とあるギンガのPartiality   作:瑠和

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アフターストーリーはとりあえず次回くらいで終わります


第三十一話 再会

紅月は打ち直され、紫色の刀身を持った刀に生まれ変わった。セシルの魔力色の紅とアキラの魔力色の紫が混じったやや赤みががった紫の刀だ。名前は「紫皇」とした。

 

刀身の長さが紅月の頃よりも短くなったため、新たな鞘と柄を作り、最後に紅月の鍔をつけて完成した。

 

「よし……ありがとうなカエデ」

 

「礼には及ばない。戦力が増えるのは、ファントムの仲間が増えるのはどんな理由であれ嬉しいことだ。これは私たちからのささやかな贈り物だよ」

 

「ところで、俺がトレーニングされるのはいいんだが、最終的に強くなったかどうかをどうやって確認する?」

 

生まれ変わった紅月改め紫皇を腰に携え、アキラは小此木に訪ねた。

 

「ああ、模擬戦をお偉方の前でやってもらう」

 

「模擬戦ね…相手は?」

 

「管理局のエースオブエース、高町なのはだ。リミットは外されている。全力全開勝負だ」

 

アキラは驚かなかった。なんとなく予想できたことだ。実力を証明するのであればなのはかフェイト、良くてシグナムという感じだろう。

 

「なるほどな」

 

「負けは許されない。負ければ君は確実に処分されるだろう」

 

「上等だ。俺だってまだ死ねっかよ。死ぬ気で付いて行ってやる」

 

 

 

-廃市街地内 廃高速道路-

 

 

 

アキラとカエデは戦闘場所として用意された高速道路に移動した。

 

「さぁ、始めるとしよう」

 

そういってアキラと対峙したカエデは眼帯をつけようとする。

 

「お前じゃないのか?」

 

「私は………今はもうコミュ障の彼女の言葉を代弁するのと、古代ベルカの魔法を使う位しか役立たないんだ。戦闘面はツムギに任せるよ」

 

「そうか……」

 

アキラは少しツムギが苦手だったが仕方ないと思ってあきらめた。カエデが眼帯をつけると、きりっとした目がなんとなく垂れた感じになり、瞳から輝きが失せた。

 

「………いい?」

 

始めていいかという意味だろう。アキラは頷く。

 

「ん」

 

刹那、ツムギの姿が消えると同時にアキラの足元が崩れた。

 

「!!!???」

 

気配すらなく、音もない。アキラは地面に落ちていく最中にツムギに蹴られ、高速道路の支柱を3本ほど貫いて転がった。

 

「がぁっ………」

 

「……弱い?」

 

『ツムギ。加減は必要ない。死にはしないから』

 

アキラたちにはDSAA公式試合で使われるクラッシュエミュレートシステムがつけられていた。死にはしないがダメージは疑似再現されるため、相当なダメージがアキラに発生している。

 

「わかった」

 

「糞がぁ!!!!」

 

アキラは立ち上がり、ツムギに向かって走ったが瞬間でアキラは蹴り飛ばされた。

 

「…」

 

アキラは壁に叩きつけられ、動かなくなった。

 

「終わり」

 

ツムギはアキラの頬を持っていた軍刀でつんつんつつき、意識の有無を確認してから言った。意識がないのを確認すると、アキラに背を向けて去って行く。

 

しかし次の瞬間、アキラが起き上がり、ツムギに飛び掛かった。気絶したふりで襲撃をしようとしたのだ。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

だが、アキラは一瞬で地面に叩きつけられ、今度こそ気絶した。

 

「…終わり」

 

ツムギは近くの瓦礫に座り、腰にぶら下げていた水筒からお茶をだして飲み始めた。

 

一方、その様子を遠くで見ていたシグナムは小此木に訪ねる。

 

「あれは大丈夫なのですか?」

 

「まぁ、死んではないだろう」

 

放置するようだ。

 

それからアキラは目覚めてはツムギに吹っ飛ばされ、気絶し、目覚めてまた吹っ飛ばされる作業を繰り返された。

 

「前から聞こうと思っていたが、彼女は何者なのですか?」

 

「彼女は生まれが悲惨でね。彼女はある次元で生まれたのだが、彼女の生まれた村人の髪は皆、赤だ。黒髪は災いの存在とされている。生まれた時から恐ろしいほどの戦闘能力を持っていた。君がいた108部隊に、キャロ・ル・ルシエという少女がいただろう?それと似たような境遇だよ」

 

「キャロと………」

 

「彼女は管理局が引き受けてくれただけまだいいよ。ツムギの場合は、捨てられ、ほぼ野生児として暮らしていたんだ。戦いに関するセンスは全て自然界で磨かれた」

 

「…」

 

 

 

-夜-

 

 

 

「……………………はっ!?」

 

アキラは目を覚ますと今度はそこに夜空が見えた。

 

「目、覚めた?」

 

その夜空の景色にツムギが入ってきた。

 

