とあるギンガのPartiality   作:瑠和

72 / 118
久々の投稿になりますね。今回からストーリーが加速していきます。頑張って行きます!


第七話 会議

ークラウドの隠れ家ー

 

 

 

 

「……………」

 

クラウドは自分の玉座から美味しそうにクッキーを頬張る白髪の少女を不機嫌そうに眺めていた。少女はクッキーを袋から一つ、また一つと取り出し、口の中に放り込んでは笑顔を浮かべる。

 

「ん〜♪誰が作ったか知らないけど、お〜いし♪」

 

「おい、セヴン」

 

「?」

 

「私はお前になんと命令した?」

 

セヴンと呼ばれた少女は少し首を傾げて考える。そして数秒後に笑顔で答えた。

 

「………忘れちゃった」

 

「すぅ……………………このたわけがぁ!!!!!!!」

 

「わーーーー!」

 

セヴンは一瞬で近くの柱の影に隠れた。

 

「私はアキラを殺し、ギンガナカジマを誘拐して来いと命じた筈だ!なのになぜクッキーをもらって帰ってきている!お使い頼んだわけじゃねぇぞ!」

 

「ひぃ〜………だって、これ美味しそうだったんだもん!あ、クラウドも食べる?」

 

もしかしてクラウドもクッキーを食べたかったのではないかと考えたセヴンは、さっとクッキーの入った袋を柱の影からクラウドに向ける。しかしその瞬間クラウドが指の動きで何かを飛ばし、その袋は見事に撃ち抜かれた。

 

「…………」

 

「次から失敗は許さん…………」

 

「やぁ、ずいぶん荒れてるね。クラウド」

 

玉座の奥横の廊下からスカリエッティが出てきた。

 

「スカリエッティ…………ゼロ・ナンバーズのロールアウトは順調か?」

 

「もちろん。もうタイプゼロ・セカンド以外全員終わったよ。ロールアウト済みのサード、シックスの強化も完了した。ん?やぁセヴン。元気かい?」

 

スカリエッティは柱の影に隠れているセヴンを見つけ、軽く挨拶した。

 

「元気だよー!ねぇ!スカなんとか!」

 

「難しいようならドクターと呼びたまえ」

 

「じゃあドクター!私の強化はいつ!?」

 

「これから残りのゼロ・ナンバーズを出撃させる。彼女達にデータを収集してきてもらってからだ」

 

「わー!楽しみだなぁ…」

 

二人が楽しそうに会話をしているのを横目に、クラウドは席を立つ。スカリエッティはクラウドに行き先を聞く。

 

「どこへ?」

 

「鹵獲したゼロ・セカンドのところだ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ー管理局ー

 

小此木は三人から黙示録の書をもった少女、クラウドと接触した時の話を聞き、狙われる可能性があるヴィヴィオやナンバーズの処遇について話が決まった後、議題は本命の黙示録の書に移った。

 

「でも、黙示録の書ってどんな代物なのかな?」

 

フェイトが黙示録の書についてどんな魔導書なのかを尋ねる。実際に黙示録の書の主であるクラウドにあったが、その時は転移魔法と無詠唱での魔力波だけで、より詳しい黙示録の書の実力は分からなかった。

 

「私があの子会った時、『世界を混沌と破壊へと導く偉大な魔導書』って中二っぽいことしか言わへんかった」

 

「小此木さんは何か知りませんか?黙示録の書について‥‥」

 

ティアナが小此木に黙示録の書について尋ねる。

 

「そのことならば私が説明しよう」

 

小此木の横に座っていたテレジー・シファクが立ち上がった。

 

「テレジーさんでしたっけ」

 

「ああ、君の守護騎士とは軽く面識がある。あの時は………おっと、世間話は後にしよう。黙示録の書だがね。我々テレジー家が関わったのは管理局が黙示録を封印することになってからテレジー家は今に至るまでずっと関わっている。そしてその前、管理局が黙示録抑える前から関わっていた家系とテレジー家が関わりを持っているからね。まぁまずは黙示録の誕生から話そうじゃないか」

 

シファクはデータファイルを会議室の大画面に写す。そしていくつかの画像ファイルと書のデータを表示した。

 

「黙示録の書はね、かつてはそんな名前ではなかった。人々を癒すための本だったのだよ」

 

