3ヶ月以上開けてしまいました。
最後まであきらめず完結まで頑張ります。
今回は他国の状況を中心に語ります。
非常に重要な会議より1か月がたった。
執務室にていつもの業務を行いながらアズムールは軽くため息をつく。
(この1か月色々ありすぎたわ。さてクルトにはどう切り出そうかのう)
クルトは先日謹慎を解いた。
しかし、許したわけではない。会議の際バイロンが言っていた通りこれ以上謹慎を続けられないと判断したからだ。
(あやつめ。外面はいいからの。周りからも心配されておるわ)
家臣からクルト王子についての問い合わせがひっきりなしになり、政務に滞りが出始めている。
(それにしてもリングにはお灸が過ぎたかもしれんが、奴が決めたことじゃの・・)
リングは会議の場でエーディンの暴力をふるおうとしたことで1週間の謹慎処分を受けた。その後本人より面会があり、ユングヴィ家当主の座を正式にアンドレイに譲りたい旨の申し出があったのだ。
アズムールはリングの意思が固いことを悟り、許可を出すことにした。とはいっても、引継ぎがあるため、半年から1年はかかる。アンドレイにとっては多忙な日が続くことになるだろう。
それに合わせてブリギッドとデューも他国の内定調査を延期することになった。当分アンドレイが多忙になり、ユングヴィ家も落ち着かない状況が続くため、ブリギッドとデューがアンドレイを臨時で補佐することになった。
しかし延期といっても最大3か月と期限を切っている。ロプト教団の件も放っておくことができないからだ。
続いてエッダ家については首謀者ロダンの処刑が執行され、一族は地位はく奪の上、無期限の謹慎処分が下された。ロダンの一族の中にはロダンの所業に絶望し、自ら命を絶とうとするものがいたため必死で止める事態もあったが、クロードが一人一人に声をかけて踏みとどまるように説得した。ロダン以外に対する寛大な処分に周りの評価も悪くはない。
ラケシスは現在エッダ家での地位を盤石なものにしつつある。夫であるクロードを支え、領民の心もつかんでおり、家臣からの信頼も勝ち得ている状態だ。ロダンの後任となっているが、執務については、ヴェルトマー家、フリージ家、シアルフィ家に助けてもらっている。
今回のロダンの騒動についての報告と謝罪もアグストリアにアルヴィスが使者として赴いている。即時対応が良かったのか、アグストリア王イムカは全く気にした様子はなかった。逆にエリオットの暴走行為について謝罪を受けることになった。
向こうからすれば、お互い痛み分けの形となったので関係悪化には発展しなかった。
(アグストリアとの関係はアルヴィスのおかげで良好じゃの。今のところは安心すればよいな)
現状アグストリアとの関係は強固になったといっていい。特にノディオン王家のラケシスがグランベルに嫁いだことによる影響は想像以上のものだった。
だが他国の状況は芳しくない。
まずヴェルダンについては、ハイライン家のエリオットのヴェルダン領内無断通過により、ヴェルダン王バトゥはアグストリアに対して厳しい姿勢を示すようになった。
むろんアグストリアも謝罪したものの、元々ハイライン家がヴェルダンを蛮族と蔑む態度を取っていたこともあり、今回の件を看過できないと判断しているとのことだった。
これはグランベルに対しても同様でエリオットの暴走を穏便に済ませるため、アグストリアとの共同軍事訓練を行ったことについて事前の連絡がなかったことを責められることになった。
デューがエリオットを完膚なきまで叩きのめした案件だ。当然緊急対応のため連絡などできない。
バトゥは普段温厚な人物だが、最近祈祷師が出入りするようになってから、両国への対応を変えてきている。
(アルヴィスの情報によるとその祈祷師なるものはマンフロイの手の者のようじゃな。何かと悪いことを吹き込んでおるやもしれん)
次はトラキア王国だ。王たるトラバントはレンスター王国を手中に収めるべく、何度も戦争を仕掛けている。最近はその頻度が多く、グランベルも何度かレンスター王国からの援軍要請を受けて助けている状況である。
シアルフィ家が援軍に行くことが多い。当然エスリンがレンスター王国に嫁いでおり、友好関係を築いているからだ。
最近はユングヴィ家、ヴェルトマー家も手伝っている。
これは、エーディンがシアルフィ家に嫁いだことによるものとブリギッドがヴェルトマー家直属騎士デューと結婚したことが要因として挙がっている。
ヴェルトマー家も元々は協力したかったのだが、理由なき行動を勘繰るのも貴族社会特有の部分で、今回デューの結婚により建前とはいえ、解消されている。