「…お前……本当に強いんだな」

 

ツムギの顔を見て、アキラは何か諦めるような顔になってため息をついた。

 

「あなたも………根性だけは、いい」

 

「そりゃどーも」

 

アキラは顔を横に向けた。視線の先には二人の戦いの爪痕があった。正しくはアキラがボコされてただけだが、ビルは倒壊し、地面のアスファルトは抉られ、さっきまで廃市街地だった場所はもはや瓦礫の街となっていた。

 

「………はい」

 

ツムギがポケットから何か取り出した。小さな巾着の様なものだ。そこから糒を手に出してアキラに差し出す。

 

「………」

 

「ごはん」

 

「これが………?」

 

アキラが驚きを隠せずにいると、小此木とシグナムがやってきた。

 

「こらこら、食事はちゃんとしたものを取るようにっていつも言っているじゃないか」

 

二人の手には鍋が持たれていた鍋の中には完成済みの料理が入っているようだ。

 

「面倒………」

 

「だからって糒ばかり食べてて食事が楽しいかい?」

 

「………わからない」

 

その反応を見て、アキラは少し驚く。ようやくあちらもこっちに興味を持ってくれたようなのでアキラもコミュニケーションをとってみる。

 

「お前、好きな食い物とかねぇのか?」

 

「………ない。ご飯を……美味しいって思ったことなんてない」

 

「…じゃ、明日の朝飯は俺が作ってやる。うますぎて泣いちまうぜきっと」

 

「いらない」

 

ズバッと斬られた。アキラは苦笑いしながらもダメージは受けていない。

 

「そういわずによ。せっかくこれから」

 

「………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-3ヶ月後 時空管理局本局-

 

 

 

ここは時空管理局本局、模擬専用戦闘場だ。そこにアキラが入ってきた。

 

「………」

 

その試合を観察できる部屋に、小此木、シグナム、ツムギ、そしてアリスを抱えたギンガが現れた。

 

「小此木さん…」

 

「ギンガ準陸尉。一応約束は守ったつもりだよ」

 

「………アキラ君」

 

ギンガは窓から戦闘場に立つアキラを見た。アキラの身体には腕や頭に包帯が巻かれている。見るからに痛々しい。

 

心配そうな目でアキラを見ていると、アキラがギンガの視線に気づき、観客席を見た。

 

「!」

 

アキラがギンガを視認すると、微笑んでギンガに手を振った。決して無理をしてギンガに笑顔を見せている表情ではない。自然な笑顔だった。

 

「アキラ君」

 

(良かった、いつものアキラ君だ)

 

しばらくすると、戦闘場にバリアジャケットを装備したなのはが入ってきた。

 

「お待たせ。それから、久しぶりだね」

 

「ああ。そうだな」

 

お互い再開の挨拶をするが、とても喜んでいる様子ではない。既に二人とも戦闘態勢に移行している。

 

『それではアキラ陸尉、それからなのは空尉。お互い顔見知りだろうが決して手加減しないように』

 

「ああ」

 

『それでは、開始!!』

 

戦闘開始の合図とともに、なのはは飛んだ。それとほぼ同タイミングでなのはの立っていた地面が抉られた。

 

「外したか」

 

アキラは刀も抜かず、手刀で斬撃を飛ばしていた。なのはは空に上がると即座に高速魔力弾を構えた。

 

「シュート」

 

「っ!!」

 

アキラは背中から翼出現させて空を飛び、なのはの魔力弾を回避した。

 

「羽!?」

 

「!!」

 

観客席にいたギンガとなのははアキラが出した翼に驚いている。

 

 

 

-2ヶ月前-

 

 

 

アキラが訓練を初めて一ヶ月。アキラは何とか少しはツムギの攻撃を避けられるようになっていた。このトレーニングは主に動体視力を鍛えるための物だった。果たしてこんなことをしていて本当に強くなれるのかアキラは少々疑問だったが、確実に避ける技術、動体視力、体感、反射神経は確実に上昇していた。

 

そんな中、事件は起きた。

 

「あ……?」

 

ツムギの攻撃を避けたアキラは空高く飛び上っていた。

 

「な…」

 

「なんじゃこりゃぁぁぁ!」

 

「…」

 

飛び上っていたというよりもう滞空している。アキラが後ろを見ると、自身の背中から翼が生えているのが見えた。いや、正しくは翼の様なものだ。光の触手の様なものが翼の様な形を成しているだけだ。しかしアキラは飛んでいる。

 

「こいつは…」

 

アキラはその翼に見覚えがあった。黙示録事件の時、アキラの体内のロストロギアが発動した際に頭の上にできたリングと同時に出現した翼だ。

 

「………ツムギ!一旦訓練は中止だ!ついでに昼食にしよう」

 

「……………了解」

 

「アキラ陸尉、降りられるかい?」

 

「あ、ああ……多分…」

 