「人を?」

 

「まぁ驚くのも無理はないだろう。でもね。黙示録は元々、生きる希望を無くすレベルで絶望した人や、立ち直れないほどの恐怖の記憶を奪う機能を持った魔導書だったんだ。今でいうセラピーみたいなものだね。そのために使われてた」

 

「それがなんであんな……………」

 

「それはね………原因が戦争なんだよ。黙示録を作り使っていた国が、別の国に滅ぼされた。滅ぼした国は偶然黙示録の書を見つけ、その機能に気付く。滅ぼした側の国がその後、どう使ったかわかるかい?」

 

全員、首を横にふる。

 

「…………兵士の調教、及び洗脳さ。死への恐怖、敵への恐怖、それらを取り払いどんな相手にも向かって行く狂戦士へと変えたのさ。そして………何千人、何万人、何十万人と兵士の恐怖と絶望を奪い、溜め込み続けた黙示録の書は、黒く染まって行った。そして、溜まり続けた絶望と恐怖の記憶を吐き出させようと、新たな機能が黙示録に付けられた。記憶を固形化し、吐き出させる機能。溜まった記憶をデリートさせることは出来なかったのか、しなかったのかわからないが、その機能が付けられた結果……」

 

シファクは新たな画像データをいくつかアップで表示した。写っていたのは黒い何かの波に呑まれ、崩壊した国だった。

 

「君らもウィードが黒い物体を使っていた記憶はないかい?」

 

「そういえば、体の一部としてつかっていた気が…」

 

「その黒い物体がね、絶望、恐怖の記憶の固形化されたものだ。名前はこちらが勝手につけたものだが「スタッフ」。そのまま恐怖という意味だ」

 

「スタッフ……」

 

「スタッフは、触れた本人が記憶している物の形を模倣し、色まで変えられる。まぁ、記憶の塊だからそれくらいできるだろうが、本人が記憶してない部分までも勝手に再現するから驚きだ」

 

「本人が記憶してなくても?」

 

なのはが疑問を投げかける。シファクは頷いた。

 

「ウィードが良い例だ。彼は彼の身体の構造を100%理解してない。だが、スタッフは彼の体の中の血管や、骨や瞳のレンズの具合、それらをすべてコピーしていた。スタッフにも学習能力があるのかもしれない」

 

「なるほど……」

 

「まぁ、スタッフの説明はこれくらいにして………。スタッフを作る能力を作ったのは良いんだけどね、黙示録から生み出されたスタッフの量は予想を遥かに上回り、スタッフの津波を作って国を丸々飲み込んだ」

 

「そのあと黙示録は………?」

 

「生き残った国の人間が他の国に売り、今度はその国がスタッフをさらに貯めさせる機能を着けた………。あとは悪循環さ、持っていた国が黙示録によって滅び、別の国に渡って新たな機能が作られ、戦争で、あるいは黙示録の暴走で国が滅ぶ。持ち主がいなければランダムに転移する機能、ある特定の魔力を持たなければコントロールできない機能、そしてスタッフによって作られた黙示録の獣と黙示録の槍、それから黙示録の鍵が作られて最後は滅んだ世界から管理局がロストロギアとして回収した。その時封印係として選ばれたのが我々テレジー家というわけだ。初代は黙示録の獣の危険性を感じ、自らの命と共に黙示録の獣を封印しています。以上が、黙示録についてわかっていることです」

 

「待ってください、ウィードが使っていたレプリカは?あれは一体?それから、特定の魔力とは、何ですか?」

 

フェイトがシファクに聴いた。

 

「あれもスタッフで作られた物です。黙示録が封印される前にいずれかの世界で誰かが作った物かと。詳細は不明です。ですが、コントロール条件と、転移する機能、それから絶望と恐怖を奪うシステムはあります。特定の魔力っていうのは、こっちでもわかってないのです。ただ、使える人間と使えない人間がいる。それしか情報はないのです」

 

「ウチからも質問や」

 

はやてがシファクに言う。シファクは笑顔で応えた。なぜか知らないがはやてに対しては態度が良い気がする。

 

「どうぞ」

 

「なんで管理局は封印に徹したん?そんなに危険なら丸々破壊したほうが……」

 

