Lostbelt No.EX-異聞統合封土ガイア-地に落ちた林檎   作:飴玉鉛

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本日二度目投稿。
今回は短いです。
各参加者の戦略ターンに突入、まずは彼から。


藤丸立香の戦略

 

 

 

 

 

 

 実を言うと。

 

 ()()()()と名乗った少年に突き飛ばされ、尻餅をついた藤丸立香はもう色々と、疲れ果ててしまっていた。

 立ち上がる気力も湧かず、俯いてしまう。再起する気力が湧かない。

 ガイアからの通達……通告を受けて。彼は自らの世界での旅が完全に無意味だったことを突きつけられてしまったのだ。暗示による状況理解を押し付けられるまでもなかったのである。

 

(――なんだよ、それ)

 

 本当に、色々とあった。特異点F・炎上汚染都市から始まった特異点修正の旅。七つの特異点を駆け抜けた、生きる為の戦い。それらは終局特異点での決着を以て終結し、世界を取り戻したはずだ。

 例え自分にできた事が殆どなかったのだとしても。周りの人や、多くのサーヴァントに助けてもらったからこその結果だったのだとしても。最後の最後に大切な人を亡くしてしまったけれど、色彩に溢れた未来を取り戻せたはずなのに――全て、無駄だった。

 新宿、アガルタ、下総国、セイレムという四つの亜種特異点も乗り越えた。後は国連や魔術協会とかいう所の監査を終えたら、日常に帰れるはずだった。日本に――両親のいる所に。友人のいる所に帰れるはずだったのだ。大切な後輩、マシュにも見せたいものが沢山ある。やりたいことも山ほどあった。そういう未来があったはずなのだ。だというのに……。

 

 ――まさか。まさかまさかだ。2016年を乗り越え、自分達が亜種特異点を修正している最中に、剪定に至る原因が開花して、編纂事象から自分の世界が外れるだなんて想像もしていなかった。

 

 つまりはそういうこと。特異点修正の旅は、無駄だった。全ての戦いは無意味だった。だって最初の前提として、世界は間違った道を歩いていたのだ。

 全て徒労だったのである。カルデアとは全く無関係なところで世界は剪定された。藤丸立香(イフ)は地球白紙化現象とか、異聞帯とか、そういうものは知らなかった。だってその新しい物語が始まる以前に、藤丸立香の世界は世界そのものに捨てられたのだから。

 

「……あーあ。なんだよ、オレのやってきた事って全然意味なんかなかったんじゃないか。だったら最初からそう言ってくれたらいいのにさ。そしたらあんな必死に頑張らなくても良かったし、ドクターだって犠牲になる必要はなかったんじゃないか。無駄骨だったとかアホらしっ」

 

 下を向いて。

 

 ボソボソと。

 

 腐って、文句を垂れる。

 

 そして――

 

「――よし、愚痴るのはこれぐらいにしとこう。でないと皆に叱られる」

 

 藤丸立香は、切り替えた。

 世界はカルデア(自分達)とは関係なく終わってしまったけれど、なに、まだやれる。

 濾過異聞史現象だの、汎人類史だの、そういう小難しい話の理解はどけて。最低限の要点だけは押さえて、後の問題は後になって考えたらいい。

 認識するべきなのは、自分の世界は人理焼却を巡る戦いの後、地球白紙化現象とかいうのが起きる前に剪定されて終わった事。剪定に至る原因は、ちょっと自分の頭では思いつかないので無視だ。そしてどうやら自分は運良く、ガイアとかいう星の意思に掬い上げられ、世界の敗者復活戦に参加することができた。ならやる事は決まってる、やるべき事は見えている。

 今までの経験から言って、割とこういうのは慣れっこだ。――まあ、他の歴史を蹴落として、生き残る事に関しては――少なくとも今、思い悩むような事じゃない。そんな綺麗事を吐くのは傲慢だ、生きるために戦ってきたのだから最後まで戦って、後で振り返ればいい。

