チームウラヌスの知られざる伝説    作:鰹節の丸煮

1 / 1



ひらこーショック(ウマ娘ドトウバージョン)をうけたので、初投稿です。

無課金勢にはドトウ、エイシンフラッシュの連続πアタックはきついて……(ガチャポチー)


少年の惜春。

 

 

「ねぇ、バタロー。どうしてバタローはわたしのトレーナー(・・・・・)になってくれたの?」

 

 そう薄桃色の鮮やかな髪と、それに劣らぬ眩さを誇る純粋無垢な明るい笑顔を兼ね備えた童顔のウマ娘──ハルウララという少女はやはり無邪気に、朗らかに笑いかけながら僕に問うた。

(“バタロー”というのは僕の名前である。馬に太郎と書いて、馬太郎(ばたろう)である。ハルウララはやや舌足らずというべきか、幼げというべきか……それでいて初々しい、そんな発音で僕のことを呼ぶのだった。)

 

「……暇だったからさ」

 

 僕はそう淡白に答えてから彼女の、ハルウララの絆創膏だらけな脚を注視した。

 

「そっかー……」

 

 するとハルウララはすこしだけ不満げそうにしてみせた。その唇を突き出すようにしながら、柔らかげな頬をやや膨らませて“ムクーッ”とやってみせながら再び前へと向いた。そうして一歩二歩三歩と僕よりも先に進んでいってしまった。

 

 ──丁度、僕とハルウララは学園のダートのコースを最後に歩いて一周しようとしているところだった。いまや誰もいなくなり、斜陽の残映がくれないに染め上げているばかりのコースはひどく閑散としていて、静かだった。もはや寮の門限といえる時間はゆうにすぎていたから、とうぜんともいえた。

 

 一日のトレーニングを──とはいっても彼女、ハルウララの場合はひどく優しい、また控えめなものだが──こなしたあとの、僕と彼女の日課となりつつあったこの散歩じみた行為はハルウララにとってお気に入りのものになりつつあるようだった。はじめは帰りが遅くなるといって、ルームメイトのキングちゃんとやらが心配するといって渋っていたものだが、いつからか自分よりすすんでこの散歩(・・)をこなすようになったのだった。……

 

 ハルウララはその脚をいたわるように、靴の底を地面に擦らせるようなオドオドとしている歩き方をしていた。ザッザッとダートの砂を擦る音が彼女が一歩を歩みだすたびに響く。

 

「どうだね、今日の練習量」

 

 僕はハルウララに何気なしに問うた。

 今日のハルウララがこなしたのは並の人間の(・・・)アスリートが軽いジャブとしてこなす程度のものだ。ウマ娘としてみれば優しいにも、控えめにも程があるようなレベルのものだった。

 

「んーとね、なんかね、うまくは走れないけど、なんかすっきりした気分になった!!」

「へぇ、走れないけど、気持ちが良かったかね?」

「うん!! 足がね、ちゃんと動くの!」

 

 そういいながら彼女は振り返り、僕の目を見て、大仰な身ぶり手振りとともにそのまん丸で大きくクリクリとした桜色の瞳を瞬かせてみせた。 まるで信じられない! そう言っているかのようだった。

 

「そうか。じゃあ次からはも少しだけ、ほんの少しだけ長めに走ってみようか」

 

「うん!!」

 

 さっきの不満げな様子はどこへやら、ハルウララはいまや明日が楽しみで仕方ないと言わんばかりであった。そのまま、後ろ手にしつつ僕の顔を下から覗きこむように、上目遣いのままにトコトコと僕を廻るように歩きながら、言葉を続けた。

 

「ね、バタロー! こんどね、ライスちゃんと水族館、いく約束したんだ!! ライスちゃんはね、えっと、えっと、ブルンボッキュンさん? ……だったっけ? も、つれてくるっていうの!  それでね、ブルンブルンさんはお出かけするなら、トレーナーさんもいっしょじゃなきゃダメだっていうんだって……」

 

 そういってハルウララは目を伏せてみせた。

 

「それは何時(いつ)なんだね」

 

