Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎   作:飴玉鉛

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本日二度目?のとーこーです。




モルガンVSライダー (前編)

 

 

 

 

 

 生身の人間を追うのに、余計な手間を掛ける必要はない。

 霊体化すればいいのだ。それだけで人間には知覚できなくなる。魔眼をはじめとする特別な視覚や、霊的存在を知覚できる特異な感覚がなければ、実体を持たないサーヴァントを察知できない。

 魔術師の工房のように、侵入者を感知する為の結界でもあれば話は変わってくるだろう。だが現代の魔術師が張った稚拙な結界に感知されるようでは、円卓の騎士の追跡から逃れられるはずもない。モルガンの感覚だと申し訳程度の隠密に、凛達は最後まで気づけないだろう。

 

 ――流石に英霊全体を見渡しても高位に位置する白兵戦のスペシャリスト、円卓の騎士と比べたら見劣りするとはいえ、モルガンの槍の腕前は槍兵の座を得て現界できるほどのものである。

 モルガンに適正のあるクラスは四つ。

 魔女としての本領を発揮できるキャスター、孤立無援の中たった一人で暗躍した故のアサシン、武芸も嗜む故のランサー、そしてブリテン島の運命を担った故のルーラーだ。

 並のサーヴァント程度なら、モルガンは魔術も使わず魔槍のみで討ち取れるだろう。相性の差を考慮しても、モルガンは今回の異聞聖杯戦争では現状、ランサーとセイバーに次ぐ猛者ですらあった。

 

 そんなモルガンが、サーヴァントでもない人間を恐れる道理はない。ないが……しかし。

 

(ひっ……!)

 

 神域の天才魔術師にして、転移系統の魔術では並ぶ者のいない稀代の魔女。残忍にして冷酷、非道にして無道、野心溢れる悪女であるモルガンは怯んだ。

 凛達が駆け込んだ場所、そこは間桐邸である。玄関で応対に出てきた一人の翁、間桐臓硯と何事か言葉を交わし、胡乱な顔で話す翁を見てモルガンの腰は引けたのだ。

 妖精眼を持つ故に魂の性質が見える。卓越した魔術師であるからこそ一瞥のみで判別がつく。間桐臓硯という翁の魂は腐り果て、その肉体に人間の肉は一片たりとも混じっておらず、蟲そのもので全身が構成されているのである。間桐臓硯が何を話そうとも、汚らわしい蟲がキィキィと鳴いているようにしかモルガンには聞こえなかった。端的に言って、吐き気がする。

 

(け、汚らわしい……! 目が潰れる……! 化生の存在であるにしても、あそこまで悍しいものはこの私ですらはじめて見るぞ……!)

 

 虫が苦手なモルガンは恐怖に慄いた。

 死にたくなかったのだろう、宿願があったのだろう、あの化生の妄執が視える。しかし死にたくなかったにしてもアレはない。なんでよりにもよって蟲なのだ、もっと他にはなかったのか。

 モルガンは猛烈に帰りたくなる、仮初の拠点に引き篭もりたくなった。急速に萎えていく気力をなんとか奮い立たせられたのは、元々の生真面目さ故でしかない。

 まだ目的を達成していないのだ。独断で勝手に出てきた手前、なんの成果もなく帰りでもしたらモルガンは自分で自分を許せない。――虫の中でも最も苦手な毛虫がいないのは、不幸中の幸いだった。もしあの()()()()翁の体の一部にでも毛虫が混じっていたら、モルガンはあられもない悲鳴を上げて逃げ去っていただろう。毛虫だけは本当に無理なのだ。

 

(う、ぅぅぅ……)

 

 目を逸らして、早くどこかに行けと念じる。嫌々ながらも探知(サーチ)して、蟲翁に令呪の反応がないかも調べたが、アレに令呪はない。もしアレがマスターなら即刻消し炭にしていたが、無いなら無いで本格的に目障りなだけなので消え失せてほしかった。

 だが現実は厳しい。何を思ったのか凛達が蟲翁を伴って移動を開始したのである。必然的に凛達を追跡していたモルガンも、その後に続かざるを得なくなる。これはなんの嫌がらせなのだ……!

 モルガンは嫌悪感からくる吐き気を堪えながら、使命感のみを支えにして後を追う。

 着いたのは洋館だ。それなりの結界や防衛システムがあるが、モルガンからしてみると稚拙そのもの。素通りしてしまうのは容易い。結界のセンサーに自らもこの館の住人であると誤認させ通過する。

 

(……? 目的地がここであるにしては……サーヴァントの気配がない。敵マスターの協力者なのに合流しないつもり……?)

 

 洋館の入り口で凛達が止まっている。黒髪をツインテールにしている少女が洋館の主なのだろう。どこか翁に怯えている成熟した肢体の少女、赤毛の少年は受け入れているが、翁に対しては強い警戒心を持っている。ここが魔術師としての工房であるなら、よその魔術師を入れたくない気持ちは分かる。だが、なんの為に此処へ来た? 無駄足を踏まされたのか?