 最後まで走り抜けて、振り返らずに駆け続けて。でないと、ドクターの挺身が無意味になる。自分の家族が、友人が、カルデアの仲間が、後輩が……そして世界が消滅してしまう。

 

(というか、地球に意思があるとか初耳なんですけど――)

 

 なんだかスケールのデカい話だけど。申し訳ない、理解できません。

 理解させられてるけど、理解しない。情けない話だが、受け入れる度量がなかった。

 

(世界代表とか荷が勝ち過ぎてるけど、そんな事はいつものことだ)

 

 今の自分はなんの装備もない。カルデアの礼装がないのである。通信機の類いも身につけていなかった。つまりカルデアと連絡は取れないし、魔術で支援とかできないし、なんならカルデアが肩代わりしていたサーヴァントへの魔力供給とかも満足にこなせない。

 まあ、割と絶望的だ。敗者復活戦に出させてもらっておいてなんだけど、今からでも選手交代とはいかないだろうか? 無理? 知ってた。なら出来る限りの事はしようと思う。

 

(うーん。サーヴァントを呼んでも、オレじゃ現界を維持したりとか、戦闘をバックアップしたりとか無理だよな。大体サーヴァント戦闘だとオレなんかなんの役にも立たないし。音速戦闘が当たり前なのに目で追えるわけないって。目で追えない戦闘で、素人が戦闘のプロのサーヴァントに指示を出すとか無理でしょ。むしろ足手まといにならないようにするので精一杯だ)

 

 じゃあどうしよう……ってなる。

 

(魂喰いっていうのはしたくないし……()()()()()()()()()()んだろうけどね。けど、だからってやる気もない。だってそんなことしたら()()()()()()()()()()()()()()()

 

 冬木には来たことがある。特異点Fと、その十年前を基点にした特異点だ。

 一応地理は覚えてる。同じ日本だし言葉は通じる。金はないけど、まあそこはいい。

 

 

 

(できる事、できない事を箇条書きにして、整理する。その上で自分に取れる最善の方針を立てるのが戦術の基本――押忍、レオニダス先生、宛てにしてます。……オレにできる事ってなんだ? 思いつかないな、とりあえず先にできない事を整理するか。

 

 ・礼装ないから魔術でサーヴァント強化は不可能。魔術とか使えない。才能ないし。

 ・実戦でサーヴァントに指示を出す? 目で追えない戦闘に口出しするとか馬鹿の極みだ。というかこっちが喋ってる間に戦闘が進んでるんだから、変化する状況に適した指示とか出せません。

 ・消耗したサーヴァントに魔力供給も無理。オレの魔力量とかカスだ。

 ・現界の維持も無理。霊格が低い英霊ならなんとかなるかもだけど、万が一ヘラクレスとか来たら死ぬ気でやっても一秒イケるかどうか。普通に無理だからね。自殺じゃんそれ。頼むから霊格高い英霊の皆さんは来ないでください。来られたら死ぬよオレ。

 ・カルデアとの通信も無理。通信機ないし。増援とか来ない系特異点に来たようなもん。

 ・孤立無援でお金とか無いから生活がままなりません。拠点なしです。

 ・アーチャーっぽい人いた。ていうかエミヤじゃんあれ……生前のエミヤがいる聖杯戦争とか勝てる気がしない。エミヤから聞いた話だと、生前はかなりガチな殺し合いとかしてるらしいし、サーヴァントじゃないならオレの事も記録でさえ知らないだろうから普通に殺しに来るかも。エミヤ以外にも本職の魔術師とかいるみたいだし、どう考えても勝ち目がない。

 

 ……詰んでない? 詰んでるよこれ。どうしろっていうの? いやまだだ、まだ諦めるなオレ。次はできる事、できてる事を纏めるんだ。

 

 ・生きてる。偉い!

 ・息してる。凄い!

 ・諦めてない。マジぱねぇっす!

 

 以上! ……いやまだあるよ流石に。落ち着け。

 

 ・頭ある!

