Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎 作:飴玉鉛
魔力の高まりに次ぎ、飛来する四の魔弾。マッハ3の速度で虚空を駆ける魔弾を視認した途端、四者はそれぞれ異なる想いに至った。
モルガンは目を疑った。
英霊とは宝具だ。
宝具こそが英霊を表す別名と言っても過言ではない。
断言できる、複数の宝具を有する英霊は数あれども、同一の宝具を四つも有する英霊など存在し得ないと。だがもしも可能性があるとすれば、それは宝具の製造者である事。もう一つの可能性は、そもそも四つの魔弾全てが
ライダーはやはりあの弓兵は来た、と。
セイバーは黙然と己がマスターを護る為に刃を構え。
そして。
「――ふざけた真似を」
射ち出された魔弾を視認した瞬間、槍兵は脳漿が沸騰しかねないほどの憤怒を覚えた。
ゲイ・ボルク。因果逆転の槍。
息子と親友の心臓を貫き、最後には己の腹をも割いたこの魔槍はクー・フーリンの全てだ。剣に限らず短槍、長槍、弓、投石器、戦車。多くの武具を用いてさえ超級の腕前を誇るクー・フーリンが切り札として恃み、英雄として完結するに際して象徴となった物なのである。
影の国での修行時代、師に免許皆伝の証として愛用の槍を授けられ。
それは、英雄として駆け抜けた短い生涯を飾る愛槍となった。
誇りを掛け、血と苦悩を振り払った、英雄としての人生の結晶なのである。青春時代の苦楽がそこにあり、赤枝としての流血が注がれた。心血を傾け結実させたそれを……なぜ、こんなに?
――己の師なら、魔槍を幾本も持っていても不思議ではない。
だが
宝具の真名を解放しているのだろう、定めた標的目掛けて疾駆する魔槍は、確かに標的の心臓に狙いを定めている。狙いは確かだ、腕はいい、だがしかし……
躱されるだろう、防がれるだろう、寧ろそうでなくては困る――そんな魂胆の透けて視える、気の抜けた四本の魔槍。これは師スカサハによるものなどでは断じてない。スカサハならば例え複数の魔槍を擲っても、その全てに必殺の意思を込めるはずだからだ。ならば四本の魔槍は卑劣なる贋作者、或いは盗作者が擲ったものに違いなかった。
魔弾の力は真作に比する。しかし権能の域に半歩踏み込んだ因果逆転は、担い手の技倆の下に振るわれてこそ効力を発揮するもの。ただ矢として放つだけでは心臓を穿つまで止まらない
自らの朱槍を振るい、魔弾を弾き飛ばす。激突の瞬間轟音と衝撃、魔力の徒花が散り、ランサーの髪を靡かせた。魔槍はランサーの背後でうねり、再度喰らいつかんと襲い掛かってくるのに――
「オォォラァァァッ!」
自身の肉体にルーンを発動し、筋力を大幅に強化する。自壊すら厭わぬ渾身の一撃を放つ為、再生のルーンも用いたのだ。ランサーの力任せの豪打は贋作の魔弾を粉砕する。
技も何もない、純粋な怪力での破壊。赫怒を乗せた一撃を放ったことで、ランサーの肉体は崩壊するほどの損傷を負った。その自傷をルーンが再生し、凄まじい激痛が発生する。
だが生じた痛みは槍兵の怒りの火に油を注ぐだけである。
ライダーが聖槍を掲げた。最果ての光を聳え立つ柱として打ち上げ、そこに魔槍を巻き込んで容易く魔弾を破壊してのける。モルガンは水鏡の如き姿見を展開して、そこに着弾した魔弾をライダーの発した聖槍の光の渦に転移させ諸共に破壊させた。そしてセイバーは、宝具『剣術無双・剣禅一如』による一刀で魔弾を真っ二つに切り裂いている。
その光景を目にするだけでもランサーの怒りのボルテージが上がる。全身の血管が浮き上がり、総身が怒りの余りわなないた。まるで見せつけているかのようだ――お前の槍はこの程度なのだ、と。
「――ほう、全員が凌ぎ切ったか。一騎は落ちてくれるだろうと期待していたのだが……流石は世界を救わんとする英雄達、手強いな」
高所のビルから降り立ったのだろう。赤い外套を翻して着地した新たな敵が飄々と嘯く。
