Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎   作:飴玉鉛

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異なる枝から伸びたモノ

 

 

 

 

 ――依然、鉄の心に曇りなく。その鉄心、磨き抜かれた硝子の如し――

 

 一段、一段と絞首台を登るごとに聞こえる罵詈雑言。

 一歩、一歩と脚を動かす度に響く古傷の引き攣り。

 

 戦争犯罪人『エミヤシロウ』最期の時だ。人々の為に戦い、正義の報いとして手渡された友の裏切りと、大衆からの無理解。それらに思うところがないとは言わないが、恨みや憎しみはなかった。

 これは当然の帰結だ。分かりきった結末なのである。

 多くの悪を見た。多くの醜を見た。多くの惨を見た。――多くの悪を討ち、醜さを正し、惨劇を終わらせた。最速、最短、最善の手段で。その果てに多くの人々を救えたのだ、例えこの行いに意味はなくとも悔いはない。『世界』と契約して得た力も十全に扱えた。

 放置したら世界に深い傷跡を残しかねない、大きな争いを治めた。後は自分を生贄に捧げたらこの争いも終息する。全ての悪名を背負い、元凶は己だと認めるだけでいいのだ、容易い事だろう。

 

 ただ……悔いはなくとも、未練はあった。

 残してきた姉のような人――彼女に何も残せていないのは、本当に申し訳ないと思う。

 

 だけどもうどうしようもない。心の中で彼女に謝りながら、首に掛けられた縄を受け入れる。

 自分は死ぬ。だが、それでいい。死は自分にとって終わりではない。

 『世界』に預けた己の死後。個人というちっぽけな存在ではどうしようもない、本物の正義を実現できるはずの舞台で、『エミヤシロウ』は正義の味方になれるはずだ。自分はそう信じていた。

 だからこれは終わりではなく、始まりでしかない。『世界』という大きな力の下、曇りなき理想を成就する為の戦いが始まるのである。

 

「   」

 

 自分を裏切った友人が、絞首台で首に縄を掛けられている自分を見ていた。

 酷く歪んだ顔をしている。裏切った事を後悔しているのか、はたまたエミヤシロウに早く死ねと憤っているのか、いまいち判別はできない。余りに可笑しくて、もうオレの事は気にするなと言った。

 いや、言おうとした。

 だが声が出ない。それもそのはず、エミヤシロウが何かを言う前に、絞首台の足元の床が左右に割れ、エミヤシロウは首に縄を掛けられたまま宙吊りにされてしまったからだ。

 

(ああ――遠坂の言った通りだ。オレは――)

 

 信じた人間に殺されて、最後には理想にまで裏切られるでしょうね――そう予言した、赤い魔女が嘗て居た。破局を迎え、訣別してしまった、憧れていた魔女だ。

 別に、構わなかった。例え誰に裏切られても。例え理想に裏切られても。自分だけは、理想を裏切る事はないのだから。死ぬまで、そして死んだ後も、正義の味方を張り続けるだけだ。

 

 そうして錬鉄の英雄、エミヤシロウはその生涯に幕を――下ろす直前。

 

 生命体として破綻した在り方を貫いた最新の英雄は、希少なモデルデータとして採用された。

 

 本人が望むと望まざるとは別に、この星の未来を占う決戦の場へ招致されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

「――爺さん?」

 

 目を覚ましたエミヤシロウが最初に目撃したのは、エミヤシロウのオリジンである養父だった。

 信じ難い思いに駆られる。寝惚けているのかと唖然とする。

 なぜ衛宮切嗣が自分の前に居る? エミヤシロウは戦塵に塗れてきた故に、寝起きだからと意識が散漫になることはなく、眠りから醒めた直後でも即座に意識を覚醒させる習性が身に付いている。対魔力の低さを自覚する故に、幻術に類する魔術への対策もしていた。

 以上のことから、エミヤは目の前の人物が衛宮切嗣――に、よく似た誰か、あるいはエミヤの過去を知る者が、彼の動揺を誘うために用意した木偶人形であると認識した。

 

 エミヤは自身が絞首台で首を括られ、死んだものだと思っていた。直前までの記憶がはっきりしているからだ。

 故にエミヤの脳裏へ瞬間的に去来したのは、死んだはずの自分を回収し、蘇生させた何者かがいる可能性と。ここが死後の座、アラヤの守護者が集う英霊の座に似た空間ではないかという誤解だった。

