Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎   作:飴玉鉛

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お待たせしました。


主演女優、助演女優

 

 

 

 

 

 

 掻っ払ったワインボトルを手に帰還した魔女は、自らの(暫定)へ上機嫌に成果を報告した。

 今宵は祝杯をあげよう。喝采も求める。グラスにワインを注ぎ、マスターに酌もしてやろうではないか。まさに最高の気分、唄でも歌ってやってもいいとすら思えた。

 

 ――この異聞聖杯戦争を主導しているのはモルガン・ル・フェである。マスターは所詮、添え物に過ぎなかった。故に、本来なら報告などする必要はないと思っていたかもしれない。

 しかし上首尾に終わった序盤戦の成果を明かして、とにかく褒めてもらいたかったのだ。妙なところで迂闊というか、子供っぽいというか。身内と認めた者との距離感がバグっている魔女である。

 ブリテン島の意思を継いだ彼女にとってブリテンの支配こそが人生の全てであり、その為に生きて、遠い時の果てまで流れ着いても悲願を捨て切れていない。だからこそ、生まれ持った使命以外に大切なものを見つけた時、モルガンの心は重すぎるほど重く対象に傾く。

 惚れっぽ(チョロ)いだの尻軽だのと思うかもしれない。だが人が言葉や行動、重ねた時間によって人生のパートナーを見極めるのに対し、妖精眼を持つモルガンはそのプロセスを大幅に省略できる。

 相手がどういった性格・性質の人間なのか、相手からどう思われているのかを一目で判別できるからだ。故にもう少し仲を深めたら、モルガンは己の使命よりもマスターに比重を置くかもしれない。彼女にとっての好悪の情はそれほどまでに極端だった。

 

「なんか、負けそうな気がしてきたな」

「――ですからこの後は……。……え?」

 

 ――故に、草十郎の率直な感想を聞いたモルガンは固まった。

 

 率直な声であり、言葉である。余計な装飾はなく、故に誤解の余地もない、素直な感想だ。

 一瞬、モルガンは何を言われたのか理解が追いつかなかった。

 徐々に話が飲み込めてくると、顔を怒りで赤くしながら詰問する。努めて冷静に、シンプルに。

 

「……私の話を聞いて、どうしてそう思ったのです?」

「どうしても何も、獲物を前に舌なめずりするだなんて、まるで犬みたいじゃないか。俺、犬は好きじゃないぞ。卑しいというか、迂闊に見える」

「…………」

 

 ぐぅの音も出なかった。

 

 これでモルガンの戦術、戦略に文句を付けるようなら、理路整然とした論理で以て、稚拙な反論を叩き潰して持論を曲げる事はなかっただろう。

 しかし、振る舞い。上首尾に終えた序盤の成果で勝利を確信し、少し舞い上がっていた点を指摘されたのなら二の句も継げない。自分でもちょっと()()()()()かもとは思っていたから尚更に。

 完全に痛いところを突かれ、硬直したモルガンは気構えを立て直せない。しどろもどろに反論しそうになったモルガンの気勢を流し、彼は魔女の工房の一角にある水晶に目をやった。

 

「それより、困った事がある」

「な、なんです……?」

「モルガンの置いて行ったアレで、戦いの光景は見る事ができていた。けど、サーヴァントって奴は早すぎて目で追えない。肉眼で直接見てたら予備動作とかで判別が付くかもしれないけど……これだと俺、何もできないぞ」

「……? まあ……そうでしょうね」

 

 正式なマスター専用礼装もなく、魔術師の素養もない草十郎へ、モルガンは戦闘面での貢献など一寸たりとも期待していなかった。故に彼が何を言っているのか判別がつかなかった。

 しかし草十郎は黙って何もしないままでいるような少年ではなかった。自分がまるで期待されていない事には気づいていても、だからといって魔女に甘えておんぶに抱っこされている気はない。

 キッカケはなんであれ、モルガンを喚び、事を起こし、始めたのは自分なのだ。その自分が何もしないでいてはいけないだろう。モルガンに対して申し訳ない気持ちもある。

 

「モルガンとか、あの馬に乗った女の子とか華奢じゃないか。どう見ても俺より腕力があるようには見えない。なのにあんなに凄い力を出せるのはなんでなんだ?」

「……私は人間ではないので、我が夫より力があるのも当然でしょう。しかしアルトリアは人間です。あそこまで力を出せるのは、サーヴァントだからというのもありますが……一番は膨大な魔力で筋力等を強化しているからです。素の力はただの小娘同然ですよ」

「魔力で強化……」

 

 そう言われても、よく分からない。しかし分からないなりに考えた草十郎はモルガンに訊ねた。

 