赤い聖骸布を纏った男に、ライダーは呟いた。アーチャー……と。複雑そうな眼差しに、しかし彼は一瞥もくれずにランサーを見ていた。――その目は。明らかに、ランサーを嘲笑している。
「それとも、ゲイ・ボルク自体がそう大した宝具でもなかったのかな?」
「…………」
槍兵は無言で、赤い贋作者を見ている。
どこからどう見ても、ケルトの戦士ではない。人種が違う。
自身の死後、他人の手に渡った魔槍を得た何者か、という線は消えた。
時を経たら、光の御子の魔槍は影の国に流れ着くだろう。
ではやはり、今の魔槍は贋作だ。
何者だ? ――懐疑するや否や、脳裏を過ぎる記録。
冬木で相対した、キザで皮肉屋な、誇りのない剣を使う弓兵。
あの男だ。
「随分な挨拶ではないか。こんな粗暴に振る舞うようではお里が知れるぞ。私の招待に応じ宴に参じたのなら、相応の作法を弁えてほしいものだな、弓兵」
魔女が何かを言っている。――聞こえない。
「なに、ここは戦場だろう? ならば相応の土産をと思って用意した物なのだがね。気に入ってもらえなかったのなら残念だ」
赤い■兵が囀っている。――聞こえない。
「アーチャー……! 貴方は今、自分が何をしたか分かっているのですか!? 英霊の誇りである宝具を穢す振る舞いをするとは何事です! 私の知る貴方は例え幾ら宝具を作り出せようとも、決してそこへ込められた思いを軽んじる事だけはしなかった! なぜこんな、ランサーを愚弄するような真似をしたのですか!」
騎兵が糾弾している。――聞こえない。
「……? お前は私を知っているのか? ……どうやら私の能力の種が割れているようだが……まあいい、疑念を晴らすのはまたの機会ということにしておこう。それよりもライダー、私の挨拶を受けて誤解しているようだがね、折角だから訂正させてもらおうか」
「誤解だと?」
「そうだ。私はアーチャーではない。――
「………!」
何も、聞こえない。赤い■■の声が、何も。
「エクストラクラスだと……?」
「意外かな、ブリテンの魔女殿。なんとなればフェイカーの名を賭けて、貴様にとって忌まわしき聖剣を模倣してみせようか? 貴様にはさぞかし目映いだろうな、キャスター」
魔女が呟く。■い■■の返事は、声は、もう――耐え難いほど不愉快で。
もういい、殺そう、と。戦士の怒りは限界を超える。
魔槍の石突きで地面を叩く。アスファルトの地面が衝撃で砕け、蜘蛛の巣のような亀裂を刻んだ。その轟音で全員の目がランサーに向くのにも構わず、彼は有り余る殺意を込めて宣言した。
「――おい、アーチャー」
「ふむ……耳が遠いのかな、クー・フーリン。私はフェイカーだと――」
「――うるせぇ。もう、何も囀るな。テメェは此処で、オレが殺す。赤枝の騎士を……このオレを舐めたツケ、耳を揃えて返してもらおうか」
肩を竦めたフェイカーが、白と黒の双剣を投影する。ランサーの煮え滾る溶岩の如き殺意を、柳に風とばかりに受け流しながら。
英霊エミヤ。ライダーはその姿に無視し得ない違和感を覚えていた。自身の知るエミヤと何かが違う……違うのに、だらりと下ろした両腕が握る双剣と、無形の構えを取る姿は一致していた。
――ただ一人、この場で唯一のマスターである岸波白野だけが驚いていた。
(自己申告ではフェイカーだけど、そこはいい。今は重要じゃない。それより問題なのは、エミヤのステータスが俺が知ってるものより高い事。……
白野はマスターの特権として、サーヴァントのステータスを見る事ができていた。
故にエミヤのステータスは驚嘆に値する。筋力がBランク、耐久がAランク……それはいい。だが魔力のランクが評価規格外のEXランクなのだ。それほどの魔力があれば、エミヤならどんな宝具でも完璧に近いカタチで複製してのける。仮に弓兵ではなかったとしても、弓兵はもとより剣士、魔術師、暗殺者の真似事も平然と熟せてしまうはずで……極めて危険過ぎる敵だった。
次の瞬間には壮絶な殺し合いが始まるだろう。だが白野は冷静に盤面を見詰めている。
■■王が言っていたのだ。