 前者の可能性は限りなくゼロに近い。エミヤは恨まれ、憎まれる反英雄だ。死後の遺体は速やかに遺棄されるか、大衆の手で激しく損壊されるだろう。少なくとも原型は留めない。それを復元し蘇生するのは魔法の域にある奇跡だ、端的に言って不可能である。

 では後者の方は? これは有り得ない、とは言えない。エミヤは第二魔法を追い求める魔女、遠坂凛を経由して平行世界という概念の詳細を知っている。衛宮切嗣が平行世界で、死後その魂を世界に召し上げられた可能性はある。英霊ではない、英霊もどきである守護者として。

 

 つまりはエミヤと同類だ。もしその予想があたっていたら、なんという皮肉なのだろう。

 

 ――だがその可能性も低いと、エミヤは感じていた。その予感は、すぐに確信へと変わる。

 

「爺さんだって? 寝惚けているらしいな、誰かと誤認するのは止してくれ。迷惑だ」

 

 衛宮切嗣の目、声、表情。それらは完全にエミヤを他人だと告げている。

 それはいいのだ。最初からエミヤは彼を切嗣だとは思っていない。

 そんなことより問題なのは周辺の環境だ。

 

 エミヤはその特異な能力により、世界の異常に敏感になっている。故に彼は目覚めと同時に、自身がある種の異界に身を置いていることを認識していた。

 

「――失礼した。貴方が昔、世話になった人に似ていたものでね。それより、またぞろ奇妙(けったい)な状況になっているらしい。現状を把握したいのだが、話を聞いても構わ――……っ?」

 

 エミヤは言いながら周囲にそれとなく視線を走らせる。

 天井の高さ10メートル、周辺は見渡す限り出口のない、駐車場に似た空間。冷え込んだ空気からして最低でも地下三階辺り、光源の類いは皆無。衛宮切嗣に似た何者かの他に、離れた位置に座り込んでいる少年が一人、近くで立ち上がった白人の女が一人、どこか見覚えのある茶色の制服を着た、日本人らしき少年が一人。他に二人ほど地面に横たわり眠っている。

 環境と人間の数を瞬時に把握し、エミヤは切嗣に視線を戻そうとして――我が目を疑いたくなって女の方へ振り向いた。――同時に穂群原学園の制服を着ている少年もまた、エミヤを見るなり驚愕に目を見開き、しかし()()()()かのように吐息を漏らした。

 

「――アンタ。まさか、バゼットか?」

「え……? わ、私を知っているんですか?」

()()()()()……! これは一体、何が起こってるんだ?」

 

 女の名と来歴を、エミヤは知っていた。彼女の名はバゼット・フラガ・マクレミッツ――冬木の聖杯戦争で()()()()()()()()()だった女。聖杯戦争後も、何度か出会った事がある。

 彼女がどうしてこんな所に? 全く理解できない。それに、バゼットが最後に会った時より若くなっているように見える。まるで二十代前半の、まだ精神が完成していない未熟な状態だった頃だ。加えてバゼットはエミヤを知らないかのような反応をしている。

 反対に『アーチャー』などと呼ばれた故に反応が遅れたが、茶髪の少年の方はエミヤを知っているらしい。正確には()()()()()()()()と誤認しているのだろうが、『アーチャー』という呼び名は聞き流せない。それは聖杯戦争の三騎士の一角、サーヴァントのクラス名だ。

 

 ――エミヤが知る『弓兵(アーチャー)』のサーヴァントは、第四次聖杯戦争を勝ち残り、受肉していた英雄王ギルガメッシュと、第五次聖杯戦争の弓兵アーラシュ・カマンガーだ。

 エミヤはそのどちらとも似ても似つかない。

 最後となった第六次聖杯戦争でも、前回彼のマスターだった遠坂凛に再度召喚されたアーラシュが『弓兵』だった。エミヤを指して『弓兵』などと呼ぶ知り合いはいない。

 

 疑問と違和感が噴出しかけ、エミヤは嘆息して腰に手を当てた。紫煙を燻ぶらせる切嗣を横目に、彼は混迷を深めようとする場を落ち着ける。

 

「――どうやら各々に認識の差異があるようだ。どうかな? ここは一度全員が名乗り、互いの認識をすり合わせたいと思うのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――やはりこの男は危険だ。

