Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎 作:飴玉鉛
ふ、筆が進まない…書く意欲はあるのに…文章能力も低下してる…。
今回はちょっと半端なとこで切っちゃいます、これ以上間隔あけるとまたスランプになりそうなので…ごめん、ごめんよ…。
新都は今、混乱の只中にあった。
新都の住人の悉くが意識不明に陥るという、原因不明の異常現象が発生し、都市機能が半ば麻痺していたからだ。偶然新都に足を運んだ第三者により公共機関へ連絡が行き、新都には今多くの救急車や消防車、パトカーなどが詰め掛けている。空では救助のためのドクターヘリコプターが何機も飛び交い、未確認の災害の発生も視野に入れて救助活動が行われようとしていた。
一体なぜ? どうして新都の人口の内、万に迫るほどの人々は昏倒しているのか? 外傷はなく、ただ衰弱しているだけの状態には謎が多い。だが今はとにかく人命救助を優先するべきなのだが――極度に衰弱していた市民を搬送している、救急隊員の一人は不意に思った。不可解な点がある、彼が乗車している救急車には
彼らは何者なのだろう。
幾らグローバル社会になっていると言っても、冬木には外人の歓心を買えるような観光スポットはないし、仮にあったとしても、旅行シーズンでもないのに外国人の比率が高すぎる。もしかすると彼らがこの謎の現象に関わる重要参考人である可能性すらあるのではないか?
そんなはずないかと頭を振った救急隊員だったが――彼は知らない。その白人達が『魔術師』と呼ばれる人種であり、ブリテンの魔女による魂食いの犠牲者だったという事を。そして異聞聖杯戦争という彼らの理解を超えた超常決戦の舞台にやって来てしまった事を、
「お、おい……い、いま、なにか……」
「なんだよ、操縦に集中して……はっ?」
救命活動中のドクターヘリのパイロットが呆然と呟くのに、同僚が張り詰めた声音で反応した。気を抜いていい場面ではない、しっかりしろと叱咤しようとしたのだ。しかし眼前を通り過ぎた
――新都上空を奔る真紅の稲妻。
蒼い装束を纏った長身の男が空中で身を翻している。彼方より飛来した光の弾としか形容できない何かを、手に持った
稲妻の正体は槍だった。
真紅の双眸を素早く左右に走らせ、槍を振った反動で滑空した男がドクターヘリの側面に接近するや、躊躇なく蹴りつけて空中で移動していく。凄まじい衝撃を残して消えて行った男のことを気にする余裕はない。ヘリの操縦士は乱回転した機体を必死に制御する。
「うわぁぁぁぁ――ッ!?」
腕が良いのだろう。悲鳴を上げながら、なんとか不時着を免れたドクターヘリを尻目に、槍兵は魔女の行方を五感を最大限研ぎ澄まして追った。
槍兵の右方、かと思えば左方、狙いをつけようとすれば下方、更に上方。魔槍を持つ黒衣の魔女の姿が消えては現れ、消えては現れる。
息も吐かせぬ多重空間転移。四方八方から押し寄せる魔弾を捌きつつ槍兵は訝しむ。妙だ、と。神秘に満ちた神代ならいざ知らず、現代では神代最高峰の魔術師であっても、自らの工房の外では空間転移のような大魔術は使用が困難であるはずだ。
にも関わらずモルガンは容易いことのように空間転移を連続して行使し、それでいながら全く消耗した様子を見せていない。幾らモルガンが転移系の魔術に精通し、その道で随一の腕前と知識を持つ魔女だとしても不可解である。自らの領域外でモルガンの所業を実現するには、それこそ膨大極まる魔力が必要となるはずだが……まだ日が明ける前、魔女が行なった儀式は魔力を得る為のものだったのか? 潤沢な魔力を得たからこそ強気になっている?
(んなわけ
戦慣れしていない魔術師なら、慢心して下手を打つかもしれないが、ことモルガンに関してそれは有り得ない。槍兵の知る戦女神とよく似た――しかし別人である魔女。アーサー王伝説に於いて円卓を崩壊させた策謀家が、魔力を得ただけで増長するとは思えない。
――ビルの側面に足をつき、膝を曲げ、勢いよく蹴りつけて再び虚空に身を翻す。身動きの取れない空中は不利だ、というのは常人の尺度での話。神話の英雄なら空中であっても、地上ほど自在に動けはせずとも存命を図れる。特に生き残る為の立ち回りの一点に於いて、全英霊の中でも随一を誇るであろう光の御子を仕留めるのは至難の業だ。
今度は正面。魔女自身を串刺しにする形で、魔女の周囲に展開された魔力剣が、槍兵を囲う形で転移されてくる。それを朱槍を旋回して薙ぎ払い、槍兵は魔女が浮かべる余裕の笑みを睨んだ。
(やる気が無いのか……テメェから仕掛けてきておいて、なんのつもりだ?)