 ──ライスちゃん、とはハルウララが近ごろ親しくなったウマ娘のことらしい。生来の気質として人懐っこく、また裏表のない性分なハルウララはもとより気受(きうけ)がいいが、そのライスとかいう()とはことのほか気が合うらしいかった……。ここ数日、ハルウララから“ライスちゃん”についてはよく聞かされていたものだった。

 

 僕はハルウララが彼女らしく、素直に、助けを求めているのだと──この僕がハルウララに助けを求められているのだと、解釈した。確かに学園の生徒が外へと遊びにいくとなればトレーナー……というか、この場合は保護者役としての大人(・・)たる人間であろう──は必要である。

 

 とくにハルウララのような少女には、うん、まぁ、必須不可欠だろうということに異論はない……たとえ火の雨槍の雨、月が四角に照ったとて。

 

 しかしながら、彼女の求めに僕が応じることはどうやらできそうになかった。

 

 なぜなら、僕はトレーナーではなく、あくまでも“トレーナー候補生”──サブトレーナーですらないからだった。もっというのなら、大人とも言いがたい。

 ──トレセン学園のサポート要員育成課程にある一介の学生でしかない。

 

 しかしながらハルウララはそのことは以前から──僕が彼女と関わり合うようになったころから承知済みのはずだから──というかその件については何度も言い聞かせてきたはずだから、今さら細かく咎める気にはならなかった。存外、僕は器が大きい男らしい……大雑把だとか、横着とか、面倒臭がりとかいうのでは無いと信じている──信じるのは僕の勝手であろう!?

 

 ……ハルウララはそんな僕にかまわず、今度はさっきの気持ちよく走れたという喜びなど忘れてしまったかのように、水族館にいくという事柄が彼女の唯一無二にして史上最高の幸福であるかのように、喜色満面としてひたすらに、一生懸命に僕へと向かって話しかけた。

 

「──うん!! えっと、えっとね、えーっと……、あれぇっ、いつだっけーーっ! ……」

 

「忘れちゃったか」

 

「うーん、うーん…………うん。……」

 

「あとで……、明日にでもまた教えておくれ。まさか明日ってことはないだろうからね。──忘れていないだろう? 明日でテスト一週間前だよ、ハルウララ。勉強、しているのかい?」

 

「うん! キングちゃんにお勉強おしえてってお願いしたの──バタローともっと一緒にトレーニングしたいから、ほしゅーにかからないようになりたいから!!」 

 

「そうか──さ、すこし急ごうか。またフジキセキを心配させてはいけないから」

 

 僕は彼女の、ハルウララのその真っ直ぐにすぎるほどの好意に満ちた言葉がひどく滑稽に思えて、またもどかしくて、それでいて、────ほんの少し嬉しくて────ハルウララから目をそらすようにしながらまた前へと、蹄鉄を模したカラフルな色合いのゴール板前へと至るまでの、今まで幾多もののウマ娘たちがその若き、蒼き命を燃やすようにして駆けた、コーナーからの最後の道筋をゆったりとした足取りで──冒涜するようにゆっくりと──歩いていった。

 

 ハルウララはそんな僕の隣を、やはりおずおずとした──そう表現すべきあの足取りで、今度は何をいうこともなく、ただうれしそうにしながら寄り添うように歩いていた。

 

 僕はあした、ハルウララが(もしも彼女が忘れていなければ)伝えてきてくれるだろう水族館とやらに行く日付に、何かしらの用事が入っていてはくれまいか──なんてことを考えた。

 

 そうすれば、僕は極めてまっとうにハルウララの申し出を断ることができる。そうして彼女がその極まるほどの、白痴じみた純粋さゆえに信じこんでいる、僕が“トレーナー”であり彼女は選手(アスリート)たるウマ娘だ……なんていう幻想を守ることができる。

 

 

 現実はそんなものではないのだ。

 

 

僕は天涯孤独にしてトレーナー見習いにすらなれずに廃れようとしている学園の落ちこぼれで、彼女はろくな成績も出せないままに故障してしまった復帰など夢のまた夢、お笑い草でしかない凡庸きわまりなく才能などもないようなウマ娘にすぎない。

 