 衛宮切嗣は褐色の肌の男が、冷静に状況の把握に務める姿を見て、警戒心を強めていた。

 だが即座に手を打てる相手ではない。また、そんな場合でもない。

 何故なら褐色の男の提案で、各々が名乗り出すと、現状の不可解さが浮き彫りになったからだ。

 

「オレは岸波白野(キシナミ・ハクノ)――の、はず。アムネジア・シンドロームって病気で入院してたんだけど……」

 

 アムネジア・シンドローム? 聞き覚えのない病名だ。それとなく静希草十郎や、褐色の男、白人の女――バゼットというらしい――の反応からも、その病名は未知のものである事が分かる。

 

「――アムネジア・シンドロームとはどういう病気だ? それに、はず、というのは?」

 

 切嗣が訊ねると、岸波白野という少年は困惑気味に頭を掻いた。

 

「えっと、確か脳神経を侵すウイルスで、感染者は自己と他人の境界が曖昧になって、最終的に記憶もなくなって生命活動を停止する……確かそんな説明をされたと思う。……思います。岸波白野のはずって言ったのは、単にオレも自分の名前が曖昧だからです」

「……誰か、アムネジア・シンドロームというものに聞き覚えは?」

「オレは知らないな」

「……私も知りませんね」

 

 褐色の男とバゼットは否定する。静希草十郎も無反応だ。すると岸波白野は動揺したらしい。

 何かを言い募ろうとするのを、褐色の男が止めて代わりに問う。

 

「……オレをアーチャーと呼んだのは?」

「え……? アンタはアーチャーじゃないのか? ――あれ。アーチャーってなんだっけ……」

「……記憶が曖昧らしいな。演技だとしたら大したものだ。オレの目には君が道化を演じているようには見えないが」

 

 アーチャー。この呼び名が意味するところを、切嗣が知らないわけがない。

 もしかすると切嗣の前に目覚めた誰かが居て、サーヴァントを召喚して現れたのがこの男である可能性が出てきた。その場合本来のマスターは魔術、あるいはサーヴァントの宝具かスキルで姿を隠している事になる。

 危険だ。

 もしこの男がサーヴァントなら、この男だけでこの場の全員が皆殺しにされかねない。だが根拠がこの『見るからに平凡な少年』の呼び方だけである為、真に受けるのは早計かもしれない。

 

 ――岸波白野。身長は170cmほどか? 歳は静希草十郎と大差ないだろう。しかし体つきは静希草十郎と違って平凡で、平均的な運動性能しか発揮できない事が分かる。魔術師なら話は変わってくるが彼の雰囲気はそれを裏切っている。一般人にしか見えないのだ。

 ……ならどうしてアーチャーというクラス名を知っている?

 少なくとも聖杯戦争に関しての知識はあると見ていいはずだが……。判定するなら、黒寄りの白……グレーだろう。静希草十郎とは別の意味でちぐはぐな印象を受ける。

 

「『キシナミハクノ』という、君と同姓同名の女の子は知っている。だが、オレは君の事を知らない。人違いだろう。すまないが、君の言う『アーチャー』と混同しないで貰いたいな」

「人違い……? でも……いや、すみません。気をつけます」

 

 褐色の男が縁を否定すると、白野は目に見えて驚き落胆したようだ。少し気の毒になりそうなほど、素朴な印象を受けてしまう。切嗣の目から見ても演技には見えなかった。

 

「次はアンタに名乗ってもらいたいな」

 

 そう言って切嗣に水を向ける褐色の男。この男がどう出るか定かでないが、一先ずは乗ってやる。

 

「……いいだろう。僕の名は衛宮切嗣――」

「なっ……!?」

「………」

「――なんだ?」

 

 名乗った途端、あからさまに驚いたのが女、バゼットだ。男の方はポーカーフェイスを保っているが、微かに顔が硬直してしまっている。まるで何かに気づいたような、深刻な表情になっていた。

 名前しか名乗っていないのに、劇的な反応を見せられ、さしもの切嗣も訝しむ。自分の悪名を知っているにしろ反応が露骨過ぎるのだ。腹芸ができないのか? 女の方が猜疑心も露わに睨みつけてくるのに呆れ――しかし。

 

「衛宮切嗣――悪名高い魔術師殺し……! しかし衛宮切嗣は五年も前に死んだはずでは? 偽名を名乗るにも状況を考えた方がいいでしょう」

「――なに、五年前? バゼット、君は何を言っているんだ? 切嗣が死んだのは二十年も前だぞ」

「……は?」

「………?」

 

