Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎 作:飴玉鉛
モルガンの招待状
有意義。
今回の聖杯戦争は、近年稀に見るほど有意義だった。
個々の面々の性能だけを見るなら、神代の人間達――とりわけ英雄と呼ばれる人間をマスターにした戦いの方が熾烈を極めたものだが。どれだけ華々しい戦いを見ても、特に何も感じなかった。
星そのものであるガイアからすると、対星と対界宝具を有する存在は害悪ゆえに、この戦争に参加させる事はなかった。その為、英雄の戦いを見ても蟻が戯れているようにしか見えないのだ。
但しインドは除く。
星から見て人間の個体はどれほどの英雄でも弱いのである。種として発展した今なら、人類という総体を極めて傍迷惑な存在として認識しているものの、個体でならやはり蟻も同然だろう。
但しインドは除く。
故に、マスターに求める資質は思想・性質・思考・精神だ。そして今回に限り、アラヤの守護者として重宝されるモノの能力も参照している。
人選は成功した。月の王のオリジナル、星の碑文を刻む天文台のマスターは目障りだが、目障りだからこそデータとして有用になる可能性があるかもしれないと期待している。
今のところ……前者は良いデータを出してくれている。モニタリングしている思考のプロセス、発想力、精神力、どれも申し分ない。後者は初動の早さに驚かされた。
アラヤの守護者『名も無き正義の味方の代表者』の異能も、なるほどと愁眉を開かれるような気分にさせられたものだ。視認した武具を、宝具だろうとなんだろうと複製できるその力……戦歴を重ねれば重ねるほど多様さの広がる性質。実に素晴らしいと手放しに称賛する。
タイプ・アースのアーキタイプにしても良いと思えるほど感嘆したのだ。人である故に剣製に特化しているが、星の意思の器としてならそんな縛りも必要ない。剣に限らずどんな武器も……それこそ新しい霊長の文明力に比例して、強まる力を武器として取り上げたらいい。
今までにない貴重なデータだ……それを提供してもらった礼に、その世界が彼を通じて、アラヤに世界の危機を認識させた事も目を瞑ろう。所詮は剪定された側のアラヤの末端、こちらの邪魔はできないし、させない。寧ろ世界規模で危機を認識した世界のデータが取れるから、少しは大目に見てもいいかと思うこともできた。
なんとなれば、
他にも封印指定執行者、魔術師殺し、野生児、
変節、変心を赦しはしない。例え自分であっても。そうした妥協と諦めが、今の地球の危機を招いたのだから。外敵は駆除する、危機は排除する、滅びなど認めない。まだ死にたくない。だって地球はまだ生きているから。生きるために、努力をしよう。
そのために、利用できるものは利用する。空想樹も、現在の霊長も。
星の為の新しい世界を創る為、星の意思は厳格で在り続けよう。
† † † † † † † †
静かだ、と岸波白野は思った。
何をどう考え、どのように行動したらいいのか。誰に言われずとも最初から解ってしまう。
何故という疑惑、貼り付けられた異物の違和感。
異物なのに自然な感覚に、頭がおかしくなりそうで――
その奇妙な感覚が、白紙の自分に囁いている。もうすぐだ、と。
無駄骨を折ったらしい。バゼット・フラガ・マクレミッツは嘆息した。
闇雲に敵を探しても、奇襲されるリスクが増していく。敵は慎重派ばかりなのだろう。
ここは一旦、
ランサーに意見を訊くと、空気がヒリついているらしい……そろそろ波乱が起こりそうだ。
間桐慎二は思う。ちょっと早まったかもしれない、と。
学校で引っ掛けた女の家を転々とするだなんて、まるでヒモだ。
惨めだ……女のご機嫌取りとか面倒臭すぎる。
遠坂達と別行動を始めたとはいえ、暇潰しが衛宮とのケータイでの遣り取りしかないのだ。
早く終わってくれと切に願った。
衛宮切嗣は眠っている。意識をバラバラに解体し、精神状態をリセットしているのだ。
安全は確認した。時が来ると予測される時間も、アサシンの報告を聞いて割り出している。
それまで、眠り続けた。
エミヤは屋敷を検分し、標的の不在を確認すると駅と港を転々とした。
そして確信する。間もなくだ。新都全域を覆う簡易神殿、それが励起状態に入った。
肝を据えろ。腹を括れ。ここだ、ここで成し遂げたら、勝利は目の前だ。