 黒髪の少女が道すがら、異聞聖杯戦争に関して話しているのは聞いていた。少年は半信半疑ながらも協力姿勢で、翁は明らかに信じていなかったが、まあそれはいい。いきなり部外者が信じる素振りを見せたら正気を疑う。と、そこで一人の少年が館から出てくる。

 海藻類めいた髪質の、容姿端麗な優男だ。年頃は少女と同じぐらいだろう。その少年は緊張感も露わに、翁に向けて左手の甲を見せる。――令呪の刻印があった。

 

(! あの少年がマスターね。……サーヴァントは? この私に存在を気取らせていない、まさかあの少年がアサシンのマスター? なら近くにアサシンはいるはず……迂闊に手出しはできない。戦闘にあの娘達を巻き添えにしたら私の反則負けになってしまう。アサシンに現地人を盾にされては面倒ね……もう少し様子を見て、現地人達が離れたら……)

 

 翁は海藻類の少年の手にある令呪に驚いているようだった。反応の一々が煩わしいし、気持ち悪くて仕方ないが、我慢して耳を傾けた。

 

『遠坂の小娘ではなく、桜でもなく、よもや慎二に令呪が現れるとは……大聖杯はまだ起動しておらん、まさか……あんな与太話が真実だとでも……?』

『私も完全に信じてるわけじゃありません。けど慎二の言った通り、封印指定執行者のバゼットが二人いるのは確認済みで、サーヴァントもこの目で見ています。バゼットと思しき女と契約しているのがランサー、マスターは未確認だけどセイバーとキャスターの現界は確実です』

『………』

『大聖杯が起動していないなら、どんなに規模を小さく捉えても、冬木の聖杯戦争とは無関係の魔術儀式による令呪(もの)であるのは確かでしょう。……で、どうなのかしら、間桐のご老人。慎二の令呪、貴方なら剥がせるんじゃないかって期待してるんですけど?』

『無理じゃな。令呪を創り出したワシですらこの令呪に干渉できん。これでは偽臣の書を作ることも叶うまいよ。それで……わざわざワシに足を運ばせたのじゃ、やらせたい事があるのではないか?』

『ええ。冬木のセカンド・オーナーとして正式に要請します。冬木の物とは別の魔術儀式、聖杯戦争に酷似していると推定される事件の調査・解決に全面的な協力を。既に多数の一般人がサーヴァント戦闘を目撃しています。なんのつもりかは知りませんが、キャスターによる暗示で事なきは得ましたが……このままでは神秘の漏洩により時計塔や教会の干渉が始まってしまうでしょう』

『ふむ……盟友・遠坂の血脈に連なる者の頼みじゃ。できる限りの事はすると約束しよう。さしあたり……そうさな、慎二から遠坂の当主に魔力のパスを移し替えさせたいのであろう?』

『ご賢察です。英霊召喚の負荷、サーヴァントの現界の維持に掛かる負担は慎二には荷が重い。慎二からの正式な要請で、私が慎二のサーヴァントへの魔力供給を請け負うことになっています』

 

(………?)

 

 モルガンはこの会話を聞いて首を傾げた。

 なんだ、今の話は。まるで……()()()()()()()()()()()()()()()()かのように聞こえる。

 早合点か? 流石に一日の猶予時間内にサーヴァントを召喚しないバカなどいるわけが……。

 

『――で、準備はいいわね? 色々と勝手をしそうな衛宮くんも回収したし、慎二の世話をする桜も呼んだ。後はアンタが始めることよ』

『そうだね。けど本当ならもっと早くやれてたはずなんだぜ? 貴重な時間を浪費させられてさ、僕がどれだけ気を揉んだか分かってんの? そこんとこはきっちり謝っといてほしいんだけど』

『うっ……わ、悪かったわね! ごめんなさい! これでいいでしょ!?』

『ふふ……』

『桜!? なんで笑うのよ!?』

『ご、ごめんなさい遠坂先輩……』

『おいおい、桜に当たるなんて底が知れるぜ。やめろよ、別にコントなんかを見せてくれだなんて言ってないんだけど? もういいから、衛宮はこっち来てくれ』

『あ、ああ。……慎二、変わったな。いや……戻ったのか』

『はあ? 今更なに言ってんだか……腹立つからそのしたり顔やめてくれない? ったく……それじゃ見ていてくれよ、お爺様。僕の話が本当だっていう証拠を、今から見せてあげるからさ』

『うむ……』

『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――』

 

(――――!?)

 

 慎二と呼ばれた少年が唱え出した呪文を聞き、モルガンは驚愕して目を見開いた。

 その呪文。その呪文は――英霊召喚の為のもの。

 ということは、まさかサーヴァントはまだいないのか――!

 

 ならば様子見をしている場合ではない、サーヴァントのいないマスターなど絶好のカモだ、今ここで始末してやる!