アキラはぎこちないながらも翼を操作して地面に降りようとしたが、うまくいかずに翼が消滅した。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小此木は小さくため息をついてツムギに助けに行くように合図をした。ツムギは瞬時に動き出し、ビルを蹴って上に登っていく。そしてアキラを受け止め、ビルに持っていた軍刀を突き刺して減速した。

 

「………無事?」

 

「ああ…サンキュ」

 

四人は集合して昼食を始めた。昼食がてら小此木はさっきの翼についての説明をした。

 

「………君に先に説明しておくべきだったね。ウィードによって君の体内に埋め込まれたロストロギアについて。ロストロギアの名前は「賢者の石」。神代の時代に残されたロストロギア………いや、正しくは「聖遺物」と呼んだ方がいいかな」

 

ロストロギアはオーバーテクノロジーがもたらした世界崩壊後の遺跡から見つかったものだ。今回のこれはそれとは違うということだろう。

 

「正直、賢者の石という名前も仮名だ。最も近い力を持つであろう物が乗っている文献から引用しただけだ」

 

「で?どんな力があるんだ?」

 

「………人間に、人知を超えた力を与える、としか」

 

「……………まぁ薄々気づいてたがな。あの時の力は尋常じゃなかった」

 

「まったくウィードも厄介なものを掘り出したものだ。発動条件は尋常でない魔力を取り込むこととはいえ、今それは半覚醒状態にある。さっきの翼は恐らく「賢者の石」から発生している」

 

「なるほどな…」

 

「これからはその翼の扱いも含めた訓練を行うことにしよう。賢者の石の制御方法にもつながるかもしれない」

 

 

 

-現在-

 

 

 

「行くぜ…」

 

アキラは翼を使い、なのはの弾丸を回避しならなのはに接近する。そして接近しながら腰に携えた刀に手を添える。そしてその刀をなのはに振ったがなのはが常時張っているシールドで簡単に防がれた。

 

(空中にいると地に足が着いて無い分力が弱い………。もしやと思ったがやはりあの人のシールドは抜けねぇか…)

 

アキラは一旦反転し、再びなのはに突進する。

 

(足の裏に一瞬足場を作って踏ん張りを聞かせることはできるがそれだけじゃ足りない、であればこの翼が生み出す速さを利用する)

 

アキラは納刀してから構える。それを見てなのはは備える。

 

(来る!)

 

「時雨露走」

 

アキラは居合切りの要領で刀を抜くと同時に斬撃をなのはに飛ばした。

 

刹那、なのはが張っていたシールドは真っ二つに切られ、なのはの肩が浅く切られた。瞬時になのはが反応し、それだけで済んだのだ。

 

(航空騎士ってのはこんなめんどいことしてんのか…空飛べるからって絶対有利でもねぇんだな)

 

アキラがそう考えた直後、アキラの足にバインドがかけられる。

 

「!」

 

「シュート!」

 

「ぐっ!」

 

そこに撃ち込まれた魔力弾をアキラは翼と刀で全て打ち落とす。

 

(俺がここに来ることを計算して!?いや違う!そこら中に仕掛けまくったのか!魔力が多い奴のできる贅沢かよ!)

 

刀でバインドを砕き、すぐにその場から離脱する。しかしその矢先に魔力砲が数発飛んできた。

 

「くそっ!?」

 

アキラは刀で攻撃を弾く。その防御作業の間に、背後から殺気を感じた。

 

「!」

 

「ハイペリオンスマッシャー!」

 

「…っ!」

 

アキラは背後から打たれたハイペリオンスマッシャーに飲み込まれ、浮遊している小島に激突した。

 

「がっ…」

 

「ディバイン…バスター!!」

 

さらに飛んできたディバインバスターに対し、アキラは刀を抜いてその切先を砲撃に向けた。

 

「一閃必中!蠍刺・螺旋牙!」

 

アキラが放った刺突撃はなのはのディバインバスターの中心を貫き、レイジングハートに命中した。

 

「!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

更にアキラもディバインバスターの中央を突っ切り、なのはに仕掛ける。刀に氷結魔法を掛け、氷の刀を精製して振り上げる。

 

「一閃必抉!獅子皇爪!!!」

 

「くぅぅぅぅ!」

 

砲撃の中を通って反撃するという攻撃はさすがに予想外だったのかなのはは防ぐしかなかった。しかしその一撃は重く、なのはは地面に叩きつけられた。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

 

-観覧席-

 

 

 

「すごい…アキラ君、前よりずっと強くなってる…」

 

観覧席でアキラの成長を目の当たりにしたギンガは驚いていた。

 

「当たり前だよ。誰が鍛えたと思ってる?」

 

「アキラ君…」

 

「全部……あなたのため。だから………目、反らさない」

 

ツムギから注意された。ギンガはアキラの痛々しい傷から無意識に目を反らしていた。それをツムギは分かっていた。

 

だから、ツムギは注意したのだ。ギンガは一度瞳を閉じ、少し間を開けてもう一度開く。

 

「アキラ君…っ!」

 

 

続く


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