3つの公爵家が入れば戦力的にトラキア王国といえども簡単には突破できない。これにより膠着状態が続くことになった。
アルヴィス曰く
「自国の民を飢えさせ、戦争でしか物事を解決できぬ無能な王には、いずれ退場してもらう必要があるかもしれません」とかなり辛らつだ。
(トラキアは貧しく、傭兵として他国で稼ぎに来ている者もいると聞くが、かなり粗暴で扱いにくく評判が悪い。アグストリアが1番多く雇っておったが、ようやくやめたようじゃの。アルヴィスの言っていることもごもっともじゃな)
トラキア王国の王トラバントは自国での評判は非常にいいが、他国からの印象は悪い。レンスター王国を手に入れトラキア半島の統一を悲願としている。裕福なレンスター王国を自国に取り込みかつての繁栄を取り戻したいがためにこうして無謀な戦争を繰り返しているのだ。国自体が貧しいため民にかかる負担は大きく疲弊している状況だ。
(アルヴィスにトラバントからの接触があったようじゃな。まあアルヴィスは一蹴したようじゃが。それにしてもあのトラバントという男はどうして自国の民に目を向けぬのかのう。胆力はあるし頭は悪くないはずなのだがな)
アズムールはため息をつく。正直なところレンスター王国への必要な攻撃が今後も続くようならばアルヴィスの言う通り、トラキア王国への本格的な対応を行う必要がある。
しかしトラキア王国に勝ったところで、得られるメリットは少ない。むしろデメリットの方が多くなる。それをアズムールは理解しているからこそ、ギリギリまで粘っているのだ。
シレジア王国も火種がくすぶっている。現国王の病状が回復せず、後継者争いが起こる可能性がある。本来であればレヴィン王子が後継者となるのだが、王弟のダッカーやマイオスが、その座を狙っているとのことだ。もし現国王が亡くなることになれば内乱は避けられないだろう。
最後にイザーク王国だが、現在グランベルと良好な関係を保てている。ただ国としての体制はまだまだ盤石とは言い難い。一部の好戦的な部族同士での衝突もあり、現国王マナナンもそれをなんとか抑えている。アルヴィスは「最も目を離してはいけない国」と警戒している。
(アルヴィスにはワシらと見えているものが違う点がここじゃな。この点については過敏すぎるとランゴバルドとレプトールは言っておったが・・)
アズムールの心配の種はつきない。思考を次のことに向けようとしたとき・・・・
「陛下!殿下が面会を求めております」
近衛兵から声が上がる。
「通せ!」
アズムールは声を返した。最も頭を痛めている人物が来たのだ。
クルトは謁見の場にて、真剣な面持ちでアズムールが来るのも待っている。
(アルヴィスを中心にいろんなことが起こりすぎている。彼の考えが全く読めなくなった)
自分の味方と思っていたアルヴィスにあそこまで憎悪されているとは想像できなかった。
(父上はアルヴィスがグランベルを出ていくことを了承されたのだろうか?それにユングヴィ家とヴェルトマー家には聖なる武器を使えない者が当主となっている)
クルトは自分の周りの状況が変わっていっていることに戸惑いを隠せない。そのためまずは現状の把握と父アズムールの真意を確かめるべく謁見を申し入れることしたのだ。
待つこと数刻・・・・
「クルトよ。待たせたな」
アズムールが謁見の場にて姿を見せる。
「父上、ご機嫌麗しゅうございます」
クルトは臣下の礼をとる。
「うむ。元気にしておったか?」
アズムールが穏やかに問う。
「はい。ただ業務が滞っておりましたので、追いつくの大変でございます」
とクルトがやや皮肉交じりに返す。
「お前であればすぐに追いつくじゃろう。さて早速じゃが、謁見の申し入れの理由については現状を知りたい。といったところじゃな」
アズムールはクルトの皮肉を受け流し確認する。
「はい。陛下。ぜひともお教えいただきたく存じます」
クルトは真剣な表情を向けた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回はトラバントについて厳しい見方をしています。賛否両論はあるかと思いますが、彼は自分の理想を追いすぎて自国のことに目を向けていたように思えないのです。
あまり好きなキャラクターではありません。退場いただくかどうかは検討中です(笑)
グランベル内部も変化が起こり、他国との状況も変化があります。
ここからどう持っていくかは考え中です(笑)。
もう少し更新速度を上げていきます。