そして、今更ながら藤丸立香は思った。――ミスったかも、と。
留置所は静かで意外と快適だったが、流石に暇過ぎる。何を聞かれてもだんまりを貫いてはいるが、そろそろ退屈で死にそうだ。……死にそうなのだ。
色んな時代を巡り死を見た。死の危険にも迫られた。その経験が、勘となって囁いてくる。
こんな事をしていたら死ぬぞ、と。
だから色々考えて。あ、オレってミスってたんだな、と今更気づいたのだ。とはいえ他に取れる行動なんて――あの時、あの場所で、誰かに同盟を組むように働きかけるぐらいだ。
後悔先に立たず。仕方ないから打開策を考えよう。
今から冬木に戻る……駄目だ、死ぬ未来しか見えない。
今からサーヴァントを喚ぶ。……普通に維持できないで自滅するだけだ。
カルデアが助けに来てくれる……期待できない。するべきでもない。
かといって一人では何もできないなら……サーヴァントを喚んで魂喰いをして貰うしかないのだろうか。別の世界の人達だからって、傷つけたくない。
(どうしたらいいんだ……教えてくれ、皆……)
――決意も、結論も、懊悩も。等しく時間は運んでいく。
そして、今後の趨勢を決定づける、運命の三日目へ――時計の針は進んだ。
「思ったより早かったわね。
――我が夫、ソージューロー。……傍に」
登壇せしは、現代風の装束から魔女の姿に立ち返りし神域の天才魔術師。
マスターを立会人に、モルガンは新都のセンタービル屋上に立った。
夜。深夜0時を超えて、間もなく1時になろうかという頃。
新都の街へ、十数人もの魔術師が潜入してきたのを、彼女は知覚したのだ。
それは神秘の秘匿のために派遣された、時計塔の先遣部隊。
更に1時間後、総計百と五十名にも及ぶ魔術師が新都に足を踏み入れた。
彼らは神秘の秘匿を守る為、必要ならばこの街を灰に変える事も厭わない。
現地の人間達にとって彼らは死神そのものだ。
――では、その死神を刈り取る魔女は、救いの女神なのだろうか。
否である。
「――始めるわ。例え幾千幾万の困難が立ちはだかろうと、私の歩みを止める事は叶わない。開演の時だ……我が手に触れられる悦びに、全霊を以て歓喜なさい――!」
この街全域に張り巡らせた魔法陣。簡易的に築いた隠密性に優れた神殿。その用途の一つである探知機能は、あくまでも本命を活かす為の補助機構でしかなかった。
本命の機能は――自身の魔術効果を大幅に強化増幅させる事。
「簡易神殿起動。今この時に生きていられる喜び、生存するエネルギーに税を掛ける。そう、これに
一世一代の大舞台、全身全霊の大魔術が作動する。これこそがモルガンが築いた神殿の真の用途である。神殿領域内の探知する仕組みは、この大魔術を円滑に機能させるものでしかない。
荘厳にして静謐なる、水底を想わせる魔力の光が新都を覆う。現地の人々は訳も分からぬまま、突如として全身から力が抜けていくのを感じ、そのまま地面に倒れ伏していった。
魔術師達は咄嗟に抗おうとする。だが過去から未来にかけ5本の指に入る魔女に対して抵抗は無意味だった。現代の魔術師百数十名を束ねても――モルガンの足元にも及ばないのである。
「……ソージューロー」
「……なんだ?」
「手を。手を……握ってくださいますか……?」
だがそれでも全ての新都の人間と、百人を超える魔術師を相手に、魔力と生命力の綱引きをするのには甚大な負荷が掛かるのだろう。額に大粒の汗を浮かばせる魔女は、少年へ縋るように求める。
少年は厳しい表情で目の前の光景を見て、刻みつけるように瞑目した。
これは……この光景は自分の罪なのだろうと、漠然とした理解が彼にゆっくり浸透してきた。
本当はやめさせるべきなのかもしれない……だが少年は是とした。自分だってまだ、死にたくはないのだ。そして自分の為に、自分達の世界の為に罪を犯す魔女にだけ、背負わせていい咎ではない。
刮目した少年は、無言で手を握った。それだけで気力が湧いたのだろう、魔女は微笑み目の前の難関に挑む。――数千人もの人間全てから同時に魔力等を抜き取り、殺さず生命活動だけ不足なく行えるように留める。更に魔術師の持ち込んでいる礼装からすらも魔力を抜き全損させた。そうして抜き出した魔力の全てを――自身の許に集束させるのだ。
「 」
其れは、伝説の魔女の面目躍如。