「その魔力とかいうので、俺の事を強化できたりしないか?」

「できますが……」

 

 やろうと思えば容易い。だがやる意義を感じない。持ったままだったワインボトルをテーブルに置き、モルガンは迷う素振りを見せながらマスターの目を見た。

 真っ直ぐな目に衒いはない。魔女の助けになりたいというより、責任を意識した想いがある。

 元々彼には一度だけ危険に身を晒して貰うつもりではいるし、草十郎にも了解は取り付けてある。しかしそれだけでは足りないと思っているようだ。仕方のない人、と思う。それでこそとも。

 想いは立派だ。素直に好感を覚える。だが、それだけで頷ける話でもなかった。

 

「俺にそれを試してみてくれ。多分、ちょっとは役に立てると思う」

「ソージューローなりに根拠はあるのでしょうが……事が事です、はっきりとした論拠を知りたいですね。それを私に見せてご覧なさいな」

「分かった。じゃあ……うん、そうだな。論より証拠、俺が使い物になるか見て判断してくれ。足手纏いにしかならないと思うならそう言ってくれていい。その時は大人しくしておく」

 

 言った草十郎は、自然体だった。妖精眼を持つモルガンの目には心の声も視えているが、彼の精神に緊張はなく、ちょっとやってみるか、という軽い意思しかない。だというのに――

 

「………っ!?」

 

 ――刹那。突然モルガンの眼前で、草十郎の拳が寸止めされているのに気づいた時。魔女は久しく感じなかった戦慄で総毛立った。

 

 目を見開く。誓って瞬きはしていなかった。魔術や異能を備えていない少年だ、やるなら肉体を駆使した何某かの技術だろうと判断したからだ。故にこそ常に草十郎を見ていたのである。

 注視していたと言っていい。なのに……()()()()()()()()()()()()()()()

 蛇の如くぬらりと始動し、無拍子のまま腕を突き出す。草十郎がしたのはそれだけだ。殺気も何もなく、風に吹かれた枯れ葉が転がるような自然さで、彼は()()()()()()()()()()()拳を放った。

 

 油断はなかったとは言えない。

 どう強がっても、所詮は肉体的には人間に過ぎないと侮っていた。

 だが、もし。

 もし仮に、モルガンが草十郎を強化していたら。

 もしも、彼の目の前にいたのがモルガンではなく敵サーヴァントだったら。

 敵は……それこそ未来予知に等しい直感の持ち主以外、顔面を粉砕されて死んでいるだろう。

 

 それこそは人間の技術に於ける究極の一。星が数千、数万年の生命活動の末に、極稀に零してしまう奇跡のような一滴である獣――三千年級の神秘を蓄えた『金狼』を撃破した業。

 金色の狼は魔でも幻でもなく、聖なるものにも括られない――絶滅した神代の生命。積み重ねられた秘儀伝承。地に遍く在る奇跡の再現一切を噛み砕く、本当の魔術の天敵だ。

 単なる人の身、人の業で打ち破れる道理などあるはずもないというのに、その理を乗り越えた草十郎の研鑽は常軌を逸していた。この若さで絶技開眼の境地に到達しているのは驚嘆に値する。

 

 我に返ったモルガンは、ぶるりと震えた。

 武芸を身に着けている故に、モルガンもまたその業の真髄を理解する。

 恐らくは徒手空拳による暗殺術、初見殺しのそれ。暗殺者の代名詞である歴代ハサンの内にも、こと格闘術に於いては並ぶ者はいまい。素晴らしく、凄まじい。夫は魔で極まった己とは対極に位置する、まさに妖精妃モルガンに相応しい人間であった。

 

「フ……フフ……流石は我が夫、と讃えましょう。私の戦略の幅が広がりました。いえ、深度が増したと言うべきですね……ともあれ素晴らしい腕前です、私の支援を受けた貴方は、きっと何者をも屠れる暗器となるでしょう。お蔭で確信が持てました、私達は絶対に勝利する」

「負けそう」

「なぜですか!」

 

 眉を落として不吉なことを言う草十郎にモルガンは食って掛かる。

 すると少年は呆れたように嘆息した。

 

「お眼鏡に適ったみたいなのは嬉しい。けど勝利宣言(そういうの)は終わってから言う事だろう。皮算用なんかして鬼に笑われたくないなら、全部内に秘めていた方が良い」

 

 取らぬ狸の皮算用。来年のことを言えば鬼が笑う。そうした諺への知識は聖杯に齎されていなくても理解出来た。思えばモルガンは、怨敵を破滅させられても、それに勝利したとは言い難い。魔女は勝者にも敗者にもなれていないのだ。故に反論できず、「夫の諫言を聞くのも妻の度量ですね」と負け惜しみめいて呟くのが精々だった。