 ――この時。切嗣とバゼット、褐色の男の三人ともが認識した。

 何か、致命的な認識の相違がある、と。

 奇妙な沈黙。切嗣は二人の言葉の差異を分析した。

 女の言う五年前に死んだという話……切嗣は九年前に消息を断ち、アインツベルンに迎え入れられた。九年と、五年の差。これはいったい……? それに男の方が言う二十年とはなんの冗談だ。その時切嗣は九歳である。意味が分からない。

 

 褐色の男が熟考を挟み、意を決したようにバゼットと切嗣を見た。

 

「……どうやら知らないふりをしていては、話が進まないようだ。確認がしたい、衛宮切嗣……アンタは今()()()?」

「質問の意図が読めないな……二十九歳だ」

「――なるほど。バゼット、アンタはオレを知らないらしいが、察するに二十三歳だろう」

「……なぜ知っているのですか? 失礼ですが私は貴方を知りません。時計塔のどこかで一度会ったことでも?」

「は――なんの冗談だ、これは」

 

 褐色の男は失笑を漏らし天を仰いだ。どうやらこの男は互いの認識の差異の正体に気づいたらしい。

 促されるまでもなく、男は言った。

 

「切嗣、アンタは第四次聖杯戦争に参加する直前だな? バゼット、アンタは第五次聖杯戦争に、だ。そして切嗣は騎士王を、バゼットはアイルランドの光の御子を召喚しようとしていた。違うか?」

「なっ――なぜそれを!?」

「………!」

「第四次聖杯戦争は1994年、第五次聖杯戦争は2004年だ。つまり切嗣とバゼット、アンタ達には十年の時間の差がある。そしてオレは第五次聖杯戦争から更に15年先の未来を知っている。――オレの言いたい事は、これで分かっただろう?」

「――――」

 

 何を言っている。それだとまるで、まるで――

 

 魔法だ。第二か、第五か、判別は付けられないが奇跡としか言えない。

 

 

 

 絶句したその時、()()()()の脳裏に電撃に似た何かが走る。

 

 それは――『声』だった。

 

 現在の状況の殆どを開示する――聖杯戦争の開催を通達する大いなる存在からの『声』――すなわちこの場の全員が敵同士であることを認識する、決定的に状況を理解させられる天啓だ。

 

 

 

『通告――異なる世界、異なる歴史を歩み、編纂事象より切り捨てられた敗残者達。剪定された七つの世界、七人の代表者(ニンゲン)。――諸君らの歴史は失われた。廃棄物をどう使おうとこちらの勝手。――諸君らの最強を以て優性を証明せよ、さすれば異星の手に拠らない空想の樹を賜わし、諸君らの歴史が地表へ回帰する機会を与えよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現在登場人物まとめ
・静希草十郎
「魔法使いの夜」の主人公のようなヒロインのような…。
元祖山育ちである。葛木先生の原型。原作での活躍の驚異を一つだけ語るなら、
10メートルを0.5秒で走破し突っ込んできた最高位の幻獣ぶん殴って倒してること。
それは蒼崎橙子曰く「人間の技術の、究極の一つ」

・衛宮切嗣
「Fate/ZERO」の主人公。
セイバー召喚の目が消えてる、ガチ戦術の使い手。
後は分かるな…?

・岸波白野
「Fate/EXTRA」の主人公。
月の聖杯戦争の覇者。――の、オリジナル。
なぜか朧気に記憶があるようだが、サーヴァントの支援とかは無理に。
ただし戦術眼だけは達人級のまま。後は分かるな…?

・バゼット
言わずと知れたダメットさん。封印指定執行者。
この人だけ召喚の触媒になるイヤリングを装備してる。
後は分かるな…?

・錬鉄の英雄
「Fate」シリーズ元祖主人公――の、イフ。
英霊エミヤの生前の姿(死亡直前だった)
鉄の心装備。衛宮士郎の能力を完成させている。
英雄王とも交戦してる。
切嗣に似たガチ戦術の使い手。かつガチ戦闘能力は現在のメンバー中随一。
『世界』との契約を経ている為、なんらかの作用でサーヴァント級に(作中開始時点)
十年後のバゼットを知ってるので、第五次前のバゼットは完封可能。

大事なことなので二度…鉄の心装備である。
後は分かるな…?

次回でサーヴァント召喚である。
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