 そう思い、実体化しようとした刹那。動揺してしまったからか、それとも魔術を放とうとしたからか、遠坂凛――ではなく、間桐の翁が反応した。

 

「ッ――何奴じゃ!?」

「うっ……!」

 

 実体化した瞬間、魔術を放たんと魔槍の穂先を慎二に向けるも、間桐臓硯が手足を霧散させて浮遊し、多数の蟲を出現させたせいで怯んでしまう。純粋に生理的に無理なものを直視してしまった。

 凛達が驚愕する。「うそ、キャスター!?」と。慎二は協力者達が尾行されていたと知り、焦りながらも英霊召喚を急ぐ。サーヴァントがこちらを害せないと聞いていた臓硯の判断は迅速だった、伊達に数百年も生きていない。即座に慎二の周辺に蟲を散開させて囲み護りに掛かる。士郎もまた飛び出そうとしたが、それは慎二が腕を掴んで阻み、固まっていた凛の背中を押した。

 

「えぇい……っ、腹を括りなさいよ、私……! キャスター、覚悟!」

「目障りな……!」

 

 呪文を中断せず、背中を押しただけの慎二の意図を汲み、我に返った凛は魔術回路を開いて指差しの呪い、ガンドを放ってくる。Aランクの対魔力を誇るモルガンに、そんなものが通じる事はない。故にモルガンにとって目障りなのは間桐臓硯だった。

 慎二の周囲に散開した蟲が邪魔だ。ああも隙なく守られたのでは、モルガンが攻撃をしようものなら現地人を傷つけてはいけないというルールに抵触してしまう。何より気持ち悪い。

 だが打つ手はある。ルール上、魂喰いは許可されているのだ。殺さなければいい。モルガンは躊躇なく魔術を行使した。

 

「――アコーロン!」

「ぬ、ぬぅぅぅ……!」

「なっ……!? ぅ、く……!」

 

 対象の魔力を吸い取る魔術。それにより凛と桜、士郎は体から力が抜ける感覚を味わい脱力する。

 そして臓硯の蟲が枯れていく。悉く地に落ち、慎二の護りが解けた。

 たった一手で邪魔者を無力化したモルガンは、吸い出した魔力を自身に取り込む事はせず、汚らわしい汚泥を捨てるように地面へ叩きつける。あんな悍しい蟲の魔力が混じっているのだ、とてもではないが自分のものにする気にはなれなかった。

 

 対象には慎二も含められている。脱力し、地面に倒れてしまった慎二は、それでも薄れゆく意識を懸命に保って、詠唱を続ける。膝立ちになっている士郎の腕から手を離さずに――

 

「させるものですかっ!」

「うっ、ぅぉ、ぉぉおお!」

 

 間に合わない。間に合うわけがない。――邪魔が入らなければ。士郎は慎二に掴まれていない手に白い短剣、干将を投影する。そして干将を振り上げ、接近してきたモルガンの魔槍を弾いた。

 これにはモルガンも虚を突かれた。まさかサーヴァントである自分の本気の一撃を、生身の人間が弾くとは想像もしていなかった。雑魚と見做して意識していなかったとはいえ驚嘆に値する。

 何よりこの赤毛の少年は、宝具を投影した。信じられない――その思考の空白が埋まる直前、慎二は死にものぐるいで呪文を完成させる。

 

「ょ、抑止……の、輪より、来たれ……天秤の護り手、よ……!」

「くっ……!」

 

 ――そうして現れるは魔女モルガンの因縁の相手。

 目映い光を蹴散らして現界したサーヴァントが、突然の事態であるにも関わらず、即断即決で聖なる槍を振り抜いた。咄嗟に魔槍を振るって弾き、後退したモルガンは瞠目する。

 現れたのは間違いなく……このモルガンが見間違うはずのない――

 

「れ、令呪で、命じる……! ソイツを蹴散らせ――!」

 

 まだ魔力のパスを凛に移していない故に、戦闘による負担に耐えられないと弁えていた慎二が迷いなく令呪を切る。それにより令呪一画分の魔力を得たサーヴァントがモルガンと対峙した。

 

「了解しました。――モルガン、覚悟を。貴女はここで斃れなさい」

 

 ――ここに、白馬に跨ったライダーのサーヴァント、聖槍の騎士王が現界した。

 

 

 

 

 

 

 

 




蟲さえいなければ…。

既に誰が勝ちどんな結末を迎えるか決まってますが、それはそれとして読者は誰が勝つと予想しているか知りたい感じです。アンケートという体の人気投票的なものです。感想欄では勘弁な!

  • 衛宮・キリツグ(アサシン組)
  • エミヤ・シロウ(鉄心組)
  • バゼット・ランサー(幸運E組)
  • 慎二・SNオールスター(ライダー組)
  • 元祖山育ち・モルガン陛下
  • 人類最後のマスター
  • 月の王・柳但
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