先を読もうとする時点で既に敗けている、盤上に於いて未来は読むものではなく……俯瞰して観るものなのだ、と。正着は常に見えているものらしい。彼の王と同じ視座に立てると思うほど自惚れてはいないが、盤面を俯瞰して観るという点だけは参考にしていた。
故に白野は沈着としている。自身を狙った宝具の魔弾を、セイバーに宝具で迎撃させたのは白野だ。ランサーはこちらを見ておらず、他二騎も魔弾の対処の為に視界からセイバーを外した。その瞬間に余計な気配を出さない剣技による宝具でセイバーは魔弾を斬った。
恐らくセイバーの宝具を見たのはフェイカーだけ。だがフェイカーならセイバーの刀を見た時点で真名を知られているだろうから気にすることはない。
白野はランサーを観た。自称フェイカーを観た。ライダーを。モルガンを。そして自分を。
(――ランサーは駄目、エミヤも駄目、モルガンも駄目。槍兵は怒り狂ってるから話なんか聞かない、エミヤは仕事人モードに入ってるから信用できない、モルガンは見た感じ、あらかじめ立てた自分の計画に、余分な要素を取り入れるのはよしとしないな。この状況的にモルガンの計画は始まってる。その前なら可能性はあったけど、もう手遅れで論外になってしまってるか。なら……)
槍兵に休戦を呼び掛け、モルガンを優先的に討とうと誘いを掛けた騎兵の少女。恐らく彼女の真名はアーサー王だ。騎士達の王……あの■■の騎士の生前の主君。なら信頼できる。
腹は決まった。同盟を打珍するならライダー陣営である、と。やはり後ろに引っ込んだままでは駄目だという判断を下してよかった。自分の目と耳で得た情報の密度は有用だ。こうして出張ってきてよかったと、自らが死地に立っているにも関わらず白野は思った。
「……セイバー。基本は俺のガード、余裕があればライダーの援護だ。俺は最後まで一歩も動かず此処に居る。俺の命、セイバーに預けるぞ」
「フ……承った。ご安心召されよ、我が剣にかけてマスターに掠り傷も負わせませぬ」
高まり続ける緊迫感の只中で、声を潜めもせず堂々と言い放った白野に、セイバーもまた主君の信頼を受けて剣聖らしからぬ闘志を纏った。それに――ランサーの視界の半分を借りているバゼットは、途方もなく巨大な敗北感に見舞われた。
あんな少年ですら、サーヴァントと共に戦場に立っている……なのに、今の自分の有様はなんだ。なんで自分はこんな所にいる……そう打ちひしがれるバゼットの事など知らず。騎兵の少女は驚いて白野の顔をまじまじと見た。自分を援護する対象に指定した……? なら、セイバーはモルガン討伐に協力してくれるという事だろうか? それは……なんと心強い。
肌で感じるあの剣気、技倆の面で己を遥かに圧倒していた佐々木小次郎を彷彿とさせられる。異聞聖杯戦争に招かれた以上、触媒による召喚でないのならマスターとの相性も含めて強敵のはずだ。一時のものとはいえ味方に迎える相手として不足はないと判断する。
臨界に達する殺気。
ここに――五騎のサーヴァントが入り乱れる激戦の幕が切って落とされた。
† † † † † † † †
贋作の槍を四。杜撰な狙撃。姿を表してからの言動。……明らかに敵は己に狙いを絞って挑発をしている。そんな事は分かっていた。だが分かった上で、最早その存命を容認できない。
どんな思惑、如何なる策を用意していようと。逃さない、ここで必ず殺す。ゲイ・ボルクの贋作を乱造し、意図的に使い捨てた行為を糾す為にも、この槍で突き殺さねば己の怒りは鎮まらない。
「
槍兵が跳びのく。そして弾き返されたように元いた地点に助走をつけて飛び込み、全身のバネを活かしての秘術・鮭跳びの術で跳躍すると、躊躇なく魔槍の穂先で贋作者を捕捉した。まるでこの槍はこう使うんだと、不遜な贋作者に魅せつけるかのような一投を開陳する。
「――
真名が露見していると判断したが故の躊躇いの無さ。解き放たれた魔槍が、確実に敵対者を葬り去らんと飛翔した。
対する贋作者は嗤う。まんまと釣れたな、と。常の己なら死力を振り絞ってなお敗れるかもしれない。だが今の贋作者は無尽蔵に等しい潤沢な魔力を有していた。負ける気がしない――湯水の如く費やせる燃料を注ぎ、贋作者は淡々と本命に向けて布石を打つ。