地面に着地する。
アスファルトの地面が陥没し、蜘蛛の巣状に亀裂を刻んだランサーは高々と跳躍した。
ランサーは魔女に必殺の気概がない事を見抜いていた。常に安全圏から光弾を放ち、斬撃や魔力剣を転移させるばかり。そんな手緩い攻めでランサーを打倒できると思ってはいまい。
再び前後左右から光弾が迫るのを、一息に振り払いながら槍兵は思案する。
(奴の狙いはオレを引き付ける事か? だがなんのためにそんな真似をする。オレをおびき寄せて他の陣営にぶつけたい、なんて安直な手を打つならもっと他にやりようがあるはずだが……)
まあいい、とランサーは思考をやめた。
ごちゃごちゃと考えるのは性に合わないし、そもそも頭の出来が違うのだ。
自分ではモルガンの思惑を見抜けると思えないし、見抜いたところで意味はない。
であるなら、戦士として目の前の敵を殺す。それだけでいい。
もうモルガンには充分付き合った。そして彼我の戦力比も把握している。
(――奴の魔力は桁外れだ。普通なら優れたマスターに喚び出されたんだと思うところだが、さっきまでモルガンが連れてたガキにそれほどの器量があるようには見えなかった。となると、
ランサーの推測は当たっていた。通常の聖杯戦争なら思いついてもまずやらないし、卓越した魔術師の英霊以外にはできない手法である。霊脈は現代の魔術師に管理されているものだし、霊脈に干渉しようものなら遅かれ早かれ事態が露見する。そうなれば対魔力の高い三騎士のクラスから袋叩きにされる確率が跳ね上がり、リスクとリターンがまるで釣り合わなくなってしまう。
だが異聞聖杯戦争ではリスクを考慮する必要はない。モルガンは遠慮なく、霊脈から魔力を得ている。故に一度の聖杯戦争では使い切れないほど膨大な魔力を用い、大魔術を連発しているのだ。
ランサーはルーン魔術にも精通した、キャスタークラスにも適性がある英霊だ。モルガンに戦闘の誘いを掛けられて以来、彼は妖精眼を警戒して自らに秘匿のルーンを貼り、妖精眼で内面を読み取られないように対策していた。彼は怪物狩りの達人であり、属する神話系統の関係上妖精に関する造詣も深かったのである。故にランサーの内面をモルガンは読み取れない。だが――
「不用心だな、ランサー?」
「……ああ?」
パトカーのボンネットの上に着地し、大きく陥没させる。警官らが驚愕の声を上げるのを無視して、ランサーは空中に浮かぶモルガンを見上げる。「う、浮いてる……?」「なんだコイツら!」などと慌てる人間達をよそに、モルガンが揶揄するように槍兵へ告げた。
「自らのマスターから遠く離れる、これを愚かと言わずしてなんとする? 今頃私のマスターが、貴様のマスターを殺しているかもしれないというのにな」
「……は。何を言うかと思えばそんなことかよ」
失笑する。ポーズだけでも、嘲る気にもなれない。拳銃に手を掛けつつ警告してくる警官を、やはり無視したままランサーはモルガンに応じた。
「テメェのマスターがどれほどの腕かは知らねえが、オレのマスターを舐めんなよ? サーヴァント相手ならいざ知らず、人間が相手なら簡単に
「ほう……? しかし意外だな。貴様ほどの戦士がそうまで饒舌に語るとは。存外己のマスターに肩入れしているらしい」
「ハッ。戯言を抜かすな。
「――――」
クー・フーリンが鼻を鳴らして指摘すると、モルガンは表情を消した。
最初、モルガンは双子館へ青年を伴って現れた。そうしてクー・フーリンと交戦するや、クー・フーリンが青年に手を出せないように新都まで誘導したのだ。
だが、光の御子は初見で魔女の奸計の一端を看破してのけたのである。
モルガンのマスターらしき青年を狙わなかったのは、
勘である。しかし、それ以上に影の国の女王から仕込まれた魔術師としての眼力が、ブリテンの魔女の
「――見事だ、クー・フーリン。流石は猛犬の名を冠するだけのことはある。素晴らしい嗅覚だと褒めてやろう」
「そいつはどうも」
「だからこそ……やはり貴様との相性は最悪だ。数日程度の下準備だけでは、到底私は貴様の命に及ぶまい。故に、私は貴様を
「そんなこったろうとは思ったぜ。どうやってかは知らねぇが……あの爺さんを此処におびき寄せようとしてやがるんだろう?」
――充満していく殺気。空気を凍らせる殺意に濡れた魔力の波動。呪いの朱槍に充填されていく魔力の気配は、一般人であっても感じられるほどに恐ろしいものだった。
怯えながら拳銃を抜いた警官に対し一瞥も向けず、槍を振るうやその銃身を真っ二つに切り裂いたランサーは虚空に佇む魔女を見上げる。
「だがな」
そして、兇猛なる笑みを湛え、犬歯を剥き出しにしたランサーが言った。
「セイバーを誘い出すまでに、オレがテメェを殺しちまうとは思わなかったのか?」
「………」
「悪いが、ここまでで
膝を弛め、跳躍しようとする予備動作を見て取った魔女が、魔槍の穂先を天高く掲げる。
上空に展開される複雑な幾何学模様。魔女が気炎を吐くように唱え、光の御子が吼える。
「――オークニーの雲よッ!」
「
天にて逆巻く暗雲より、堕ちる聖槍を模した稲妻。迎撃し、突破せんとするは波濤の呪槍。激突の瞬間、凄まじい衝撃波によって、辺りの窓ガラスが悉く破損し、きらきらと陽光を反射しながら虚空を彩る。それはさながら光のシャワーのようで――茫然自失したまま見上げた人々の頭上へと、天上の主の恵みであるかのように降り注いだ。