してるだけということでイクスは罪には問われなかった。イクスに関係のある人間からのビデオメッセージもとても喜んだ。
今はスバルと少し話し、スバルに借りたマッハギャリバーでヴィヴィオとの通信を終えたところだ。そこに、アキラとギンガがやってきた。
「よう。元気にしてっか」
「アガリアレプト!」
イクスが駆け寄って来てアキラに体当たりするように抱きしめた。アキラは自分がアガリアレプトではないことを打ち明けていない。その方がイクスにとって幸せだと思ったし、アガリアレプトが言っていたようにすぐ眠るならその必要もないと踏んだのだ。イクスはアキラをみて少し笑っていたが、視線はすぐにアキラの隣にいった。
「あなたは……」
視線の先はギンガだった。ギンガは笑顔で自己紹介する。
「この人のお嫁さんで、スバルの姉のギンガ・ナカジマです。初めまして。イクス…さん、かな?」
「俺の……もうすぐ嫁になるやつだ」
呼び方に戸惑うギンガに対し、イクスはギンガに笑いかける。
「イクスでいいですよ。敬語も結構です。それにしても、綺麗な方だね」
「お、だろ?」
「ふふっ、ありがとうございます」
「できたらお前も結婚式に呼びたかったんだが…………」
「うん、何となく自分のことはわかってる。大丈夫」
アキラはイクスを撫でた。撫でられてる感触をイクスは楽しんでいると何かを思い出す。
「あ、それから、この間腕輪に封印した力のことなんだけど………あれは、腕輪に封印されている状態で、今も成長を続けてる」
「成長……」
「だからいずれ……その腕輪の封印も破壊してあなたの身体を蝕んで行くかもしれない。気をつけて、アキラ」
「ああ、そうだと思ってたから対抗策を…………え?」
アキラはそのまま話を続けようとしたが、言葉を止めた。イクスは今確かに「アガリアレプト」ではなく「アキラ」と言ったのだ。アキラの反応を見て、イクスは「やっぱり」という顔でアキラに微笑んだ。だが、その微笑みの中には確かに悲しみ、落ち込みの感情が見えた。
「そっか……あなたはやっぱりアガリアレプトじゃないんだね」
「な、なにいってんだ……俺は……………アガリアレプトだ」
「ありがとう、わたしの為に嘘をついてくれて。眠っている時に、夢でアガリアレプトにあったんです。夢の中でいろんなことを彼から聞きました。あなたのこと、私が眠りについたあとのこと。たかが夢でしたが……もしかしてと思い、あなたを引っ掛けてみたんです」
無理に笑ってアガリアレプトを演じ続けようとしたが、アキラの良心の呵責や、真実を伝えることの大切さを考えてアキラはアガリアレプトを演じるのをやめた。
「はぁ、まぁ夢の中とはいえあいつがイクス自身に真実を伝えたんならしょうがねぇや。そうだ。俺はアガリアレプトのDNAをベースに作られた……まぁ、生物兵器見たいなもんだ。悪かったなあいつじゃなくて」
「でもどうして、アガリアレプトと私の約束を知っていたり、アガリアレプトを演じようと?」
イクスの質問にアキラは少し考えたあとイクスを抱き上げ、肩車をした。そしてギンガと一緒に外の景色が見える場所まで移動した。その横にスバルもやってくる。窓から広がる景色は青空と綺麗な海。アキラはそれを見つめながらイクスに説明を始めた。
「俺も夢……みたいなもんであいつとあったんだ。それであいつとお前の出会いや、約束のことも聞いて最後に頼まれた。もう一回お前が眠りにつくまでアガリアレプトを演じて欲しいってな。それによ、出会ったばっかの頃のお前が見ていられなくてな。見せたかったんだ。アガリアレプトがお前に約束した、青空とみんなが………戦うために生み出された俺やスバルやギンガ。聖王のクローンまでもが笑って暮らせている世界を……」
「ありがとうございます。アキラ………この世界は本当に美しいですね……今までは、目覚めてはイクスを生み出し、戦地に送り出して………城の中以外は灰色の空と、血染めのぬかるみしか知らなくて、今度はいつ眠れるんだろう、いつになったら殺さなくてよくなるんだろうって………ずっとそんなことを考えてました」