 

「夫かはともかく、ぶっつけ本番は嫌だな。強化とかいうものを試してみてくれ。感覚を慣らしておきたい」

「ふぅ……分かりました。特別に貴方の我儘を聞いてあげましょう」

「……もしかして不貞腐れてるのか」

「そんな狭量な女に見えますか? 全く……ソージューローでなかったら、不敬罪で首を刎ねているところです。私の寛大さに感謝しながら、我が魔術の恩恵を享受なさい」

 

 杖も用いず片手間に強化を掛ける。肉体強度を向上させ、その後に身体能力を引き上げた。

 草十郎は軽く跳んだり、虚空にボクシングのジャブに似た軽打を放ったりして、自らの状態を確かめる。飛躍的に跳ね上がった身体能力に、己の感覚をすり合わせるように。

 その動作の悉くが鋭い。死神の鎌を想起させられる。だがモルガンにとってはひどく美しい芸術のようで――眺めているだけで楽しく、一日中見ていても飽きないだろうと思った。

 

「――そういえば。俺の前にいるモルガンは()()()なんだ?」

 

 ふと思い出したように問い掛ける少年に、魔女は妖しく、艷やかに微笑む。

 

「勿論本物です。()()()()()が、貴方の傍にいる事はないですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 いそげ、いそげ。

 

 あっちに飛んだり、こっちに飛んだり。あぁ忙しい、忙しい。

 

 体が一つじゃ足りないぐらい。手が二つじゃ足りないぐらい。

 

 だから、増やした。

 

 時計の針は待たないぞ。作って作れ、急いで急げ。忙しさで目を回せ。

 

 現地の聖杯を利用するだなんて、拙速にも程がある。

 

 もし()()()()だったら困ってた。

 

 そんな下手なことなんてしないけど。

 

 そんな失態は犯さないけれど。

 

 わたしのマスター(わたし)は容赦がない。こんなに急いでるのに鞭打つばかり。

 

 たまには飴がほしいもの。童話で言う北風と太陽みたいに、ちょっとは良い目を見せてほしい。

 

 

 

『戯言をほざく暇があるなら急ぎなさい? たった一度きりの奇跡を()()にするのは赦さない。促成栽培でいいわ、形だけ整えるように』

 

 

 

 ブリテンの為。ブリテンの支配の為。悲願の為に急げと貴女は言うけれど。

 

 本当は嘘。貴女の秤は大きく別に傾いてる。

 

 嘘なんて通じないことぐらい分かってるでしょうに……。

 

 ――そんなに素敵な人に出会えたの?

 

 ――悲願(ブリテン)なんてどうでもよくなるぐらい素敵なの?

 

 あぁ羨ましい、羨ましい。羨ましくって妬ましい。

 

 今度機会があったら会ってみたい。

 

 そんな機会はないけれど。夢見るだけならいいでしょう?

 

 わたしは影。もう一人のわたしの影法師。

 

 わたしが指し手(プレイヤー)じゃないのは癪だけど、仕方ないから踊ってあげましょう。

 

 必要な道具も。必須の陣地も。不可欠な要素も。丸ごと全部揃えて並べる。

 

 後は……。

 

 後は、そう。

 

 玉座。玉座がほしい。

 

 マスター(わたし)に相応しい、とびっきりの玉座(宝具)が。

 

 救世の御旗の下、喜んで血肉を捧げましょう。

 

 目障りな円卓(積み木)を崩したように。今度は聖杯戦争を蹂躙する。

 

 

 

 ――敬意を払うべき異界の皆々様。退屈な作戦会議なんておよしなさい? 役者は舞台の上へ昇るが定め。大根役者がいないのは寂しいけれど……代わりにエキストラは唸るほど余っているわ。

 

「まずは、一つ。

 後三日……いいえ。後二日で、此度の異聞聖杯戦争に幕を下ろしましょう」

 

 脚本は書き上がった。細工も流々。後は仕上げを御覧じろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




くぅ~疲れましたw これにて完結です!

嘘です。
最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ(太古のネタ)

夢で最終話書いて投稿してる自分を見たので気分的に完結しちゃったので書きました。反省も後悔もしてない。
ただ…ね。目を覚ました時のあの虚脱感…終わってないやんけ、と呆然とした気分。ちょっと…疲れた…。

勝者予想アンケ第3弾!

  • ダ・ヴィンチ
  • エミヤシロウ
  • モルガン
  • クー・フーリン
  • アルトリア・ライダー(聖槍)
  • エミヤキリツグ
  • 柳生宗矩
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