「そう簡単な話じゃない。黙示録は自己防衛システムも付いてる。一度暴走封印された状態で暴走され、封印を破られたことがある。再度封印しようとしたが黙示録は動き回り、こちらに攻撃もしてきた。局員数人の命と引き換えに再度封印できたがね。うまく完全破壊出来る確率は低いだろう。たとえこの面子でも……。おまけに私達が封印の為に使っている封印の布はただ黙示録の力を抑えてるようなものじゃない。ただ、黙示録から発生している魔力を強力なバリアで包んでいるだけだ。バリアは内側に有効で、外側にも有効だ。つまり、封印しても封印の布のせいで破壊ができないと、まぁそんなところです」

 

「封印以外の手段は基本的にないと考えると…」

 

「破壊、消滅は難しいだろう。あの本自体に再生機能がある。破壊が中途半端では破壊し損ねた破片が見えない場所で転移する可能性がある」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ーナカジマ家ー

 

アキラが帰宅してから二人の無事を確認すると、少しの休憩ののちに左腕の調整に入った。サードの投げた槍は腕を貫通し、肩に突き刺さったが、肩にも腕を着け、脳からの電気信号を義手に流す装置があるので、アキラ自身には怪我はない。しかし腕は交換しなければならない。

 

「しばらく器用な動きはできないな…………」

 

今回着けた腕は完全に戦闘重視の腕。細めの設計ではあるものの、腕力は強い。その代わりに指が親指、人差し指、中指しかないので細かい作業はできないものだ。

 

「…………戦うの?」

 

ギンガが心配そうに尋ねた。

 

「仲間を信用してない訳じゃない。でも、多分今回の戦いは俺が出る必要はあると思う」

 

そこに、マリエルからの通信が入った。

 

『アキラ君、今いい?』

 

「どうした?」

 

『アキラ君が保護した子なんだけどね?その子のことでちょっと。ギンガも呼んでもらえる?』

 

「あ、ああ‥ギンガ、マリエルさん」

 

「えっ?マリーさん?」

 

ギンガがアキラの隣に立つ。

 

「その‥2人に知らせる事とアキラ君とギンガに聞きたい事があるの‥‥」

 

「ん?」

 

「なんでしょう?」

 

「もしかしたらアキラ君から聞いてギンガは知っているかもしれないけど、スバルが攫われた件で、その時アキラ君が救助した女の子の件なんだけど‥‥」

 

そう言ってマリエルはアキラが救助した女の子、フランシスの画像を見せたところ、ギンガは物凄く驚いた。アキラが小さな子を助けた事は本人から聞いていたが、まさかその助けた子の容姿が自分そっくりとは聞いていなかったので、今ここで初めてその救助者の顔を見て驚くのも無理はなかった。

 

「その子について何か分かったんですか?」

 

『ええ、検査の結果、この子のDNAがギンガ、貴女と9割方一致したわ』

 

「えっ!?」

 

『それにレントゲンやCT検査をしてみてこの子の身体の組成は強化筋肉に、補強材で構成されていたわ」

 

「それって‥‥」

 

『そう、この子も貴方達と同じ戦闘機人よ』

 

「そうですか……また新たな戦闘機人………」

 

『それから、これはちょっとあまり思い出したくないことかもしれないけど‥‥』

 

「なんでしょう?」

 

『‥ギンガとスバルがクイントさんに保護された時、その研究所には貴女達二人以外の戦闘機人は居たかしら?』

 

「えっ?」

 

マリエルの質問にギンガは目を見開く。

 

『私達、管理局が確認できている稼働している戦闘機人は、スカリエッティが生み出したのは全部で十二人の戦闘機人達‥‥それ以外だとウィードが管理していたアキラ君とノーリ君、クイントさんが保護したギンガとスバルの四人……それ以外で稼働しているのは確認できてないから、この子の出生が気になるの』

 

「‥‥」

 

『アキラ君も、ウィードがノーリ君以外で戦闘機人を生み出した話は聞いていないかしら?』

 

「あいつのことなんざ俺は知らん。大体奴が戦闘機人を作れるとは思えん」

 

『ギンガはどう?』

 

「すみません、私も覚えがありません。そもそも私たちはずっと培養機の中にいましたから、目が覚めたら母さんに保護されていて………」

 