「
贋作者の座を自称する、鉄の心に至った正義の殉教者もまた、出し惜しみする気はなかった。他の誰に何を見られ、能力の真髄を見抜かれようとも構わない。ここで全てを出し切るつもりだ。
――らしくない。余りに、戦上手なエミヤらしくない戦法である。
双剣に最大の魔力を注ぎ込み、槍兵の首目掛けて投擲すると、双剣による左右からの挟み撃ちを狙いながら、投擲した瞬間に一時奥義を中断。全く別の投影工程に入る。
今の贋作者の魔力ではそれが適う。自身の
「
音速を超えて飛来した魔槍を、七つの花弁が受け止める。投擲物に対して特に強い防御効果を発揮する盾は、無尽蔵の魔力を注ぎ込まれ、まさに無敵の防護力を以てして魔槍の侵攻を阻んだ。
だがそこで終わらない。擲たれた魔槍の威力を受け止めきった途端、自壊させて特大の爆発を起こしたのだ。有り得ない戦術、それにより魔槍の真名解放を相殺したのである。
着地した無手の槍兵は目を剥く。
盾ではなく、大量の魔力を内包した爆弾のような扱い。爆弾の破裂した衝撃で、槍兵渾身の一投を無効化した様には、やはり原典への敬意は欠片もないようにしか見えなかった。
――野郎……。
悪態を吐く暇もなく飛来した双剣を見もせず、刀身の腹を正確に両手の甲で叩き落とすも、その手応えの重さと贋作の盾の用途を見て、贋作者が記録にあるより遥かに魔力が多い事を認識した。
「続きだ――
「チィッ――来いッ!」
いたく矜持を傷つけられながらも、弾き返された魔槍に命じて手を掲げ、更に双剣を投影して斬り掛かってくる贋作者を迎撃する。宝具の撃ち合いは圧倒的に不利だ。槍兵と贋作者の魔力量は、軽く見ても1対10……少なくともそれだけの差がなければ、到底魔槍の一撃をあんな手段で防げるはずがなかった。であれば白兵にて勝敗を決する他にない。
双剣を携え斬り掛かって来る贋作者。それを正面から見据える槍兵――アイルランドの光の御子には矢避けの加護がある。故に槍兵は当然のように知覚した。
己の背後から、先程弾いたはずの双剣が襲い掛かってくるのを。
「
「しゃらくせぇっ!」
前方からは双剣を携えた仇敵。後方からは同じ双剣。四つの刃による同時挟撃に、しかし。今次異聞聖杯戦争、白兵戦最強のサーヴァントである槍兵を仕留めるにはまだ足りない。
朱槍を高速で旋回させ、贋作者の双剣と背後のそれをほぼ同時に弾き、贋作者の両腕を虚空に跳ね上げた。隙だらけの胴体――その
殺し間からの鮮やかな離脱に贋作者は内心舌打ちし、幻想に実体を与えずに待機させていた投影宝具を自身の後背から掃射した。殺し間から離脱されたのなら最早手数の一つにするしかないのだ。
「
――
囲みを突破した槍兵目掛け、長剣形態に変形するほど過剰強化した双剣を虚空から掃射すると、エミヤの手にある双剣を含めた全てが吸い込まれるようにして飛翔した。
槍兵に最も近づいたと見た瞬間に爆破する。込められた魔力が桁外れなせいだろう、凄まじい地響きと衝撃波が全員の肌を打つ。狙われた槍兵は無事では済むまい、そう思いかけた刹那、エミヤは爆炎を突き抜けた影を目敏く視認し目で追った。
それは高速で明後日の方に向かい、影の正体が魔槍である事を見て取ると舌打ちした。魔槍はくるりとひとりでに反転し、一直線にエミヤに食らいついてくる。――朱槍を投じた槍兵が、それとは正反対の位置に居る証左だった。双剣を瞬時に投影し直し朱槍を弾くと同時、背後から迫った槍兵の蹴撃を片手で受け止めた。
「ぐ……」
突き穿つ蹴撃はエミヤの腕の上から胴体に掛けて衝撃を徹す。重い……凄まじい膂力にエミヤの体が吹き飛んだ。さながら大型トラックに跳ね飛ばされた常人かのように。