 こうして僕が彼女にお遊びめいた、気休めなトレーニング(・・・・・・)を施すのも、負け犬の傷の舐め合いよりも下劣な思惑によるものにすぎないのだ──彼女に、ハルウララに情けをかけることで、彼女の傷口を僕が舐めることで僕自身のことも自慰しているのだ。

 

 なんと、女々しい。

 しかしながら、しかしながらだ。

 僕らはあまりにも傷つきすぎたのだ。

 いや、“僕ら”なんていうのはあまりにも身勝手にすぎるかもしれない。僕は、すくなくともこの僕に限っていうのなら…………やはり、逃避しているにすぎないのだろう。

 自分で自分を否定する生き方をして──そんな、哀れな生き方を選んできて──ついには破綻せざる得なくなり、こうして全てを諦観の淵に追いやってただ逃げるような生き方へと乗り換えているだけに……すぎないのだ。

 

 では彼女は?

 次第に目前へと近づいてくる色鮮やかなゴール板を茫漠と眺め、死に向かってゆくように自分の二本の足を進めながら僕は今の今までで、幾回かは考えてみたその事柄について再び思索する。

 

 己の信頼をした、信用に足るとされた──学園がそう保証したはずの──トレーナーに金蔓(かねずる)として利用され、酷使され、壊され、棄てられた……。

 

 そんな彼女は?

 

 いったい何を考えているというのだろう?

 あるいは、考えないようにしているのだろうか?

 

 赦したのだろうか……? 彼女を貶めた、辱しめた、あのトレーナーのことも──彼女をそこまで貶め、辱しめた学園のことも──すべて赦してみせたというのだろうか。それとも、そもそも憎んですらいないということなのだろうか!

 

 ──到底、僕には理解しがたい話だ。

 だが理解しがたいから、と言い訳して拒絶するのもまた“逃げ”ということになるのではないか。そう思うと、僕は自分の生来の鈍さを誇る頭をどうにかして回転させ、なにかしらの結論(・・)を導きだそうとしてしまう。

 

 ……ああ、彼女が、ハルウララが僕のことを利用しているだけということも有り得るといえば、有り得るのだ。彼女の純真爛漫とした態度が本当はもはやそぶり(・・・)にしか過ぎなくて、その笑顔の裏側に万事を自分のために利用し、使い倒してしまおうとするような──そんな、こましゃくれた性根をひそめているというのなら──

 

 ()れ程、()れ程、気楽なことか!!

 

 くそったれ。

 そう呟いてやりたくなる。

 そう、ただ呟くだけだ──敗者のごとく、負け犬のごとく。叫ぶほどの度胸も、気概もなく、ただただ不平を漏らすだけの疲れはてている畜生のように。

 

 ……そうして、結局は口にすら出さない。

 何故なら、僕の隣にはあの少女が、ハルウララが笑顔のままに歩を進めているから──僕のそんな卑しい言葉をこの少女に聞かせてしまうかもしれないから。

 彼女のなかにもしも“トレーナー”なる、立派な()がいるというのならば、その僕自身を壊したくないから。

 

 

 

 

ハルウララという少女に幻滅されたくないから。

 

 

たとえ彼女が僕を騙していたとしても、騙されたままでいたいから。

 

 

僕が、ハルウララのことを騙し続けていたいから。

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば僕は、僕らはゴール板を通りすぎていた。

 

 まるで、あの選手たるウマ娘たちが己のすべてをかけて走るレースがゴールとともにその着順を定めたことで終わりを告げ、レースがどうなるかわからないゆえに観衆たちが期待、夢、スリルといったかたちでその身に帯びていた熱狂をしだいに雲散霧消させていくような──

 

 ──そんな脱力感を、失望を感じながら僕はふたたび自身の背後にいるはずの、頭ひとつかふたつほど下の方にあるはずの薄桃色の髪をした、あの明るく可愛らしい笑顔を見ようと振り返った。

 

 しかし、そこには誰もいなかった。

 

 ただただ夕焼けの陽光に染まりきったコースがあるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 夕焼けで真っ赤なダートはまるで、あの日の競技場の第4コーナからひたむきにつづく鮮やかな血の筋道が行き着いた果てに思えた。

 

 

 

 





まだ書きだめはあるから、一日一回であるだけ出してから失踪します(余裕をもって宣言)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。