『そっか………ありがとうね』

 

「なぁマリエルさん」

 

「何かしら?」

 

「前々から聞きたかったんだが、ギンガとスバルを生み出した奴はクイントさんがギンガとスバルを保護した時に捕まったのか?」

 

アキラはスカリエッティやウィード以外の誰がギンガとスバルを生み出したのか、そしてソイツは逮捕されたのかを尋ねる。

 

『それが、クイントさんの話では、誰がギンガとスバルを生み出したのかは不明なのよ』

 

「不明?そいつは研究所にいなかったのか?でも、其処に居た研究員なら名前や顔ぐらい知っている筈じゃあ‥‥」

 

『勿論、クイントさんは逮捕した研究員達に聞いていたわ。でも、ギンガとスバルを生み出したその人物は偽名を使い、研究所では仮面を被っていたみたいで誰もその人物の素顔と本名は知らないみたいなの‥‥』

 

未だに謎に包まれたギンガとスバルを生み出した研究者‥‥ギンガがそれを知るのはもう少し先の事であった。

 

 

 

ークラウドの隠れ家ー

 

 

 

かつてのスカリエッティのアジトに似たところでは、シリンダー状のカプセルの中に薄黄緑色の溶液が満たされている。そしてそのカプセルの中には一糸纏わぬスバルの姿があった。スバルはサードとの戦闘で身体は傷だらけで、溶液が満たされているカプセルの中で眠っている。そんなスバルの様子を見ているのは黙示録の書の主、クラウド。

 

「お前には本来いる場所を提供すると言ったはずだ………………」

 

眠るスバルにクラウドは言った。しかし、その表情に悪人の顔はない。むしろ少し自分の言ったことを後悔しているようにも見える。

 

「…………私は管理局を潰す………だが、お前たちは…」

 

何かを呟きながら、クラウドはスバルの前からいなくなった。

 

 

108部隊隊舎では、チンクとセッテにゲンヤからフランシスの保護と監視及びスバルの誘拐とノーヴェの襲撃から自分達も狙われている可能性があることを伝えられ、基本、二人一組で行動する様に、無暗に隊舎から出ない事が伝えられた。そして、スカリエッティ達の脱獄の件も。

 

「そうですか‥‥ドクター達が‥‥」

 

チンクはスカリエッティ達の脱獄の話を聞いてさほど驚いてはいない様子だ。

 

「あまり驚いていない様だな?」

 

「はい‥こう言ってはなんですが、ドクターならばいつかはやりそうな気がしていたので‥‥」

 

あのスカリエッティが刑務所で大人しくしている筈がない。十年以上の時間をかけて大規模テロ事件、JS事件を引き起こした張本人なのだ。脱獄だって時間をかけて慎重かつ確実に実行するに決まっている。

 

そして、スカリエッティと共に刑務所に服役したトーレ達だってスカリエッティが行くのであれば、自分達も必ず着いて行く筈だ。

 

「もし、スカリエッティがお前達の前に姿を見せた時、お前達はどうする?」

 

「「‥‥」」

 

「スカリエッティの所に戻るか?」

 

「それはありえません」

 

「私もです」

 

チンクとセッテはゲンヤの質問に迷いなく答える。

 

「父上やギンガ姉様には私達を新たな家族に向かえ入れてくれた恩があります。その恩を裏切る事は私には出来ません。ウーノや妹達もきっと同じ気持ちの筈です」

 

チンクの決意にセッテも頷く。

 

「それに、感情を私たちに与えてくれた、アキラさんへの恩返しのいい機会です」

 

「そうか‥‥」

 

普通ならば疑う所だが、ゲンヤはチンクの言葉を信じた。

 

「だが、いいのか?スカリエッティはお前達の元主であり、彼と共に収監されたお前達の姉妹も一緒に脱獄したらしい‥‥もしかしたら、お前達は姉妹で戦う事になるかもしれないのだぞ?」

 

「構いません。今となっては、ドクターは私達の敵であり、トーレ達もそれを覚悟でドクター達と一緒に脱獄したのでしょう。敵対するのは私とトーレがそれぞれ選んだ道ですから」

 

例え嘗ての創造主だろうが、姉妹だろうが今は敵と認識したチンクとセッテだった。

 

 

続く

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。