地面をバウンドしながら双剣を手放し、地面を両手で押して虚空に跳ね上がりながら洋弓と無数の矢を投影。驚くべきことに槍兵が無傷であるのを視認すると、空中で天地が逆さまになった視界の中で機関銃の如き弾幕を張った。とても弓矢によるものとは思えない矢の雨は――しかし槍兵を狙ったものではない。ライダーとセイバーに攻め立てられるモルガンを援護するかの如く、セイバーのマスターとライダーを襲った。騎兵は手綱を操り白馬を疾走させ射撃圏内から脱出し、剣聖は素早く身を翻してマスターの盾となる。矢の悉くを弾けたのは、
軽やかに着地したエミヤは不敵な笑みを浮かべる。それはランサーの神経を逆撫でした。騎兵も、剣士も意図が読めずに困惑する。なぜモルガンを援護した……? なぜランサーから目を逸らした?
何がしたい。何が狙いなのか。槍兵はとっくに限界を迎えていたと思っていた怒りの炎が、更に燃え上がるのを自覚する。プツンと何かが切れた音を誰もが聞いた。
「テメェ……このオレと相対しておきながら……何処を見ていやがる……?」
「――なに。君だけが相手だと眠たくてね、他にも粉を掛けたくなったのさ」
「……………」
挑発。
挑発。
また、挑発だ。
目に見えている。安い挑発だった。
エミヤは明らかに、ランサーの逆鱗を射抜いている。
「あぁ……悪い、バゼット」
マスターに貸した片目のハンデがあるとはいえ、それを感じさせない巧みな立ち回りを心掛けていたが。今少しだけ、その気遣いをやめる。
ランサーは言葉短くバゼットに謝った。本当ならもっと格好良く、先達らしい戦を見せてやりたかったのだが……そうも言ってられない怒りに駆られている。
やめろと言うならやめよう。令呪を使わなくても指示に従う。……止めないのか? それとも止められないのか? どちらでもいい。なぁに、己が警戒される方が、おたくもやり易くなるだろう? どちらであれバゼットに非はない……悪いのは全部、安い挑発に乗る自分だ。
「――全呪解放。加減は無しだ、絶望に挑むがいい」
空気が変わる。大気が死んだ。神代であれば、荒れ狂うクー・フーリンの憤怒に大地で眠る精霊が悲鳴を上げ、狂騒するほどの魔力の奔流が吹き抜ける。
エミヤは冷や汗を浮かべながらも、出るものが出たな……と、本命の時が来たのを悟る。
だが、絶望しそうなほどの圧力を感じた。
想像を超えた絶望の具現に、早まったかな、なんて苦笑いする余裕も消えてなくなる。
しかし、それでも、やるのだ。やると決めた。なら……全力で絶望に挑むのみ。双剣を構え、腰を落としたエミヤは、全霊を絞り尽くしたアイルランドの光の御子を睨みつける。
呪いの朱槍が消える。いや――担い手クー・フーリンと同化し、四肢と頭部に凶悪な外骨格が具象化した。それは紅海の怪物・海獣クリードを人型にしたかの如き、神威と禍の降臨の瞬間だった。死棘の一角を具えた兜、死棘の爪を具えた両腕。両脚からも生え出た呪いの赤は、大蛇の如き尾の棘とも合わさり剣山を想起させられる。喩えるなら、死を啜る怨嗟の獣。
出現した兇獣は、ただ静かに己の真名を唱えた。
「
噛み砕く死牙の獣。
マテリアルを見た感じ、この宝具はタニキじゃなくても使えると判断しました。
勝者予想アンケ第二弾!
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藤丸立香
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岸波白野
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間桐慎二
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衛宮切嗣
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静希草十郎
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エミヤシロウ
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バゼット・フラガ・マクレミッツ