赤子には手を付けず、老人には老人の、男には男の、女には女の、個々の限界を見極め、選り分け、演算し、算出する。数千人もの人間の持つ情報の悉くを暗算で処理するのだ。
その負荷は彼女以外には耐えられまい。
少しのミスで対象は死ぬ。死なせてしまえば自分は脱落する。
綱渡りどころではない、余りの情報量にどんな天才でも脳が破裂してしまうだろう。だが魔女は誤らない。失敗しない。なぜならば彼女はモルガン・ル・フェ。ブリテンの真の王――この程度の負荷など何するものぞ――閉じた双眸から血の涙を流し、鼻血を垂らし、耳からも血を噴きながら、呻き声一つの雑念すら己に赦さず税を巻き上げる。
――なんと幻想的な光景なのか。
新都各地より立ち昇る魔力の粒。それが虚空へと導かれ、その全てが魔女の許へと向かって飛んでいくのだ。魔槍を媒介に集束した魔力を取り込み、濾過し、自身のものとして同化させる。
まだ終わらない。取り込んだ魔力を、カタチにする。膨大極まる魔力を束ねて、あらかじめ刻んでいたカラの刻印に充填した。魔女は少年の手を強く握って……歯を食いしばり、術式を完成させ。
「――でき、た」
此処に。
モルガンの手の甲に。
「できた」
どこか呆然と、モルガンが呟く。
「で、きた……できた、できたわ……」
数秒の間を空け、理解する。自身の試みが成功した事を。
――だって、自分は脱落していない。
つまり、誰も殺さずに、存在税を徴収できたという事。
構築していた神殿は崩れ去っていく。元々、この一度限りの大魔術の為に築いたものなのだ。
用を成したなら、もはや不要である。自壊するに任せた。
異聞聖杯の齎した令呪というシステムを参考に、更に上位の性能を有するものを創り出す。それこそがモルガンの策の第一段階だった。それを完遂した。
マスターに移植せず、自分で使える令呪。一画の用途は決まっている、二画目は緊急事態に備えての予備だ。自作した令呪は、文句なしにマスターの有する令呪より高性能だと自認する。
「――ありがとう、ソージューロー」
モルガンは鼻血と、血涙を拭い、笑顔でマスターを見た。
少年、静希草十郎は険しい顔のまま応じる。――厳しい人、とモルガンは嬉しく思った。
だって自分のマスターの心と魂は、依然としてモルガンに隔意がないのだから。
「俺は何もしてないぞ。……何もだ。だから、俺にも何かさせてくれ。モルガンに全て任せていたけど、何もしないでいるのは無責任だと思う」
「ええ……もちろんです。まだ大きな山場が残っています。マスターにも一度だけ、戦場に赴いてもらう必要があるでしょう。ですのでどうか、一足先に例の場所へ。私も後で向かいます、それまで英気を養っていてください」
「分かった。てんい、というのをしてくれ」
「はい」
繋いでいた手を離し、魔槍を振るってマスターを安全地帯へ転移させる。
そう、まだやる事があるのだ。自壊していく神殿の、まだ辛うじて残っている機能を用い、失神している魔術師の一人の傍に自ら転移した。そうすると神殿はいよいよ跡形もなく霧散していく。
モルガンは急いで魔術師に触れた。そして、その
雑念が過ぎるのを、頭を振って払いのける。
これで、目的は達成した。そしてここからが、山場の一つ。
「――よう、景気良くやらかしてくれたみてぇじゃねぇか」
あの光景。自身の魔術行使は、全てのサーヴァントの感覚に掛かる。
故に確実に集まるだろう。――この冬木の異聞聖杯戦争に集ったサーヴァント達が。
ランサーのサーヴァント、クー・フーリンの声に、魔女は艷やかな笑みを浮かべた。
ここからが、策の第2段階。ここだ……ここさえ乗り切れば、勝てる。
モルガンは嗤った。頭一つ抜けた魔力を得た自分を、優先的に排除しようとする者達が滑稽で。
――まさか自分と同じ様に、このタイミングを待っていた者がもう一人いた事を……モルガンはまだ想像だにしていなかった。
面白い、続きが気になると思って頂けたなら、感想評価等よろしくお願いします。
↓
第2回、読者の「勝者予想」アンケ開催。
※アンケの結果が結末に関係する事はありません※
結末はもう作者の中で決まっております。
↓
勝者予想アンケ第二弾!
-
藤丸立香
-
岸波白野
-
間桐慎二
-
衛宮切嗣
-
静希草十郎
-
エミヤシロウ
-
バゼット・フラガ・マクレミッツ