「うん」
「でも、スバルやアキラ、アガリアレプトにあってそれは違うのだとわかりました。自ら死のうとしている命さえ、命を賭けて救おうとしてくれる人がいる。私や、わたしの時代の人たちが壊してしまったものを、こんなにも綺麗なものに育ててくれた人がいる。きっとあなたたちのような人なのだろうと」
イクスはアキラを撫でながら言った。
「私は別として、この世界、いろんな人が生きていましたから」
「私は、私やわたしの周りの世界を自分で変えなければならなかったんですね。そうしたらもっと早く、変われていたかもしれない」
「過去は過去ですよ大事なのは、今とこれから」
「その通りですそんな簡単なことに気づくのに1000年以上もかかってしまいました」
「かかりましたね」
スバルの返答が少しずつ元気のなくなっていっていることに、アキラとギンガは気づく。しかし、二人とも何も言わずそのまま二人に会話させ続けた。現場にいるとはいえ、ここで口を挟むのは野暮というものだ。
「かかりすぎです………ねぇスバル?青い空と、紺碧の海、美しい風………素晴らしいですね」
「ち、ちょっと眠って、また起きればさ!またいくらでも見れますよ!ここだって綺麗だけど………山も海も、空ももっともーっと綺麗な場所たくさんあるんだ!紹介したい人だってたくさんいる!食べて欲しいものも、見て欲しいものも……すごいたくさん…」
無理に元気に話そうとするが、スバルの声はえずき、涙混じりのものになり、目には涙をたくさん溜めていた。
「そうですね。そういった、綺麗で美しいもの全部。あなたと触れて行きたかった。
「う、うぅ……イクス……」
耐えきれず、涙を流してしまったスバルにギンガが優しく寄り添う。そんなスバルをなだめるようにイクスは話を続ける。
「泣かないで、スバル。私が次に目を覚ますのは、十年後か二十年後か、もしかしたらまた1000年後かもしれないけど。その時の目覚めは、きっと素敵です」
「イクス……あたし…」
尚も涙を流すスバルを見て、イクスはアキラの頭を軽く叩いた。
「アキラちょっと抱っこして?」
「ん?はいよ」
イクスに言われた通り、アキラがイクスを抱っこしてやるとちょうどイクスとスバルの目の高さが同じくらいになる。そして、イクスはスバルの額に手を伸ばし、デコピンを放った。
「えいっ………人の感謝に泣いたりする子にはデコピンです」
そのこうどうと言葉に、スバルは涙を拭いながら笑った。
「そんな、変なこと覚えて」
「教えたのはスバルです」
そう返答すると、少しだけ二人は笑いあった。それにつられてアキラもギンガも笑顔になった。
「たくさん笑ったら眠くなってきました。ねぇ、アキラ。もう少しだけ抱っこされてても?」
「構わねぇ。お前は軽いからな、抱いてても抱いてなくても一緒だ」
アキラは抱き方をかえ、母親が赤ん坊を抱きかかえるように抱いて、ゆりかごのように腕を揺らす。
「…………アキラ、今までありがとう。あなたはアガリアレプトではないけど。どうか、彼の分まで幸せに………なって?」
「ああ」
「スバル、助けてくれてありがとう。あなたのおかげで、今されながら、自分を変えられました」
「いいんですよ、子供がそんな難しいこと考えなくて」
「ふふっ……それから…ギンガ」
「はい」
「アキラにもスバルにも、これから苦労や災難があると思います……その時、姉として、妻として、支えてあげてください。子供が生意気にすいませんが……」
「いいんですよ。王様なんですから。それから、ふたりのことは私にまかしてください。きっちり支えてみせますから」
その返答に、イクスはかなりウトウトしながら笑った。そして、ギンガのお腹に頑張って腕を伸ばして触れる。
「この子が………大人になる前には、めざめ……たいです……」
「………そうだな」
「……………ありが…と………う…おや…………す…みな………さ」
イクスはアキラの腕の中で眠りについた。その姿はまるで、ただお昼寝をしているだけの子供のようだった。
続く