 ・脚ある!

 ・健康だ!

 ・令呪が三つもあるぞ! 使い切りで回復とかしないけど!

 

 ――充分だ。余裕で勝ち目はある)

 

 

 

 強がりでもなんでもない。方針が見えた。

 立香は顔を俯けたまま、ちらりと周りを見る。

 どうやら立香が思案している間に、柳洞一成や他の二人もどこかに行ったようだ。

 多くの特異点での経験からか体内時計は正確だ、自分は一時間ほどグダグダしていたから、猶予時間はあと23時間ほどだろう。

 一時間を無駄にした、とは思わない。考えを纏めて方針を立てるのは必須なのだ。無駄に動き回るような考えなしだったら、立香はとっくのとうにどこかの特異点で斃れていた。

 聖杯戦争のセオリーは知っている。なら、なんとかなる。

 だってセオリーを知ってるってことは、そこから外れる方法もある程度知ってるという事だ。

 

 立香は立ち上がり、屈伸運動をする。ぐるんぐるんと肩を回す。そして、頬を叩いた。

 

(――さて。一時間経ったんだ、他の参加者は今頃冬木の地形を確認してる最中だろうな。エミヤあたりは高い所に行けば全部把握するだろうし、拠点をどこにするか見繕ってるぐらいかな? どちらにせよ近場に他の参加者はいない――()()()だ。24時間の猶予期間を棒に振るとか、プロなら余計にしないはず。オレはクソザコらしく、ナメクジ戦法でいくしかない)

 

 目を閉じる。深呼吸をする。空気がマズい。固い。緊張で吐きそうだ。

 

(よし! ……逃げるか! 逃げるぞオレ! ヘラクレスと追いかけっこしたオケアノスと、アメリカを歩き続けたりした時を思い出せばこんなのヨユーよヨユー。一日も時間あるなんて最高だぞ!)

 

 走れ走れ、走れメロスならぬ走れ立香! フォウくんばりに走りまくれ!

 そして――()()()()()()()()。アメリカで鍛えられたこの健脚を魅せつけるのだ。

 

(オレにできる事! それは『逃走』だけだ! 伊達に後輩の背中に庇われてきてないって事を教えてやろう! そう、オレは『逃げ』のプロ! ()()()()()()()()()()()()! するのは聖杯戦争が終わりそうな終盤ぐらいだぞ! そうしたら、真っ先に令呪一画を切って現界維持にあて! 二画目は戦闘のバックアップの燃料にして! 三画目は宝具ブッパだ!)

 

 あばよ冬木の聖杯戦争(とっつぁん)! と言わんばかりに、剪定された世界のカルデアに属する、人類最後のマスターである藤丸立香は逃げ出した。

 まさしく電光石火、他の参加者にはない発想を以てして――立香は誰かに捕捉されるよりも先に冬木市から姿を消す。暫くはホームレス生活だ、もしくはよその市で万引なりをしてわざと捕まり、留置所にぶち込まれるのもアリだ。警察の人にはすまないが、匿ってもらおう。可能な限り留置所内で粘り、衣食住の食と住を補填してもらうのだ。

 

 まさに外道。他人の迷惑を考えない最低の所業だ。けど――立香にできる非道な真似はそれが限界です。だって悪行を犯すのにもある種の才能がいる、そんな才能は平凡な立香にはなかった。

 なかったからこそ、立香が終盤まで生き残るのは確定したのである。

 だって戦わないのだ。戦場にそもそもいないのだ。――序盤で脱落だなんて有り得ない。

 

 あらゆる能力で最も劣り、最も弱い立香は、そうしてまんまとシード権を獲得したのだった。

 

 その判断が吉と出るか、凶と出るかは未知数だが。

 少なくとも、そうしていなければ、立香は一番最初に脱落していただろう。

 他に道はなかった。それだけの話である。

 

 

 

 

 

 

 




サーヴァント召喚(しないという判断)達成!
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